主人公が生まれる時のお話ですが、ちょっとだけインモラルなお話があります。
高台に広がる高級住宅街のはずれに、建築途中で完成しないまま廃院となった医院があった。
医院と呼ぶには、少しばかり規模が大きめの築1年半の物件である。
新築されてからまだ2年と経っていないが、舗装の継ぎ目や土が溜まっているところに、雑草が生え始め、この物件に人が居ない事が見て取れる。。
広い駐車場と3階建ての病院棟、そして裏に隠れるようにして自宅住居がある物件で、医院の方にはほとんどの医療設備や、医療機器が未使用のまま残されていた。
「先生、これがその物件です。いま鍵を開けますので」
不動産の社員は、一組の夫婦を案内していた。
「この物件は後でご案内しますが、裏に個人用の住居があります。
平屋の建物ですが建坪は42坪、まだ新しいタイプのシステムキッチンにジェットバス、和室2部屋に洋室3部屋、ダイニングリビングは20畳。
これも弊社で施工した物件でして、ちゃんと陽当たりも考慮して建てられています。
惜しむらくは一度も使われなかったことですね」
「この物件は、本当に事故物件じゃないですよね」
「はい、建て主は70歳を過ぎたご高齢の先生でしたが、義理の息子さんに継ぐために建てられたようです。
しかし、それが飛行機事故で失くされてしまい、開業直前になって、高齢を理由に開業自体を諦められました。
ですから、そのまま保存処理され、未使用の手つかずになっています。
工事自体は完了し引き渡しも終わってからでしたので、医療機器も新品がそのまま入っており、もったいない話なんです。
この近隣は新しい住宅街ですが、市主導の都市開発に沿って進められ、数キロ先には学園都市もあります。
どんどん団地や住宅が出来ており、発展予想では、今後十年で1.7倍の人口増加が見込まれています。
交通の便も市バスが通っています」
たしかに見れば見るほど、もったいない物件だ。
病院としては小規模の部類に入るだろうが、個人のクリニックとしては規模は大きい。
いざとなれば、3階を職員住居にしてしまえばよい。
クリニックの規模としては大きいが、妻と二人でクリニックを運営するのならば、普通のクリニックサイズでは手狭だった。
多くの物件を探し、やっと希望の物件を見つけた。
医療施設の物件は、近隣の街の規模や発展性、交通アクセスや近隣の医療機関の量だけでなく、上位医療機関との提携も考えて行わなければならない。
高園義孝は34歳、美容整形と泌尿器科が専門で、それをメインとして開業するつもりだ。
妻のソフィアも産婦人科医として、日本の大学を出て、病院で勤務している。
退職にはかなり手間取るだろうが「子どもを産みたい」との希望を、押し通していくつもりだった。
建屋の周りを見ていた妻のソフィアを呼ぶ、妻は初めて不動産の社員と会った。
「ソフィ、来てごらん中に入るから」
「ええ、今行くわ」
「き、綺麗な奥様ですね、国際結婚ですか?」
「いや、彼女は日本生まれ日本育ちの日本人だよ。
イタリア人のご両親が日本へ帰化されてね、その後彼女が生まれたんだ。彼女も医師だよ」
「いや、本当におきれいですねぇ」
「・・・誉めてもあげないからね?」
「いゃ、あはっ、あはははっ」
「あなたぁ、横に小さな公園もあるのね、環境としてはいいわね」
「ソフィ、不動産の方とは初めてだったよね」
「あら、私としたことが。
初めまして義孝の妻の高園ソフィアです、よろしくお願いします」
お辞儀をしたが、不動産屋の社員が、外国人を相手するように右手を出していることに気づき、慌てて右手を差し出した。
「では内部をご案内します、ところで開業は美容整形と伺っていますが、ほかの診療はなさらないのですか?」
「いや、内科と泌尿器科もだね。
美容整形と泌尿器科、あと、少し遅れるが家内が、産婦人科と小児科を受け持つ予定だよ」
「そうですか、この近隣の住宅は一応高級住宅街ですが、一般団地や住宅もあります。
近隣からの医療機関要望も多かったんです。
特に産婦人科と小児科は、近隣には無くて隣の市まで行かなくちゃなりません。
新興住宅地の弊害でしょうね」
「そうみたいだね、でも車庫や家の前にあるのは高級車ばかりだし、近所であるのは外科内科が1院だけか。ほかの開業予定とかはあるの?」
「現在この町のちょうど反対側にクリニックが開業予定と聞いています。
でも整形外科専門診療だと聞いてます」
「ねえ、この壁とっぱらえるかしら」
「はい奥様、そこはパーティーションですから僅かな費用で可能です。
構造壁、つまり建物を支えている壁ではありませんので」
「そう、決めたわ。
ねえ、ここで開業しない?
