休日の昼間、一人暮らしの一室に、がちゃりと鍵が開く音がした。
もう慣れたことだ。まるで自宅に帰ってきたかのように振る舞う客人を、ソファに寝っ転がったまま迎える。
「よっす」
ビニール袋をぶら下げたままの手を軽く上げて、彼女は気安く挨拶をした。それから、ビニール袋をテーブルの上に静かに乗せて、本棚から勝手に漫画を引っこ抜いて僕の肩に頭を寄せた。
「借りるねー」
「そういうのは取る前に言うもんでしょ……」
彼女はにひひ、と笑ってごまかして、漫画を読み出した。何を読みだしたのか気になって本棚を見てみると、ラブコメ漫画の中途半端な刊が抜かれていた。
前に来た時はバトルものの少年漫画を読んでいたような記憶があるのだけど。
時計の音と、紙をめくる音。
一人でいた時と変わらず、部屋の中には人の声はない。
けれど、一人でいた時より、安らぐ心地がした。
「あのさ。ちょっと聞いてほしいことあるんだけど、いい?」
「いいよ」
「ありがと。キスってあるじゃん、キス」
なんの脈絡もないところから出す話題じゃないだろ。
……漫画の話だろうか。適当に相槌を返す。
「あれ、漫画とかドラマだと「甘い」って言われたりするけどさ、実際甘い味ってしなくない?」
言いながら、読みかけの漫画を見せてくる。
見開きの大コマで、主人公とヒロインがキスを交わすシーンだった。ページの左端の方で、唇を合わせたままのヒロインが、心の中で甘い、と呟いている。
「君とたまにキス、するけどさ。正直甘くないよね、キス」
「君はどうだった?わたしとのキス。思い出してみて。甘い味、した?」
言われるがままに、彼女とのキスを思い返してみる。
二日前、一週間前、一ヶ月前。思い出せるところまで。
……言われてみれば確かに、味覚という意味では甘くはなかったと思う。
だけど、創作のキスが甘いというのはあくまで比喩表現だと――
「と、いうわけで。わたしは思いついたんだよね。甘いキスをする方法」
――突っ込もうとする頃にはもう、話が変わっていた。
もう短い付き合いではないというのに、未だにペースを掴めないところがある。
「正直自信あるよ。100パーセント、甘い、あまーいキスができると思う」
「……ね。したい?わたしと、あまーいキス」
思わず、ごくんと喉を鳴らしてしまう。
「……それは、なんで甘いの?」
「タネはナイショ。君がキスする、って言えば教えてあげる」
そう言われて、首を縦に振った。
半分は、タネ明かしを聞くため。
もう半分は……単純に、彼女とキスがしたいため。
「ふふん。やったね。じゃ、タネ明かししよう」
そう言うと、彼女はにんまりと笑って、さっき持ってきたビニール袋から中身を取り出して、大仰に見せつけてきた。
「じゃーん。ばばーん。ふぁーーー」
口からへんてこなファンファーレを鳴らしながら。
「甘い、あまーい……は、ち、み、つ」
その辺のスーパーで買える、はちみつを。
「あの……もしかして、これ口に入れながらキスするとか……?」
「そのとーり、大正解!あまーいはちみつをベロに塗ってからちゅーすれば、絶対甘いキスができるってわけですよ」
当たってしまった。
いや、確かに100パーセント、甘いキスは出来るだろうけれど。こう、安直というか、肩透かしというか。
肩を落としているこちらを気にせずに、彼女は相変わらず勝手に話を進めている。
既にはちみつの開封を済ませて、指に取っているところだった。
「ほーら、こんな感じで、指に取って、ベロに……れぇ〜」
見せびらかすように舌を出して、指ではちみつを塗っている。
はちみつを塗られた舌が、てらてらと艶めかしく光る。
……話だけ聞いて安直だと思ってしまっていたが、実際にはちみつに彩られた舌を見ると、キスの欲求が頭をもたげてきて、思わず舌に視線を奪われてしまう。
「れる……。塗って……んくっ。あ、おいひ……」
