1287年 12月
遥か北の地、ポヴィス国とコヴィリ国の国境 山奥
ケィア・セレンにて
「コーエンの弟子!トールに!!」
「「「コーエンの弟子!トールに!!!」」」
今年最後の日、『道』から帰ってきたウィッチャーが集まり、祝杯を交わす。
今年最も稼いだ男の名がケイアセレンの城のホールに男達の声が響き渡った。
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遡る事二ヶ月前、10月20日
トールは己の家であるケイアセレンの前で物思いに耽っていた
(余裕で間に合ったな、、、)
少し前に降り始めた雪で地面は既に白く染まっているが、まだ3センチ程しか積もっていない為、トールはポヴィスの街に少し寄ってからケィアセレンへと赴いた。
城の入り口にかかる大きな橋には既に同じ流派の仲間達が往来していた。
グリフィン流派の拠点『ケィアセレン』では
山奥にも関わらず、人の往来は意外なほどに多く、数十人規模のウィッチャーが未だ健在だ。
11月、早くても10月に入ると多くのウィッチャーが放浪を終えてここに帰り、寒い冬を暖かく過ごす。
そして雪が溶け始める頃にまた旅立っていくのだ。
基本的にはグリフィン流派のウィッチャーの稼ぎは何に使うかのはその人の自由だが、意外にもこの城に寄付する者は多い。
それは自らの帰る場所を維持する為の手段でもあり、手っ取り早く尊敬と称賛を得る方法でもあるからだ。
そして、寄付された品々はコヴィリとポヴィスにそれぞれ均等に分配され、双方の王国から毎年決まった資金を貰うというものだ。
そして両方の国に面している事から護衛の仕事も数多く舞い込む為
ウィッチャー達は砦から離れる事なく一年を暮らせるのだ。
そしてここケィアセレンではなんと変異体のウィッチャー以外の多くの旅人が訪れる事も少なくない、ケィアモルヘンの虐殺以降グリフィン流派の年長者はこの砦の存在を隠そうとしてきた、、、しかしここ10数年は積極的に外界との交流を図っており、閉鎖的な環境は鳴りを潜めた。
当時トールを含めた子供達は砦の外の街に遊びに出る事すら許されていた。
そこで初めてトールは吟遊詩人が紡ぐ、リヴィアのゲラルトの冒険譚に触れたのだった。
閉鎖的な環境で人間と変異体を切り離すのではなく、理解してもらう。
知識を共有し人の為に役立て、敵を作らない事。
これは過去に知識の共有を拒んだ際に魔術師による嫌がらせによって起こされた雪崩によって甚大な被害を被った際の教訓である。
聡明なグリフィン流派のマスターウィッチャー『リウェリン』は
ウィッチャーの時代がもうじき終わる事を見透し、10年程前に新たな弟子を取る事をやめ、子供が城の中で剣を振る姿を見る事は無くなった。
しかしこの数十年のグリフィン流派の功績を耳にした大人達が子供をウィッチャーにしようとしたり、望まぬ子だからと押し付けられそうになる事は未だに絶えず、マスター・リウェリンは未だに頭を抱えているらしい。
グリフィン流派では騎士道、礼儀、倫理観、中立性、そして規律を学び
来るべき放浪へと備えるのだ。
(変異体である俺達が胸を張れるこの場所が誇らしい)
トールはそう思っていた。
馬を歩かせ城壁の中に入ると早速、顔見知りが挨拶してきた。
「やぁやぁ、トール!帰ったか!」
「やぁ、オーレン、、、!お前も帰ってきてたのか、、、!」
「2日前に着いたんだ!今は手が空いたから城門の開閉を任せられてる」
トールに声をかけたこの男の名前はオーレン、赤髪にウェーブのかかったロングヘアー、そして狐目が特徴的なトールの同世代のウィッチャーだ。
「そうか、頑張れよ!」
トールは軽い挨拶を済ませ、馬を厩舎に預け鞍から荷物を取り出し、内側の裏門に向かう。
城の中に入る前に受付に名前を言って出された名簿に帰ってきた日付を書く。
(5年ほど前に導入されたシステムだ、爺さん共はあまり好ましく思ってないが俺は気に入ってる、、、誰が帰ってきたのか一目でわかるからな)
そして受付の人と話し、稼ぎと寄付の内訳を決める。
ちなみにこの受付の人は毎年秋頃になるとコヴィリとポヴィスから何人か派遣される事務官だ。
「おかえりなさいませ、こちらに名前と日付をご記入ください。また、寄付の場合はお品物を出してお待ちくださいませ。」
トールは冬の間に換金して娯楽に困らない程度の品物をいくつかとって、袋を丸ごと事務官に渡す。
「これ、全て寄付でいいぞ。」
俺の言葉に事務官は目を丸くして、固まった。
「えっと、、、!トール様ですね、、、!かしこまりました!後ほど重量を測って記載しておきます!」
「了解、お疲れさん」
振り返らずに手を振りながら、トールは門に入った。
「おい、トール!?見てたぞ!?デケェ袋を担いで入ってきたと思ったらあれ全部寄付したのか!?」
城内に入った途端、トールは自分と同じくらいの背丈の大男に声をかけられた。
「全部じゃない、冬の間に楽しめる分はとってあるぞ、コエンラッド、、、、、久しぶりだな!」
トールはコエンラッドと呼ばれる男と固く握手をする。
この男の名はコエンラッド
トールと同世代のウィッチャーだ。
幼き頃から騎士道を体現し、トール達がまだ子供の頃は彼らをまとめ上げ、試練の突破に一役買った男でもある。
しかし、草の試練を生き残った際に負った後遺症は彼から戦士として必要なモノを奪い去ってしまった。
脳の障害を負い、左手の指が動かなくなったのだ。
しかし彼は真の狩人であった。
彼は軽量化した短刀を使ってフィーンドを1人で狩ると、彼を教育係として推薦した年配のウィッチャーを黙らせ放浪の旅にでたのだ。
左手には自ら考案した手首で作動する鋼の仕込み刀を装着し
背中には銀の剣を背負って
トールは同世代とはいえ、子供の頃から尊敬している友人に出会えた事を心から喜んだ。
「荷物を置いてくる、夜になったら街へ繰り出そう!」
「おう!、、、それと、トール!時間があるなら書斎へ行け!コーエンも帰ってきてるぞ!!」
「コーエンが、、、?、、、おっけー、、、」
トールの眉間に皺が寄る。
トールは書斎へ足を運ぶ、、、これから会う、、、会わなければならない人物は彼の師であり、父と呼べる存在、、、放浪の最中に何度も彼の教えを思い出すほど心に深く刻まれている存在、、、自らは師を深く尊敬しており、本当の父のように慕っていた、、、師もまたトールに深い思いやりと愛情を注いだ。
しかし、彼はいささかトールに干渉しすぎるのだ。
本当の父と呼ぶには血縁関係の証明が必要であるなら彼はそうではないのだろう。だが血縁関係が無くともそう呼べるのなら彼は間違いなくトールの父親だ。