※注意
この作品はハッピーエンドではありますがリョウ虹チュッチュエンドではありません。

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いつかまた貴女と笑いあえる日まで

虹夏side

 

 12月22日。時刻は13時。

 もう大学も卒業して24歳になった私は就職し、今日は仕事は休み。こういう日は明るい時間からいつも同居人のリョウに身体を求められる。

 

「ん……、ちゅ……、れるっ……、っぷぁ……! ちょっと……!」

「いいから」

 

 強引に唇を奪われ、舌をねじ込まれ、そのままソファーへ押し倒される。

 肩を掴まれて起き上がらせない様にされて、リョウがスカートを捲りショーツの中へ手を入れて私の秘部を弄る。

 

「ちょっと、やだってばリョウ……!」

「……じゃあ払い除けたらいいじゃん。虹夏の方が力強いんだし」

「リョウのそういう所、ホンッット嫌い……! あっ、ああ……!」

 

 私が大した抵抗をしないのを良いことに私のシャツとブラを捲り上げ、乳輪を左手の指先でなぞりながら右手で片足を持ち上げてショーツをズラし、私の秘所を舐め上げる。

 

「汚いから駄目っ……! あ! やだ! そんな所に舌入れないで!! いや! ああ!!」

 

 膣内にリョウの舌が侵入してくる。こうなるともうリョウが満足するまで止まらない。私が何度イこうとも。いつも通り外が暗くなるまで責められ続けられるんだろうな。

 

「や! んあ! はぁんっ……!」

 

 私の身体を知り尽くすリョウが音楽を奏でる様に、指を、舌を、巧みに使って様々なやり方で私を責める。時にはもどかしい程に繊細に、時には痛みを感じるほどに激しく。私からは何もしないのにいつも一心不乱に。毎日、毎日リョウは私の身体を求める。私からは何もしない。

 ひどく空虚な性行為。縋るように私の身体を求めるリョウ。どれだけイかされても虚しさしか感じないのに受け入れる私。

 

 こんな歪んだ関係になってしまったのは、そう。4年前、リョウが私を押し倒した日から始まってしまった。

 

 

 

 

 

――4年前――

 

「リョ……ウ……?」

「…………」

 

 えっ……と、どうして私は今リョウに押し倒されてるんだろう。

 そうだ。いつも通りリョウが私の家に来て、お腹が空いたって言われたから夏にピッタリのそうめんを食べさせて、食べ終わったから私の部屋でダラダラお喋りをしてた筈だ。いつも通りのやりとり。

 だけど私が、そう。ぼっちちゃんの話をした辺りから何だかリョウが妙に静かになって、何かおかしいなと思って声を掛けようとしたら無表情に立ち上がったリョウが私を急に床へ押し倒してきたんだ。

 

「ね、ねぇちょっとどうしたのリョウ。痛いよ……? えっ、んぐっ!?」

 

 両肩を痛いくらいに抑えながら能面の様に私を見つめていたと思ったら急に唇を奪われてしまった。

 え!? なに!? 急に、えっ、なんで!?

 

「ちゅっ、あむっ、はぁ、虹夏……」

 

 一心不乱に私の唇を啄むリョウ。唐突なリョウの行動にまともに抵抗も出来ず唇を何度も奪われる私。

 リョウが私のワンピースのスカートに手を差し込む。流石に、それは!

 

「リョウ! 何してるの!? やめて!」

 

 力の限りリョウを押し返す。その気になれば力は私の方が強いんだ。へなちょこのリョウくらい押し返せる。

 一体どうしたっていうの!? 普段のリョウならこんな事しないのに。リョウは確かに自分勝手だし、人の都合は考えないし、借りたお金は返さないし、高校を卒業してからは宣言通りニートだし、……ってフォローが難しいな。

 いやでも人の気持ちが分からない奴ではないんだ。特に私の事はお姉ちゃんを除けば誰よりも分かってくれてる。そのリョウが私の事をこんな、傷つける様な真似をするなんて……。

 

「いいじゃん。私と、虹夏なら」

「は、はぁ?」

 

 な、なにそれ? 私とリョウは……。

 

「恋人同士じゃなくても、私と虹夏なら、いいじゃん」

「な、なに言って……キャッ!」

 

 また押し倒されてしまった。普段こんな力無いくせに一体何だって言うの。

 

「女同士なんだし子供が出来る心配だってないしさ」

「いや、そういう問題じゃ……」

「お願い、不安で仕方ないんだ。だから虹夏……」

 

「受け入れてよ……」

 

 震える声で私を見下ろすリョウと目が合う。

 こんな寂しそうな眼をするリョウは見たことが無い。どうしてこんな今にも泣きだしそうな、迷子みたいな目をしてるの……?

 ……一回くらいならいい、かな? そうだ、いつもの事だ。私がリョウを助けるのなんていつもの事。リョウの言う通り子供が出来る訳でもないんだ。

 それに、何より、ここでリョウを拒絶してしまったらどこか遠くに行ってしまいそうで、そんな事になったら私は耐えられない。私の生活の中からリョウがいなくなるなんてあってはいけないんだ。

 

 瞼を閉じた私へリョウが唇を落とす。暫くまた啄んでいると舌をねじ込んできた。繋いだ手の指を絡ませる。

 そしてリョウは私のショーツを降ろし、私の全てを犯しつくした。私の指では、届かないところまで。

 

「……ごめん」

「……今更謝んないでよ」

 

 

 

 

 

 

 

 それから私とリョウの関係性は、傍から見れば変わりないようにはしていたけど、実際には大きく変わった。

 私が大学の休みの日はいつも家に来ては昼ご飯を集りに来ていたリョウが自分の家でご飯を済ませてきて、その分空いた時間は私の身体を半ば強引に求める。ぼっちちゃんや喜多ちゃんと都合を合わせてスタ練が出来そうな日でも毎回ではないものの適当な理由をリョウが付けて、私の家やホテルでエッチに没頭していた。

