【完結済】眠れる師匠のわて様を好きに使っていい日 作:あいいろ ののめ
―――月の綺麗な夜、僅かな見張りを除いた皆が寝静まった砦の中でわて様が見つけたのは…あのリンドの姿だった。
「……どうして、君がここに?」
「それは、同じ言葉を返したいくらいよ。どうして貴方がこんな所に、それも帝国に仇なすような真似をするだなんて」
「それは違うんだ、話を聞いて欲しい…!」
彼の言い訳じみた言葉に耳を傾けてしまったのは、わて様自身がまだ彼を信じていたいからだったのでしょう…結論なんて、とっくに決まっていた筈なのに。
「…解ったわ。話は聞かせて貰うけれど…その前に。
ここに来るまでに戦場で見たわ、貴方のその義肢とよく似た何かを身に付けた歩兵達の姿…アレはわて様が造った義肢の技術を流用したものだって。間違いないかしら?」
「ああ、そうだよ…でも君が作ってくれたものと違って、装着した人の身体能力を向上させる事に重点を置いたんだ。君が作ったオリジナルはそのまま再現するにはコストや技術的に難しい点もあって、設計を簡略化した試作機でもまだ数がそこまで生産できて無いけれど…」
数は多くない、それを聞いて少しだけ安心したけど。やっぱりこの前に戦場でわて様が確かめていた、なんでもない白兵が身に付けていたのは、あのリンドの義肢を参考に造られたパワードスーツだった。
ひとつ、またひとつと憶測が確信へと移り代わっていく中、わて様は彼を睨み付けて次の言葉を突き付けた。
「わて様を、騙したの?」
「騙したなんて、そんな!違うよロノミア、僕はただ…この義足をもっと、良いものにしたくて。」
「その結果がアレ?」
「試作機は君みたいな特別な魔術技能の知識が無くても手入れができるように、製造も組み立ても簡単に済むよう設計したんだ。魔術を熟知した君から見れば確かに…まだ幼稚な出来、かも知れないけれど。」
「わて様の知ってるリンドは、魔導義肢にそこまで詳しくは無かった」
「僕もこの義肢について色々と勉強したんだ。ロノミアは凄いね、僕は君がくれた義肢について理解するのがやっとで、とてもだけど同じものをゼロから作れって言われても無理そうだったよ。
だからね、義肢について勉強をしていく度に君からこれを貰えた事が心から嬉しく思えて…それでもっと良いものを作れたら君を驚かせられるかもって、本当なんだよ。
その証拠にほらっ、僕の義肢はロノミアがくれた物から着想を得て更にブラッシュアップしたモデルで……少しは君にも認めて貰えるような…」
リンドが見せた新しい義肢は確かに以前見かけた時とは原型からして少し形状が異なり、わて様が付けることの無かった機能を持っていた。でもそれは……っ。
「っだとしたらどうして、その技術を人を救うためじゃなくて…ッ!」
『誰だ…!!』
「…っ!?」
冷静で居られなかった、ここは敵地だと言うのに。
リンドとわて様の居た部屋の扉が強引に開かれ、明らかに武装した敵兵がわて様を見つけるとその手に持った得物を突き付けようとして……その間に、リンドが両手を広げて立っていた。
「どういう事だ、リンド副官。貴校には簡潔に説明する義務がある」
「えっと…彼女はこのまえ捕虜にした子だ。尋問を兼ねて部屋に連れ込んだは良かったけど、結構おてんばみたいで…声、煩かったかい?」
「……お前はあくまでも新戦力を試すため今の地位に居るだけだ、あんまり好き勝手するなよ。反感を買って困るのはお前自身なんだからな…」
「ああ…分かってるよ」
男はリンドを訝しげに見つめていたけれど、わて様がリンドに手首を掴まれている間も大人しくしているのを一瞥すると、その軍靴で苛立ちの音を鳴らしながらも部屋を後にした。
リンドはそんな背中姿を見送り終えるとほっと息を吐き、わて様の方を見下ろして……いつもの優しげな笑顔をみせたの。
「…怖かったよね、大丈夫だった?」
「え、ええ…」
「咄嗟の事だったのに僕を信じて大人しくしていてくれて、ありがとうね」