ごくん。
「……あ。ごめん。食べちゃった。てへ。甘くて美味しかったです」
行先を失った視線で、じとりと彼女の目を射抜いた。
「……すみませんでしたー。ちゃんとやりまーす」
さすがの彼女もばつが悪そうにして、今度は大袈裟に舌を口から出してはちみつを塗っていた。
「ふぁい。れきたよ〜」
舌に乗せたはちみつを食べてしまわないように、べとべとの舌を出したまま、舌足らずの声で呼びかけられる。
「ひへ〜。はやふ〜〜」
ぽかんと開いた彼女の口を舌ごと覆うように、大口を開いてかぶりつくようにキスをする。
「ん……♡」
繋がった口と口の奥にある、彼女の舌に、自分の舌でそっと触れる。
しっとりとした舌が纏った甘いはちみつを、舌でこそぎ落とすように、何度も舐める。
舌が往復する度に、彼女の身体がぴくりと動いて、小さく高い声をキスの隙間から漏らす。
キスを続けると、甘い味はだんだんなくなっていった。名残惜しくて、もっと味わいたくて、彼女の舌に自分の下を絡めて、ちゅうっと強く吸った。
完全に味がなくなったところで、唇を離す。
互いに息継ぎのように、ぷはっ、と息をした。
「どうだった?甘かったでしょ。まあそりゃそうだよね。はちみつの味だもん」
唾液でどろどろになった唇を舌で拭いながら、彼女は笑った。
「っていうか、結構がっついてなかった?いつもより長いし、ベロもやらしい動きしてたよ。そんなによかったんだ」
「それは、……よかったけど」
「もう夢中だったよね。わたしのベロを味わうみたいに、何度もねちっこくごしごし〜♡ってしてさ。もう口の中にはちみつの味しないもん。み〜んな君に舐め取られちゃった。えっち」
彼女がキスを受けながら、僕が甘いキスに夢中になっていたことを見透かしていたのだと悟ると、気恥ずかしさで顔が熱くなって、ついそっぽを向いてしまう。
……それはそれとして、えっちは余計だろ。誘ってきたのはそっちだというのに。
「じゃあ、今度はわたしの番。お口開けてー。ベロ出してー」
ぷるりとしたはちみつを乗せた細い指が、口の前に差し出された。
キスを受ける側の感覚を想像しながら、ぱかんと口を開き、指を、はちみつを受け入れようとする。
「……ふふ。なんかえっちだね」
指を口の手前で止めて、彼女はくすりと笑った。
「だって、ほら。自分じゃ見えないだろうけど、今の君すっごいえっちな顔してるのわかってる?」
「上目遣いで、口開けて、ベロ出して。物欲しそうな顔で待ってるの。かわいいよ。発情した女の子みたいで」
……言われてみれば、もしこの立場が逆だったなら。
彼女が指を咥え入れる側だったら、そそられたかもしれない。彼女には今の僕がそう見えているのだろうか?
にしても、この体勢はまるで。
「なんて言うんだろう……ぶっかけ待ち?」
おい。
なんでそこだけ発想が被るんだ。
開きっぱなしの口で不満を表現すると、彼女はけらけらと笑って、それから指で僕の舌に触れた。
さっきしたばかりのキスと同じ味が、舌に広がっていく。
「うーん。やっぱりえっちだなぁ、これ。いやえっちっていうより変態くさいかな」
「口開けてるところに指入れてかき混ぜてるの、なんかそういうプレイみたいじゃない?そう思うと興奮するでしょ」
だらんと口を開けて、彼女の指に口の中をあちこちまさぐられる。
彼女の言う通り、その行為自体にも、感じ入るものはないではないのだけれど。
口の中。舌、頬の裏、上顎。とろりとした感触と、はちみつの、キスの味。それが顔を熱くさせる。
「にひひ。でーきた」
指が口から抜かれたときには、キスの味にもうすっかりとろけさせられていて。
舌をぴんと突き出して、はあはあと甘い息を吐いて、本物を待ち望んでしまっている。
唇が近づいてくる。
接触を心待ちにしていることを見透かしているのか、にやにやとつり上がりながら、焦らすようにゆっくりと。
