ダンまち 静寂IF 作:ショタ、コン?
アイズは変な気分だった。彼女もロキ・ファミリアとして獅子奮迅の活躍をしてきたと言えるだろう。そんな彼女が知るダンジョンの光景は60階層まで。その60階層も団員の皆が死に物狂いで到達した結果だった。
だが彼女は今、ギルドが強制的に課している合同遠征に参加しており、立っている場所は64階層。五体目の階層主を倒した後に与えられるセーフティーゾーンで様々なキャンプが作られてファミリアごとに区画を分けて休んでいる。
そもそも50階層までが早かった。いつもはバロールで苦戦することや、その道中でモンスターの排除に時間がかかるが見付けた瞬間にベルとリリ、そしてフレイヤ・ファミリアが獲物を見付けたと言わんばかりに速攻で片付けていった。指揮とか隊列とか関係なく、感知した者勝ちとでも言うように競争のように狩られていった。
それはバロールも同じで、いつもならフィンの指示で周りのモンスターを倒してからバロールに集中するという段階を踏むのに、フィンが指示を出すよりも速くフレイヤ・ファミリアがバロールへ殺到して邪魔をするわけにもいかないと他のファミリアは周りのファモールを倒すことしかできなかった。
その好き勝手さにフィンが抗議をフレイヤ・ファミリアに入れたそうだが取り合われなかったようだ。その際の回答が以下だという。
「合同遠征はいつから歩幅を合わせるものになった?ギルドのオーダーは最高階層の更新だ。それ以外は全て些事だろう。ならば獲物は早い者勝ちだ。時間を無駄にするくらいなら少しでも糧にする。我らが最強に返り咲くには強制の時間も有効活用しなければならない。全員が平等に、などという幻想は捨てろ。今のペースについて来られない者は捨て置け。そんな奴はこれ以降の探索に邪魔なだけだ」
50階層を帰りの補充拠点にするという意味もあって50階層に残った者も多い。地上やリヴィラを往復するためにある程度の強者が残る必要があり、レベル五以上もそれなりに50階層に残った。
51階層からは本当に選抜された者だけが潜ったが、ここでもフレイヤ・ファミリアのハイペースな攻略に巻き込まれた。あくまで通過点とでも言うべき進軍速度で、これについて来られたのは実力のあるロキ・ファミリアの幹部達と、潜り慣れているアストレア・ファミリアだったからだろう。
後はガネーシャ・ファミリアの何人かと、ヘラ・ファミリアのたった八人だけ。フレイヤ・ファミリアだって精鋭しか残らず、サポーターなんて不要とばかりに、攻撃は最大の防御と示すように全てを喰らい尽くして進軍していった。魔石やドロップアイテムの回収も最低限に、むしろそんな嵩張る物を持つくらいなら壊した方が良いと魔石は積極的に破壊していくスタイルだった。
これでは収支が釣り合わないと頭を抱えたフィンだったが、モンスターを倒しているのはフレイヤ・ファミリアなのにロキ・ファミリアが拾い物ばかりしているのも格好がつかないと彼らも殲滅に手を貸した。
そして先程まで階層主であるヒュドラと戦い、それこそ総力戦を尽くして全員がその疲れを癒していた。
まさしく激闘だった。全員が力を合わせての勝利と言えるだろう。アイズのスキルが相性良く竜種への攻撃力増加も相まってヒュドラによく効いた。ヒュドラを倒した時にはロキ・ファミリアの面々で喜び合ったものだ。
その興奮も冷めやらず、一度眠りに就いたものの目を覚ましてしまったアイズは初めて来る64階層を探索していた。未知の場所であり、水が割とある場所のようで、これは調査をしたようで飲める水のようだ。これは持ち運ぶ飲み物を減らせることから遠征にはありがたいことだった。
そうしてあまり人のいないエリアを歩いていると、金属がぶつかり合う音が聞こえた。もしや襲撃かと腰に差したデスペラードに手をかけて慎重に歩みを進めると、その金属音を響かせていたのは三人の人間だった。
一人はフレイヤ・ファミリアの団長であるオッタル。レベル八に到達した、最強と目される冒険者の一人だ。そんな最強と戦っているのは誰かと見れば、そこにいたのはベルとリリだった。
三人ともヒュドラ戦で活躍していた冒険者だ。今日も存分に戦っていたのにまだ戦っていること、そして二対一だというのに拮抗しているように見えるのはどういうことか。
二人の本当のレベルが五で、しかもスキルや魔法によってレベル以上の力を出せるのは周知の事実だ。だがそれでもレベル八は別格。レベル一つの差が大きいと言われる恩恵のシステムで、いくら自己強化の能力があろうとレベルが三も違う相手には本来敵うはずがない。
だというのにベルとリリは交互にオッタルへ斬りかかる。その技量が劣っているとはアイズの目からしても見えなかった。むしろ技量は自分達に匹敵、もしくは超えているとさえ感じられた。
