水本ゆかりさんが、レズ痴漢から快楽堕ちさせられまいとがんばります。

※はじめに
できればシンデレラガールズ劇場第785話、同わいど☆第399話を先にお読みください。
「ロキ」と「ドラ子」は「堕ちる果実」第2話を参考にしました。

有償依頼85件目です。ご感想くださるとうれしい です。
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20240915追記
下記の通り修正しました。
「金管楽器の奏者として常ならぬ温度や湿気がどうにも気になる。」→「楽器の奏者として常ならぬ温度や湿気がどうにも気になる。」


水本ゆかりさん、偽ちとせ・偽蘭子にレズ痴漢されてしまう

 The secret of secrets; Thou that workst them, be secret in them.

(秘中の秘にて、彼らを動かす汝は彼らのうちに秘せよ)

 

――レジナルド・スコット訳のヨハン・ヴァイヤー『悪魔の偽王国』悪魔のリストの終わりに

 

 

※

 

 

(何かが、おかしいと思うのですが)

 

 都心を行く10両編成の在来線のうち、アイドル・水本ゆかりは最前部の女性専用車両に揺られながら、名状しがたい違和感に付きまとわれていた。

 寮から出てからずっとしっくりこない心持ちだった。きのうまで寒かった風がけさはぬるく吹いている。ラッシュアワーなのに薄暗くどんよりした空からぽつぽつ雨が降りなずむ。管楽器の奏者として常ならぬ温度や湿気がどうにも気になる。「東京の冬は空気が乾燥する」はずなのに、と困惑する。

 

 ゆかりはブラウスとプリーツスカートの上にコートを羽織っていた。車内の暖房と湿った空気に促されてコートの合わせ目を開いた。寝坊したせいでアイドルとしての変装がおざなりだった。ふだん肩甲骨まで垂らしているセミロングのストレートを、アイドルユニットの仲間・椎名法子のようにポニーテールに結んだ。琥珀色の細いフレームの伊達メガネをかけた。レンズが逆さ台形に近いウェリントンで、やや丸顔のゆかりの輪郭を引き締めていた。

 

(どうしても、おかしいと思うのですが)

 

 電車がガタン、ゴトンと一定のリズムで走っている。青森出身のゆかりからすると、発車しては間もなく止まってまるで足踏みしているように思える。窓の外に看板や広告らしき赤や青が流れているが、ガラスが曇っていてぼんやりにじんでいる。

 ゆかりは車両連結部に近いロングシートの前で、つり革をつかんで立っている。

 乗客を見ると、格好や手荷物からうかがう限り、どこかへ通勤・通学する女性ばかりである。それなりに混んでいて、ひじを少し開くと隣の女性にぶつかってしまいそうになる。

 その隣の女性たちが問題であった。

 

(……他人の空似、でしょうか……?)

 

 ゆかりは、自分の右肩の向こうをちらりと見やる。

 ゆかりより一回り背の高い女性が立っている。金色の豊かなロングヘアーをたくわえていて、女性のさらに右側にあるはずのドアをゆかりの視界から隠す。その金髪が湿気を吸ってか、横髪や後ろ髪が意図的かどうか迷う具合にうねっている。

 金髪の中に半ば埋もれている顔立ちもうかがう。ゆかりより5歳ほど年上、と推察する。ほとんど大人の女性になった少女、という風情でたたずんでいる。頬や首の肌がぴかぴかに白く目を引く。皮膚が薄い首筋で、血管が透けるか透けないかの具合が大理石の斑紋に似ている。顔立ちの中で赤みがかった虹彩が特に艶やかで、それが視界の端に入るだけでゆかりの肩と背筋がそわそわ震える。

 視線を下げれば、深紅のベースカラーに黒いコルセットを模したあしらいの、良く言えば瀟洒、悪く言えば古ぼけた意匠のワンピースドレスが、アイドルと見紛うほどのメリハリのついた体を包んでいる。

 

(本物だったら、変装しているはずです)

 

 右側でゆかりと同じようにつり革をつかんで立っている女性は、同僚アイドルの一人・黒埼ちとせにそっくりだった。

 

(でも、顔だけじゃなく、スタイルや服装まで……これでは、間違えられてしまいそう)

 

 その女性をじっくり観察すればするほど、黒埼ちとせの生き写しと思える。金髪の一本いっぽんが細く、白い肌が薄いところなど、ウィッグやメイクで似せがたいところまで似ている。

 

「お嬢さん、なにか?」

「あっ……い、いいえ、失礼……ぼーっと、してしまっていて」

「ふふ、お構いなく♪」

 

 ゆかりの中で“どうしても、おかしい”が“ぜったいに、おかしい”に変わる。

 

(……声、しゃべり方、雰囲気まで、ちとせさんみたい)

 

 対面してしまえば誰も彼も虜にする、とデビュー当初から称された黒埼ちとせ……によく似た言葉と目遣いに押される。気まずくなって、ゆかりは右側の偽ちとせから目をそらす。

 左隣には、ゆかりと同年代らしき少女が立っている。

 

(……しかも……私、まだ寝ぼけているのかしら)

 

 左側にも少女がいる。

 豊かな銀髪を黒いリボンでツインテールにくくっているのがまず目に入る。どのくらい手間暇がかかるかゆかりに想像できないほどくるくると大きく巻いたカールになっている。少女の左奥にあるはずの車両連結部がよく見えないほどで、偽ちとせの金髪にも比肩する。さらに横顔をうかがう。肌が、カップに注いだ牛乳のように底の見えない白をしている。赤みがかった瞳は、カラーコンタクトをつけているふうである。目周りだけ濃いメイクをして澄ました印象を出そうとしているが、メイクごしにくりくりした素のアイラインもうかがえる。

 左側の少女の服装も確かめる。黒いレースのチョーカー、それとそろえたらしき黒いベースに白の差し色を入れたゴシック風のドレスが目に入る。

 

(ええ、きっとそうです……私、寝ぼけているんです)

 

 左側でつり革をつかんで立っている少女は、同僚アイドルの一人・神崎蘭子にそっくりな姿だった。

 

「とうに暁も払われたが、天は幽冥界のごとく、身に迫るはウンディーネの欷歔(すすりなき)であろうか」

「あ……失礼しました、ぼーっとしていて」

「……きょうは朝なのに、薄暗く曇ってて、湿気がきついですね」

「そう、ですね」

 

 左の少女の声としゃべり方も信じがたいほど神崎蘭子そっくりだったが、もはやゆかりはさして驚けなくなっている。

 

(これは夢です……もし現実だったら、周りのお客さんが少しぐらいざわざわしているでしょう)

 

 黒埼ちとせと神崎蘭子は、ゆかりに負けず劣らずの知名度を持つアイドルである。Fortuna Regina(フォルトゥナ・レジーナ)というデュオユニットでも活動している。本物ならゆかりと同様に変装が必要なはずだった。

 

 

 

「きゃ、あっ……!? ぃ、っ……」

「ふぁっ!?」

 

 ガタン、と電車が急減速する。つり革がきしむほどゆかりは体勢を崩される。例の2人のうち、左の少女――偽蘭子――もも踏鞴(たたら)を踏んだらしく、左のつま先に一瞬の痛みを感じる。続いて緊迫した声音の車内放送――『新宿駅におきまして人身事故が発生し……』――が聞こえる。

 

(現実感のある夢ですね、こんなの初めて……夢じゃない……? まさか)

 

 偽蘭子が澄まし顔をどこかへやってしまって、しょんぼりとしながらゆかりに何度か謝ってくる。

 

「ご、ごめんなさい、ゆかり様っ」

「い、いいぇ、おかまいなく……」

 

 それをとどめながら戸惑う。

 

(ゆかり“様”って、そんなくすぐったい……ファンの皆さんからそう呼ばれた経験も、少しありますが)

 

 右の頬と腕と肩になにかやわらかいものを押しつけられる。

 

「……ぁ、っ……!?」

 

 乳と蜜のようにねっとりと甘い匂いに呼吸を覆われ、思考が吹き払われる。

 

「もう、わたわたしちゃって。この“ゆかり様”に、ロキちゃんそんなにお熱なんだ~?」

「うぅ……ドラちゃんが棺桶で寝過ごしてるうちにすっかり世間知らずになってるだけですー、今のここらの人みんなゆかり様を知ってます」

「照れない照れない、素直になろ?」

「ドラちゃん少しは最近のこと勉強してください、このあいだだってトランシルヴァニアをハンガリー領と間違えたでしょう、その姿してるのにその間違いはぶち壊しですよ」

「そうなの?」

 

 どうやら左右の2人はお互い見知っているらしい、と親しげな声音から察する。会話の内容がワンテンポ遅れてよたよたとついてくる。

 

(ロキちゃん、ドラちゃんって、どこかで……?)

