「この期に及んでなんで俺を呼ばん?…って何度言わせれば気が済む」
幸村さんはいつものように呆れた顔で、僕の脇にしゃがみこんだ。そしておもむろに性器を挿れたホールを握っている僕の両手を掴んで押さえつけた。
「離してください…自分で出来る…だって自分でイケないなんて…そんなの…ダメでしょ」
「久しぶりに会えたのに挨拶もなしかよ。まぁ、努力は認めんでもないが、うまく行ってんのか、これで?」
辺りを見渡していた幸村さんは、床に転がっている黒いホールをチラッと確認した。ホールの入り口からは僕の精液が垂れて床を汚していた。再び僕を見下ろした時には、すでに状況を把握したようだった。さすが現場主義の刑事だと僕は変なところで感心した。確かに久しぶりだった。僕が避けていたし、自殺の遺体は来ないし、そもそも夏から屍体の出ない事件が立て続いていたようで、幸村さんは僕にろくに電話も出来ないほど忙殺されていた。かまわれないだけ僕には平和でもあったが。
「おい、床に寝てると風邪引くぞ。なんでわざわざキッチンなんだ? ベッドに行くぞベッド」
「いつも…ですから…ここ…ああっ!」
幸村さんはいきなり僕の性器からホールを引っ張り、外した。抜ける瞬間にカリに歯が当たり、僕はその感触に声を上げていた。
「なんだこりゃ…気持ち悪いなぁ!」
僕の精液と血でグチャグチャの妖怪の顔を見て、幸村さんはギョッとしたように眉をひそめた。確かにこれは造形的にグロいかも知れない。
「まったく…オナホなんかいつ買ったんだ。しかもこんな…これ…血か? おい、これ…ああぁ〜またこんなにやっちゃって…バカかお前」
幸村さんが僕の性器を見ていた。どんな風になっているのか自分でも見ていない。こんなにって、どんなだろう?
「返して下さい」
「ダメだな。何回出したんだ?」
「2回です。もう1回出すんですから…」
「この感じじゃダメだって。お前懲りねーな」
「返して…イキそうだったのに…」
「イキそうって、根本が血まみれだぞ! また切ったのか?」
「いえ…歯で擦れて」
「歯?」
「ホールの…入り口の歯」
「ホールの入り口って…うわ! 気色悪ぃ!」
掴んでいた僕の手を離してホールの口を指で広げると、幸村さんは更に変な顔をして叫んだ。
「うわぁ…最近はこんなの売ってんのかよ。あ〜あ〜舌まで生えてるわ。こりゃあリアルすぎて引くわ」
「だから返して下さい…」
僕は幸村さんに手を伸ばした。すると幸村さんは僕の顔をちょっと見て、意外にも僕の伸ばした手にそれを押し付けた。
「わかったよ。イキそうだったんだろ。じゃあもう1回イッてみろ。試しに」
もうてっきりここで犯されるものだと諦めかけていた僕は、まさか返してくれるとは思わなかったので一瞬ポカンとした。しかし数秒後に僕は我に返り、手に掴まされた妖怪をそのまま自然に股間にあてがっていた。なんだかわからないけど僕の言うことを聞いてくれてる。見られている羞恥心より、イキかけてるのをちゃんと終わらせるのを見せて、僕はこの発作と幸村さんから独力で早く自由になろう…そうだ、そうするべきだ、と僕は混乱を振り切るように続行を選択した。すると幸村さんは僕の首と膝の下に腕を入れると、そのまま僕を横抱きにかかえ上げた。前にも同じことをされたはずなのに、今回はなぜか恥ずかしさに身が竦み、僕は瞬時に幸村さんに抗議していた。
「な…なにするんですか!」
「続きはベッドでしろ」
久しぶりに身体を密着してるその急激な距離感の変化と抱き上げられた浮遊感に僕は狼狽えた。
「あ、あ、歩けます!」
「自分じゃベッドまで行く気無いだろが」
図星を指されて僕は言葉に詰まった。でも別にそんなに大事なことじゃない…はず。