熱い吐息が舌にかかる。
それからすぐに、襲いかかるような勢いで、口を塞がれた。
「ん、あっま……」
口が繋がった瞬間、キスの味が口の中にぶわっと広がる。
「んれぇ〜。れるれる、れろれろれろ。んふ、おいし……♡」
「べろ、おいひいよ……♡ちゅ、ぢゅうっ♡」
甘く彩られた舌に、舌が絡みついて味わわれる。
絡みついた舌にはちみつを押し付けられて、キスを味わわされる。
「もっと……んふ♡舐めさせてね……♡はむ……♡」
長く、キスを味わわれる。味わわされる。
息苦しさとキスの味で、ぼんやりする。
「ふぁに?くるひい?らめ〜♡」
「んぱっ。……だってまだ味するもん。ぜんぶ飲ませてね……♡」
「ふむっ……ん、ぇあ……♡じゅるっ♡ぢゅるるるるる♡」
口の中に残っている甘い味を、じゅるりと音を立てて吸われていく。
口から出ていく唾液が、通りがかりに舌を撫でていって、舌に消えない甘さを残していった。
「はふ………♡」
「あはは、いいね、これ。ちょっとクラクラしてきた」
長いキスを打ち切った彼女は顔をほんのり赤らめて、肩を小さく上下させながら、べとべとになった唇を舌で舐め取っている。
「君は……ふふ。聞くまでもなさそうだね。おくちの中どろどろにされて、耳まで真っ赤。息もはーはーしてる」
キスの余韻に浸ることしかできない。
身体はだらんとして、口はべとべとのままで、舌は出しっぱなしで戻せない。
口の中がまだ甘い。
「ね。もっかいしよ。お願い」
「……できる?」
開きっぱなしで言葉を発せない口の代わりに、こくん、と首を縦に振った。
「……ん」
再び、はちみつに染まった指を受け入れる。
もう何度も味わった、キスの味。
口を閉じて、指ごと咀嚼してしまいたいという気持ちを堪えて、舌を伸ばし続ける。
「わたしも塗っちゃお」
さっきまで僕の口の中をあちこち触れていたその指を、今度は自分自身の口の中に入れている。
指が抜ければ、また。
今か今かと、目を離せないでいる。
「……あ、またキス待ちしてる」
「いいよ。こっちから行ってあげるから、もうちょっと待って」
ちゅぽん、とふやけた指を口から出すと、半開きの口で迫った。
近づいてくる暗い口の中が、きらきらと光る。目を離せない。
視界から彼女の口が消える。
口と口の距離がゼロになる。
ぬめった舌と舌が、甘く絡まる。
「ちゅ。ちゅっ、れるれる、れる……れろ。れぇ〜ろ♡」
絡めて、絡められる、舌と舌。
舌に舌を這わせると、甘い。
這わせられると、もっと、甘い。
より甘い方へ。舌を迎え入れて、好きにさせる。
「……どした?やられっぱなしだぞー」
「がんばれ、がんばれ〜♡」
促されて、舌を咥えてねぶってみる。
けれども、やっぱり、彼女の舌に任せていたほうが、甘い。
くたっと力を抜いて、なすがままになる。
「……♡はむ♡じゅる♡ちゅっ、ちゅぱ♡ぢゅううう♡じゅるるっ♡」
交わりを放棄した舌が、一方的に舐められ、吸われる。
顔が溶け落ちてしまいそうなくらいに、甘く、とろける。
「……にひひ」
口の中はすっかり舐め尽くされて、唾液の感触しか感じない。
それでも、まだ甘い。まだ、舐めれば味がする。
「キス待ちのトロ顔。もっとぺろぺろして〜♡って甘えちゃってる。かわいいね」
甘えきった口が、まだほしい、もっとしたい、と、舌を使って手招きする。
「れぇあ〜〜……♡」
舌に、どろりと温かい液が落ちる。
舐め取られずに残ったはちみつが、唾液と混ざって落ちてくる。
甘い、紛れもない、キスの味。
唾液で薄まっているのに、前よりも甘い。
「……キス……♡」
舌を伸ばして、キスを、唾液をねだる。
「キスじゃないよ……」
「本物は、もーっと、甘いよ……♡」
唾液でどろどろに濡らされた舌が、舌でかき回されて、ぐちゅぐちゅとした水音を立てる。
舌に落ちた唾液よりも、ずっと甘い味がする。
「れぅ……♡」