 

 あやふやであったが、“どこかで”という直感は正しかった――かつて黒埼ちとせが神崎蘭子をシーシャカフェに連れこんだとき、仮名としてちとせがドラ(ドラ子)、蘭子がロキを名乗った――伝え聞いた話を思いだすどころではなかった。

 

「ねぇ、ゆかりちゃん、熟れたイチジクはお好き?」

「ぇ、あ、その……ち、ちか、ぃ……」

「なじみが薄いと思いますよ。ここらだとあまり見ませんし」

 

 偽ちとせから、吐息を感じるほど頬を寄せられながら、後ろ髪をするりと撫でられる。相手が若い女性であっても神経がこわばる。

 

「っ、ひ、ぅ……あ、あの、その」

「こらっ、ゆかり様にべたべたしないのっ」

 

 ゆかりはそれらが悪夢なのか、悪夢のような現実なのか、足下がぐんにゃりしたようにあやふやに感じる。自分の身に起こっていることは、電車の中で不審な美女と美少女に左右を挟まれて不躾に体を撫でられ――あまりに現実味が薄い――しかし偽ちとせのそっと撫でてくる指先やら、ねっとりと染みこんでくる匂いやら、ほんのりぬるい手のひらなどを鮮明に感じて――まるで現実、と思ってしまう。

 

「ごめんなさいゆかり様、こんなのがついてきちゃって」

「ドラ子のハグはあいさつなんですぅ~」

「ゆかり様に匂いが移っちゃったらどうするんですか」

「こんな女の子、汚さなきゃ失礼よ、堕とし……契約したらフェアヘイレンちゃんとでも呼んであげたいわ」

「あ、あの……あなたがたは……?」

 

 偽ちとせの不穏すぎる言葉と甘すぎる匂いから顔をそむけて、まだ話が通じそうな左の偽蘭子を見る。

 

「あっ……ゆ、ゆ」

 

 銀色の髪、赤い瞳、白い頬に相対する。やっぱり蘭子ちゃんとそっくり、と思いかけたとき「うぅ……」と偽蘭子からうなられ顔をうつむけられる。

 そのまま見つめていると、偽蘭子がくちびるをもごもごさせながら、いかにもぎこちなく言葉を紡ぐ。ゆかりが握手会で応対したうちのいちばん緊張がひどいファンよりさらにぎくしゃくしている。

 

「わ、わっ、わたし……ゆかり様の……フルート、お聞きして……河のそばとか……こっそり、ステージでも……」

「それは……どうも、光栄なことで……?」

「ゆかりちゃん、たまにお外で笛を吹いているらしいわね」

「ええ、ときどき……あの、だから、あなた、近い……ん、っ……!」

 

 偽蘭子に気を取られていると、背中側から偽ちとせにあごと首筋をなでられる。紗枝ちゃん――同僚アイドルとして親しく付き合っている小早川紗枝――にも、ここまで触らせたことないのに……とひじを曲げて腕で振り払いかけて、止まる。

 

「笛の音が悪魔を呼んじゃった、って言ったら……信じてくれる?」

「……ふ、ぇ、え……っ……?」

 

 ゆかりにとって悪い偶然だった。外で笛を吹くと人ならぬものを引き寄せる、との伝承を紗枝から耳にした覚えがある。ゆかりが仕事の一環で和楽器の笛を練習していると――「うち、聞いてて祭ばやしがなつかしゅうなりまして。音に引かれて神さんが来てくれはる、そやけど神さんばかりやなく……」――ゆかりの記憶といまの状況が、奇妙につながってしまう。

 

「んッッ……!?」

 

 こんどは手首をするりと撫でられる。手の甲にしっとりと絡みつかれる。目を向けなくても、偽蘭子から手を握られたとわかる。偽ちとせと違って、指先までぽかぽかと火照っている。

 

(もし夢じゃなかったら……こんなところ、見つかったら、プロデューサーや、皆さんに迷惑が……)

 

 ゆかりの五感に迫ってくる偽ちとせ、偽蘭子の気配だけがべとべとするほど現実味を帯びている。それ以外は、動かないままの電車も、文句ひとつ言わない乗客もつるつると無反応を保つ。

 

「お呼ばれしたのがロキちゃんだけど……私、お呼ばれするの大好きなの、だから私も呼ばれたことにしてもらって」

「ど、どなたが、あなたがたをお呼びして……」

「自覚がなかった? こういうの、天然っていうのかしら」

 

 偽ちとせに触られた首筋から、ぞくり、と甘く危うい疼きが走る。反発するように腕と脚を突っぱる。2人から絡ませられる手と腕がほんの一瞬だけ揺らぐ。

 

「また私の目を見つめて、もっと魅了されてくれれば」

「ゃ、あ……は、離し、て」

「ゆかり様……」

「あ、あなたはなんです……!?」

「このブレスレットは……メロウ・イエローの……」

「そうです、が、あの……」

「私は……いっそ笛になりたい……フルートになりたい……」

「え、あの、その」

 

 困惑しているなかに、頬を近づけられ、くちびるを寄せられる――直に触れあうまえに、ゆかりは想像で神崎蘭子を汚してしまった心地になり――手足をこわばらせ身もだえし、首を横に振って逃れる。

 

「ほら、こんどこそ……私の目、しっかり見て。もう少し魅了されてもらうわ」

「わっ、ドラちゃんずるい! 私が――」

 

 偽ちとせが、本物顔負けの蠱惑的な面差しで待ち構えていた。

 伊達メガネのレンズがふわりと曇って、フレームごと外されてしまった。

 

 

※

 

「ぁ……ふ、っ……!」

 

 ゆかりはスカートのすそごしにひざ頭をくすぐられ、あわてて自分の口をふさぐ。触られていないはずの太ももやお尻までくすぐったくなる。

 周囲の乗客がスマートフォンや参考書とにらめっこしたままで自分たちを気にかけていない、と確認する。わずかに緊張を緩める。

 

(気づかれたら、だめ……騒いだら、ちとせさんや蘭子ちゃんにまで、迷惑がかかるかも……!)

 

 2人(?)が同僚アイドルになりすまして、自分に痴漢をはたらいていると認識できている。

 

(……電車が動けば、すぐに降りて……そうすれば、誰にも知られず……)

 

 それ以外の認識や感覚が、少しずつ乱れて本当に狂い始める。

 

「――わかったわよロキちゃん、ちょっとだけ、ちょ~っとだけ……」

 

 左右のどちらかが、こんどはひざ裏とふくらはぎを撫でてくる。ぴくり、とももやひざの筋を肌から浮かせてしまう。触られたときのぞくぞくがしつこく反響して残る。

 

(早く、動いて、降りて……時間が、こんなに長く……)

 

 どちらかの指先が、肌とクルーソックスの境目をつるつるなぞってくる。ソックスの生地とふくらはぎ・すねのあいだに指が滑りこんで、口のゴムをかすかに伸ばしては、音も出ないほどぱちんと戻してもてあそんでいる。ゴムのあとが凹んでしまっている具合まで探られる。驚きと恥ずかしさに奥歯を噛みしめる。

 

「靴下、脱がせちゃダメです」

「どっちもゴムで締めつけてるじゃない」

「情緒が違います」

「ときどき、あなたが玩具を神様と勘違いしているんじゃないか、って思うわ」

「美しきは神であるか玩具であるかのいずれか、って聞いたことあります?」

「そんなお耽美なのロキちゃんしか……はぁ、私ったら無風流に無教養でごめんなさいねぇ」

 

 偽ちとせにしろ偽蘭子にしろ、こんな豪奢な姿をしながら在来線の車両の床にかがんでこちらのふくらはぎをなでているのか、なんだかこっけいだ……と言い聞かせて気をそらす。2人の言葉を頭の中から――「靴下“は”……“どっちも”ゴム……まさか……」――必死で追い出す。

 

「ふ……ゃ……っ……!」

 

 もしゆかりがヒモの下着を選んでいれば気にならなかったはずだった。履いていたのはゴムで保持する下着だった。下着の周りに意識が流れてしまう。プリーツスカートの中に車内の空気がこもってますます蒸れて、いっそう不愉快になる。

 不愉快なだけのはずだった。

 

「こらっ、またドラちゃん――あなたはついでで――」

「――でも、私のおかげで――」

 

 2人がゆかりを挟んで、小さく低い声で会話している。偽蘭子がとがめて、偽ちとせが言い繕っている。そうして2人の指先が離れても、さっき意識させられたスカートの中のももや下着まわりが気になったままで、空気にくすぐられている錯覚さえつきまとう。

 ゆかりは2人に悟られないよう、こっそりと脚をむずつかせる。

 

(待っていれば……がまんしていれば……電車が……)

 

 気にしているとさらにひどくなる。指先や手のひらが吸いつかれたままのように、撫でられた感覚があちこちの肌にとどまっている。まだ密かにするする触られているのではないか、と疑う。どうやって確かめるのか、と途方に暮れる。

 

「あの、ゆかり様」

「……様づけは、くすぐったいのですが……」

「手……握らせていただいても、よろしいですか……ちょっとだけで、いいから……」

「えぇえ……?」

 

 偽蘭子が頬をかわいらしく赤く染めて、もじもじしながらねだってくる。まるで本物の蘭子からねだられたように応じてしまいたくなる。

 

「ちょっと、なら……あっ……」

「あらあら、いいのかしら? そう軽々しく、私たちに言質を与えて」

 

 心を決めかねているうちに手を重ねられる。感触にびくりと反応してしまう。手のひらが餅のようにしっとりふっくらして温かいいっぽう、皮膚の向こうにこちこちと硬い骨も推せられる。アイドルとして握手会に出て、同年代の平均よりずっと多くの人の手を知っているゆかりであるが、こんな心地は初めてだった。

 いつかしんみりと握りあった紗枝の手を思いだす。比べると偽蘭子の手は、同じぐらいすらりとしているが肉づきに富んでいて、こちらが握られている気分になる。

 

「ん、んふっ、ふふ、ぇへへ……ゆかり様の手ぇ……」

「あの、私の手が、なにか……?」

「気持ちいぃ……私がフルートだったら鳴ってる……♪」

 

 会話が成り立っているようで成り立たない相手に、勝手に体を触られている。さすがに湧いてきた危機感が、偽蘭子のでれでれと気の抜けたようすに中(あ)てられてうやむやになる。

 

「……ん……っ……!?」

 

 太ももの裏に何かが触れている。一呼吸置くと、明らかな意思を持って触っていると気づく。メイクの仕上げのように、反応しがたいほどかすかにするすると上り下りしてくる。すぐ偽ちとせの仕業とわかる。

 

「あの、くすぐったい、ので、やめ……んっ……」

「おかまいなく」

 

 脚の撫でられ心地が変わる。偽ちとせが指を曲げて爪先を使ってきて、硬く滑らかで丸く整えられた爪が想像できてしまう。下着近くまでそろそろと線を引かれ、「こんなに触らせちゃっていいの?」と煽られている。ゆかりの肌も偽蘭子を追いかけるように火照っていく。

 

