今回は、skebでのご依頼品です。
リクエスト内容はこちら。
https://skeb.jp/@aikosyaHoKoku/works/31

魔物たちの調査のため、魔物になって潜入!
でもなんで、オークなのよ! となっていたら、なんとなんとオークに恋しちゃってどうしよう!

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【リク作品】魔物の街、調査任務 ~だからってなんでオークなの!?~

「さて、と。あーあ、どうせならもっと可愛い魔物でもよかったでしょうに、フゴッ」

 一人のオークが鼻を鳴らしつつ、街道を歩いています。

 オーク特有の鋭い目つきであっちを見て、こっちを見て。

「魔物は魔物ね、街のつくりはしっかりしてるけど、どこかこう……品がないっていうか、臭うっていうか」

 もしかすると今の自分がオークだからかだけど、とも思いつつ。

「和平式典まで三ヶ月、本当に信用に足りうるかの調査。聞こえはいいんだけど、ねぇ」

 何気なく、池に顔を覗かせて。

 映っているのはもちろん、オーク然とした猪顔。

 特徴的な鼻がヒクヒク動き、フゴフゴ鳴り。

「魔物が信用できないから人間を魔物の姿にするって、どーっちが信用できない存在なんだか!」

 そう、実はこのオーク。

 人間の女性、なのですが……ぶつぶつ呟いている一大ミッションのため、魔法によりオークの姿にされていたのでした。

「ま、いいんだけどね。一生遊んで暮らせるくらいの報酬用意してもらってるんだし」

 この面倒な厄介事が終わったら何をして遊ぼう、なんて気の早い考え事もしちゃったり。

 ……そうでもしないと、自分がこんなむさい猪モンスターである事に耐えきれないのかもしれません。

「調査といえば情報よね。うーん、酒場でも探そうかしら」

 目的地を決め、曲がろうとした時でした。

 体格が大きくなっているのもあるのか……ドン、と他の魔物にぶつかってしまったではありませんか。

「おうおうあんちゃん、俺にぶつかるたぁいい根性じゃねぇか?」

「あっ、えっと、ごめんなさい」

 みるからに柄の悪そうなリザードマンが、グラサンを外しながら睨んできます。

「アニキぃ、こいつぁメスですぜ!」

 その横には、子分のゴブリン。

「あぁ〜ん、テメェメスなのか? オークってのはどいつもこいつもむっさいからよぉ、わかんなかったぜぇ」

 鼻で笑いつつ、こちらに顔を近づけつつ。

 気にしている事を言われ、ムッとしつつも……事を荒立てるわけにもいきません。

「おいおい、アニキにぶつかっといて詫びもねぇのかぁ〜? ちょっとこっちこいよぉ!」

 子分格のコボルトもオラついてきて、どうしたものか。

 とはいえ、三対一では不利でしかありません。

 オークの女性は周りを見るも……

 周囲の魔物は見てみぬふり。

 この辺では有名なごろつきなのでしょうか、誰も助けようとはしてくれません。

 されるがまま、路地裏に連れ込まれ。

「へっへっへ、こんな豚野郎がこの街にもう一人いるなんてなぁ! お人好しのあのバカだけだと思ってたが、ヒャッヒャッヒャ!」

「アニキ、やっちゃいましょうよぉ!」

「やっちゃいましょ、やっちゃいましょぉ!」

 三人がニヤつきながら、短刀を取り出し。

(冗談でしょ、こっちは丸腰なのよ!?)

 魔物の姿なら安全だと勝手に思い込んでいただけに、大ピンチで平静を保てません。

(も、もう、これなら魔物でも使える魔法、一つくらい覚えておくんだった……!)

「さぁ〜て、オークの毛皮はいくらくらいで売れるかなぁ?」

 リザードマンの持つナイフが、きらりと光り——

 万事休す!

 女性が諦めて、目を瞑ったその時でした。

「だぁ〜〜〜〜れがお人好しのバカだってぇ?」

「げ」

「やべ」

「いた」

 三人の誰でもない声が聞こえ、薄目を開けると……

「てめぇら魔物のプライドってのがねぇのか! 働きもせずチャラチャラしてよぉ!」

「ほぎゃああああ!?」

 丸太のように太い腕から繰り出されたパンチが、ゴブリンを吹っ飛ばし。

「大体、なんだそのなっさけねぇ構え! もっとリキぃ入れろ、リキ!」

「ぴぎゃああああ!?」

 これまた丸太のような足が、全力でコボルトを打ち上げて。

「へ、へへ、旦那、こ、これは勘違いでさぁ、お、俺はただ」

 リザードマンはヘラヘラ笑い、誤魔化そうとするのですが……

「うるせぇ! 俺の許嫁に手ェ出すたぁ、いい根性してやがるぜぇ!!!」

「うぎゃああああ!?」

 一瞬の出来事!