子供たちも多いみたいだし」
外では子供たちが歩道を、自転車で走り回っている。
「僕も気に入ったよ。
君もなら決まりかな。
あとは君の退職だけど、難航しそうだね」
「大丈夫よ、お金じゃ解決できない問題だし。
それに後輩に一人なんとかなりそうなのがいるから」
大型病院でもない彼女の勤務病院では、保育施設なども難しいだろう。
ずいぶん前に法律が変り、医師と言えど、労基法や労安法が厳しく適用されることになっていたが、実情はまだまだの状況だ。
ソフィは今でも隣の市の病院に、産婦人科の勤務医として働いているが、退職をずるずると引き伸ばされている。
「実は、ここペントハウスがあるんです。
元のオーナーが、義理の息子夫婦の住居として考えていたらしくて、屋外型の大きなジャグジーがすでに入っています。
残念ながら内装や、バーカウンターなんかは途中で工事が終わってしまっていますが、すこし手を入れれば使える様になりますよ」
屋上に上ると、4階部分があり、結構な広さのペントハウスがあった。
医院の1階から3階までの、患者用のエレベーターとは別に、ちゃんと小型だがエレベーターもある。
建屋床面積としては48坪ほどあるペントハウスだ。
屋上の面積が300坪程在り、中央付近に大型のジャグジーが在った。
ペントハウスの内装はされておらず、設備もなにも無いが12畳間が1つ。
20畳ほどの部屋が一つと30畳ほどのリビングダイニングが一つ、12畳ほどの部屋が二つ、バスルームはなんと8畳ほどで、大人二人が余裕で入れるほどのジェットバスがすでに入っている。
そして、バスルームの片隅にはガラスで囲まれたシャワートイレが有り、優に2畳ほどの広さが有った。
「ここにもトイレが有るんだ。
随分広いけど、なんでまた?」
「実は亡くなられた娘さんが車いすでの生活でして、その為だと聞いています。
ですから、部屋も屋上に出る部分もバリアフリーになっていたでしょ。
娘夫婦の為だと聞いています」
システムキッチンを備えた対面式のキッチン、居間にいたっては「こんなに広いと掃除が大変」と思わせるほどの15坪ほどある、15畳ではない15坪だ、畳に換算すると30畳、広いわけだ。
バスの前室も広く、これならば洗濯機や大きめのドレッサーを置いても余裕だ。
20畳の部屋には壁一面の鏡があった。
「なんでもお嬢さんが事故の前社交ダンスをやられていて、そのための設備だったと聞いています。
フィルムミラーではなく強化ガラス製の本鏡仕様で、特注品です。
だから、この部屋だけは内装がされているんです。
ほら床もフローリングでして、最新の流体防振防音床になっています」
「あら、素敵。私もやってみたいわ」
「ソフィ開業したてじゃそんな暇ないよ。
それに下に患者が居るんだ、気が休まらないよ」
「そんなことないですよ、この床は最新の流体防音床ですから、ダンス程度では下に響きません」
「わあっ、あれは何かしら」
「あれがジャグジーですね、ご紹介します」
「後からでは設置するのが厳しいんで、最初から入れてあるんです。
周囲は防腐処理されたウッドデッキです。
ここは最初からジャグジーありきで構造が設計されています」
そこには直径3mほどの大型のジャグジーがあり、ぐるりとウッドデッキで囲まれていた。
「米国製の大型ジャグジーです、水流ジェット、照明から最高の物が入ってます。もちろん給水給湯も」
「ここを開けると直接屋上へ出られます、ジャグジーの近くにはガス、給排水、電気のラインがすでに入っています。
工事は途中ですがカウンターバーを設置するつもりだったのでしょうね」
「いいねえ、掃除は大変そうだけど」
「ええ、でも最近出た新型の外回り掃除ロボなら不在時にできますし、床もそれに対応したように作れます。
では、次に住居の方をご案内します」
その日は図面をもらい、持ち帰って検討することにした。
2週間ほどして、改装の見積もりが上がってきた。
予算も、義孝の資産を処分し、足りない3億ほどは、県の助成金と市の借り入れと補助で賄う計画だ。
しかし、さすがにペントハウスの改築工事までは費用が大きくなりすぎ、すぐに使う訳でもないので、最低限の施工にとどめた。
ソフィアがクリニックの裏にある、日本家屋風の戸建ての方が好きだったのだ。
けっして大きくはないが、日本庭園を持つ平屋の和風建築で、中は和風を基準としているが現代のテクノロジーに上手くなじませていた。
「ね、あなた。先にあなたが開業して、後で私も加わる形でいいかしら」
「そうだね、それがいい。でも開業しなくとも届出だけはしておくよ」
「ありがとう、ねえ、愛してる?」
「もちろんだよ」
それから半年後、改装を終え、ペントハウスも最低限の利用できる改装を行った。
すぐ使うであろう、アイランドタイプのバーカウンターも設置された。
ペントハウスには、まだ家具などは入れていないが、IHキッチンなどは入れてある。
現在は屋上を覗ける建物は周囲に無いが、将来は目隠しの必要性もあるかもしれない。
自宅の方は一般的な一戸建て45坪、80坪ほどの庭もある、医院との間には植栽が植えられ視線を遮っている。
しかも住宅が立っている面は医院建屋の非常階段となっており、通常は覗かれることが無い。
ペントハウスは、将来子供たちを住まわせてもいいだろう。
それから半年後
義孝は美容整形・泌尿器科・内科で開業して、順調に患者を増やしていた。
看板にはまだ産婦人科、小児科の記載は無い、それはソフィアが妊娠したためだ。
すでに8か月で、おなかは大きくなって来ていた。
「よいしっょっと。ふう」
ソフィアは運転席のドアを開け、買い物袋を持ち上げた。
普段の足に使っているクリニックの名前が入っている軽規格のEVだ。
医院の玄関に入る。
「あ、奥様」
気がついた事務員が、カウンターから出てきた。
「おかえりなさい、奥様」
「休憩室の冷凍庫にアイス入れておくから、後で皆で分けなさいね」