「こらドラちゃんっ、ゆかり様に失礼でしょうっ」

「あなたもこうしたいんじゃなくって?」

「……う、ぅ、う、まぁ、その」

 

 ゆかりはどんどん困惑に沈んでいく。同年代の同性とここまでべったりと触れ合った経験は、アイドルどうしの仕事中であればすでにある。照れくさいような浮かれてしまうような気分も覚えている。

 しかし、この偽蘭子や偽ちとせから醸し出される気配は、もっと危うく、ぞくぞくさせる。肌の奥をかき乱してくる。

 

「そ、そこっ……んっ、んくっ……」

 

 太ももからから手が引かれ、まくられかけたプリーツスカートのすそがひらりと戻る。ほっとする間もなく、なにかにお尻をふわりと包みこまれる。ボトムスと下着ごしであるのに直に触られたかと思うほど、ぴったりと手のひらが添えられる。びくり、と尻肉を緊張させ、ますます偽ちとせの手を感じてしまう。

 

「あぁ初々しい、反応も、肉付きも」

「う、ぅ、う……ゆかり様に、いじわるしちゃ、だめ……!」

「あら、おいやかしら?」

「あ、あの……その……いじわる、と言いますか」

「ゆかり様……」

 

 見ず知らずの相手に悩ましく触れられ、恥ずかしくて恐ろしくて声が震える。ゆかりも年ごろの女子として「痴漢されたら大声をあげて助けを求めなさい」と教えられている。そうすべきと理性が警鐘を鳴らしているが、声を出すのもおぼつかない。

 

「んっ、うっ、あ、あっ……!?」

 

 偽ちとせの手が、お尻の双丘の谷間を指先で探ってくる。下着の内側までおかしな感覚がわだかまっていく。

 

「服ごしのほうがよろしいかしら? お召し物を乱すと、ロキちゃんが嫌がるし」

「お肌も見たいけど……こんなところじゃ、やだ……」

「あの……場所の問題では……」

「ですって。であれば、もっと落ち着けるところにお付き合いいただけると、うれしいわ……ねぇ、ゆかりちゃん?」

「そ、そんな、の……! んっ、ぁ、はぁ……!?」

 

 ここが電車内と思い出させられる。首を振ってドア上の液晶パネルをうかがおうとするが、角度も悪く遠すぎる。偽ちとせの豊かな金髪がうるさいほど視界でうごめく。

 

「だいたい……ドラちゃんにいたずらされたって、清楚なゆかり様がいやらしい気分になるわけないのっ」

「ふ~ん……」

「ですよね?」

「え、ええと……いやらしい気分とは……?」

「それ、は……き、き、禁じられた遊び……」

 

 偽蘭子がしどろもどろになりながら手をぎゅうぎゅう握ってくる。彼女の手があいかわらずもちもちとしていて、ちょうど振りほどきにくい具合で、つい身を任せてしまう。

 

「ん……っ!」

 

 偽ちとせの指先がつるつるとお尻を撫でている。衣服など見えないかのように、腰骨周りで肉が薄くくぼんでいるところを順番にタッチする。下半身が下着とプリーツスカートとから透けたり浮き上がって見えてしまっているのでは、と疑う。淡いむずむずが泡立って、ますますそこに意識を向かわされる。

 

「ゆかり様……」

「あなたは、らん……ええと、ロキさん、でしたか……? あの……」

「その名前でもいいです、真名はダメだから……」

 

 偽ちとせの狼藉を偽蘭子に制してもらおうとするが、偽蘭子ときたらゆかりの手を握ってひどく恍惚としている。夢見心地な表情が、実際の蘭子より年下に見えてくる。握手会で年下の女の子の相手をしながら後ろから痴漢されている気分になって、困惑と羞恥がますますひどくなる。

 

「ん、ぅ、あっ……は、うっ……」

「涼やかなお声もよいけれど……艶っぽいお声も聞かせて」

 

 ゆかりはくちびると歯に力を入れて、反応してやるまいと構える。期待を裏切ってさらりと流して興ざめされれば、と決める。声を上げたり歩いて遠ざかる対処に比べると消極的だが――「この人に触られて、妙な気分になってしまったなどなにかの間違いです、さきほどは驚いて戸惑っただけ……」――自分のむずむずした感覚を否定したくて、あえてこらえる選択肢を採ってしまう。

 偽ちとせの手が太もも側に滑り降りる。スカートの布地をひらひらさせて、太ももを露わにしてしまうのではないか、乗客にまで見られたら、とひやひやする。気配を感じたところが熱く震える。

 

(うぅう……っ……)

 

 助けを求めて声を上げたくても、そもそも乗客が助けてくれるかどうか疑う。この無遠慮すぎる連れを掣肘してくれないかと、偽蘭子の手を握りかえす。

 

「う、ふふ、ゆかり様、ぎゅって……」

 

 そちらの助けも疑わしかった。

 

「ゆかりちゃんのこと、もっと教えて?」

 

 偽ちとせはゆかりの反応を愉しむように、スカートをひざ丈と太もも丈のあいだでまくったり戻したりを繰りかえす。生暖かくどこか不吉な風がひざ裏を撫でてきて、ため息を吹きかけられているかと妄想してしまう。コートの下が裸にされているかのように恥ずかしくて不安でたまらなくなる。

 

「……緊張、されていますか?」

「え? えぇ、まぁ……いや、あの」

 

 呆けっぱなしと思っていた偽蘭子からささやかれる。いつのまにか頬と頬が指一本もないほど近く寄せられている。偽蘭子の恍惚を、こちらの肌や鼓膜に塗られていると錯覚する。

 

(いや、違います……私の、体、何かが……)

 

 電車や偽ちとせ・偽蘭子に負けず劣らず、ゆかりの体も変調をきたしている。肩や背中が、寒気と火照りが混ざった異様な汗でねっとりしている。心臓が大きくなったようで、首やこめかみや頭蓋骨の裏あたりまで心拍の余波を感じる。

 

「きゃ、ぁ……!?」

 

 偽ちとせが指先を内ももに這わせてくる。やさしく円を描くように撫でたり、力を入れて押したりされる。筋肉がどうしても縮みあがる。その収縮につられて、ゆかりの体の内側の何かをじりじり燃え上がらせる。太ももの付け根がぞくぞくして、制しようと体を硬くすればお尻がまたふるふると震える。

 このまま好きにさせてしまったら、どうなってしまうのか。

 

「悪いようには致しませんから、誓って」

 

 そんなセリフを言う人間が本当に悪いようにしなかった例がない、と言いかける。ついに絶句させられる。偽ちとせの手が、スカートのベルトをウソのようにあっさり緩めてしまっている。

 

(こ、こんな、私、ぜんぜん……)

 

 まだずり落ちてはいないが、もし偽ちとせたちを強引に振り払って電車から走り出たとしたらスカートだけずり落ちはしないか、と心配する。先を憂うと、もう脱がされてしまったように羞恥がますますひどくなる。

 偽蘭子が手を握り直してくる。そうっと、怖がらせないよう寄り添う素振りで――その手が温かくもちもちしているままで、ゆかりはすっかり脂汗まみれの自分の手が嫌になる――偽ちとせの手もこんな感触と体温だろうか、もし彼女がまともに自分の太ももやお尻を触ってきたら、こんな感触と体温を味わうだろうか、と予感する。

 

(こんな想像してしまうなんて……本当に、どうかしています……)

 

 そう自分を叱咤するのも中断させられる。偽ちとせの腕がゆかりの胸側に回りこんでくる。背中にもぴったり密着される。お互いの着衣を挟んでいるのに、偽ちとせの豊かな乳房を意識させられる。

 

「ぎゅうって、抱きしめて差し上げたいわ……♪」

「う、う……遠慮、願いたいの、ですが……」

「ドラちゃんずるいっ……!」

「私はここだって構わないの」

「場所の問題では……あっ……!」

 

 体をくねらせ偽ちとせの手を拒もうとするが、あえなく乳房の膨らみに手を重ねられる。この妖艶で不気味な彼女の手中に囚われてしまう。やんわり曲げられた偽ちとせの指先で、血のように真っ赤なネイルがゆかりの目を射る。やがて両手の人差し指がくるくると小さく円を描いて、左右の胸の頂点にそれぞれ迫られる。

 かり、かり、と爪の先がゆかりの乳首を撫でてくる。

 

「んきゅっ、ふ……!? くっ……」

 

 もちろんブラウスとブラジャーごしである。にもかかわらず、想像すらしなかった甘く鋭い性感に驚かされる。自分の胸がここまで鋭敏だと初めて思い知らされる。

 いま、偽ちとせの指がそこにあって――直に触られているわけではない、と必死で言い聞かせなければならなかった――かりかりとごくゆるく引っかかれただけで、胸がじんと切なくなってしまう。乳房の先がつんと張り詰めてブラジャーの中で勝手にむくむく育つ。その気配は下半身にも波及し、こらえようもなく身体を揺すってしまう。

 

(……こんなっ……誘っているみたいに、私……)

 

 ゆかりは依然として、自分の状況を客観的に見る余裕を残している。恥ずかしいところを隠すつもりである。その余裕を燃料に羞恥が強くなる。

 

「これが気持ちいいの?」

 

 偽ちとせがゆかりに耳打ちする。

 

(違……ちがいます、って……!)