「リンド…」
わて様は…彼に何を言えば良いのか解らなかった。
なんでこんな事をしたのか問い詰めれば良いのか、それともわて様を完全に見放した訳では無いみたいだということについて聞けばいいのか、頭の中で色んな言葉が行き交って、考えがまとまらなかったの。
「君は…簡単には受け入れてくれないかも知れないと思った。でも、僕は本当にこの義肢に感銘を受けたんだよ、僕みたいなのがほとんど普通の人と変わらないどころか、それ以上に軽やかに飛んだり跳ねたり出来るようになることが出来て…心から嬉しかった。」
「……っ」
「それで…君と一緒に、もっといい物を作れたら…って。本当にそう思ったんだ、だから必死に義肢の勉強もしたし、実用的な開発にも着手した。あっという間に医者への道を駆け上っていく君に追い付きたかったんだ。
ロノミアに言ったことは無かったけど、実は親族がこの砦の軍を指揮する側に居てさ…最初はこの義肢についても訝しげに冗談半分で話を聞いてたけど、どうにかここまで認めて貰うことが出来た。
いま戦場で運用されている物はまだ試作だけど、実用性が認められればより理想的な義肢を開発するための研究費も降りるんだよ。
だから……ロノミア、僕はやっと…君から貰った色々な物を、少しづつだけど返してあげられそうなんだ……」
そのときのリンドはどこか切羽詰まった目で笑顔を浮かべていて。わて様は今更になって、ああ…『そういうことなんだ』って。
「そう…わて様、貴方のことを勘違い…してたのね?」
「ロノミア…?」
わて様はリンドの首筋に指を這わせ、お互いの吐息が間近に感じられる程の距離まで顔を近付けた。
「そっか…うん。そうだよね、ロノミアなら話せば分かってくれると思ってた…勇気を出して話せて良かった…」
「リンド…」
「…ロノミア…」
艶めかしくお互いの名前を呼び、彼が抱き寄せる仕草に身を任せ、私たちの間にはそれ以上の言葉は必要ないと確かめ合う。彼の手には相手の魂にさえ指で触れてしまいそうな、壊れ物を扱うかのようにそっと優しさが感じられたの。
「ねぇ、リンド…」
「っ…どうしたの、ロノミア?」
リンドの視線が艶やかな唇に向けられたと判ると、わて様は呼吸に合わせて慎ましく、そして焦らすように小さく口を開閉させる。
しばらくのあいだ訪れた無言の時間に、リンドは堪えきれなかったように声を漏らしたわ。
「今日の君は、何だか大人びて…魅力的だね…?」
「それはいつも貴方に会うときとは化粧が違うからじゃないかしら。貴方に今のわて様がどう見えているのかは知らないけれども…化粧の一つや二つくらい、暗夜の貴族は仮面のように使い分けるものなんだから……。
ところで…ねぇ、リンド…今日みたいな大人粧した化粧をわて様がどう使うつもりだったのか、知りたい?」
「え……?」
わて様はそっと胸を押し、小さな部屋の寝具へと彼を座らせる。そして明らかな彼の動揺を隠せないからかいがいのある表情が見えると、わて様は小さくクスリと笑いながら声を掛けた。
「でも…その前に。貴方の血を吸わせて欲しいの。 ここに来るのも一苦労だし、さっきの緊張感が解けたと思ったらなんだか小腹が空いてしまったのよね」
「え…ああ、いいけど…」
「ふふっ、ただの食事でそこまで緊張しなくても良いじゃない」
リンドの緊張を解きながら、わて様は寝具に座る彼の膝上に跨る。わて様を上に座らせたリンドは人形みたいに表情を固まらせてわて様を見上げているけれども…。
「
少しからかいも含めてリンドに意地悪を言ってみると彼の体がピクりと反応したのが分かったので、わて様は腰をぐりぐりと押し付けてみたりした。
「あ…のさ…ロノミア……?」
「ふふっ…こっちはもう暫くガマンして…?」
品を失わないよう抑え気味に口を小さく開き、吸血鬼の鋭く尖った牙をリンドの首に突き立てる前に、湿った舌で軽くひと舐めする。
