1287年 9月
時刻はもう既に3時になろうかというところだ。
俺達は生存者を無事にノヴィグラドの門へ送り、全員が街へ入ったのを確認してから再びセブン・キャッツ・インへと戻った。
生存者達は自らが無事に生きて帰れると確信したあたりから協力的になり、全員で口裏を合わせるための物語まで考え、共有していた。
俺達はセブンキャッツインに戻り、店の一番奥のテーブルに向かい合って腰掛けた。
テーブルには酒が置いてある。
「その、、、なんだ、、、すまなかった、、、」
最初に口を開いたのは白髪の男だった。
「気にするな、、俺1人だったら恐らくもっとヒドイ事態になっていた、、、」
「それに、生存者達をちゃんと街まで送り届けただろ?本当に彼らを生かして返すとは思わなかった」
「俺だって殺戮がしたいわけじゃない、、、」
「あぁ、知ってるよ、、、最初に衛兵を呼んで俺達を殺そうとしたのはギンターの方だ。」
「だが殺しすぎた、お前の言いたいのはそれだろ?」
「、、、あぁ、それに、、、ギンターを蒸発させたのは魔術か?」
「うーん、まぁそんな事だと思っててくれ、あれについては多くは喋れない」
「そうか、、、他にもいくつか質問しても、、、?」
「どうぞ」
「何故そんな古びた鎧をつけてる?」
「これか?トゥサンに行った時にたまたま助けた商人がウィッチャーの装備を収集していてな、これよりもっとボロボロだった俺の服装を見かねて一番保存状態の良い装備を一式もらったんだ。」
「その装備の前はもっと酷かったのか、、、、、ところで、何故剣を一本しか背負ってないんだ?」
「あぁ、、、タダでもらうのは申し訳ないから代わりに銀の剣をあげたんだ、、、かなりの業物だったけど、もうそれは手放したかったんだ、、、新しいのを買おうにも今になって何故かニルフガード軍が剣と鎧をかき集めてて、どの剣もバカみたいに値段が高騰してる。」
「あぁ、コヴィリでも鍛冶師は大忙しだ、、、ところで、何故剣を手放したかったんだ?」
「あぁ、その剣で友を切ったからだ。」
「、、、、、」
「すまない、、、話を変えよう、、、そのメダル、見ないものだな、、、」
「あぁ、最初の頃のウィッチャーは自分で流派のメダルを自作するんだ。これはその名残で自分で作ったんだ。」
「お前は一体何歳なんだ、、、?」
「お前よりずっと歳上さ、グリフィンの坊や」
白髪の男はそう言うと目を細めて微笑む。
、、、なんというか艶めかしい表情だった
そして何故か少し胸を打たれた感覚がした。
「とりあえず、剣についてはあの邸宅の地下にあったウィッチャーの遺品から拝借するつもりだ。鎧は供養するからつけられないが、、、このメダルも、わかり辛いようだからもらっていくつもりだ」
「そうか、、地下の、、、猫流派の鎧、、、あれはお前の知り合いの物か?」
「鎧と剣だけで人物を特定するのは難しい、だがそれは怒らない理由にはならない、会ったこともないとはいえ、奴は俺達の同胞だ。」
「随分と仲間意識が高いんだな、猫流派にそういう考えはないと思っていた」
「俺たちを何だと思ってるんだ、、、」
「俺は、、、正直猫流派の連中を快く思ってない、、、正直ここらの連中の俺達に対する扱いはひどいもんだ。これも全て堕落したウィッチャーの責任だって思ってる。」
「その堕落したウィッチャーが猫流派だと?」
「割合はほとんど猫流派だと思ってるし、そう聞いている。お前達は中立である事を破棄したとも聞いている、非情な殺し屋だとも、、、それは俺達グリフィン流派にとって受け入れ難い事なんだ。」
「まぁ、お前の意見は正しい、、反論の余地もない、だから俺達は滅びた、、、お前達グリフィン流派は高潔な魂を持ち続け、未だ活躍を続けている、、、結果が示している通りだ。」
白髪の男はそう言うとジャッキを飲み干して机に叩きつけ、こちらを見据えた
「だがな、猫流派の連中は他のウィッチャーよりも感情がない残虐な連中だと言われているがそれは真っ赤なウソだ!」
「ほう、、、なぜそう言い切れる。」
「エーリエレンの決起ついて学んだか?確か1070年の出来事だ。」
「あぁ、知ってるぞ」