 

 顔を横に振ると、偽ちとせの豊かな金髪に耳と頬が近づいて、鼻がぐったりさせられる匂いに襲われる。干した果実のように濃縮された甘さを胸中へ沁みこまされてしまう。

 

「乳首、するするされるの、気持ちいいわね?」

「気持ち、よく……なんて、ありません……!」

「あらあら」

「私も触りたいのにぃ……」

「奥ゆかしいロキちゃんがゆかりちゃんのおっぱい触ったら服ごしでも失神しちゃうかも」

「もう、止めて……んっ、んぅ……!」

 

 大人しかった偽ちとせの手付きが、いきなりブラウスと下着を押しこむほど揉みしだいてくる。指先がわさわさ動いて、ブラジャーの上からゆかりの胸を絞り上げようとする。持ち上げられ、広げられ、歪まされる。そのたびに蕩けるような電流が走る。恥ずかしいのに、悔しいのに、胸を偽ちとせの手に預けてしまう。

 

(こ、こんなの……こんな人なんかに……だめ……こんな気持ちになっては……)

 

 ずくり、とお腹の奥がうずく。痴漢されているのに興奮してしまっている。あわてて腰をよじるが、お尻や太ももにまでじぃんと痺れが広がる。じくじくとした感覚に悶えさせられる。下半身の異様な感触に気づく。

 

(あ……まさか、私……)

 

 濡れている、下着が、小水や汗ではなく――すりむいて消毒されたときのようにどうしてもしみるが、もっといじってほしくてたまらない――まだ他人に触れられたこともないのに、偽ちとせの手をもどかしく待っている。

 

(そんな……こんなの、悪い、夢でしょう……?)

 

 感覚を信じられず否定する。しかし、これまで感じたことがないほど鮮烈で、現実のように押しつけがましく精神を腐食する。ブラジャーごしに偽ちとせに胸を揉まれるたび切なく息を吐いて、この手で下着の中までまさぐられてしまったら、と恐れる。

 

「ん、ぅ……っ!」

「直に触ってもいいかしら?」

「だ、ダメっ……やめて、お願い……!」

「どうしましょう……ムリヤリは、ロキちゃんが怒るし……」

「え、ええ、まぁ……いけませんね」

「しょうがないわぁ……」

 

 言葉に反して、偽ちとせのいたずらがだらだら続いていく。胸や脚に加えて頭の近くも玩弄してくる。頭や顔、首など皮膚の薄いところはただでさえ敏感なのに、頭髪や耳殻が空気の流れまで感じる。偽ちとせがうごめく気配に、こらえようとする暇もなくさらされつづける。

 

「ああ、おべべがもどかしいわねぇ、こしょこしょして差しあげたいわねぇ」

 

 触られるのを意識しすぎた乳首が密かに固くなっている。隠しても無駄と言い聞かせるように偽ちとせが的確に探し出してすりすりと擦ってくる。「直に触られたくないの?」と吐息で語りかけられる。逃れようと身震いするも、手や腕の震えは偽蘭子のもちもちに吸い取られたように無力で、脚は自重を支えるだけでせいいっぱいとなる。

 

「……あら」

 

 偽ちとせが物憂げにつぶやいたかと思うと、車内のアナウンスが聞こえる。次の到着駅が近い――いつ動き出していたのか、と気づかなかった自分に驚く――電車を降りれば、と気力を奮い起こす。

 

「……い、やっ」

 

 瞬間、ゆかりの下着に指が深く、ぐいと食いこむ。その指遣いがあまりに鋭く断固としていて、ゆかりはとっさに両手で悲鳴を押し止める。

 手が動く。偽蘭子がゆかりの手を離して、ゆかりのスカートとショーツごしに秘所を襲っている。

 

「……濡れて、いますか?」

「あ、あっ……そん、なっ」

「ふふふ、手を握るだけで満足、というほど慎ましくない子よ、ロキちゃんも」

 

 陰毛と媚肉が蒸れて、すでにぬるぬるしている。無視していた股間の惨状を、偽蘭子の指先で理解させられる。ひりついた性感をいやましに訴えてくる。腰をよじっても、偽ちとせにぎゅうと抱きしめられてされるがままになる。

 もう客が乗降を済ませてしまっている。

 ドアが閉まる。

 

「ゆかりちゃんに夢中で気づかなかったわぁ。最近の汽車はすぐ復旧するのね」

「これが駅を離れたらもう何人か飛び降りさせておきましょう、また止まります」

「いやいやロキちゃん私でもそれちょっと引く」

「ゆかり様以外、この際どうなっても……なぁに轢かれると決まってません」

 

 痴漢よりさらに不穏な会話に、ゆかりは耳を疑いかける――かき消される――偽蘭子がゆかりの秘所を撫でまわす。ほっそりした指がふっくらした割れ目を探り当て、そっと上下に撫でている。着衣ごしなのに、わずかな摩擦にもひくひく感じてしまう。

 

「ゆかり様のあそこ、しっとりしてます……」

「しっとりなんて、して……そこ、だめ……!」

「こうなったら、私だって遠慮しないぞぉ」

 

 偽ちとせの手が入ってくる――錯覚がする――ブラウスと下着のカップの上から、まるで透かして見ているように固くなった乳首を探り当てられる。きゅっとつねられ、ひねり上げられる。

 

「くふ、ぃっ……! ハッ、はァッ……」

 

 胸をいじられてこんな、と思うとさらに股間からの快感が倍増して襲ってくる。じわあっとした切ない熱をこらえようとして涙がにじむ。

 強引な快感がゆかりを揺さぶり、力を失わせる。まっすぐ伸びていた背筋が、偽ちとせに体重を預けるようのけぞってしまう。

 

「おっぱい、気持ちいいわね?」

「気持ち、よく、ありません、って……ひふっ、きゅ、ぅ……っ!」

「強情ねぇ」

「見た目どおりに清楚なんですけど、見た目によらず気丈なんです、それがいいんです」

「っ……っっうぅー……ぅ……!」

 

 乳房と恥丘とを刺激されるがままになって、ゆかりは必死に声を殺す。どちらの指遣いも、魔法のようにゆかりの性感を目覚めさせていく。乳首や陰核の先を、着衣ごしにくりくりと転がされ、つままれ、ひねられる。体全体からすればごく小さい突起への刺激に過ぎないのに、意識にピンク色の霞がかかる。

 

(だ……めっ……こんな……私……)

 

 指から与えられる快感ばかり意識が向いて、浸って、溺れてしまう。

 

「乳首とおさねと、どっちが気持ちいいかしら?」

「ん、ダメ、んっ、はぅ、んっ……んぅうっ……!」

「いまはクリトリスって言うんです」

「あまり私をおばあちゃん扱いしないで、ドラ子悲しくなっちゃう、せっかく若返ってきたのに」

「中身がこれじゃポチョムキンと同じですよ」

 

 ゆかりはさらに嬌声をあげさせられ、あわてて口をふさぎなおす。自分が性感に揺らされてなどいないフリでせいいっぱいにさせられる。

 それは他の乗客を誤魔化し切っているが、偽ちとせと偽蘭子については徒労だった。

 偽蘭子がショーツの上からクリトリスをつまんでくる。それ以上の刺激をしないが「やろうと思えばいつでもできる」と言わんばかりにぴったりくっついたまま。すでに十分すぎるほど潤っていた割れ目が、ぬちぬちと隠微に鳴る。脚ががくがく震え、膝が崩れそうになる。

 

「ゆかり様……いやらしいご気分ですね……?」

「そんな、こと……ぁ、ぅ……!」

 

 偽蘭子がゆかりに頬ずりする。汗と体温でめまいが湧き上がってくる。

 

「私……本当は、ゆかり様ともっといやらしいことしたい……手を握れればじゅうぶん、なんてウソでした……」

「ら……蘭子ちゃんは、そんなこと言いません……!」

「そう……かも、しれませんけれど、それは脇に置いて」

「……もうさぁ、吸血鬼みたいに、ガッとやってチュッと吸って」

「やだ! やだ! やだ! やだ!」

「はぁ……しょうがないわねぇ、ロキちゃんったら」

 

 偽ちとせや偽蘭子が超自然的な存在、とゆかりは考えざるを得なくなる。以前なら信じなかったが、白坂小梅や依田芳乃や鷹富士茄子と同僚になって「どこかにあるかもしれませんね」と見方を改めている。

 

「……ロキちゃんが、ああ言うので……あくまでも……その、ゆかりちゃんご了解の上で、させてもらえたらなぁ、って」

「ぁ、きゃんっ……!? だ、め、ですって……!」

 

 偽ちとせの手がもぞもぞと動く。ゆかりのブラをずり上げるまねをする。本気ではない、と思っても反応してしまう。本当にしてしまうかもしれない、と危ぶむ。

 

「くっ、ふぅぅう……っ!」

「あぁ、堪えるゆかり様……闇に呑まれちゃう……」

「闇に呑まれるって、そういう意味じゃ……あ、ぅ、ぁ……!」

「ふふ、私……つれなくされるの、楽しくなってきちゃった」

 

 必死で愛撫に抵抗するが、それさえ凌辱者2人を喜ばせると思うと、ゆかりも気丈に構えにくくなる。電車が駅に着くまで数分のはずが、数時間に感じられる。

 

(やだ……私……もう……!)

 

 自分の同僚の姿を盗んでいる不届き者に体を許してしまい、彼女らの手で快楽に狂わされようとしている。股間がぐしょ濡れになって気持ち悪い感触にさえ興奮させられる。

 

(ダ、メ……ダメ、ダメ、違う、これ……違ぅ……っ!)

