ある男性が、彼女と同棲している家に帰ってきたものの……何故か彼女はおらず、代わりに謎のドラゴンが。一体どういうことなのか!?

1 / 1
彼女がドラゴンになっちゃった!

「やれやれ、今日も遅くなっちゃったな。恵理子のやつ、怒ってないといいけど」

 どこでもいるようなしがないサラリーマン、透はそう呟きながら玄関の鍵を開けて中に入る。

 突発的な残業があり、付き合わされてもうクタクタ。

 せっかく愛しの彼女である恵理子と同棲を始めたと言うのに、なかなかいちゃいちゃできないでいるのだった。

「恵理子ー、ただいまー!」

 わざと明るい声を出し、心配させまいと振る舞って。

 ところが、である。

 聞こえてくるはずの返事は、いっこうに来ないではないか。

「あれぇ?」

 不審に思い、耳を澄ます。

 すると……何やら奇妙な、唸り声のような物が聞こえてきた。

「えぇ……?」

 うちはペットは禁止だぞ、と思いつつもあまりに低いその声に首を傾げるばかり。

 どうやらその音は、恵理子の部屋から聞こえてくるようだ。

「もしかして、泥棒でも入ってきたのか!?」

 玄関に置いてある傘を手に取りながら、慎重に部屋に近づいていく。

 こっそりと様子を伺うために、わずかにドアを開き。

「……!?」

 透の視界に飛び込んできたのは、信じられない光景であった。

「グルルぅううう、がウゥウウ……♡」

 ベッドの上で唸っているのは……それこそ、ゲームでしか見たことのないような存在。

 大きな翼、長い首、トカゲのような顔、頑丈そうな手足。

 スラリとした肉体は雪のような純白さを持っており、部屋の明かりで照らされて輝きを放っている。

「ド、ドラゴン?」

 非現実的な存在が現実にいる、と言うのは理解できないものだ。

 透は何がなんだか分からずに、観察するしかできなかった。

 見覚えのある髪が生えた頭部を振り乱しつつ、ドラゴンが吠え、股間を弄っている。

 びしょびしょになっているのは恐らく、秘部なのであろう。

 そこを刺激することで、一人……いや、一匹で気持ちよくなっているようなのだ。

「メス、なのか?」

 伝説と言ってもいい存在の自慰に、透は興味をひかれる。

 そしてうっかり、足を動かしてしまい……小さな物音を立ててしまった。

「!」

 ドラゴンは鳴き止み、上半身を起こす。

「あ、ヤッベェ!」

 ばっちりと目が合ってしまい、万事休す。

 相手の出方次第では、戦う必要もあるかもしれない……!