 私は私で拒否すればリョウが離れてしまうかもしれない恐怖の方が勝ってしまい、駄目だと分かっていながらリョウのサボりを容認してしまっていた。私は、結束バンドよりもリョウを選んでしまった。

 そんな調子だからライブのクオリティは上がるどころか下がってしまうのは当たり前。リョウも曲作りを放り出し、時間を見つけては私をベッドへ押し倒す。そんな日々が続いた。

 そんな事が続けば喜多ちゃんもぼっちちゃんもそんな私達の異変に気付かない訳が無く、

 

「あ、あの、虹夏ちゃん、リョウさん……。も、もうちょっと練習のお時間取れないでしょうか……? このままだと、ちょっと……」

「最近二人ともおかしいですよ! 練習もそうですけど、最近全然新曲も出せてないし、司馬さんもぽいずんさんも心配してます!」

「ご、ごめんねー二人とも。ちょっと色々忙しくてさ。個人練習で何とか……」

「曲作りはインスピレーション待ちだから急かされても困る。それに、別に私は自分の音楽がやりたいだけだから、レーベルの人達にどう思われても関係ない」

 

 このような言い合いが出てしまうのは当然の事だった。

 

「か、関係ないって……。そ、そんな訳ないです……!」

「ぼっちちゃん……?」

「レ、レーベルに所属するのは私達が音楽活動していく上での絶対条件です。そ、それに、何よりも、虹夏ちゃんの夢を叶える為には……!」

「ぼっちうるさい。黙って」

「ひっ……!」

「リョウ先輩!?」

「……虹夏のヒーロー気取りなのは結構だけどさ、そういう事は自分の実力をいつでも発揮できるようになってから言ってよ」

「そんな言い方酷いです! 大体その実力をいつか出せる様にもっと練習をして……!」

「もう良いよ、曲作りは頑張るから。だけどその分時間は貰うよ。じゃ」

「ぼっちちゃん喜多ちゃんごめんね! また連絡はするから……!」

「ちょっと二人とも!!」

「虹夏ちゃん、リョウさん……」

 

 二人の声を背に聞こえないフリをしながら歩くリョウを追いかけていく私。私の家ともリョウの家とも違う方向へと歩いて行っているけど向かう先は分かっていた。

 この日はリョウにホテルで鬱憤を晴らす様に激しく責められ続けた。

 

 最低限の練習、最低限のライブ、暇を見つけてはリョウが私を抱く。そんな日々が続いて二年。大学も卒業間近になり、私たちの関係が何と言えば適切なのかは分からないけど便宜上付き合ってる事にしてリョウの両親と、お姉ちゃんに同棲の許可を貰いに行った。

 リョウの両親は

 

「リョウちゃんが出ていくのは寂しいけど、虹夏ちゃんが一緒なら安心ね~。リョウちゃんのことよろしくね、虹夏ちゃん」

 

 と、すんなり話は通った。

 だけど問題はお姉ちゃんだった。

 

「認めないぞ」

 

 にべも無くそう答えた。

 

「え? 店長って同性愛に対して偏見があるタイプ?」

「違う。虹夏が幸せになれるなら相手が男でも女でも関係ねえよ」

「じゃあいいじゃん。知らない相手よりもよく知ってる私の方がいいでしょ」

「普通ならな。だけどリョウ。相手がお前なら話が変わるんだよ」

「お姉ちゃん、それってどういうこと?」

「言わないと分からないか? ならハッキリ言うが、リョウと虹夏じゃ幸せにはなれねえよ」

 

 私とリョウだと幸せにはなれない。そう言い切るお姉ちゃん。

 

「同棲ともなればもう結婚一歩手前の状態だ。まぁ同性で結婚が出来ない以上お前らのゴールは同棲な訳だが。だけどよ、リョウ。私はお前が虹夏を支えてる姿がまっっっったくイメージ出来ん」

「支える?」

「ああそうだよ。お前はこの家に何度も来て何度も泊まっていったよな。お前その間にさ、皿の一枚でも洗ったかよ?」

「いや、ないけど……」

「風呂掃除はしたことあるか? 虹夏の家事を少しでも軽減出来る何かをした事があるか? 私は今日に至るまで一度も見たことがねぇな。もしあったとして言われないとやらないし、言われてもやらなかったりだろ。それどころか受験勉強の邪魔すらしてたよな。人生の大事な時期によ」

「…………」

「一緒に暮らすって事は互いに支えあうってことだ。虹夏が専業出来るくらいリョウが稼いでくるんなら話は多少変わるだろうよ。でもお前らは同じバンドに所属してる。条件は同じだ。だけど長年お前を見てきたから断言できる。お前は何もしない。してもすぐ虹夏に甘えるさ。虹夏が傍にいる限り、ずっと」

「いや、でもリョウは作曲とか忙しいし……」

「確かに作曲は音楽活動を続けていく上で要だろうが、お前だって結束バンド全体のスケジュール管理とかしてるだろ。上も下もねえよ。大体さぁ、お前作曲してるのか?」

「それは……」

「してないだろ。一時期はSTARRYでワンマンしてた結束バンドが代り映えしない曲ばかり弾くもんだから客も離れて今じゃ合同ライブに逆戻り。……ぼっちちゃんと喜多の悔しそうな顔、不憫で見てらんなかったよ」

 

 ぼっちちゃんと喜多ちゃん、か……。そう言えば二人の笑った顔、随分見てない気がする。

 

「そもそもそんな状態じゃバンドの稼ぎじゃ生活出来ないだろ。虹夏は就職が決まってるけど、リョウはどうすんだ?」

「親から仕送りしてもらうけど」

「どこの世に22にもなって親に脛かじりまくりの奴に大事な家族任せる奴がいんだよ!」

 

 お姉ちゃんが耐えかねたのか怒りのあまりテーブルを思いっきり叩く。流石にリョウも委縮してしまった。

 