 

 実際、この凌辱は偽ちとせや偽蘭子にとって玩具の人形遊びに似ている。ただし人間の遊びと違い、ゆかりの姿かたちだけではなく内心まで玩具にしている。

 

「えへ、へ、へへ、ゆかり様……♪」

「や、ゃめっ……ゃ、ぁ……あっ……!」

「ねぇゆかりちゃん、ちょっと遊んでみない?」

「……っ、ご、ご遠慮、します……っあっ」

「もう、つれないなぁ」

 

 乳房に、硬くなった乳首に、秘所に指が付かず離れずつきまとっている。指先の動き一つひとつが繊細な快感神経にしみる。一瞬ごとに感覚が鋭敏になる。

 

「例えば……次の駅に着いて、扉が開くまでに……そうねぇ、私が下着を外しちゃう。もし外せなかったら、残念だけどお別れ。外せちゃったら……もっとゆっくりできるところで、遊びに付きあってもらうわ」

「勝手な、ことを……っ……!」

「付きあってもらいたいの」

「ふぐっ……っひゃっ、あ、あっ……はぁっ!」

「いいわね? 外させなければ、ゆかりちゃんのお望み通りなのよ」

「ん、ぅ、あっ……!? 外させ、なんて、しません……! させません……っ」

「んふふ、では挑ませてもらうわ、遊びましょうね」

 

 ブラごしに乳首をつままれるだけで――いつのまにかブラウスの合わせ目を開けられてしまった――頭の奥がしびれてしまう。ほどけてはいけないものがほどける。涙やよだれがにじむ。股間からあふれた蜜が太ももを伝って、軌跡を偽蘭子の指先にすらすらなぞられる。

 

「ほぅら……あれ、ええと」

「これホック後ろです、フロントじゃないです」

「うん、おーけー! よし、外しちゃうぞぉ……ロキちゃんも遊んでくれるんだぁ」

「……私も、ゆかり様に焦らされちゃって、しょうがなくって」

 

 ふざけきったやり取りを咎めようとしても乳房や秘所への愛撫にかき乱される。電車の走行音と振動も、かさかさと布地をこする音も、偽蘭子と偽ちとせの鼓動や息遣いも、ゆかりの肌の外と内で混じりあって、体を支えているはずのところまで伝わって、わけがわからなくなる。絶望的な状況だけはっきり感じる。

 

「んっ……!」

 

 脇を締めて、ブラジャーを脱がされまいとする。偽ちとせが約束を守るか疑わしいが、無視もできない。

 

「……外させて、くれない?」

「……っ……」

「もっと気持ちいいこと、教えてあげるから」

 

 背中に食いこむブラジャーのホックを、細い指がこすっている。本当に下着まで奪おうとしているのか、といまさら戦慄する。

 

「ンああぁああ……っ!? あ、ぅ、あぁああぁっ……」

「……私も、その趣向、ご一緒いたします……よろしいですね?」

 

 なにもよろしくなかった。

 偽蘭子がショーツごしに指先を押し当ててくる。背中や足の裏まできゅんと熱くなってくる。どこもかしこもいやらしく襲われて絡めとられる。触覚が何十倍にも広がって、もう少しでも強くなったら叫んでしまう瀬戸際に追い詰められている。

 

(うそ、うそです、こんなの、ない……!)

 

 偽蘭子が執拗にゆかりの秘所を行ったり来たりする。手のひらで熱く膨らんだ割れ目をさすったり、指先で腫れぼったくなった陰核だけ転がしたり、やりたい放題に責めてくる。

 

(脱がされた、ら……っ)

 

 想像したくなくてもしてしまう。涙もぬぐえない目で偽蘭子をにらみつける。もっとしたい、と偽蘭子の目と頬とくちびるに書いてあるのが見えてしまう。

 

(だ……め……!)

 

 2人の手を止めさせようとするが、手で口を押さえながらブラジャーを守る体勢で腕がまともに動かせない。何度も首や肩や腰をよじるが、胸やお尻を振って誘っているようにしかできない。

 

「そういえば……ゆかりちゃんは、やんごとなきご身分、とロキちゃんからうかがっているわ」

「ふっ……ふぅ、ううっ……!」

「有象無象の俗客に気づかれちゃいけないご身分で?」

「んぐぅう……ッ!」

「ゆかり様はアイドルですよ」

「イドラ(幻影)? なんだか他人と思えないわね」

「違……まぁ、いいですけど」

 

 自分がアイドルである、と蒸し返される。2人に辱められたと人々に知られてしまったあとまで想像が及んでしまう。

 そこでついに余裕も尽きる。

 

「やめっ……ん……あ……あ、あっ、あ、だ、めぇっ、来るっ……」

 

 どんなにがまんしようとしても体が高ぶる。痴漢されているのに気持ちよくなってしまい、恥ずかしくて何も考えられなくなる。

 

「私たち、約束なら守るわ、ぜったいに、いやでも」

「昔、王様が臣下から寝取って産まれたのから呼び出されたのは閉口しましたよ。落とし子にあごで使われて、呪い殺してやろうかと思いましたが、まぁ誰が相手でも約束には従う身分なので」

「さんざん贅沢して長生きしちゃったわね」

 

 ゆかりはほとんど聞き捨てている。ただただ胸の先やお腹の奥がひっきりなしにしびれて震える感覚があって、それ以外どうでもよくなりかけている。

 

(だ……め……気持ち、ぃ……)

 

 偽蘭子の指が着衣ごしの割れ目を横に開こうとしてくる。ゆかりは足指やひざをぎゅうと力ませて必死に堪える。気持ちよくなることを拒むそばから体が反応する。偽ちとせに執拗に胸先をいじられるのもたまらない。股間の奥に何かがたまりだして、何かを吐き出してしまいたくなる。

 

(でも……こんな、の、わた、し……!)

 

 胸が詰まるほど強烈な抵抗感を覚える。人として越えてはならない最後の壁のように思える。そうして歯を食いしばってがまんするゆかりを、偽ちとせも偽蘭子も熱っぽく見つめている。

 

(あぁ……私……もうすぐっ……!)

 

 けれどあと少しなぶられれば耐えきれない。乳房や秘所ばかりでなく、頭や首筋や背中などくすぐったいところをそっと撫でられただけでも、体が宙に浮いてしまう。乳房を自分で抱くように身をよじる。行き来する偽蘭子の指に、腰をいやらしく押しつけてしまう。

 

(だめ、だめっ)

 

「……ゆかり様」

 

 電車のアナウンスが次駅への到着を予告する。それと重なっているはずなのに、偽蘭子のぼそぼそしたささやきがいやにはっきり聞こえる。

 

「私たちは、必ず約束を守るので」

「あの……お、ねが……とめぇ……」

「いつも都合のいい約束をするようにしています」

 

 偽蘭子が、スカートの外側でゆかりの尻を愛おしげにさする。

 

「こちらも下着ですね」

 

 ショーツと肌の境目に指をかけられる。

 

「“無事に”脱がさなければ、とは申し上げませんでしたね」

 

 ゆかりは絹を裂くようなハイトーンをこぼしたはずだった。

 乗客のいくらかが、出入り口の近くにのろのろと動くばかりだった。

 

「秘密には、します」

 

 自分の心が、体を置き去りにして夢見ているようだった。

 

「だから、もう少し私たちに付きあって♪」

 

 2人に両側からそれぞれ腕を絡められながら、ゆかりはその次の駅で降ろされた。

 あまりに気が動転して、上下どちらの下着を先に脱がされたかわからないほどだった。

 

 

 

※

 

「大きな電話ボックスみたいねぇ。新聞記者が駆けこんできて着替えだしたらどうしよう」

「ドラちゃんいつの話してるんですか、最近は公衆電話が全撤去されそうなのに」

 

 偽ちとせが言うように、それは構造が電話ボックス――それも、近年のガラス張りではなく古風な――に似ていた。しかし公衆電話だけを入れるには床面積が広く天井も高く、小さめの駅待合室ほどあった。引き戸のドアの曇りガラスを除いて、証明写真機のように中と外をすっかり区切っていた。

 偽蘭子がドアをスライドさせると、中に2-3人ぶんほどのベンチやテーブルが見えた。

 

「でも、都会の駅だとときどきこういう電話ボックスもどきが置いてあるんです」

「この駅にも似たようなの何基かあったけど、これだけ他より大きくて中も広々してるわね」

「試験設置らしいですね」

「一等室?」

「昔の列車みたいな言い方ですね」

 

 ゆかりはそのボックスの本来の用途を、担当プロデューサーなどから聞いたことがあった。移動先でパソコンなどを使った作業をしたいけれどカフェだと機密情報の漏洩や騒音が気になる、という需要向けの個室ブースである。本来は鉄道会社が時間貸ししている。電源、Wi-Fiの使い方を案内するステッカーが張られているが、偽ちとせや偽蘭子がパソコンやタブレットで作業するようすはとても想像できなかった。

 扉を締められて、しっかり防音・吸音がされている、と気づく。こんな奸智佞者たちと同じ部屋に閉じこめられてしまった、と実感する。

 

 ただ、電車から個室ブースまで手を引かれて歩かされたあいだに、ゆかりは人事不省から立ち直りつつあった。

 

「あの……」

「ゆかり様?」

「お金、払わなければならないと思うのですが」

「……まさかゆかり様に払わせるわけには……でも持ち合わせが……ドラちゃん……は」

「ドラ子、お勘定なんて払ったことないわ~♪」

「ですよね……」

 

 2人はなにか“ずる”をして勝手にそこを使うつもりらしい。約束がどうのこうのと言った割に、こういった決まりは無定見に破るのか、とゆかりは密かに呆れる。

 

「おじゃま虫がきたら、そのときよ」

 

 偽ちとせがゆかりのコートを脱がせて、布張りのベンチに押し倒してくる。偽蘭子が脱がされたコートをいそいそと備え付けのハンガーにかけている。そのようすをなるべく冷静に観察する。

 

「あらたまっておうかがいするのですが……お付きあいとおっしゃるのは」

「……え、ああ、そうね……ロキちゃん?」

「お、お付きあいぃ……!? わ、私が、ゆかり様と……」

「あなたそういうつもりじゃなかったの」

「ぉ、乙女心は複雑なんです~!」

「……乙女か」

「乙女です~!」

 

 車内で痴漢されていたとき、頑なに抵抗してもてあそばれるままになってしまった。ボックスでは逆に抵抗を緩めて、偽ちとせ・偽蘭子の隙をうかがうほうへ注意を払う。

 彼女らは得体のしれない力を持っているらしいが、思考に軽率、単純なところが見える。ゆかりの知らないことを知っているようだが、逆にゆかりが当然知っていることを知らないふしもある。

 

「あなたがムニャムニャしているあいだに、私がゆかりちゃんと楽しんじゃおうかしら」

「あ、あ……! あーっ、うぅうう……」

 