それからわて様はリンドの首筋に口元を近付け、口を大きく開いた。
「…はぁ…む……」
時々、吸血鬼ではない相手に『人の血は美味しいのか』って聞かれることがある。わて様からすればなんでこんな美味しいものを食べる事を忌避の目で物珍しそうに眺めてくるのか分からないけれども。
少なくともリンド相手にするその行為は、他のものとも少し違っていた。
「ぁ…はぁ…っく……」
リンドの苦しそうな声は普段見えてこない色気があって、少しだけ惹かれる。
血を吸っているから頭が本能に喜んでいるのか、それともわて様自身がそういう苦しむ姿を好き好んでいる性分なのかは解らなかったけれども、とにかく吸血を迫られたリンドが喘ぐ姿は耳を澄ませていて愉快に感じる。
「…ッ゛゛!!?」
……そんな幸せな日々も今日が最期だと思うとリンド、寂しいわね。
「…恨まれても、仕方ないわね…?」
寝具から離れながら、リンドの瞳孔が見開きわて様のことを信じられないと言った目で見つめる姿を眺める。
わて様が月明かりに照らした手のひらは鮮血で汚れ、彼のただでさえ青白い肌がさらに一段と不健康そうな蒼白に染まっていくの。
ああ………。
「…ッど…して……っ!?」
「ごめんね…わて様が、貴方に身勝手な善意を押し付けてしまったばかりに。
無邪気で、本を読むのが好きで、吸血鬼の翼を見ても怖がらないようなどうしようもないお人好しのバカで……そんな貴方がわて様は好きだったのよ。」
心からの、言葉だった。わて様がリンドに義肢という物を造ってしまったばかりに、彼は多くの人を犠牲にしてしまった。
「……っ認めるだなんて…ねぇ、貴方は大勢を犠牲にしてまで何を認めて貰いたかったの?
人が死ぬのはどうしようもないわ、戦争なのだから。
でも貴方は……もし今回は認めて貰えたとして。その次は何を犠牲にするつもりだったのよ? 本当にそんな事をしてまで、認めて貰う必要があったの?」
帝国は内乱騒ぎの事態になりかけていると言うのに。
「……ねぇ、リンド。」
「ロノ…ミ…ア……僕は…き…み………しあ…わせ…に……」
器官に血でも混じったのか、こちらに手を伸ばすリンドの声はいつも優しさの影もない掠れたものだった。
「本当にバカよね…リンド……?
貴方が何かを犠牲にしなくたって。わて様は貴方と一緒に、出会って間もない頃みたいに肩を並べて同じ本を読んでいられたら、それだけで満たされてたのに……。ちょっとだけ欲を言えば、貴方と一緒に小さな診療所で一緒に街医者として、大変だけれど小さな幸せがいっぱいの未来でもあればそれで……っ。
わて様は……何処を間違えてしまったのかしらね…?」
わて様が何かを間違えたのだとすれば、リンドと出逢ってしまったこと。そうでなければ遅かれ早かれこのような事態になっていたのでしょうから……。
「そ…な…ッごボ…っゴ……ロノ…っァ……赦…し……」
「ごめんなさいリンド、あの世で幾らでも恨んで頂戴。わて様はあなたに恨まれるには充分な裏切りをしたのでしょうから…」
わて様は自身の身の丈ほどもある黒い翼を振りかざし、初恋の果てにあった呆気ない結末に幕を下ろした―――
―――帝都を巻き込みかけた内乱騒ぎが収まり、ようやく徴兵からも開放されたわて様はリンドが戦争の直前に家族ぐるみで移住していた事を突き止めた。
それは彼の墓に花束のひとつでも置いていくべきかと…自身の中でも整理をつける為のものだった。
「ふんふん、なるほどねぇ…」
「何がなるほどなのよ。というかわて様は貴女を誘ったつもりは無いのだけれども?」
「…だって! ようやく学校も長い休みが来たと思ったのにロノのんってば一人で旅行するとか…ズルいよっ!」
「ズルいって言うのはどこかズレてないかしら?」
「まぁ良いじゃないロノのん、そんな細かいこと気にしたってあんまり意味無いんだから。それより行き先のチョイスがどうかと思うな〜、だってその街って、この前の騒ぎで当主の入れ替わった所でしょ?
