強制絶頂、失禁、イラマチオなどです。
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自分を壊す、自分を殺すってのは、脊髄通して脳まで伝わるタイプの実際の痛みってものさえなかったら、結構皆のやりたがることなのだ。この世にいるのは自分のことが大好きな人間ばかりじゃない。そういう人が好きじゃない自分を壊して殺して新しい自分を求める。今の自分に物足りない、まだまだ自分は未熟だ、このままの自分じゃ駄目だと思う人間もたくさんいるから、そういう人たちも自分を壊して殺して、自分を壊した殺したという経験を経た新しい自分に期待をかける。あと、なんとなく今の自分の状況とか状態とかレベルとかいろんなものに関して、何とかしたいけどどうしていいかよく判んないし、このままなのがなんかむかついてイライラするし、でもやっぱりこのままの自分では解決策見つかんないし、つーか今の自分、解決策を探しているようにも思えない、グダグダしすぎ、でもいろいろ面倒臭いことがなければ、あーいろいろうざい、なんて奴らも、痛い思いさえなければ、あとまあ、面倒臭くなければ、自分を壊して殺して新しい自分って奴にとりあえず任せてみたいと思ってる。 (…) そんなの都合良すぎ。調子良すぎ。
――舞城王太郎『阿修羅ガール』第三部「JUMPSTART MY HEART」2
※
「あなたはこっちの電車に乗らないでください、ミスター・お邪魔虫」
「ここからだと、そっちの……上野東京ラインじゃないと、俺は乗り換えが必要なんだが」
「京浜東北でも湘南新宿でも使ってください。南下することに変わりはないでしょう。湘南新宿なら色まで同じじゃないですか。それでは、おつかれさまです」
都内某所で仕事を終えたあと、樋口円香はプロデューサーと同じ路線で帰ることを拒否して、そのまま彼と駅構内で別れた。
円香が、保護者の付き添いなしではじめて乗った電車は、水色の京浜東北線だった。
小学生の頃、円香を含めた友達グループ4人のうち一人が都内から神奈川へ引っ越した。それからいくらかたった休日、円香は引っ越した友達の家へ遊びに行く約束をし、自分と残り2人とで連れ立って駅まで行って京浜東北線で南下した。同行者たちが自分の視界から離れてはぐれてしまうのではないかという不安と、自動改札機が切符を吸い込むようすの不気味さが、やたらに円香の印象へ残っている。
特に円香は、自動改札機の切符の投入口で、切符の同時挿入を防ぐため挿入口前で開閉するガードが、嫌で嫌でたまらない。ガードは、円香の家の最寄り駅では2枚の細長い歯のようになっていて、そのシャカシャカと開閉するようすが昆虫のアゴを連想させたし、切符を奪い取るように吸い込むのも虫に食われたようで円香を不愉快にさせるので、円香は人生2回目の乗車以降から断固としてICカードを使用している。
自宅最寄り駅の名前が車内アナウンスに流れたころ、円香はスマートフォンのアプリで、プロデューサーに一言だけメッセージを送った。『用意しておいてください』――ありえないはずのセックスの「指示」は、いつからかそう決まっていた。もう1年以上はそうだった。
そのまま彼女は神奈川との県境をまたいで、友達の家よりさらに南西に行った駅で下車する。
そこから10分ほど歩くと、プロデューサーの住む家に着く。
※
「いつもこの部屋ですね」
「うちでなら、この部屋以外は勘弁してほしいな」
「どうしてですか」
セックスの場所は、決まってプロデューサーの家で、しかも部屋までお定まりだった。
プロデューサーの住む家は、東京の283プロダクション事務所へ通うには1時間と少しかかる最寄り駅で、プロデューサーだけの一人暮らしのはずなのに3人は住めそうな広さの一戸建てだった。円香の見る限り、彼は自宅を持て余していた。彼女が玄関から脱衣所へ行ってシャワーを浴びて、それからセックスするお定まりのその「部屋」へ最短距離でスリッパをスタスタ鳴らすまでの間、単なる物置となっているらしき部屋をいくつか見つけられる。
その「部屋」は、彼女が出入りするようになる前は別用途に使われていただろう、とも円香は推測している。「部屋」は彼女が見回すと283プロの女子寮の個人部屋より広く見える。置かれている家具は、二人で寝転がるにはそれなりな大きさのIKEAのMANDALと収納と照明ぐらい。床材や壁材の日焼け具合が北欧フラットパックのベッドと明らかにズレている。ある程度の期間、室内で電気をつけてなんらかの作業が行われていて、その作業道具を片付けた後にベッドを据え付けたらしかった。
「この部屋が、いちばん防音効いてるんだよ。円香はうるさいから、いつか隣の人に刺されやしないか心配で」
「刺される? もう少しだけ丁寧に説明してくれませんかね」
「昔、近所で『ピアノを練習してる音がうるさい』って腹を立てて、隣人を包丁で滅多刺しにして親子3人殺した、なんて事件があったんだ。俺が生まれる前の話だから、地元でもない円香じゃ知らないか」
円香は、わざと床を踏み鳴らしてみた。音の響きが明らかに異質だった。「部屋」は浮床になっているらしかった。
「……お隣さんはこれでいいとして、私に刺される心配はしないんですか」
「まさか、円香は包丁がなくても俺を殺せるだろう」
円香は、シャワーで濡れたウェーブショートが毛先まで乾き切る前に、着ていたオーバーサイズのトレーナーと、明るめのグレンチェックのプリーツミニを脱いで、ベッドの端あたりに落ちるよう投げた。湯上がりの肌は薄橙の濃淡がかすかに浮いていて、それが白くシンプルな下着と60デニールの黒タイツに包まれている。その残りの着衣も手早く外してしまった。
円香の素肌が、男を前にした女性アイドルとしては無造作なほど、あっけらかんと「部屋」に放り込まれる。
「綺麗だよ、円香」
「歯が浮く、とはこのことですね」
「つれないことを」
樋口円香は、自分が担当プロデューサーとセックスに及んでいる理由について、よく思いを巡らせてしまう。その思いが彼女の脳内を過ぎるタイミングもたいていセックスの直前かその最中と決まっていた。
