帝国による民族狩りが横行している中、こんな残骸はありふれた不幸な話の一つでしかない。
そんな何処にでもある村には新たな住民達が巣食うようになっていた。
離反した傭兵団である。
各地に戦線を引き伸ばしては食い荒らすイナゴの如き所業に加担していた彼らは風向きに敏感だった。
自身らを焼き焦がす火種が稲を火の海に変える前兆には人一倍。
だが、逃げたとて腹を空かせたままでは飢えて散る。
だからこそ身の振り方を考える際に少しでも得するよう動き出す。
例を挙げるならば、手土産にうってつけな“元”味方だろうか。
これは、そんなありふれた不幸にもう一つ書き足されるだけのお話。
「ぅ、ん……」
小さな呻き声と共にサラは瞼を震わせた。
そして自然と開いていくが、何も変わらない。瞳の先は暗闇だった。
(ここは、いったい……)
身動ぎしようとした所で後頭部から鈍痛が走った。
「うっ……」
痛みに顔を顰めたサラだったが、痛みがかえって気付けの役割を果たしてくれたのか意識を失う直前の記憶が鮮明に蘇っていく。
サラ・ステヴナン。階級は軍曹。帝国南東方面軍、歩兵大隊所属の第十三小隊を任された小隊長。
大隊長の指示により拡大した戦線の補強のために組み込んだ傭兵団と共に作戦へあたっていた。
だが、不意の夜襲があったのだ。
接収していた村の中で目が覚めた時には取り囲まれ、部下の安否を確かめる暇もなく家屋から飛び出した所で――
「…………」
サラは自身が捕らわれたのだと理解した。経緯は兎も角、置かれている状況を把握しなければと全身に受けている感覚へ意識を向けていく事に集中した。
座らされている部分はざらついており、素足の指先で擦った先には継ぎ目のような段差がある。村で寝所にしていた家屋と同じ石床に似ている。
体が倒れていない理由は直ぐにわかった。手首と首周りを拘束された状態で何かしらに固定されているのだろう。サラの記憶の中では板枷の姿が思い浮かんでくる。
(結構な間、寝ていたみたいだな……)
これからギロチンの刃が振り下ろされるのをただ待つ死刑囚の様な体勢で放置されていた体はさぞ疲れを癒そうとしていたのだろう。そう自身で皮肉を言いたくなるほどに関節は軋み、筋肉が固まっているのを実感させられる。
ましてや奇襲直後の状態で、敵の目的が捕縛でなければ一生眠りについたままだったというのに、腑抜けた性根へ活を入れようにも両腕は頬を叩くことすら許されていない事にサラは歯噛みした。
「ご無事ですか、サラ隊長」
不意に聞こえてきた声が、サラの自責を中断させた。
「アランか!」
そう、アランの声だ。雇い入れた傭兵団の長。まだ実戦経験が浅いサラのもう一人の隊長にして内心では師と呼んでも良いとさえ思うほどに慕っていた男のものを他人と間違えるはずはなかった。
父と娘ほどもある年の差があるというのに嫌な顔一つせず従い、時には助力を惜しまず彼の部下を貸し出してくれた救世主。
助けに来てくれたのだろうか、と期待が膨らむのを抑え切れない。まだ活路はあるのだという実感がサラの脳に興奮作用のある脳内麻薬を分泌させ、全身を粟立たせた。
「すまない、不甲斐ない隊長で……周囲に敵は? 見張りはいるか?」
好機を悟られてはいけない。サラはアランのトーンに声量を合わせて視覚の代わり足り得る情報を求めた。
「敵は居ませんよ。居たら呑気に話してないで隊長を解放してますって」
優しくも軽薄な口調、それでこそアランだ。初めはサラの嫌う規律の緩さの象徴だったが、今はその余裕が頼もしい。
「そうか、そうだよな。とりあえず目隠しから外してくれないか? 流石に何も見えないというのは落ち着かないんだ」
「お安い御用で」
ザリ、と床とブーツの間で砂が擦れ合う音に遅れて歩調がサラの鼓膜を打ち、頭へと革手袋の分厚い指の感触が乗せられる。一瞬だけ頭が横へと引かれる感覚を覚えた後に瞼の上から締め付けが消え、滑り落ちて――
「……は?」
サラは、視界へ飛び込んできた光景に思わず声を漏らした。
