数日後、祝日に行われたAqoursのライブは無事に終わった。地元商工会が主催の小さいステージではあったが、観客は満員御礼で、メンバーたちもミスすることなく完璧な歌とダンスを披露することが出来た。
「次はユニットごとの活動に専念いたしましょう」
無事にライブを終えたことに満足したダイヤは、今度は各ユニットごとでの活動を提言した。リーダーである千歌も「賛成ー!」とノリノリの様子だった。
「でもちょっと休みたーい」
果南が声を上げると、それにも千歌は「あっ、それも賛成ー!」と軽々しく挙手をした。
「まったく千歌さんは……まぁいいですわ、このところ練習ばかり続いてましたし、息抜きも必要でしょう」
ダイヤは果南の提言を受け入れて、次のライブ活動はユニットごととしつつ、メンバーには休息期間が設けられることになった。
H
「いやーでも驚いたなー。花丸ちゃんがスマホデビューとはねー」
「本当ですわね。何かきっかけでもあったんですの?」
花丸、果南、そしてダイヤの三人は校舎の屋上に集っていた。三人はAqoursの実にユニット『AZALEA』のメンバーだった。
「えっと……よ、善子ちゃんが持ってるのを見て、欲しくなって」
それは嘘ではなかった。
「あー、なるほどねー。二人幼馴染だし、仲いいよねー」
「花丸さんもスマホを持ってくれたことですし、Aqours全体のグループLINEも作れるようにましたから、よかったですわ」
花丸がスマホを持っていることが他のメンバーにも知れると、待ってましたとばかりに千歌が「グループLINE作ろ!」と提案したのだ。実は以前からその考えはあったのだが、メンバーで唯一スマホを持っていなかった花丸のことを考えて、ずっと
「これを機にAZALEAのグループLINEも作れましたし、いつどこでも情報共有が出来ますわね」
「そんな堅苦しく考えなくてもよくないー? 楽しく使えればいいじゃん、ねぇ花丸ちゃん」
二人と鞠莉、3年生組の真実を知る花丸は、努めて笑いながら「そうずらね」と返した。
「ともかく、しばらく少し休んでから新曲を作りましょう。他のユニットに負けない素晴らしいものにいたしましょう」
昨日、ルビィと一緒に寝ていたダイヤが言った。
「よっし、いっちょやるかー」
一昨日、千歌とエッチな遊びをしていた果南が言った。
「がんばるずら」
深夜までずっと善子が作ったアプリを弄り、メンバーたちの赤裸々な私生活を覗き見していた花丸が言った。
Y
「サァー、私たちギルキスはどうしまショー?」
木陰のベンチに座りながら鞠莉は言った。両脇には善子と梨子が座っていて、この三人は『Guilty Kiss』というユニットを組んでいた。ロック趣味のある鞠莉とこじらせ厨二病の善子のクセが色濃く出ているユニットだった。
「せっかくだし新しい曲でも作る? ダークエンジェルらしさ満載のとか」
「善子ちゃんの注文はいつもそれなんだから……」
呆れ顔の梨子に対し善子は「ヨハネ!」といつもの返しを言った。
「ワタシはー、聴く人の心をグッと掴んでしまうような力強いのがいいカモー」
「あ、それいいかも。それで作曲考えてみよっと」
「じゃあ作詞は、このヨハネにお任せなさい、ふっふっふっ……」
不敵に笑う善子に梨子は忠告した。
「善子ちゃん絶対、堕天使要素多めにする気でしょ」
「もちろんよ、私を誰だと思ってるの。あとヨハネ」
「まぁ良いんじゃナーイ? ヨハネの独創的な世界観はギルキスともマッチしてるわけだシー」
「くっくっく、さすがマリーはわかってるわね。リリーも見習いなさい」
梨子は返事代わりに溜息をついた。
善子は知っている。梨子は一昨日、ひとりエッチしていたことを。そして鞠莉は昨日、果南と激しくエッチな遊びをしていたことを。
H
図書委員である花丸は、放課後図書室に残って委員活動をしていた。
と言ってもすることと言えば、本の貸し出し業務と室内の清掃、そして本棚の整理だった。
この日は誰も利用者がおらず、花丸は一人で読書をしていた。
マナーモードにしていたスマホが振動しているのを感じ取り、スカートのポケットから出してみるとLINEの通知だった。善子からだった。
『今度の休み、映画観に行かない? もしよかったらだけど。』
花丸はその通知に心が躍った。これはいわゆる逢引……いやデートの誘いかと。
花丸が自分の
さすがに鞠莉や千歌たちのような行為までには進展していないが、善子が続きのLINEを送ってきて、花丸は期待を膨らませた。
『ちなみにだけど、今度の休み親がいないの。泊まれるなら泊まれるよ。』
花丸はすぐに返事を打ち込んだ。
『泊まる花丸ずら♡』
すると秒で既読がつき、またしても返信が来た。
『くだらない(泣き笑いする絵文字) じゃあ9時に沼津駅前で待ち合わせね。』
『わかった。楽しみにしてるずらね♪』
善子からはハートを打ち抜く可愛らしい悪魔が描かれたスタンプが送信されてきた。
「はぁ~、楽しみずら~……」
花丸はスマホを机に置いて、善子と二人っきりで過ごす休日が待ち遠しかった。きっと良い休日になるだろうと信じて疑わなかった。
(そうだ、また今夜も善子ちゃんに見せてあげよ。マルのオナニー……)
実を言えば、善子のオナニーも見てみたい。もしそういう雰囲気になったら、二人でベッドの上で……などと妄想していた時、不意に図書室の扉が開いた。
「あ、いたいた。花丸ちゃん、まだ委員会?」
ルビィが鞄を持って図書室の入口に立っていた。妄想を振り払った花丸は平静を装いながら「う、うん。もう終わりずら」と答えた。どうせ今日はもう誰も来ないだろうと察して、委員会業務は早めに切り上げようと花丸は決めた。
「よかった、じゃあ一緒に帰らない?」
花丸は笑顔でうなずいて、鞄を持ってルビィと一緒に図書室を出た。二人は談笑しながら廊下を歩いて行き、校舎玄関へと向かった。
*
その後、或る人物が図書室に入り、本を返却しに来た。
だが図書委員は不在で、その人物は丁寧に「返却本です。よろしくお願いします。」とメモ書きを添えてその本をカウンターに置いた。
するとそこに、誰かのスマートフォンが置いてあったことに、その人物は気づいた。……