二人が出会って間もない頃の円香だったとしたら、あらん限りの嫌悪と軽蔑を向けるような行為に、いまの円香は進んで身を浸していた。
「あなたがオンナのカラダを飾り立てて切り売りする商売だと知らなければ、私ももう少し素直にそういう褒め言葉を受け取れたかも知れませんね」
「ははっ、想像もつかないな。俺がプロデューサーじゃなかったら、円香とは顔も名前も知らない仲だったろうし」
「……私は、確かにそうでしょうが」
円香は素肌をさらしているが、プロデューサーはシャワーさえ浴びず、仕事帰りの背広を着込んだまま。いますぐ外回りへ戻っても違和感がない。その格好は円香に、彼の「商売」を強く意識させる道具として機能していて、しかもそれは彼女が「指示」でわざとそうさせたものだった。
「湯冷めするじゃないですか。御託はよろしいので、触ってください」
円香は「指示」を繰り返す。彼女が口を開くたびに、それは指示から教唆になったり煽動になったり、ひらひらと色を変えた。
円香の上背は160センチ弱と、20歳前後の女としては平均的で、細くしなやかなシルエットをかたどっていた。プロデューサーは円香より頭一つ高いぐらいの身長で、中肉と呼ぶにはいくぶんがっしりした体格をしていたので、彼が円香の肩を抱くと、彼女の背中が彼の羽織ったジャケットでほとんど覆い隠される。円香のゆるやかな乳房のふくらみも、片乳ならプロデューサーの片手で包み込めそうだった。
「立ったままで、か」
「電車痴漢みたいですよね」
「誰がだ、まったく」
電車痴漢みたい、という円香の口ぶりに合わせたか、プロデューサーは乳房から手を離して、彼女の尻や太腿に手を添わせる。あるいは、円香が秘所を守るように下腹部を覆った彼女の両手の甲へ、プロデューサーが手のひらを重ねて捉えるようにする。
「ん、ふ、ぅ……」
プロデューサーは強いて円香の手をどけようとせず、彼女の尻側から秘所へ指を伸ばす責め方に切り替えた。アイドルとしては控えめなボリュームのヒップを、あいさつするように軽くまんべんなく撫でた後、中指か人差し指を伸ばして割れ目へ。
「ふ、ふっ……慣れて、きましたね。本職にできるんじゃないですか」
「あいにく、転職の予定はなくって……しかもなんだよ、痴漢は職業じゃないだろ」
円香の割れ目がくちくちと濡れた音を漏らして、ふだんは脱力気味な彼女の目交いにぴりぴりとかすかな緊張や汗が浮くようになる――には、時間がかかりそうだ、とプロデューサーは見たらしい。
「は、くぁ、うっ……!? く、くび、勝手に、さわら、ないで……」
「本当に湯冷めしてしまわないか、心配になって」
プロデューサーは、円香の顎のすぐ下、頸動脈のあたりに空いた手の指を添えた。円香は彼の指先で拍動を感じ取られて、それで心臓の中まで手を突っ込まれた気分になる。
「心配してる、なんて……口に、出さないでったら。偽善者づらは、ほかの人へとっておいて」
動揺を押し隠し、とりとめのない会話を続ける。
互いの身体に腕を回せるほどの距離感でも、油断すると聞き逃してしまうほど小さなつぶやきを投げつけ合う。
「ん、く、ふ、ぅ……っ」
「きょうは、このぐらいの加減がお好みかな、円香」
「……きらい、こんなの……」
つぶやきが重なるにつれて、少しずつ円香の身体が高ぶりをあらわにしていく。
彼女の内腿が少し開き気味になり、筋がひくひくと浮き沈みする。それは首でも同じだった。いずれも目視で気づくのは困難だったが、プロデューサーは指先でその動揺を絡め取っていた。
「きらい、か。そうか」
「ん、っ……ふ……ぁ……っ」
つぶやく瞬間以外は閉じられていた円香のくちびるが、少しずつ隙間を広げて、熱っぽい吐息を漏らす。
秘所への愛撫が、少しずつ円香の熱を高めていく。彼女はそれを扱いあぐねていた。熱のせいで肺の空気がゆっくりじわじわと膨張して鼻や口から勝手に吹きこぼれそうだが、それを意地になって殺そうにも開き直って吐き出そうにも、どちらにしたってプロデューサーの前に自分の高まりを晒してしまう。
「ぁ……ん、く、ぁあっ」
「きらい。円香は、いつだって俺にそう言う」
「んく、ぅ、ぁ……きらいっ、きらい、です……あなたなんて、私は……っ」
円香の『きらい』には、ちゃんとした嫌悪の念がこもっていた。
それでいてプロデューサーは、気分を害するどころか、円香の『きらい』が重なるにつれて安心したような息を吐き、指の動きがなめらかになった。
「ん、きゅぅうっ!?」
「わかるのか、円香」
プロデューサーが、円香の鼠径部側に腕を回す。円香の両手の内側に滑り込んで、クリトリスを掌底でとらえる。さらにそこを起点に指や手首をもぞつかせ、円香のヘソ裏をくちくちと探る。
「ぁ、う、あっ、あっ……」
円香の腰がびくりと跳ねる。
「捕まえた」
「っ……実況、なんて、いりません……っ」
「ここ、ふくれてるから、円香がそらそうとしても、逃さずに済みそうだ」
プロデューサーは、手のひらからは円香のクリトリスの頭を面で圧迫し、膣内に突っ込んだ指からは円香のクリトリス裏――Gスポット――を点で押して刺激する。円香はそれをいなそうと腰を揺らし、はたから見ればプロデューサーを誘っているようだった。それで刺激の焦点がぶれて同時攻撃とはならないが、彼はそのままのペースで愛撫を繰り返す。
「ん、んん……っ!」
円香の腟内が強く収縮するとプロデューサーの指は下がり、膣内の収縮のテンションが収まると彼の指がこじ開けるように迫ってくる。彼女から鼻にかかった声が漏れ出す。
「前からと、後ろからと、どっちがいい?」
「は、はっ……変わらない、でしょう……あなたが、何をやっても、同じ……っ」
くちゅ、くちゅ、という水音は、プロデューサーの手のひらで響きを籠もらせながらも、鳴る頻度を増やしていく。円香のクリトリスが愛撫に応えるように、血液が流れ込んで、興奮を示してしこりたつ。
円香の首に添えられたほうの手も力む。
このまま首を締められたら、満足に声も出せず絞殺されてしまうだろうか。そんな悪夢が、円香は不思議と恐ろしくなかった。そうやって殺されたら、もう少しマシな人間に生まれ変われそうな気分だった。
「ぁ――んんっ、ふ、ぅう、んんんッ……!」