「で、でも店長だって家事は虹夏に任せっきりじゃん」

「私はその分稼いでるんだよ。必要なら苦手なりに手伝うし。それにその稼ぎだって虹夏が家を守ってくれてっから私も仕事に専念出来てるんだ。私だけの稼ぎじゃない。だから、虹夏がお前に無駄に飯を食わせて養いごっこをしてるのも黙認してきたんだ。私だけの金なら絶対そんなことさせなかったけど、虹夏の金でもあると自分に言い聞かして見逃してたんだよ」

 

 ……養いごっこか。確かにその通りだ。リョウの家は私の家よりも比べることも出来ないくらいお金持ちなんだ。お腹が空いたからご飯を食べさせてあげるなんて、養いごっこ以外の何ものでもない。

 

「……リョウの親にはもう許可貰ってるんだっけか?」

「う、うん」

「どうせ虹夏がいるから安心だ。リョウの事をよろしく、とか言われたんじゃないのか?」

「え? 何で分かるの?」

「ふん。この際だから言わせてもらうけどよ、リョウ、お前の両親は馬鹿親だよ」

「ちょっと、私の親まで悪く言うのは……!」

「お前が学校サボってる時も、お前が不特定多数に金借りて返さなくても叱りもしない。お前さえ好きに生きてればそれで良い。典型的な馬鹿親。だから容易に想像がつく。虹夏の苦労なんか何も考えずに『リョウをよろしく』なんていう姿がな」

 

 ……確かに、ほぼ結婚みたいな形なのにリョウの心配しかしてなかったな、あの両親。

 

「お前の事を本当に、本当に大切に思うなら拳骨でも落として叱り飛ばすのが普通だ。だけどそうしなかった。結果そんな甘ったれに育ったお前をよそ様の子との同棲を許すなんて、まともじゃねぇな」

「…………」

「それに虹夏、お前も」

 

 え? わ、私?

 

「お前さっきからリョウの事を庇ってるけど、一緒に暮らして負担掛かるのはお前だぞ。分かってんのか?」

「いや私はほら、家事慣れてるし」

「慣れてるかどうかが問題じゃない。環境による不満が必ず募っていくぞ。断言してやるよ。絶対に嫌気がさす」

「それってどういう……」

「……まぁその辺は一緒に暮らし始めたら分かるんじゃないか?」

「え? 暮らしていいの」

「どうせ今、口で説明しても納得しないだろ。お前らはもう成人して、もうすぐ学校も卒業する大人なんだ。私が許可しないからと言って従う必要もない」

 

「私がお前らの同棲も、関係も認めないことなんか気にせずに好きにしたらいい」

 

 まぁ3年も保たないだろうがな、とそう言ってお姉ちゃんは席を立って部屋に戻っていった。

 

「お姉ちゃん……」

「……まぁ、店長もああ言ったことだし引っ越しの準備しようか」

「へ!?」

 

 ちょ、ちょっと待って!

 

「ねぇ私がお姉ちゃんのことすごく大切だって知ってるよね!?」

「知ってるけど?」

 

 知ってるけど、って……。

 

「じゃあお姉ちゃんに納得してもらえるようにもうちょっとさ……!」

「別にいいじゃん。店長は好きにしていいって言ったんだし」

「それはそうだけど!」

「じゃあ止めとく? 結束バンドもほぼ崩壊させておきながら、今更私たちの関係も終わらせる?」

 

 なにそれ、そんなのズルい……! 私選択肢ないじゃん!

 

「ならせめてお姉ちゃんに見直してもらえるように一緒に暮らしながら頑張ろうよ! それで私たちの関係もちゃんと認めてもらえるようにさ!」

「……まぁ善処するよ」

 

 そしてこの日は解散して、一か月後に私とリョウは引っ越した。ぼっちちゃんと喜多ちゃんに引っ越し先も伝えることは、リョウが許さなかった。それから連絡も取っていない。結束バンドは事実上解散した。

 

 引っ越しをして三か月、私とリョウは早くも喧嘩が耐えなくなっていた。いや、喧嘩ですらないか。私が怒って、リョウは何も言い返さずに飄々とどこ吹く風と言った態度で、言い合いにもならない。

 

「ちょっとリョウ! お昼ご飯に使った食器くらい片付けといてよ! お水に浸けてすらないじゃん!」

「ああごめんやっといて」

 

「ねえ私が仕事でいない時くらい洗濯物回してよ! 乾燥機だってあるんだから簡単でしょ!?」

「ごめんけど使い方が分からないし覚えらんないからやっといて」

 

「はあ!? 外で食べてきた!? なんでそういう事早く言わないの! ご飯二人分作ってるんだよ!?」

「ちょっと気になるカフェがあったから我慢できなかった。ごめん」

 

「はぁ……、次からしっかりやってよ?」

「分かった」

 

 毎日こんな調子だった。私が怒り、リョウが平謝りして、結局許してしまう。いや、これはもう昔からか。

 お金の貸し借りなんかいい例だ。高校時代にするなって言ったのに結局それからもぼっちちゃんに借りたりしてたし。喜多ちゃんは、まぁ喜んで貢いでたからともかくとして。受験のお祈りのお賽銭代まで借りてたって聞いた時は流石に眩暈がしたのを覚えてる。でも結局私もリョウに対して厳しく言わなかったもんな。バンド内に不和が生じてもおかしくない出来事なのに追及できない辺り、昔からリョウに悪い意味で甘い。それでぼっちちゃんが被害を被ってたっていうのに。

 最初の一か月はすぐに習慣は変わらないだろうと思い何も言わなかった。二か月目は少し苦言を呈したけど変わらなかった。そして三ヶ月目にはこの有様。3年どころじゃなかった。

 お姉ちゃんが言ってた「嫌気がさす」っていうのはこの事か。以前はリョウの面倒は私が見かねて世話してた感じだったけど、一緒に暮らして働きもせず毎日何も家事をしないリョウの面倒を見るというのは正直しんどい。もし結束バンドが順調に行ってたり、まともな恋人関係やルームシェアであってもこの状況は変わらなかっただろうな。

