そこは都会と田舎の間のような、そんな地域の住宅地。
異種族が共存し合う、科学文明の発展した暮らしやすい街である。
昼は賑やかだが、夜になれば人は疎らになり、家の中から歓談の声が聞こえるような平和な街。
だが、そんな平和な街だからこそ、刺激を求めて変態行為に及ぼうとする者もいる。
───深夜帯、サイレンサーによって限りなく消音されたマフラーの音がした。
黒塗りの車が物音の無い街を走る。
道にポツポツと立てられた外灯の明かりに照らされるたび、その表面がつるりと滑らかな塗装ではないことを伺わせた。
どこか興奮したように時折エンジン音を詰まらせながら、車は街を走る。
道に点々と、水滴を零しながら。
暫く走れば、深夜にも関わらず、明るい光が見えた。
その光の場所へ向かうため、車はウインカーを出す。
焦っているのか、新品のLEDにも関わらずウインカーランプの点灯は速い。
「いらっしゃいませ……」
低い声が、道より入ってきた車にかけられた。
黒い竜鱗に覆われた、四足の竜である。
胸にはガソリンスタンドの店員であることがわかる社員証を付けており、どこか眠そうな目をしていた。
しかし入ってきたのが黒塗りの車であることに気付くと、竜の目元に力が入る。
端的に言えば、好みだったのだ。
黒塗りで、クーペ特有の滑らかな形状。
フロントのランプは吊り目とキツい形状だが、LEDの乳白色の色が印象を裏返らせる。
竜が少し言葉に詰まっていると、車がゆっくりと給油口の蓋を開けた。
何かが詰まっているのか蓋は半開きで止まり、どこか困ったようにそれを数度繰り返す。
劣情を刺激させるような仕草に、竜は仕事仲間である給油ノズルに目を向けた。
誘っているのか、などと初対面の車に対して口にすることもできず、しかし困っているならばと僅かな劣情を隠しながら、給油口の蓋に触れる。
それはなんの引っ掛かりもなく、完璧に開いた。
そして竜と給油ノズルは、それを見る。
綺麗に掃除された給油口が、しっとりと湿っていたのだ。
それを見せつけるために開閉したのかと、そう疑ってしまうほど、それは淫靡な見た目であった。
竜が喉を鳴らす。
しかしあくまで仕事中であり、竜は一歩を踏み込む勇気が出なかった。
だが、そこまで誘われてはと給油ノズルは動いた。
どこか探るように、給油口へと先端を当てがい、するりと奥まで入っていったのだ。
その刺激に、車はチカチカとハザードを点滅させた。
ダラダラと、絞るように燃料の給油を行えば、まるで悦ぶかのようにマフラーから水滴を垂らす。
給油ノズルはその反応を楽しむかのように、時折静電気が起こらないよう中をかき回しながら給油を継続した。
「洗車、します」
目の前で行われる行為から目を逸らすように、車用のシャンプーをスポンジに染み込ませ、優しく体を擦る。
気持ちよさそうに、しかし同時になにかを期待するかのように、車はほんの少しウインドウを下げた。
それらから必死に思考を逸らしつつ洗車を行っていた竜はふと生じる泡が黒いことに気が付き、まさか車体の塗装を剥いでしまったのではないかと竜は慌てて水で泡を流した。
「あ、え」
泡の下より現れたのは、塗装前の白い地肌であった。
水性の黒い塗装で、塗装前の裸を覆っていたのである。
そして、洗車サービスのあるここを利用したということはつまり、そういうつもりだったのだ。
理解した竜は、スポンジによって優しく塗装を剥がしていった。
ザラザラとした水性塗装から、つるりと塗装前の処理がなされた白い素肌が晒されていく。
店舗敷地内とはいえ、外の道から見えてしまうこの場所で行われる変態行為に、竜の心臓は破裂しそうなほど速い鼓動を刻んでいた。
やがて、丁寧に全ての塗装が剥がされた車は、洗車用の水で湿った後部座席のウインドウを下げた。
挑発的なほどゆっくりと、蠱惑的なほど静かに、ウインドウのあった場所が穴へと変わっていく。
竜は怒張した陰茎を夜風に晒した。
凶悪の形状をしたそれを前に、車はただただ誘い込むように数度ウインドウを上下させる。
ぬるり、とウインドウから穴へと変わった箇所へ竜が腰を合わせ、頭を抱くように優しく車体を前足で固定すると、ゆっくりと陰茎を突き入れた。
車内は暖房がかかっていたのか生温く、合皮生地のシートが先端を刺激する。
快楽が、竜の背を走った。
ボディの金属が隠すように小さな、しかし竜へ聞こえる程度の淫らな軋みをあげ、よがるようにウインドウを細かく震わせる。
ゆるゆると気遣うように優しくピストンすれば、車のフロントタイヤが強い快楽から逃れるように動く。
しかし給油口へと燃料を注がれているが故に発進はできず、そこから動くことはできない。
何度もピストンを繰り返せば、車内の空気が竜の鼻元へと届き、体臭とも言うべき優しくも甘い匂いを察知させる。
ぐ、と締め付けるようにウインドウが僅かに締り、その刺激に竜は射精を急かされていることを感じ取った。
車は無意識のうちに、車内へ吐精されることを期待していた。
竜の、強い子種でシートを汚されることを。
給油口と後部座席の穴の2箇所を同時に犯された車は、チカチカとランプを明滅させながらそれを待ちわびた。
やがて、締め付けるウインドウを押しのけるように怒張した肉棒から、白濁液が車内へとぶち撒けられる。
粘質なそれは車内を沈めるように汚し、あまりの刺激に緩んだ反対側のドアの隙間から溢れ出すと、車体と地面の間で糸を引いた。
給油口から満タンまで注ぎ込んだ給油ノズルは己を引き抜き、責め立てられて車内の電灯表示を明滅させる車を眺める。
2穴を犯され、露出行為に等しい状況から来る興奮から完全に放心した車は、やがてハッと気がつくと、料金を落としてガソリンスタンドから一目散に出ていった。
声を掛ける暇も無くおいていかれた竜と給油ノズルは顔を見合わせ、いい体験をしたと笑いあった。
───そして、またある日の深夜。
「いらっしゃい、ませ……」
誰も通らない道から、ざらついた水性塗料の黒い車が入店した。
竜の顔を見て、期待するように給油口をまたゆっくりと開いて。