おおよそ1分。真っ白が続いている。光で見えない。こんなこともあるのだろうかとデリタは思った。
(もしや、この光は魔光王の趣向か?)
だが、兵士達の怒号が聞こえ、強い風が同時に巻き起こった。あたりの悪臭や身体に悪そうな気配を一気に吹き飛ばされた様な気がする。
金属が石畳みに叩き落とされ、転がるような音がけたたましく鳴った。観衆達から悲鳴があがりだした。でも彼等の臓腑から放たれる、内臓の腐ったようなにおいは無かった。
(なんだ、これは?)
デリタは一度目をつぶりもう一度開いてみた。しかしまだ見えない。真っ白い『暗闇』のままだった。
もう一度激しい風が起こり、またも馬揃えを行う騎士や兵士達の悲鳴があがった。
いい加減に俺の目を何とかしてくれ。そう呟いた時に、南のほうから大きな声が聞こえて来た。遠くまで通りそうな張りのある男の声だ。
「聖帝爆撃剣は戦いの意志がある者のみを吹き飛ばす!人々よ、巻き添えを喰らいたくなくば早くここを立ち去れ!」
その声のあたりにデリタは探りをあてる。肝が縮み上がった。これまで感じ取ったことが無い、強大な『力』があった。
(……バーフレアなんぞ比べ物にならない力だ。魔力? いや、術法の力か? わからん! だが、とんでもないぞ、こいつは!)
一体何者だろうか。薄々、そうかもしれないと思っていたが妄想はやめた。まだ目は治らない。強い光が視界を邪魔している。
だが、彼の周囲は違った。駆けだす人々の足音と共に、マーシュが呼びかけて手を引っ張り、彼のおじがデリタの身体を抱き寄せて引きずりだした。
「ダリット、ここは危ないよ! 逃げるよ!」
「目が見えないんだ……でも誰が来たんだ?」
「わからないよ! とにかく遠くに逃げるんだ!」
デリタはいまだ目が見えないままだった。マーシュに手を引っ張られ導かれるまま、路地に入るとまたあの声が聞こえて来た。
「魔光王ウルティーマ! 人々が皆去ったら私と勝負だ! 『光の導き手《ライト=ブリンガー》』を返してもらう!」
デリタは耳を疑った。攻城塔の様な高さの櫓から声が聞こえた。
さっきの声よりも、もっと美しい声であった。美女の声、と錯覚するほどだった。劇場の歌舞の大家でも、あんな朗々とした響きの、聞き惚れる様な声は出せないだろうと思うぐらいのだ。
「再考せよ。挑む前に一度
「光が無ければ炎がある! 水もあれば風も、雷霆も! 私は光だけに頼ってはいない! 光に頼り過ぎているのは、君のほうだ!」
威勢のいいその返しに、ふふ、と笑う相手の息。デリタは確かに聞いた。そして視界が晴れた。
大通りに巨大な炎の竜巻が2つ同時に起こり、周囲の家屋を焼き払いながらぶつかっていた。それから空から紫電が何度も落ちる。
その間で2人の何者かが、地を震わせながら握りしめていた剣でつばぜりあっていた。その2人は若い男達だった。どちらもその姿は美しく、神々しいともデリタには思えた。
1人は白銀の鎧をまとう、勇敢かつ善良そうな、背が高く屈強そうな顔立ちの金髪の男で、炎を刀身にまとわせた、
もう1人は薄汚れた毛織りの黒いローブをまとっていたが、その顔はまるで美しい女そのものだった。いや、相手よりも骨格は華奢そうだ。浮世離れした顔立ちを見てデリタは『前世』の記憶を思い出す。
(『風切り姫』……あいつを思い出す顔つきだ!)
前の生涯でよく関わった、風の精霊の末裔の種族の女の
(あの顔、エルフの女にも見える程だぞ。どういうことだ?)
金にも銀にも見える様な長く白い髪。髪に何かをのせているが、ところどころが錆びた真鍮の鈍い色合いのものだった。本人は光り輝く美貌を持つのに、まとっているもの何もかもが、恐ろしいほどみずぼらしかった。
(まさか魔光王はハーフエルフか? あるいはラムダとやらの一族は、この世界におけるあの種族か?)
長く流れる真っ白な髪を風で揺らしながら、もう1人と刃を鳴らし合う『女』を見てデリタは思った。
あれが本当に『魔光王』ならば、あいつこそが世界を救う為に天地が遣わした救世の手ではないのか?
それは赤い剣を持つもう1人にも言えた。あれが『光の王』ならそいつは『光の騎士団長』だ。まるで隙の無い攻防を遠目で見ながらデリタは思う。
(あいつらこそ……世に愛され、君臨するために産まれた者達かもしれんな。じゃあ、俺は……。)
何の為にこの世界に生まれ変わって来たのだろう。
まさか、この2人が怨念を忘れ、手と手を取り合って戦う魔王となる為にか?
そして、その時がやって来た。一瞬、相手と斬り合い、魔法をつぶけ合いながら、『女』がちらと彼に視線を向けた。
頭の中でその声が聞こえた。聞き惚れる様な甘い、髄を蕩かせるような響きだった。
「
デリタは不意に勃起してしまう。しんみりとした悦がその根元からせりあがっていた。その声はまるで魅惑ばかりの女の身体の様だった。
だが、女肉を侵すことを知っている今の自分ではなく、まだ女を知らない初心な少年に、教えて導く女のそれであった。女の濡れた奥がどんなものかを学ばせる為の行いと同じだった。
「余は南の勇者などに興味は無い。あれは偽り。嘘の闇」
その暖かい声は彼の感覚をのしかかって包み込み、逃れられぬように抱え込む。股間は確かな実感となってそれを味わっていた。入り込んだ陰茎を優しく舐めあげる、温かく濡れた洞のようだった。
「そなたが、まことの闇の勇者となり、余との諍いを望むのみぞ」
声は艶やかな『肢体』の幻像を伴いだした。一糸まとわぬ『魔光王』の姿だった。
それがデリタを喜悦させる。声によってつくりだされた幻覚それが、屹立した男根を盛んに攻め立てた。根元でとどまっていた快楽がせりあがり、亀頭の裏側まで昇り詰めていた。
「だがその時は、死の遣いではなく『破壊』を手に挑むがよい。余の大業を継ぐのは『破壊』の光と闇。ゆえの余であり、魔の光なり」
デリタは射精した。その声が作りだした『幻の女』の子宮に向け、高々と激しく放った様にだ。何度も、何度も繰り返された。
そして彼は、身体の力と意識とを失った。その後しばらくして、強大に過ぎる2つの力がぶつかり合う気配は、散って消えた。
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