 隙をついて繰り出してきたナイフを屈んで避け、そのままタックル。

 ヒョロいリザードマンをそのまま持ち上げ、見事にアルゼンチンバックブリーカーを決めて見せたのです!

 チンピラ三人衆は全員目を回し、気を失ってしまい。

「さぁーてと、すまんな。勝手に許嫁なんて変なこと言っちまって」

「い、いえ、ありがとうございます……」

 女性は目の前にいるかなり逞しいオークに、驚きながらも返事をします。

「こいつらなぁ、なっかなか悪さの現場を見せねぇんだよ。ま、あんたの証言も貰えりゃこいつらも豚箱行きよ! あ、すまんすまん! あんたに豚箱って言っちゃいけねぇな、あ、俺もか! ガハハ!」

 豪華な喋りに流れを持っていかれ、気づけば一緒に警察へ。

「ふー、やれやれ。いっけねぇ、そろそろ開店時間だ、急がねぇとみんなが待ってるぜ!」

「あ、あの、お仕事は何を?」

「んー、俺に聞いちゃうか? この、この国で最も重要と言っても過言ではないポジションのこの俺に?」

(重要なポジション? もしかして、大臣なのかしら!?)

 国の内情を知るにはもってこいの相手。

 この機を逃さないわけにはいきません!

「え、ええ、助けてくださったお礼もしていませんし……」

「あー、そっかそっか、そうだな! じゃあ、俺の仕事……ちょっと手伝ってもらおうか!」

「て、手伝う!?」

 ちょっとお茶でも、というつもりが……

「じゃ、行こうか。こっちだ、こっち!」

「あ、は、はい……」

 ずんずんと歩いていくオークの後を、オークの姿の女性がついていき。

「ようし、着いたぜ! ここが俺の職場よぉ!」

「えっ、ここって……」

 目の前にあるのは、至って普通の建物。

 いや、大きな看板がかかっていて、そこには……

『たらふくオーク亭』の文字。

「おうよ! 俺はここで、この街唯一のレストランやってんのさ!」

「あ、はぁ……」

 一体どこが重要なのか、とため息をついてしまい。

「おぉっと嬢ちゃん、そんな顔したら美人が台無しだぜぇ?」

 顎を持ち上げられ、瞳を覗き込まれ。

「飯ってのはな、魔物にゃかかせねぇもんなんだ。そのくせこの街ときたら、一番デケェくせにまともな飯屋がありゃしねぇ! 俺はここで、みんなが幸せになってくれるように飯を作ってるってわけよ」

「ふーん、繁盛してるんです?」

「へへ、だから手伝って欲しいんだって。どうする? 賄いは出すぜ?」

 その言葉に返事する前に、グゥとお腹がなってしまい。

「よーしよしよし、体は正直じゃねぇか。経験あんならウェイトレス、ないなら皿洗い! どっちか頼むぜぇ!」

「えっと、じゃあ、お皿洗いを……」

 助けてもらったとはいえ、言うことがいちいちピッグ……じゃなかった、ビッグすぎるこのオーク。

 女性は呆れつつも、渋々手伝いをすることに。

「よし、じゃあ頼むぜ。あ、忘れていたな。俺の名前はゴーツ。おまえさんは?」

「え、エリーです」

「よっしゃ、エリーか! よろしく頼むぜ!」

 手を差し出され、慌てて握手を交わし。

 目の前にいるのはかなり乱暴そうなオークなのに、その握手はどこか優しく、温かく……

 

「おーい、激盛りカレー三つ!」

「こっちはデリシャスハンバーグな!」

「俺のエビチャーハンまだー?」

「おう、聞こえてる聞こえてる! 慌てんじゃねぇや!」

(ちょ、ちょっと、人気があるってレベルじゃないでしょこれ!?)

 ゴーツが豪快に調理器具を扱い、次々に料理を完成させ。

 それがテーブルに置かれるや否や、魔物たちはものすごい勢いでがっついていき。

 お金を払い、すぐに出ていったと思ったら新しい客が飛び込んで。

 自分の他に数人、店員として働いているのですが……休む暇なんてありません!