 そして何が酷いってこんな状況であってもリョウは私の身体を求め続けた。以前は都合を合わせて会っていた時だけだったけど、今では一緒に暮らしているせいで毎日ベッドの中どころか、リョウの気分次第でお風呂でも、料理中でも、酷い時は帰ってきた瞬間に玄関でもヤられた。リョウの気が済むまで何度も、何度もイカされた。そして私もまたそれを受け入れてしまった。リョウの寂しそうな顔を見ると、拒むことが出来なくて。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな日々が続き更に二年、今に至る。

 結局暗くなるまで散々責められ続け、立っていられずテーブルに身体を上半身を俯せる形で休んでいた。

 

「……なに? そんなにお尻突き出して。まだシテほしかったの?」

「はあ、はあ……! ち、がうっ……!」

「もう充分かなって思ってたけど、ほら、力抜いて。最後は激しくするよ」

「い、や……! 話聞けって、や! ああ! そんな早くしない、でぇ!」

 

 私の膣内に挿れられたリョウの指がぐちゅぐちゅといやらしい音を立てながら激しく出入りする。散々弄られ続け敏感になっている状態でこれは刺激が……!

 

「ほら、最後に思いっきりイッちゃいなよ」

「やっ、や! はげ、しぃ!! やだぁ!! あ、ああ!! や、んぅっ! イ、ク……! ふああ!!」

 

 イキたくないと、私の意思に反して絶頂を迎えた私の身体がリョウの指をキツク締める。リョウが離れていってしまわないようにと言わんばかりに。

 

 

 

 12月23日。

 明日はお姉ちゃんの誕生日か……。二十歳までは結束バンドでお姉ちゃんのバースデーライブまでしてたのに、リョウと暮らすようになってからはお祝いどころか会ってもないし、電話もしていない。合わせる顔がなくて。

 

「あれ? リョウどっか行くの?」

「ああ、うん。親がたまには顔見せてほしいんだってさ」

 

 だけどリョウはたまにこうして実家に帰っている。私は家に帰りづらくて、お姉ちゃんの顔も見れてないのに全く気にも留めずに。

 

「……虹夏も帰ったら? 明日店長の誕生日でしょ」

「……! 誰のせいで帰れないと思ってるのさ! リョウがちっともしっかりしないからお姉ちゃんに合わせる顔がないんじゃん!!」

「そんなの虹夏が勝手にそう思い込んでるだけじゃん。店長は勝手にしたらいいって言ったんだから顔を見に行くのも虹夏の勝手でしょ。じゃ」

 

 そう言い残して出ていくリョウ。

 何なのあいつ! 自分勝手なことばかり言って、私は、私は!! ……どうしたらいいの?

 

 

 

リョウside

 

 実家に向かうべく下北沢に到着した。

 一緒に暮らしてからというもの虹夏は怒ってばかりだ。原因が私にあるのは分かってはいるけど、ああも毎日怒った顔を見ていると息苦しくて仕方ない。最後に虹夏の笑顔を見たのはいつ頃だったかな。

 

「でも、離れられないんだよな……」

 

 毎日毎日不安を塗りつぶすために虹夏を抱く。虹夏の温もりと虹夏が私の指で感じてる時の喘ぎ声を聞いている時は何もかもを忘れられる。お互い性欲なんて大してありはしないのに、こんな方法でしか紛らわせることが出来ない自分に嫌気がさす。私を拒んでしまえば離れてしまうかもしれないという恐怖心から虹夏が身体を許していることも含め。はっ、大概クズだな。

 私は虹夏しかいないし、虹夏も私しかいない。依存の極みとも言うべき歪んだ関係。恋人とも言えない、セフレでもない、最悪の関係だ。

 そもそも、私は虹夏のことを

 

「ぐえっ!!」

 

 急激にジャケットの襟を思いっきり後ろに引っ張られた!? なんだ! 暴漢か!?

 何が起きたのかと後ろを振り向く。そこには

 

「お久しぶりですねえリョウ先輩? いつぶりでしょうか?」

 

 憤怒のオーラを纏う結束バンドの元ギタボ、喜多郁代がいた。

 

 

 

 

「ふーん、それで下北沢に戻ってきてたんですね」

「はい……」

 

 あれから郁代にしょっ引かれ、郁代が今一人暮らしをしているマンションで尋問を受けていた。郁代は椅子に座って温かい紅茶を啜り、私は床に正座で傍らには氷水が置かれている。寒い中歩いてきた身としてはこれは辛い。

 

「伊地知先輩は一緒じゃないんですね?」

「虹夏は今家にいるよ。店長に会わせる顔が無いって」

「でしょうね。何も言わずに出ていったんですから。会えないでしょうね」

「知ってるの?」

「ええ、店長さんから聞きました」

「店長から? 交流続いてるの?」

「まぁひとりちゃん伝いな事が多いですけどね。今ひとりちゃん、店長さんの家に居候してますから」

「え」

 

 あのぼっちが店長の家に居候!? あんなに怯えていたのになにがあったんだ?