「…ない…ですが」
「だからだよ!」
「…それ、なにか問題で…うわっ」
そう言い終わらないうちにベッドにドサッと僕は放り投げられた。
「自分でイクんだな?」
「ええ…イケます」
無言で幸村さんはスーツの上着を脱ぎ、床にポイと投げ、ベッドの端に座り足を組み、妖怪を握っている僕の手元をじっと見つめていた。幸村さんのこの一連の行為がどういうつもりか僕にはさっぱりわからなかったが、恥ずかしさよりも僕が貴方なしでちゃんとイケるということを、幸村さんの目の前に突きつけたいのは変わりがなかった。視線から目を逸らし、そして幸村さんが見えないように目を閉じ、僕はもう一度その口の中に先端から性器を挿れていった。
「んんんんっ…!」
なにが起こるかわかっていても、キマイラの舌と歯がそれぞれ関係なく僕の性器をこすり上げる感覚に、僕は見られていることも一瞬忘れかけて喘いでいた。
焦らされきっていた性器が感度をいつの間にか上げていて、それはホールの中の刺激を貪るようにビクビクと根本から震え始めた。毎度お馴染みの不意の来訪者とのいつもの攻防のあと、イキかけてたのを焦らされたからか、それとも来訪者自体の存在のせいなのか、熱の冷めてくれないうっとおしい身体に、更に変な興奮が追加されていることを感じていた。
震える度に粒立った前歯が根本の剥けた皮膚に当たり、点状のランダムな刺激で痛みを神経に伝えてきた。その痛みの中で幸村さんの座っている側…身体の右側すべてが、羞恥心と同時に僕の理解出来ない灼けつくような性感に痺れていた。その昂ぶりが急に下腹部に広がった。
「はうう…」
荒い息の中で首をのけぞらせてその刺激に耐える。右側だけ興奮するなんてどうかしてる。腰は勝手にホールの中を貪るようにうねり、それはホールを掴んだ手も同じだった。腰も手も止まらなくなっていたが右側だけ力が入らなかった。もどかしい中でグチュグチュと粘液の音が大きくなっていき、いつのまにか立てた膝が大きく左右に開かれ、僕は知らぬ間にとても恥ずかしい姿で他人の前で自慰を続けていた。
目の端の幸村さんが大きく息をつく音が聞こえ、足を組み替える時のベッドの軋む音が重なる。もうすぐ…もうすぐイク。初めて幸村さんに自分で出せることを証明できる。だから僕にもう執着することはない。責任とか言うけど、僕自身のことは僕自身でやるのが筋というものなのだから。安心して僕を放ったらかしていて下さい。
「あぁ…あぁ…くはっ! ああぁっ! イキそ…もう…っ!」
キマイラによってたかって貪られるこの統一性の皆無な責めは、僕の小脳を出し抜き続けてくれていた。舌でゾリゾリと裏筋をキツく舐め上げられて腰椎の奥がわななき、急に熱くなったかと思うと、その熱が背骨を伝ってボワァァというノイズとなって側頭骨がいっぱいに満たされていった。そのノイズは次第に鼓膜を越えて頭蓋骨自体が振動しているような、それに伴って大脳まで共振しているような文字通り“頭がおかしくなる”感覚に増幅していった。とっさに僕はさっきのように歯の上下の咬合を合わせて両手で挟み込んだ。傷だらけの付け根にビリッと鋭い刺痛が走った。僕は再びその咬合の中で抽挿を激しく繰り返した。記憶がまた勝手にリピートする。この痛み…あの時の傷…滲みて…
「んああああっ! イクぅぅぅぅっ!!」
その瞬間僕は3度めのオーガズムの中にいた。頭の中が真っ白になるような意識の散乱と消退の中、オーガズムに突き飛ばされた僕の身体は、どこかへ落ちて行きそうな幻覚に見舞われていた。落下する感覚に耐え切れず、咄嗟に僕は手を伸ばし幸村さんの服のどこかを握っていた。
「お…落ちる…助け…」