何があるのかは分かるが、途中の過程を取り零したのか理解が追いつかない。
「うちの連中、サラ隊長が起きるの待ちくたびれちまったみたいでさぁ」
くつくつと笑うアランの背後には、彼の傭兵達が屋外だと言うのに上半身を露わにし、一様に股間から肉の塊をぶら下げていたのだから。
「な、な……っ」
「苦労しましたよ。起きるまで待てって言っても久しぶりに女を抱けるってんで抜け駆けしようとする連中ばっかで」
サラ隊長の人望かねぇ、と言葉を続けるアランの言葉すらサラの耳には入ってこなかった。
何故ならば、その光景が全ての答えだったのだから。
何故、警報もなく夜襲が成功されたのか。
何故、傭兵団以外の人影がないのか。
何故、今から犯そうとしているのか。
「アラン、貴様……っ!」
「そうカッカしないでくだせぇ、簡単な話でしょう? 貰える金と見合わなくなったから手を切る。そんだけでさぁ」
興奮が一瞬で激情へと塗り替わり、サラは怒りのままに飛びつこうとするが態度の変わらないアランの前で足が砂を掻くだけだった。
「よしてくださいよ、犬じゃあるまいし。隊長が従ってくれるなら部下の安全も保障するんで。こっちとしても手土産は大いに越したこたぁ無いんです」
「うるさい! 帝国軍人は敵に尋問されるくらいなら死を選ぶ! リディアやケイト、それ以外の部下達もその覚悟で私に着いてきているんだ!」
サラが何度試そうとも板枷を挟み込んだ柵は揺れるだけで折れるどころか傾きもしない。それどころか傭兵達の笑いものになっている始末。だがこうしていなければサラはどうにかなってしまいそうだった。
「へぇ……なら、俺と話してないでさっさと舌を噛んだらどうです? 向こうで先に待ってりゃあ、きっと一名も欠けず合流出来るでしょうや」
頭に置かれていた手が髪を絡め取り、上を向かされる。昨日までは頼りになった無精髭の男の顔と正面から睨み合うが、サラは笑うように唇の端を吊り上げた。
隊長としての責務を全う出来なくなるが、今は目の前の裏切り者へ一泡吹かせることしか頭の中にはなかった。
そもそもが、こんな見晴らしの良い場所へ傭兵団の一部を集団で集めているのにサラの部下が一人も居ない時点で信じるには値しない。
「っ、いいさ。やってやる……!」
サラは大口を開け、舌を突き出す。唇から歯を剥き出しにしてよく見えるように。
(すまない、先に逝く――!)
目を閉じてやりはしない。アランの余裕が消える様を冥土の土産にするため、サラは力任せに顎を閉じた。
「ほれ、さっさとやってくださいよサラ隊長」
「ぁがあ……っ!? っ!?」
正確には、サラは顎を閉じようとした。どれだけ力を込めようとも舌を噛むどころか開いた状態からもどすこともできない。どうしてなのか、肉体に裏切られた彼女はアランを睨みつけたままでいることしか出来ない。
「あー、なるほど。怖気づいて舌を引っ込めそうで不安ですか。プルプル震わせちまってまぁ」
「ぁおっ!?」
アランの指に舌を摘まれ、味蕾の上に苦味が広がっていく。喉奥の粘膜まで引き出されそうな感覚がサラをえづかせ、意思とは無関係に瞳へ涙を蓄えていってしまう。
(何故、どうして動けない!?)
「隊長なんだから泣かないでくださいよ。寝てる間に簡単な暗示をかけただけでさぁ」
「ぁぅ、ひ?」
「言ってやせんでしたね。俺ぁちぃとばかし人を躾けるのが得意でね」
サラにはアランが言っている事が理解できなかった……いや、したくなかった。
死ぬという自由すら奪われている現状、待ち受けているのは凌辱なのだから。
防具や肌着すら奪われていたのも、慰み物にするための下拵えでしか無かったのだ。自分だけが戦友だと勝手に思い込んでいたのかと嘆きたくなる程に、後方の男達は距離を詰め、既に数人は肉棒を屹立させていた。
女としか見られていない。サラがこうして部隊へ配置されるまで、幾度となく浴びせられてきた視線だ。侮蔑と劣情を入り混じらせて肢体へ注いでくる悍ましい感覚。どれだけ鍛えた所で、階級を上げた所でつきまとってくるそれは謂れのない噂まで流布してきた。