 透が傘を持つ手に力を入れ、構えようとした時であった。

「がぉおおおん、ぎゃぉおおお♡♡♡」

「え、え、え?」

 メロメロ、と言わんばかりに目を潤ませ、甘い声をあげ。

 すっかり拍子抜けした透は、迂闊にも部屋に入ってしまう。

「恵理子は……いないみたいだな」

 じゃあこのドラゴンはなんなんだ、と考え込む透を、激しい衝撃が襲いかかる。

「わ、わぁ!?」

 耳元で響く、荒々しい呼吸音。

 嗅いだこともない、全く知らない生き物の臭い。

「くそ、罠だったのか!?」

「ぐぉおおおん、ぉおぉおおおん♡♡♡」

 にしては、えらく甘い声は止まる気配がない。

「な、なんなんだよぉ!?」

 思わず情けない声を出してしまう透に耳も貸さず、ドラゴンはズボンに手をかける。

 尖った爪の前に、衣服はまるでティッシュのように裂けてしまい。

「わ、わわわ!?」

 下手に抵抗しようものなら、透の命も危ないであろう。

 息を止め、相手の行動を伺い。

 ところが、ドラゴンの行動はまたしても予想外のもので合った。

「がぅ、ぅうう、ぅうううううん……♡」

 自分の股間を透の股間にグイグイと押し付け……

「わ、わ、入っ——!?」

 柔らかく温かい感覚が、透のムスコを包み込む。

 人間のものとはまるで違う、はずなのにどこか知っている感覚。

「がぉ、がぉ、もぅ、ぎゃぉおお、ぉおおおおおおん♡♡♡」

 まるで火でも吹かんばかりの雄叫びをあげ、ドラゴンは身を捩り。

 人間とは比べ物にならないほど太い足が、床をしっかりと踏み締めている。

 ドラゴンは透のちんぽを無理やり中に収め、感情のままに叫び、狂い。

「わ、わ、やべ、ドラゴンって、俺、中出し、大丈夫、なの、あっ、んっ!?」

 気持ちいい、気持ちよくないの判断すらできず……圧倒的な刺激の前に、透は絶頂してしまう。

「がぅうう、ぎゃぉおおお、ぉおおおおおん♡♡♡」

 注がれたのが、そんなに良かったのだろうか?

 ドラゴンは数度吠えると、急に電源が切れたかのように脱力してしまったのだ。

「お、おい、おい!?」

 まだ繋がったままではあるが、ずっしりと重い肉体にのしかかられてはたまったものではない。

「ていうか、胸もでっかいんだな、ドラゴンなのに……」

 押し付けられている胸に少し冷静になりつつも、ドラゴンの顔を何度か叩いてみる。

「ん、んんん……」

 その甲斐あってか、ドラゴンはすぐに目を覚まし。

「あー、起きた起きた。重いから、早く——」

 ところが、ドラゴンから飛び出した声に……透はたちまち、絶句してしまうのであった。

「あ、透! おかえりなさぁい!」

 

 

「ええっと、つまり、この『変身アプリ』っての使ってみたってわけだな?」

「う、うん、まとめブログ見てたら広告に出てきて、気になっちゃって」

 椅子に座っている透の目の前には、正座をして頭をへこへこ下げているドラゴン。

「説明、嘘くさすぎないかこれ? 『これ一つで、なりたい自分に! 何にでもなれるミラクルアプリ、しかも無料!』って。令和最新版か何かかよ」

「うん、うん、無料ならいいかなって試しに入れてみて、適当に白いドラゴンって入力してみたんだけど」

「なっちゃった、わけか。まぁ、落ち着けって」

 恵理子は愛しの彼氏と無理やり交尾した事が気になっているのか、どこかしょんぼりしていたのだが……

「す、すごかったのよ! 私、いつの間にか頭が天井についちゃって、服がきついから触ったら、爪がこうなってたから、すぐ破れちゃって、なんか翼動くし、尻尾が重いし、心はドキドキしちゃって!」