 

「ひとりちゃんは今STARRYを拠点にギターヒーロー名義でシンガーソングライターとして活動してるんです。所属は変わらずストレイビートで。サポートギターとしても引っ張りだこで超売れっ子ですよ」

「そうだったんだ……」

 

 ぼっちがギターヒーローとして幅広く活躍していることは流石に知っていたけど、まさかSTARRYに居候してるとは思わなかった。

 

「郁代は何してるの?」

「私はストレイビートに就職してひとりちゃんの専属マネージャーをしてます。ひとりちゃん、放っておくとすぐにキャパオーバーしちゃいますからね」

 

 ああ、そういう所は変わってないんだ。もう随分と差が出来てしまったけど、なんか安心するな。

 

「それで、伊地知先輩は就職して、リョウ先輩は正真正銘のニートですか。何がしたかったんですか? 私達を捨ててまで」

「……分からない。ただ、私にとって結束バンドは虹夏ほど大切にはならなかったってことだよ。虹夏を除けば何よりも大事なのは間違いなかったけど、でも究極、虹夏さえ傍にいればそれで良かったんだと思う」

「それが伊地知先輩を傷つける事になるなんて分かりきってるのにですか?」

「…………」

「伊地知先輩も同罪ですけどね。結局リョウ先輩を選んでるんですから」

「……怒ってるよね?」

「その氷水ぶっかけて外に放り出してあげましょうか? 当たり前でしょう」

 

 ……耐え切れず聞いてしまったけど当たり前だ。聞く方がどうかしてる。

 

「……あの日、あなた達が何も言わずに消えた時どれだけ悔しかったか。信じてきたものが全部崩れていく感覚があんなにも絶望的だなんて思いもしませんでしたよ」

「……殴って少しでも気が晴れるなら、好きなだけ殴ってもいいよ」

「殴りません。今は」

 

 ……今は?

 

「随分完璧なタイミングで会えちゃいましたね今日は。もし運命って言うならひとりちゃんが手繰り寄せたのかもしれないですね」

「どういうこと?」

「……○○○って音楽番組は勿論知ってますよね?」

「そりゃ知ってるけど」

 

 ○○○といえば有名アーティストしか出ることが出来ない音楽番組だ。知らないほうがおかしい。

 

「今日放送されるので観てください。その番組に……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

虹夏side

 

「ハァ……」

 

 もうすぐ19時か。結局今日は何もする気が起きなかったな。最低限の掃除とかはしたけど気分転換にもならなった。

 リョウは実家に帰ると晩ご飯は家で食べてくるし、何なら泊まってくるかな? 朝の事もあってイライラしてるし気分転換にパーッとピザでもドカ食いしちゃおうか今日は。食べきれなかろうが明日が仕事だとか知った事か。普段呑まないお酒も呑んで吐くまで食って吞んでや

 

「に、虹夏!」

「あれ? リョウ?」

 

 なんだなんだ、バタバタと帰ってきてどうしたんだ。リョウがこんな血相変えてるの珍しいな。ん? ていうか。

 

「……リョウ、ご飯は食べてきたの?」

「た、食べてない」

 

 こいつ……! 予定を変えるんならちゃんと連絡しろって言ってるのに!

 

「あのさリョウ……」

「ごめん虹夏! 分かってるけどそれどころじゃないんだって! とにかくテレビつけさせて!」

「はぁ? テレビ?」

 

 テレビなんて普段映画を観る時くらいしか使わないのになんなんだ一体?

 急いでいるリョウにテレビのリモコンを渡すと、テレビをつけて○○○という音楽番組にチャンネルを変えた。なんだ? 好きなアーティストでも出るのか? でもそれくらいなら別に実家でも見れるよね。

 

「……いた! ほら虹夏あそこ見て!」

「は? どこ?」

「ほら出演者席の右上!」

「右上……? ん!?」

 

 え、嘘! 長さは違うけどあの見覚えのあるピンクの髪……!

 

「ぼっちちゃん……?」

「本当に出てる……」

「ぼっちちゃんが出るの知ってたの?」

「今日知ったんだ。偶然見つかった郁代に連行されて……」

「え! 喜多ちゃんに会ったの!?」

「うん」

「ど、どうだった……?」

「冷たい床の上に3時間正座させられて氷水飲まされたよ」

「えぇ……」

「近々殴られるかもしれない」

「ええ!?」

「虹夏も」

「あええ!!?」

 

 ま、まあ殴られて然るべきことはしたんだけども!

 

「で、その時に郁代に今日ぼっちがこの番組に出る事を教えてもらったんだ」

「そうなんだ。でもこの番組、人気や知名度だけじゃなくて本当に実力がないと出られないって言われてるのに……」

「……ぼっちならおかしな話じゃないよ」

「……まあね」

 

 テレビの中でぼっちちゃんの演奏が始まる。そこに映るのは私が憧れたギターヒーローの、聴くもの全てを痺れさせるような音でギターを鳴り響かせるぼっちちゃんの姿だった。

 バンド時代は周りに合わせるのに苦労して実力を発揮できなかったけど、これが本来ぼっちちゃんのあるべき姿なんだよね……。

 髪の長さは昔の無造作に伸ばしたロングヘアじゃなくて。一度だけ写真でちらっと見たことのある中学時代の頃のようなボブカット。服装は相変わらずのピンクジャージだけど、あれはギターヒーローとしても昔からのトレードマークみたいなもんだしな。

 

「今ぼっちちゃんが歌ってるのって……」

「ぼっちのオリジナルだね。もう作曲編曲もお手の物ってことか」

 

 もう私の出る幕なんて全くないな、とリョウがつぶやく。

 ……確かにそうなのかもしれない。知らない場所に行くときはビクビクと私の背中に隠れていたぼっちちゃんが、今となってはたったひとりであんな大舞台で堂々と演奏して。もうライブ前になると逃げようとしていた、いざという時にしか頼りにならない私のヒーローはいないんだな……。

 

「……郁代に言われたんだ。この番組を私達が観てると信じてぼっちがメッセージを込めたって」

「メッセージ?」

 

 何だろう? 歌詞は相変わらずの暗めの曲だし、特に私たちにメッセージを伝えるような感じの歌でもないし……。

 ぼっちちゃんからのメッセージを見つけようと歌を聴いていたけど見つからず、演奏は終わった。

 

「……リョウは分かった?」

「いや……。次の曲じゃない? もう一曲演奏するらしいし」

「あ、そうなんだ」

 

 そしてぼっちちゃんが次の曲を始める前に上のジャージを脱ぐ。その下には黒いシャツ。そしてそのシャツの真ん中には

 

『結束バンド』

 

 と、あまりにも見慣れ過ぎたロゴマークが入っていた。

 

『聴いてください、新曲です』

 

『フラッシュバッカー』

 