 本物のちとせ・蘭子のデュオと比べると、気心が合っていないようにも推し量れる。

 

「楽しむ、とは?」

 

 間近に迫ってきた偽ちとせの美貌に、めいっぱい“きょとん”の表情を作ってぶつける。偽ちとせが虚を突かれたように目をぱちぱちさせる。本物顔負けの妖しげな微笑がわずかに緩む。

 

「ええと、さっきはご理解いただけていると思ったのだけど、ゆかりちゃん」

「人前では、その……恥ずかしいので……」

「……人前じゃなければ?」

「えっ、あの、聞き捨てならないお言葉が」

「……悪いようには致しません、とうかがいましたけど」

 

 上から押し倒してくる偽ちとせの顔と体で隠されていても、偽蘭子が心中穏やかならぬようすで悶えている、とわかる。ちょっとした言葉でぐらぐらしているところが、ゆかりより年下のようにも思える。

 

「だめ、だめ、ゆかり様は私たちみたいなのうっかり信じちゃ!」

「あれは気にしないであげて」

「そうなのですか」

「ゆかりちゃんを誘う前も、間際になって『だめ、だめ、やっぱり私なんか……!』って悶えながら思いとどまるの何度も繰りかえしてて」

「お2人は仲良しなのですね」

「仲良しだなんて、そんな!? 付きあいが、長くなっちゃってる、だけで」

「えぇ~……ドラ子がっかりしちゃう……」

「気が置けない雰囲気がします」

「うふふ、私はゆかりちゃんとも仲良しになるから♪」

 

 ゆかりは偽ちとせにブラウスを開けられ――すでにブラを取られていて――素肌の乳房を見られる。恥ずかしいと感じるが、さきほどよりしのぎやすい。公衆の面前と密室の差か。翻弄されまいと自分の内側で気張るより、むしろ偽ちとせ・偽蘭子という外側に意識を向けているのが奏効しているのか。

 

「仲良くなるには、しちゃいけないことを一緒にするのがいちばんなの」

「そうでしょうか?」

「じゃあ、さっきはどうだった? 人前で、乙女が守らなければいけないところを触られて」

「あれでは、仲良くなるどころではない気がします、落ち着きませんでしたから」

「そっかぁ」

 

 意識の前半分を偽ちとせに向けて、思惑やようすを理解するように努める。後ろ半分は自分に向けて、かき乱されないように見張る。彼女らに隙があれば――偽蘭子は、偽ちとせがゆかりを押し倒すようすを見てじたばたして、すでに隙だらけの気もしたが――必ず見つけ出す。

 

(なんだか、有香ちゃんの空手のお稽古みたい)

 

 偽ちとせが、ほんの少し身構えるように目を細める。偽蘭子が一歩二歩おいて、気遣わしげにゆかりたちをうかがっている。

 

「しちゃいけないことを一緒にすると、落ち着かないものよ、火遊びみたいに」

「火の取り扱いは注意しなければなりませんものね」

「そのお行儀のよいあなたを、愛欲の虜にしてあげたくなるわ」

「愛欲、ですか?」

「……体に教えて差しあげる」

 

 偽ちとせの手が、ゆかりの首と胸のすぐ近くでぶらぶらさせられる。指が偽蘭子よりも細く長く、鋭い印象を受ける。

 ゆかりはあえて肩を開いて、偽ちとせに見せつけるよう胸を張る。偽ちとせがめいっぱいに指を広げれば、少し余裕をもって包んでもらえるぐらいか、と他人事のように観察する。

 

「優しく、触ってくださいね?」

「ゆかりちゃん、あなた」

「さきほどは、少し、怖かったので」

「いまは怖くないの?」

「意外と、話せばわかりそうな気がしまして」

 

 偽ちとせの指先が、ゆかりのふもとをうかがうようになぞる。くすぐったいのを感じるがままにゆかりが笑うと、偽ちとせがいかにもつられたふうな口元の笑いを返してくる。

 

(こちらから話しかけたほうが、らちが明きそうです……なんだか、アイドルの握手会みたい)

 

 胸をそろそろと撫でられながら、偽ちとせに意味ありげな視線を投げ上げる。ヴィジュアルレッスンを思いだす。偽蘭子が自分の笛の音に誘われてきた、と語った声音も思いだす。

 

「そのぐらい優しいと、ありがたいですね」

「くすぐったくないかしら」

「それより、変ではありませんか」

「……何が?」

「私の……その、お胸、です」

 

 口にした瞬間の恥ずかしさが、偽蘭子のわぁわぁ悶える――「ゆかり様がドラちゃんにめちゃくちゃにされちゃう……!」――おかげで、だいぶ薄れる。

 

「ゆかりちゃんのどきどきしてるの、伝わっちゃうわ」

「ええ、私も、どきどきしてしょうがなくって。まるでステージのときみたい」

「ステージ?」

「ええ、アイドルですので」

 

 アイドルですので、と自分にも言い聞かせる。もし相手を魅了するすべがあって、それでこの場を切り抜ける糸口をつかめるなら、全力を尽くす。偽ちとせや偽蘭子がどこの誰であっても、と開き直る。

 

「ところで、あなたのお名前、ドラちゃんさんでしたか」

「え、まぁ……いいわ、ドラちゃんって呼んでも」

「ドラちゃんのお胸も、優しく触って差しあげればよろしいでしょうか?」

「それは、その……私まで、どきどきしちゃうわ」

「しちゃいけないことを一緒にする、とお聞きしましたので」

「……どきどき、させられちゃうわね」

 

 受け身になっていては電車内の二の舞い、と手をもたげて偽ちとせの胸元に近づける。オフショルダーの真っ黒いフリルが目につく。赤と黒の細いストライプ柄が、こんもりとした乳房で突っ張っている。

 

「古ぼけて見えていないかしら」

「アイドルの仕事では……公演などで、見ますね」

「アイドルってどんな仕事なのかしら、興味わいてきちゃう」

 

 偽ちとせのバストを、下から支えるように触れる。もっちりとした柔らかい弾力に心が揺れる。こちらがぐんにゃり骨抜きにされるかも、と驚く。電車内でこちらを痴漢しながら興奮していた偽蘭子に、うっかり共感しかける。

 

(まるで下着を着けていないみたいです……早まったかしら)

 

「ん、ふ……ぁ……」

「おっきくて、やわらかい、です、ね」

 

 偽ちとせから感じることをあえて言葉にして、平常心を保とうとする。

 

(私が触っているのに、吸いつくようで……私の手が、お胸に触られているみたい)

 

「強く、しすぎでしょうか……?」

「あなたの、手、こんなに優しいのに、ぞくぞくしちゃう……銀でも押し当てられたみたい」

「銀は……フルートで、よく触っています」

「あらら」

「苦手でいらっしゃいますか? ときどきおられますよね」

「そうなの?」

「そういう方は、よくプラスチック製を使っていらっしゃいます。木製よりもお手ごろで」

 

 胸を触りあっている、という体勢にできるだけ似つかわしくない会話をして、どうにか冷静さを保つ。

 

「もっと、ぞくぞくさせられたくなってきちゃった」

「ワンピース、しわになってしまいますよ」

「ゆかりちゃんのそれも、あとで伸ばしてあげなきゃ」

 

 偽ちとせが自ら無造作に上着をまくりあげる。ぶるんっ、とあらわになる白い巨乳に、思わず見惚れながら圧倒される。

 

「触って」

 

 まるで自分の体のように偽ちとせと乳房を探り合う。やわらかいのにしっかり押し返してくる。ほんのり羨ましくなる。偽蘭子が、くちびるをぱくぱくさせたり、手をばたばたさせたり、とにかくアクションを起こそうとしては、思いとどまって悶えている。

 

「ふふ、この私が肌を触られながらよそ見されちゃうなんて」

「ロキちゃんでしたっけ、放っておいてもよろしいのですか」

「ええ、ああして見ているのもお好きらしいわ」

 

 額や鼻筋や頬まで、偽ちとせのささやきがそよそよ感じられる。胸や肺がじりじり浮つく。その気分も伝わってしまえ、と開き直る。なるべく自然体で、胸を膨らませた息を吐く。

 偽ちとせの腰がじれったそうに揺らめく。ゆらゆら、くねくね、勿体をつけたあと、太ももどうしでも触れあう格好になる。

 

「すべすべですね、うらやましい」

「あらら、くすぐったいお言葉を」

 

 腰のくびれ、肋骨、アンダーバストと、撫で合うところが行ったり来たりする。白くふっくらした肉体が、普通の人間のように温かい。警戒と親近感が入れ替わって、偽ちとせの髪の毛や肩にまで手を回してみる。

 

「失礼、いたします」

「んう……っふ、ゆかりちゃん……?」

「このお天気ですからね、ブロンドは」

 

 一本いっぽんが細く、しかし束になるととても豊かな金髪に指をくぐらせる。甘ったるい匂いがぐんと強くなって、まるで指先が鼻先になったように錯覚する。

 

(こうして触っていても、変な気分になりそうですが……まぁ、触られるがままより、は)

 

 偽ちとせがゆかりの乳房に手のひらをぽふんと押しつけてくる。びくっ、びくっと素直に反応してやると、偽ちとせの指もびくりと力がこもる。肌と肌が外も内も彼女とつながっているような気分になる。

 ゆかりがあらためて偽ちとせの乳房を手で包もうとする。豊かすぎて包みきれず、指を伸ばしてもきりがないが、そうしていること自体が心地よくてまさぐりつづける。

 

「ん、っ……その手で……ほかの女の子の肌、触ったことがあって……?」

「……お胸は、ありませんね」

 

 緊張、高揚、恐怖、安逸、気持ち良いのか悪いのか入り混じった感覚をあえて受け入れて、偽ちとせの体をあちこち堪能する。息遣いが浅く短く熱っぽくなってきているのも受け入れる。

 

「……あぁ、ぼーっとさせられちゃいそう、ふふ」

 