時には直接的に『ベッドの上でも勲章を付けてるんだろ?』とまで言われる始末だ。
なのに、だ。
見返してきて、人望を得られたと思っていた者達からもそういう目で見られていたのだと思わされるのが末路では死んだほうがマシだ。
だが死ねない。
ソレすら許されない。
(戦場で死ぬよりも悲惨な事は、あるのか……)
サラは選択肢を失い、決意した気持ちさえも奪われた矢先。アランが懐から取り出した液体へ否応なく視線を向けてしまう。
「なんてね、奴隷印ですよ。帝国お墨付きのね。自死と拒絶を無効化するあんたらお得意の道具は中々優秀なもんで」
その言葉を聞いた瞬間、サラは背筋が凍るような感覚を覚えた。
奴隷印。
数日程度で消える簡単な刺青用のインクだが、然るべき場所へと彫り込めば一定の思考をブロックする事ができる“無害な”薬だ。
施術を行うには然るべき器具が必要な上、最前線でインクなど手に入る筈はない。が、現にその効果を嫌というほど実感させられていた。
「んま、お偉方が遊び感覚で使うもんだから入手は簡単だったすねぇ。捕虜が死にてぇ死にてぇ叫んでるのにずーっと犯し続ける将校さん、とかねぇ」
「けほっ、けほっ……そ、そんなはずは」
「あるんすよ、きったねぇ世の中には」
サラは舌を離され、剥き出しにされて乾いた喉の違和感で咳き込んでいる最中にアランは離れていく。入れ替わりで傭兵達が迫ってくるのを、ただ見上げることしか出来なかった。
どうしても目線の高さが腰にあるため、サラにとっては劣情の象徴である肉棒が列をなして迫ってきているようにしか見えない。
「やめろ……来るな、おい、来るなっ!」
「隊長の命令でも聞けませんねぇ」
一人が返してきた言葉に男達は笑う。既にただの女でしか無いと嘲笑うかの様な態度で。
「ひっ!?」
背後で腰を引き上げられる感触がはっきりと伝わってくる。男の腕が腰骨を掴んできた瞬間に蹴りを見舞ったはずが、容易く掴まれてしまった。そしてそのまま、残る別の腕が足首を柵へと結び付けていく。
「いい格好になりましたよ隊長、まるでパブのダンサーだ」
「いやいや、これじゃ家畜の種付けだろ」
(言いたい放題……っ!)
サラはあえて言い返すことをしなかった。吠えた分だけ男が喜ぶことを知っていたから。
それがたとえハの字に足を開かれ、腰だけを突き出す下品な格好だとしても、だ。楽しませてやる気は毛頭ない。
座っていたからか、こびりついた砂を落とすように尻を叩いてくる。気遣いなどではなく、単純に自己本位な動き。それを証明するように熱い何かが間髪入れず押し当てられた。
「じゃあ、俺から失礼しますよ、サラ隊長殿っ!」
男の宣言と共に陰唇を割り開かれていく。濡れてもいない状態では粘膜が張り付いてまともに挿入出来はしないと聞いたことがあるサラは、高を括りつつも来るであろう痛みへ備えるべく下腹部へと力を込めた。が――
「ぉ゛っ――っ?」
ズン、と一息で押し込まれた肉棒は、当たり前のように子宮口までの道のりを容易く踏破し、我が物顔で跳ね回っていた。
遅れて、尾てい骨から背骨を駆け上ってくる、圧倒的な快感が脳へと迫り、弾けた。
「ぃ、グっ! ゔっ♡ ぃぐぅお゛ぉ゛ッ♡」
思考する時間すら与えられなかった。絶頂が脳の中で炸裂したと錯覚する程の衝撃が泡のように弾けては立て続けに連鎖していく。何故こうなったかすらサラにはわからない。ただただ嬌声を迸らせ続ることしか許されないかのように吠え、全身を痙攣させていく。
「ぐぁっ♡ ひぎっ、ハッ、ハッ、ハッッぎぃッ」
(いき、息ができな――)
「一突きでこれかよ、どんだけチンコに飢えてたんだ? あぁ?」
パァン!
「んひィっッ!?」
呼吸すらままならないほどの快感。生まれてきて感じたことのない刺激に当て嵌められる言葉すら見つけられず肉棒へ縋り付くように締め付けていれば尻を叩かれた痛みが僅かだが正気を取り戻させてくれた。
(こんなの続けられたらおかしくなる!)
