元カレの男が友希那さんをレイプします。

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湊友希那が元カレにレイプされます。後に今の彼氏が出てきて、ラブラブを見せつけたります。


真・湊友希那強襲っ!

 男――浮島ケイスケは若干の緊張を含んでいる指でインターホンを鳴らした。

 まるで浮遊しているような、不思議でどことなく気味が悪くて、とにかく現実感の無い情緒の中に在った。そのため男は、自分のその指すらも、ひどく委縮しているように思えてしょうがなかった。

 インターホンからはすぐに音が飛んだ。音は高く、鋭かった。最新式らしいことが見た目から解った。どこにでもあるような音だとは思ったが、今の男にはそれが、自分を真っ向から拒絶して、さらに追い返そうとしているようにも聞こえてしまった。疲弊した精神で下向きに思考したうえで、自分を、自分で嫌悪した。音は良くも悪くも無情だった。扉の前で勝手に、どくどくと精神を自虐する男の耳を一通り悪戯に撫でてから、空気に溶けて、不安定な余韻へと変わっていった。

 静寂の空気感があたりを再び支配して、数秒後、それまで、ただの壁のようにも思えるほどに不動だった扉が、ゆったりと動いていった。

 てっきり、この最新型から声が轟くとばかり思っていたため、男は予告の無い扉の挙動にさらに情緒を乱された。

「あっ――」

 しかし、それでも男は、自分の中にあるそれなりの対応力ですぐに順応し、素早く気概を整えた。

「友希那さん……」

 見えてきた玄関の中には、彼女である湊友希那が立っていた。

「こ、こんにちは……!」

 男は、笑みを作った。それまで自虐するほどに痛んでいた精神が、愛する女性を前にして回復して、じわじわと再生していくのを感じた。

 友希那は、ただそこに、いつものほぼ無表情をこちらに向けて、じっと見て立っているだけ、ではなかった。まず、扉で作る隙間を最低限にしていた。さらに、その少しだけの隙間に、自分の身体をねじ込むようにして、不自然なほど、前に出ていた。

 つまり、今の男には、この湊家の玄関の様子が一切見えていないということだった。精神が内気な方向に向いている男には、彼女のこの少し勢いのある立ち姿が、振る舞いが、まるで、玄関や家の内部を、自分には絶対に見せまいと努力して抵抗しているように思えてしまった。

「何か用かしら」

 友希那からの唐突の辛辣さ――男が勝手にそう感じているだけかもしれないが――を前にして、男は、若干などではなくしっかりと動揺した。

「……どうしたの?」

 男の無言にしびれを切らしたらしい友希那は、より繊細さと冷たさを含んだ尖った眼光で、低く訊ねた。情緒は極めて冷静だった。それ自体はいつものことで、日常的なことで、声を受けた男も安心すらしたが、しかし、引っかかることとして、友希那の口調は、どこか他人行儀だった。今の友希那から感じ取れるのは、常々ある安定した冷静さではなく、そういった感情の起伏や、人間らしい情緒の香りすら掴むことができない、淡々とした雰囲気だけだった。

「用がないなら、帰ってくれるかしら」

 それは少なくとも、もう数年も交際している彼氏相手にするような声ではなかった。交際前よりも厳しい声質だった。冷たさすら、無かった。一応、声だけは出しているが、その中には少しの感情も内包されておらず、ただ音だけが届いているような具合だった。

 まるで、こちらに対する興味関心を、すっかり捨てたような無機質さだった。

「えっと……。ちょっと話がしたくて……」

 それでも男は、愛する友希那にいつも通りの温かい笑みと声を向けた。寄り添おうとしていた。何か、自分がまだ知らない要因によって、たまたま少し、ほんの少し機嫌が悪いだけだと思っていた。だから、こちらが全てを受け入れる温かい様子で取り組めば、友希那の方も、応えてくれると思っていた。

 しかし友希那は、そんな男の穏やかさを前にしても、顔面に貼り付いた分厚い鉄板を、少しも融解してくれなかった。むしろ、男の一言一言にいちいち眉間で反応し、露骨に嫌そうというか、とことん迷惑そうな感情を放出していた。

「あの……、とりあえず、家、上がっていいかな?」

 友希那の態度に気圧された男は、若干の震えを湛えた声を、それでも真剣に彼女に届けた。さらに後に、友希那の目の中を、ぎゅっと視た。見出される光たちは、やはり顔面同様に冷たさすら超えた無感情で、恋人関係だったはずの自分を、真っ向から無視しているような具合だった。

「少しだけよ」

 友希那は、一応男のことを客だと認識しているらしく、しかし、なおも冷徹に、その客を招き入れた。

 顔や声から感じれる雰囲気は、どこまでも無関心だった。

 

 自室に入りたいと申し出た男の声を、友希那は切った。それは達人によって鍛え上げられた刀剣の如く、鋭く、無慈悲で、とにかく冷ややかさだけを感じる一閃だった。

 嫌な雰囲気だった。先ほどから、友希那は男のことを、とにかく刺して、敵対していた。それは到底、恋人にするような感情ではなかった。彼女の唐突で無理やりな変化に、男はひたすら、困惑するだけだった。

 結局、二人はリビングのソファーに腰掛けた。当然のように、隣り合わせではなく、対面する位置関係に座った。男は、てっきり隣に座ってくれるものだとばかり思っていたが、友希那は驚くほどに素早く、向こう側に腰掛けた。まるで、最初の最初から、自分たちはその程度の間柄だとでも言いたげな雰囲気だった。

「なんでだ……?」

 男は小さく呟いた。腰ほどの高さのテーブルを介して視える彼女の姿が、妙に、遠くに思えて仕方がなかった。

 やはり、さっさと事を進めるしかないような気がした。今の友希那は、どういうわけが自分から離れ、以前のような、冷静ではあるがしっかりと温かい雰囲気ではなくなっていた。

 男はごくりと喉を鳴らした。幸い、今の家には友希那以外の人間は居ないようだった。

 行為を執行するには絶好の状況だった。

「それで、要件は何かしら。……はやくしてほしいのだけれど」

 ぐるぐると思考していると、友希那が機械のように出した。男はそれを受けて彼女の目を再び視た。見つめた。

 それは、硝子玉だった。感情の生き生きとした燦然などが皆無で、こちらを見ているというよりは、ただこちらに向いているだけのように思えた。

「あ、あのっ……。最近さ、ちょっとっ、そのっ……。僕たち、すれ違い気味じゃない?」

 男は口を開いた。すでに彼女に圧倒されていたが、それでも、腹からひねり出す勢いで声を出した。

「そうね」

 友希那は表情を変えずに答えた。

「そ、そうねって……。僕たち、付き合ってるんだよね? だったらさ、もっとこう……、いろいろあるじゃん?」

「曖昧ね」友希那は男から目を逸らした。そして小声で、「……そんなのだから、駄目なのよ」と吐いた。

「駄目……? やっぱり僕、彼氏として、なにか不甲斐ないかな? 大学に入ってからだよね? なんというか、正直、君から僕への関心が無い、みたいに感じててさ……。いや、慣れない大学とか、音楽活動とか、いろいろ忙しいのはわかるんだけど、でもやっぱり、彼氏としてはさ、もっとこう……、正直かまってほしくてさ……」