「、、、エリレナは当時虐げられたエルフ達を率いて反旗を翻した。だがそこにはウィッチャーもいたんだ」
「ウィッチャーとエルフが共闘したのか、、、!?」
「そうだ、そのウィッチャーの集団こそ、猫流派だ、、、俺達は住処を奪われたエルフ達を不憫に思って手を貸したんだ!虐げられた者を可哀想に思い、手を貸す、そんな奴らのどこに感情がないってんだ?」
「猫流派が中立を手放したのは、自らの考えで物事を見極め、俗世の連中が主張する正義というものに毒されない為だ!」
「、、、、それが間違いだった、、、、間違いだったんだぁ、、、、」
「エルフに手を貸した事で、猫流派は王族に嫌われた、、、王族に嫌われた俺達はあっという間に数を減らされた、、、」
「その後も、王族の美味しい話に乗せられて虐殺されたり、、、自らの私利私欲の為に動くバカな連中もいた事も認めざるを得ん、、、結局中立を破棄したのは間違いだったんだ、、、」
白髪の男は顔を覆い、項垂れる
酒が入っているからか、やけに感情的だった。
「、、、それが猫流派の壊滅の要因だったのか?」
「、、、『猫流派』のな、、、結局人間は、俺達ウィッチャーがどうしようもなく嫌いなのさ、、、、狼流派の話は聞いたか、、、?確か、、、1165年の事だ」
「ケイア・モルヘンの大虐殺か、、、」
「そうだ、、、それについてはあまり話したくないが、あの狼流派ですら民衆に殺された、、、中立を固く守り、仕事一筋の狼流派がだぞ!?、ただ怪物を狩っていただけなのに、、、!!」
白髪の男は拳を机に叩きつけるとヒートアップし始めた。
「口減しに子供を売ったのも捨てたのも奴らなのに!彼らの第二の人生を歩むチャンスすら奴らは潰した!!!」
「おい!!何してる!?さっさと酒を持ってこい!!瓶でだ!」
白髪の男は怒りのままに女性の店主に向かって叫び、空のジョッキを地面に叩きつけた。
側から見たら子供が癇癪を起こしているようにしか見えない、、、
周りの視線が痛い、、、
「おい、、、!落ち着け!」
「、、、クソッ!!ケイドウェンの連中は恩知らずだ!!この北方でも昔は怪物は見た人がいねぇって奴もいる程に珍しい存在だったんだ、、、!それがウィッチャーを虐殺してから怪物はまた人を襲うようになったんだとよ!それでまた俺達に助けを求める面の皮が厚すぎる連中もいやがる!!あんなやつら全員生きたまま怪物に食われちまえば良いんだ!!」
「、、、うぅ、、、もう何が正しいかわからないぃ、、、」
男は泣きながら運ばれてきた瓶を奪い取りラッパ飲みし始めた。
白髪のボロボロの黒い鎧を着た少年のような見た目のウィッチャーが泣きながら酒を飲んでる、、、
なんだこの光景は、、、、、
アルコールが少量入ってる事もあり、脳が混乱してしまう
(泣いてるウィッチャーなんて初めて見た、、、いや、そもそも酒癖悪すぎんだろ、、、それにしても、何でこいつは普通の酒でこんなに酔ってるんだ?ウィッチャーは酒ではあまり酔えない筈だ、、、)
「落ち着けって、な?もう過ぎた事だろ?」
「うぅ、、、」
俺は白髪の男を宥めながら椅子に座らせる。
「、、、お前達が最後のウィッチャーだ、、、死んでくれるなよ、、、」
「最後のウィッチャー?なんのことだ、、、?」
「あぁ、、、、んぅ!?うぐ、、、!ヤバい、、、!」
ドタドタドタドタッ!
その瞬間男は口を押さえて店の外に走っていった、、、
(なんなんだよ、、、いや、多分吐きに行ったんだろうけど、、、)
(それにしたって嵐みたいな奴だ、、、)
「ちょっと!お連れの方に言ってください!これ以上騒ぐなら出ていってくださいって!」
「、、、!?あぁ、すみません、、、伝えておきます、、、あ、水を二杯、、、いや五杯くらいもらっていいですか?」
女性の店主に怒られてしまった。
若いがハキハキとしており気が強い印象を受けた。
それにしても納得がいかない、、、
なぜ俺が怒られるのか、、、
しばらくして男が戻ってきた、、、
肩に少し大きめの袋を担いで、、、
「落ち着いたか、、、?ところでそれはなんだ、、、?」
「なんだとはなんだ、、、!お前の報酬だよ、、、!」
ガシャァンッ!
