「これからだぞ…まだだめだ…まだ犯す」
そう言うと、隆は僕の口からペニスを抜いた。だがそれはまだ固く上を向いていた。唾液と精液と涙の混ざった液体を飲み下す。その間にもまだゴホゴホむせ返っていたが、隆はお構いなく咳き込む僕を抱え、そのままベッドに投げ出した。そして僕の口に人差し指と中指を突っ込んだ。更に僕はむせ返った。隆の濡れた指が肛門に滑りこむ。そして僕を簡単に裏返して、僕の腰を掴んだ。太いものが背後から押し込まれた。もう慣れているはずの挿入が、今日は痛みを覚えた。
「痛い…隆…痛いよ…痛い…」
「初めて痛がってるな…もっと苦しめよ」
「やめ…て…」
「そんなこと言ったらやめらんねーだろ!」
激しい。こんな乱暴にされるのは今まで無かった。
「やめてっ! 痛い…いやだよ…痛い…」
「生きてるのがわかるだろ? 痛いんだよ。生きるってのはな!」
「いやだ…やめ…や…ああっ!」
だが、言えば言うほど隆は激しく僕を犯した。わかっててもそう言ってしまう自分がわからなかった。そのうち僕の中に絶望感が忍び寄ってきた。このまま犯され続けるんだ。終わりもないまま。なんの気持ちもなくただ抱かれてた初めての時、なんでこう思わなかったのだろう? 僕は自分の絶望感が信じられなかった。
絶望感の元はなんなんだろうか。僕は犯されながら、小島さんに電話してしまった日のことを思い出していた。混乱と狂気の中で、たった一人だけ、僕は彼に助けを求めた。人に助けを求めたことなんてただの一度もなかった僕が、この人にはなぜか電話をしてしまった。なぜ? なぜ僕はそんな選択をしたんだろう。ああ、わかっている。その答えはたったひとつ、“お前も屍体なんだな”という言葉、それひとつだけ。
僕のこと、どこかでこの人はわかってる…そう思いたかったんだ。まるで、さらわれて異国の地に放り出された子供に、母国の言葉で語りかけてくれたような優しさを感じていた。あの混乱の中で僕は自分の国に連れ戻してくれる人を必死で探していた。そう、僕は知ってた。生きてる人間に期待してるってこと。それが愚かなことぐらい、最初から知ってて電話した。知っていても何故か僕は助けを求めてしまった。
それがあなただったんだ、小島さん。
そしてその理解力は、僕を今苦しめる方向に使われてる。言うなればわかってるから出来る。苦しむ僕を見たいから。どうすれば僕が苦しむかわかったから。苦しむ僕に小島さんは欲情するから。気持ちよくなりたいから。違う。僕が生きていることを拒絶しているから。
もう元の国には戻れないってわかってるから?
その時僕は突然思った。戻れないんじゃない。小島さんは僕に戻って欲しくないじゃないのか? なぜなら僕は最終手段を持ってるんだから。太くて白い丈夫なロープを僕は…いつでも手にすることが出来るんだから。だから小島さんは僕にこう言いたいんだ。
死ぬな、って。その国には俺はいない。俺は、生きてる。お前がそれを受け入れれば、俺はお前と一緒の国で言葉で同じことを話すことが出来る。だから…
(愛されたいんだよ…あいつも、俺もな)
だからですか…? だからこんな風に僕を咎めるんですか。
僕に愛されたいから?
(俺がお前に本気で愛されたくて、お前の前で天井からぶらさがってたら?)