「はい、ありがとうございます。
わ、シャリシャリ君、これ好きなんですよぉ、私」
「いいのよ、私が食べたかったついでだし。院長は?」
「先ほど医局に上がられました、午後の診療は15時からですから」
「はい、おつかれさま」
ソフィアはエレベーターに乗り、3階のボタンを押した。
病投与では無く、職員用の方だ。
三階は半分を職員住居、残りを倉庫や医局として使っている。
医局は医師の事務所を兼ねる。
またカンファレンスにも使われるため、ゆとりのある設計がされている。
「ただいまぁ」
「おう、お帰り。アイスは?」
「はい、これよ。
シャリシャリ君梅味。
私は梨味」
「随分買ってきたけど、冷凍庫入るかなあ」
「入らなかったら、下の娘たちで分けるから大丈夫よ。
それより、検診の結果聞きたい?」
「おう、どうだった?」
「全て順調、でも本当に性別見なくていいの?」
「その方が楽しみだしね。
いちおう、どちらの性別でもいいように考えるしね」
「あら、母親に成る身としては、準備が大変だわよ。
こっそり聞いてこようかしら」
「楽しみにしようよ。で、自然分娩はできそう?」
「それが問題なのよね。
まだわからないけど、やはり前置胎盤の可能性は高いらしいの。
来週MRIの検査するけど、最悪帝王切開ね」
「うーん、前置胎盤か」
「そ、ギリギリ塞いでる感じ。
確立はフィフティフィフティなのよ。
あなたがもっと膣奥で出してくれたら、違ってたかもしれないのに」
「おいおい、医学的にそんなエビデンス(根拠)は無いよ。
ちゃんと証明されたエビデンスがあれば別だが」
「あなた、男の子が欲しいからって、膣口付近で射精したでしょ」
「それと胎盤の形成位置に関連が無いことは知ってるでしょ?」
「うふふ、単なるやつあたりよぉ」
「でも帝王切開だと、二人目もその可能性が高いし、子供は二人が限界かぁ」
「充分よ、二人ならとりあえず人口減少にはならないし。
日本の人口維持には貢献しているわ」
それから2か月後、高園みるくが生まれることになる。
隣の市にある産婦人科の分娩室前で、義孝は動物園の落ち着きのない熊の様に、うろうろしていた。
「あらあら義孝さん? 冬眠し損ねた羆(ひぐま)の様にウロウロしないで、落ち着いたら?」
医院にはソフィアの母親が来ていた。
日本に住んで長いせいか、目を瞑っていたら日本人と変わらないほど、イントネーションに違和感がない。
まあ、儀父は多少の癖は残っているが、それでも流暢に日本語をこなす。
ソフィアの母は、わざわざ休暇を取って、はるばる東京から来てくれたのだ。
とは言っても、リニアで僅か1時間以内だが。
「ああ、はい。解ってはいるんですが」
陣痛が始まっても破水量も少なく、事前の説明では帝王切開となる事が解っていた。
暫くすると、産声が聞こえた。
処置の為、手術室から出てくるのは、時間がかかることは事前に説明があったが、早く子供と妻に遭いたい気持ちが募った。
一人の看護師が手術室から出て来て孝義の前に進んできた。
「高園先生、母子ともに無事生まれました、元気なお子さんですよ。
奥様もいま産後処置をしています。おめでとうございます」
「はい、ありがとうございます、で、どっちですか?」
「それについては、院長から説明があると思います。
もう少しお待ちいただけますか?」
「はっ?」
産婦人科院長の話は衝撃的であった。
生まれた子は、半陰陽つまり両性具有とのことだ。
「つまり、見たところでは最近増えつつある、ヘルマフロディーテ症候群の可能性がある。
母子が落ち着いたら、MRIや遺伝子検査した方が良いだろうな」
「そうか、まいったな」
「いいか、良く聞け。
先輩として言うが、お前がしっかりとして奥さんを支えてやる必要がある。
腹きめろや」
「ああ、わかっている。
で、この場合は女児の届出になるのか?」
「そうだ、ただし検査の結果によっては男児でも可能だ。
途中で性別を変える場合は、医師の診断書を家裁に持ち込むだけでいい。
法改正で簡単になったんだよ。
しかし、途中で障害がでないとも限らない、男性機能が亢進するのか、女性機能が亢進するのか、生殖機能はどうか。
ホルモンバランス、エトセトラ」
「やはり二次性徴期まで、待たなきゃならないか」
「そうだ。その前に性腺を除去してしまうと、第二次性徴に必要なホルモン量が、自前では不足する可能性もある。
あ、饅頭食う?」
「もらうよ、ついでにお茶とH2ブロッカーもくれ。
甘いものは嫌いじゃないが胸焼けがね」
「はいはい。高いお茶なんだぞ、それ」
「どうせ頂き物だろう?」
「まあね」
話が終わって、ソフィアの所へ行った。
ベットの隣には赤ん坊の小さなベットがある。
ちょうど、初乳が与えられていた。
ソフィアの乳房はもともと大きいが、さらに巨大になり、青い静脈が透けて見えるぐらいに、大きくなっている。
まさしく子供を育てるための「栄養補給装置」になっていた。
「ソフィア、よく頑張ったね。
ありがとう」
「あら、頑張ったのは先生よ、私は腰麻(腰椎麻酔)されて寝っ転がってただけ。
通常分娩より楽なのよ。でも、3子目は無理ね、ごめんなさい」
「なに、君と子供が無事だっただけに感謝だよ」
「男の子だったわね、うれしい?」
「・・・ああ、それなんだがソフィ、心して聞いてくれる?
実はこの子、半陰陽つまり両性具有なんだよ」
そこまで聞くと、ソフィアは子供を膝の上に乗せ産着を肌蹴させ、子供の股間を覗き込んだ。
そして、小ぶりだが両方の性器が存在することを確認する。
『Oh Dio. perche!(ああ、神様なんてこと。どうして!)』そうイタリア語でまくしたてた。
「おちついて、ソフィア。
ほら、僕は女の子が欲しいって言っていただろう、で君が男の子。
きっと慌てた神様が、両方の願いを叶えちゃったんだろうね。
だいじょうぶ、おちついて」
「・・・もしかして、混合性性腺異形成症?