 思い出すだけで、たちまちこの興奮具合。

 実際の変化の際は、よほど激しい刺激が伝わってきたのであろう。

「そこまではいいんだけどさ、なんでオナニーなんかしてたんだよ」

「えーっと、それなんだけどぉ……」

 大きく美しいドラゴン、ではあるのだが中身は彼女である恵理子そのもの。

 そのギャップに、どこか透はまだ慣れない。

「覚えて、ないのよ」

「えぇ!?」

「え、えっとね、自分の体、鏡で見てて、うわー、すごい! ってなっちゃって楽しかったのは覚えてるんだけどね……」

 ぽりぽり、と頭をかいたはずみに鱗が落ち。

「うん、うん」

「透が見たらどう思うかな、きゃっ! とか考えていたら、なんだか急に、こう、頭がぼうっとしてきちゃって……その後は、覚えてなくって」

「じゃ、じゃあ、気がついたら俺とエッチした状態で、俺に乗っかっていたってわけか?」

「う、うん、びっくりしちゃったもん、何が起きたのか全然分かんなかったし……」

 頬を赤らめ、手で前に長い顔を隠し。

「俺もびっくりだよ、恵理子はいないわ、ドラゴンにエッチさせられるわで」

「ご、ごめんねぇ、もしかすると、竜の本能、とかかもね?」

 見た目だけでなく、そんな所まで変わるアプリが無料なのはやばいだろ、と透は思った。

「まあいいや、恵理子っていうのは分かったし。別に俺はそのままでいてもらってもいいけど、戻れるのか?」

「あ、そっかそっか! 私、まだドラゴンだったっけ!」

 馴染みすぎだろ、と呆れる透の前で、ドラゴン姿の恵理子がスマホをいじる。

「あれ、これ顔認証壊れちゃった?」

「ドラゴンじゃん今」

「あ、あはは……」

 照れ隠しに笑っている恵理子。

 が、その顔はみるみるうちに曇っていき……

「どうした? 戻るのに課金要素でもあったのか?」

 半ば、冗談のつもりだったのだが……

「も、戻れないって」

「はぁ?」

 透も慌てて、スマホの画面を覗き込む。

『変身者が今の姿のままでいいという発言をしたため、姿をロックしました。解除不能です』

「えぇ……」

 あまりにも凶悪な一文に、透もドン引きしてしまい。

「わ、私、そんなこと、言ってないわよ!?」

「あー、もしかして……」

「え、え、なんか言ってた!?」

「がおがお鳴いてたけど、実はドラゴン語で何か言ってたのかも、なぁ……」

 流石に透にも、ドラゴン語など分からない。

「ど、どうしよう、私、もうこのまま〜!?」

 頭を抱えるドラゴン恵理子。

 どうにかしようにも、アプリの表示は変わる事はなく……

 そもそもアプリ開発会社の情報すらネットに存在せず、打つ手無しという事実だけが残ってしまったのであった。

 

 

 

「んもう、首が長いから姿勢がうまくいかない〜!」

 翌朝。

 体は異常だが、体調は問題ないようだ……という事で、透は出勤。

 その間に家事をしようと張り切ったのはいいのだが、問題が多発。

 例えば、洗濯。

「よーし、洗濯機に……あ」

 握っただけで、服を爪が貫通してしまい。

 洗剤を入れようにも、プラ容器も簡単にボロボロになってしまう。

「ちょ、ちょっと、強すぎない、この体!?」

 さすがドラゴン、である。

「じゃ、じゃあ、掃除しましょ!」

 気を取り直して、雑巾を絞り。

 ぶちっと小気味いい音をたて、雑巾は布の破片に変わり果て。

「こ、これでも、拭き掃除はできるわよね!?」

 気が動転したまま、ダイニングのテーブルを拭き始める。

 ガリガリガリ!

「あ」

 気づいた時にはもう遅い。

 雑巾を持っていた手の爪がしっかりとテーブルに食い込んでいたせいで、かっこいい模様が増えてしまった。

「これ、お風呂掃除したら浴槽穴開いちゃうんじゃないの!?」

 慌ててなんとかしよう、と体の向きを変え……たのが、これまた良くなかった。

 大きな尻尾が勢いよく振り回され、棚を直撃!

「あ、あ、あ!?」

 幸いあまり物を入れてなかったから良かったものの、棚は見事に変形してしまい。

「わ、わー、どうしよ、どうしよ!?」

 パニックになって翼をばたつかせてしまい、その風がいろんな物を吹き飛ばしてしまい。

 ……という様々な悲劇の後、なんとか頑張っているのが料理というわけだ。

 ところがエプロンをしても、長い首は剥き出しのまま。

 油が散れば飛んでくるし、流石のドラゴンも熱いものは熱い!

