世界は糞だと、誰もが分かっている。
天災で故郷を無くす。鉱石病で今までの生活を全て失う。どちらもこの世界では大して珍しくも無い話だ。
そんな世界でも……いや、或いはそんな世界だからこそ。人間は争う事を止めはしない。
それは生きる為であったり、守る為であったり、虐げる為であったり、大した理由など無かったりするのだが、要は人間など結局猿から一歩も本質は変わっちゃいないということだ。
こんな世界に産まれた者は全員不幸なのだろうが、その中でも俺達感染者はとびきりだ。
周りからは迫害され、身体に現れる源石に怯え、朝目覚められる事に泣きながら感謝する。少なくとも望んでこうなりたいと思う人間は居ないだろう。自殺志願者でももっとマシな死に方を選ぶはずだ。
夢も希望も無い世界で、最底辺の人生を送って。将来に希望なんてものは何一つ無かった。きっとそれは俺だけじゃなく、この世界で生きている大多数の人間に共通しているのだろうが。
だから。俺は綺麗事に憧れていた。嘘でもいいから助けると言って欲しかった。
そんな俺が『鉱石病患者の為の製薬会社』の存在を──ヤケになって堕ちる所まで堕ちる前に──知る事が出来たのは、俺の人生で数える程しか無い幸運な事だったのだろう。
『製薬会社』では人並み以上の扱いを受ける事が出来た。良好な医療環境。飢える心配も凍える心配も無い生活空間。最先端の鉱石病研究設備。金持ちが入る一流病院にも劣りはしないだろうと感じられるものだった。
無論それらの対価として労働は要求されたが、それは当然の事だろう。無料でこんな事が出来るほど、この世界に余裕は無い。
だが、ここにいる限り人間らしい生活は送れる。残飯を求めてゴミ捨て場を漁る必要も無いし、感染者同士で僅かな物資を求めて争わなくていいし、差別主義者に襲われると怯える必要も無い。
幸福だと思った。思おうとした。──無理だった。
ここに居る非感染者はお人好しばかりだ。致死率100%などという巫山戯た病気を何とかしようと本気で思って、それに人生を捧げるような人間達。人間の善悪など単純なものでは無いだろうが、それでも彼らは善人と呼ぶのが相応しいだろう。
だけど、結局感染者と非感染者は分かり合えない。
例えば、彼らが検査の結果が書かれた紙を見て悲痛な顔を浮かべる時。例えば、落し物を手渡した際に相手が引き攣った顔をしている事に気づいてしまった時。例えば、健康なアイツらが当然のように将来について考えているのを聞いた時。
どうしようもないほどに、惨めさを思い出させる。
長々と無駄話を続けてしまったが、要は感染者は同類同士でつるむ事が多いという、至極当然の話だ。
そのフェリーンの女とは、妙にウマがあった。
と言っても、同じ感染者で、同じ荒事担当で、嗜好も似通っているとくれば。特に妙な話でも無く必然であったのかもしれない。
こんな世界でも……いや、こんな世界だからこそ。嗜好品の価値は高い。明日生きているかも分からない生活では、即物的な快楽が最優先だ。
タバコやアルコールで現実から目を逸らして、美味い飯を食いながら馬鹿な話で盛り上がる。不安から目を背けるには一人で居るより誰かと過ごした方が良い。
ブレイズというコードネームのその女を最初に飲みに誘ったのは、確かそんな理由だった。
何度も一緒に出撃して気心の……ある程度は知れている相手で、快活で話しやすく、酒好きな人間。ついでに美人でスタイルも良い。共に過ごす相手としては理想的だろう。
周りの男の嫉妬と羨望の混ざった視線は気になるが、悪いのはヘタレて誘いもしない奴らの方だ。
彼女がどういうつもりで応じてくれたのかは分からないが、結果として気が合う飲み友達を作れたのだからお互いにとって良かったのだろう。