男は乱雑に袋を降ろすと、いかにも中身が詰まってそうな音がした
「さっき邸宅で分けた分か、、、ここで俺たちの分を分けるのか?」
「いいや俺はいらない、全部持っていっていいぞ」
(全部、、、!?こいつ正気か?)
「本当か?って顔をしてるな、、、あぁ本当だとも、、、俺の目当ての品は偶然にも手に入った、、、気分が良いから金は全部お前にやる」
「ダメだ、、、どのみちこの重量は馬に詰めない」
「まぁ待て、考えがあるんだ、、、」
男は吐いて少し酔いが覚めたのか、呂律が少しマシになってきている。
「お前の手持ちの金貨、それは全部ノヴィグラドにいってヴィヴァルディ銀行に預けろ、あそこは利息だけでもかなり良い、、、この大陸一の銀行だ。」
「それで金目のもんだけケイアセレンに持ち帰って売っ払え、、、そうすれば足もつかない」
「待て、、、それならあの使用人達は、、、?」
「もちろん大丈夫だ、お前なら奴らの事も気にかけるって思ってたぞ?」
「あの悪党、財宝の類はほぼ全て盗品だった、、、物を見ればわかる。どれも市場に出回ってないもんばかりだ、あの使用人達がこれから売る品物も、ギンターの物とはわからないだろうな、、、」
「それでも足がつく事はないがあの邸宅からウィッチャーが物を持っていったとどんな方向からバレるかわからない以上は面倒だ。慎重に慎重を喫して遠い地で売っぱらえ」
「、、、わかった、、、だが待て、さっきの話を続けよう、俺達が最後のウィッチャーだと言っていたな?他の流派の連中は?」
「ん?知らんのか?狼流派で生存が確認されてるのは3人だ。リヴィアのゲラルトがトゥサンでの事件以降半ば引退してからは他の狼ウィッチャーはほとんどトゥサンの近郊でしか依頼を受けない。ケイアモルヘンは今じゃもぬけの殻だ。数年に一度冬になるとそいつらが訪れる時以外はな」
『リヴィアのゲラルト』
その名前を聞いて否応なしに俺のテンションが上がる。
かの高名なダンディリオンを始めたする吟遊詩人達の詩で広く語り継がれるその伝説のウィッチャーは俺の憧れでもある、
(こんなところでその名前を聞けるなんて!)
「待て!、、、リヴィアのゲラルト、、、あの伝説のウィッチャーか!?あのトゥサンで上級吸血鬼を倒して、ワイルドハントをも討伐したっていう」
「あぁ、そうらしいな。」
「なぁ、その人に会った事はあるのか!?」
「いや、ないな、一度はお目にかかりたいもんだね」
「いや、、、!待ってくれ!白い髪、、、もしかしてあんたが!?」
「待て待て!違う!」
「そんなに否定するって事はもしかして、そうか!?英雄はみだりに人に正体を明かさないもんだ!」
「おい!落ち着け!あいつは狼流派だろ!?俺は猫流派だ!奴と俺じゃ、見た目が全然違う!一緒なのは白髪だけだ!」
「そうか、、、、っ!?待て!、、、なんでリヴィアのゲラルトの見た目を知ってる?見た目の違いなんか会ったことも無いならわからない筈だ、、、!それに間違いなく『奴』って言った!会った事がある人の口調だ!」
俺は気付けばこの白髪の男の肩を掴んで揺らしていた。
「、、、待て、、、また吐く、、、ノ、、、ノヴィグラド、、、」
「ノヴィグラド?」
「うぶ、、、オブェェェッ!」
バシャバシャバシャバシャッ!