 軽い気持ちで手伝っていたエリーですが、徐々にその雰囲気に圧されてしまい。

「ねぇねぇ! 水おかわりないのー?」

「あ、はい、ただいま!」

 皿洗いが空いた隙に、思わず他の手伝いに回り。

「あれぇ、ゴーツちゃんどしたの! いいお嫁さんもらったじゃんか!」

「バカ言え、今日知り合ったばかりでぇ!」

「マジで!? そういえばさー、この間聞いたんだけどさ……」

(あ、すごいわね。ゴーツさんのお店、お客さんが自然体だから……みんな当たり前のように世間話をしているんだわ)

「おーい、エリーさんとやら。皿、溜まってきてるぜ!」

「あ、はい、ごめんなさーい!」

「ワハハ、頑張れお嫁候補ー!」

「うるせぇ! おまえのカレー、辛さ増やすぞ!」

「そりゃないぜゴーツ〜!」

 ドッと笑いに包まれる店内。

(魔物も人間も、そんなに違わないんじゃないかしら?)

 食事をして、おしゃべりして、笑い合って。

 エリーは不思議な気分のまま、激戦を続けていき。

「いやー、お疲れさんお疲れさん。助かったぜ」

 ゴーツがどっこいしょ、と椅子に腰掛けます。

「え、えっと、これ、なんでしょ?」

「なんでしょ、って賄いだけど。オークだし、これでいいだろ?」

「え、えーっとぉ……」

 目の前には、見たこともない料理。

 当然、食べ方も知らないわけで。

「あれ、知らねぇのか? オークと言えばこれだろ」

「わ、私、離れた田舎からはるばる来たばっかりで、その」

「……そっか、そうか。じゃあ、手掴みは嫌か?」

「あ、はい」

 ゴーツがスプーンを取り出し、エリーに差し出して。

「もしかすると、いくらオークでも……食べたことねぇなら、口に合わねぇかもな。それだったら、言ってくれよな」

 恐る恐るスプーンで山盛りの何かを掬い、口に運び。

「んっ、美味しい」

「美味しいか? ならいいんだ」

 ゴーツが安心したように笑い、大きな手でそれを掴み取り。

「俺の所だと、これはこうやってかぶりつくんだ。まあ、俺の所は、な」

「へぇ……あ、そうだ、ゴーツさん」

「なんだぁ?」

「お、お願いがありまして」

「借金の保証人にゃならねぇぞ」

「ち、違いますよぉ! わ、私、田舎から来たばっかりで、こう、仕事とか、無くて」

「あぁ、そう言うことか! うーん……やめといた方がいいと思うぜ」

「まだ何も言ってないじゃないですかぁ」

「だって、俺給料払う余裕はねぇもん。寝床と飯なら用意できるけどよぉ」

「そ、それで十分ですよ!」

「ふうん……言うのは、簡単だぜ?」

「お、お願いします! ここで、働かせてください!」

 思わず椅子から降り、土下座して頼み込み。

「……分かった、分かった。ただし、仕事はキッツイぜ。休みも週に一日だけだしよ」

「は、はい、頑張ります!」

(よし、これで情報は集められるわね。ゴーツさんは強いから、身の安全も確保できそうだし)

「よし、よし。じゃあ俺はおまえさんの寝る場所用意しとくから、それゆっくり食ってな。欲しかったら全部食っていいぞ、ブハハ!」

 鼻を鳴らし、大声で笑い。

「ふぅ、なんとかなったわね……それにしてもこれ、本当に美味しいわね」

 元人間でも、今はオークの体だからでしょうか。

 オークの味付けがやたらと舌に馴染み、次々と口の中に押し込んでいき。

「ブフッ、これ、スプーンじゃ、遅いわね!」

 我慢しきれず、行儀が悪いと思いつつ手で直に掴み、口に捩じ込み。

「美味しい、美味しい、フゴッ、フゴッ!」

 鼻を鳴らしつつ、エリーはオーク飯を堪能するのでした。

 

 次の日から、エリーはゴーツの店でてんてこ舞い!