「飲んで……♡唾液……♡あまーい唾液……♡」
接続された口から口へ、直に送り込まれる彼女の甘い唾液。
こぼしてしまいたくなくて、ぐっと接続を強くして受け入れる。
「ちゅ♡ちゅぷ、ぐぷっ♡れる、じゅるっ♡」
送り込まれた唾液を、舌でかき混ぜられる。
溶けそうなくらいに、口の中全体が甘い。
口の内側、舌の中から、甘みが滲み出してくる。
「ぐちゅ♡くちゅっ、れる♡ぐちゅう♡」
甘い。
溶ける。
「ぢゅるるっ♡うじゅるるるるっ♡♡」
頭の奥がどろりとした。
視界が白く、ちかちかとチラつく。
身体の芯がぶるりと震えて、全身がぴくぴく跳ねた。
「……あ……♡」
痙攣が止まらない。
跳ね上がった腰が戻らずに、ぶるぶると震える。
「うそ……♡もしかして……♡」
腰に手を回されて、すりすりと確かめられた。
ズボンの中の、湿った下着に気づかれる。
「イってる……♡ちゅーで……♡」
ズボンを下ろされ、露わにされた下半身には、頭から流した白い涙で自らを汚した、己の分身がぴんと立っていた。
「キス、甘すぎて……我慢できなかったんだ?」
「あまーいキスでとろとろにされて、もっと、もっとっておねだりして、唾液飲まされておくちの中どろどろにされて……♡びゅーー……♡♡」
「かわいすぎだよ……♡♡」
ぎらついた目で、見られている。
にやりとつり上がってよだれを垂らす口元と合わせて、まるで獣のような雰囲気を漂わせている。
荒い息が鼻にかかって熱い。
「ねえ、キス……気持ちよかったよね……」
「わたし、まだ足りないや……。もっとしよ……?」
「君もしたいよね?キス……♡イっちゃうくらいに気持ちいい、とろとろのあまーいキス……また、したいよね……?」
あのキスを思い出すと、それだけで脳が溶け落ちそうになる。
口に広がる甘い味にとろけきって、全身が夢中になって、精を放って。
あんなキスがまたできるなら、何度だって。
「……したい……」
「……言ったね♡」
彼女の口元が、一層つり上がった。
「じゃあ、君のお望み通りに――」
腰から、電気が脳めがけて走った。
彼女の指が、男根に絡みついている。
「――キスが気持ちいいってこと、おちんちんと一緒に、覚え込ませてあげる」
ちゅこ、ちゅこ。
握った手がゆっくりと上下に動いて、粘ついた音を鳴らす。
唇が触れるだけの、なんてことないキスをされる。
ちゅっ、と可愛らしい音が何度も鳴らされる。
その音が鳴る度に、腰の奥が、きゅん、と疼く。
「おちんちん、気持ちいいでしょ」
「これはね、キスしてるからだよ」
「おちんちんが気持ちいいのは、わたしとキスしてるから。……さっきだってそうだったでしょ?」
唇を何度も啄まれる。それと同時に、股間にぞわりとした快感を感じる。
緩やかに手を動かされ、男根を刺激されている。
キスのペースに合わせて上下させる、本当にゆっくりとした動き。
それに見合わない量の快感が、脳に送り込まれてくる。
「ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ♡」
ぽつぽつと、小雨のようなペースで、唇が落ちてくる。
キスと同じペースで、男根が震える。
味蕾なんてないはずの唇から、甘みを感じる。
甘みが脳をとろかす。
「手、動かしてないのに、膨らんでるよ」
「ぇぁ……?」
指摘されて、自分の股間に目をやる。
彼女の右手に包まれた男根は、独りでにぴくぴくと震えて、涙をにじませていた。
「……覚えてきたね」
彼女はくすりと笑った。
至近距離で声を出されると、口から吐息が漏れて顔にかかる。それが、酷く熱い。
目のぎらつきが、また強くなったように見える。
「さて、君は……キスされるとおちんちんが気持ちよくなる、ってことを覚えたね」
「唇に触れるだけのキスでも、ムズムズしちゃう」
れろっ、と唇を舌でひと舐めされる。
股間がずん、と疼く。