僕はいきなりさっきの質問の意味がわかった気がした。そうだ。どちらかしか、選択の余地はないんだ。僕達には、そのどちらかしか。愛しあうためには。
僕は絶望感の源に、いつの間にかたどり着いていた。
小島さんに犯された傷はその後も数日はしばらく疼いた。手首の傷の時に医者からもらった痛み止めの残りを飲んで苦痛をしのいだ。それでも小島さんと僕の間にある絶望感を和らげる薬は見当たらなかった。
佳彦と僕の間の鍵と鍵穴のような一致故に一緒にいられなかったのと反対に、小島さんと僕の存在は、まるでねじれの位置のような不可解な距離の、異世界に属する幻のようだった。多分僕達は一緒に居るように見えているだけなのだ、と、僕はイメージの中でそう思った。位相の異なる空間。重なりあう影。手を伸ばしても掴めない幻影…いや、僕は、本当に手を伸ばしているのだろうか。
生きている人を愛することが僕に出来るのか。それは“お前にとって俺はなんなんだ”という小島さんの問いに答えることだ。あれだけ犯されつくされても、僕はイクことはなかった。性欲と愛はまったく結びつかないまま、死に彩られた絶頂だけが存在する。僕を虜にするあの静けさ、無音の世界。それに匹敵する僕を揺り動かすほどの動機を、生きているもののどこに見つければいいのか僕には手がかりがなかった。
身体は確かに変わっていく。触られただけで痺れのような性感が勝手に僕の全身を覆う。埋め込まれた寄生虫が皮下にまではびこっていくとしか思えない。嫌だと叫びながら、それを切り捨てることを選べない自分の悪趣味な愚かさに失望する。
答えはもう出ている。僕にとっては誰でもいいのだ。それを佳彦も小島さんもわかっている。わかっているのに違う答えをそれぞれ創りだそうとしている。違う答えのある未来を信じていると言ってもいい。佳彦と僕はギリギリまでその未来に肉薄した。肉薄して、そしてその反社会性におののいた。僕と佳彦の未来はこの社会の崩壊を示す。それは“許されざる者”という社会からの抹殺を意味する。殺人者と被害者という名前を付けられて。
小島さんとの未来はなんだろう。答えはあるのだろうか? 水に写った影を掬おうとするように、僕達は互いの影にしか出会えない。僕達は自分の王国から一歩も足を踏み出す気はないのだ。だが、僕は力ずくで引き出される。そして今とは違う未来を創りだそうという小島さんの無茶な試行の中でもがいている。
だけど…隆…今のままじゃ、隆は僕の自慰を手伝ってるだけなんだ。僕は隆の方を向いていない。隆に抱かれているように見えて、実はあの日も自分自身を抹殺した真っ赤な轢死体に抱かれていただけ。それはホントはもうわかってるんだよね。
隆。
夜中、携帯が小さい音で鳴った。あの日曜日から数日経った冷え込んだ夜だった。
「よぉ。起きてたのか」
その声は、耳のすぐ側で聞こえてきた。距離がないみたいに。
「はい。起きてました」
「ちゃんと寝てるか」
「寝れたり、寝れなかったり、いろいろです」
「そうか。身体もういいのか?」
「痛いのはだいぶ治りました」
「ごめんよ。悪かったな」
「いえ、もういいです」
「怒んねーのか」
「怒ってないです。あの日も怒ってはないです」
「あんなに嫌がるお前、初めて見た」
「あんな痛いんですね。初めてです。小島さんはでも気持よかったんでしょ?」
「ああ止まんなくなった…血が出てたもんな…やり過ぎた」
「血見て興奮してたじゃないですか」
「ああ、そうだ。お前の血が俺のモノを染めてるのがさ」
「いいんですか」
「ああ…いまでも想い出すと勃ってくる」
小島さんはフフと笑った。
「小島さん…僕はやっぱりどうしていいかわからないです」
「ああ…アレじゃダメだわな。生きてること受け入れろなんて…お前を抱く都合のいい理由程度にしかなんねぇし。まぁなんだ、失敗だ」
「違います。僕は…あの画像に抱かれてたってこと…言わなきゃって」