 一緒に買い出しをして、下拵えを手伝い、開店したら皿を洗いつつも客の注文を取ったり料理を運んだり。

 決して楽ではない日々でしたが、その忙しさが余計な事を考える暇を与えずかえって気が楽で。

 どこか心地よかったのは、それだけではありませんでした。

「えーっと、ここがこの国のお偉いさんのいる場所だぜ。迂闊に近づくと、捕まっちまうぞぉ」

「ここは人間の奴らがこっちで暮らす用の建物だな。専用の場所で固まってちゃ、意味ねぇと思うだけどなぁ」

「お、最近できた服屋だぜ。人間のところで修行した奴がデザインしてるってんで、大人気なんだぜ!」

 ゴーツはエリーとの買い出しの際、必ず寄り道をするのです。

 いろんな場所を面白おかしく紹介してくれるおかげで、下手に自分で歩き回るよりこの街を詳しく知っていき。

「ゴーツさん、ゴーツさん?」

「どうした、エリー?」

「どうしてゴーツさん、そんなに親切な道案内をしてくれるんです?」

「え? そりゃ簡単よ。出前しよっかなって」

「で、出前ですか!?」

「そうそう、お偉いさんとか、昼に俺の店に来るのは難しいだろ? でもぜってぇ、俺の飯食いてぇはずなんだよな! で、エリーの出番よ! 俺の料理を、超特急で運んでもらえりゃ、売り上げも上々! な、いい考えだろ!」

「は、はぁ……」

「ぶへ、乗ってくれよそこはぁ」

「あ、す、すいません、私、いっぱい運びますよ!」

「そこは『迷子になりませんよ』で頼むわ」

「あ、はは、ははは……」

 利用していると言う負い目から、どこかよそよそしい態度だったのですが……

 ゴーツの優しさに、少しずつエリーは心を開いていき。

 

「ねぇねぇ、ゴーツさん」

「なんでぇ」

「もしよかったら、ゴーツさんの隣で寝てもいいですか?」

「んあ? どうしてだよ?」

「私、寝坊しちゃうかもしれないので!」

「べーつに、俺は起こさねぇからな! そうするなら、自分で布団持ってきな!」

 

「ゴーツさん、ゴーツさん」

「ん、どうした、機嫌いいな?」

「片手、あいてるでしょ? 手、握りません?」

「なんだなんだ、俺がお荷物ってか?」

「私って、お荷物でしょ?」

「そんなわけないだろ、俺もおまえも買い物袋じゃないんだから、なし、なし!」

「いいじゃないですかぁ、ちょっとくらい」

「仕方ねぇなぁ……じゃ、誰かに見られたら止めるからな、ほれ!」

 

「ゴーツさん、あるじゃないですかこんな美味しいデザート屋さん!」

「バカ言え、菓子だけで腹一杯にしたら体に悪りぃだろ」

「とか言って、おっきいの注文しちゃって! ちょっともらっちゃお!」

「あ、こら! 自分のがあんだろ、もう」

「ブフフ、代わりに私のも、どーぞ!」

「おう、ありがとな。おー、結構これもいいな」

「でしょ、でしょ?」

 

 お店の方だって、順調です。

「あ、エリーちゃん! 今日もデカくてかわいいね!」

「んもう、ゴイルさんったら! そっちこそ、石のツヤが素敵ですよ?」

「えっ、そうかい? へへへ、じゃあ今日は特別に、石サラダ大盛りも追加しちゃおっかな!」

「はーい、ゴーツさんお願いしまーす!」

 

「エリーちゃん、あの大将といつ結婚するの?」

「またまた、クロプさんこそ、奥さんと仲良くやれてるんですかぁ?」

「俺は浮気なんてしねぇよ、だって目が一つだからな! 女房見てたら、他の女なんて見えねぇぜ!」

「とか言っちゃって、こいつ最近、エリーちゃん目当てにここ来てるようなもんなんだぜ!」

「あ、こら、ケロべ! 余計なこと言うんじゃねぇ!」

「イタタ、言ったのは俺じゃなくて、こっちの頭!」

「ほらほら、喧嘩するならゴーツさんに追い出してもらいますよ」

「「はーい」」

 

 最初はさまざまな魔物に囲われてどこか恐怖まで感じていたのに、いつの間にか打ち解けて。

 常連さんと他愛のない話もしつつ、噂話には耳を澄ませ。

 ……とはいえ、聞こえるのは平和な内容ばかり。

 たまにちょっと治安の悪い話はありますが、それは人間だって同じです。

(ご飯食べている時の顔とか、変わらないのよね。先入観って良くないわ、本当)