「じゃあ、舌が入るような……ふかーい、あまーいキスをしたら……」
「……どうなっちゃうんだろうね?」
「……したい?」
そんなの。
「……したい……♡」
途端に、がばっと覆いかぶさられて、両手で顔を抑えつけられて、口に舌をねじ込まれる。
「れる、はむ……じゅる♡ちゅっ♡ちゅうう……♡」
ぐりぐりと顔を押し付けるような、激しい動き。
口の奥の奥まで舌を入れられて、あちこち荒らされて、吸い上げられる。
口の中に付着した、とうにはちみつも残っていないはずの彼女の唾液が、甘い。
キスが長い。
口内全体を飽きることなくしゃぶり尽くしている舌に邪魔されて、息ができない。
苦しい。甘い。
酸欠で頭がぼうっとする。
身体が勝手にぴくついて、腰ががくがくと痙攣する。
口内を蹂躙されることに対する反射的な行動は、止めることができない。ずっと続く。
「……ぷはっ」
「……っ!はあ、はあ、はあっ」
口が自由になる。酸素を求めて荒い呼吸をする。
キスの余韻を味わっている身体が、腰をへこへこと勝手に揺らしている。
「んー……だいぶ覚えてきてるけど、まだだったかぁ」
「キスとおちんちん、もうちょっと結びつけないと」
顔を抑えつけていた彼女の右手が、再び男根を握る。
キスを終えたばかりの湿った唇が、また近づいてくる。
「ん……♡」
唇の交合、そして舌の侵入。もう何度目になったろうか。
舌を迎え入れた途端、キスの快感を覚え込まされた身体が、勝手に踊りだす。
全身をひくつかせて、腰をかくかく振る、不格好なダンス。
「ん゛おっ……♡」
突如、男根から激しくもみくちゃにされるような感覚がして、快感のあまり腰を弓なりに突き出してしまう。
口内を貪るキスの音で頭の中を埋め尽くされて、視界も彼女のぎらついた目でいっぱいになっていて、何をされているのかを把握することができない。
キスしている最中に、男根が激しい快感に襲われている。そのようにしか、認識することができない。
「れるれる……♡じゅる♡ん、ぢゅううっ♡」
キスが激しさを増すごとに、男根に響く快感もより強くなる。
口の中にじんわりと甘みが広がる。
脳まで染み込んで、甘くとろける。
腰に伝わって、奥に溜まった固いものがほどけていく。
急にふわり、と浮くような心地がして。
視界が白く染まる――
「……ま、だ♡」
――その直前に、キスが終わって。
自由にされた身体が、へにゃりと落ちた。
「ふぁ……♡はぁ……はぁ……♡」
「また、イっちゃいそうだったね♡」
全身の力が抜けきって、男根がびきびきに張り詰めている。
腰の真ん中、男根の根本が、ずんと重い。
口の中が、でろでろに甘ったるい。
「わかるよ……♡もう覚えちゃったもんね、君がイくときの合図」
「イっちゃいそうになると、こわばった顔が、とろん♡って顔になって、目がぐりんっ、てするんだよ。自分じゃわからないだろうけどね」
「……今みたいなのを何度も、何度も、何度も繰り返して、キスすると、おちんちんが気持ちよくなる、って……君の身体に完全に覚え込ませてあげる」
「覚えるまでずーっと射精はおあずけ……♡イきたいよ〜〜♡出したいよ〜〜♡って泣いちゃってる君を何度も何度もおくちでいじめちゃう……♡」
キスで溶かされ、全身ふにゃふにゃになって、キスを受けるだけの人形のようになって。
絶頂の手前で何度も何度も手を止められて、出したい、イかせてほしい、と懇願してしまって。
にやにやと、意地の悪い笑顔を返されて、変わらず口を貪られる。……そんなイメージをしてしまう。
……そうなってしまうことを、期待している。
「……あ、はちみつ。盛り上がっちゃってたから忘れてたね」
いつの間にか床にころんと転がっていた、はちみつの入れ物を取り上げた。
散々、「甘い」キスに使ったそれを、彼女は冷めた目で眺めている。
「うーん、これ、いる?」