まだ帝国兵も居て厳しそーな場所、よく旅行先に選んだよね」
「はぁ…わて様は観光気分で向かってる訳じゃないって最初から言っているじゃない…」
「………そだっけ?」
ルカリカが相変わらずなのはもう放っておいて、街にたどり着くとそこはしっかりと武装した帝国兵が何度もすれ違うような、心做しか街歩く人の顔色も沈んで見えるような街だった。
実情はただの内乱とはいえ、戦争に負けたんだもの。
仲間割れによって平穏が崩れて得をするのは帝国でもなければ今回の事件を起こした反乱分子側でもなく、この国の領土を虎視眈々と狙い澄ます隣国なのでしょうから。内乱がもう少しでも長続きしていれば、宣戦布告が飛んできたっておかしくは無かったのでしょう。
だからこそ帝国の秩序を維持する為には、反抗の意思が湧かないように上手く支配をしなければならない。
そんな帝国の意志に抑圧される様子が、この街の沈んで淀んだ空気には現れていたのでしょうね。
「……ルカリカ、先に宿に行っててもいいわよ。わて様は少し…用事があるから」
「えー? ロノのん、何時もはそんなつれないこと言うような子じゃないよね?」
「そんな事無いでしょう、いつだってわて様は貴女のこと疎ましく思ってるのだけど」
「でしょ?…疎ましい相手に『先に行ってて良い』だなんて普通、言わないよねぇ?
ここ最近のロノのんってば妙にしおらしくて張り合いも無いからてルカリカお姉さんってば退屈なの。だからその用事とか言うのもさっさと終わらせてしまいましょ、ルカリカお姉さんも一緒に居てあげるからさ?」
言葉はやや強引だったけれども、バルカリカなりの気遣いだとわて様には解った。
「…はぁ、仕方ないわねぇ。来てから暇だって言われてもわて様、知らないわよ。あと雑用もして貰うから」
「え〜? ルカリカお姉さんを捕まえてわざわざ雑用仕事頼むなんて、他にもっとして欲しいことないの?
あ、今ならお姉さんがギュッと抱き締めてあげ…っうぶぶぶぶ…!!」
不意に近寄ってきた不躾物の頬を片手で掴み上げて撃退しつつ、わて様は事前に調べていたリンドのお墓がある墓地へと向かった―――
―――…ふぅっ!…ようやく綺麗にできたね!」
リンドの墓を綺麗に掃除したルカリカがそう言ってひと息をついた。
わて様が手に抱えていた紫と白色の二色で飾られた花束をその横にそっと供えようとしたのだけれど。
「ルカリカ、少しだけ席を外してくれる? 少しだけ…心に整理を付ける時間が欲しいの」
「ん、じゃあルカリカさんはさっき近くで見つけたお菓子屋さんでも見てくるから。
…ロノのんも終わったら寄り道しないでお店まで来てよ? 可愛い女の子が一人だとどんな危険があるか分からないんだからね〜」
「ええ…それは貴女にも言えることじゃないかと思うけれど…」
バルカリカはわて様の言葉を最後まで聞くよりも先に後ろ手を振ると飛んでしまい居なくなってしまった。
「……リンド」
お墓に向き直ったわて様の口からはほとんど無意識にその名前が溢れ出していた。
あの夜、リンドが見せてくれた姿が彼の…本当に内に秘めていたものだったのかもしれない。
『ロノミアは凄いね…』
わて様が何度も学友達から言われた、理解することを諦めた凡人からの何気ない言葉。そのひと言をリンドから言われた時に…そんな今さらになって、彼の『劣等感』に気付かされるなんて。
認めて欲しかった、その言葉は……本当にわて様だけに向けたものだったのかしら。本当は見返したかった、それがリンドの本音だったのかもしれないとわて様は思ったけれども、そんな想像に意味は無い。返ってくる答えが無いのだもの。
でも…そうね、貴方はそういう意味では帝都がそこまで好きじゃ無かったのかしら?