 演奏が始まる。普段ぼっちちゃんが好むようなゴリゴリのギターを轟かせるような曲とは違って、静かな、どこか切ないバラード。

 まるでぼっちちゃんが歩いてきた道のりを歌い上げるような歌詞。時々後ろを振り向いても、それを後悔として捉えず、決して手放さない様に大切に握りしめている歌。

 ぼっちちゃんの結束バンドTシャツ……。ずっと、ずっと大切に持ってたんだ。文字もかすれてボロボロになってるのに、今でも宝物のままなんだ。

 

「……さっきの曲」

「え?」

「さっきの曲には打ち込みでドラムも、ベースもギターも、ぼっちが自分で演奏する部分以外は入ってた。でもこの曲はぼっちのギターしかない」

「そういう曲なんじゃない?」

「確かに弾き語り用の作曲だとは思うけど、それにしても何か物足りないような……」

 

 そう、なのかな? 私は作曲知識は皆無だからそこんとこ良く分からないけど、リョウがそういうのならそうなんだろう。

 そしてぼっちちゃんがフラッシュバッカーを歌い終え、ぼっちちゃんが大勢の人達の拍手に包まれる。

 

『いやー素晴らしい演奏でしたギターヒーローさん。先ほどのフラッシュバッカーは新曲との事でしたが、いつ頃リリース予定なんでしょうか?』

『あ、まだ未定なんです』

『未定?』

『はい。あれはまだ未完成なので……』

『え、未完成なんですか? 素晴らしい歌だったと思いましたが……』

『あ、へへ。ありがとうございます。でも、あれには私の尊敬する人に曲をつけて貰う予定なんです』

『尊敬する人、ですか?』

『あ、はい。バンドを組んでいた時に一度思ってもないような薄っぺらい歌詞を書いたんです。そしたらその先輩に『個性を捨てたら死んだようなもの』って言われて。以前の私は本当に駄目で、駄目で駄目で駄目な奴で、でもその先輩はいつも私の事を面白いって、それが私の個性だって認めてくれて、すごく救いだったんです。そして私の気持ちをぶつけたその歌詞に、先輩がすごくカッコいい曲を付けてくれたんです』

『へー、じゃあその先輩が尊敬する人なんですね』

『はい。今はちょっと燻っちゃってるんですけど、必ずまた立ち上がってくれるって信じてますから。だからその日までこの曲がリリースされる事はありません。所属するストレイビートにも許可を貰ってますから』

『では何故今日はこの曲を』

『伝えたかったんです。私はまだ待ってるって。伝えたかったんです。まだあの言葉を覚えてるって』

 

『……まだ私は「ぼっち・ざ・ろっく」を続けてるって。私のヒーローに』

 

 

 ぼっち・ざ・ろっく。ずっと覚えてたんだ。あの日、私が何気なく言ったあの言葉を。ずっと、ずっと離さないでいてくれたんだ。

 

「リョウ……」

「ひっく……! うっ、ぐす……、ひぐっ……!」

 

 リョウが、泣いてる。付き合いも随分長くなってしまったけど、こんな風に泣いてるリョウを見るのは初めてだ。

 

「に、じか……!」

「うん」

「ぼっちに、あ……! 私、憧れてたんだ……!」

「うん」

「変で、面白くて、可愛くて、カッコ良くて……! わ、私の曲を最高にカッコよく演奏してくれるぼっちが、う、ぐずっ……! 好きだった……!!」

「うん」

「で、でもぼっちに嫉妬したんだ……! ぼっちは、私がなりたかった、虹夏のヒーローになったから……!」

「……うん」

「だ、だから私『が』虹夏の夢を叶えられる様に、たくさん曲を作って……! でも私に元々ぼっちみたいな特別な才能は無いから頭打ちになっちゃって、でもぼっちはギターヒーローとしてどんどん有名になっていって……! 私はぼっちには勝てないんだって!!」

「そっか……」

「だから虹夏を渡したくないって、間違ってるのなんか最初から分かってるのに、虹夏の優しさと甘さに付け込んで、あの日虹夏を、あの日からずっと……、あぁ、うあぁ……!!」

 

 床に伏してリョウが子供の様に泣き崩れる。

 そうか。リョウが毎日毎日私を求めたのは、私がリョウを受け止めてくれるかどうか試してたのか。リョウがずっと不安そうにしてたのは私に拒否されることだったんだ。拒否されたらひとりぼっちになってしまうって、私と同じ不安を抱いてたんだ。

 そもそも私達の間に恋愛感情は無かった。いや、恋愛感情になり切れないよく分からない何かを私たちは昔から互いに持ってた。それが私達の独占欲を生む、歪んだ依存関係の元凶だった。

 人にはリョウを甘やかすなと言っておきながら私がリョウを甘やかす。他の人に懐くリョウを見たくなかったんだ、私も。私がリョウを甘やかす。リョウは私に甘える。私にはお姉ちゃん以外の理解者はリョウしかいない。リョウにも理解者は私しかいない。

 でも私はその依存から抜け出せるきっかけを手に入れた。そう、ぼっちちゃんだ。

 ぼっちちゃん。普段頼りないのに皆が困ってたらいつも助けてくれる。いつも逃げたそうにしてるのに最後には勇気を振り絞って前へ進むぼっちちゃん。

 そんなぼっちちゃんを見てたら停滞している自分が恥ずかしくて、私もヒーローに恥ずかしくないリーダーになりたかった。

 でもリョウはそんな私に気付いたんだろう。だから必死にあがいて、でも届かなくて、その果てにリョウは自分を見失ってしまったんだ。それが間違いだって分かっていながら、私を自分の物にしようとした。

 

「……ごめんね、あの日きっと私はリョウを受け入れるんじゃなくて、張り倒してでも止めてあげないといけなかったんだね」

「ちがう……! 虹夏は悪くない、ひぐっ、私が……!」

「ううん。止めないと駄目だったんだよ。きっと止めてたら皆でもっとちゃんと話し合えてた。ぼっちちゃんや喜多ちゃんとも。だってもうあの時私達は、とっくに『私達』二人だけじゃなかったんだから」