ぐうっ、ぐうっ、と押し込み、押し付ける動きが連動する。円香の太腿の裏側がびりびりと動揺し、2つの内膝がくっつくほど内股になるが、すでに楔のごとく打ち込まれているプロデューサーの手からは逃れられない。
「ん、んっ……! く、ふ、ぅあ、んんん……っ!」
ついに円香は、腕を上げて両手で口を抑える。観念した。ノドとくちびるだけでは、嬌声を殺しきれない。
「座るか、円香」
「ん、く……あ、あっ……け、結構、ですっ……!」
円香は興ざめと言わんばかりで吐き捨てた。膝に力を込めて裸足のカカトでスリッパを踏む。そうすれば、あだっぽく漏らした声音の火を踏み消せるという風に。
「く、ぅ……ぁ、はっ……! はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
「……倒れるときは、後ろにな」
「んぐ、く、ぅ……ふ、はっ、どうしてもって、ときは……前のめりに、しますよ……っ」
「……あまのじゃく」
じゅく、じゅく、くちゅ、くちゅ、と円香の淫らな音が泡立つ。円香の腰がまた跳ね、今度は背中が弓なりになって、プロデューサーの指に下腹部を押し付けるよう動いてしまう。
「あ、くっ、ふ……ぅ、うー……ッ、ん、ッ、んんーっ!」
円香の汗ばんだ柳腰が、プロデューサーの穿く黒いスラックスに押し付けられ、女のあわいから漏れた愛液がウールの黒地に垂れて、折り目から滑り落ちていった。
※
「……は、あ、はあっ……プロデューサー、あなたって人は」
「なんだ、円香」
「脱がないで、って言ったじゃないですか、スーツ」
「円香とシてると、これからもっと汚れそうなもんで。これけっこうするんだぞ」
「はぁ、最低ですね」
腰砕けになった円香が、抱え上げられてベッドに寝かされた。彼女が顔を上げると、彼女の気づかぬうちにプロデューサーは背広を脱いでいた。
「背広のままだと、プロデューサー気分が抜けなくて」
「私に……担当アイドルに、こんなことしておいて、ですか? 呆れた」
「終わりにするか?」
「く、ふっ……おっ勃ててるくせに、笑わせないでください」
プロデューサーが服を脱いでいて、円香の目にも彼の勃起は明らかだった。そそり立つ、というほどのボルテージではないが、すでに切っ先が上向きになるほど血が流れ込んでいた。もし円香の手に握りしめられても、女の手指の圧迫を押し返すぐらいの硬さはあるとうかがえた。
「だいたい、私はあなたがきらいです。特に、プロデューサーづらしているあなたがきらいです」
「はぁ」
「でも、信頼はしています。あなたも社会的地位は惜しいでしょう」
「だから、する……と? いまいち意味がつながってない気がするが」
「わからなくても結構です」
円香にとって、自分が担当プロデューサーとセックスに及ぶ理由を考えることは、どうしても、自分が彼とのセックスを受け入れている理由を考えることにつながる。
少なくとも円香にとっては、腕力で押さえつけられていることもないし、脅迫で無理やり承服させられたこともない、合意の上での性行為だった。
「また、指でやるんですか?」
プロデューサーは、ベッドの上で円香に腰を下ろさせ、90度ほどに膝を曲げさせたまま、手でうながして両腿を開かせた。円香はそれに逆らわず、されるがまま。二人は一瞬だけ体育座りを連想した。
「表からと裏からじゃ、感じ方が違うもんだよ」
「あなたを好きだって言ってくれたあの子にも、そうしてあげればよかったのに」
「するわけないだろ」
プロデューサーが円香に挿入する指が、2本に増えた。外のクリトリスをいじめる役目が、掌底から親指に交代された。愛撫の感触が、円香にとっては、痴漢から押し込み強盗ぐらいに変わる。女のもっとも大切な器官を好き放題に家探しされながら、円香はふと彼にセックスの「指示」を出すに至ったきっかけを思い出す。
あのとき食らったプロデューサーの手は、いまよりずっと痛かった。その痛みの鋭さが、円香に期待感を抱かせたほどだった。
「は、あっ……くあ、あっ! もっと、繊細に扱って、ください……っ!」
「本当に繊細に、割れ物みたいに扱ってほしいのか? こわれ物の間違いじゃないか」
プロデューサーの刺すような愛撫と、嘔吐するような悪態が、円香の回想を加速させる。
「きらい……あなたなんか、本当に、きらいっ……!」
プロデューサーは、その若さにしては、手腕や仕事への姿勢でずば抜けた評価を得ていた。仕事をそつなくこなす確実性のあるタイプではなかったが、積極的に大きな仕事に挑んで目立つ成果を掴めるタイプだった。それでいて成果を鼻にかけず、むしろ温厚な物腰で、アイドルをはじめとする関係者と綿密なコミュニケーションをいとわずに重ね、人望を勝ち得ていた。
彼は円香を除く担当アイドルから好意を抱かれていて、ある日そのうちの一人が彼に個人的な好意を吐露し――彼は、それを手ひどくふってしまった。
その波紋は、彼への評価が高かっただけに甚だしかった。283プロ全体が深刻な不穏さで覆われ、それはある期間――それこそ、円香とプロデューサーがセックスに慣れて溺れるほど回数を重ねることができる月日――が経っても、いまだ「なかったことにする」以外の対応ができていないほどだった。
「俺は『きらい』で結構。円香も、それを望むところのようだし」
「……ふ、ははっ」
プロデューサーを『きらい』な円香だけは、温厚なプロデューサーがそのときだけやたらに不寛容な仕打ちをした理由に見当がついていた。
プロデューサーは、アイドルのプロデュースに従事しているときの自分が大好きで、プロデューサーに相応しくあろうとしてそうなりきれていないときの自分は、大きらいらしかった。円香は、「馬車馬」と皮肉をぶつけたくなるほど彼が仕事熱心である理由に、ようやく合点がいった。
彼がそうやってプロデューサー業に没頭していたのに、アイドルとプロデューサーという線を踏み越えて大きらいな彼に触れようとした「あの子」を、彼はどうしても許せなかったらしかった。
そう思うと、円香はつい笑ってしまう。
「あ、あ、ぁ……ああ、だ、めっ、それ、来る、からっ……!」
「円香のナカは、膝を曲げてくれたほうが、扱いやすいな。反応も、わかりやすくなる」