何かしらの共通点のある相手というのは仲良くなりやすいものだ。
先程も述べた通り、感染者という同じ被差別者で、荒事を任される人殺しという同じ穴のムジナで、現実から目を逸らすのにアルコールを必要とする。
お陰で、出撃の後は決まって2人で酒を飲み交わす習慣が出来た。
そうなれば後は早いもので。何かと2人で行動するようになった。それは例えば食堂で飯を食う時だったり、空いた時間に訓練をする時だったり、特にやることが無くて暇を持て余している時だったり。
別に特別な事をするわけでもなく、ただダラダラと喋ったり嗜好品──主に酒や甘味。俺と違ってブレイズはタバコを吸わない──を賭けてギャンブルをしたりとその程度だが、有り体に言って心地の良い時間だった。
ある時、ひょんな偶然から久しぶりにブレイズと休暇が噛み合った。
お互い、唐突な予定変更で産まれた休日に何かやろうと思えるほど趣味だとかやりたい事だとかがあるようなタイプでは無かったから。独りで無為な時間に押し潰されない為にと2人で過ごす事を決めた。
酒好きの集まりなんて簡単なものだ。気の置けない相手に、美味いツマミと酔える酒。それだけあれば十分で、小難しい議題もお高い何かも必要無い。
ノックの音が来客を──ブレイズが来たことを告げる。
量を楽しむタイプのアイツに対して、それなりに質にも拘るタイプの俺。何度目かの飲み会から俺の部屋に酒をたかりに来るのが恒例となっていた。文句を言いたい気持ちも無くはないが、どうせ一人で飲みきるには多すぎる量だ。代わりに自分でツマミを買う必要が無くなったのだから良しとしよう。
「や、お待たせ! 今日のお酒はなに?」
こちらの返事を待たずに入ってくるのはいつもの事だ。最初の一回目は緊張した様子を見せていたというのに、すっかり可愛げを失ってしまったことだ。
「……テキーラ、ウォッカ、蒸留酒なら大体揃ってるから好きなの選べ」
「んー……美味しいやつはどれ?」
「1番高いのはウィスキーだが」
じゃあそうしようかな。と言いながら、これまた勝手に戸棚を開けて瓶を取り出している。ちゃっかりと1番値が張る物を選んでいるあたり本当は知っているんじゃないかという気もするが、本人の勘の良さや審美眼なのかもしれない。
意趣返しという訳では無いが、彼女の手土産を品定めしてみる。
いつも通り、"男性的な"品々。気を使っている訳ではなく単純な彼女の好みだと気づいたのは以前食べる量を観察してみたからだ。ついでに"フェリーン的な"物も多いと悟った。
それらの幾つかを皿に移している間に酒が運ばれてくる。注ぎすぎな気がしなくも無いが、どうせいつも一瓶ぐらい空けるのだから問題はないか。全部飲んでしまえば摂取アルコール量は変わらない。
「それじゃ、暇な休日に乾杯!」
「なんだそれ……乾杯」
お互い一息に杯を空にする。キツい酒ばかり飲んで感覚器官が馬鹿になっている俺と違って、飲み慣れていない彼女の方は思いっきり顔をしかめていた。
「相変わらず君のお酒はキッツいねー……なんでこんなのばっか飲んでんの?」
「自分の源石融合率より低い度数の酒は飲まないって決めてるんだ」
「ええ……私が飲んでるの全部ダメじゃん……」
まだギリギリ葡萄酒や米を発酵させた酒なら飲める、なんて言ってみても白い目で見られるだけだろう。キツイ酒の方が少ない量で酔えて得だと思うのだが。
アルコールが口の周りを良くしていく。と言っても話すのはくだらないことばかりだ。食堂のアレが美味かっただとか、あの店に今度行ってみたいだとかそんな他愛も無い話。悪いように言えば現実逃避の一環とも言えなくはない。何となくの楽しい話で辛い現実から目を逸らす。それの何が悪い?