その技量はヘラ・ファミリアで鍛え上げられたのはもちろんのこと、こうして何度も様々な強い人との勝負を遠征の度に繰り返していることで技量が上昇している。ロキ・ファミリアとの戦争遊戯の前にも様々な人物と戦っていたが、少人数戦ばかりやっていたので集団戦では間に合わなかった。
リリはそのおかげで強化されたフィンとやりあえた。ベルが複数のレベル六と戦えたのはアルフィアの扱きとこの戦闘訓練、あとは純粋なステータス貯金のおかげだ。
オッタルはパワータイプと思われがちだが、技量も相当に高い。そこに力が合わさって最強と呼ばれていたのだ。
三人の稽古というか、模擬戦はオッタルの勝利で終わった。いくら有望株二人の連携を持ってしてもオラリオ最強の一角にはまだ勝てないようだった。ベルはすぐに立ち上がってお礼を告げる。
「オッタルさん。わざわざ稽古をつけていただきありがとうございました」
「礼には及ばん。お前達とは戦ってみたかった。それに借りもあるからな。こんなことで返せるなら本望だ」
「強い方と戦えるだけでこちらとしては利益があります。……ザルドさんがベヒーモスの毒で亡くなったと、その情報提供だけでフレイヤ・ファミリアの方とこうして戦う許可をくれるのは、釣り合っていますか?」
「十分だ。それに【静寂】にも借りがある。……黒竜を倒すのは俺だ。そしてあの方をもう一度、頂点へ抱え抱く」
「はい。その考えを持っていただければ、僕達は何も言いません。次の階層主も頑張りましょう。じゃあ、お先に失礼します!」
「失礼します、オッタル様。いつかあなたにドギツイ一撃を与えてみせます」
「ふ。待っている」
ベルとリリは頭を下げてオッタルから離れていった。アイズが隠れている場所とは違う方向だったようで彼らとすれ違うことはなかった。二人の姿が完全に見えなくなったところでアイズが岩陰から出てオッタルへ向かう。
「【剣姫】か。お前も興奮して起き出したようだな」
「そんな、ところ。……教えて、【猛者】。どうやってあなたはレベル七の壁を超えたの?あの二人は、何?」
「別派閥のお前に教えることではないが……。今日の俺は気分が良い。壁を超えたのは簡単だ。『穢れた精霊』をファミリアだけで倒した。歓楽街のやつだ。アレがレベル八相応だったらしい。俺達だけで二体を討伐したためにランクアップした者が大量に出た。それだけのことだ。名目上はダンジョン攻略になっていたが、キッカケはそこだ」
「っ!」
ロキ・ファミリアが出遅れた事件だ。というより、本拠が襲われたためにそちらの対処をするしかなく、歓楽街の凶悪なモンスターを倒すことができなかった。ファミリアで死傷者も出た痛ましい事件の裏でオッタル達は強くなっていたらしい。
アイズの中の小さなアイズが「ズルい!」と叫んでいた。いっぱい悲しくなって、得られたものが何もなかった事件の裏でライバル達は強くなっていた。そこで実力を開かれたことにアイズは納得ができなかった。
突如として帰ってきた昔のトップファミリア。いつの間にか強くなっていたライバル派閥。自分達だけが置いていかれている感覚が、まるで父と母を失った時のように感じてアイズは疎外感を感じていた。
「あとはあの二人か。……俺も知ったのは最近だが、彼らは【暗黒期】の被害者だ」
「……え?」
「人身売買を行う卑劣なファミリアがあったようだ。そこの被害者とだけ、フレイヤ様から聞いている。つまり彼らは一度奪われた敗北者であり、そこから這い上がってきた強者だ。あの歳でここまで登りつめたのは驚嘆に値する。……我が女神の派閥に欲しかったが、それは栓なきことだな」
「敗北者であり、強者……」
アイズは似ていると思った。両親を失い、そして冒険者としては一流と呼ばれる自身に。
彼らの何が惹かれるのかわからない。それでも彼らのようにありたいと思うことはおかしなことではなかった。
彼女も黒竜を倒したい。そしてそれは悲願でもある。
聞けばヘラ・ファミリアの懇願も黒竜討伐だという。ならそこに向けてオラリオが躍進していることは良いことだと、アイズはホクホクになりながら帰っていった。
その後の遠征でアイズは配置が近かったこともあり、ベルとリリに話しかけるようになる。別派閥の人間に話しかけるのが珍しいというかほぼ皆無だったためにその様子を近くで見ていたリヴェリアは人生の中で最も目を見開いた瞬間だった。
長々と話して、二人と話せたことで隊列に戻ったアイズは近くにいたティオナに話しかける。
「珍しいねー。アイズが【
「うん。この前すっごく強かった、から。どんな訓練してるか気になって……」
「わかるわかる!あの二人強いもんねー。この遠征でも見てたけど、立ち回りが上手いよ。視野が広いのかな?」
「集団戦は、常に意識してるって。こういう遠征もそうだけど、一対一の状況なんて滅多にないから、ヘラ・ファミリアでは必ず味方の位置を把握する訓練をしてるって……」