「わたし、もうキスしてるだけで味するようになっちゃったから、わたしとしてはあんまり必要ないんだけど」
「君はどう?……君も、甘い味、するようになったかな」
「……味、してる。ものすごく甘い……」
「ふーん……♡そっか、そっか……♡」
にまにまとした顔ではちみつを指に取って、その指を口に差し入れられて舌を撫でられる。
キスを想起させる甘い味が、舌の上で広がる。
「せっかくだから、比べてみよっか。はちみつとキス、どっちが甘いか」
はちみつが乗った舌に、舌が絡む。
じわっとした甘さを、舌で擦り込まれる。
……はちみつに似た味の、けれどそれ以上の甘さが、口の中にある。
キスの刺激に反応して滲み出てくる、自分の唾液。
舌を伝って口の中に注ぎ込まれる、彼女の唾液。
それが、ただのはちみつなどよりずっと甘いのだ。
口の中をふやかして、どろどろにして、溶かしてしまいそうなくらい、甘い。
唾液に溶けて飲み込まれ、口の中からはちみつがなくなっていく。
けれども口の中はずっと甘いままで、むしろ甘みが増していく。甘い、甘い、キスの味で染まる。
「はふ……♡」
口から生じて脳に伝わるキスの味に耐えかねて、口をつけたまま浮ついた吐息を漏らしてしまう。
「ん、むっ……!?」
甘くとろけた身体を、不意に激しい快感が貫く。
股間から発せられた快感が脳に届く途中、キスの甘さと合わさって、快感と甘さがまぜこぜになって、同時に押し寄せる。
頭を、身体を、心を、とろけさせていたキスの甘い味が、快感を伴って広がってしまう。
キスの甘さと、性感を同時に味わってしまう。
とろけさせられるばかりだった身体のあちこちが、びりびりと痺れる。
キスで、感じてしまっている。頭が、身体が、そう認識してしまう。
頭が白く染まり、意識がぽわっと明滅する。視界がぐりんと揺れて。
「……はーい、ストップ……♡」
一時、キスから解放される。
解放されたというのに、身体は甘く痺れ、頭の中はふわふわと浮いて、男根は包んでいる手をぐいぐいと押し返している。
キスの余韻を、全身で勝手に噛み締めている。
「わかりやすいなぁ、ほんと。キスのほうが甘いって、見るだけでわかっちゃう。やっぱり、もうはちみつはいらないね」
「……もうちょいかな」
まだ熱の残った彼女の唇が、何も纏わず裸のままで口と交わる。ひどく甘い。
キスの味が口から全身に広がり、身体をとろけさせると同時に、熱く滾らせる。
舌を舌に巻かれ、ちゅぷちゅぷ、と音を立てて、上下に舐め扱かれる。
筒にした手が男根を刺激するような舌の動きに、まるで本当に男根を刺激されているかのような性感を覚えてしまう。
「じゅる……♡れる、れる、ぇむ♡」
「じゅぽ、じゅぽ、じゅぽっ♡」
キスが激しさを増すと、その分甘さと性感も激しいものになって、堪えがたい快感が全身に伝播してしまう。
身体ががくがく震える。
腰がへこへこ踊る。
意識がちかちか飛ぶ。
脳がとろとろ溶ける。
気持ちいい。
「ぁ――――――♡♡」
「だ・め♡」
「へぁ……♡な、んで……♡」
「い、イきたい……イけた、のにっ……♡」
絶頂まであと一歩、いや、あと半歩まで辿り着いたところで、お預けをされる。
駄々っ子のように、ねだってしまう。
「……そ。イけたんだよ。わたしが止めなかったら、君はイっちゃってた」
「キスだけで、ね」
彼女は右手をひらひらと振ってみせた。
湿り気はあまり見て取れない。
「さっきはね、おちんちんしこしこしなかったんだよ」
透明な涙をだらだらと流す男根は、何にも包まれないでひとりでひくひくと震えていた。
「……聞いて?」
「このままキスを続けたら、君はキスでイっちゃう。一度だけじゃなくて、二回もキスだけでイっちゃったら、もう身体が完全に、キスでイくのを覚えちゃう」
「君の身体が、キスされるとイっちゃうくらい気持ちいい……♡って、覚えちゃうんだよ」