「知ってるよ」
「そう…ですか…」
「それでもいいかなって思えるか、どうか、それだけだ」
「そんなの…」
「お前が出来るんだから、俺にも出来るかもよ?」
「僕…?」
「永遠の片想い小僧だろ」
「片思いって言うのが、よくわからないんです」
「そうなんだろうな。だから出来るんであって、俺は片思いを知りながらそうしなきゃなんねぇ。アウェーだな」
そう言うと小島さんも僕も二人で黙っていた。しばらくして小島さんがポツリと呟いた。
「逢いたいよ」
「そんな僕に…なんで…逢いたいんですか」
「お前にはわかんねぇだろうな。俺にもわかんねぇくらいだからな」
「わかりません。でもわからないのは良くわかります」
「ああ。自分のことなのにな」
「小島さんはそれでいいんですか」
「知らねーよ」
「僕には生きてることを愛する手がかりがないんですよ」
「そうなのか…お前が生きてるから死んだものを愛でることが出来るんだぜ?」
「でも…愛でるよりもっと…僕が死んだほうが幸せなのかも」
「死ぬなよ」
「松田さんのせいです。あんな気持ちのいいこと教えられたら…狂います」
「死ぬなよ」
「なんでですか」
「俺…いまお前に死なれたら立ち直れねぇ」
「そんな…」
「俺は自分のせいだって思うんだろうな」
「小島さんのせいじゃないです」
「止めらんなかった。そう思うんだよ、きっと」
「小島さん…それは僕が淫乱で狂ってるから、ですよ」
「ああ、それは事実だけどな」
「だから小島さんのせいじゃないです」
「でも、死ぬなよ。俺が苦しむから」
「小島さんのせいじゃないですから」
「裕…お前に逢えなくなるのが…淋しいんだよ」
それを聞いて僕は愕然とした。死が淋しさであるという小島さんの言葉に。
「死んでも…僕はどこにも行かないです」
「いや…お前の身体はなくなるんだよ。焼かれて灰になって」
「身体のこと言ってるんじゃないんです」
「身体だけじゃない。人は死んだら、終わるんだ」
「いいえ…終わりません。終わらないよ」
「なんでわかる」
「静けさと終わりは違うから」
なにを言ってるんだろう、小島さんは。だって死は…
「だって…死は…いつも一緒にいてくれるじゃないか」
「裕…お前…なに言ってるんだ…?」
僕の言ってることが小島さんにはわからないのか?
僕はなにがなんだかわからなかった。
最後はまたお互いをわからないまま、死なないことを約束させられてうやむやに電話が切られた。携帯を握ったまま、話していたベッドにパタンと仰向けになった。天井を眺めた。
わからないんだ、全ては終わらないことを。
だが、なぜわからないのかわからない。自明のことと思っていたことがまったく理解されない。しかし、通じるようにも伝えられない。最初からそうだったから、と言うしかないのだろうか?
いや、違う。そもそも僕は、淋しいという気持ちを理解しているんだろうか? 逢えなくて淋しい、身体がなくなるから淋しい…僕はこれらをいままであまり考えたことがないんだと気づいた。手がかりが無いので、僕はとりあえず辞書を開いた。そして“淋しさ”という言葉を調べてみた。それを見て僕はあることを思い出した。自分が小島さんの気持ちを少しだけわかっていたかも知れないことに。辞書にはこう書いてあった。
『孤独や見捨てられることから生じる悲しみ』
それはあの日の、異国の地で母国の言葉で話しかけてくれた人が、もう僕を助けてくれないと知った時の、あのわけのわからない悲しみのことかも知れない。そうか、僕は見捨てられたみたいになって独りぼっちだと感じたんだ。死の国では感じたことのない悲しみを。あの時わけもわからず僕は泣いた。泣くことをしない僕が泣いた。泣くのは2度めだった。そうしたら1度目のあれも、孤独だったのだろうか。
生に関わるとこんな風に、孤独を淋しさを知るのだろうか。
