ある放課後、涼一郎は同学園の女子生徒一名を拷問することになる。
拳、電流、火あぶり……。
その先に待ち受けるものとは??
少女を拘束して痛めつける短編リョナストーリー、開幕!
しかし後半は戦闘中心に展開します。
三年教室の扉をノックした。
「来たな涼一郎。入れ」
教室の中から、学生にしては渋い声が耳に入る。
扉を開けると、窓際の最後席で片足を机の上に載せた渡利さんがこちらを見ていた。人払いを済ませていたのか、教室には他に誰もいない。窓から射し込む夕日が空間を紅く染め上げ、渡利さんの猛々しい風格を余計に高めていた。
「御無沙汰してます」
「ふん、こっちに来い」
言われるがまま、俺は渡利さんの前まで歩く。しかし無秩序に置かれた机がバリケードの役目を果たし、足の踏み場を見つけるのにも苦心した。俺は体をくねらせながら前進する。
「長たらしい前置きは嫌いだから、単刀直入に言うぞ」
「何でしょう」
「おまえに受けてほしい任務がある」
「任務、ですか」
ようやく、机を挟んで渡利さんと向き合うところまで移動できた。
立っていると上から目線になってしまうので、俺はしゃがむことにする。
「俺のクラスに玲奈という女がいる。この前、そいつがあの磐里組の幹部だという情報を入手した」
「磐里組の幹部ですって!? 女が!?」
ありえない。
磐里組は、この馬鹿学園でもトップクラスの影響力を持つ不良集団だ。何十人もの組員で構成され、その行いは悪戯では済まされないものばかり。警察にも目をつけられており、この学園を腐敗させた張本人でもある。ドスの効いた屈強な男でなければ務まらないような役職のハズだ。
「愚か者! 声が大きい」
「す、すみません。けど、なぜ女がそんな重役に?」
「詳しいことは知らん。まず俺の話を聞け」
「……わかりました」
合点のいかない俺をよそに、渡利さんはカバンから一枚の写真を取りだす。
「こいつが玲奈だ」
写真を受け取る。そこには、体操服姿の女子が写っていた。瞳は憂鬱を帯びていて、細い黒髪も儚げに肩を覆っている。純白の体操服が似合う、この学園では珍しい美少女だった。確かに凛とした気品は見て取れる。年齢にしては肝の据わった顔だ。しかし、こんな清楚な女が不良軍団を指揮しているとはやはり想像できなかった。
写真をただ見つめていた俺に焦れたのか、渡利さんが話を続ける。
「明日は体育の授業がある。俺のクラスでな。そこで嘘の時間変更連絡をこいつに回すから、体育館で一人になっている所を拘束しろ」
「そういう嘘ってすぐバレませんか? 女って情報網広いですし」
「安心しろ。こいつには友達がいない。情報の真偽を確かめるなんてことは絶対にないと断言できる。連絡が玲奈にだけ回らないなんて、よくある事だ」
「じゃあ、体育館で一人という状況は何度も経験しているわけですか」
それなら、確実に騙せるだろう。自分を陥れる陰謀など疑わず、いつも通りに体育館で人を待つはずだ。
「そして玲奈を拘束した後、その授業時間中に磐里組の情報を聞き出せ。拒否されても吐かせろ」
「わかりました。洗いざらい吐かせて見せます」
「報酬は五万だ。期待してるぞ、拷問狂」
俺は立ち上がり、再び机の間を抜けて渡利さんの教室を後にした。
管理体制が崩壊したこの学園では、いくつもの不良集団が乱立し、戦略SLGよろしく戦争状態が続いている。どんな奴も表面的には普通高校生を演じているが、その裏では壮絶な乱戦が繰り広げられているのだ。そのためグループの重役などは頻繁に偽名を使う。戦いに勝つためには、敵グループの重役の本名を突き止め、要人襲撃を成功させることが重要だ。