 

 リョウには私がいないと駄目。リョウは私がいないと駄目だなんて思いこんで、そんな分かりきったことを見落として私たちは大事な人たちを手放してしまった。でも、大事な人達はまだ私達に手を伸ばしてくれていた。

 この手を掴まないと駄目だ。この手を掴まなかったら私達はきっと一生ふたりぼっちのままだ。そんなことはもう終わりにしよう。

 

「虹夏の大切な人は私だけでいてほしかったんだ……! ぼっちも郁代も傷つける様な事まで言って遠ざけて、店長さえも……! だからあんな脅迫めいた事を……!」

「分かってる。もう、大丈夫だから」

 

 リョウの頭を撫でる。

 

「やり直そう。一から。今度はちゃんとお互いに支えあうことが出来る親友になれるように」

「うん……! うん……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 12月24日。クリスマスイブ、そしてお姉ちゃんの誕生日。

 

「ほら二人とも! もう皆STARRYで待ってますよ!」

「うぅ……、まだ頬がビリビリする……」

「これ腫れてない……?」

 

 有休を取って私とリョウは喜多ちゃんと一緒にSTARRYへ向かっていた。何故喜多ちゃんもいるのかというと、昨日リョウが喜多ちゃんと話した時にこう言われていた。

 

『もしひとりちゃんのメッセージを聞いて戻る気になったら私の家にまず来てください。その時に殴りますので』

 

 と、良い笑顔で言われていたらしい。

 つまり近い内に喜多ちゃんに殴られるかもしれないというのはこの事だった。まぁ流石の喜多ちゃんもグーで殴るのは勘弁してくれてビンタにしてくれた。全力で振りかぶった一切の手加減抜きのビンタだったけど。いい踏み込みと腰の入ったビンタだったよ。一瞬意識とんだし。

 そして、スッキリしたからSTARRYに向かいましょう、と喜多ちゃんが誰かに連絡を取ってからSTARRYに向かうことになったのだ。

 しかしあんな酷いことをした私達の事をビンタ一発で不問としてくれた喜多ちゃんには頭が上がらないな。思えば普通の女の子らしい遊びをする相手と言えば私も喜多ちゃんくらいだった。良い意味で気兼ねしない相手というか、得難い相手を私は手放していたんだな。

 

「ほら、着きましたよ!」

「そうだね。……変わってないな」

 

 STARRYへ続く階段の上に立つ。

 変わってない。でもそれはそうだ。随分長いこと帰ってきてない気がしたけど考えてみればまだ2年しか経ってなかったんだもん。

 

「鍵は開けてくれてますから、どうぞ」

「……私店長に殺されないかな?」

「その時はその時ですよ! さあさあ!!」

 

 ひぃぃ……、っとリョウが震えながらドアを開ける。

 ……懐かしいSTARRYの匂いに包まれる。そして扉を開け階段を降りた先にはお姉ちゃんが待っていた。

 

「よう。虹夏、リョウ」

「店長……」

「あ、あの、お姉ちゃん、ごめんなさ、い!!?」

 

 お姉ちゃんが近づいてきたと思ったら脳天にとんでもない激痛が! ゲンコツされたのか……!

 

「長いんだよお前ら! 3年どころか1年も保たないと思ってたのに2年も無駄に意地張りやがって! 連絡も寄越さないで、どんだけ心配したと思ってる!!」

「ご、ごめんなさい……」

「すみませんでした……」

 

 いたた……、久しぶりのお姉ちゃんのゲンコツは効くな……。リョウも涙目になってるや。

 

「で、少しは得るものはあったのか?」

「……うん、ようやく前に進めると思う」

「そうかい。で、リョウ? お前これからどうするんだ。実家でニートか?」

「いや、どこかでバイトしながら就職先を探そうかなって。やりたい事も出来たけど、まずは自分の足で生きていける様にならないと」

「ふん、お前に今更まともな仕事が出来んのか?」

「ちょっとお姉ちゃん!」

「……それでも、やるって決めたから」

「……今STARRYはぼっちちゃんのおかげで大盛況でな。人手が足りてないんだ」

「え?」

「お前どうせ音楽が無いと生きていけない人間だろ。今度はバイトじゃなくて正社員としてウチで働け」

「どうして、私は……」

「言っただろ。本当に大切に思うなら、ゲンコツでも落として叱り飛ばすのが普通だってよ」

 

 リョウがお姉ちゃんを見上げる。

 

「お前との付き合いも長い。……お前の事も妹みたいに思ってんだよ私は。出来が悪いが先に付くけどな」

「店長……」

「言っとくけど給料はそんな良くないからな。普通に暮らす分には問題ないけど、普段みたいに無駄遣いしてたらあっという間に無くなるからな。後バイトの頃みたいに甘くないぞ。甘えた根性叩きなおしてやるから覚悟しろ」

「……はい。ありがとう、ございます」

 

 声を震わせながら頭を下げるリョウの頭を撫でるお姉ちゃん。

 

「虹夏、お前はどうする?」

「私は……、このまま就職した先でまだ働くよ」

「良いのか? まだ雇う余裕はあるぞ」

「いつかはこっちに、とも思うけど。今リョウと働いたらまたついつい甘やかしちゃいそうだから。それじゃもう駄目だから、お互いちゃんと大人になるまではこのままで」

「そっか」

 

 話し終えたお姉ちゃんは椅子に座って煙草を咥えた。

 

「ふぅ、やれやれ。とんだサプライズなクリスマスプレゼントになっちまったな。さて、私からは以上だ。……スタジオで待ってるから、早く行ってこい」

 

 お姉ちゃんがスタジオを指さす。

 ……あそこにいるんだよね。ぼっちちゃん。

 

「ひとりちゃん、首を長くして待ってますよ。早く行ってあげてください」

「喜多ちゃんは?」

「私は言いたいことはビンタに込めましたから、もう充分です。……ちゃんと伝わってますよね?」

「もうバンド仲間を、家族を蔑ろにしないこと、だよね?」

「はい良く出来ました。さあ、いってらっしゃい」

 

 喜多ちゃんに背中を優しく押される。

 

「リョウ、行こう」

「うん」

 

 スタジオの重い扉を開ける。その先には、まっすぐに私達を見るぼっちちゃんが待っていた。

 

「ぼっちちゃん……」

「ぼっち……」

「お久しぶりです、リョウさん、虹夏ちゃん。二年ぶりですね」

「そう、だね……」

 

 ぼっちちゃんがゆっくり私達に近づいてくる。

 ぼっちちゃんにも殴られるのかな。それだけの事をしたんだし当然だ。むしろ殴られるべきなんだ私達は!