 男の語気は徐々にその勢いを失った。海の上に不時着した飛行機のように、最後にはごわごわと虚無の中へと浸かって、覇気を捨て、ただ聞き取り不可能な言葉として、空気中を漂った。

「あ、あのっ、つまり何が言いたいかって言うとね――」

「話はそれだけかしら」

 友希那が、きっぱりと放った。慌てて落ち着かない男の腑抜けた情緒を、上から叱り付けるような強さだった。

「え、え……?」

「言いたいことが言えたなら、もう帰ってちょうだい。今日、これから人と会うの。だから、あなたのくだらないオナニーに付き合ってる暇なんて、少しもないわ」

「オ、オナニーって……」男は純粋に驚いていた。必死に想いを伝えた結果、その全てを本人からオナニー呼ばわりされたのが悲しかったが、それ以上に、友希那の口からその手の単語が出てくるのも意外でしかなかった。「ぼっ、僕はもっとっ、友希那さんと仲良くしたくてえ」

 男の声は震えていた。もはや、自分の感情では制御できそうにない喉の震えがあった。

「だから、それがオナニーだって言ってるのよ。……私はもう、あなたとどうにかなるつもりなんて無いわ」

「なっ……、なにそれ」

 男は、無表情な恋人を前に、脳の奥がカッと熱を放っていくのがわかった。脳裡の様々な思考が、一気に、溶けた鉄パイプのようにぐにゃりと歪んでいた。裏切られた気分にあった。いや、不確かな気分などではなく、この女性は自分を確実に裏切っていた。それも、裏切りの行為を悪いとは思わず、まるで、そうなるのが当然だとでも言いたげのように思えた。

 男の中に発生した黒い熱は、あっという間に脳を満たし、顔面を火照らせ、そのまますぐに、血管を伝っているのではないかと思うほどに、素早く、しつこく、全身に流れてみなぎっていった。

「ぼ、僕は君と、友希那さんと結婚とかしたいって、ずっと思ってるんだよ……?」

 男は強めた眼力で友希那を睨んだ。目にも言葉にも、体内を這いずる熱が籠っていた。

「そう。でも私、あなたに対して、もうそんな気持ち、少しも無いの。わかってほしいとは言わないから、もうこれ以上、私に付きまとわないで」

 友希那は、男の熱など感じ取ろうともせずに、ただ己の無機質を貫いて居座っていた。座ったまま腕を組み、何も浮かんでいない顔で、何も籠っていない声を出した。

「――はっきり言って、迷惑よ」

 勝手に独りで盛り上がっている男に、哀れみの意を向けている雰囲気すら在った。

「なんでよ……」

 男は、心臓の奥からひねり出されたような声を出した。描いていた未来が、抱いていた理想が、掲げていた夢が、全て、嫌になるほど綺麗に簡単に砕ける音が、どこからともなく聞こえてきた。

「僕の、何がいけなかったの?」

 その音は幻聴などではなく、しっかりとした事実として存在して、男のすぐ目の前に迫っているようだった。

「――ねぇ、どうして? 言ってよ。言ってくれたら、直すからさあ……」男はもはや縋るような声だった。離れていく彼女に、なんとか追いついて説得したいと思っていた。「ねぇ、友希那さんっ」

 力強く、彼女の、唯一無二のはずの恋人の名を、呼んだ。

「そうね」

 しかし彼女は、当の本人は、その顔を少しも動かさなかった。愛しているはずの相手に名前を呼ばれたというのに、何も聞こえなかったような平然とした情緒だった。

「強いて言うなら、全てよ」

「す、べて……?」

「ええ。何もかもが駄目だったの。そして私は、本物の愛を知ってしまった。本当に相性がいい相手と、巡り会ってしまったの」

 友希那は至極、真剣だった。声の中には、明るさがあった。今日、男と顔を合わせてから、まだ一度も得ていない温かさが、ここでようやく色を出していた。男にとっては理解不能な『出会い』とやらを話しているその瞬間だけ、彼女の中に、微細な光が滲んで視えたような気がした。

「……なんだよそれ」

 男は、全身がぷるぷると震えていくのを感じていた。それは明らかな、そして強烈な怒りだった。

「ごめんなさい。でも聞いて。私はあの人を愛してる」

 目の前で、平然と自分を捨てようとしているかつての恋人に対しての怒りの熱量が、身体をどろりと包み込んでいた。

「これはどうしようもないことなの。私は変わった。変えられたの。もうきっと、前のようには戻れない」

 満たされ尽くした活発な意思は、次第に、理性すらも飲み込んでいき――。

「あなたには、どうか私たちのことを」

「ふざけんなっ!」

 男は立ち上がった。左右に握り拳を作っていた。目を見開いていた。血走っていた。出てきたのは大声だった。怒声だった。怒りを吐き出していた。感情を繰り出していた。

 熱そのものを、怒気だけを、放っていた。

「そんなのっ、おかしいじゃないかっ!」

 それは、これまでの人生の中でも、出したことのない憤怒だった。流石に友希那も驚いたらしく、目を丸くしていた。しかしその瞳には、やはり光が無かった。最初から男のことなど、もう対等な人間として認めていないような雰囲気だった。

 友希那の中で、すでに男という存在は、無価値に終了しているようだった。

 男はテーブルを乗り上げ、友希那が座っているソファーに飛びつくように突進した。そして友希那の嬌声を無視し、彼女を押し倒した。

「……なによ」

 友希那は、ただ男のことを鋭い眼光で見ていた。強引に打倒されたというのに、一切の呼吸や情緒の乱れが無かった。男の奇行に毅然とした態度で対応しているというよりは、まるでその事態の異常性や、危機としての濃度そのものを認識していないような雰囲気だった。最初から男のことなど、驚異としては少しも、本当に少しも認識していないような風体だった。

