※この作品はR-18です。

海のハーレ~海の国の男装王女は押しかけ補佐官(婿)に溺愛されてます~   作:露草ツグミ

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第三話 海のハーレ

「ええっと、今日はアーランド記三六六九年六月目(むつきめ)二十日……」

 

 照りつける太陽にどこまでも青く透き通った海。

 船の航路から外れたセレイナの沖合いに、珊瑚の骨から成る白い弧島が出現した。──約半年ほど前のことである。

 

 食事とおやつの間に私がぐるりと一周歩いて回れるくらいの小さな浮島は、海に投げ出された丸太のように海上にぷかぷかと浮いている。

 寄せては返す波に流されることなく、常に同じ場所にある。

 

 珊瑚島の中央には広い屋敷が建っている。屋敷は円い形をしており、中庭には海水に満たされた池が点在する奇妙な造りをしていた。島の下半分ほどが海に浸かり、中庭の池からは水路を通って直接海に潜ることができる。

 

 屋敷の主は海の国の王族、エフィネティア。大陸での名前はナナリー・ペルセポネ・ヘル。

 

 ここは陸の国々が海の国と直に接することができる唯一の場所。通称、海のハーレと呼ばれている。

 私は海の国の王族の一員として海のハーレの責任者に就任した。

 

 

 *

 

 

 陸の時間で一年と少し前、海の国とドーランの同盟の証を預かった両親がドーランに一時帰国した。

 

 シュテーダルを破壊した後、私は大陸では救国の聖女と称えられているらしい。何ともこそばゆい賞賛である。

 このままではドーランのハーレに戻って普通の生活を送るのは難しく、ほとぼりが冷めるまで公にはナナリー・ヘルは海の国で眠り続けたままということにした。

 

 ドーラン王からシュテーダルを破壊した褒章に百万ペガロと何かひとつ願いを叶えてもらえる権利を賜ったが、お金は私の口座に入れてもらい、願い事は特に思いつかないので保留中である。

 

 ハーレは所長権限で仮の休職扱いになっていてた。ゼノン王子がシュゼルク城に所長を呼んでくれたので、両親が私のかわりに休職届を出して寮を引き払う手続きをした。寮の荷物はゼノン王子から頼まれたニケが纏めて実家に届けてくれたという。ニケは騎士団の仕事として私情を挟まずに責任をもってやってくれたそうである。

 

 両親は目立たないように行動しているため、ニケと直接顔を合わせることはできなかったのだが、隠蔽の魔具を使ってひっそりと実家に届けられた荷物にはニケやベンジャミン、マリスからの手紙も入っていた。

 ドーラン王の書簡にはゼノン王子からの手紙が添えられていた。

 

 皆の手紙を読んだ私はボロボロと泣いてしまい、もう目が覚めたことにしてドーランに戻ろうかと思ったくらいだ。

 しかし、ニケやゼノン王子からの手紙に人型に化けた魔物が現れたという話や、騎士団では魔物の動向に危機感を強めているという話が記されてあって、当分ドーランには戻らないほうが賢明だと書いてあった。

 

 私が両親と海の国にいる間にも陸では相変わらず魔物が現れ、季節は巡り、月日が過ぎていく。

 

 ウォールヘルヌス以降、海の王のもとにはセレイナから定期的に使者がやってきて、海の国はセレイナを通じて大陸と交流を行っていた。しかし、ドーラン以外にも海の国と同盟を結びたいと申し出る国はたくさんあり、仲立ちになるセレイナの負担になってしまった。

 今後も海の国が大陸の国々と協力していくなら陸との窓口になる専門の機関を設立するべきだと私が提案し、珊瑚島が作られることとなった。

 

 窓口となる機関の長に誰がなるかと話し合いをしたところ、満場一致で私が選ばれた。おじい様の重鎮の誰かがなると思っていた私は仰天したが、両親も叔父様も私が適任だと言い、おじい様が穏やかに頷いて決まってしまった。

 