「あの子」は、誘われてアイドルをやる気になるほどの自己肯定感を持っているから、自分のことが大きらいな人間の感覚を理解できないだろうに、彼は理解してもらえないと嘆く。
円香から見ると痛々しくて滑稽だった。
「っ……あなたの、その、知った風な口は……素、なんですね……?」
「……そうかもな」
プロデューサーと円香のセックスは、彼が背広を着ている間はどこか遠慮がちで、背広を脱いだ後はだんだん荒々しくなっていく。手付きも、口ぶりも、何もかも。
「あ――ゆ、び……ふか、い、く、ひぃ……ッ!」
プロデューサーは様子見で指を止めたが、ちゅく、ちゅくという小さな水音が、しゃっくりのように周期的にこぼれる。円香の腟内が悶えて音を立てている。
「ん……んく、んんっ……はあっ、あ、あ、あ……あああ、ああ゛っ……!」
円香の引き結んだくちびるが、綻んでいく。
「なぁ、円香。俺のことは、きらいだろう?」
「ひぐ、んんんっ、く……き、きらい、です、あなた、なんか……っ」
組み立て式ベッドはこったスプリングなど備えておらず、円香が腰を浮かせたり落としたりと性的刺激で体重を揺らすと、フレームのバーチ材が弱々しく軋んだ。ちゅく、ちゅく、という音が何度か弾けて、白いシーツにまばらなシミを散らした。
「あまり濡らすなよ、円香。シーツはともかく、下を干すのはめんどうなんだ」
「か、勝手なことを……ん、ひ、ぅ、ふっ、くう、うあ、んんあ、あ……!」
プロデューサーが、誰かアイドルの好意を手ひどくソデにしたところで、円香はさして動揺も幻滅もしなかった。むしろ親近感を覚えた。自分自身を嫌う人間は、他者から好意を寄せられたときに度し難い腹立たしさが噴き上がってしまう。円香はそれを、生まれて初めて自分以外から見て取った。
円香は、恋を知らぬ少女が好意を投げかけるのに似た無邪気さで彼の腹立たしさを引っ剥がして、彼から消えない傷を負わされた引き換えに、「指示」できるほどの彼の弱みを握った。
「んんっ、く……うあ、あっ……!」
円香は十本の指先で、八つ当たりのようにシーツをひっかき、破きそうな勢いでシワを寄せていた。身体の揺れが、腰から足先や手先にまで広がっていた。
「きらい、だろう?」
「きらい、ですっ……」
「きらい、かぁ。そうかぁ」
恋人同士が『好き』『愛している』とささやきあうより執拗に、プロデューサーと円香は『きらい』『大きらい』となじりあっていた。
※
「ふあ、はうぁ、く、ぐぅ、い、ぁ、やぁ……あ、ああ……ぁ……っ!」
円香は嬌声を細くたなびかせて、バサバサと髪が乱れるほど激しく首を振った後、がっくりと背中や首を前に折った。プロデューサーの腕に甘えてしなだれかかる具合にも見えた。またたき何度ぶんかの間を置いて、しょろしょろと粘りの乏しい水音。円香が失禁して、シーツやプロデューサーの手を濡らす。二人の鼻腔を、ちくりと刺す薄いアンモニア臭が迫った。
「……あーああ。ご気分は」
「は、ぁあ、あ……さ、さい、てい……最低、です……っ」
「だろうね」
プロデューサーは、失禁で汚された指を、円香の膣内に突っ込んだままだった。身じろぎもしない。さっきまでの削り落とすような愛撫さえ鳴りを潜めた。彼の腕にすがったまま円香は、寄りかからせておいてやろうという気遣いと解釈して、ひどく気分を害された。
「きらい、きらいっ……あなた、なんか……っ」
「そうか」
プロデューサーが、円香に寄りかかられていないもう片方の手で、彼女の頬かこめかみあたりに手のひらを押し付け、無理やり彼自身のほうを向かせた。
「ん、んく……っ! な、なに……っ」
「……まだ続けるのか?」
プロデューサーの顔と声音は、円香の見る限り、心底から億劫がっているようすだった。
円香のクリトリスや膣襞の一つ一つに指を絡ませて、行ったり来たりで円香の神経をかきむしった彼の汗や火照りは、興奮であっても快楽ではないようだった。快楽を掴み取ろうとして手探りで必死に探し回ったが、なかなか掴めず、焦り、さらにその焦燥さえ疲労で鈍麻したあとだった。
「……だるくなって、面倒くさくなって、正気に戻りましたか」
「正気に見えるか? 俺が」
「もう、正気に戻ったって、遅いんですよ」
「そうか」
円香は、プロデューサーの腕を押しやるようにしながら、ようやく丸まっていた上体を起こしもたげた。
「ぼうっと、してないでください。まだ、私の言うことを聞いてもらいます」
「きらい、だろう? 俺のこと」
「きらいな人には……きらいな人なりに、やってもらうことがあるんです」
きらいな人には、関わらなければいい。
「仰向けに寝てください。その間抜けな棒きれだけ、おっ勃てていてください」
関わらなければいい、などと常識的に考えられるのは、自分自身を心底きらいになった経験がない人の特権だと円香は思っている。きらいな人が自分なら? 生きている限りどこまでもついて回る。
それなら、きらいな人をきらいな自分にぶっつけて、毒をもって毒を制す、などとうそぶく。
「……円香」
「あなたの、手の支えなんか、いりません。余計なこと、しないで」
円香は苦々しげに頬を歪め、ゆっくりとプロデューサーをまたいで腿を開く。
円香のウエストから腰にかけての曲線は、細さと丸みを兼ね備えた柳腰で人形のように整っていたが、その肌や腹部にプロデューサーの愛撫の爪痕が赤く熱く残っていた。ペニスを前にしながら、はぁはぁと体温を吹きこぼす。
プロデューサーがだるそうな素振りを見せていたのに反して、彼のペニスは硬く勃起しており、張り出した先の亀頭は先走りで濡れていた。
「あなたの『まだ続けるのか』などとぬかす口と、こっちと、どっちが本当なんでしょうかね」
「嘘は……ついていないよ」
円香は、プロデューサーの雰囲気に流された風なつぶやきが、実になめらかに腹へ落ちるのを感じた。
嘘・本当とか、したい・したくないとかという二分法で割り切れない感情に、円香は苦々しい親近感――こっちの親近感は苦々しかった――を覚えていた。
「でしょうね……いいです、行きますよ」
その親近感を、ペニスを受け入れる圧迫で振り捨てようとする。
衣服を詰め込みすぎたタンスのひきだしを無理やり閉めるように、男根を膣内に収めていく。