世の中幸せに生きるコツは、世界に対して無知でいることだ。わざわざ辛い現実を見て正面から受け止めてしまうような人間は、きっと幸せにはなれない。
アルコールの苦味に紛らわせて、喉と一緒に焼いてしまう。馬鹿みたいに強い酒ばかり飲む理由は本当はこっちかもしれない。
世界の悲惨さだとか、将来なんて無いことだとか。そんな事を考えるより下世話で下品な話でもしていた方がマシだ。品性には劣るだろうが、鬱々しながら生きるよりはよっぽどいい。
……だから、その流れを生み出してしまったのは俺が悪いわけじゃない、と言い訳をさせて欲しい。
さほど量が多いわけでも無い酒瓶は、2人で飲めば大した時間もかからずに空になった。
ここで終わりにするよりもう一本開けようと、新しい瓶を持ってくる。話題もそこそこに尽きてきていたから、暇つぶしがてらゲームでもしようとトランプと一緒に。
さほどゲームの種類を知っているわけでないし、2人で出来るゲームは限られている。アルコールが回って脳味噌が仕事を放棄し始めているとくれば尚更に。
結局、単純で早く終わるものが望ましかった。
カードを5枚引いて、1度交換して、出来た役で勝負する。
ポーカーと言うには少々駆け引きの要素が足りていない。何せ賭けるチップも無いのだから。
降りる選択肢は無く、負けたらショットグラスを1杯飲み干す。ただ酔い潰れて騒ぎたいだけの考え無しの若者がやるような飲み方。実際に俺達もそれを望んでいたのだからその飲み方をするのも当然の帰結だろう。
酔いを早くする方法は幾つかある。色んな種類の酒を飲むことだとか、空腹の胃にアルコールを叩き込むことだとか。息付く間もなく飲み続けるのもその一つだ。
会話は脈絡を失っていく。ついでに品性も……元々無かった様なものだが。
他人の悪口と、所謂下ネタというのはいつの世も気軽に笑える定番の話題だ。2人とも大して面白い話のネタを提供できた訳でもないが、この状態なら大概の話はゲラゲラ笑いながら消費することが出来た。
2つ目の瓶が空になって、流石にそろそろ終わりにするかとなった時。せっかくだから最後に賭けでもしようという流れになった。
問題だったのは、その内容が品性に欠けていたことと、そんな内容でも受け入れてしまうぐらいにお互い酔っていたこと。
『負けた方が下の毛を全部剃る』などと、少なくとも素面だったら絶対に提案しなかっただろう。
そもそもの発端は、彼女の方から「君が負けたら丸坊主にしてね」などと言ってきたことだ。同じ条件で返してやろうとも思ったが、上質な絹のような彼女の髪を切るのは男として受け入れられなかったから、代わりに出てきた言葉が「なら俺が勝ったらお前の下の毛全部剃ってやる」と、そんなものだった。
「いいねそれ! じゃあ私が勝ったら君のを剃ってあげるよ。恥ずかしさで浴場に行けなくなっても文句言わないでね」
「上等。『やっぱりまだ生えてないんだ……』って周りから同情されるようにしてやるよ」
そんな実にくだらないギャンブルに乗ったのは──或いは乗せたのは──勝つという確信があったから。早い話、イカサマの仕込みだ。
今のブレイズの注意力など皆無に等しいし、仕込みやすり替えは昔に散々練習してきた。バレなければイカサマでは無いし、俺に配るのを任せてきた彼女の自業自得だろう。
配られた手札に笑顔を浮かべているのを見るに、相当良い手札だったらしい。向こうには干渉していないから、何であろうと純粋に彼女の運だ。
「エースのフォーカード! ……賭けは私の勝ちかな? ごめんね、幸運の女神に愛されてて」
率直に言って、かなりビビった。ジョーカーを考慮に入れなければフォーカードの出る確率は0.024%。それは勝ちを確信した態度にもなるだろう。極東式のルールで無ければ負けていた。
「悪いな。ジャックとジョーカーのファイブカードだ」
ちなみにファイブカードの確率は0.00045%。普通にやっていればまずお目にかかることは無い。今回に限って言えばイカサマをしているので100%に限りなく近いが。
相手によってはキレられてもおかしくは無い勝ち方だが、俺の開いた手札を見た彼女はケラケラ笑っていた。
「いやー、幸運の女神様ももう口説き終わってたかあ……女誑しめ!」
「人聞きが悪いな……まあいい。ほら、シャワールーム行くぞ」
「え? ……あー! そっか! マジでやるの?」
「まさかあのブレイズ様が、賭けの支払いを拒否したりはしないだろう?」
その言い分がウケた……と言うよりはアルコールで何だろうと面白くなっているだけだろう。