「ウチも連携の訓練はしてるけどさ。味方の位置を把握してるのって後衛の人だけだよね。というか、フィンとかラウルの指示任せ?フィンがああいう魔法を使う場面はこれからも増えるだろうし、あたしら単体でも強くなんないといけないしさ。やることいっぱいだよねー」
「うん。強くならなくちゃ……」
65階層まで来られた時点でロキ・ファミリアとしてはかなり進んだのだ。だがフレイヤ・ファミリアの話を聞く限り彼らはもっと奥まで進んでいる。ヘラ・ファミリアはもっとだ。
そういう差を感じてロキ・ファミリアの意識向上に繋がる。初めて来る階層に心を震わせ、更には今まで戦ったことのないモンスターとも戦い、知識も経験値も上質なものを得ていた。
そんな感じでベルとリリと交流をしていたアイズとティオナだったが、気付いたら二人と話している冒険者が多い。それも女の冒険者ばかりだ。ヘラ・ファミリアの眷属はもちろん、アストレア・ファミリアの眷属まで。特にリューとアリーゼのベルへの距離感が近いように感じた。
とも思えばベートが話しかけていたり、【
ただ会話ができたのは66階層まで。ここからはロキとアストレア・ファミリア、それにガネーシャのところも未体験のエリアで存分に動けたのはヘラとフレイヤ・ファミリアだけ。レベル四ではこの奥深くの階層は厳しいと言われていたために64階層で待機していて遠征追従組は全員がレベル五以上だったが、通常の敵がレベル六以上で更に徒党を組んで来るためにここからは進軍速度が一気に下がった。
方針としてもダンジョンの探索をするのではなく、次の階層主を倒すことに主眼を置いているため出来る限りの近道でどんどん階層を下っていくが、69階層辺りで慣れないレベル五の冒険者達に疲労が見え始めた。
ここで今まではほぼ動かなかったアルフィアが嘆息を一つしてから魔法を用いて周囲のモンスターを一掃した。
「ここまでだな。オッタル、貴様らの損害は?」
「回復薬はかなり消耗したが、脱落者はいない。当初の目的通りで大丈夫だ」
「貴様が無理をする前提ではないな?」
「ああ。足を引っ張ることはないと、我が女神に誓おう」
「よし。次、シャクティとアリーゼ。状況を報告」
「すまない、無理だ。足を引っ張る」
「私達もげんかーい!今もフレイヤ・ファミリアとヘラ・ファミリアに負んぶに抱っこの自覚が大有りよ!こんな美少女が失われるのは世界の損失だわ!もちろん仲間のみんなもね!」
「「「イラッ☆」」」
フレイヤ・ファミリアはまだ余裕がある。
ガネーシャとアストレア・ファミリアは限界。負傷者はそういないが、かなりのレベルで疲労が蓄積している。帰ることを考えたらこの辺りが限界だと、両団長は判断していた。
なお、美少女と宣った団長に団員達が声に出してイラつくのはいつものことである。
「最後。フィン」
「……人員は、問題ない。いや、君達にかなり下駄を履かせてもらっている、と言うべきだね。物資の消耗が激しい。ウチもこの辺りが限界だ」
「だろうな。ヘラ・ファミリアは余裕があるが、限界の者を庇いながらこれ以上の進軍は無理だ。オッタル、前と後ろを選べ」
「前だ。全てを殲滅してやる」
「任せる。我らが横と後ろを受け持つ。存分に暴れろ。ベル、リリルカ!殿を任せる。後動ける者は各団長が判断して横と後方につけろ!限界な者は中央へ、帰還する!遠征は失敗だ!」
「失敗……?つまり君達は、もっと奥まで踏破したと?」
「大人数が良いとは限らないぞ、【勇者】。この階層に来るには突破力が足りな過ぎる。レベル七がせめて五人必要だな」
それがアルフィアの所感。余裕がある人間とない人間の差は純粋にレベルと慣れだ。
ヘラ・ファミリアとフレイヤ・ファミリアに余裕があるのは慣れが大きい。彼らは六体目の階層主に挑もうと何度も遠征をしてきた。他のファミリアの有力者が集まる今回ならばと思ったが、またお預けのようだ。
まだまだ力がいると、誰もが痛感していた。
「やはり効率が良いのは63階層までだな。それかバロール周回だが、これは照らし合わせないと無駄骨になる。63階層までならたとえヒュドラが復活していなくても十分な経験値が貯まるだろう。今後はこの方針で行くべきだ。冒険はすべきだが、貴様らを失う方が痛手だ」
「それは、評価してくれていると取っても?」
「好きにしろ。黒竜を消せるなら解釈なんぞ犬にでも喰わせてやれ。帰るぞ」
遠征は失敗に終わり、だが死者は誰も出さずに安全に帰ることが出来たとなると遠征としては収支はプラスになった。ヒュドラ討伐に参加したことで殻を破れた者が多く、手に入った深層の魔石やドロップアイテムはかなりの高額となり、武具の新調や消耗品の補充などは十分に賄えた。
有力な冒険者が死ぬ方がギルドにとってもヘラ・ファミリア的にも損害なのだ。冒険者の損失0というのはかなり偉大な結果だった。第二軍の方の遠征でも37階層を突破したようで成果としては十分。新階層の踏破という目標としては失敗だが、経験を積むという意味では大成功に終わる結果だった。