「なんだよ、その目……。君、いま無理やり――」

「それが何よ」

 それは、良く言えば余裕のある情緒だった。

「あなたなんかに今さら無理やりされたって、別に何とも思わないわ」

 しかし悪く言えば、男の何もかもを『ナメている』態度だった。

「なんで、なんだっ……。どうしてそこまで、僕のことを無視するの……?」

「気付いたのよ。私にとって本当に相性のいい相手は、あなたじゃなかった。他にもっと、ぴったりな相手が居た。そしてその人と、出会ってしまった。……これは。誰も悪くないと思うわ」友希那は、冷静でまっすぐな目だった。それからすぐに目を逸らし、若干頬を赤らめた。「強いて言えば……、そう、あなたが少し、雄として不甲斐なかっただけ」

 その目には一瞬、ほんのりとした温もりが光として浮かんだ。それは今まで、男も見たことがない友希那の顔であり、感情だった。そしてその、少しの憐憫と勝ち誇ったようなゆとりのある輝きが、友希那の中の女性としての顔であることを、男は、本能で察知できた。

 察知できてしまった。

「……僕たち、付き合ってたんだよね?」

 男は自分に確認するように呟いた。

「昔の話よ」

 友希那はきっぱりと素早く放った。もはや、男と交際していたという過去そのものを消し去りたいと、声質と目が切実に訴えていた。

「……そろそろ退いてくれるかしら? 迎えが来る時間なの」

 友希那は呟いてから、男の対応を待たずに自分から身体を起こそうとした。しかし男は、そんな友希那のことをがっしりと掴んだ。離すわけにはいかなかった。それでは何もかもが筋違いだと思った。

「ちょっとっ――」

「黙れえっ!」

 男は、眉間を歪ませている友希那に、それ以上の嫌悪感で迫った。彼女の両肩を改めて掴み、そのまま無防備な顔面に唇を落とした。激突させ、閉じた肉厚を強引にぶつけるような具合だった。

「んむっ……。なにっ……。んっ」

 男は、そのまま友希那の唇を貪ろうとした。しかし友希那は口を開かなかった。ムー、ムー、と唸り、顔を左右に避けさせるだけだった。追跡は簡単だった。簡単だったが、やはり友希那は口を開かなかった。

 唇は許しても、口内だけは絶対に守る、という気概を感じるほどだった。

 男は悲しく思った。恋人であるはずなのに、まるで他人に襲われたかのような否定を続ける友希那に対し、哀しみを得ていた。全身にのしかかるこの哀しみの、はっきりとした重さが腹の奥で唸っていた。じんわりとした震えが、幻覚などではなく実際の感覚として身体じゅうに解き放たれていた。

 男は、適当に探るように口を動かしながら、友希那の胸に触れた。まるで、体内の虚しさを誤魔化すように、とにかく行動して性欲の火種を焚いていた。

 控えめな乳房の柔らかい感触が、妙に懐かしいと思った。

(どうしてっ、どうしてこんなことにっ……!)

 最近、触れ合いがどうしても少ないのは、大学と音楽活動のせいだと思っていた。だからこそ、しっかりと「寂しい」と伝えさえすれば、またいつものように、高校時代のように、温かくて愛に満ち満ちた関係を築いていけると思っていた。しかし、彼女はそれを完全に拒絶していた。拒絶している、ようだった。本気で男のことなど、もう、とっくに眼中に、存在していないようだった。

「ううっ、友希那っ……、なんでだっ、ゆきなあっ」

 男は、いまだ開かない強固な友希那の、それでも柔軟で愛おしい肉厚に顔を這わせ、舌を突き出して、肉体を這わせて、彼女を舐めていた。瞳には涙が浮いていた。哀しみを凝縮した苦しい涙たちが、滲み出すように崩壊して頬を流れていた。意識そのものが乱れていた。彼女はもう離れ、彼女の中にも自分は無いということに哀しむ感情と、それとは別に、まだ彼女のことを求めていたいという枯渇しない愛の感情が同時に発生し、そのぐちゃぐちゃとした情緒の全体を、激烈な怒りが包んでいた。正常な思考を失い、操縦不能になった爆撃機は、次に、友希那にとっての『新しい男』について思考しだした。かつてどうしようもなく愛し、また、愛してくれた彼女のことを、根本から破壊してしまった男とは、一体どのような人間なのかということだけが非常に気になった。

 そしてその男に対しても、純粋で強烈な怒りを向けていた。

 その怒りは、すぐに復讐心へと変貌していった。変化の速度は凄まじく、さらにその凶暴な精神は、男の脳裡に、すぐに一つの方法を降臨させた。

 その、多大な熱量を孕んでいるどす黒い感情は、男の身体の中で、発火して咲き乱れるように育っていき、男の肉体を、瞬間的な速度で起動させていった。

「こ、このっ――」

 男は友希那のスカートを破った。憤怒によって増加した圧倒的な筋力が、友希那の落ち着いた色合いの長いスカートをびりびりと裂いた。こんなにも勢いのある行動に出れば、流石の友希那も驚くかと思ったが、その予想に反して彼女は、少しの動揺も見せなかった。

 かつて、男が夢中になった、友希那にとてつもなく似合っている魅力的なスカート。友希那は自分が持つ自分の人間としての雰囲気を熟知しているため、それによく似合う衣服を常に着ていた。そうやって自分を飾り、とにかく美しく居ようとする気概も、男が心から惚れた要素の一つのはずだった。

 崩壊した美意識の下から現れたのは、すらりとした曲線の両足だった。直線的な箇所は無く、ありとあらゆる部分が、しなやかに曲がった優しい線で造られており、さらにそのむちりとした雰囲気からは、永続的な、決まった形の意識が感じられなかった。指を圧し込めばその分沈むことが、視ただけで理解できた。男は素早く大胆に指を這わせた。いっぱいに広げた左右の五指を遠慮無く沈ませると、やはり、友希那の足の肉は、加減に合わせてしっとりとへこんだ。

 肉体からの抵抗が無いわけではなく、分厚い肉の質感が直接指に触れた。

「ああっ。柔らかいっ」

「……気持ち悪い」

 友希那は男の顔を見つめながらため息を吐いた。触れられていることに嫌悪感を得ているようだったが、しかし同時に、だからと言って手を払い退けて抵抗するほどの気力も抵抗感も無いような雰囲気だった。猿のような性欲だけ餓鬼を適当に身体で遊ばせ、さっさと満足させようといった気概だったが、久しぶりに愛する女性の肉に夢中になっている男はそれに気付かず、ひたすら友希那の左右の太腿の絵面に、生唾を飲みながら指を進めるだけだった。