最近増えて来ているって。
でもまさか自分の子供に?」
「判らない、最近学会でも話題になっている、ヘルマフロディーテ症候群じゃないかって。
先輩の見立てでは。
遺伝子検査は来週だけどしっかり受け止めてあげよう。
私たちの子なんだから」
「ええ、もちろんよ。
でも、父母にどう説明しようかしら」
「だよねえ、で、お母さん廊下にいるんだけど入れていい?」
「ええ、説明は私にさせて」
ソフィアの母への説明には時間がかかった。
しかし、彼女も元理系の研究者であり理知的に思考できる人だ。
だいぶ驚いたようだが、ソフィアにこの子が頼れるのは両親だけ、とくに母親の厚い愛情は特に大切だと説明したらしい。
彼女も家事を放り出して飛んできたため、来週に日を改めてくることを告げ、早々とタクシーで駅に向かっていった。
翌週、診療室で遺伝子検査の結果が伝えられた。
「結果は、見事に45xxという染色体分析だった。つまり通常の女性と全く変わりがない。
MRIなどの画像を見ると、きちんと卵巣、卵管、子宮が通常女性と同じであり、このまま育っても機能する可能性が高い。
男性機能は、精巣は腹内に停留精巣としてある。
この場合最悪は悪性腫瘍化する場合があるが、ちゃんと精管、精嚢、膀胱直下にはちゃんとした前立腺も認められる。
実は最近世界的に、この事例が多いことが報告されている。
日本にもかなりの数がいるんだよ、すでに」
「悪性化する確率は?」
「わからん、する症例は少ないが、ここ5年のヘルマフロディーテ症候群に絞っていえば、過去の事例も今までも、問題は確認されていない」
「ふう、どうしたものかな」
「幸い、ソフィア先生も産婦人科、小児科医だろう。
お前よりは専門家だ。
まかせていいんじゃないか?」
「このことは、ソフィには?」
「伝えたよ、しっかりした人だね、学生時代からそうだったけど。
しかし、それに胡坐かいちゃいかんぞ、夫としてのケアをちゃんと忘れずにな」
「ああわかっている、ありがとう」
診療室をでてソフィアの病室へと足を運んだ。
「あら、あなた。
ちょうどこの子おっぱい飲み終わった所よ」
「うん、お腹はまだ痛む?」
「だいぶいいわ、週末には退院だもの」
そういいながら、子供を縦に抱きかかえゲップを出させていた。
乳児の胃は徳利のような形で、食道の食道下部括約筋が未成熟だ。
だからお乳を飲んだ後は、こうしてゲップを出させてあげないと、嘔吐する可能性がある。
小さく、ケフッと音がしてゆっくりとソフィアは娘を横にした。
「この子、よく私を見つめて笑うの。
知識として生理的微笑だっていうのは知ってるけど、やはり無性に可愛いわ」
「そういえば、僕まだこの子起きているところ、まだ見てないんだけど」
「あら、そうだったかしら、少しブルーが入ったグレーよ。
髪の色は私に近いけど、育つと変わる場合が多いの。
綺麗な黒髪だとうれしいわね、せっかく日本人の血を引くんだもの」
「食欲はどう?」
「私もこの子も旺盛よ。
それよりショックなのは、私の体重が殆ど減ってない事ね。
そうだ、ちゃんと頼んだもの買ってきてくれた? 」
「はいはい、会津屋のたい焼き」
「やった、大好きなのよ、ここのたい焼き」
「お茶を買って来るよ」
「了解」
1階の自販機でお茶を2本買い、戻るとソフィアは既に、たい焼きにかぶりついていた。
「あ、ありがと。開けて頂戴。あなたも一つどう?」
「僕はいいよ、餡子が苦手なの知ってるだろう?」
「生粋の日本人なのに気の毒、こんなにおいしいのに、んん~っ美味しい!」
「糖反応による胃酸分泌が強いんでね、僕は。H2ブロッカーかPPIがありゃ食べるけどさ」
「この子にその反応性が遺伝子し無きゃいいけど。
甘いものが苦手なんて、人生の多くを損しているわよ」
ソフィアはイタリア人夫婦の子供として生まれたが、両親が生まれる前に日本に移住。
そのためイタリア語より、日本語が得意と言う子供となってしまった。
ソフィアは、肉じゃがが得意で、義孝を肉じゃがで掴んだと、友人たちに公言している。
確かに、ヘタな小料理屋より旨い。
「隣の部屋に、妊娠中毒で入院している奥さんがいるんだけど、面白い人なの。
私に一生懸命話しかけてくるのよ。それも英語で」
「まあ、相手の国籍を確認しないで英語で話すのは、よくある日本人の悪癖だね。
でもそれは珍しくないだろう?」
「ええ、でもね、すごく綺麗なキングスイングリッシュなのよ。
わたしでも聞きやすいけど、追いついていくのが精いっぱい。
後から"実はイタリア系なの"って言ったら真っ赤になっちゃって」
「そういう君だって、イタリア語はあんまり得意じゃないだろう? 」
「ええ、でも日常会話ぐらいなら大丈夫よ」
医学界のでの論文は、通常英文で書かれることが普通だ。
記念講演などでは、英語が当たり前のように使われる。
毎日のように目を通す論文、学術書は英語が主体で使用され、医師が英語ができるのは、昔からの常識だ。
というか英語が出来なければ、医療関係者としては成り立たない。
「では、妻がご迷惑をかけたお詫びに、ご挨拶にでも行ってきましょうか?」
「ええ、お願い。
彼女も会津屋のたい焼きが大好物なんですって。
1つだけなら大丈夫でしょうから。
院長には1個ぐらいならOKって確認しているわ」