「どういうことになるか、わかってないでしょ」
「覚えちゃったら、きっともう大変だよ?」
「わたしの顔が近づくだけでどきどきしちゃって、唇を見るだけでおちんちんが大きくなって、唇が触れるだけで身体がびくびくして……」
「舌でお口の中をぐちゅぐちゅにされたら、おちんちん触られてもないのに気持ちよくされて……びゅーー……♡って出しちゃう。それが、普通のことになっちゃう」
「そしたら、どうなると思う……?」
「……一生、わたしのキスに勝てなくなるんだよ……♡♡」
「キスされるだけで力が抜けて、身体が勝手に負けモード……♡キスが続いたら、きもちぃ♡すき♡すき〜♡ってなって、イっちゃうの……♡」
「えっちでかっこよくぱんぱん腰振ってるときだって、ちゅ♡ってされたらおしまい……♡」
「身体が勝手にびくびくして、えっちの主導権を奪われて、とろとろにされて……ぴゅっ♡……女の子に負けっぱなしの、なさけな〜いえっちしかできなくなっちゃう……♡」
「キスで、キスなんかで……君の身体、おちんちん……壊されちゃうんだよ……♡」
「……それでも、いいの?」
キス。
キスでイく。
キスだけで、イく。射精する。
彼女のキスに勝てなくなって、イかされる。
キスされただけで、身体を溶かされて、射精させられる。
そんな身体にされる。
壊される。
「イかせて……♡♡」
股間に張りつめきった劣情が、最後の一線を越えてしまったら、きっと元には戻れない。
間近に迫って、寸でのところで押し留められている絶頂を解放するのと引き換えに、直らないくらいに壊される。
……壊されてもいいから、とは思わない。
「……壊して……♡♡」
壊してほしい。
壊されてしまいたい。
超えてはならない境界線を、その向こう側から手を引かれて、踏み越えさせられてしまいたい。
越えてしまった向こう側で、壊れた身体を延々と弄ばれてしまいたい。
キスで射精してしまう身体にされたい。
キスで射精させられてしまいたい。
「キスで……♡壊して……ください……っ♡♡」
唇を、差し出す。
「……いいよ♡」
がぷり。
舌を、思い切り引っ張られる。
「んぢゅっ♡♡れじゅるるるるっっ♡♡♡」
頭に、ぷつん、と糸が切れる音がした。
糸が切れた人形のように、四肢がだらんと脱力する。
脳みそがじゅわりと熱く、どろりと溶ける感覚がする。
腰の奥から噴き上がる放出感に身を委ねる。
どくん、どくん。放出に連動して、腰が跳ね上がる。
「んん〜〜……♡ちゅぱっ♡ちゅぷ、れるるるっ♡」
顔を両手で挟まれて、舌を奥に突っ込まれる。
甘い味が全身を駆け巡って、身体全体を甘く蕩かす。
腰の栓も蕩けて、放出感が垂れ流しのようなものに変わる。
「むぅ……♡ん、ちゅ♡ぐぷぷっ……♡」
だらだらと、甘く、長いキス。
だらだらと、甘く、長い射精。
終わらない。
止まらない。
甘い。
「……お、起きた」
意識を取り戻すと、白くどぼどぼに汚れた腰回りを、彼女が拭き上げているところだった。
傍らには丸まったティッシュがいくつも転がっている。
「お疲れ様。イきながらぼーっとしてて可愛かったよ」
焦点が定まらない視界に、見下ろしてくる彼女の顔が近づく。
ピントが唇に合う。まだ濡れている。
目を奪われてしまう。
「んふふ。顔近づけただけでやばいんだ」
「……また今度、しようね」
付着した白濁を粗方拭き終えて、ティッシュを纏めようとしたところで、彼女は床にほったらかされたはちみつの容器に気がついた。
ティッシュをぽいとゴミ箱に放ってから、はちみつを拾い上げた。
「これ余っちゃったなあ。全部使い切る予定だったのに、どうしよっかな」
「んー……ホットケーキでも作る?」
「いや……いい……」
「そ?まあいっか。あげるから適当に使ってよ」
はちみつの味は、限りなくキスに近い。
……しばらく、はちみつは食べられそうにない。