わて様はね、ときどき鬱陶しいとは思うけれど、いまの帝国が嫌いでは無いのよ。勿論理不尽なことはいっぱいあるけれども、夜景は綺麗だし、わて様の好きな魔術に関しては吸血鬼の長い寿命でも足りないくらいの知識が詰まっていて、少ないけど友人も……貴方だって居た。
「……はぁ」
溜め息だなんて、らしくもない。わて様が間違った選択をすることはあっても、後悔することなんて無かったのに。
「あ……。」
小さく口から声が出てしまったのは、目を逸らした先にわて様の知る人物が立っていたからだった。けれども……。
「〜っ!何しに来たのよっこの売女ッ!!」
そこに居たのはリンドの母親だった。彼女にあの日の夜に何があったのか、それを伝えたつもりは無かったけれども……。
彼女は見つけるや否や震えた唇でこちらを罵り、その手に持っていたバケツの水を浴びせてきたのだ。
「っ全部、解ってるのよ!!? リンドの…っ死んだあの子の首筋に鋭い牙の噛み跡が着いてたって…!!その夜に部屋に貴女が居たのを見た兵士もいるって…!!」
わて様は髪から水を滴らせながら彼女の感情のまま繰り出される言葉の全てを罰なんだと思って聞き続けていたけれども、やがて彼女は金切り声をあげたかと思えばその手に抱えていた花束をこちらの顔面目掛けて投げつけるとそのまま、お墓に挨拶することも無く何処かへと行ってしまった。
「…ろ、ロノのん…!?どうしたの、それ……!?」
後でバルカリカが見つけたとき、彼女は珍しく動揺した様子の声と表情でわて様を見つめていたわ。
まぁ…そうでしょうね。一応は整えてきた服が濡れて汚れてたし、散った花弁が何枚も衣服にくっ付いたままだったのだもの。
わて様が返事に困って何でも無いわと言うと、察しの良い彼女はすぐに何があったのかを理解してしまっていたみたいだった。
「…ロノのんにこんな事するなんてさぁ、許せないよ!ちょっくら行って来……!」
「良いのよ、止めて。そんな事をわて様はお願いしてないから、そんな事したって…気持ちが晴れる訳じゃないし」
「でも…っ」
「バルカリカ。いい、わて様はこうなるかもしれないって分かってても、それでも選んだのよ。だからこの話はもうこれで終わり、解った?」
「………、……うん。」
バルカリカのあんなに不機嫌なのを隠さない表情って、初めて見たかも知れない。だっていつも我儘で自分勝手なバルカリカだから、怒りなんて言葉とは無縁だと思っていたんだもの。
そんな彼女のお陰で少しだけ重い気持ちが軽くなったわて様はその後、ルカリカの濡れた服をどうにかしないとと言う真っ当な言葉で策略に嵌められ半日近くを彼女の着せ替え人形にされたのだった―――
―――…な、なんですか急にオレの事を見つめて。どうかしたんですか、バルカリカ…さん」
「ん〜? ガジュ君はどうしてお姉さんがじぃーっと貴方のことを見つめてると思う?」
「……もしかしてお腹空きました?」
「わぁ凄い、馬鹿みたいな答えだねっ! まさかお姉さんのことお腹を空かせた猫と同等の扱いをするなんてっ!」
バルカリカの明るい声色と雰囲気とは裏腹の、心底ガジュを小馬鹿にした言葉だった。…まぁ、ガジュもそう言われても仕方のないような答えを出したとはわて様も思ったけど……。
「…っふふ」
「あーっ、ロノのんいま笑った〜?」
「……笑ってないわ。少し、咳き込みそうになっただけ。」
「へぇ、そうだったんだ? じゃあ…」
ルカリカは何か嫌な予感のする少し気味の悪い笑みを浮かべたので、わて様はすぐ逃げようとしたのだけれども…。
「逃げちゃだ〜め〜♪」
「っ!ッ擽らないでっ、っの…やっ!ふ…っふふ…!!あひっ…ひゃら…ぁっはは…ハハハっ!!」
「今度こそ笑った?」
「笑った、笑ったから止めっ…ひゃぅっ」