義孝は、今時珍しい経木に包まれたたい焼きを持つと部屋を出た。
ドアをノックし
「隣に入院している高園と申します。
いつも家内がお世話になっております。
入ってもよろしいですか? 」
と声をかけた。
「あ、はいっ!どうぞ。」
「失礼しますね。
家内からたい焼きがご好物だと伺いまして、おすそわけです」
「あ、これはご丁寧にありがとうございます。
あ、もしかして会津屋さんのですか?」
「ええ、家内のリクエストでして。
院長の許可も頂いているとの事です」
「ああっ!これ食べたかったんです! ありがとうございます」
孝義は自販機のお茶もポケットから出した。
22歳ぐらいだろうか、化粧気がなくとも、女子高生といっても通じるほどだった。
「いつも家内に気を掛けていただいて、ありがとうございます。
家内が嬉しそうに話してくれました」
「いえ、ご迷惑じゃなかったかと。
私も夫の赴任でイギリスに居た時、一人で心細かったものですから」
「そうでしたか、それはご苦労があったのでしょうね」
「ええ、最初は私の英語が笑われて、引きこもりがちになって。
でも隣に住むおばさんがとてもいい人で、いつもお茶に誘ってくれて。
一生懸命お話ししてたら話せるようになって」
「それはよかった、いい人に巡り合えましたね」
「はい。まるで娘のようにかわいがってくれました。
おかげで寂しい思いもしなくなって。
ソフィアさんもさみしいのかと、少しでも誰かを助けれればと」
「ええ、家内もとても喜んでいましたよ。
これからも宜しかったらお付き合いください」
「ええ、こちらこそです」
「では。そろそろお暇しますね」
「はい、なにもお構いできませんで」
部屋に戻るとソフィアは、2個目のたい焼きに取り掛かっていた。
「ソフィ、夕ご飯食べれなくなるよ」
「大丈夫よ、半分はおっぱいを通してこの子の栄養になるんだから、それより名前は"みるく"でいいの?」
「うん、ひらがなで"みるく"可愛いだろう?」
「あら、起きてたわ。みるくちゃんおはよう」
みるくはジッとソフィアを見つめている、微笑んでいる母親を見てニマッと笑った。
「きや~、可愛すぎる! ね、ね、今笑ったの見た?」
「ああ、ぼくらの天使だ」
「ふぎゃ! おぎゃぁ!」
「はいはい、おっぱいね。
まっててね・・・あふぅ・・眠いわ。」
子供を育てるには、とてもエネルギーを必要とする。
暫くの間は子供と眠り子供と起きる生活だ。
母乳を吸うわが子の頭を、いとおしく撫でながら乳を与えていると、義孝も起きてきた。
「あなた、寝てなさいよ。
明日も診療なんだし。
寝不足で医療過誤なんてシャレにならないわよ」
「うん、わかってはいるんだけと。せめておむつ換えるぐらいはさせてよ」
みるくは二人の愛情もあり、スクスクと育っていった。
「マァーマ? あぶぅ・・」
「・・しゃべった・・うふふ、マーマよ。みるくちゃん」
「マァーマ・・おっ・・んむぅ・・あぶっ!」
「おっぱい? お腹すいた?」
「あぶっ!」
「はい、おっぱいよ、たくさん飲みなさいね」
「あむっ」
乳児の飲む力は意外に強い、人によっては乳首に瘡蓋ができるほどだ。
でも、みるくは優しく飲む、片手はいつも乳房の上に当てゆっくりと確実に飲む娘だ、かといって、哺乳力が弱いわけでもない、片方の乳房を空にしもう片方も半分ほどは飲み尽くす。
そしてお腹いっぱいになると眠るまでの少しの間、乳首で遊びだすのだ。
一般的に子供は6か月ぐらいになると環境の音や動くものに反応するようになり、俗に言われる「遊び飲み」が始まる。
しかし、それは一般的には母乳の吸引を中止し、他の物に注意が行く行動だ。
しかし、みるくの場合は違った、乳首を舌で転がすのだ。
「みるくちゃん、遊んでいるの?」
「あぶぅ・・んくぅ・・いっ!」
「もう、おなか一杯?」
「んっ!」
ソフィアも小児科医として、このような事象が見られることは知っているが、生後3か月は早いなと思っていた。
だが、乳首を舌でもて遊ぶ子供なんて、聞いたことも無い。
義孝は午前中の診療を終え、着替えて手を洗うどころか、きちんと消毒してから自宅へと向かった。
「ただいま、姫はご機嫌いかがかな?」
「あら、おかえりなさい。お疲れさまでした。
いまちょうど飲み終わった所だからゲップ出しお願いね」
「はいよ~」
義孝はソフィアからみるくを預かり縦に抱きかかえ、背中をトントンと優しく叩く。
「けふぅぅぅぅ」
「今日はね、マーマってしゃべったのよ、この子」
「そうか、それはすごいな。パードレですよお」
ジッと義孝の目を見つめ「パー・・・ぱーにゃ」
「うん、残念。もういちどパードレ」そう行って自分を指す。
「パーニョレ」
「はい、よくできました。すごい、この子理解しているよぉ」
「そうよ、だって私たちの子供だもの。
はい、今日は讃岐うどんにしてみました」
「ソフィ、先に食べちゃっていいよ」
「うれしいけど、もういただいちゃったの、おなかすいて。しかも2玉」
「さいですか、では名残り惜しいけどマーマにもどろうか」
「だっ! パーにょれっ!」
「あら、あなたがいいらしいわよ」
「おどろいた、意思表示を言葉にできてるね」
「じゃ、注意して食べてね」
「ほいほい」
義孝がうどんを啜るところを、みるくはじっと見つめていた。
