1287年 6月 帝国領内 とある街外れ
草木も眠る真夜中
昼間の暑さからは信じられない程
気持ちのいい涼しい風が体に当たる。
木々の間から差し込む月の光が、自らを高尚な生き物と錯覚させてしまう。
「森の中、狼は眠り
風の中で蝙蝠は揺れる
でも起きている 1人だけ
屍鬼や幽鬼が 怖いんだね」
ダブレットを着た男が1人、丘から街を見渡し歌っていた。
パチ、パチ、パチ、パチ
歌い終わると同時に
後ろから拍手が聞こえ、男が振り向く。
そこに立っていたのは白髪の青年だ。
その男はボロボロのシャツに薄汚れた緑色のチュニックを着ていた。
背丈と体格が恵まれていない為、少し大きい服がその青年を余計みすぼらしく見せてしまう。
事実、青年と形容したが背丈だけを見ればまだ少年と言われても仕方がない見た目をしている。
しかし、そのみすぼらしくも見える背中には不釣り合いな2本の剣が背負われている。
白髪の青年が口を開く。
「こんなに上手ならもっとはやくお前の歌が聞きたかったよ。」
「ふん、世辞はよせ」
「褒め言葉くらい素直に受けたって欲しいもんだ、、、、その歌、、、最後に聴いたのはいつだったかな」
ダブレットを着た男は夜目が効く、白髪の青年の軽い口調とは裏腹に顔はとても悲しそうにしているのが見えた。
「仲間が歌っていたんだ。」
白髪の青年が何の為にここにきたか知っているダブレットを着た男は言及せずに会話を続ける。
「、、、その仲間は?」
「お前のお仲間に殺された。」
「、、、、、そうか、、、、すまない、、、、、」
「この歌の2番目の歌詞を知ってるか、、、?」
「、、、いや、、、知らないな、、、」
「力強いウィッチャー、コインで雇われ、あなたを切り裂く、、、これからこの歌の通りになる訳だ、、、」
「、、、まだ間に合う筈だ、シギン」
「いや、、、、、もう間に合わない、俺は血の味が忘れられない。自制もできん、同胞は規律を乱す俺を危険視してる。ここでお前を殺して切り抜けても、どのみち同胞に殺される」
シギンと呼ばれたダブレットの紳士は両手を広げ、続ける。
「最後にひと暴れしたいんだ、しくじるなよ、シアナ」
「、、、、、、、、、、」
シアナと呼ばれた白髪の青年は感情を押し殺すように歯を食いしばり、鼻で荒く息をしながら、剣に手をかけ、握りしめる。
「ふぅ、ゔゔゔゔゔ」
シギンと呼ばれた男が低い唸り声をあげると彼の顔がみるみるうちに怪物の様相に変わり
肌の血管が浮き出していく。
牙と爪は鋭く尖り、骨格が人間のそれとは違ったものになる。
ダブレットを着ていた紳士、、、もはや怪物とよべるそれは
静かで威圧感を感じる声で静かに呟く。
「さぁ、来いっ、ウィッチャー」
白髪の青年は剣を抜く。