 友希那の太腿は柔らかかった。柔らかかったが、男の中には、一つの疑問が浮いていた。友希那の今の太腿は、自分が最後に触れた時よりも、さらに深い弾力を得ているような、含んでいるような、発揮しているような、そんな気がした。ただの気のせいだとも思った。だから男は、その疑惑をかき消すように、必死に太腿を揉んだ。しかし、揉めば揉むほどに、脳内に蔓延する霧のような疑惑は、濃く色を見せていった。男はそれでも揉んだ。過去の記憶の中の友希那の柔らかさを、引っ張ってくるように必死に思い出して、それらと、今まさに指に触れている質感を照らし合わせるようにした。

 すると、むしろ疑惑の方が大きくなっていった。やがて疑惑は、堂々と、もう逃れられない確信として君臨し、そのまま固定されてしまった。

 明らかに、友希那の肉体は改造されていた。しかしそれは、根本的なところから全てを塗り替えられたというよりは、奥底に潜んでいる友希那の香りをそのままに、しかし外見で纏っている雰囲気だけが、すっかり変わっているような雰囲気だった。かつての友希那の中に在った、全てを脱ぎ捨て神秘をむき出しにしても、それでも上品さはしっかりと保っていた高貴な性的加減はもうどこにも無かった。今の友希那は、ただただ卑猥で、雄の欲情を刺激して、理性を篭絡させるだけの、都合の良い肉体に変化していた。

 男は、その猥褻なだけの友希那を視て、目頭がさらにじっとりと、酸っぱいほどに熱くなるのを意識した。胸中にあるのは悔しさだった。友希那は本当に、自分ではない別の男の手によって、本来の魅力を捻じ曲げられてしまったようだった。

 男は、多大な喪失感と共に両手を太腿から離した。ここまで自由に彼女を貪っているというのに、本人である友希那からの抵抗は、一切、無かった。男はちらりと彼女の顔を視た。友希那は確かにこちらを見ていたが、無力な男児の無意味な悪戯をつまらなそうに眺める達観しきった淑女の雰囲気だった。男は落胆した。全身から力が抜けていく思いだった。自分の存在が、すっかり無関心の位置に放り込まれているらしいことを目の当たりにすると、それだけで、じっとりとした無気力が全身を廻って何もかもが嫌になった。

(なんで、そんな顔するんだっ……。どうしてっ)

 それでも男は、ぐっと奥歯を噛みしめながら、ついに友希那の股間に手を伸ばした。中心に存在する少し膨れた友希那の性器は、黒の下着で覆われていた。先ほどからちらちらと視界の中を出入りしていたが、その死守の布は、黒色の薔薇を連想させるような、複雑で仰々しい装飾の入った下着だった。

 下着とは本来性器を隠して守るためだけ存在であるはずが、今友希那がつけているそれは、むしろその存在を主張しているような雰囲気だった。

 男は友希那の下着事情に少しも詳しくないが、彼女がこんなにも、どちらかと言えば派手な部類に認定されるであろう下着を持っていることは知らなかったし、彼女の性格から、持っていると妄想することもなかった。

(こんなのもう、ち――)

 ゴクリと、喉を蠕動させた。直感的なところから出てくる言葉を、強引に叩き切って亡くした。

 男は、友希那のそれを、憎たらしい蟲をはたいて落とすように剥ぎ取った。友希那は抵抗しなかった。驚くこともなかった。下着を破壊され、女性としての尊厳が凝縮した部位を侵略されているにもかかわらず、彼女は、ツンとした態度でそれを傍観しているだけだった。

 友希那の秘部に毛の類は存在していなかった。割れ目はちょこんとしていたが、どこか弛緩した雰囲気を感じた。すでに他人に全力で介入されて汚された、かつての専用の名器だった。が、やはり友希那のものであるという効果はいまだに大きいらしく、男の竿はすぐに、二重の苦しみの中で肥大化していった。

 男は、友希那から手を離して自分のズボンと下着を脱いだ。その間も、友希那は動かなかった。逃げようと思えば逃げれるし、反撃しようと思えば反撃できるはずだった。しかし友希那はそれらをしなかった。じっと、ソファーに身体を預けていた。男を待っているようにも思えた。どこか諦めているというか、呆れているような顔をしていた。

 男の竿は明らかにいつもよりみなぎっており、有り余る欲望を誇示する痙攣の度合いも、数値として具体的に示すのなら、もはや桁が違った。男はその自分自身を握った。そして友希那に再びついた。躊躇など、無かった。もともとは自分の相手であるため、おかしな点などどこにもないはずだった。おかしいのは友希那であり、もっとおかしいのは、男のはずだった。

「行くぞっ……!」

 震える声で呟く男は、勢い良く友希那に進めた。にゅるりとした柔らかい感触が竿を包み、しめった温さがまとわりついた。明らかに最後にした時とは質感が違った。しかしそんなことに泣いている暇は無かった。とにかく男は腰を震わせた。そうすることで、友希那が自分を身体で思い出し、自分に戻ってきてくれると信じていた。

「う、うううっ……!?」

 小刻みに動くと、友希那のとろけるほどになめらかで、しつこくまとわりついてくる具合の肉が、竿をとにかく刺激した。

「ぐうっ。なんだこれっ。こんなっ、うそっ」

 これもまた、明らかに違う質感だった。最後に行為に及んだ時は、こんなにも発達して、とにかく多機能で、侵入してきた竿を容赦無く刺激してくるような寛容さと柔軟さは無かった。正直なところ、すぐに果ててしまいそうだった。しかしここで絶頂すれば、それは敗北の意味を持つはずだった。だから男はとにかく耐えた。友希那を責めるつもりで我慢して、我慢して、我慢して腰を振るわせた。

「ふっ、ふうっ……。ううっ」

 しかしそれは、一切動かない友希那に対し、身勝手に盛り上がっているだけの情緒だった。冷静で、強烈で、無表情で、おとなしいだけの友希那を肉体的にも精神的にも動かすことなど、すでに男には、不可能だった。今の男は、巨大で完成度の高い人形相手に、効果の無い執行を続けているような、はっきり言って幼稚さの残る、虚しくへこへこしい具合に過ぎなかった。

「くうっ。ほらっ、どうだっ。彼氏のだぞっ。ほらっ、ほらあっ!」

 男は懸命に腰を震わせた。友希那は少しも顔色を変えなかった。顔は真っ青で、汗もかかず、嬌声も漏らさず、ただ、自分の腰の位置で何か味気なく動いていることを、まるで自分のことではなく他人の散歩をぼうっと眺めるように、ひたすら茫然と見つめるだけだった。自分の穴を勝手に使用し、勝手に独りで浴している男に、哀れみの瞳すら、向けていた。