俺が所属するのは渡利さんのグループだ。肘に巻き付けた赤のバンダナがその印。人数は九人と少なめだが、体力自慢が集まっており、影響力は中の上。かくいう俺も、学内屈指の拷問狂としてその名を知られている。偽名を使っているから、チヤホヤされる機会はないが。
※ ※ ※
翌日、午前十時五分。
校舎を出るや、真夏の暑さが体を覆ってくる。玉のような汗が体中から噴き出し、早く教室に戻りたいという感情が沸き起こった。
しかし俺には仕事がある。
俺は拘束具を解体するのに使うため、農作業で使うような巨大ハサミを持参して体育館へ向かった。
駐輪場がある体育館脇の窓から中の様子をうかがう。
中には体操服姿の女子が一名のみ。その顔を写真と見比べる。憂鬱味を帯びた瞳、さらさらと流れるような黒髪――――
「間違いない。玲奈だ」
他に生徒がやってくる気配はない。
俺は体育館入口へ向かい、ハサミを柱の陰に置く。
横開きの扉を開けると、前のクラスがバレーをしたのか、ネットを張るポールが立てられているのが目に入った。入口側の床は玄関側の一部が金属製になっていて、本来ならここで靴を履き替える。だが面倒なので、俺は下足を脱ぐと靴下のまま進入した。
同時に、こもっていた体育館の熱気が俺に追い打ちをかける。
俺が歩いていくと、玲奈がこちらに気づいた。
「君は……うちのクラスじゃないわね?」
「ああ」
「そっか。体育の授業が変更になって、今日は私たちがここを使う予定だったんだけど、……はあ、また騙されたみたい。誰も来やしないじゃない」
「磐里は何も言わなかったのか」
「彼はクラスが違うから。まったく酷い仕打ちよ。いい加減にして欲しいもんだわ」
落胆しているのかと思いきや、軽く言い流す玲奈。そんなものとは比較にもならない苦痛が待ち受けている事など、今の彼女には知る由もない。
「君は用事があって来たんでしょう? 邪魔して悪かったわね。私はもう行くよ」
玲奈は歩き出し、黒いハイソックスに包まれた足で、こちら=出口に向かってくる。俺は腰に備えていたスタンガンに手を伸ばした。
玲奈の方から、体育館中にバイブレータ音と効果音が鳴り響く。
玲奈はポケットから携帯を取り出して、いじり始めた。
携帯をいじっている人間の視野は、極端に狭まる。今日は運がいい。俺は足音を殺して玲奈に近寄った。
手を伸ばして届く距離まで接近する。
「……!?」
驚いた玲奈が顔を上げた。だがもう遅い。スタンガンから発せられた高圧電流が青白い閃光をあげて玲奈の腹部を突き抜け、その勢いは玲奈の軽い身体を数メートル後方へ突き飛ばす。
俺はスタンガンを持ったまま、右を向いて倒れている玲奈の顔をのぞき込んだ。前髪とこめかみが顔面を覆っていたが、荒い呼吸を続けている。たぶん五分ほどで目を覚ますだろう。
俺はスタンガンを腰に戻すと、玲奈をポールの近くへ運び、麻縄を取りに体育倉庫へ向かった。
※ ※ ※
拘束が終わる頃には、玲奈の呼吸も落ち着いてきた。
両腋とバストの上部、バストの下部、両腕とウエスト、ヒップの下部。四カ所を太いポールに縛り付けられ、身動きできないでいる玲奈。写真で見た顔も綺麗だったが、こうして直にみると随分な美貌だ。まだ汗が出て間もないのか、体中に石鹸の香りが漂っている。淑やかな瞳を閉じたまま、縄に挟まれた乳房を静かに上下させていた。上下二本の縄により、胸の大きさが強調される。体操服から露出した手足も白く透き通っていて、彼女を傷つけることに対する背徳感を募らせた。
もっと玲奈の体を味わいたい。モタモタしているうちに人が来ても厄介だが、この状況をすぐに終わらせては勿体ない。