 ぐっと目をつぶって歯を食いしばる。でも予想した衝撃は来ず、震える私の手に柔らかな温もりが触れた。ぼっちちゃんの手だった。リョウの手も握って、私達の手を抱きしめていた。

 

「なんで、何も言ってくれなかったんですか……」

「……」

「そりゃ、頼りないのは分かってますけど、でも相談くらいしてくださいよ……! 私達、仲間じゃなかったんですか……? 友達じゃなかったんですか……!?」

 

 ぼっちちゃんの瞳から大粒の涙があふれ出す。

 

「黙ってどっかに行かないでよ……! 私を本当に『ぼっち』にしないで……! もう、ひとりぼっちはやだよ……!!」

 

 私達の手を痛いくらいに握りしめて、震えながら涙を零すぼっちちゃん。

 

「ごめん、ごめんなさいぼっちちゃん……!」

「ぼっち、本当にごめん……。待っててくれて、ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから抱きしめあって泣いた私達は、落ち着いてから喜多ちゃんとお姉ちゃんのいる場所まで戻ってきた。

 そしてこの2年、いや4年前に何があったのか、そして今に至るまで何が起きていたのかを話した。すべて包み隠さず。

 

「全ては私のつまらない嫉妬が原因。結束バンドも崩壊させてしまって、本当に謝っても謝り切れないことをした。本当にごめんなさい」

「……そんなことになってたんですね」

「じゃあ伊地知先輩とリョウ先輩は……」

「うん。別れた……っていうのが適切かは分からないけど、今度は互いに寄りかかるんじゃなくて、支えあえる様なちゃんとした友達になれる様にやり直しだね」

「そういうこと。私ももう自立しないと」

 

 正直リョウが私の目の届かないところでやっていくって考えるとまだ落ち着かない。でもこんな状態でSTARRYで私も働いたらまた甲斐甲斐しくリョウの世話をしてしまうのが目に見えてる。自立するのはリョウだけじゃない。私も、リョウ離れできるように頑張らなきゃ。

 

「……というかお前らそんな爛れた状態だったのか。良い状況ではないのは察してはいたけど」

「ま、まあね……」

 

 喜多ちゃんとぼっちちゃんが顔を赤くしてチラチラとこっちを見る。死にたくなるからそんな目で見ないで……!

 

「それでさぼっち、フラッシュバッカーの事だけど……」

「あ、はい」

「作曲はやろうと思えばできるけど、正直今の私には実績が無い。そんな私がいきなり今のぼっちの曲を作る訳にはいかないから、ぼっちに見合う作曲家になるまで待っててほしい」

「はい。この二年間に比べたら、いくらでも待てます」

「うん、ありがと。一日でも早く追いつけるように頑張るよ」

 

 ぼっちちゃんとリョウが顔を見合わせてニヤニヤと笑いあう。ああ、何かあの頃に戻れたみたいだな。

 

「また分かり合ってるー!」

 

 喜多ちゃんが嫉妬するところまで含めて。

 あ、そういえば気になってる事があるんだった。

 

「ねえぼっちちゃん、何でぼっちちゃんとお姉ちゃんが一緒に暮らしてるの?」

「あ、えっと。虹夏ちゃん達が出ていって一ヶ月くらい、かな? 少しでも虹夏ちゃん達がどうしたのか知りたくて店長さんのお家に行ったんです。そしたらコンビニ弁当とお酒の空き缶で部屋が溢れてて……」

「まぁ仕事が忙しくて部屋を片付ける余裕が無かったのと、誰かさん達のお陰でストレスが溜まってたから酒の量が増えちまってな」

「そ、それで放っておけなくて……。それに活動拠点もSTARRYでしたし。あ、でも虹夏ちゃんももう戻ってくるんですよね? なら私ももう出ていこうかなって……」

「え!? ぼっちちゃん出ていくのか!?」

 

 出ていかないでくれー! 虹夏も帰ってきて可愛い妹二人と暮らせる私の夢の生活がー! とぼっちちゃんに縋りつくお姉ちゃん。まだぼっちちゃん大好きだったのか……。ぼっちちゃんも成人したし落ち着いたかと思ってたんだけどな。

 

「た、たまには泊まりに行きますから……」

「本当だな!? 約束だぞ!」

 

 涙目でぼっちちゃんに抱き着くお姉ちゃん。やれやれ……。

 

「……ねえ虹夏」

「んー?」

「私、本当にどうかしてたんだね。こんな最高に楽しい場所を手放してたなんて」

「……そうだね。私もどうかしてたよ。こんな優しくて頼りになる人達に相談一つしなかったなんてね」

 

 随分遠回りしてしまった。大切な夢への懸け橋を破壊して、もう決して戻らない。

 でも大切なものを失って、でも私達を手放してくれない大切な絆の強さをより強く実感することが出来た。こんな素晴らしい人達に恥じない自分になれる様に頑張っていかないとな。

 

「いつか、さ。私達が大人になれたらご飯作ってよ。やっぱり私が好きなのは、虹夏の作ってくれたご飯だから」

「そうだなぁ……」

 

「その時は、皿洗いくらいしてよね」

 


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