カミソリとクリームを用意するために先に向かってもらう。クリームはともかく、普段使いのカミソリを使うのは……まあ、お互い嫌だろう。確か予備がしまってあったはずだ。
どこにしまっていたか覚えていなかったからやや手間取ったが、ともかく新品を見つけ出した。待たせたことに文句を言われなければいいが。
遅れて入ったシャワールームには、ズボンを脱いで下着姿になっているブレイズの姿があった。
「すまん、待たせ……隠しても意味ないだろ。どうせ全部見るんだから」
呆れ、というのは言い過ぎだが、似たようなことを感じた。そもそもとっくの昔にお互いの裸を見たことがあるというのに。
「そ、そうかもしれないけど! 割り切れないって!」
初心忘るべからず、なんて言葉も極東かどこかにはあるらしい。俺のような人間と付き合いつつも、純粋さを失っていない彼女は有り体な表現だが可愛らしい。
「いいからさっさとそれも脱げ。恥ずかしいならさっさと済ませた方がいいだろ?」
「いや……というか、君にしてもらう必要なくない!? 自分でするからそれで──」
「今更遅い。自分でできないなら脱がせてやるが……」
「わ、わかったから! 自分でやるから!」
下着に手をかけてやったところで覚悟を決めた……というより、諦めたらしい。顔を真っ赤に染めながら、するすると下着を脱いで下半身を露わにした。
当たり前と言えば当たり前の話なのだが、そこから現れたのは年相応なもので。つまりはそれなりに茂っている。それが平均と比べて濃いのか薄いのかは……まあ、本人の名誉のためにもノーコメントだ。
普段はわざわざ使わない浴槽の縁に腰掛けさせて股を開かせる。
「お前、手入れサボってただろ」
「うるさい! ノンデリ! サイテー!」
キャンキャンと騒ぐ割に手が出てこないのはなんやかんやで受け入れているからなのか、こっちの手元に刃物があるからか。まあ後者だろうが。いくら酔っていてもお互い最低限の危機管理ぐらいはできる……いや、こんなことをされる羽目になっているのはある意味危機管理の失敗かもしれないが。
「伸びてると剃りにくいんだよ……切るぞ。どうせ無くなるんだしな」
「もう好きにしてよ……」
これ以上何か言っても怒りを買うだけだろうと判断し、さっさとハサミで短く刈っていく。どうせ剃るのだから肌さえ傷つけなければいい。
手早く済ませたらあとはもうクリームを塗って剃刀をあてがっていくだけだ。
「っ……」
「ん、悪い。痛かったか?」
「や、くすぐったくて…………んっ」
そりゃ体温に比べて金属の温度は冷たいだろうし、敏感なところにあてられれば反射的に声の一つも出ようというものではあるが、それにしたってこれは……
「……わざとか?」
「にゃ……なに……がっ……?」
「いや、なんでもない」
刃を滑らせるごとにブレイズの女性の部分が露わになっていく。彼女に傷をつけないようにと神経を集中させているつもりではあるのだが、あまりに官能的な声を出されると手元が狂いそうになるから困る。
強くて快活な頼れる女オペレーターのこんな姿を見れるのは俺だけだと、そんな優越感のようなものが満たされていく。
「流すぞ」
「えぅ……おわった……?」
「自分で見てみろ」
股をシャワーで洗い流してやれば、そこにあるのは茂みが取り払われた彼女の大事な部分が随分と分かりやすく見えている。
「……死ぬほど恥ずかしいんだけど」
「あんだけ気持ちよさそうな声出しといて何言ってやがる」
「は!? ……うわ! キミ、何それ!」
散々艶っぽい声を聞かされて、間近で大事な部分を見続けて。体に反応を出すなという方が無理があるだろう。
「何と言われれば……ナニとしか言いようがないんだが」
「いやだって……キミの、そんなにデカかった? 服越しだよね……? それ……」
「あ? なに今更生娘みたいなこと言ってやがる。なんなら直接見るか?」
「いい! だいじょ……なんで脱いでるのさ!」
なんでと問われても限界だったから以上の答えは返せそうにないから黙っておく。ただでさえ酒で理性が弱っているというのに目の前にずっと極上の身体があるのだ。不能でもなければこうもなろう。
「なあ、このまましていいか?」
「…………ベッド連れってって」
遠回しなイエスに、もう返事を返す言葉の余裕も無かった。
興奮がすでに高まっていたのと、いよいよ脳細胞をアルコールが深刻に犯し始めたせいで、ムードもへったくれも無くなっているなと頭の片隅で考えていたような気がするが定かではない。