 みんながニコニコして食事をし、幸せそうに出ていき。

 ゴーツの手伝いをする事でエリーも魔物に馴染む事ができたため、順調に任務は進んでいき。

 とはいえ、特に報告する事も無く……連絡を取りすらせず、ただ毎日を全力で過ごしているのでした。

 そんな、しばらくたったある日。

「悪ぃ、今日はパーティの予約入っててな。仕込みが忙しいから、一人で買い出し頼めるか?」

「分かったわ、ゴーツ! すぐ行ってくる!」

「おう、気をつけてな」

 お使いを頼まれ、一人で街をかけて行き。

 いろんな魔物と挨拶をしながら、慣れ親しんだ道を進んで行きます。

 ふと、人間たちが住む建物をチラリと見た時でした。

『奥様 お帰りの時間です』

 そう書かれた帯が、垂れ下がっているのが視界に入ってきたのです。

「なんだろね、あれ」

「奥様って誰の事?」

「お帰りって……まだ朝だぜぇ?」

 魔物たちがガヤガヤ、それを見て色々喋っていて。

 ただ一人、エリーだけが……この顔をこわばらせ始めていました。

 そう。

 任務終了の暗号。

 大きな問題は発生せず、間も無く人間の街と魔物の街とで和平が結ばれる。

 そうなれば当然、自分がこうやってオークの姿で活動する必要も無く。

 ……あれ?

 どうして私、嬉しくないの?

 帰れるのに。

 人間に、戻れるのに。

 エリーは自分で自分が分からなくなります。

『帰る』でまず思い浮かべるのは、一人暮らしの寂しい部屋……のはずなのに。

 優しいオークと一緒に寝ている、あのボロい部屋を真っ先に思い浮かべてしまい。

「あ、あ、私、私、私」

「おい、エリーちゃん、大丈夫か?」

 しゃがみ込んでしまったエリーを、周囲の魔物たちが心配してくれます。

 やめて、私、人間なのよ。

 そう叫べたら、どれだけ楽だったでしょうか。

 みんな、みんな、自分が魔物だから仲良くなってくれたのです。

 今更、今更、そんな事言ったって、ずるい、ずるいだけ、そんなずるい自分が、嫌!

「嫌、いやぁああ、フゴ、フゴッ、ぁあああああああ!!!」

 頭を抱え、何もかも忘れ。

 わけがわからなくなったまま、エリーは何も考えずに走っていき。

 気づけば、気づけば、夜になっていました。

「あ、あ、ゴーツに、買い物、頼まれてたのに」

 申し訳ないと言う気持ち。

 それと同時に……嫌われてしまえば、このままいなくなれるという甘えた気持ちも出てきます。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

 日が落ちて、暗くなった街。

 薄ぼんやりとした月の光だけが、自分を照らしています。

 静かな水面を覗き込むと……

 そこには、こちらを見ているオークの顔。

 おまえは嘘つきだ、騙していたんだ、酷いやつだ。

 そういって、責めてきているかのような目。

 水面に水滴が落ち、波が立ち。

「私、私、私……」

 止まらない涙がポタポタと流れ、鼻水がこぼれ。

 完全に調子に乗っていた自分が、どこまで行っても情けなくて。

「あれあれぇ〜? そこにいるの、エリーさんじゃねぇかぁ?」

「おいおい、お一人ですかぁ?」

「あーあ、迷子だ、迷子!」

 聞き覚えのある声。

 振り返ると……

「よぉ、覚えてるかぁ? ほら、俺だよ、俺!」

「アニキを忘れるなんて、許されねぇぜぇ!」

「忘れてたら、もう一度今覚えちまえ!」

 泣きっ面に蜂、いやリザードマン。

 グラサンを外しながら、あの時のような目で……あの三人組がエリーを見ていたのでした。

 ニヤニヤと口を歪め、エリーに近づき。

「へへへ、やぁーっと見つけたぜぇ。この前のお礼、したくてなぁ!」

「ひゃあ! アニキのお礼だぞ! ただのお礼じゃねぇぞ!」

「お礼してもらえることに、感謝するんだなぁ! ヒヒヒ!」

 殺される?

 ヒヤリとした感覚が、背中に走ります。

(でも、当然なのかもしれない。こんな、こんな、クズなんて)

「ほらほら、こっちこいよ」

「アニキを待たせんじゃねぇぞ!」

「歩かないなら、オイラたちで足を持っちゃうぞ!」

 ぐい、と乱暴に腕を引っ張られ。

 何もかも絶望したエリーは、もうどうでもいいと言った様子でついていきます。

 腕を引っ張ったまま、リザードマンはどんどん歩いていき。

(あ、あれ、この前の路地裏じゃないの?)