「強い体のはずなのに、全然便利じゃないじゃなーい!」

 人間用に作られた物である以上、人間ではないドラゴンには不便な事ばかり。

 第一、その体の大きさの時点でだいぶ面倒なのは事実なのであった。

「とりあえず……あれ、玉ねぎ切らしちゃったわね」

 壊さないように慎重に冷蔵庫を漁っていると、運悪くない物が出てきてしまう。

「……仕方ないわね、行くか、買い物!」

 背に腹はかえられぬ。

 まだ全然肉体を使いこなせていない、ドラゴン恵理子の一大ミッションが今幕を開けるのだった。

「いててて……」

 玄関のドアで強打した頭部をさすりながら、買い物カゴを持った恵理子が歩いていく。

 この世の生物ではないので、もうどうしようもない事なのだが……

 まず、あらゆる生き物が自分に注目してくる。

 いつも尻尾を振ってくれるお隣の犬はチビりながら吠えてきたし、野良猫はパニックになって壁にぶつかってしまい。

 雀達は急に鳴き止み、カラスは二度見した後そうっと物陰に隠れ。

 動物達でこれなのだ。人間はというと……

「何あれ、着ぐるみ?」

「うっそー、リアルすぎなぁい?」

「変態じゃないの、あれ?」

 スマホのシャッター音に、ひそひそ声。

 ドラゴンになっているからか、それとも単に過敏になっているからか。

 いつもより余計に、人の会話が耳に入ってくる。

 ちらり、と声のする方を見る時もあるのだが……

 目が合うか合わないかのタイミングで、会話している人たちはどこかへ走り去ってしまうばかり。

「んもー、挨拶くらいしてくれてもいいじゃないのよぉ!」

 周りの冷たさに、思わず大声で叫んでしまい。

「えっ、喋った!」

「やっぱり着ぐるみじゃない?」

「えー、動きリアルすぎっしょ」

 当たり前と言えば当たり前のリアクションが飛んできて、またがっくし。

 と、その時。

(ん……尻尾、くすぐったいわね)