先程俺が剃った場所は当然のことながら何も存在しなくて、その触り心地がなんとなくおかしくてしばらく撫でまわしていたような気がする。
しかし感覚神経が伝えてくるのは、他の女よりよっぽど高い膣内の温度と、心地よいと言うには少しばかり強すぎる締め付けのことばかりであるような気もするから、所詮酔っ払いの思考も記憶も当てにしてはいけないということだろう。
「ねえ……! もう、いいかげんに……!」
喘ぐような声が聞こえてきて、ようやく思考とも言えないような酩酊から解放された。ふと自分の指をブレイズから引き抜いてみれば、滴るほどに彼女から出てきた体液で濡れていた。
「……挿れていいか?」
「うん……はやくちょうだい……?」
いつもより甘えたような顔で素直に答えてくるのは、自分でも気づかないうちに蕩かしていたのか、それとも酒精の成せる業か。
正常位の体勢で。おそらく普段より存在感を増しているのであろう自分のモノをあてがってやれば、ゴクリと生唾を飲み込む音が聞こえてきた。
どうやら散々にほぐされていたらしい彼女の膣は簡単に飲み込んではくれたが、最後まで入りきらずに抵抗が激しくなってしまった。
「まって……おく、まだほぐれてないからぁ……」
「あー、指じゃ届かなかったか。……動くのは待ってやるから、ちょっとだけ我慢してくれ」
「え、ま、──っ!!」
無理やり押し込まれてビクビクと震えている彼女には悪いことをした気もするが、下手に長引くよりは良かったと思ってもらおう。
「大丈夫か? 痛くないか?」
「だいじょ……な、わけ……デカいんだって……!」
「悪かったって。少しこのままでいてやるから」
「…………キスしてくれたら許す」
可愛らしいおねだりに唇を重ねながら、膣が馴染もうとしているのを体で感じる。キュッキュッと締め付けて愛液を出して、彼女の意思と関係ないところで必死なのが少しだけ面白い。
息が苦しくなるまで口づけを交わして、少しだけ離れる。軽い酸欠で潤んだ彼女の瞳は蠱惑的で、気づけば何度も唇を重ねていた。
自分でも気が付かないうちに腰を動かしていて、ああ、相手を気遣う余裕が無いぐらい酔ってるな。だなんて今更なことを考える。その間にも下からは嬌声が聞こえてきていて、それが一層興奮をそそる。
少し体勢を変えようと思って。繋がったまま体を起こそうとして──
「ふきゅっ!?」
どうにもイイトコロに当たったらしい。
「お前、ほんと分かりやすいな……」
「ちょっ……! だめ……! やだ、やだぁ……」
「こんな嬉しそうに吸い付いてるくせに、何が嫌なんだ?」
「だっ……てぇ……これ、すぐ、イっちゃ……!」
「いいだろ別に。いつものことだ」
「ほんとにデリカシー……! あっ! ダメダメダメ……!」
そろそろだなと察しがついたあたりで、腰の勢いを弱めて膣の手前の方までやや引き抜く。
「なんで……? なんで!?」
「イキたいんだろ? どうすればいいか、もう忘れたのか?」
身体を重ねるのは別に初めてでもない。だからまあ、これも一種のプロレスのようなものだ。
「……イカせてください。お願いします……もう我慢ムリぃ……」
「良くできました」
お望み通り。奥深くまで突き入れて腰を振ってやれば嬉しそうに大声で喘ぎ出す。一際大きく絶頂を告げる嬌声が上がって、同時に彼女の膣が強くこちらを締め上げてきて──
「…………え?」
「…………すまん」
結果として、彼女の膣内で思い切り雄としての本懐を遂げてしまった。
「変態。レイプ魔。無責任中出し男」
「……すまん」
同じ布団の中、ネチネチと罵倒されているが、やってしまったことがことだから甘んじて受け入れるしかない。
「感染者同士だし生でいっかって私達にはよくやってるから今更だけどさ。こんなに思いっきり中に出されるとは思わなかったよ」
ジトっとした目で言われても、言い返せることは無い。こういう時男は無力だ。或いは……いや、よそう。
「薬もらってこないとなぁ……と。ついでに一つ聞きたいんだけど、もし私が妊娠したらどうする気なの?」
多分、意地の悪い質問のつもりなのだろう。責任と自由とどちらを取る気なの? と。だが。
「そうなったら、俺の子を産んでくれないか?」
「え?」
「戦闘なんて行かなくていい。その分俺が戦えばいいだけだ。後方でだってできることは──」
続けようとした言葉は、唇の前に持ってこられた彼女の指に止められた。
「そこまで。キミのこと、嫌いになりたくないからさ。私達の権利は、私達が戦って取り戻すしかないんだよ。そこから除け者にしようとするのは、許せないかな」