「こら! アニキが止まってないのに止まろうとするな!」

「アニキちょっと肩痛めてるんだから、無理させんな!」

 思っていたのと違う雰囲気。

 なんと言うんでしょうか、何かが変というか。

 あの時はもっとペラペラ喋っていたのに、リザードマンは何故か何も喋らず。

 それどころか、こっちを見ようともしません。

 とはいえ、わざわざ余計な事を言うのも。

 混乱している間にも、視界はどんどん変わっていき。

 よく見る、歩き慣れた、それどころか毎日見ていた……

「……!?」

 ゴーツの店に、たどり着いたのです。

「おやっさーん、見つけましたぜ」

「アニキ、やったな!」

「やっぱりアニキはナンバーワン!」

「み、見つけたって、え?」

「おまえ、分かんねーのかよ!」

「アニキはな、ゴーツのおやっさんに言われてお前を探してたんだぞ!」

「え、え、え」

「結構あちこち案内したつもりだったが、どーこで迷子になったんだか」

 フゴ、と鼻を鳴らしながら姿を見せたのは……紛れもなく、ゴーツ。

「お、サンキュな。お前らのおかげで助かったぜ」

「いえいえ、俺が真面目になれたのもお二人のおかげだから」

「そうだそうだ! アニキの分まで幸せになりやがれ!」

「アニキの顔潰したら、ゆるさねェからな!」

「こら! 余計なこと言うんじゃねぇ!」

「わー! アニキが怒った!」

「やーいアニキ、顔真っ赤ー!」

 三人組がどこかに走っていき、残されたのは二人。

「で? どうしたんだ?」

「ご、ごめんなさい! わ、私、私」

 そっと、肩に手がのせられて。

「気にすんなって」

「ち、違うの! 私、あなたと、違うのよ!!!」

 思わずそれを跳ね除け、大声で叫び。

 行ったらどうなるか分からない、でも言わないといけない、これは、これは、自分がした、罪なのだから!

「わ、私は、オークじゃなくて、人間だから、違うから!!!」

 悲痛な声が、夜空を切り裂きました。

 ……そして、沈黙。

「やーっぱり」

「えっ」

 ところが、予想外の反応が返ってきたのです。

「エリー、オークじゃないもんな。魔物が他の魔物に化けるのはあんまりしねぇから……じゃあ、人間だわなぁ」

「えっ?」

 ゴーツは怒りもせず、鼻を鳴らして笑っています。

 逆に、エリーはポカンとした顔をして……

「あのな、エリー。結構いろんな噂話、ここで聞いたろ?」

「え、えっと、ご、ごめんなさい」

「いやいや、いいんだよ。聞こえるから。で、だ。面白い話、しようか」

「え、ええ」

「『人間が魔物になって、俺たちの街に来るらしい』って噂を聞いた数日後に、明らかに挙動不審な魔物を見つけました。さあ、どうする?」

「……」

「もしかして、怒ってるのか? もし怒ってるなら、俺も怒るぞ。お互いに騙してたなら、チャラだもんな」

「で、でも、それだけだったら、私が言った通り、遠くの田舎から……」

「あのなぁ。魔法で魔物になるのは結構な覚悟だし、それで街に飛び込むのも結構な事だ。でもな、ちゃんと魔物の動きしねぇとすぐバレるんだぜそういうの」

「え、でも、私、ちゃんと……」

「だろうなぁ、そう思ってんだろうな。俺に頼み込んだ時、床にお鼻のスタンプしちゃったろ」

「ええっと、あっ、土下座したから」

「人の家の床に鼻水つけるの行儀悪いから、オークは土下座なんてしねーの! 分かったか?」

「あ、ああ、あー……」

「噂話があった、挙動が逐一変、絶対にしない行動をする、はい! 反論は?」

「あ、ありません」

「そう言うことだ。ま、エリーが人間でもオークでも、どうでもいいんだけどな俺」

「ど、どうでもいいって!? わ、私、最初からからかわれてたの?」

「バーカ。俺の賄い、うまそうに食ってくれたろ」

「う、うん、だって、美味しかったから」

「……体臭が臭いからって臭いセリフ吐くのもあれなんだけどよ……俺の店って、こう、一個だけない物があったんだよな」

「一個だけ?」

「そう、そう。俺と一緒に、俺の好きな物を、笑顔で食べてくれる存在。欲しかった、ずうっと欲しかった。あの時、エリーはうまそうに笑いながら食ってくれたろ? それでいいんだよ、俺は」

