しかしベッドの上では二人の立場は逆転していたりする。
そんな二人が昨晩お楽しみした翌朝、ベッドに一人残された紗希は気怠い体のまま昨日の夜のことを思い出す。
「じゃあ行ってくるね」
ベッドの中から急いで出掛けていく
そもそもの原因は昨日の夜。お互い疲れていたりしてなんだかんだ三週間ほどご無沙汰になっていたのがいけなかったのか。久しぶりにそういうことをしていたら、火がついてしまって二回戦、三回戦……その間、嗜虐心が目覚めてしまったらしい陽葵に何度もイカされ――数える指が足りなくなったので数えるのをやめた。そんなあられもない夜が明けて、私はベッドから起き上がれずにいるというのに、陽葵はつやつやとした顔をして出掛けて行った。あれがうちの学園の歌姫なんて何かが間違っている。悪魔とかに改名してほしい。
もう少ししたら流石に起きよう。だいいちこちらは弓道部で向こうはコーラス部なのに、私の方がへばっているなんて変な話だ。それでも元々の朝の弱さが手伝って、私は布団を被ったまま横になっていた。
それにしても昨日の陽葵は本当にひどかった。まず最初から一緒にシャワーを浴びようと言ってきて、でも一緒に入ったら絶対にその場で始めようとするので私は全力で拒否した。まずは陽葵がシャワーを浴びて、そのあとで私が浴びた。シャワーを終えて戻ると、陽葵は着る意味があるのかと聞きたくなるくらい肌が透けるピンクのベビードールを着て私を待っていた。そしてすぐに私をベッドに押し倒した。
久しぶりだったというのもあって我慢ができなかったらしい。心の準備ができていないと言う私の耳元で陽葵は「準備なんてしなくても、私に全部任せて」と囁いてきて、さすが歌姫と呼ばれるだけはあるその甘くて美しい声にすっかり酔わされてしまった私は一瞬気を抜いてしまい――そこからはもう陽葵にされるがままだった。
陽葵は私の耳に息を吹きかけた。それだけで反応してしまった私と、陽葵の天使のように可愛い顔に浮かんだ悪魔の笑み。陽葵はそれから永遠かと思うほど長い時間、私の耳を舐めたり、時折その甘い声で囁きかけたりしてきたのだった。
私はベッドの中で寝返りを打つ。昨日のことを思い出したせいで体が熱くなっている。こんな姿を陽葵に見られたら、彼女はきっと嬉しそうにあの悪魔の笑みを浮かべるだろう。
『耳だけで気持ちよくなっちゃった?』
陽葵はいつも私の羞恥を煽るようなことを言う。けれどその言葉が余計に私の体に熱を灯してしまうのだ。
『耳しか触ってないのに、ここもピンと尖っちゃって』
白い手に優しく胸を揉まれる。けれど肝心の場所には触れてこない。明らかに焦らしている。陽葵の狙いはわかっているはずなのに私はいつもそれに引っかかってしまうのだ。堪えようとしても堪え切れない声が漏れる。体の中までどろどろに溶けたようになってしまって、まだ触れられていない部分が潤み始めた。思わず内腿を擦り合わせた私を見た陽葵は、急にピンと尖った乳首をふっくらと艶めいた唇で挟んだ。舌が触れると、快楽が背中を貫いていく。
(いや、何をしているんだ私は……)
わざわざ昨日のことを反芻していたせいで体が熱くなっていた。思い出しただけで反応している胸の飾りに私はそっと触れた。
「ん、んん……っ!」
昨日はここを散々指で転がされ、何度も舐められ、その刺激だけで絶頂してしまいそうになった私はやめてと陽葵に言ったが、当然やめてくれるわけはなかった。正直に「イっちゃいそうだから」と言った私が悪いのかもしれないけれど、陽葵だって私が恥ずかしがる姿を見て楽しんでいたのだから、やっぱり陽葵が悪いと思う。
昨日の夜は胸だけでイって、それからようやく陽葵は私の下半身に手を伸ばした。蜜をこぼしている入り口を指でなぞるだけでいやらしい音が響く。
『もうシーツまで垂れちゃいそうなくらい濡れちゃってるわね』
愉しそうな声。それから陽葵は私の脚をゆっくり開いて、その間に自分の顔を埋めた。
『溢れないようにしないとね』