ポールの背中側に回り込み、玲奈の乳房を手のひら全体で覆う。温かくて、優しい柔らかさが伝わった。髪から漂う石鹸の香りが俺の煩悩を更に刺激する。
俺は玲奈の胸を鷲づかみにした。体操服と共に揉まれる巨乳の感触が、俺を興奮させる。
俺は乳房を揉んでいた手をより強く動かした。その度に胸は大きく変形する。胸の動きと連動し、体の他の部分も揺れ始めた。と――――
「ひう!?」
玲奈が気絶から回復した。
そして、自分の胸を揉まれているのに気づいたのか、体を必死にくねらせる。だが、縛られているので動けない。
「お目覚めか、女番長」
「う……君は……さっきの?」
振り返って俺を見るや、目元を引きつらせ、疑念まみれの視線を向けてきた。
まだ意識は朦朧としているようだが、尋問を開始しよう。
「お前に訊きたいことがある。答えれば解放する」
「……え?」
拘束された状況から、俺の思惑を察したのだろうか。猥褻な行動が信頼を損なったのかも知れない。玲奈は一転、表情をこわばらせる。
「とぼけると言うのなら、身体に尋ねるほかはないな」
「何も言えないわよ」
一文に閉ざされた玲奈の口が、その決意の堅さを物語っていた。だが玲奈の思いなど、ここではどうでもいい。どんな残酷な手を使ってでも問いただすまでだ。
「磐里組のリーダーは誰だ」
「磐里」
「違う! 本名を言え」
「……」
何秒か待つが、返事をする気は無さそうだった。
俺は握り拳をつくり、後方に一メートルほど振りかぶる。
そして、玲奈の口元を狙って思い切り殴りつけた。
「うぐぅ!!」
俺は拳を戻す。手の甲には紅い液体が、べっとりと付着していた。無論、俺の血ではない。
こちらに向き直った玲奈の顔。その下唇から、血がドクドクと流れる。
「い……た……」
「効いたか。質問に答えないと、次は腹だ」
「誰が……あなたなんかに教えるもんか」
玲奈は涙目になりつつも、必死に強がっている。
「ふん、いつまで持つかな?」
俺は再び拳をあげる。玲奈は覚悟を決めたように目を閉じた。
腕が飛ぶように直進する。当たった相手に穴を開けんとばかりに風を切る。
再び、拳が玲奈に撃ちつけられる。
「ぐはぁ……あぁ!!」
俺の腕は玲奈の腹の内側に深くメリ込んだ。拳の延長線上にポールがあるようにしたのだから当然だ。玲奈の腹部は、後退して衝撃を和らげる事もできずに、潰された。
ズタズタに引き裂かれていた口の中から、さらに多くの鮮血が吐き出される。その激しさで、血液の一部が俺の服に付いてしまった。
「おいおい、どうしてくれるんだよ。血じゃなくて情報を吐けよ、クソ女」
だが玲奈はハァハァと呼吸したまま俯き続ける。腹で呼吸できないのか、胸を大きく揺らしながら。
「素手じゃあ観念しないってのか。じゃあ、こいつはどうだ?」
俺は再びカバンに手を伸ばし、テニスのラケット状の物を取り出した。枠はプラスティック製で、持ち手のところにはスイッチがついている。殺虫用の電気ラケットだ。
「……本気なの?」
「磐里の本名を言わないのなら、な」
「……くっ!」
普通、この手の殺虫ラケットには安全対策の網が張ってあるものだ。しかしこいつは改造品で、外側の網を取り外してある。よって電源を入れて枠内に触れるだけで大電流が流れるのだ。だがスタンガンとは異なり、こちらの電流は体内深くまでは届かない。その代わり、大電流が長時間流れ続けるようにしてある。自慢の拷問具だ。
俺は電源を入れ、玲奈の眼前で放電して見せた。
バチバチと音を立て、電光が起こる。
「汗だくの体は、よく痺れるだろうよ」
先ほどまでの攻撃に耐えた玲奈は汗まみれになっている。濡れた体は電気を通しやすい。薄い体操服なら、外からでも強烈な痛みを感じるだろう。