「え、えっと」

「……あー、もう、くっそぉ、俺も下手くそだよなぁ! お前がどう思おうが、俺はお前と、一生一緒にいたいの! 分かるか?」

「わ、私だって、一生一緒にいたい、けど」

「あ、え、待って待って待って」

「ど、どうしたの?」

「もう一回言って」

「私だって、一生一緒にいたいけど……」

「本当に?」

「本当に」

「本気で?」

「本気で」

「俺、オークだぞ」

「私もオークでしょ」

「お前は人間だろ」

「今はオークだもん」

「じゃあ、人間に戻ったらどうするんだよ」

「……戻らないもん」

「え?」

「ご、ゴーツが、私と、一生一緒にいてくれるなら、私、オークがいいもん」

「ほ、本気で言ってるのか?」

「わ、私、いっつも一人だったもん! いくら仕事でお金稼いでも、友達はいないし、知り合いもいないし、仕事仲間とも別に仲良くないし、でも、ゴーツは私を助けてくれたし、いつだって真面目に私を見てくれたし、それに……」

「わ、わかったから、恥ずかしいだろ、もう」

「いいじゃない、もうお店閉まってるんでしょ!? 他に誰も……!?」

 店の窓から、にゅっと誰かの姿。

「ごめん、いるんだわ」

「エリーちゃんがいなくなったって聞いてねぇ」

「パーティ用意してたんだけど、やめてね」

「どっかの誰かさんの落としたメモ拾ったから、代わりに買い物して」

「泣きじゃくる旦那さん、慰めるの大変だったなぁ」

「ほんとほんと、自分責めすぎでしょあの二人」

「お似合い、お似合い」

「誰だー? 今、余計なことまで喋った奴!」

「ど、どういうこと?」

「その、なんだ、つまりだな。みんな、お前が好きなんだよ。必死で探して、必死に協力して」

「私、人間なのに」

「あれぇ? オークとして生きていくんだろ? じゃあ、オークだろ」

「あ」

「お、俺と、一緒に、いてくれ……るんだろ?」

「え、えっと、は、はい」

「はいじゃなくて、もっとこうさ」

「だ、大好き、です」

「愛、してくれるか?」

「愛、してます……」

「お二人さーん! 顔赤いですよー!」

「そーれ、キース! キース!」

 全く空気を読まない常連たち。

 とはいえ、迷惑をかけたのはエリーなのですから……このくらい、安いもの。

 そそのかされるままに二人は鼻を合わせた後、口を合わせ。

 一段と大きな歓声が、夜の街を賑やかにするのでした。

 そのまま全員でパーティが始められ、二人のオークはたくさんの常連さんに祝福され、もみくちゃにされ。

 深夜、シンとしずまった中。

「い、いいのか?」

「だって、私……ゴーツの、お嫁さんだもん」

「おいおい、酒飲みすぎたんじゃねぇのか」

「飲ませたくせに」

「我慢してたくせに」

「バレたら、嫌われちゃうもん」

「最初からバレバレでした」

「んもう、意地悪」

 一応いつものように二組用意しているものの、二人は一つの布団にくるまって。

「愛してるよ」

「私も」

 何度目かわからないキスをして、二人は抱きしめ合って。

「ええっと、人間の交尾はよくわからねぇけど……違ってたら、すまんな」

「いいのいいの、私、人間と交尾した事無いから」

「あれ、そうなのか? 初めてがオークになるんだぜ、それ」

「私、オークだもん」

 フゴッと不満げに鼻を鳴らし、旦那さんに鼻息を吹きかけ。

「あ、すまねぇ、そう、そうだよな」

「そうでしょ、あっ」

 股間を触られて、甘い声をあげ。

「さてと、じゃあ、お邪魔するぜ……」

「ちょ、ちょっと、慌てないでよっ、あっ、んっ♡」

「とか言っちゃって、結構もう準備できてるじゃねぇか」

 硬いナニが入り口に当たり、ドキドキしてしまい。

「そ、そうなの?」

「あ、悪い、先に言っておくと……俺、結構経験はあるからな。エリーはオークの体に慣れてないかもしれないけど、ちゃんと俺が教えてやるから」

「あ、う、うん」

 自分が初体験だからといって、あちらもそうとは限りません。