「ね、やっぱり離乳食はまだ早いよね」
「そうね、最初はちゃんとした離乳食ね、まだ消化能力が低いから」
義孝はソフィアがよそ見をしているうちにうどんの切れ端を与えてみた。
「んぐっ、んぐっ・・・こく」食べ終えるとニマァとほほ笑む。
そしてもっとと言うように手を出してくるのだ。
「あなた、あんまりあげないでね。
消化不良なんか起こしたらかわいそうよ」
「ぱーにょ、たんとぉ」そういってまた手を伸ばす。
「ね、この子イタリア語でしゃべっていない?」
「日本語にすれば、お父さんもっと、と聞こえるわね」
二人はまあ、親ばかであることは否めない。
生後1歳2か月になったみるくはとてもおしゃべりになっていた。
「パーパ、おかえり。だっこ」
「はいはい、ただいまみるく。
今日は何して遊んだの?」
「マーマとえほん見た。パーパはまたおちごと?」
「はい、お仕事ですね」
「じゃ、ちゅうちて。お口にちゅう」
義孝は嬉しくなってつい、ちゅっとしてしまう。
とたんに、みるくの舌がぺろりと出てくる。
そんな姿をソフィアが見ていた。
「ちょっとぉ! なに娘にフレンチキス教えてんのよ」
非難めいた眼差しで見つめている。
「いや、教えてないってば」
「てれびのちゅ。みるくじょうじゅ?」
「えっとね、みるく。
それは愛してる・・って解らんか。
あ、こんな時間だ。みるく、ごめんマーマに聞いて。パーパお仕事」
「あい。マーマ、だっこ」
「逃げたわね、義孝ったら」
「まーま? ちゅ」
「はいはい。ちゅ」
ソフィアの口にみるくの舌が入ってきて、舌を追いかけようとするが、短い舌ではそれもむなしく空を切った。
「ね、みるくちゃん。テレビで見たの? このちゅ」
「うん」
「あのね、このちゅ、の仕方は愛してる人どうしの仕方なのよぉ。
挨拶のちゅはお口でこう」
「こう?」
そういって、唇だけでソフィアにちゅっとしてくる。
「はい。よくできましたぁ」
「じゃ、パーパには、さっきのちゅでする~」
「どうして?」
「みるく、パーパ愛ちてるもの」
「あら、言い切ったわね。
でもマーマからパーパを取らないで。お願い」
「いーーやっ!」
まさか娘がライバルになるとは思わなかったソフィアの午後だった。
専業主婦と子育ては意外に楽しい。
余った時間で読めなかった論文や、学術書も読める。
なによりソフィアにとって気になるのは、娘の事だった。
両性具有として生まれ、すくすくと育ってはいるが将来的にどうすれば良いのか。
その系統の論文を読み漁り、結論として思春期までは検査を行いながら育て、本人とよく話をしてからと思うようになった。
早い時期にお座りもできるようになり、ハイハイが始まりだしている娘。
一緒に昼寝をして気がついたら、隣の部屋なんてこともよくある、目が離せなくなってきた。
毎日のように新しいことを覚え、自分の物にして育っていく姿は、感動的ですらある。
そして2歳の誕生日を迎えた。
乳児用ケーキに目を輝かせている。
「んふっ・・・おいひい・・・」
ニコニコとケーキを大口でほおばる。
「パーパとマーマもたべよ、いっちょ!」
「じゃ、頂きます」
「あれ、結構うまいなこれ、さっぱりしててうまいよ」
「そうね、これ美味しいわ。
みるくありがとう、おかげで美味しいケーキが食べられたわ」
「ん!」
フォークで器用に切り分け、父に、そして母に差し出すみるく。
2歳になったばかりのある日、みるくは痛みを訴えた。
「マーマ、おちんちん痛いよぉ」
「どれどれ、マーマが見てあげますね」
「ん、おちっこした。」
排尿も排便もちゃんと教えてくれる娘は、本当に手がかからない。
ソフィアがオシメを取ると、解放された喜びから手足をパタパタ動かしている。
陰茎をみるとしっかり勃起していた。
しかし、陰茎の亀頭につながるように小陰唇の前方に繋がっており、そのため引っ張られ、結果敏感な亀頭の裏筋と呼ばれる部分が、引き攣れている。
陰茎を下に抑えてみた。
「みるくちゃん、こうすれば痛くない?」
「痛くない~」
次に陰茎を上に上げてみる。
「マーマ、おちんちん痛い~」
「わかったわ、パーパと相談して治してあげる」
「マーマ、治る?」
「大丈夫よ、マーマもパーパもお医者さんなの。
お医者さんはそれをちゃんと治せるのよ」
その後、夫の義孝と相談した結果、小児の内に陰茎と小陰唇の分離手術を行うことにした。
ついでに、新しく導入した最新のMRI断層で詳しく調べた。
高価なMRI造影システムだが、廃院した中規模病院の出物があり、導入を決定したのだ。
「女性内性器も正常ね、睾丸は相変わらず腹腔内だけど、育ってるわ」
「うん、半年前のデータと比べてもそうだね。
でも体内にある以上、異常化する可能性はあるよ。
よしんば正常に機能してもホルモンバランスの関係がなあ、正常な精虫形成は難しい可能性もあるかもね」
「男性の減数分裂には低温が必要とされるのよね」
「一般的にはそうだけど、生産効率が低下する程度だよ。
異常化しなければ様子を見る方が良いと思う」
それから3歳を待たずに、みるくの手術が行われた。
傷口は縫合糸を使わず、生体用の接着剤で止めていき、癒着を待つ。
これは整形美容で使われる物だ。
小陰唇も将来的な要素を見込んで、綺麗に形が整えられた。
大陰唇の脂肪移植は早すぎるので見送った。