「は、ぁ、ぅ、う……っ!」
「う、く……まど、か……っ」
「なんで、あなたが、苦しそうに、してるんですか……っ」
プロデューサーは、『余計なこと、しないで』という「指示」を忠実に守って、ヒステリックに収縮する円香の膣内にペニスを絞られるままだった。円香は腰を沈み込ませ、下ろしきった。それだけの間に、膣内は指でくじられた復讐か八つ当たりのように、乱暴なほどペニスをしごきたてる。
円香が許さなかったので、当然のごとくコンドームは着けていない。
「ぁ、く、ふ……べ、別に……出しても、いいんですよ。私……あなたに、満足させてもらいたいわけじゃ、ない、から……ぁ……っ」
プロデューサーと円香と、ナマの生殖粘膜どうしが葛藤する。くきゅっ、びちゅ、と指よりも珍しい水音がする。ケダモノが爪牙を突き立て合っているみたいだ、と円香に妙な連想がひらめく。それが気に入った。
「んっ、はくっ、ぅ……動き、ますから、苦しみたきゃ、もっと苦しんでください」
「……女に馬乗りにされて、そんなセリフ言われるとは思わなかったよ」
「いい気味、です……っ」
円香の太腿がびくりとこわばり、脇腹が緊張してか、肋骨がうっすらと肌に陰を刷いたり消したりする。
「か、はぁ……あぁ!? あ、あぁああぁ……っ!」
指でくじられたところにペニスが擦れ、円香が悲鳴じみた嬌声を上げる。
好きときらいが癒着してしまったよりも、強く分かちがたく快楽と苦痛が結ばれているようだった。体が悦びを感じるほど心は苛立った。
彼は、プロデューサーに相応しくなく捨ててしまいたい自分の欲望を、引きずり出されてくすぐられ煽られていた。それから彼女は、きらいな男に奉仕するため腰を振って性感を覚えていた。
「あなた、なんて……あなたなんて、私、わたし……っ!」
腰を沈めたまま円を描かせたり、背中がゆるゆると波打つほど前後させたりする。くきゅっ、びちゅ、という淫らな異音にくわえて、にちにちと粘っこく籠もった水音がしたたる。
「はぁっ、はぁっ……あ、はふ、ぁあっ……!」
「円香……綺麗、だよ。やっぱり」
「さい、ていっ……! 言わないで、って、言った、のに……っ」
円香の下半身が、感電したように瞬間的に痙攣して、縦に細く浅いヘソがむせぶように歪む。
「ん、く、ぁ、んふっ……ん、んくっ、んんんっ……!」
たんっ、たんっと二人の粘膜や肌がぶつかりあって、ぎゅちゅ、にちゅっ、と粘膜のひしゃげるような響きが円香の耳から入った。羞恥は感じたが、かえっていっそう力を込め、膣内でペニスに噛み付く。
「う、ぉぉ……っ!? く、まど、か……っ」
「はぐっ、う、はぁっ、はぁっ、あっ……!」
認めたくない快楽を別にしても、円香にとってセックスは好都合だった。自分のいちばんきらいな男と女をまとめて踏みにじることができて、自傷行為よりは痛くも痛々しくもない行為だった。後始末だってプロデューサーへ押し付ければいい。円香には没頭しやすい行為だった。性感に蝕まれて、自分の手足や肩に力が入らなくなって、体勢ががたがたと崩れていってもお構いなしだった。
「は、か、ふっ……んぐ、く、ふ……っ」
「はぁ、あ、あ……く、苦しい、か……?」
「……だ、だれ、が……あっ、はぁ……」
円香は、指愛撫で追い詰められた時をなぞって、がっくりと体を前傾させた。
プロデューサーが様子を探るように円香の背中へ手を回すと、円香はネコが毛を逆立てるような勢いで、ままならない背筋をひくつかせる。
「いや、いや……あなた、なんて……っ!」
「……そうか」
円香が前に突っ伏しても、彼女が腰を振り立てて、プロデューサーが呻く状況が続く。
「う。くっ……円香……っ」
「こわれちゃえば、いいのにっ」
円香からすれば、プロデューサーのペニスをくわえ込んで快楽を貪り合うなど、あってはならなかった。達するたびにその禁忌が痛んで、痛むたびに達した。
「んぁ、く、ふっ……ん、んんんーっ……!」
達すれば、愛液と先走りをなすりつけあう交接部がきりきりと痙攣し、汗で濡れ光る円香の背中が不規則に波打つ。プロデューサーに押し付けている彼女の胸や腹も汗だくで、汗の雫が密着した肌ずれですり潰されてべちゃぐちゃと粗相じみて響く。
「ふあ、あっ……あ! いや、それ、やめ……触ら、ないで……っ!」
「……おあいにくさま」
プロデューサーの手が、円香の背中と腰に回される。円香はそれを嫌がって四肢にぎゅうと力を込めて二度三度と彼の手を拒んだが、指を食い込まされ手のひらは張り付いたままで、円香は恨みがましくプロデューサーの肩口に歯と爪を立てた。
「いっ……! あ、ぐっ……! 円香、余裕なくなると、噛み付いたり、爪立てたりするよな」
「あ、んぶっ、く、ふぁ、あ……あはっ、あっふあぁぁっ……っ!」
「……もっと遠慮なく、できるように……してやろうか」
プロデューサーの臀部や太腿がベッドに沈みながら力んで、シーツを引き連れさせ、それからガタンと腰を浮かせる。バーチ材と円香の悲鳴が鋭く大きくなる。
「や、ぁあっ!? いや、ぁ、そこ、はあっ……!」
膣内を突然に上向きにえぐられて、苦痛と快楽で円香は腰を跳ねさせるが、彼女の腰と尻をプロデューサーの手が掴んで引き戻す。許すのは、背中を弓なりに反らせるところまで。震える背中から浮き沈みする胸骨と肋骨のくぼみにかけて、汗の雫が天気雨のようにはらはら舞い落ちる。
「円香の『いや』は、俺の『いい』と同じぐらい、あてにならないからなぁ……っ」
「い、やぁっ……! 触ら、ないでっ、や、ぁあ、っ! ん、ああ、んんっ……!」
円香は肌の上の抵抗は弱々しく、肌の内側の抵抗は増した。ぎちゅぎちゅとペニスを責め立てる膣内の反撃は、もはや圧搾に近い。円香の外と内の拮抗は、何度かプロデューサーの打ち込みを食らううちに崩れていって、やがて彼女のノドが吠えるように声を張り、膣内圧搾の震えが尻肉や腿にまで波及させて、明らかな女体絶頂を吐露した。
「ん、ぁ……っ、ん、はぅっ……んぁ、んっ……」
「ふ、ぁあ、あぁ……もう少し、だったんだけどな」