 当たり前、なのですが……急にその事実を突きつけられると、ドキッとしてしまい。

「エリー、好き、好きだぜぇ……」

 頭を撫でられ、体が、心が、弛緩して。

 緩んだ門を、男根が侵入し始めます。

「あっ、あっ、ゴーツ、ゴーツが、私、私の、中に……♡」

「おっ、け、結構、きつい、な、エリー、あっ、おっ」

「それだけ、私、あっ、んっ、ゴーツ、好き、好き、だからぁ……」

「ば、バカ、そんな直接、言うな、おっ」

 エリーが腰を動かし、入っている竿を責め。

「あっ、んっ、いい、いいぞぉ、エリー、好きだぁ、好きだぁ♡」

「ゴーツ、ゴーツ、もう、どこにも、行かない、から、あっ♡」

「あっ、ああっ、今度、また、一緒に、買い出し、行こう、行こうな、あっ、あっ、いかん、出る、出る、おっ、ォオオおっ、フゴォオ♡」

「あっ、あっ、ゴッ、フゴッ、フゴッ、フゴォオオ♡」

 お互いに溜まっていたのか……思ったよりも早く、一回戦が終わってしまい。

「あっ、あっ、ゴーツ、ねぇ、ねぇ、お願い、あるんだけど」

「おお、なんだ、なんでも、言って、見ろよ……」

「あのね、あのね」

 

 

 

「おいおい、エリーちゃん無理すんなよ! そろそろ生まれるんだろ?」

「何人? 三つ子? 四つ子?」

「休んだら、私の旦那が大変じゃない。ええっと、あなたー? 何人だったっけ?」

「六! とりあえずエリー、そのテーブル片付けたら今日はもう休んでいいぞ!」

「おー、ゴーツの旦那、一段と気合い入ってんねぇ!」

「いい奥さんもらって幸せなんでしょ、な! エリーちゃん!」

「はいはい、余計なこと言わずに食べなさいよね。冷めちゃうわよ!」

「「はーい」」

 今日も大賑わいの中、お腹の大きくなったエリーもできる限りお手伝い。

 ゴーツも気を使って休ませているのですが、すぐに手伝おうとしてしまい。

「何かあったらいけないから、今日は本当に休んでろよ」

「はい、はい!」

 エリーがウンセワッセと引っ込んでいき、その分を他の店員が頑張って。

「そういやぁゴーツ、新婚旅行は人間の街に行ったんだろ?」

「へぇ、そうなんだ? どうだった、ゴーツ」

「と言ってもなぁ、魔物の代わりに人間がいる、くらいのもんだったぜ。まずな、エリーが自分の職場に行ってな」

「あ、そうか。そう言う仕事だったんだっけ」

「報酬と退職金もらって、お世話になったからって頭下げたらエリーのやつ、人間の時の癖で下げすぎちゃって」

「まーたスタンプしちゃったの?」

「局長の禿頭に」

 ワハハ、と大笑い。

「そんで、そんで?」

「人間界の食い物とか教えてもらったな。エリーのやつ、結構詳しくってな。俺の手を引いて、あっちこっち連れて行ってくれるんだよ」

「……悪いんだけどさ、一個聞いてもいいかな」

「おう、どうした」

「エリーちゃん、大丈夫だったのかい」

「何が?」

「いや、ほら、人間だったんだろ? でも、もうオークだからさ」

「ばっかだなーオメェ! ゴーツさんの顔見りゃわかんだろ! それに第一、こうやってここで酒飲んでる俺みたいな人間がいんだろ!」

「あ、そうだったそうだった! ここにもいるわ、人間! ワハハハハ!」

「まあ、自分の家に置いてきたものを取りに行った時は流石に寂しそうだったけどな……でも、そこのおっさんの言う通り、もう魔物とか人間とか関係ないだろ? だって、人間も魔物も同じだって一番知ってるのがエリーなんだからな」

「ヒューヒュー! 憎いねぇ! もっと新婚旅行の話、聞かせろよ!」

「おう、いいぜ。あれは二日目だったかな、逆に俺が人間用の物に困った時なんだけどよ。エリーがな……」

 もちろん、大声での会話は自室でゆっくりしているエリーにも聞こえます。

 お腹の中の赤ちゃんが動いているのを感じつつ、彼女は確かに……自分の幸せを、噛み締めているのでした。

 

 

 おしまい


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