「どう?みるくちゃん、痛みは無い?」
「うん、触ったりしなきゃ大丈夫。
オチンチン大きくなっても痛くないし。
ありがとうマーマ」
「どういたしまして」
「ね、本当にマーマが手術してくれたの?」
「そうよ、どうして?」
「パードレだったら恥ずかしいもの」
実際には整形したのは夫の義孝であったが、義孝の大切な娘の性器を他人に任せたくない、との意向で執刀したようだ。
そのとき、処女膜や内診もきちんと済ませてある。
みるくの前立腺は子宮口の手前、膣の中ほどに位置していた。
そのため性的興奮をすると、子宮口の下、膣の中ほどの部分に前立腺が丸いふくらみを作る。
通常男性は、これが直腸内の6~8センチあたりに出てくる。
よく、エロ小説に前立腺を刺激されてアクメに達する描写があるが、押そうとこすろうと性的快感はほとんど無い。
ただし、内部の尿管部分では性感があり、男性によっては異物を深く挿入しマスターベーションする事例もある。
小児でも細いチューブなどを挿入し、マスターベーションをする事例もあり、この場合は正しいマスターベーションを、きちんと教えてあげることが急務となる。
小児性欲は口唇性欲の次に来る性器性欲で、乳幼児でも見られるごく自然なものだ。
親が執拗に規制したり、かといって過激な快感を与えるようなことは、歪んだ性衝動を招きかねない。
両性具有としては、一般的には性欲は少ない方向に動くが、このこの場合はどうなるのだろう。
ペニスを持っていても勃起できなかったり、勃起しても性交に必要な硬度がえられなかったりと難しい場合もある。
でもみるくの場合は、きちんと勃起することが解っているし、将来男性としての機能も、充分可能で有ることが解っている。
それどころか、近年の事例を調べてみると、性欲は通常か、それ以上の異常性欲ともみられる事例が、増えてきていた。
それから1か月後、みるくの検診をソフィアはした。
「じゃ、みるくちゃん。痛くないか検査するから、おちんちん起たせるからね。
ちょっとだけ目をつむっててね」
「うん。痛くない?」
「きっと気持ちいいわよ」
ソフィアは、ゆっくりとみるくのペニスを口に含んだ。
わが子だからできる事だった。
良く唾液で濡らし、勃起させていく。
「マーマぁ・・きもちいい・・・」
むくむくとペニスは勃起を始めた。
「どう?痛くは無い?」
「うん、痛くないよ。マーマ、もっとぉ」
「じゃ、ご褒美にあと少しだけよ」
「うん。んっ、んっ」
ソフィアは完全に勃起した場合、異常が無いかを確認したかった。
"凄いわあ、1歳半にしては完全に勃起している。硬さはあの人譲りね"
みるくのペニスは包皮がめくれ、亀頭がカリ首を広げている。
"こんなにカリ首が大きいのも珍しいわ、ああ、そういえば暫くご無沙汰ねぇ"
しかも、もうすぐ3歳とは思えない程大きい。
計ってみると、勃起状態で優に8センチ以上ある。
萎んだ時は3センチ程度の標準の大きさだが、驚くほどの膨張率だ。
「ほら、もうおしまい」
「え~もっとお」
「将来大切な人の為に取っておくのよ」
「パードレの為?」
「駄目。パードレはマーマの旦那さんなの。盗っちゃだめよ」
「マーマけちい」
外陰部を消毒して診療台から下す。
女児用ショーツを着けてあげた。
既におむつ離れは終えているが、たまに間に合わず漏らす場合もある。
自分でしたいとのことで、トイレにふみ台まで準備した。
義孝の休日を1日潰し、DIYで作った力作だ。
「さっきの事、パードレには内緒よ」
「・・・やきもち焼くから?」
「・・・わかっているじゃない」
「複雑なのね。それよりみるくのオチンチンどう?変じゃない?」
「大丈夫よ。可愛いけど立派に育つわ。形もきれいよ」
「おマンマンは?」
「綺麗よ、形も良いし、きっと男のヒトは喜ぶわ」
「よかったあ」
2歳半とこんな会話をするとは、思ってもみなかった。
夫の施術は完ぺきだった、それはさすがに美容整形専門と言わざる負えない。
嵌頓包茎の男児の手術で、不手際な整形をしてしまい、心に傷を負う子供もいる。
思春期となり、自分の性器の醜さに失望するのだ。
美容整形といっても顔だけが対象じゃない。
実際に小陰唇を小さくしたいだとか、大陰唇をもっとふっくらとしたい、クリトリスの包皮を切り取ってくれだとか、人さまざまである。
男性でも、陰茎に樹脂球を入れてくれだとか、陰茎湾曲を治してくれなど、けっして顔だけにとどまらない。
夫の手技のすごいところは、脂肪細胞の扱い方だ。
腹部や腋から余剰な脂肪細胞を取って来て、患者の希望する部位に定着させる技術は世界でも少ない。
義孝は脂肪細胞に、血管新生因子を使い定着させる。
その技術は非常に難しい技術が要求されるが、脂肪組織がその場所の脂肪として定着し、痩せたり太ったりしても、自然な形になる。
先週は、恥丘をふっくらとさせたいとの患者を、希望通りの形に仕上げている。
恥丘だけでは大陰唇がへっこんだ形になり違和感がある為、二度の整形術を行い、大陰唇から恥丘にかけて見事な滑らかなカーブを作り上げた。
ソフィアも麻酔医として立ち会っており、その技術には何度見ても驚く。
すでにソフィアも、産婦人科と小児科も開業している。
入院患者は、自分が責任を負うる程度しか受け入れない方針だが、近隣の緊急の出産などには対応している。