俺はラケットの網面を、玲奈の上乳に押しつける。
「あ、ああ、あああああ!!!」
殴ったときとは異なる、甲高い悲鳴が体育館中に響き渡った。黒髪を振り乱し、石鹸の香りが今まで以上に広く漂う。
やがて体操服は煙を上げた。白い煙と共に、化学繊維が熔けていく。
「ほらほら、裸にされたいのか?」
電気ショックに硬直する乳房の上で、体操服の破れが徐々に広がる。花びらが開くように、ベロベロと穴が拡大した。女子特有の柔肌が姿を露わしていく。
火花と共に出てくる煙が悪臭を放ってくる。体内に入れたくないレベルの臭いになったので、しぶしぶ網面を離した。
「あああ……かはぁ……」
ビクンビクンと痙攣している玲奈に、俺は尋問を続ける。
「心臓からは外しておいたが……。どうだ、吐く気になったか」
呼吸を整えようと足掻く玲奈の顔をのぞき込む。必死に隠そうとしているようだが、乱れ髪の下、瞳から涙を流している。
そして、玲奈は首を横に振った。
回答を拒否したのだ。
「殺されたいようだな」
このラケットでは力不足らしい。激痛を与えることはできるが、その効力は体表だけに留まるからだ。玲奈のように奇特なほど頑固な相手には、こちらも常識外れの手段を使うしかない。
俺はラケットの電源を切り、カバンにしまった。
代わりに出すのは、ガス缶付きのバーナーだ。
※ ※ ※
「何……するの……?」
さすがの玲奈も、怯えきった目に涙を溜めてこちらを見ていた。
「焼き殺す」
玲奈の顔から血の気が引いていく。顔面蒼白といった状態で数秒黙ってから、大粒の涙を飛ばして口を開いた。
「やめて! さっきから何なの!? 私を痛めつけてそんなに楽しい!? いい加減にしてよ!!」
この世の終わりのように絶叫する玲奈。もちろん、俺にはこの女を殺す気など全くない。そんな事をすれば貴重な情報源を失うことになるし、社会的にもよろしくない。
だが玲奈がここまで堅く口を閉ざすのなら、こちらも拷問者として気合いを入れなければならない。
「おまえが吐けばすむ話だ。これ以上は訊かない。磐里の本名を教えろ」
「あなたみたいな人に……彼の事なんて……仮に教えたところで、あなたなんかに殺せはしない」
「吐かないのか。なら、決まりだな」
俺はバーナーを点火し、玲奈に近寄る。玲奈は何とか逃れようと、必死にもがいた。だが麻縄とは頑丈なもので、太いポールと結ばれている玲奈を抜け出させる兆候はない。
俺はゆっくりと、炎を玲奈の左肩に近づける。
「い、いやだ……来ないで……?」
そして、首の付け根から二の腕上部に至るまで、肩全体を炎でなぞった。
「いやあああぁあああぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁ!!!!」
想像を絶する激痛に耐えかねたのか、玲奈は頭を天井に向けて声を荒らげる。五本の手指は限界まで開かれ、指の付け根から震えている。惨状が、左肩全体に起こっていた。
華奢な肩はその輪郭こそ保っていたが、透き通っていた柔肌が広範囲にわたって焼き尽くされている。服から皮膚までもが燃え、白かった体操服にドス黒い血液が染みていった。
「いや……やだぁ……うぅ……」
玲奈の股から別な液体が流れ出てくる。
尿だ。
ショートパンツの内側から流れた尿が、太ももを伝って黒いハイソックスに染みこんでいく。
「男の前で失禁か。汚い女め」
「あなた……許さない……から……」
俺は時計をみる。授業終了まであと十五分。渡利さんに報告する時間を考えると、ここで拷問を続けられる残り時間は十分ってところだ。