 何かが、尻尾に触っている感覚。

 先ほど掃除の時にえらいことになったので、流石に今回は注意して。

 少し恥ずかしいものの、大股になっている足の下から覗き込むように体を折り曲げ……

 逆さの世界で見つけたのは、興奮しながら尻尾を触っている男の子。

「僕、どうしたの?」

「わ、わぁ!?」

 まさか、股の下から相手が見てくるとは思っていなかったのだろう。

 男の子は驚いた弾みにすってんころりん。

「あ、あ、大丈夫!?」

 すぐに丸めていた背中を戻し、頭を上にあげ。

「喋ったぁああああ!!!」

 またもやこの反応。

「んもう、ドラゴンが喋っちゃダメかしら?」

「わ、おっぱいもある!」

「いちいち言わなくてよろしい!」

 指さされ、恥ずかしくなり。

 そういえば、合う服がないので今は全裸なのだ。

 ドラゴンだから全裸でもいいはずなのだが、人から指摘されると気になってしまう。

「ね、ねね。もっと触ってもいーい?」

「え、えぇっ!?」

 まさかのおねだりに、恵理子はびっくりしてしまう。

 別にいけないというわけではないのだが……

 そんなお願い、普通は知らない大人にするものではない。

 やはり側から見ると人間ではないのだな、と何度目かの再認識をしてしまい……

「ま、まぁ、いいわよ。ただし、つねったり叩いたりするのは痛いからダメ!」

「えっ、本当!?」

「うん、いいわよ」

 相手は子供一人、対して時間もかからないだろう。

 そのつもりで承諾した、のだが……

「おーい、みんなー! 触っていいんだって〜!」

「わー、やった!」

「オレ、頭触ってみたーい!」

「ドラゴンってどんな感じなんだろ!?」

「一枚鱗が逆だから、それ触っちゃダメなんだよ!」

「ばーか! それ、細長い龍の話だぜ!」

 出るわ出るわ、出てくるわ。

「嘘でしょぉ……」

 あっという間に、恵理子はたくさんの子ども達に囲まれてしまう。

 小さな手が無数に伸びてきて、ペタペタ体を触り出し。

「わぁ、あったかーい!」

「すべすべ!」

「ねぇねぇ、頭下げてよー!」

 下手に動くと怪我をさせかねない状況に、ただただ身を任せるしかない。

「あ、痛い痛い! 髪引っ張らないの!」

「わ、ごめんなさい!」

「へー、ドラゴンのお股って、こうなってるんだぁ!」

「あっ、こ、こら、そこは、ダメっ!?」

 スリットに手を触れらせ、声をひっくり返らせながら怒鳴ってしまい。

 それでも、未知の存在への好奇心が打ち勝っているのか……一向に、子ども達のタッチ会は終わらない。

「おっぱい触っていい?」

「だ、だめ!」

「尻尾って、おもしろーい!」

「ねぇねぇ、みんなで動かして遊んでみよーよ!」

「わ、面白そう!」

「こ、こら、私はおもちゃじゃないのよ!?」

「えっ、ドラゴンのおもちゃじゃないの!?」

「本物のドラゴンだってばぁ!」

「うっそだぁ、ドラゴンなんているわけないよーだ!」

「ま、まぁ、それはそうなんだけどぉ! あ、誰か、落書きしてない!?」

「あ、バレた! 逃げろー!」

 怒涛の数分間が過ぎ、飽きた子供達がいなくなり。

 マジックで模様を書かれたり、ちょっと刺激されたせいでアソコがヒクヒクしていたり……

「んっ、がぅううう、あれなのね、性的に興奮すると、ぎゃぉお、ダメダメ、今は買い物なんだから、そういうのは、ぐぅう……」

 強欲そうになる喉を押さえつつ、恵理子は再び歩き出す。

「にしても、毎日こんな調子も辛いわねぇ……あーあ、この体で何かいい事、ないもんかしら!」

 軽い気持ちで願ったのはいいものの、ずっとこの姿でいたかったわけでもなく。

 うなだれつつも、ドラゴンはスーパーの入り口を壊さないように……慎重に、お店に入っていくのであった。

 

「えーっと、玉ねぎ玉ねぎ」

 ネットに爪を引っ掛けて、器用に持ち上げて。

 いい加減、今の体の使い方を理解してきたらしい。

「んー……少し痛んでるかしら?」

 鼻もいいのか、細かい鮮度も嗅ぎ分けられる。

 意外と便利かも、これ。

 ふと、そんな肯定的な感情がやっとのことで湧いてきて。

「でもなー、それにしたって体が大きいのは不便よねぇ……」

 調味料を買おうにも、棚に挟まれた通路は少し狭く見えてしまい。

 どうしたものか、とメモを見ながらため息をついた時であった。

「お、お前ら騒ぐな! 金を出せ!」

 きゃあ、という悲鳴と共に男の声が聞こえる。

「んー?」

 ヒョイ、と長い首を棚の上から覗かせて見てみると……

「お、俺は本気だぞ!」

 包丁をやたらめったら振り回している男が、レジの前でわめいている。

「うわ、結構やばいやつがいるわね。危ないわ……」

 いつもなら、恵理子もこそこそ隠れながら……余裕があるなら警察に電話することを試みる程度、なのだが。

「よく考えたら、包丁みたいなのがいっぱいついてるのよね私」

 自分の爪をまじまじと見た後……ゆっくりと、体を棚に隠したまま移動を開始する。

 すっかり怯え切ったレジ打ちに男が苛立っているが、男もレジの開け方が分からない。

 どうしようもない緊張状態ばかりが続き、空気が硬直し。

「く、くそ、開かないじゃねぇか!?」

 強盗をしている男が、何度目かにレジに目を向けた時だった。

「わ、わぁー!?」

 レジ打ちの人が大きな声をあげる。

「うるさい! お前から——」

 パキン、と軽い音。

「あ、折れちゃった」

 男が振りかざした包丁は……あわれ、わずか一割ほどしか金属部分が残っていなかったのである。

「な、なんだぁ!?」

 男は訳が分からず、後ろを振り向く。

「ダメでしょ、こんなもの持って危ないことしたら!」

「う、わぁああああ!?」

 そこには、自分よりも遥かに大きい竜が……いとも簡単に、包丁の刃をただのスクラップにしてしまっている光景があったのだ!