円香のノドと口舌は沈黙したままで、肌と肉だけがアクメの震えをさざなみのように物語っていた。プロデューサーはそれを黙って聞いていたが、円香が静かに騒ぎ続けていっこうにおさまらず、円香に刻まれた肩の傷の血が止まってしまったぐらいになって、あくび混じりで勃起ペニスを引き抜いた。
「円香が、あんまりいじめてくるものだから……それに付き合ってると、痛いぐらいしてもらわなきゃイケなくなってしまいそうだ」
「か、かってな、こと、を……」
「ノド、借りるよ」
「ふ、ぇ……んぐっ、ぐお゛っ!? ……ごほっ、お゛っ……!」
プロデューサーは円香を仰向けに転がし、円香の半開きのくちびるをこじ開け、愛液も拭わぬペニスを彼女の口腔へねじ込んだ。円香は反射的に歯を立ててしまう。ふつうの男か、プロデューサーであっても怒張していなければ悶絶していたような痛みを受けて、彼はむしろ安心した風な微笑を浮かべた。
「お、ぉおっ……いいな、あぁ、いいなぁ……」
「むぉ゛お゛っ! う、う゛う゛ぅうっ……ごほっ、お゛っ……!」
掘削するように、ベッドに張り付けにした円香の顔とノドを蹂躙する。さらにプロデューサーは、絶頂に喘いだままな円香の太腿や下腹部の肌を、体重をかけてぐいぐいとこね回す。ぺしゅ、と半分気の抜けた破裂音がして、円香は秘所から潮を吹いた。潮吹きの勢いはプロデューサーの下向きの視界を超え、ベッドも超えて、床まで点々とシミをつけた。
「マンコに突っ込まれてるときより、反応がいいかも、な……」
「う゛ぇ、お゛っ、お゛え゛っ……ぶ、ふっ、ご、ぼぉ、ふっ、んお゛、も゛ぇ゛おえ゛っ……!」
プロデューサーは、円香から歯を立てられる感触が楽しいのか、激しい摩擦と抜き差しよりはペニスの切っ先をノド奥で押したり引いたりする動きにとどめていた。それでも円香はペニスで呼吸を塞がれてたまったものではなく、今度はプロデューサーの太腿が赤くなるほど引っかき傷を刻んでいる。
「……こわれそうだよ、円香」
円香の太腿や下腹部は、プロデューサーに扱き雑(ま)ぜられるのにしっかりと反発して、胎内が別の生き物に突き破られるかと思うほど跳ねて突き出て、触られてもいない秘所が威嚇的なまでに陰唇を開いて、ペニスを抱き潰し損ねた不平を鳴らす。足の裏が、濡れたシーツを破きそうな勢いで蹴飛ばしたり擦ったりしていた。
「ぁ、あ、あぁ……出そうだ……出すぞ、円香……っ」
そうして円香が激しくのたうつほど、プロデューサーの動きは緩慢になっていき、射精の瞬間だけびくりびくりとペニスや太腿を痙攣させ、精液を絞り出したと見るやいなやペニスを円香の口腔から引き抜いて、酩酊者を介護するように彼女の肩を持って横寝させた。
「ん゛ぐっ、ぶ、ぷふ、ぁ……へきゅ、ひゅ、く……んぐくっ……」
円香は、口中に流し込まれた精液を吐瀉しやすい回復体位をとらされたことでかえって意地になったのか、くちびるをぎゅうと引き締めたままノドと頬をうごめかせ、粘つくプロデューサーの精液を飲み込んでいった。
※
プロデューサーがいぶかしむほど、樋口円香という少女は自分を嫌っていた。
出会って間もない――彼女が彼に「存在そのものが不快」と言い切ったぐらいの――頃は、単に彼が嫌われているだけだと思っていた。「私の成功がプロデューサーの成功につながると考えるとやる気が起きない」とも愚痴をこぼした。それからアイドルの仕事で、彼女の意思に反するぐらいの結果が出てくると、「評価されたいとは思っていない」とぼやき「期待なんかされたくない、試されたくない」と嘆いた。プロデューサーが止めなければ体調を崩しかねないほどレッスンに打ち込むくせに。
「……なに、腑抜けた顔してるんですか。ミスター・でくのぼう。精液といっしょに魂まで抜けましたか」
「そうかもしれない」
「あなたに冗談なんか言った私がばかでした」
円香の神経回路から絶頂感が引き揚げていき、彼女が筋や肌の痛みをおしてベッドから起き上がると、プロデューサーがベッドの端に腰掛けて横顔をうつむけているのが見えた。その目線の先にはちょうど小さな収納があって、円香はその中にタオルやら水やら事後処理に使う小物が備えられているのを知っていた。
「……あなただけ先にこわれないでください、こわれたふりもしないでください」
プロデューサーが、円香の声に合わせて首を曲げ顔を向けた。動きはあいかわらず緩慢で、円香の肌をずり落ちる汗よりもねっとりとしていた。
円香は、プロデューサーの目を覗き込んだ。雨水が長靴に入り込んでしまったような嫌悪感をがまんしながら覗き込み続ける。彼は円香よりも本当に疲労困憊に見えた。肉体より神経がすり減っている風だった。変なこわれ方やこわし方したくないから探り探りおっかなびっくりしているせいで、ばかばかしい疲労を抱えているんだ……と円香は呆れた。時も場所も場合もずれた配慮だった。こわれようとこわれまいと、もう他人への言い訳はできないのに。
プロデューサーのそんな徒労を、円香は好都合と思った。好都合と思った……と自覚してしまったときの嫌悪感は、プロデューサーと視線を絡ませた瞬間の雨水のようなそれをもっと濃い色で塗り潰した。
「ほかの子に見せてたような暑苦しさはどこへいったんですか」
「……『きらい』だろ、円香はそういうの」
「やはりあなたは鳥あたまですね。『きらい』じゃありません、大きらいです」
「大した意味もない使い分けのくせに」
「そう思いますか?」
円香は尻を引きずりながらプロデューサーのそばへにじり寄って、プロデューサーの目線を手で塞いだ。収納とベッドの二人との間を、腕で断ち切った。
「やめていい、なんて言ってませんよ、私」
円香はプロデューサーの膝のうち、片方の上に乗った。体重をかけて寝技か関節技でプロデューサーを押さえつけるような具合だった。彼は一呼吸ぶんだけノドにうなりを籠もらせると、それから指先でぬらぬらと円香の下腹部をさすった。
「ぁ、ん、ふ、う……っ!」
「腫れてるみたいだな。知らないけど」
「無意味な、戯言です、っ……」
円香の割れ目を、プロデューサーの指先が開いていく。中指と人差し指がそれぞれズレて曲げ伸ばしされ、くぽくぽと気の抜けた水音をさせる。
「……下がってる?」
「なにが、ですか」
「奥が。たぶん子宮口が」
「……はぁ? あなた、が……は、ぁぅあ!? んく、んんん――っ!」