直前までの思考も記憶も引き出せない。まるで今この瞬間から生まれ落ちたのではないかと疑いたくなってしまう。それだけの衝撃に脳が洗われてしまったのだ。
「動くぞ」
「ま、まっ――」
サラは男のその一言だけで体中の毛穴が広がるのがわかった。
快楽で忘れていたが、まだ一人目。それもまだ挿入したばかり。既に絶え絶えだと言うのに開戦の合図がなっただけなのだと思い出させられる。
サラからすれば子宮が肉棒の脈動を受けて第二の心臓かと錯覚するほどに収縮しているのに、だ。立たされたばかりの足が縛られてさえいなければ今にでも腰が砕けてしまいそうなのがわかる。わかってしまう。
だが、サラの懇願は聞き入れられなかった。
「ゔあ゛ぁ゛ぁ♡ お゛ぉッ、ぎぃッ……ッふ、い゛ッ♡ ゔあ゛ぁ゛ぁッおぉ、ゔあ゛ぁ゛ぁ♡ あ゛ッ!!♡」
肉棒が締め付けを振り払って引き抜かれていくだけで再び視界が白く染まった。狂った電気信号で力んだ筋肉によって背骨が折れんばかりに腰を反り返らせてしまいながら、サラは吠えた。それでも一往復に満たなかった抽挿は、返す動きで再度子宮口を穿ってくる。
間近に砲火が降り注いだ時の比ではなかった。全身を打ちのめす衝撃がたった一本の肉棒で引き起こされ続けている。鼓膜をつんざく爆音も、揺れる大地を踏み締めた硬さも、全ての経験を上回られていく。今や嵐に攫われた転覆寸前の小舟に乗っているかのように心許無い。
自分の全てが勝てないと訴えかけてくる中、出来ることは、耐えることだけ。
だから、サラは耐えた。
「くふッ、ふっ、ふっ、ふゔっ♡ ぐぁ、ふぐぅ゛ぅ゛うぅ゛ぅ゛ッ♡」
「お、良いね隊長。必死なのがそそるぜ」
男の腕に力が込められていくのがわかった。力任せに腰へと引き寄せようとする動きに固定された首が軋みを上げるが、最早その程度の痛みで塗り替えられる刺激ではない。
「んぎぃいぃ゛ぃ゛ぃ゛っ!♡」
一際強い突き上げを浴びた子宮が、体内で潰れる音をサラは聞いた気がした。じわりと膣襞と肉棒の間へ熱い何かが広がっていくせいで脳内には潰れた果実のような子宮が描かれてしまう。
一番否定したかった情事のレッテル。
実力でのし上がってきた全ての理由。
それらがまとめて肉棒で、子宮と共に突き潰されていく。
何度も、何度も。
敗北のビジョンが一突き毎に鮮明になっていく。
白く染まったまま戻ってこない視界の代わりに脳が都合のいい映像を幻視させてくる。
自分の現状を肯定させようとする脳の錯覚を。
命乞いよりも浅ましい裏切りを。
サラは食い縛っていた歯を一瞬でも緩めれば理性が裏切ると本能的に悟ってしまった。
それほどまでに、この快楽は容易く蝕んでくるものだと。
だが、言わずにはいられなかった。
「こ、の゛……っ」
「お?」
「ぶっごろじでやる゛ぅっ、ゔッ♡ くそよほお゛っ、傭兵、がぁぁぁぁあ゛あ゛ぁっ!♡」
「おぉ……っ」
サラが唸るような声でその場にいる全員へ啖呵を切った矢先、中で肉棒が膨らんだ。
いや、そう感じたのは無意識に搾り上げるよう動いてしまった粘膜の蠢動もあるだろうか。男は不意打ちを受けてか更に速度を増していく。
自分勝手に最高を求めて踏み荒らしてくる肉棒が襞を抉るのと同じだけ、サラの意識は削り取られていく。
「記念の、一発目だ……っ」
ゴリィ、と密着して尚子宮口を磨り潰してまで一滴残らず送り込もうとしてくる動きに対し、サラは――
「ほ、ぉ゛ッ♡」
間抜けな声を残し、弾けた肉棒の先端から放たれたゼロ距離の射精を受けたと同時に意識を手放した。
「あぁ、やっぱり耐えられなかったか」
突然電源が切れたかのように頭を垂れて静まり返ったサラの様子を見てアランは自身の髭を撫でた。
「あの将校から奪った薬、流石に合法の物じゃなかったかぁ」
奴隷印を手に入れる際、まとめて奪ってきた媚薬をサラで試した結果がコレだった。
狂ったように叫んで、吠えて、地面を濡らして、気絶。一回戦と保たない劇薬とは恐れ入った。
「はーっ、はーっ……アランさん、コイツ気を失ってもナカの具合は良いですぜ。ずっと狂ったように締め付けてきて、まるでしゃぶられてるみてぇだ」
「ほぉ。それなら目が覚めるまで好きにして良いぞ。堅物嬢ちゃんの頭ぁほぐしてやれ」
相手の意識があろうとなかろうと腰を振るのをやめず二回戦を始めようとする部下の様子に呆れ、手をひらひらと振りながら許可を出せば、その場にいる男達は歓喜の声をあげた。
それを背中で聞きながらアランは次の場所へと歩き出す。
折角捕らえたサラの部下達を複数箇所に分散して捕縛しているのだ。一人でも暗号なり寝返りの希望なり差し出してくれたならボーナスになるのだが、それが叶わなくとも女性だけの部隊だ、売り飛ばす先はいくらでもある。
次はもう少し利口だと良いが……そんな風に考えながら、アランは副長だったリディアの元へと向かうことにした。