 そう、先ほどのレジ打ちの悲鳴は恵理子が飛び出してきたことへの反応だったのだ。

 恵理子が素早く包丁を取り上げようと摘んだ、のだが……ほぼ同タイミングで、男が包丁を動かしてしまい。

 恵理子の力が凄まじかったせいか、包丁はビスケットのように壊れてしまい。

「悪い人間は、私が食べてしまうがぉおおおおお!!!」

 ノリノリで両手を上げ、口を大きく開け、大声をあげ。

「ひ、ひ、ひぇえええ!?」

 想像もつかないバケモノの口が迫ってくる恐怖に耐えきれず、強盗に入った男は気を失いながら情けなくも、失禁をしてしまうのであった。

「うわ、おしっこくっさいわねぇ……」

 あまりに上手くいき過ぎて、拍子抜けする恵理子。

「あ、ありがとうございます!」

「す、すごいなぁ、ドラゴンって本当にいるんだ……」

「ええっと、お買い物中……なんですか?」

 店員達が話しかけてくる。

「あ、ええ、胡椒が欲しいんですけど、私の手じゃ、上手く取れなくってぇ」

「すぐにお持ちしまーす!」

 いろんな人の、感謝の視線。

 結構、この体も捨てた物じゃないな……と、ドラゴンの肉体を再認識するのであった。

「ふぅ、買った買った! じゃあ、帰ろっかなーっと」

 色々な事があったせいで、すっかり遅くなってしまった。

「今思ったんだけど、私ってドラゴンよねぇ? それに、翼もあるし。うーん、飛べたりする?」

 何気なく思いつき、早速実行。

 翼をはためかせてみると、確かに体が軽くなった感覚がして。

「な、なんとかできちゃうかも!?」

 浮遊感が体を包み込み、足が地面から離れ。

「あ、あ、あ!」

 いざ飛んでみると、とても怖い。

 本当に飛んでいるのが翼のせいなのか、かなり不安になってしまう。

「きょ、今日は、練習、練習……」

 歩くのとほぼ変わらない程の高さの飛行をしながら、ドキドキと初フライトを楽しみつつ恵理子は帰宅するのであった。

 

 

 

「あー、今日は疲れたわぁ!」

「ははは、お疲れさん!」

 明日は土曜。

 翌日も透が仕事の時はしないのだが、休日の場合仲良く布団で寝るのがお約束。

 そんなこんなで、ドラゴンになっている恵理子は透の横で布団の上にいた。

 透も恵理子の一日を聞いて安心したのか、ビールを飲んで少し上機嫌。

「おいおい、お腹出してたら風邪ひくんじゃないのかー?」

 大きなお腹が、撫でられる感覚。

「えー、ドラゴンも病気、するのかしら?」

「恵理子が分からないなら、俺も分からないなぁ」

 小さく笑う声に、恵理子はホッとする。

「あー……まぁ、悪くはないわねぇ、これも」

「おー、よしよし」

 腹を撫でる手の動きが、少しずつ大きくなる。

「あはは、くすぐったいわよ」

「え、そうか?」

 透が言いながら、気を使って撫でる位置を変えたその時であった。

 ふと、手がスリットの先端を刺激してしまい。

「あっ、あっ」

「あれ、変なところ触っちゃったか?」

「あ、う、ううん、だ、大丈夫大丈夫!」

 跳ね上がった心拍を抑えるように、恵理子は心を落ち着かせようとする。

 ところが。

(あ、やだ、透の臭い、急に、ドキドキしてきちゃった!?)

 敏感で正直者のドラゴンの肉体が、たちまち発情をし始める。

「あっ、ぐうぅ、グルルぅ……」

 抑えようとすればするほど、体が、心が盛りだし。

(だ、ダメダメ、昨日だって、無理やりエッチしちゃったみたいなのに、でも、したいしたい、ダメだって、したいしたい、したいしたいしたぁい♡♡♡)