「ううっ。イくぞっ。出すぞっ。中に出すぞ友希那っ。中出しだっ。おらっ、孕めよおっ――」

 流石に我慢できなくなった男だけの荒い呼吸の声が、少し辺りに散っていた。しかし、その乱れた質感に交わるような、対応して同時に嗜んで、そのまましっとりと繋がるような、相対的な相手の声は当然、上がってこなかった。

 男が、完全に独りで果てるだけだった。

「ううううううっ……」

 男は、確かに友希那の内部で、果てた。友希那の膣に挿入された竿は震えており、先端からは一応、温かい粘液が垂れていた。が、それは、友希那の、長くうねりのある複雑な肉壁の隙間に、潰れるように埋もれて終わった。子宮はもちろん、子宮の入り口にすら、届くことがなかった。友希那の肉をただ湿らせ、なんだか下腹部の辺りを、緩くさせただけだった。

「満足かしら」

 友希那は、息切れで肩を揺らしている男に問いかけた。その声は、長時間他人に待たされた挙句に出るような、怒りの類を通り越して、ただ面倒臭がっているだけの、ただ煩わしく思っているだけの、質量すら無い空気にも似た音だった。

「くっ、もう一回――」

 男が腰を再度震わせようとした瞬間、このリビングの出入り口の扉が、ガチャリと開かれて大きく開いた。

 入ってきたのは大柄な人間だった。

「友希那ちゃんっ!」

 そして開口一番に、大きな声で、そんなふうに、叫んだ。

 脂のような、しつこく耳に居残る声だった。

 男は声にただ驚いたが、友希那は素早く声の方に向いた。そして、男からすればあからさまな不法侵入だと言いたくなる不審な存在の顔をじっくり視ると、その満面に、パァッと生命力を咲かせていった。冷たかった顔に、みるみるうちに熱が宿って行き渡り、双眼にも、閃光が出現していた。

「え、誰……」

 その瞬間、友希那の股間がきゅっと発動していった。窒が一気に湿りを帯び、水分で満たされていき、すぐに蠕動のような激しさを発揮して、男を締め付けた。

「なっ、なんか――」

 男は困惑していた。股間では竿が再起していた。友希那の、とろけるような、形の無いぬるついた肉体が、萎えかけていた男をぐんぐんと、本人が認識するよりも圧倒的にはやく膨らませ、さらに、より強靭な、それまで独りでは到達できなかった硬さへと、進化させていった。

「だ、大丈夫かいっ?」

「え、ええ……。でも――」

「ううっ? イぐぅっ……!」

 見知らぬ男の困惑する声の中、その、大胆で濃厚で細やかな友希那の肉の名器が、男を二度目の射精へと導いた。全身がぷるぷると震え、竿が友希那の中で膨張して、発射していた。それは未知の領域に相当する激しい射精だった。今まで感じたことのない柔らかさによって、今まで感じたことのない深い射精を体験していた。精液だけではなく、身体の底の活力までもが放出し、身体の芯そのものが抜かれて、ごっそりと持っていかれるような爽快感すら得る具合だった。

 男は消耗していた。一瞬で身体の全てが無くなっていた。大量の射精の後に残ったのは、弛緩しきった下半身がごわごわと震えるほどに強くて、不思議で、しかしとても心地の良い、疲労感だけだった。

 しかし、男が再び出したその粘液も、すぐに友希那の肉壁に揉まれて、擦られるようにかき消されていた。

 男が、己の身体を削って行った種付けも、結局は全て、その気配すら無いものとして、沈んでいくだけだった。

 

「じゃあ、君がケイスケくんなんだね?」

 リビングのソファーに座った彼は、男のことをじっとりと見つめていた。

 男は無言で頷いた。下半身は出したままだった。竿は、先ほどの予想外の射精によってすっかり小さくなっており、さらに腰全体は、その余韻によっていまだに震えていた。

「ふぅん……。へぇ、そう……」

 彼は、男のことを目線で舐めていた。その目は値踏みをするような卑しさがあったが、対等に位置して相手の実力や器量を測ると言うよりは、自分の中の偏見のような予想の段階ですでに見下している劣等種族のことを、さらに深く観察して、その醜さや、未熟さなどの、自分自身との明らかな差を改めて認識して、もともとあった優位性を、上からなぞって確かめるような目つきだった。

「……なんですか」

 男は彼を刺すつもりで出した。しかし声は露骨に震えており、上擦っており、まともに空気を震わせて伝えることもできない非力さに満ちていた。

「え、あぁ……」すると彼はパッと顔を明るくした。男の、唯一立派な怒気の雰囲気に本気で驚いているような、しかし一方で、動揺の類は一切感じておらず、余裕だけがある顔だった。「ごめんごめん! ちょっとね、気になってさぁ!」

「そうですか」

 今まさに、対面しているこの存在こそが、自分の彼女である友希那をおかしく変えてしまった元凶であった。男はその、自分を文字通り舐めている眼光の中を覗いてみた。その瞳には、どろりとした何かがあった。光や熱と表現するには汚すぎる、複雑で執拗な概念そのものが、どっしりと埋め込まれていた。

「なるほど、なるほど……。でぇ、どうしてそんな君が、僕の友希那ちゃんと、あんなことを?」

 彼が友希那の名をねっとりと呼称すると、隣の友希那はそれだけで淫らな目を放って反応していた。今の友希那は彼のすぐ隣に座っていた。下半身は露出したままだったが、特別気にしてはいないようだった。

「は……?」

 目を見開く男を無視して、友希那はそのまま、独りで満足げに口元を緩ませていた。彼にゆったりと寄りかかり、ずっとにたにたと、正直、気味の悪さすら感じてしまうほどに永遠と、にやにやへらへら、緩んでいた。

「ぼ、『僕の』って、なんですか……?」

 男は、あくまで冷静さを包んで、言葉を放った。

「え? だって僕たち、付き合ってるもん。ねぇ?」

 彼は、にやけながら隣の友希那の手を取り、五指を絡めた。

「ええ、そうよ」

 友希那もその指を握り返し、ただでさえ笑みを浮かべている不気味な顔を、さらににっこりと弛緩させた。

 その笑みは、かつて、男にも見せたことのない笑みだった。そもそも普段から冷静で矜持を感じさせる友希那がするはずのない、完全に溶けた笑みだった。もっと彼女は、楽しさや嬉しさは感じていたとしても、それはそれとして、自分の中にある高貴な尊厳は絶対に忘れずに、どこか達観した様子でほんのりと笑うはずだった。

(違う……。君は、そんなふうに笑う人じゃないっ……)