あんな悲しい思いをするのかと、僕は小島さんの言葉を改めて思った。
次の日曜日、僕は午後から佳彦の勤めていない、市の中央図書館にバスで向かっていた。自転車では30分以上掛かるので、バスを使う。停留所を10数個ほど経由すると着く距離にあった。市で一番大きな図書館なので、蔵書は充実していて、以前もたまに利用していたが、佳彦に会わないようにするために、あの日以来、そこに行くことに決めていた。といってもこのところ日曜日になると約束をするので、ほとんど図書館自体に足を運んではいなかった。
そろそろ図書館に着くというバスの中で、いきなり携帯電話が鳴った。ディスプレイには小島さんの名前があった。
少しして目的地に着きバスを降り、停留所のベンチに腰掛けて小島さんに折り返し電話した。コール2回ですぐ声が聞こえてきた。
「いたか。なにしてた?」
「すみません。バスに乗っていたんですぐに出れませんでした」
「バス?」
「はい。ちょっと遠い図書館に行こうって思って。もう着きました」
「ああ、忙しそうだな」
「別に忙しくはないです。休みの日にはだいたい図書館にいます」
「勉強するんだろ?」
「いえ。好きな本があったら借りて帰るだけです」
「宿題とかレポートとか作るんじゃねーの?」
「いえ。気に入った本があるかないかです」
「ふぅん、そうか」
「なにか用ですか?」
「用はないけど逢いたいわな」
「そうなんですか」
「ああ、そうだよ。暇なら今から迎えに行くけど、いいか?」
「いいですけど」
「そういうと思ってた。お前今まで断った試しがねぇしな」
「あ、はい。そうですね」
「で、そこどこ?」
僕は図書館のカードに書いてある住所を読み上げた。
「ああ…そこか」
「知ってるんですか?」
「たまに仕事で通るわ。じゃ、今から行くから。図書館で待ってろよ。着いたら電話するから正面玄関まで出てこいよ」
僕の休日にまた約束が出来た。
30分もしないうちに電話が鳴った。言われたとおりに正面玄関から図書館に面した道路に出ると、小島さんのランドクルーザーが向こう側の車線に停まっていた。近づくと、運転席に小島さんがシートに深く身体を埋めて待っているのが見えた。僕は運転席の窓をコンコンとノックした。小島さんはすぐに気づいて指で“助手席に回れ”的な指示をした。
「おう、元気にしてたか?」
「はい。まあまあです」
「車出すからシートベルトしろよ」
「あ、はい」
小島さんは路肩からグイッとハンドルを切って、車線に乗った。図書館から先は僕はまだ行ったことのない道だった。走りながら小島さんが口を開いた。
「ここのもう少し先に自衛隊の駐屯地があってさ、知ってる?」
「あ、確かバス停の名前にありましたね。行ったことないですが」
「そこ、前の職場だったんだわ」
「自衛隊ですか?」
「うん、そう。陸自な」
小島さんのイメージが兵士とか将校だとかの理由がわかった。
「好きで入ったんだけどさ…入隊した早々から上官に可愛がられたのが運の尽きだったわ。先輩の嫉妬がひどくてよ。でまぁ、意味もなく陰でイジメられたんだわ。ムカつく話だろ? でも高卒で入ったから5年は居ようって思って、自分で決めて我慢してよ。整備系の免許いくつか取って限界で辞めた」
イジメられてる小島さんの姿は想像がつかなかった。
「今は重機の整備と運搬やってるけどな。ほら、クレーンとかショベルカーとか。あの頃に比べれば楽な仕事だわ。ここも運搬でたまに通るんだわ。昔の職場の前通ってるとなんか複雑な気分になるな」
はぁ、と小島さんはため息をついた。
「それ以来俺はもう、大人は完全にダメなんだわ」
「そうなんですか」
「ああ。だからお前くらいの年がいい。でもな…」
「なんですか?」
「お前もいつか大人になるんだ」
「ええ、なると思います」
「どんなに好きでも俺の気持ちは変わるんだ、そうなると。ひでぇ話だ。でもそれは仕方ない。萎えるんだ…何もかも。」