そう言って陽葵はそこを舐め始めたけれど、どう考えても逆効果だ。舌が蠢く度にぞくぞくとした感覚が全身に広がっていく。
「っ……ん、ひま、り……ッ!」
起きるつもりだったのに、どうしてこうなってしまったのか。私は昨日の陽葵を思い出しながら、潤んだ秘所へ指を運んだ。
陽葵にあそこを舐められて、イキそうになったところでクリトリスに触れられて、その瞬間に溢れたもので結局シーツは汚れてしまったのだった。
「ん……っ、あ……!」
ああ、だからこんなことをしている場合ではなくて、いま私の下にあるこのシーツをちゃんと洗わなければならないのだ。それなのに私は私の指を止めることはできない。陽葵が私にどう触れたかを思い出しながらなのに、陽葵の指の方が実は少しだけ長くて、あと少しのところが届かない。それがもどかしかった。
「ぅ……ん、ぁっ……もっと、ひまり……ッ!」
昨日散々イカされて、最後の方なんてもう死ぬかと思ったくらいなのに、それを思い出して自分を慰めているというこの状況は何なのだろう。寝具には陽葵の香りが少し残っていて、それが余計に私の熱を高めていく。
「だめ……ッ、もう……!」
『我慢しないでいっぱいイッていいのよ、王子様?』
陽葵はこういう時に限って普段の私自身を思い出させようとする。別に王子様なんて言われるのを望んでいるわけではないけれど、陽葵しか知らない私自身の姿を自覚させられてしまう。
「あぁ……っ、ひまり……ッ!」
自分の指で膣内を掻き回しながら私は絶頂する。張り詰めていた体から一気に力が抜けると、もう起き上がれないかと思うほどにベッドに沈み込んでいった。剥き出しの肌が触れた部分が少し濡れている。昨日散々汚したのに、また汚してしまったのか。
「はぁ、はぁ……ひまりのバカ……」
全部、陽葵のせいなのだ。
そもそも陽葵がいなかったら今頃自分がどうなっていたのか全く想像がつかないくらいに性的なことに疎くて、何もかもを陽葵に教えてもらった私だ。昨日だって散々したのに、それでも足りないと言わんばかりに自分を慰めてしまうこの状況だって、全部陽葵が悪い。自分自身のものでしとどに濡れた指をシーツに擦り付けながら私は目を閉じた。
――その時だった。
「誰が馬鹿だって?」
その声に、沈みかけていた意識が一気に浮上する。私は目を見開いた。どうしてここにいるのか。いや、それよりもいつからそこにいたのか。
「ひ、陽葵……」
「昨日のあれじゃまだ足りなかった?」
「え、えっと……これは、違くて」
「何にも違わないじゃない。こんなにぐちゃぐちゃにしちゃって」
天使の顔に悪魔の笑み。私は自分の運命を悟りながら恐る恐る陽葵に尋ねた。
「いつから見てました……?」
「何で急に敬語になってるの? えっとねぇ、今日使う楽譜を忘れたことに気付いて戻ってきてからだから……十五分くらい?」
「結構長いな!?」
思わず素に戻ってそう返してしまうくらいの時間だった。陽葵はにこにこと笑いながらベッドに近付いてくる。
「
「……もうやだ穴があったら入りたい」
「かわいいのに……もう部活行くのやめようかなってくらい」
「いや部活は行こうよ!?」
コーラス部は一人が休んだところで部活ができないなんてことにはならないだろうけれど、歌姫と称される陽葵を中心にまとまっているところはある。その彼女がこんな理由で部活をサボっていいはずがないだろう。
「仕方ないなぁ。じゃあ続きは今夜のお楽しみってことで」
陽葵はそう言って、楽譜を手に部屋を出て行った。私は重い体をどうにか起こして頭を抱えた。
「いや、今夜もあのレベルだと私の体がもたないんだけども……」
それに陽葵に翻弄されっぱなしなのもどうかと思う。たまには下剋上を――と思うけれど、おそらくそんな日は永遠に来ない気がする。
とりあえず昼のうちにこのシーツは洗って、あとはゆっくり過ごして体力を回復しておこう。私は密かにそう決意した。
そしてその次の日――前日の名残を残したアンニュイな学園の王子様に後輩たちが色めき立ったのは、また別の話である。