 男は、目の前で通じている友希那を視て、胸の奥の位置がぐぐっとつねられているような感覚を得た。その痛みのような、違和感のようなものはやがて全身に流れて触れていき、拭ったり誤魔化すことのできない寂しさとして、情緒をぞくりと満たしていった。認めたくはなかったが、この顔こそが、湊友希那が本当に安心している顔のような気がした。この友希那は彼を完璧に信頼しているようだった。普段から持っている尊厳を一旦忘れて弱さを見せる相手は、すでに自分ではなく、謎の彼のようだった。

「で、改めて聞くけどさ、友希那ちゃんは僕の恋人なんだけど、そんな友希那ちゃんと、君は何をしたの?」

 そしてその不思議な彼は、瞳の中の悪意をさらにぎゅっと強め、その全てを男に、遠慮無く向けながら低く吐いた。彼は、男を責めていた。 責していた。どういうわけか本気で怒気の中にあるようだった。すでに友希那は自分のモノであり、それに手を出してきた男のことを、根本的なところから敵として認識しているような雰囲気だった。

「それはっ……」

 お門違いのはずだった。理不尽であるはずだった。友希那とはもともと男の恋人であり、それを横取りしたのは彼のはずだった。

「無理やり襲ってきたのよ」

 友希那が、唐突に冷静な声で放った。淡々としており、先ほどの行為が本当に嫌で、心の底から拒絶し、それを執行してきた諸悪に、純粋な敵意を感じているような無機質さがあった。

「なっ――」

 そして何より、その回答は、友希那が彼のことを肯定した証拠でもあった。

 友希那は、男などではなく、彼を選んでみせた。

「え……?」驚いた様子を見せたのは彼だった。友希那の顔を見つめ、すぐに素早く、男のことを睨んだ。「ちょっとまって、む、無理やり襲ったってこと……?」

「え、い、いやっ。違うっ……」

 男は咄嗟に声を出したが、無理やり襲ったという事柄自体は真実であるため、後ろめたさのようなものが含み、語気はすぐに失速してしまった。

 そんな男を見つめた友希那は、続けて口を開いた。

「正直、見損なったわ。そういう一線は、そういうのだけは、守ってくれる人だと思っていたから……」

 突き放すような口調だった。悲しさが含まれており、真剣に男に失望している様子だった。

「本当に、襲ったんだ……」

 彼は友希那を見つめた。

「そうよ。強姦、だったかしら? この人は、もうれっきとした犯罪者なの。……本当に、どうかしてるわ」

 その声には、やはり、本気で男との行為を嫌悪し、不名誉だと思い、どうしても忘れたい過去であると信じている強さがった。確かに襲ったのは男だったが、愛し合っているはずの相手との行為を、まるで理不尽に身体と尊厳を汚されてしまったかのような、人間としての屈辱であると思っている雰囲気だった。

「ごめんなさい……」

 男は謝った。

 二人からの眼光が何より苦痛だった。

「ごめんなさい……!」

 だから、謝るしか、なかった。

「ごめん、なさいっ……」

 それほどの圧力が、二人から放たれていた。

「……どうする? 友希那ちゃん」

「赦す、とは言わないわ。とにかく、もう私たちに関わらないでほしい。わかったでしょう? 私はもう、この人のモノなの。あなたなんて、どうでもいいわ」

 鋭く見つめて声を発する友希那は、男の存在そのものを否定していた。

「なんでっ……。なんでなの……? ぼっ、僕たちさっ、今まで仲良くやってきたじゃん……。どうして……」

「何度も言ってるでしょう? もう全部終わったの。私は、より愛し合える相手と出会った」友希那はそこで彼を握っている手をさらにぎゅっと込めた。明らかに見せつけていた。「あなたなんかじゃ、絶対に満たされない」

「……そんなっ」

 男は深く落ちた。淡々としている友希那のことが恐ろしかった。自分の感情が激しくかき乱されて、混ぜられ、そのうえでけたたましく爆ぜてしまうような、嫌な盛り上がりの感覚を得ていた。関係性を断ち切られ、さらに他人に夢中になっているということを、他でもない友希那本人の口から宣言されたということは、修復の可能性すらも否定され、完全に全てが潰えて亡くなったということだった。

「……まぁ、僕は赦すよ。君が今さらレイプしたって、僕と友希那ちゃんの絆は無くならないからね!」

 彼が、意気揚々とした声を出した。妙に、明るかった。それを聞いた男は、この彼は、全ての感情や事態の詳細を掌握し、そのうえで嘲笑っているのではないかと思った。

「あなた、やっぱり優しいのね」

 友希那が彼を見つめ、とびきり甘い声を出した。男に向けるそれとは根本的なところから質が異なる美声だった。

「それで、今日はどうして家に来てくれたの? 急に連絡をくれたけど、何か大切な用意かしら」

「ああ、それはね……。今日は、友希那ちゃんの部屋でヤりたいなって思ってね」

「なっ……」男は目を見開いた。死滅しかけていた感情が一気に蘇ったが、それらが集中する情報は、あまりにも不愉快なものだった。「そんなのっ――」

「わ、私の部屋で……?!」友希那は頬を赤らめた。恥じらいのある乙女の顔つきだった。「ふふ、いいわよ。そろそろホテルも飽きてきた頃だったの」

「僕もなんだよー! やっぱり恋人だし、一回くらいは私生活の部屋でヤっときたいよね!」

「そうね。それに私、あなたに自室を見てもらいたいとも思うの」

 男は友希那に対し、いわゆるおうちデートを何度か提案したことがあった。

「いいねぇ。友希那ちゃんの部屋なんだから、きっと綺麗なんだろうなぁ」

 しかし、いずれも「……それは、また今度にしてちょうだい」と断れていた。その時の友希那の顔には、声には、どこか困ったような色が浮いていた。

「そんな大したものじゃないわ。ただの、私の部屋よ」

 その、遠ざけるような、同時に、申し訳なさもある雰囲気から意識すると、おそらく友希那は、自分の部屋に他人を――恋人であろうと関係無く他人そのものを――入れたくないのだと考察した。おうちデートをしたい身として、それは残念な考え方だと感じてしまったが、友希那を愛しているため、彼女の意見、彼女の価値観を優先するべきだとも思った。

「それがいいんじゃん! 友希那ちゃんの、友希那ちゃんが詰まった部屋がいいんだよぉ! ぐふふっ、そんな場所でヤれるなんて!」

 やがて男は、友希那におうちデートを持ち出すことそのものを、やめた。避けていると言ってもよかった。自分の中で勝手に、タブーのようなものとして、悪い意味で神格化して無視した。そのためついに男は、友希那の自室にただの一度も入ったことがなく、写真や映像の類で目撃するようなことも、同様に一切、無かった。