正常出産後の、伸びきった膣の修正術にも慣れてきた。
夫の指導の下に、膣を少しだけ狭くする方法は、次の子供を望む夫婦にとって必要な施術となる。
保険が通らないので、自費となるが希望する夫婦は多かった。
ただし、2度目の修正手術は進めない、膣壁が厚くなり次の出産時に膣が亀裂する可能性が高いからだ。
それも、夫の脂肪移植術で解消可能となった。
何人産んでも、膣の外側に脂肪移植していれば、狭くねっとりと絡みつく膣が整形できるからだ。
論文でも発表しているため、広告もしていないのに口コミで広がり、そのため遠くから訪れる患者も多くなって来ている。
クリニック経営も順調になったのは、開業から3年が過ぎていた。
借りていた公的資金や銀行融資も、順調に返却が進んでいる。
この調子でいけば、後2年ほどで完済できる。
しかし、高園家では小さな波乱が生じていた。
夫、義孝の性交渉頻度が減ってきていたのである。
ソフィアにとって、それは無視できない物だった。
「ねえ、毎週何回なんては言わないけど、最近愛してくれる事少なくなってきているのは事実よね」
「ん、まあそれについては面目ないと思っているよ」
「私、魅力なくなっちゃった?」
「まさか、今だって一番愛してるし、ただ仕事が面白いんだよ。
言い訳にもならないけど」
「日本人男性の性は蛋白になりやすいっては聞くけど、これほどまでとは思わなかったわ。
ホルモンバランスには異常はないの?」
「甲状腺にも何処にも異常はないよ。
プロラクチンが多い訳でもないし、ただ確かに性欲は少なくなっていると感じることもあるね」
「私は何時だってあなたの事はOKなのに。
ねえ、いま30代になって私は性欲が強くなってきてるのよ。
体質でもあるのかもしれないけど、でもあなたに無理はさせたくないの。
もっと・・そう、あなたの基本性欲が亢進すればいいのだわ」
「かといって甲状腺の機能を落とすってのもなあ」
「ね、たしかに甲状腺は関与しているけどそれだけなのかしら。
もっとこう、根幹的なホルモンがあるんじゃない?」
「その可能性は否定できないけど、どうやって?
プロトロルさえ思いつかないよ。
君が言ってるのは、もっと根幹的な性欲のことだろう?
それって脳生理学の分野じゃないかなぁ」
「それもあるわね、特に男性は脳で興奮するから。
じゃもっと興奮するシチュエーションでもする?
私がノーパンで診療するとか、ピンクローター入れたまま診療するとか」
「おいおい、患者巻き込んじゃだめだよお、事故起こしたらどうすんのさ」
「じゃ、自宅では裸エプロンとか?
日本人て思いつかない事を考えるもの。
あなたの好みに合わせてオールOKよ? ソフトなSMでもいいし」
「確かにセックスがマンネリ化している事にはごめんなさいするよ。事実だし」
「よし、今晩アダルトグッズいっぱい買おう」
とても医局での会話とは思えないが、どこも現実は似たり寄ったりである。
下ネタで、一般人に負ける医者は居ない。
未婚の若い女医であっても、顔を少し紅潮させながら、強烈な下ネタ返しなんて朝飯前である。
だが、患者を目の前にして「エロ」とか「性欲」は不思議なほど死滅するのが普通だ。
医者は治したくて必死、患者は治してもらいたくて必死、そこに「エロ」とか「性欲」が絡む隙間は「ゼロ」といって良い。
「ねえ、これって、研究している人って少ないの?」
「殆ど聞いたことが無いね、題材的に難しいのと、バイアスの掛かりやすい題材だしね。研究者も少ないよ」
「私、やってみようかしら」
「協力は厭わないよ。いいのできたら僕にも試してよ」
「もちろんよぉ、でも性欲ギンギンなんて、たとえ薬が出来ても、治験がむずかしそうね」
「まったくだよ」
それでも、ほしいと思った義孝であった。
ソフィアは母校の伝手を辿って研究室へ時折出かけるようになった。
医院には無い分析装置は、大学のものを活用する為である。
アミノ酸の配列アナライザーやマススペクトルなんかは数億以上する、とても個人で買える値段ではないし賄える機器ではない。
研究はとっかかりさえつかめれば飛躍的に進むことが多い、要はブレイクスルーが必要だ。
ソフィアは、ホルモンの内分泌だけでなく、脳医学や神経医学の分野まで手を伸ばすつもりでいる。
「ね、パードレはマーマとどうやって知り合ったの? 」
「ママはね、パードレと大学の後輩だったの」
「後輩?」
「そう、お医者さんの学校なのよ」
「ふうん、ナンパされちゃたの?」
「あら、良く知ってるわね。ハードレはママの美貌に、メロメロになったの。」
「ママ、ウソを教えてはいけない。スーツケース一つで転がりこんできたのは君だろう。
まあ、肉じゃがは美味かったが」
「マーマ、押し掛け女房?」
「ぐっ・・・でも、プロポーズはパードレからよ。
みるくちゃん。それはゆるぎない事実よ」
「ふうん、パードレも据え膳食べちゃったわけだ」
「うっ・・・意味知ってるのかい? みるく」
「うん。男って悲しいサガだよね。
でもおかげで私生まれること出来たし。
ありがとうパードレ、マーマ」
二人は非常に複雑な気持ちを抱えながら娘を抱きしめた。
こうして、みるくの3歳の誕生日は、つつましくも暖かく迎えられた、そこには暖かい幸せな家庭の一コマがあった。