「あー…ロノのんってばホント可〜愛いっ。
だってさぁ普通、『ひゃぅっ』なんて言わないよっ?」
ようやく離れたバルカリカを睨み、わて様は心の底からの感想をぶち撒けた。
「ふぅ…っは…ぁ……っく、はぁ………ふぅ。…普通じゃない事をしたのは貴女でしょうバルカリカ…本っ当にくっだんない悪戯ね!!」
「あーあーロノのんが怒っちゃった〜…ガジュ君のせいで!」
「えっオレなんですか今の!?」
「だって、ガジュ君がバカみたいな答えを言ったからロノのんが笑ったんだもん。そうだよね、ロノのんっ?」
「…笑った覚えは無いけど?」
「え〜? さっきあんなに笑ってたじゃん」
「それとコレとは話が違うじゃないっ」
「あっ!ガジュ君紅茶が無くなっちゃったから新しいの入れてくれるっ!?」
「え、はい…解りました……」
わて様は至極真っ当な反論を返したつもりだったけれど、当のバルカリカ本人が気にもせず面白がっている状況を変えられないのでは意味は無かった。
けどバルカリカはもう既に飽きたのか、ガジュに雑用を押し付けて彼の背中を見送ると、さっきまでとは少しだけ違う声色でぽつりと声をこぼした。
「……ねえ、ロノのん。一度しか言わないんだけどさ?」
「…何。」
「帝都から居なくなったときはすっごく心配だったケド。思ってた数十倍は楽しそうでお姉さん、安心したよ」
「心配って、大袈裟ね……」
「ふぅん、ロノのんはまた適当な事言ってるって、そう思ってたんだ?」
「……そこまでは言ってないでしょう、面倒な奴ね」
「ふふー♪」
面倒臭いバルカリカを羽虫でも払うように扱いながら、昼食に訪れた僅かな休息の時間を無駄にするような欠伸を噛みころす、そんな午後のひと幕。
「はぁああ…ガジュのせいでわて様疲れちゃった…」
「え゛…師匠までそんなこと言うんですか?」
「だから午後の診療は貴方に任せようかしら…」
「へっ!? 流石に冗談ですよね!?」
「ええ、じょーだんよ。じょうだんに…きまってるじゃない…」
「明らか眠そうな声で言われても説得力ありませんって!起きて下さい師匠っ!」
本音を言うともう少しだけ、この心地良い空間で微睡んでいたいのだけれど…まだ診療所をガジュ一人に任せるのは不安が残るから。
仕方なくわて様は瞼を擦り、この退屈な微睡みの夢から目覚めて幸せな日常へと帰って行くのでした…―――
…なんて。わて様のモノローグなんだから、その終わりがどれだけ陳腐なものでも好きにしたって構わないでしょう?
次回のおまけからは普通にンケート結果に基づいたえっちなお話になる予定、なお今回は9割方作者さんの自己満足です。
ちなみに第一回アンケート回は今のとこ5割くらい書き終わってるのでそろそろもうそろそろ投稿されると思います、以下余談。
前回の人物解説においてリンドだけ紹介が全く無かったのは元々の設定とは色々と異なる点があり、本編と違ってリンドが経緯はどうあれ悪人であるという点も含めて、作者さんの中で纏めきれずに揺れていた部分があるからです。
なのでその辺が振り切れたおまけ編ではロノミアの天才設定も遺憾無く発揮されていたり、その結果については何も言いませんけど。
しかしこの話をそのまま組み込むにはちょっとシリアス過ぎたので、本編時空ではややマイルドな表現に抑えました。そうしないとロノミア関係で色々ケアする必要のある箇所が増えてR18じゃない話が4話くらい増えるから仕方がなかったのです。
結局ガジュに救われるだろう結末は変わらないという点も含めてですね、案外ガジュはオオカミの癖に忠犬なので。
ではまた次回っ、お楽しみに〜
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