「私が詰まったって……、やっぱり大げさよ、あなた。でもそうね、確かに私はいつもあそこで寝て起きて、曲作りも基本的にあの部屋でしているから、私が詰まっているという表現も、間違いじゃないのかもしれないわね」

 男にとって、友希那の自室とは理想郷に相当する幻と快感の神域だった。常々、友希那は室内への侵入を拒絶していたが、いつかはその神域に入り、彼女の私生活の一部を、目で、鼻で、肌で感じ取りたいと思っていた。そのためには、より彼女に好かれる努力が必要だと思った。そこへ割く労力は、何であろうと、どんな苦痛が伴おうと、長い道のりであろうと、絶対に惜しまなかった。

「そうだよ。友希那ちゃんの生活が見えるんだ。もうわくわくだよ」

 それが、その密かな努力はどういうわけか実らず、横から入ってきた謎の存在に全てを奪取され、さらにその怪獣は、簡単に友希那の自室に入ろうとしていた。

「生活……。あなたにそれが見られるのは、ちょっと恥ずかしいけれど、でも、嬉しさもあるわね」

 友希那の方もなぜか寛容で、そんな彼女を見てしまうと、男は、今までの彼女の、自分への落ち着いた態度が全て大きな嘘で、つまり彼女は、常々何もかもに仮面を被って自分と接していたような気がして、それが悔しくて、悲しくて、嫌だった。とにかく身体の全ての細胞が嫌な方向に騒めき、虫唾が走ってしょうがなかった。

「ははは。僕に全部見られて嬉しいの? 僕も友希那ちゃんのこと知れて、嬉しいよ。……それじゃあ、そろそろいこっか!」

「ええ。もう今から待ち遠しいわっ」

 二人は、勢い良く立ち上がった。

 もはや、対面する男のことなど、意識していなかった。

「うふふっ」

 友希那は、そのまま素早く彼にひっついた。腕を組むだけではなく、自分の女体を押し付けていた。自分の柔らかさを、男だけのものだったはずの胸を、腕を、太腿を、全てをぐいぐいと押し込み、性的な柔軟さをとにかく彼に執行して、満たしていた。

 男には、その行動の全てが、自分にとっての敗北の証のように思えた。今の友希那の、落ち着きを全身で感じているらしい緩んだ顔と言動が、どうしようもなく悔しかった。自分がこんなふうに、友希那の普段の堅い矜持を溶かし、とにかく安心させて、信頼させて、求愛させて、ただの牝としての淫らな本性を自分から見せてくれるような段階に到達できなかったのだと思うと、とてつもなく激しく、黒い悔しさが上がってきた。やはり、男としてこの怪獣に負けているような気がしたが、もう、どうすることもできなかった。大切な存在はすでに敵の手に渡り、その本人は、今まさに自分の目の前で、犯されるための身体の準備を、牝としての準備を、着々と整えていた。

 今の男には、性の獣になってしまった友希那の首の位置を固める動物用の首輪と、そこから伸びて彼のぶよついた素手に握られている強固なリードすら、視えていた。

「ふふっ。あなたって、本当に欲望に忠実ね……」

 友希那は、にやけながら右手を伸ばした。

「でも、そういうとことが好きよ」

 触れた先は、彼の股間だった。

 股間はいつの間にかもっこりと膨れており、その丸っこい先端はひたすら上を向いて、窮屈そうにびくびくと痙攣していた。よく見ると先端のさらに中心に位置するズボンの布は湿っていた。もう射精しているのだろうか、と男は純粋に思った。

 そして友希那は、その彼の象徴をズボンごと掴み、ゆったりと五指を動かした。

 その瞬間、男の身体の内部の臓器がどくりと反応し、そこから発せられる熱が一気に股間へと集中していった。

「ほら、もうこんなに勃起してるわよ……」

 最低限握りながら、透明感のある美しい真白い五指を不規則に動かし、硬い肉棒を揉むように続けた。大げさな動作は男の脳と、何より股間を刺激していた。友希那の細い五指とその蠢きは、太く雄々しく育っている彼の象徴の中でよく目立っていた。彼の強烈な性欲をさらに高めるようにも、逆に、その人間離れした活力の獰猛さをなだめているようにも思えるような、優しく執拗な手つきだった。

「ふふ、おっきい……」

 それは、今まさに彼の雄としての優秀さにうっとりとしている友希那が、彼に、真剣に、精神的にも肉体的にも寄り添っていることがよくわかる奉仕だった。

 友希那は、そのまま数回ほど愛撫した後に、先端の湿っている箇所に手のひらを被せ、ぐりぐりと押し付けて動かした。その動作も蠱惑的だった。性器の弱点を知り尽くし、男根が喜ぶことだけを集中して執行していた。

 男は、自分がされているわけでもないのに、あたかも自分がその熟達に浴しているような具合で、高まっていた。

 下半身は何も履いていないため、友希那とその彼の目の前で、堂々と滾っていた。

 彼はもちろん、友希那ですら、男のその激しさを無視していた。少し視線を配って気にしてから、改めて無視をするような素振りも無く、どこまでも存在そのものを拒絶するというか、無いものとして過ごしているような雰囲気だった。

 しかし、男はそれでも燃え盛っていた。友希那は、彼の顔を見つめながら、その竿の先端を責め続けていた。その、全身から溢れ出る牝としての堕落した香りによって、男は、二度も果てた後だというに、この家に来る前よりも高い欲情を体内で得ていた。そうして、彼女の蠢く指をじっと視ていた。

 友希那は、ようやく彼から手を離した。これで終わりかと思われたが、その予想に反して彼女は、逆の左手で代わりとして彼を愛撫しながら、今しがた彼の突起に触れていた右手のひらを自分の鼻孔に近づけて、すんすんと激しく嗅いだ。

「んおっ……」臭いを感知したらしい友希那は低い声を出した。それは男が今まで聞いたことのない、腹の底から無理やり出ているような潰れた声だった。友希那はそのまま夢中でさらに鼻梁を酷使し、ついには自分の手のひらを舐めはじめた。

 男は、自身の手を猫のようにちろちろと舐めている友希那のことが、なんだか見ていられなかった。そんなみっともない湊友希那など認めたくなかったし、友希那自身が、そのなさけない姿を持って、それでも堂々としていることも、気に入らなかった。目を逸らした男の視界に、彼の股間が映った。その根本には友希那の素手が絡みついていたが、手のひらを舐めているのに集中しているためか、手つき自体は適当な情緒だった。