(やっちまった、、、、、)
白髪の男は俺が掴んでいた為、間に合わず俺達の足元に吐いてしまった。
水だけを執拗に飲ませていた為、それをそのまま吐いてしまっただけで済んだがそろそろ女性店主が限界だ、、、
俺はすぐさま、白髪の男を座らせ、女性店主の方に向かい、拭くための布を受け取り、チップを多めに支払った。
それを受け取った女性店主はすぐさま上機嫌になり、態度も柔らかいものになった。
「うぅ、、、す、すまん、、、」
白髪の男が机にもたれかかりながら謝ってきた。
「いや、俺も揺らしてしまったしな、、、」
俺は彼の吐いた水を拭き取りながら返事をする。
幸い、彼が吐いたのは先程飲ませた水だけだったので処理には手間がかからなかった。
「、、、大丈夫か、、、?」
「あぁ、、、おかげさまで、、、」
男は項垂れながら力無く返事する。
「あぁ、、、さっきの話だが、、、もう他の流派は残ってない、、、全員死んだ、、、猫流派はここ10年で会えたのは2人、1人はウィッチャーを辞めて、1人は死にかけてた、、」
男は机に項垂れながらしんどそうに話を続けた。
「蛇流派はワイルドハントが死んでから消えた、、、まるで怪物がこの世から消えたウィッチャーみたいにな、、、」
「、、、奴らはワイルドハントの打倒を掲げて出来上がった流派なんだっけか?」
「そうだ、、、役目を終えたんだ、、、幸せに過ごしてる事を祈るしかない、、、」
「そうか、、、熊流派は、、、?」
「あいつらは、、、わからない、、、なんせあいつらのモットーは1人で生きて、1人で死ぬ、、、だからな。」
「だからもうお前達だけなんだ、拠点を持ち、依頼を受け、毎年冬に集まるような大所帯のウィッチャーは、、、」
「もうそんなにいないのか、、、ウィッチャーは、、、」
「あぁそうだ、、、、もうすぐ俺達の時代は終わる、、、いや、もう終わってるのかもな、、、」
そう言うと男は机に突っ伏したまま寝た、、、というより気絶した。
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「んが、、、、」
近くに気配を感じ、目を覚ます。
日の傾き方からして昼過ぎか、、、
「ちょっと、ウィッチャーさん」
「ん?」
「もう昼過ぎよ、、、これ、お連れの白髪の子が渡してって」
そういえば白髪の男がいない、、、
気配もなく消えたのか、、、
俺は渡された手紙を読む。
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グリフィンの若造よ
ウィッチャーと飲んで潰れるのは良くない、実に良くないぞ、なぜならこの界隈じゃさっきまでの仲間と飲み明かして、朝起きたら財布の中身が無くなってるなんて当たり前だからな。
もちろん俺はそんな事はしない
でもお前が寝た後少し酔い覚ましで店主と
カードゲームをしてみたんだがどうやら俺は依頼でツキを使い果たしたみたいだ。
そこでだ、、、美徳を重んじ、清廉潔白
多くの民から多大なる信頼と尊敬を獲得している
かの高名なグリフィン流派のウィッチャーに
頼る事にした。もちろんお前にだ。
これも何かの縁。
勉強代だと思って快く支払ってくれたまえ。
猫流派の凄腕ウィッチャーより
追伸
金貨をヴィヴァルディ銀行に預けるのを忘れるなよ
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「、、、、、店主、いくら勝った?」
「370クラウン」
あのクソチビが、、、何回負けたんだよ、、、
「あの子、5クラウンずつかけて14連敗もしてたわ」
「14、、、!?」
「あの子はお金、私はレアカードを賭けて勝負したのよ、だけどあの子すごく弱くて、、、勝てないってわかったらレアカードを300クラウンで買い取るって言い出したのよ、お金はあなたが払うともね、、、」
「あぁ、、、まぁいい、こちらを、、、迷惑料も含めて500クラウンです」
俺は袋から金貨を取り出し、女性店主に渡す。
当たり前と言えば当たり前だが袋と中身は無事だった。
誰かが盗ろうとすればすぐにわかるからだ。
「まぁ、、、!またいつでも来てくださいね!今度はお連れの方とではなく私と飲みましょう?」
「え、えぇ、喜んで、それではもう行かなければ、、、」
「まぁ、もう一晩休んで行かれませんか?今夜は私の家で、、、」
「急ぎの用がございまして、、、またお会いしましょう」
女性店主はこちらに色目を使うが、俺はうまくかわして店を出た。
勿体無い事をしたと後悔しているが、もう一日でも早くケイアセレンに帰りたい気持ちが勝ってしまった。
放浪で得た知識、経験、そしてなにより昨日の事を仲間に話したくて仕方がなかった。
袋を担いでノヴィグラドに入り、ある程度残して金貨を全てヴィヴァルディ銀行に預け、残った装飾品類の金目のものを馬に積む、袋はずっしりと重く、これだけでもそこそこの量だ。
金貨をほとんど全て預けたとはいえ、この分だけでも一昨日の俺の全財産より多い、、、今年の分の収穫だけでも、拠点に帰ったら皆んな驚くだろうな、、、
俺は金目のものを馬の鞍にしっかりと結びつけ、跨りると
急いで遠いポヴィスの地、ケイアセレンへと出発した。
トールは馬を急がせながらふと思った。
(あのウィッチャー、、、名前を聞いとけば良かったな、、、)