 へそのくぼんだあたりを撫でられそうだ、と気づく。ゆかりが腰をひねって、偽ちとせの指から半分逃げる。

 

「そこは、くすぐったいので」

「それがよくなるかもよ」

「そうでしょうか」

「悪いようにはできないもの、誓って、ね♪」

 

 お腹の中心を指先でするする歩かれると、脇腹よりももどかしい。それと同時に、首や鎖骨に、ふぅ、はぁ、とねっとりした吐息を浴びせられるのもくすぐったい。

 

「ん……おっぱいのほうが、どきどきしちゃうよね」

 

 偽ちとせの指があっさり矛先を移す。ゆかりの乳房に届くか届かないかの距離を保ちながら、円を描くように撫でている。その指がふいに先端をかすめて、ゆかりがびくっと震える。

偽ちとせからいたずらっぽく微笑まれる。

 

「く、んんっ……ぅ、そこ、敏感、ですから」

「触らないほうが、いい?」

「……そっと、でしたら」

「はぁい」

 

 口でそう聞かせたそばから、肌の緊張まで緩んでしまう気がする。無理に反発するのを止めただけ、と目を閉じて自分に言い聞かせる。

 

「私まで、敏感になっちゃう」

 

 ゆかりの胸の先端を、二本の指の股でそうっとはさんでくる。そのまま揉み出すかと身構えているのに、しばらくそうしていても何も起きない。焦れたゆかりが身じろいだとき、ようやくつんと弾かれる。

 

「ひゃ、ぅ……!」

 

 ぴくん、とゆかりの体が揺れる。偽ちとせは満足そうに微笑む。再びそうっとはさまれて、くにくに揉まれる。乳首以外でも、ふかふかした手のひらや、かりかりとざわめく爪先を味わう。手首の脈や指紋・掌紋まで感じ取ってやろうか、とあえて意識を集中させる。

 

「くすぐったい?」

「は、い」

「悪い子ね」

「それでは、困ります……」

 

 偽ちとせが指を浮かせて、またそうっと当ててくる。ぴと、ぴた、離れているあいだにも触られた記憶を反芻して、より敏感になってしまいそうな気がする。

 

「もっと困らせてあげたいわ」

 

 そのうちに、偽ちとせの指が、乳首を転がすように動き始める。なるべく忠実に真似するように、偽ちとせの乳輪にそっと――すぐ、手が勝手に動く。指の腹で、爪で、指関節で、手のひら全体で――手の動くままに胸をいじる。

 

「あ、んっ、うっ……」

「あ、ごめんなさい」

「……もう、油断ならない子」

 

 偽ちとせがこらえかねたように体をよじる。もっとこらえかねたように不平を鳴らす。

 

(もう少し、だらしなくして見せたほうが……だいじょうぶ、かしら)

 

 アイドルの仕事であれば、悪い魔法使いを演じるときに自分まで性悪になるとか、やんちゃな子供を演じるときに自分まで幼くなるとか、恐れはしない。ただ偽ちとせの前だと、演じたぶんだけ本当に近づいてしまう気がする。

 もしお芝居の共演者だったらすぐに芝居の雰囲気に入れそうだ、となるべく冷静に考える。

 

「きれいね、ゆかりちゃんのおっぱい」

 

 よく、女は男から――ときに女どうしからでも――乳房や尻に投げつけられる視線を敏感に察する、と言われている。ゆかりが感じたことのある誰からの視線より、偽ちとせのそれがねっとりしている。

 偽ちとせの手が、むにょんむにょんと下から上に軽く揉み上げてくる。乳首の下の方に、指先が軽くひっかかる。

 

「あ、あぅ、んんっ……!」

「なのに、触れてみると、ね」

 

 指先が、乳首の先端をつつきはじめる。ゆかりがぴくっと震わされる。そうっとつまんでいる。軽く上下にさする。指と指でころころ転がす。体全体からしたらほんのかけらに過ぎないそこへの刺激で、胸以外の肌と肉まで、ふるふると波打つ。

 

「ねぇ」

 

 偽ちとせが、ゆかりに顔をぐっと近づける。瞳に自分の顔が映っているのが見えて、やはり吸いこまれそうに大きな目だと思う。

 くちびるが近づく。偽ちとせのほうから舌を差し入れてくる。ファーストキスが同性、というイレギュラーが思いのほか受け止められる。甘いだけでなく、ぱらぱら振りかけた塩のように後をそそる。チョコレートやレモネードより塩キャラメルに近いな、と本物の黒埼ちとせを連想する。

 応じて、舌どうしで舐め合う。ひゅっ、と細く奇妙な声は、ゆかり自身や偽ちとせではなかったので、偽蘭子のものと判断する。

 キスを息が苦しくなるほど続けて、ぷはっ、と少しはしたなく息継ぎして、こんどはゆかりから仕掛ける。上くちびるを軽くついばんでみる。ん、んっ、と偽ちとせの鼻息が乱れる。舌とくちびるがだんだんぬるぬる甘酸っぱく、ほんの少しだけレモネードらしくなる。

 

「く、ふっ……ゆかりちゃん、見た目によらず発展家でいらっしゃって……?」

「はってんか、ですか?」

「……私、メロメロにされちゃうかも、ってこと」

 

 こちらが偽ちとせに陶然としたフリをすれば、偽ちとせもつられてくれるのか、とゆかりは考える。電車で偽蘭子の興奮や恍惚に中てられた自分を思いだす。少し離れてぷるぷるしている偽蘭子を見る限り、あの恍惚は心底からのものであったかもしれない。それを演技で再現すれば、偽ちとせも自分に中てられるのでは。

 

 一歩間違えれば、自分が偽蘭子のようになってしまうのでは。

 

(肉を切らせて骨を断つ、みたいですね……)

 

 わざと色気のない比喩を引っ張り出して、ふやけかけた頭に活を入れる。

 

「……前言を翻すようですが」

「中には翻せないお言葉もあってよ」

「優しく、しすぎないでください、だめに、なりすぎそうです」

「……あらあら」

 

 優しげにされるより、乱暴にされる方がしのぎやすそう、と誘いをかける。

 

「ゆかりちゃん、手首」

「なにか……?」

「ブレスレット、お肌とこすれちゃう」

 

 外すのを渋ってみせる。

 

「……すみませんが」

「ふーん……お行儀を教えてあげなきゃ」

 

 誘いに乗ってか、偽ちとせが強引にやってくる。

 

「んう……んぢゅちゅ……んっ、ちゅう、ぢゅちゅ、んっ……!」

 

 キスを再開される。ゆかりの舌を吸い、口内を舐めまわし、唾液をすすり上げる。のしかかってくる偽ちとせを、押しのけきれない程度に押しかえす。

 

「ふぇぷっ、ふぁ、あ、んぷっ……ひっ、い……ふぁっ、ひ、ぁああっ……!」

 

 口中をむさぼったまま、偽ちとせの手がゆかりの胸もわさわさと慌ただしくいじくる。先端をいきなりぎゅっとつままれる。背中が勝手にぐっと反りかえるほど、鋭い快感がゆかりを貫く。

 

「強引にされるのがお好きなんて、ロキちゃんと相性悪そう」

 

 偽ちとせが、すぐキスを再開できるところで非難がましく笑う。胸をまさぐっていた両手のうち片方が降りて、両ももの内側に潜りこんでくる。

 

「そ、こは……だ、め……っ、ん、はぅ、んっ……んぅうっ……!」

「でも、されるの期待してるんじゃない? こんなにしっとりして」

 

 偽ちとせと自分を巻きこむ甘美でもどかしい快感に、肌の外も内も揺らされる。その波を演技で乗りこなして偽ちとせを欺けば活路が見える。波に呑まれれば想像もつかないほどねっとり濁ったどこかに堕ちる。

 

(これは、フリです、気持ちよくてとろけて何も考えられないフリ……だまされてくれるか、フリができなくなるか)

 

 偽ちとせの愛撫が、乳房よりも敏感なところに届く。両足がびくんと跳ねて布張りのシートをずりずりとこする。偽ちとせが肩をぴくぴく震わせながら無言で笑っている。

 

「さっき、ロキちゃんにも触らせてあげて、ぬちゃぬちゃしてたのに」

「あれ、は……はぅ、ほぁっ、はぁ、あ、んっ……んあっ、あっ……!」

「初めてだった?」

「っん、ふ、やっ、あ、あっ……」

「私、乙女の初めてがわかるの、吸血鬼“みたいに”ね」

 

 偽ちとせの指先が、ゆかりの湿ったスリットを上下にこすりあげる。そのたびにとろっと温い愛液がかすかに、しかしいくつも重なってこぼれる。偽ちとせがゆかりの顔を覗きこむようにして、しつこく指先を動かす。

 

「う、うっ……うううっ、ぐっ…… う、ふううっ……!」

 

 ゆかりは偽ちとせから顔をそらしながら、快楽に翻弄されきっていると装う。ただ、偽ちとせの指で割れ目をくりくりとこねられると本当にたまらない。特に陰核の周りをいじられると、まぶたの裏がちかちかしてくる。

 

「ここは、乱暴にしちゃだめなのよ、そうおねだりされたって」

「んっ、んっうぁ……はぅ、んぅっ……」

 

 敏感な芽を丹念にいじられる。ぷっくりと勃起させられ、こりっ、こりっ、と転がされ、何度も腰が浮いてしまう。浮かされているあいだは演技が途切れてしまって、切れ目ごとに小さな絶頂らしきものを――ゆかりは自慰でも達したことはなかったが、知識と照らし合わせて“そう”悟るほどの性感は覚えていた――いちいち迎えている。

 

「それとも……私から強引にされて、しょうがなかった……って思いたいの?」

 

 偽ちとせがあやすように笑う。ごし、ごしっ、と中指を割れ目に押しつけてくる。ゆかりの両ももが偽ちとせの手にまとわりついてしまう。とうとう偽ちとせが両腕でゆかりの下半身に迫ってきて、閉じ切れていない足をしっかり開かされる。秘所から何かあふれ出すのでは、と恐れる。