「んぐっ、くさいっ。すきっ……。んはっ」

 しかし彼の性器は凄まじかった。その猛々しい姿の迫力は、ズボン越しだというのにしっかりと伝わってきた。同性である男ですら、圧倒されて恐怖すら抱くほどの凶悪な雰囲気だった。今まさに、一応発動している自分のモノとは全く違った。根本的なところから、仕組みや由来が別物のように思えた。

「ははは、友希那ちゃん、舐め過ぎだよ」

 彼はにやけながら、腕を友希那の肩に回した。

「んんっ、だってっ、もうやみつきに……」

 彼の竿はみなぎっていた。有り余るほどの力強さが感じられた。ぐぐぐっと上へ、盛んに育つ活発さは、女性を犯して孕ませるのに最適な、生物としてとても優秀な男根のように思えてしまった。

「ふぅっ……」満足したらしい友希那は、とろけきったままの顔を手のひらから上げ、彼を視た。その頬はほんのりと高揚しており、瞳には純粋な恍惚が、白身の中に浮く黄身のようにとろんと浮かんでいた。「我慢汁まで、こんなに濃いだなんて……。あなた、そんなに私がいいの?」

 友希那はそのまま、顔面の感情を正確に反映させたような、緩んだ声でにっこりと笑みを浮かべた。すっかり彼の性欲によって懐柔され、都合よく手懐けられているような雰囲気だった。

「友希那ちゃんがえっち過ぎなんだよ……」

「褒め言葉として受け取っておくわ」

 それはまさに、飼い主を前にして安心しきった牝の猫のような雰囲気だった。幻覚のように思えた首輪とリードが、本当に実体化して首筋に巻き付く勢いだった。

 自分の中の牝を表情などではっきりと示しているということが、すでに第三者に過ぎない男にも、察知できた。そしてそんな姿は、かつての友希那ではありえなかった。彼女はもともと性的な事柄に疎かったし、男が少しずつ教えた後も、やはり関心は向いていないような雰囲気だった。それが今は、完全に彼を喜ばせるためだけの生物に成り下がっていた。友希那は、盲目的に彼に付き従い、全てを賭けて信頼し、身体を献上して、快感に染まっているようだった。

「ほらぁ、もう行きましょう。こんなところに居たって、どうしようもないわ」

「ああ、そうだなっ」

 さらに、男にとってより辛かったのが、そんな下品な風格に堕ちたことを、友希那自身が悦びとして感じているらしいということだった。かつての尊厳などはもうどこにも無く、ただ性行為を嗜むだけの、快楽だけの存在へと堕落してしまっているようだった。

 二人はてれてれとした雰囲気のまま、にこりと笑い合い、くっつき合って体躯を擦り付け合いながら、このリビングの出入り口扉に向かった。しかしその途中で、ソファーの位置から考えるとあまりにも短く、小さな道筋の中で、友希那が、彼の口に飛び出した。突き出た唇は彼のそれにぶつかり、そのままそれは、ねっとりと吸着して、じっとりと触れ合った。彼は少しだけその唐突の求愛に驚いたようだったが、すぐに調子を合わせ、むしろ友希那の愛を食らって自分が主導する勢いで、何度も顔を動かし、何度も唇を押し付け合った。

「んっ、あむっ……。んふっ。ちゅっ」

 時おり離れたかと思えば、今度はそれの代わりと言わんばかりに長い舌が飛び出し、互いのそれを巻き取って絞るように、激しく絡み合った。

「んれっ……。んはっ。ちゅっ……」

 友希那の瞳はうっとりとした雰囲気を持っていた。そんな恍惚とした目が一瞬男の方を向いたかと思えば、さっさと移動してしまい、同時に彼の首に両腕をぎゅっと回し、より深く、顔面同士で絡み合った。

「ぢゅるっ……。ぢゅっ、むちゅっ。ぢゅっ、んんっ、んふっ」

 そんな友希那を目撃した男は、ここまで変わってしまった彼女を、それでもじっくりと観察し、極めて限界に近い精神状態の中で思考したことで、ようやく全てを、しっかりと、理解した。

「ぢゅぅぅっ……。んぢゅっ。ちゅっ、ちゅっ……。んっ、んんっ、ちゅっ」

 自分たちの関係に亀裂が入ってしまったのは、幕が引かれてしまったのは、何もかもが終了してしまったのは、最近発生した事象などではなかった。

「んぶっ。んっ、はむっ……。ぢゅぅ……。んんっ……。んべっ、ちゅっ……」

 もっと、もっと以前に、自分が全く知らない日、全く知らない時間、全く知らない場所で、予測もできないことが発生し、彼女は全てを洗脳され、好意を都合よく改変されてしまった。没落したその思考によって、自分たちの絆は、とっくに崩壊していた。

「はんっ……。ちゅっ、ぢゅるっ……。んぶっ、んふっ」

 これまでの思い出は、悉く濁った白色で塗り替えられてしまった。自分は、結果的にボツになった歌詞を記した不必要な紙のように、綺麗さっぱり適当に、友希那自身に、捨てられて忘れられてしまった。

「じゅっ、ぢゅっ……。んんんっ……。んはっ、ちゅっ……。んちゅっ」

 そして、その友希那は、次に出会った彼という存在と、真新しい世界を創っていくようだった。友希那は、男と居た時よりもよっぽど、幸せそうだった。

「んっ、んんっ……。んはっ……。ちゅっ、んふふっ……」

 数分の接吻の後に、二人はようやく離れて見つめ合った。彼は満足したようににやけていたが、友希那の方は名残惜しそうだった。

 その目は、傍観しているこちらが胸焼けを得て、むっと息苦しくなるほどに、とにかくねっとりとしていた。さらに、お互いに相手の内面をはっきりと認識して受け入れているような安定感と、冷えそうにない性欲の権化が光として浮いており、それらが二人だけの世界の中で、素早く行き来していた。

 男は、そんな二人のことが、純粋な情熱を咲かせて通じ合っている恋人関係の二人であると、確かに、思えてしまった。

 二人は再び歩き出し、近くの扉を開いてリビングから出ていった。すぐにバタンという大きな扉の音が響いた。男の脳裡にはその音が、どうしようもない虚しさの音として響いていた。これで完全に友希那は自分から離れて、もう二度と同じ道を歩むことができなくなった。

 閉じられた扉を見つめる男は、扉がぶつかる単調で短いその音が、壊れたレコードのように、いつまでも、いつまでも耳の中で反響して止まないのを、ただ、意識した。

 その虚空の中には、鮮明で色濃い愉悦が、どっしりと、在った。


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