プロデューサーの中指と人差し指が根本まで埋まって一拍置いてから、円香は細く鼻を抜ける悲鳴を漏らす。プロデューサーはもう一つの手を動員し、円香のヘソ下からも膣へ向けて刺激を送り込む。
「はっ、ん……んんっ!」
「外からも押し下げてやれば、届きそうだ……」
円香の腹と尻がぶるりと震えて跳ねた。プロデューサーは膣内の指を刺したまま動かさず、ヘソ周りを押し込む手ばかりに力を込めた。鎚と金床の責めにはめ込まれ、円香の肌が再び汗で潤みと火照りを取り戻していく。
「はきゅっ! あ、は、はっあっ、あはああぁっ!」
「……こわれそうだよ」
上と下の責め手が円香の芯を同時に食うと、彼女はふだんプロデューサーへ見せている目の倍くらいの勢いで目蓋を大きく開いて、精液で汚された直後なのに白くきらめく歯列をくちびるの合間からのぞかせる。円香がプロデューサーの膝に乗せている下肢が、ウマに拍車をかけるように擦れて叩く。
「ぁ、は……ぅ、あ……っ!」
「円香、まどか……」
プロデューサーはのろのろとした手付きで、円香の膣奥を叩いたり押し込んだりした。騎乗位でペニスにえぐられていた頃と比べれば、侵入された深さも強さもずっと弱いはずなのに、それは円香の奥底に同じぐらい届いていて、執拗さに関して言えばのろのろの手付きのほうがずっと上だった。
「ぁ、ひ、ひぅ、ぐ、くぅ……!」
ぎぅ、じぷっ、ずじゅっ、などと水音が強く重くなる。2本指がそれぞれ動くせいで、円香の膣内はペニスを受け入れていたときより隙間ができやすいのに締め付けと愛液の勢いが増すものだから、水音はうるさいぐらい無軌道に部屋へとっちらかる。
「……濡れてるな、円香」
イラマチオのときに負けない勢いで、円香の華奢な下腹部がぶわりと盛り上がったり、きりきりと凹んだりする。その繰り返しは抵抗と催促が重ね塗りされていて、プロデューサーの手がその色を塗り拡げる。また、ぺしゅ、ぷしゅ、と小さな破裂音。
「ひあっ、ァあ……い……い、イ、く…ゥ゛………ッ!」
円香のすり潰された嬌声とともに、震えが下腹から胸に、胸からデコルテに広がって、円香の胴体表面を占領していく。プロデューサーの膝や腿を締め付け拘束する円香の下肢と比べると、腰より上は慎ましく無防備な反応だった。円香の手の指が耐えるように健気に握り込まれていた。
「……続けるぞ」
「あ……っは、は、ははっ……ぁいく、ぉ、く、ぉ……い、イクッ……!」
円香の膣奥に、自らの手で絶頂を刻み込む。恋人同士であれば、あるいは責め手の片思いでも、きっと精神的な絶頂感で悦に浸れていたであろう時間だった。
プロデューサーは、円香のヘソ下を圧する手を止めて、目蓋に忍び込んでくる汗を鬱陶しげに拭った。
プロデューサーの膝を縛ったままの円香の下肢を、彼はほどかないままで、復活した勃起をねじ込んだ。
「うぁ、うう゛あ゛っ! あうあ、あ、ぁあ゛っ!」
直前の指責めでは殺せていた円香の嬌声も、事ここに至っては、こらえきれずどうしようもなく溢れてしまう。
「……ここまで下りてると、指のほうがいいかもな……」
そうぼやきながらも、プロデューサーはコツコツと背面座位でペニスを往来させる。抜くのが煩わしいのか、抜いてあとで円香にチクリとやられるのが厭わしいのか。交接部の奥はしっかり食い込んでいるが、ペニスの根本と膣の入り口は不安定で、めちゅ、ばぢゅ、ごぢゅ、と水音は不規則に響いた。
「円香、まどか……」
「あ、ぁあ゛……う、う、うっ、う゛ん、っ……っ」
あふれる嬌声も、痙攣によって円香の全身がよじれて引き絞られるときは途切れた。プロデューサーが意識を確かめるために円香の耳元へ呼びかけると、彼女はプロデューサーの声から逃れるように頭を遠ざけた。
円香の身体が前に傾いで、プロデューサーは手で彼女の胸を掴んで引き戻す。彼の小指が円香のアンダーバストのあたりに食い込んで、激しい拍動が肉と肌を通して彼に伝わってくる。彼がしばらくそれを味わっていると、彼女の心臓の拍ち方が激しくも規則的なことに気づかされて、安心すると当時に憐れみが湧いてきた。
まだ彼女はこわれ尽くしていない。
「う゛ああっ、は、ぁっ、はっ……――ぁ、うう゛あ゛っ! あ、ぁあ゛っ! ぁ、ああっ、な、か……おっ、ぉく、はいっちゃ……ぁ……っ」
円香の吠えるような叫びと、潰れるような喘ぎが、くるりくるりと入れ替わる。彼女の細かく震える慄きと、飛び跳ねる引き攣りは、もうすこし慌ただしく入れ替わる。どちらも間隔はまちまちだった。ときどき、ペニスをくわえこんだ秘所が嘔吐するように蠕動するが、ペニスがあまりに深く食い込んでいて吐き出せない。
「う゛、ぅ、う゛ァ、う゛っあ、い、イッ、イク、ううう゛ッ!」
円香の秘所は必死でペニスから逃れようとしている風なのに、下肢のほうときたら奇妙で、プロデューサーが息を切らして抜き差しを小休止すると、とがめるようにかかとでプロデューサーの膝を叩く。プロデューサーが意地悪して、動かないまま円香を後ろから抱きしめると、いよいよ足はばたばた暴れだす。円香は、まったく体重の乗せられない不安定な体勢ながら、かかとをかなり強く叩きつけていて、プロデューサーの肌にうっすらアザが浮いてくるほどだった。
「乱暴な催促しやがって、円香……」
円香の反応が激しくなるほど、プロデューサーの反応は鈍った。腰を動かす気力が萎えると、また手を動かして円香の下腹部を圧迫した。両手を使うと、ペニスの内側からの挿入と合わせて3方向からもみくちゃにされ、また円香は吠えたり呻いたりを繰り返す。円香があまりの刺激に耐えかねて腰を跳ねさせても、逃れられそうもなかった。
「ぁ、ぐ、はぁ゛あぉお――も゛、ぉ……っ! も゛……あ゛、め゛……ぁ、め゛……っ!」
円香が背中を激しく波打たせ、プロデューサーが両腕でそれを抑え込んだ。円香は例によって足をじたばたさせ、手もプロデューサーの腕を引き剥がそうともがいていたが、プロデューサーの力と体勢を崩せないまま、みちゅみちゅと失禁じみた音を秘所から漏らして、プロデューサーに打ち付けるかかとの抵抗も徐々に弱く少なくなっていった。
「……円香、まどか」