時間がない。始めに遊びすぎてしまったようだ。このまま拷問を続けるわけにはいかなさそうだ。
ここは尋問を諦め、歩けなくして体育倉庫の陰にでも放り投げる他はない。
動けなくするには、下半身にもダメージを与える必要がある。
俺は再びバーナーを点火した。標的は脚。
「死ねえ!!」
炎が尿に濡れたハイソックスに触れる。黒い薄布はいとも簡単に熔け、黒こげになる肌から再び血が流れてきた。
「がはああああああ!!……ああぅ……」
しかし間もなく反応が途絶えた。俺は慌てて炎を消し、玲奈の顔をのぞき込む。
虚ろな目をどこかへ向け、全身の力を失っている。
「くそ!」
俺は今まさに燃やしかけた、玲奈の脚を蹴飛ばした。
破壊した相手を回復させるような道具は持ってきていない。
俺はガスバーナーをカバンにしまい、麻縄を切るための農業用ハサミを取りに体育館を出る。
※ ※ ※
「ん? ハサミがない」
信じられないことが起こっていた。全長一メートルはあっただろう巨大ハサミが、体育館入口から消えていたのだ。
「誰かが持って行ったのか?」
こんなハサミを使う用事なんて限られているだろうが……。
仕方ない。体育倉庫で使えそうな道具を探すため、俺は体育館に入る。
と、次の瞬間――――
「貴様、俺の彼女に何をした!?」
怒鳴られたかと思うと、後ろから棒状のもので背中を殴られた。あまりの衝撃に一瞬よろめくが、俺もヤワじゃない。反転しつつ間合いをとり、相手の姿を確認する。
「何だ!?」
敵は走ってきたのか呼吸が荒いが、ガタイのいい男。イカつい目と筋肉質な体は、この学園裏社会で勝ち抜くにも十分そうなほどの迫力がある。その威厳は渡利さんをも超えていた。
「お前は、磐里なのか」
敵の右手には、俺が用意していたはずの巨大ハサミがあった。さっきはその柄で俺を殴ったらしい。
「いかにも、磐里だ!」
なるほど威厳があるわけだ。お会いできて光栄だ。
手間が省けたのか、面倒なことになったのか分からない。玲奈の拷問は失敗だったが、磐里の面は割れたのだから今日の目的は達成された。このまま帰れれば渡利さんは任務成功を認めるだろう。しかし今の俺を磐里がタダで帰すとは思えない。
こちらには武器もある。戦うことは不可能ではないだろう。だが電気ラケットもガスバーナーもスタンガンも、奴が持っているハサミに比べるとリーチが短すぎる。
さて、どうしたものか。
「玲奈を呼んだのに来なかったから、怪しんで探していたのだ。そしたら案の定こんな事に……。俺の彼女を傷つけた罪は重いぞ」
「あの女、お前の彼女だったのか。道理で贔屓されるわけだ」
「貴様……殺す」
磐里は全身から怒りのオーラを出し、こちらを睨みつけた。
そして足を持ち上げ、靴と靴下を脱ぐ。
裸足になった磐里が、格闘の体勢をとってきた。
俺が逃げてもすぐに追いつくだろう。だが牛のような存在感でこちらへ近づく磐里を前に、俺はただ後退することしかできない。
敵には隙がなかった。
「逃げているだけか?」
磐里の顔が本気モードになる。両肩をいからせ、力を溜めた。
次の瞬間、一気に走り出して俺に飛びかかってくる。今度はハサミの柄ではなく、刃を向けて。
俺は咄嗟の判断で、腰のスタンガンを両手で構えた。
ハサミとのツバぜり合いで、防御を試みる。
「うおぉ!?」
想像を上回る衝撃で、手元からスタンガンが離れかけた。俺は何とかスタンガンを握り直し、力を振り絞る。 かろうじて、振り下ろされる刃に抗うことができた。
「ふん、いい判断ではあるな」
対する磐里は未だ余裕の表情で、敵を引き離すのが精一杯の俺とは大違いだ。
まずい、このままでは負ける。
何かリーチの差を克服できるものはないか?