「イッたのか?」
僕はその問いに無言で何度も頷いた。終わるんだ…これで全部終わったんだ。幸村さんが服を掴む僕の手首を掴んで、やんわりと外した。
「エロいな、相変わらず」
「し…知りま…せん…」
「終わったのか?」
「はい…もう大丈夫です…」
「ほんとに?」
「…ええ…ええ…ほんとに」
「へぇ」
突然手首を掴まれたままいきなりオナホが引きぬかれた。その衝撃でビクンと腰が跳ねた。
「うぐっ!」
「ほー。終わったのはどこの岡本君ですかね」
見ると幸村さんは握ったオナホを床に落としていた。そしてもう一方の手首も掴まれて、簡単に両手を顔の脇でベッドに押し付けられていた。
「立ってても終わってるんだな」
幸村さんは僕を見下ろしてニヤッと笑った。僕は慌てて自分の股間を見た。
「立っ…て…」
僕はそのあとを絶句した。
「オナホなんかでお前の身体が終わるかよ。馬鹿じゃねーの」
「終わります…もう終わってる…立ってるのはただの生理現象なだけですから…」
「じゃあもう感じねーんだな?」
幸村さんはいつものように僕の首筋に顔を埋めた。
「やめっ…んあっ!」
その途端下腹部がズキッと疼き、僕はよがり声を上げていた。背中が反り返り、唇と舌が首筋を嬲る淫らな感触に頭を左右に振り続けた。ああ…どういうことなの? なにも終わってない…なにも? なんで…なんで…どうして終わらない? 終わってくれない!?
大きな身体が乗しかかった上に両手を掴まれて身動きできないまま、どうしようも出来ずによがり続けることを止められない。自分の淫らな声を聴きながら、僕は自分の身体に再び絶望していた。ここまでの不毛過ぎる時間…すべてが無駄…無駄な行為と戦略…なぜ全部無駄になる…? まるで砂漠に水を撒くように…。三回…三回だ。三回自分で出しておきながらなぜ僕は終われない? 僕の身体は一体何を欲しがっている?
「はっ…はぁっ…はう…うう…」
「首筋嬲られただけで、そんなエロい声出して。ダメだなぁ。いつも通りダメな身体だな。努力が報われなくて可哀想になるぞ」
「言う…な…」
図星を指されて僕は耳を塞ぎたくなった。だが塞ごうにもその手はいまだ大きな手に掴まれたままベッドに押し付けられ、指先だけが捻くれて無力に宙を掻いていた。
《近況》
依然として天然のバイアグラこと冬虫夏草のお世話になり書かせてもらってる、寄生系虚弱作家架空線です。久々に間を詰めて更新出来てます。寄生キノコに寄生してるとはなんと残酷な食物連鎖でございましょうか。一番可哀想なのはコウモリ蛾の幼虫です。キノコと私に搾取されっぱなし。とは言うもののキノコ(正確には冬虫夏草属の真菌)もある意味可哀想。コウモリ蛾の幼虫との熾烈な免疫戦争に勝利して菌糸を構築してキノコとして地上デビューしたこの希少な命を、死んで後私のような暗黒猟奇エロ作家の糧として使われていくその悲惨な運命。
しかし、自分の力ではなくコウモリ蛾に寄生したキノコにオリジナル作品を代筆してもらってようやく更新を繋いでいる架空線こそが一番哀れかも知れません。そう言えば、冬虫夏草を飲み始めて5日くらいした日に東京喰種:reの4巻が出て、早速買って読んだら、「冬虫夏草って知ってる?」というセリフのあるシーンがあって、ああ〜シンクロしてるのね〜この世界は〜なんて潜在意識下の膨大なつながりを感じて遠い目をする架空線だったのでした。
とは言うものの、今後コンスタントに更新できるかは君たち中国4千年の知恵にかかっているのです。蛾もキノコもガンバレ。蛾にもキノコにも恥じない作品を書きたいと不意にプレッシャーを感じた瞬間でした。いつもご閲覧頂きありがとうございます。