プロデューサーが、円香の額あたりを指先でぐりぐりとおさえて頭を揺らすと、「あっあっ」と存外に澄んだ彼女の声が漏れた。整い過ぎて冷たい印象を与えがちな円香の顔は、濡れていない肌がないぐらいずぶ濡れだった。ぴくぴくと歪む目からは涙がこぼれていたかも知れなかったが、汗とまじりすぎていて、プロデューサーが間近で見ても判断がつかなかった。
「……何が、『先にこわれないでください、こわれたふりもしないでください』だよ」
プロデューサーは、円香ごと自分の身体をベッドに倒れ込ませる。「ふぎゅ、ぶぐっ……」と奇妙な吐息を漏らした円香の両腕をひっつかみ、肩を押さえつける。ペニスが抜かれないよう、転がされる円香に合わせてぬらりと腰を貼り付ける。
寝たまま男が女にのしかかる後背位だった。
「か、は、ぁ……あ、あぁ、ああぁ……っ」
「まだわかるか、円香」
円香の喘ぐ息遣いが、プロデューサーには何かの言葉のように聞こえたが、耳をすましても混濁した響きのままだった。彼女の口から漏れる何かはもはや音声の体をなしていなかった。プロデューサーは首と背中をきりきりと動かして、彼女の横顔を覗き込んだ。
――して
円香の様子は、目だけがふだんのように細められていた。
――こわ、して
「円香」
声が潰れても、くちびるだけは、震えながら動いた。
――こわして
「やめろよ」
――こわして
「……そんなにきらいかよ。俺に試されるような真似が」
プロデューサーは、円香の顔のすぐそばに自分の両手を突いて、体勢を整えた。
「俺も、もっときらいになれそうだ」
プロデューサーがペニスを押し込んで、円香の膝がびくりと曲がる。けれど膝裏にプロデューサーの足が引っかかっていて、かかとは空中に浮いて震えるばかりだった。
「ふぐ、う、うっ、ん゛うっ……ぁ、いぁっ……んんん゛、い、い゛……ッ!」
ペニスの切っ先を奥へ押し込んだまま、小さい円を描くように腰を動かす。
ぶじゅっ、ぶじゅっと飛び出る音は、勢いが増すほどに間が抜けて、放屁のように聞こえる。
「ぁ、あ……円香、出る、なか、に……」
円が何重になったか数え切れなくなり、プロデューサーの高ぶりが限界を超えて、2回目の射精に及ぶ。射精を受けた瞬間、円香はシーツを噛みながら、プロデューサーの体重を揺らすほど下腹部や腰を痙攣させた。寝バックの圧迫にも負けない勢いで腟内が収縮し、プロデューサーの呼吸までも詰まらせる。
「かは、ぁ、あ゛ッ、ほ、ぉ、ぉお……ッ」
それがずっと続けば、窒息して失神してこわれ抜けたかもしれなかった。
ただ本能か理性か、二人の中の何かがそれに逆らって、こわれゆく痙攣が打ち切られる。プロデューサーは肩を落とし、円香は噛み締めていたシーツを吐き捨てた。
「あっ、はァっ……ぉあッ、ひ、ひぅ、ぐ、く、え゛ぅ、ぉえ゛……っ」
変な調子がついてしまったのか、円香は苦酸っぱい虫唾でくちびるを汚した。プロデューサーは狼狽に揺さぶられながら億劫さに引きずられていた。慌てふためくことを、疲労が阻んだ。
プロデューサーは、自分が円香を抱えて、ゆるく長い下り坂をずり落ちていく感覚に襲われた。傾斜はゆるいのだがやたら滑りやすく、落ちまいと踏ん張るぶるとかえってずり落ちていく。下り坂は長すぎて行き着く先が見えない。
きらいな自分をその奈落に投げ捨ててしまえば、いいのだろうか。
わずかに嘔吐した円香の顔は、まだどこか冷たかった。
「う、ぁむ゛……っ!? う、ぁ、む、ぅむう、う゛っ……」
プロデューサーは、シラフであれば絶対に拒否されるであろうくちづけに及んで、円香ほどきれいな顔をしていてもさすがに胃液は不味いな、と心中でぼやいた。
「んむ゛っ……ぉ、おお゛え゛っ、ほ、ごお゛っ、ごも゛ッ、ほ、お゛え、ぇ、ぉお……ッ!」
プロデューサーによって、円香は膣奥をペニスでえぐったり、口腔に舌をねじ込まれ吸われたりしているうちに、円香は眉を逆立てたり弛緩させたりを繰り返し、ついに目尻と目頭から雫をこぼし始めた。プロデューサーは目を閉じていたが、自分の頬やアゴに伝う感触で落涙を察した。「私は泣かないので」と言われたのがやけに懐かしかった。
「んう、ぅうッうっ……ン゛んーッ……!」
肌と肉がぶつかりあう音や、粘膜に引き裂かれながら落ちていく水音の中で、はしたないほどの鼻息が浮き沈みする。円香かプロデューサーか、混ざり合ってどちらのものとも言えない。
「……こわれそうだよ、ほんとうに」
円香が腰を跳ねさせると、彼女の尻や下腹や腿はふくらんだりへこんだり従者のように追随する。プロデューサーの体重や抜き差しがそれを分断するかたちになっても、ふくらんだりへこんだりは水か波のように逃げて、手足の先まで円香を震わせる。
意識が混濁していくと、圧迫感や、熱や、汗みずくの生臭ささえ霞んでいく。虫唾の苦い酸味はチクチクとしつこく残ったが、くちづけの間に唾液があふれてきて、その不味ささえも忘れていった。
※
「起きるんだ、円香」
ノドが潰れ声を詰まらせた円香は、くちびるだけで『最悪です』とつぶやいた。門限が近づいたせいで起こされたのだろうと、推測した。それで現在時刻を確認しようと「部屋」を見回してみるが、時計がない。地下室でもないのに「部屋」は窓がない。どうやら日当たりもバッサリ切り捨てて防音に特化しているらしい。
「……それ」
円香は時計を探して視線をさまよわせる間に、ベッドの端――脱ぎ捨てられた彼女の着衣の少し手前――に、真っ白のタオルと500ミリペットのミネラルウォーターが寝かされているのを見つけていた。円香がいざりながら手を伸ばして、震える指をボトルキャップにかけると、半周もしないうちにパキリと開栓できた。
「ん、く、んく……っ」
円香はプロデューサーがそっぽを向いているのを確認したあと、ひび割れそうなほど酷使したノドを潤してやった。いまいましいほどおいしかった。もし首尾よく「こわれ」たら、そのときの自分はこの水を屈託なく口にするのか、それとも投げ捨てるのか、一瞬だけ迷ってしまい、反射的に思考を遮断した。
「……ねぇ」
「円香?」
「そんなに、うるさくないでしょ、私」
「うるさいよ、じゅうぶん」
静かな「部屋」に漂う安堵と失望の凪を、かすれた悪態がゆるやかに波立たせた。
(おしまい)