 暴走する心に、どんどん理性が置いていかれ。

 少しずつ、ただのすけべなドラゴンへと恵理子が変貌していく。

「げ、あ、もしかして、またエッチな気分になっちゃってるのか!?」

「あっ、うっ、グルぅううう、がお、がお、私、ぉおおおお……♡」

 荒く息を吐き、爪で透のパジャマを引っ張り始め。

「よ、よし、分かった!」

 透が裸になり、大きな竜の体にまたがって。

「とりあえず、落ち着いてくれよな……」

 そうっと、ドラゴンの鼻先にキスをする。

「んっ、ぎゃぉお、おぉおおお……♡」

 気持ちよさそうな声をあげ、動きが少し落ち着き。

「よ、ようし、俺の言葉が分かるか分からないけど……ゆっくりやるからな、慌てるなよな?」

「ぐぉおう」

 気づけば、全く言葉を喋らなくなっている。

「ははは、これはこれで可愛いかもな?」

 そう言いながら、優しく胸を撫でてやり。

「ぅうううんっ♡」

 まるで子猫のように体をくねらせ、透の愛撫に反応し。

「おっ、気持ちいいか? ドラゴンでも、基本的には同じでいいみたいだな……」

 自分がまたがっているのが恵理子なのだ、と確信が持てている。

 昨日は何も分からないままの交尾だったのだが……その差は、透にはとても大きい物であった。

「この辺かな?」

「グゥううん、ぅううん♡♡♡」

 ウルウルとした瞳が、真っ直ぐに透を見つめ。

「あー……恵理子、こういう時にキスされるの、好きだもんな」

 チュッ、とまた音を立てて接吻をする。

 唸るような、興奮しているような吐息がむわりと顔にかかってきて。

「うわ、もうそんなに興奮してるのか。体が違うと、結構違うんだな」

 少し後ろに下がり、スリットを撫でてやる。

「ぎゃっ、ぅううううん!?」

「あっ、い、痛かったか!?」

「がぁおおおお、ぅん♡」

 こういう時、言語でのやり取りができないと少々不安なものだ。

 その代わり、と言ってはなんだが……恵理子ドラゴンは自らの手で、スリットを広げて甘く鳴き始める。

「うわ、もう準備できてるのか!?」

「ギャオ、ぉおおん、ぉおおおおおん♡♡♡」

 頬を染め、口を細め、可愛らしく鳴き。

 これで「挿れてはいけない」という意味なら、あまりにも意地悪すぎるだろう。

 彼女の新しい一面に興奮していたのか、男根はいつの間にかビンビンになっていた。

「じゃ、じゃあ、挿れるぞ?」

「ぉおおーーーーんっ……♡」

 待ち侘びてる、と言わんばかりの声が聞こえる。

 透は息を止め、集中しながら挿入し始め。

 人ならざるものの肉壁が、少し遠慮しつつも……ガッツリと、透のナニを咥え込む。

 ぎゅっ、ぎゅうっと締め付けがきて、責め上げていく。

「ぉおおん♡ ぎゃぉおおおおおおん♡♡♡」

 よほどいいのか、足が、手がぴくぴくと震え全身が悦んでいるようで。

「よ、し、俺も、まだ、余裕、あるし、おっ、強い、な!?」

 手を伸ばし、挿れながらも胸を触ってやる。

「ぉおおおんっ、おおおおおおおぉぉぉおん、ぎゃぉおおおおおおぉおん♡♡♡」

 快感には抗えず、強靭な竜の肉体が痙攣する。

 涎を垂らし、ますます息は荒くなり。

「よしよし、いい子だ、いっぱい気持ちよく、させてやるぞぉ……」

 恵理子というよりは、獣としての竜と交尾している感覚になるのがもったいなくはあるのだが……

 それでも、悦び方、感じ方はどこか本人を思い起こさせる。

「ぉおおん、ぉんっ♡」

 体をくねらせ、それに肉壁が連動して動き。

「わ、おっ、スッゲェ!?」

 千切れんばかりの刺激がペニスに加わり、透も一瞬気が遠くなる。

「がぉおおおん、ぎゃぉおお♡♡♡」

 甘えた声で、こちらをじっと見て。

 なんとなくではあるが、おねだりされているのに気がついて。

「じゃあ、いくぞ、恵理子!」

 足を絡ませるようにして、しっかりと固定して。

 そのまま腰を動かし、恵理子の腹にぶつけるような動きを始める。

「あっ、おっ、ギャオっ、んっ、ぉおおっ、んんんっ♡♡♡」

 リズムよく、喉から声が漏れ。

 ゆさゆさと揺れる体が、胸が、火照っているのがよく分かる。