「そうだったんですか」
「ああ…まぁ、どうでもいいんだけどな。お前とは付き合ってるわけじゃないしな」
そう言うと小島さんは少し黙った。何かをためらってるみたいにみえた。言いたくても言えないようななにかを。沈黙の中でそれを押し切るように言葉が放たれた。
「それも…限界なんだわ…もうさ」
「限界…」
「ああ…期限付きの関係ってのがさ」
ささやくような声だった。自分に聞かせてるような。
「期限って」
「お前だったら、あと2年ぐらいか。それ以上はもうない」
「いつもそうなんですか?」
「ああ。例外は…ないわ。残念ながら」
フッと小島さんは笑った。呆れたみたいに。
「別れと出会いの繰り返しってやつはさ、そういつも簡単じゃねぇ。お互い苦しいしよ。でも仕方ない。気持ちが続かねぇ。俺だけが夢から覚めたみてぇにさ…」
不意に小島さんはハンドルを切った。ドアに肩がぶつかった。
「ごめんな。海行こうか海」
「ああ…はい」
さっきまで図書館にいたと思ったら、今は埠頭にいる。高速を少しだけ走った。海と言っても運河の出口、埋め立ての先の四角い海だった。空の下に大きな湾口ブリッジがそびえている。それでも遠くを見渡せば水平線と積乱雲が見えた。
埠頭に際に車を停めて二人で外へ出た。小島さんは僕に自販機で温かいココアを買ってくれた。彼は自分に買った缶コーヒーを手の中でくるくる放りながら、コンクリの階段を降り、一番下の段差に座った。僕は隣に腰掛けた。日曜なのにほとんど誰もいなかった。
「しばらく誰とも付き合ってないんだよ。なんかもうやんなっちまって。松田が電話してきた時も最初は断った。でもアイツものめり込んでるし、俺の入る隙はねぇんだって思ってよ。久しぶりに刺激だけくれればいいわって。くだらねぇ遊びに付き合ってやるかってさ。そんなのに松田の野郎先に帰りやがって…」
プシュと缶を開ける音がした。何口か飲んで、小島さんは苦そうな顔をした。
「お前は…ある意味楽なんだわ。だって俺のこと好きにはなんねーだろ。一緒にいて拒否らねぇで、言うことは聞いて、俺のこと好きになんねーの。良いよな。考えてみれば今の俺には一番楽なのかもな…いつか気持ちが萎えたとしたって…お前にはお前をイカせる世界があってさ、そこに居ればいいだけなんだしな。きっと俺と別れるときでも…泣いたりしないだろ…」
小島さんは缶を握りしめて足の先の岸壁にぶつかる波をじっと見ていた。
「それなのにな…条件反射みてぇにお前に好かれたいって思っちまうんだよな。そうじゃねぇのが一番いいのによ。それが俺が耐えられればなんの問題もねぇっていうのにな」
そう言うと小島さんは両手を回して僕の肩を後ろから抱いた。
「でもさ…どっかで俺は期待してるんだ」
不意に胸の中に抱き寄せられる。頭の上に小島さんの大きい手が乗っている。僕はされるままになっていた。
「裕…お前が俺の限界を超えてくれるんじゃないかって」
急にギュッと小島さんの両腕が僕を強く抱きしめた。
「高校生になっても、大学に行っても、その先も…俺の気持ちが変わんねぇかも知れないって」
「僕が今のままで…ですか?」
「ああ…それでもいいって…それだから超えられることもあるかもなって」
「ほんとに実験したいのはそれですか?」
「…そうだな。実験か。はは…お前その実験に付き合うのか?」
「付き合えって言われたら」
「そうだったな」
小島さんは口をつけて僕の耳の中に囁いた。
「じゃあ…付き合え」
「ええ、わかりました」
「あー…おれが耐えられるまでな」
「はい」
手の中で飲みそびれてぬるくなっていくココアを膝の間に挟んだ。
泣かないのかな…僕は。それは僕にはわからなかった。
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