 

「ねぇ、ゆかりちゃん」

「……っく、ああ……ゃ、あ……見ない、で……!」

 

 偽ちとせが、ゆかりの下腹部にそっとキスする。ちゅ、ちゅっと何度か口を触れさせる。ゆかりはまた演技を失いかけ、頭を弱々しく左右に揺すって懇願する。偽ちとせの赤い瞳がぬらぬらと光っている。このままむしゃぶりつかれて食べられてしまう、と妄想に囚われ、頭を振ってどうにか追い払う。

 

「んく、ふ、ぢゅ、ちゅう、んぷ……ちゅう、れぅ、ふふっ……んんっ……」

 

 クンニリングスの初めても奪われる。キスのときより熱く優しい舌遣いを教えられる。性感帯に触れられる羞恥と快感がすさまじく、演技どころか抵抗らしい抵抗もできなくなる。

 偽ちとせの両手、舌先、くちびるが、一斉にゆかりの秘所を味わい始める。割れ目をねろねろとなぶられ、偽ちとせの唾液でびしょ濡れになる。さらに舌先が膣口に入りこむ。ぐりっ、ぐりっと膣のなかまでねじこまれる。そのたびにずきんずきんと快楽が散って、頭の後ろでぱちんぱちんとはじけるような気がする。

 

「ひっ、い……ふぁっ、ひ、ぁああっ……む、り……です……!」

 

 ゆかりの理性が音を立ててひしゃげる。演技も意識も揺らぐ。“小さくない”絶頂がぱちぱちちらついて、思考を白飛びさせる。

 偽ちとせの手と腕がゆかりの腰をぎゅうと抱きしめて、舌と歯を強く押しつける。

 

「っ……っっうぅー……ぅ……!」

 

 腰の奥に生まれた絶頂感が全身を走ってめぐる。腰を跳ね上げ、足の先までぴんと突っぱらせる。がくんがくんと体をわななかせ、息ができなくて頭がぼうっとする。恥ずかしい格好をしながらイってしまっている、という事実が脳裏へ焼き付く。

 偽ちとせが、絶頂に痙攣するゆかりの股間へさらにキスを見舞う。ついにゆかり自身ろくに目にしたこともない愛液をしとしとと漏らして舐められてしまう。

 

「ん、んっううっ……っ! ぁ、は、あ……そんな、わた、し……」

「……ふふ、お気に召されたかしら?」

 

 偽ちとせのくちびるやあごが、唾液と愛液でてらてらとぬめっている。まるで自分が彼女を汚してしまった錯覚に襲われる。

 

「どんな感じだったか、教えてくれない?」

「……それ、は……その……頭が、真っ白、に……なにが、なんだか……」

 

 ゆかりの口ぶりは、偽ちとせを油断させるための演技と、偽ちとせの目から引き出された本音とが入り混じっている。

 

「まるで……私が、私じゃなくなる、みたいに……」

 

 ソファにもたれて、偽ちとせに流し目を送りながら言葉を足してやる。演技と本音が重なる。

 

「気持ちよかった?」

「は、ぃ……あっ、そんな、別に」

「気持ちよかったわよね」

「そんな、恥ずかしくて、とても……っきゃっ!? ま、またっ……!」

 

 偽ちとせがゆかりの太ももに再び首を突っこんできて、こんどはすぅはぁとわざとらしく匂いをかがれる。触れられてもいない秘所がじりじりとうずく。そこからぞくぞくと怖気に似てもっと熱っぽいものが背筋を通って広がる。

 

「ふー……あはは、んふっ……くすぐったぁい?」

「っぁ、やあっ……っふ、ぁ……」

 

 偽ちとせが、陰核のすぐそばになにかやわらかく湿ったものを押しつけてくる。羞恥で直視できないが、押しつけられたものがくちびると察してしまう。偽ちとせがきっと恋人どうしのキスのように目を閉じている。そのまつげの長さまで思い描けてしまう。

 

「っ、あ――あ! っあ、あぁぅ……」

 

 くちびるがぴったりとクリトリスに寄せられている。本当のキスよりも控えめな刺激で、ちゅ、と吸われる。くちびるごしの舌がわずかに震えている。

 

「もっと気持ちよくしてほしい?」

「……もっと、です、か……?」

 

 うなずいてはいけない問いにオウム返ししてお茶を濁す。股間からゆらりと顔を上げた偽ちとせが、偽蘭子より妖しく笑っている。“都合のいい”ことを言ってもらおう、と顔に書いてある。

 

「クリトリス……だっけ? 良いんでしょ、ねぇ」

「……そんな、の……」

「ふふっ」

 

 偽ちとせがいっそう強く陰核にキスしてくる。舌でねっとりとしごかれて、指の腹で優しくいじくられ、膣のなかに指を忍ばされる。すべてが甘く、もどかしく、すぐにでもイってしまいそうで、イキたくて、しかし少しでも長く浸っていたくなる。責めが、ゆかりを惑わせるポイントを的確になぞってくる。心まで裸にされてしまいそうで、油断させるために演技している、と言い聞かせても危うい。

 

「んぅっ!? また、それっ……ダメ、えっ……!」

「んちゅ、れりゅっ……んふ、言って、くれれば、もっと、いいことを……」

 

 クリトリスにキスされるだけでなく、膣口のごく浅いところに指まで出入りさせられる。じゅるじゅる愛液を吸いだされる。もはや演技なのか本心なのかわからない声でよがってしまう。偽ちとせの肩に手を添えて引きはがそうと腕を突っぱる。くちびるがずれても指の責めが止まない。もう偽ちとせをフリでも気遣ってやれず、彼女の金髪をくしゃくしゃにしながら顔を剥がそうとする。

 

(……ぁ、これ、は)

 

 手首のブレスレットで思いだす――この状況を一瞬だけぶち壊すすべが、ひとつ――しかし偽ちとせの愛撫に翻弄される。

 

「くひっ、ひんっ! はぁぁっ、んぅぅぅっ……!」

「んぐっ、ぢゅっ、ぷふ、んぐ……っ! ひどいわぁ、女の命……なのでしょう、ここでは」

「ぃ、ぅ……い、言います、から……やぁうっ、うあぁん……!?」

「何を?」

「ふひゅ、そ、そぇ、だめ、だ、めぇ……も、もう、いっ、いっちゃ、ぁ」

 

 偽ちとせが“言います”に一発で釣られてくれない。くにゅ、くにゅ、と膣のなかで指を使っている。きっと心底楽しそうな目で自分を見ている。あえて腰を浮かし、膣で偽ちとせの指を締めつける。

 

「あぅ、んんんんっ! んくっ、ひぅう……っ、ふぅうっ、うぅーっ……!」

「言ってほしいのは、ね」

 

 偽ちとせが、くすくすと笑いながらゆかりの顔を見上げてくる。勿体をつけたまなざしが美しくて恐ろしくてひざまずいてしまいたくなる。

 クンニされている姿勢でなかったら、そうなっていたかもしれない。永遠に縛られるよう誓っていたかも知れない。

 

「ゆかりちゃんが、私の――」

 

 両ひじを曲げる――年上で、凛々しくて、けれどかわいい衣装を前にすると照れくさがる仲間を思い浮かべながら――人差し指から小指までの爪を手のひらに立てるほど握りしめる。

 

「お……」

「――?」

「おすっ!」

「えっ」

 

 中野有香のすぐあとに、プロデューサーの困惑した顔も思い浮かんだ。

 

「けっこん、はじめっ!」

 

“有香式”は、ゆかりが知る限りこれ以上ないほどこの淫らな空気をぶち壊してくれる演技だった。

 

 

 

 ゆかりは、偽ちとせがまるで空気を失ったかのようにあたりをキョロキョロするようすを見た。クンニされているときに並ぶほど恥ずかしくなった。破廉恥は偽ちとせたちなのになぜこちらが恥ずかしい思いをするのか、と嘆息した。

 

「ドラちゃんロキちゃんっ!」

「あの、ゆかりちゃん、あなた」

「……ふぇえ?」

 

 恥ずかしいまま自棄と捨て身でダメ押しを言い放った。

 

「出る前にここのお金払っておいてくださいっ!」

「あ、はい……あっ」

 

 ゆかり自身にも意外なほどの勢いで、空気をぶち壊したまま偽ちとせをほんの一瞬だけ呑んだ。一言だけ引きずりだした。

 

「ロキちゃん、ここの代金おいくら」

「……持ち合わせあるんですか?」

 

 ゆかりはこれ以上何も会話しないようくちびるを結んで、そそくさと身支度し――「ここ、現金使えないはずです」「……か、体で払う」「誰に、どうやって」「うんって言っちゃったから……私たち、払わないとここ出られない」「……なんでそんな迂闊な返事を」「つ、つい……」「ゆ、ゆかり様っお願い私だけでも出して」「は?」――偽ちとせや偽蘭子のことを「こんな出会い方でなければ楽しくやれたかも」と思いながらブースに置き去りにして、淫らな凌辱から辛くも逃れた。

 

 家に帰るまでに心身の動揺がだいぶ収まったが、それでもゆかりはあの場面をただの悪夢と思えなかった。

 家の鏡を見た。

 置き忘れてしまった変装用メガネを新調しなければ、と言い聞かせた。

 

 

 

※

 

 その後しばらく、ゆかりは――主に依田芳乃のアドバイスにより――いぶしたイワシの頭を持ち歩いて、周囲から怪しまれた。

 

 

 

「……色欲の悪魔アスモデウスが女の子に取り憑いたとき、魚の臭いで追い出されたとか」

「うぅ、こんな生臭いのゆかり様に似合わないのにぃ」

 

 そのようすは、もし偽ちとせが知ったら「秘密にしている意味があるのかしら」と呆れそうなほど奇妙だった。

 

 

(おしまい)

 

 


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