「恵理子、恵理子、恵理子っ……!」

 少しでも愛が伝わるように、と透が呼びかけつつ、動きのリズムを早めていき。

「ぉおおん、ぉおおん、ぉん、ぎゃぉおおん、ぎゃぉおおおおん♡♡♡」

 それを全身で受け止めている彼女の声は、どんどんと高くなっていっているのであった。

「あっ、お、俺、もう、出る、出る、うっ……!?」

「ギャァあああ、ぉおおおおおお〜〜〜〜〜んんんん♡♡♡」

 透の射精に呼応するかのように、恵理子ドラゴンも遠吠えをして果てる。

 注ぎ、注がれ、搾り出し、全部搾り取られ。

 全体力を使い切って、彼女の体に倒れ込む透。

「がぉお、ぎゃぉお、も、もう一回、エッチ、がぉおお、ぎゃぉおおおおん♡♡♡」

 さすがドラゴン、と言ったところか。

 半端ではないスタミナの前に、透は焦りを隠せないのであった。

 

 

 

「ふんふんふ〜ん♪」

 鼻歌まじりに玄関をくぐり、ゴミを捨てに行っているのは未だドラゴンのままの恵理子であった。 尻尾の先に器用にゴミ袋をぶらさげて、いっぺんに沢山のゴミ袋を捨てにいく。

「あ、おはようございます!」

「おはようぎゃぉおお!」

 ご近所さんの挨拶に、気さくに返事をし。

 あれからもう一ヶ月。

 元には戻っていないものの、すっかり恵理子は体と心が馴染んだようだ。

 透との仲もとてもよく、先日結婚したばかり。

 新婚旅行はどこに行こうか、考えるだけでもワクワクしているのだ。

「あ、お姉ちゃんドラゴンだー!」

「みんな、気をつけて学校いくがおよー!」

「はーい!」

 集団登校の子どもたちも、ごく自然に挨拶を交わす。

「さてと、そろそろ透も出社する時間だがお!」

 ゴミを捨て終わり、いそいそと家に帰り。

「あ、お疲れ。ゴミ、捨てられたか?」

「うふふ、もちろんだがお!」

 鼻先をチョン、と自慢の旦那の鼻に当て。

「じゃあ、今日もよろしく頼むよ」

「はいはい、ちょっと待つがお!」

 リュック……ではなく、馬の鞍のようなものを背負い、そこに透が跨って。

「よっ……と!」

 たちまちにして空高く舞い上がると、勢いよく旦那の会社まで飛んでいく。

 大きな翼が優雅に風を切り、ぐんぐんと速度が上がり。

「ねぇねぇ、今日は定時で帰れそう、ぎゃぉ?」

「多分いけると思うけど、どうした?」

「え、えへへ、明日はお休みだからぁ、エッチ、したいんだがお♡」

 セックスを繰り返すごとに、心の制御ができるようになった恵美子。

 今では制御を失ってしまうことはなく、あくまでも自分の意思でドラゴンのように盛るようになっている。

 それはそれでいいのだが、透としては困るところもあるようで……

「でもさ、最近俺の体を掴んで動かす時あるだろ? な、なんか、ディルド扱いされているみたいでさぁ……」

「だってだってぇ、私、もっともっと、いーっぱい透のこと、感じたいんだがお♡」

「そ、そんなことしなくても、最近はゆっくりエッチ、できるようになっただろぉ?」

「んもう、それはそれでいいんだけどぉ、私はほら、ドラゴンだからぁ、もっともっと、激しくして欲しいっていうかぁ……♡」

「いやさ、そりゃあ俺だって恵理子が使ったアプリで、ドラゴンになれたらいいんだけどさ。なんか、見つからなくなっちゃったんだよなぁ」

「あーあ、透もドラゴンになったら、飛び方とか教えてあげたのに! まあ、それは仕方ないがお。夜は、スタミナつくものいっぱい用意しておくから楽しみにしてるがぉお♡♡♡」

「はい、はい。もっと強く、胸揉んでやるから覚悟しとけ!」

「あぁん、楽しみガォ♡」

 なんだかんだで、楽しく暮らしている二人。

 今夜も恐らく、透の体力が枯れ果てるほどにセックスをするのだろうが……

 口ではこう言いつつも、どんどん濃厚な交尾をしていくのは、お互いにとって共通の快楽なのであった。

「うっふふ、ドラゴン生活、楽しいがぉおお〜♡」

 

 

 おしまい


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。