「次、いくぞ。今度は耐えられると思うな」
再び攻撃態勢に入る磐里。俺は拘束してある玲奈の近くへ走る。
「死ねえ!!」
磐里が両腕でハサミをつかみ、ジャンプして襲ってくる。俺は間一髪、玲奈の陰へ。
ポールの反対側に転がり込んだ俺が見たのは、俺の拷問を凌ぐ凄惨な光景だった。
――――グチャ。
不快で生温かい音ののち、磐里のハサミから大量の血液が滴る。
ハサミの刃が、玲奈の尻に突き刺さったのだ。
「ああああああああああああああ!!!!」
激痛のショックに意識を回復させられ、また玲奈の絶叫が響く。
自分の行為を恐れたのか、肩を落として呆然と立ちつくしている磐里。
玲奈には悪いが、攻撃の好機だ。
「隙あり!」
俺はスタンガンを磐里に向け、駆け出す。
しかし敵の無慈悲さは俺の想像を超えていた。磐里は反射神経の赴くまま、玲奈の尻から乱暴にハサミを引き抜いて俺の元へ向ける。
尻の傷を無理矢理に広げられ、玲奈は一層ヒステリックに叫んだ。
磐里は喘ぐ玲奈を完全に無視し、戦闘態勢に入り直してしまう。
「卑怯者めが!」
スタンガンを磐里の顔に当てようとした、まさにそのとき。スタンガンは磐里のハサミで弾かれ、体育館入り口まで滑って行ってしまう。
「くそっ」
しかし悪いことばかりではない。ある策が思い浮かんだ。
スタンガンの転がった先に目をやると、そこは靴履き替えスペースの直近だった。金属製の広い床面。
金属床、裸足の敵、スタンガン。この三つが揃っている以上、俺には必殺攻撃の手段が残っていたのだ。
金属床におびき寄せての、床を介した電気攻撃。磐里に勝つには、これしかないだろう。俺は天才らしい。
「どうした、降参は許さんぞ? 玲奈と同じ痛みを味わせてやるのだからな」
「遊びは終わりだ。来るなら来い。返り討ちにしてやる」
「……!?」
冷静な声で言ってやる。
俺は体育館出口に向かい、全力で疾走した。
「ふん、口だけ達者になりやがって。逃げはさせんぞ」
「勝手にしろ」
磐里は鬼の形相でこちらに迫ってきた。
俺とスタンガンの距離は残り十メートル。
残り五メートル。
一メートル。
……よし、スタンガン復活!
「武器を取り戻したのか。だからって何ができる。また弾かれるだけだぞ?」
「残念だが、お前の馬鹿頭では想像できないだろうよ」
「この野郎……!!」
ついに磐里が飛びかかってきた。
俺は飛び込み前転で金属床を越え、磐里の方へ向けてクイックターンする。
予想通り、磐里は俺の眼前に着地しようとしていた。
俺は刃の軌道を横転びで回避する。
そしてスタンガンの先を金属床に押し当てた。
その床上に、汗で濡れた磐里の足裏が触れる。
……すべてが、スローモーション映像のように見えた。
「ぐはぁああぁあぁああああぁぁ!!」
――――ドサァッ
高圧電流が足裏から脳天までを走り、磐里は気絶して前方に倒れ込んだ。
力なく倒れた磐里の姿からは、もはや磐里組代表の威厳など感じられない。
「ゆっくり寝てろ」
俺は下足で磐里を蹴り、仰向けにさせた。
俺は磐里を倒したのだ。
俺は携帯で磐里と玲奈を撮影し、写真を渡利さんに送った。
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。