 ちなみに、おじい様はこのような会議に出席してもほとんど発言しない。おじい様は過去、現在、未来を見通す力を持っており、会議の行方もきっとご存知なんだろうけれど、私たちがやることに口を挟むことなく静かに見守ってくれる。

 

 エフィネティアという海の国の名前を付けてくれたのもおじい様である。

 ナナリーという名前を捨てたわけではない。陸に、ハーレに戻りたいという焦りはあるけれど、海の王の孫としての義務を果たすべきだとも思っている。

 

 

 *

 

 

 珊瑚島は海と陸の間(はざま)にあり、ここでは海の魔法も精霊の魔法も両方使える。宮殿のある海の底と違い、時の流れは陸と変わらない。

 

 暦に関してはアーランド記を採用しているものの、月の数え方は季節に関係なく新年から数えて一月目、二月目……と順番に数えることにしている。

 セレイナの暦を使うことも考えたが、大陸のどこの国にも与(くみ)しない中立の場所として、どこかの国の暦を使用するのは避けたのである。

 

 海のハーレの正式名称は海の国の言葉で「海と陸を繋ぐ家」という意味を持つ。何とも素朴な命名である。

 大陸の国なら外務局とか海陸協力機構とか名付けそうなものだが、叔父様がいうには堅苦しい名前をつけないほうが海の国で通じやすいそうだ。

 

 父と母がセレイナ王にこの機関の説明をしたところ、王様が「海のハーレのようなものか」とおっしゃり、以来「海のハーレ」という呼び方が定着してしまった。

 

 

 海のハーレの責任者、エフィネティアは対外的には王子、すなわち男だと思われている。

 海の国では皆嘘をつかない。だから性別を偽るというのは褒められた行為ではないのだが、男の格好をして男だと勘違いされるのは嘘ではないからギリギリセーフだ。

 

 女性と公言してしまうと、ナナリー・ヘルとバレる危険性が高いし、人魚のお兄さんたちの護衛がたくさんいるとはいえ、各国の使節団を相手にするには若い女性よりも男性にしておいたほうがいいと父が強く主張した。私も父の意見に賛成である。

 

 叔父様は海の国の者たちは嘘をつかないと最後まで引かなかったが、私が試しに父の服を借りて男装をしてみたら男にしか見えないと黙ってしまった。そんなわけで男装で通すことにした。

 

 人魚の色っぽいお姉さんたちに囲まれていると、体はぺったんこ、色気もさっぱりの私は十代の少年に見えるだろう。

 

 

 海のハーレが始動して約三ヶ月。

 最初にやって来たのはセレイナの使節団だった。そして今日、ドーランから使節団が訪れる。セレイナとはそこそこ距離があるし、内陸国だからもっと後だと思っていたのに。

 

 私は暦を確認すると鏡の前に立った。白いシャツの襟元にチーフを巻く。かっちりとした大陸の貴族男性風の服を着て、水色に戻った髪は後ろで一つに纏めている。

 海の中では気づかなかったのだけれど、瞳は碧色からさらに明るくなり、光の加減で虹色に見えるときがある。二枚貝の内側みたいな虹色は神秘的で、髪の色を変える魔法で髪も瞳と同じく虹色にすれば海の国の王族っぽさが出ると思う。

 

 念のため海のハーレの執務棟には私が男に見える暗示の魔法をかけてある。この暗示は、正確には秘書やメイドを務める色っぽい人魚のお姉さん以外は男に見える、というものだ。海の魔法だから陸に戻れば効力は消えるが、珊瑚島にいる間は精霊の魔法で解除することはできない。

 

 鏡に映る自分の胸元に手をあてて深く息を吐き出した。

 

 私の名前はエフィネティア。海王様の血縁で、海のハーレの責任者。

 仕事が始まる。ここは海と陸を繋ぐ場所。

 大陸の人々だけでは手に余る問題を、海の国の知恵と魔法で手助けする、私はその受付嬢なのである。

 

 





説明回です。読みにくかったらすみません。説明って難しいですね……。
ロックマンのロの字も出なくてごめんなさい!
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