「……そうか。すまなかった。酒の席の戯言だと許してくれ」
「うん。私は優しいからね。聞かなかったことにしてあげる」
「ついでにもう一つだけ。聞かなかったことにして欲しいことがあるんだが」
「ん? 何?」
こんな言葉、一生言うつもりは無かった。きっとこれは雰囲気に吞まれているのと、酒が口を軽くしすぎているせいだ。
「……愛してる。誰よりも、何よりも、お前のことが大事なんだ」
「……私は何も聞かなかったから、何も返せないよ」
「ああ、それでいいんだ。今にも酔いつぶれそうな酔っ払いの言葉になんて、何の価値も無い」
「うん。さっさと寝た方がいいんじゃない? あんまり失言ばっかりしてると忘れてもらえなくなるよ?」
「……そうだな。おやすみ。また明日」
「うん、おやすみ。…………私も、こんな世界じゃなければ、キミと一緒になりたかったよ」
最後に聞こえてきたのは、きっと酒精が最後に聞かせてくれた、都合のいい幻聴だろう。
「あー……」
随分と長い夢を見ていたような、一瞬だけ気を失っていたような気がする。
作戦に問題は無かった。最小限の犠牲で、最大の戦果を。いつも通り任務をこなして、いつもみたいに酒を飲んで、いつもみたいに部屋に来るだろうアイツと、今日も無事に生きて帰れたと乾杯するつもりだった。
たまたま戦地に逃げ遅れた民間人が居て。たまたま民間人がフェリーンの子供で。馬鹿な俺はその民間人を見捨てられなかった。
その結果として。アーツやら爆弾やらで滅茶苦茶に崩れた建物に身体を滅茶苦茶にされた間抜けな男が一人出来上がったわけだ。
「タバコ……残ってたかな……」
そういえば俺は何故タバコを吸い出したのだったか。死ぬ間際には走馬灯が見えると聞いたことがあるが、どうにもその答えは思い出せそうにない。
「他の連中、どうしたかな……」
あのフェリーンの子はどうしただろうか。馬鹿が作戦を乱して仲間達は大丈夫だったのだろうか。体が動かせない以上頭を回すぐらいしかできることは無いが、それすらも無意味と言われればそれまでだ。
ただ、いよいよそれすらも難しくなるぐらい頭がぼんやりとしてきて……お迎えの音というのはまるでチェーンソーのように派手な音だと……チェーンソー?
「この馬鹿! 一人で何を──」
「よう、ブレイズ……元気そうで何よりだ」
軽口を叩いたつもりだったが、しっかりと声は出ていただろうか。というか、コイツのこんな悲壮な顔初めて見たな。いつか揶揄うネタに……無理か。
「今助け──」
「よせ。この血の量だ。医療アーツでもなきゃ無駄だけだよ」
多分自分で思っているより喋るのも遅い。作戦時間からしてこの辺りに大規模アーツでの制圧が来るのもすぐだろう。間抜けが醜態を晒さなければ何も問題なく撤退も完了できていたのだが。
「嫌だ! 見捨てない!」
「聞き分けろよ……お前まで死ぬぞ」
「傷は焼いて塞ぐ! キミは私が背負う! 異論は!?」
異論だらけだ。火傷が死因になるかもしれないとか、人一人背負う体力なんて残ってないだろうとか。だが説得しても無駄だということだけはその目から伝わってきた。
「じゃあ……賭けをしよう。お前が無理だと判断したらその場で俺を捨てろ。その時は、代償として俺のことはさっさと、忘れて……初めから、俺なんかいなかったと思って……生きていけ」
彼女を引きはがす力も無い。アーツの使用を止める手段も無い。というか、正直自分が何を口走っているのかもよくわかっていない。
「じゃあ君と無事に帰れたら?」
「その時は……作戦を無視した馬鹿な男と、それを見捨てられなかった、馬鹿な女が残るわけだ。お似合いの……カップルだと、思わないか?」
「そうかもね!」
血……というより傷口が焼ける音がする。痛覚はとっくに正常に機能していない。
「だから。その時は……結婚しよう。心から、愛してる」
死亡フラグか? これは。フィクションで戦場でこういうことを言うやつは必ず死ぬんだよな。
だとしたらそれはそれで構わない。死体をどこかに捨てて彼女は助かり、この馬鹿のことは忘れて生きてくれるだろう。賭けの結果を誤魔化すような女じゃないから。
意識が遠のいて、彼女の返答は聞こえなかった。或いは、何か返す余裕も無く何も言ってないのかもしれないが。
代わりに、かつて彼女に言われた軽口をなぜか思い出した。
『──幸運の女神様ももう口説き終わってたかあ……女誑しめ!』
願わくば。彼女だけでも。どうか──