そんな些細な希望が叶わない。
いつか自分だけを見てくれる人がいると思いながらも、西日の差す部屋でのひと時を思い出してしまう
夢を見ることができないのは、儚い西日の夢を知っているから
いけ蔵
JR登戸駅へ毎週のように、通っている。付き合っている誠がいる部屋に向かうために。
秋の西日が差し込む寝室が妙に心地よく、自分も幸せの階段を確実に登っている気がした。
今まで自分に対して自信もなく、ちゃんとした恋愛をしたことが無かった。もちろん自分自身、同性が好きというセクシャリティも、同い年と違って出会いが少ない一つの理由ではある。だが、ネットの情報を鵜吞みにすると、高校時代からしっかりとお付き合いをしている人もいる。顔にモザイクをかけて、ほのぼのとした動画をネットにアップしている人たちを羨ましいという気持ちで、今日も“いいね”を行って過ごしていた。
友達といえるほどでは無いが、高校時代の同級生が学校終わりに制服デートを行っているのがとても羨ましいと思ったし、自分自身が叔母が社長を務める事務所で地下アイドルを行っていると、恋愛は行うべきでは無いと考えるし、同じグループ内でも恋愛と呼べるほどでもないかもしれないが、地下アイドル故そこまで仕事もないからこそ、こっそり自宅デートを行っているという話を聞いたことがある。しかし、甥っ子であること、そしてグループ内で最年長である慶に対して、恋人との出会い方を教えてくれる人もいなければ、恋愛の話で盛り上がっている会話内に参加させてもらっていることはあれど、話の中心にいることは無く、傍観者のような気持ちでいつも居た。年頃の男子が集まればこんなものだろう。
そんな自分が今思うととても危険な橋を渡ったのはとても驚きだ。ゲイ向けの出会い系アプリを自分のスマホに登録したのは、叔母や通信制大学に通っている自分への反抗だったのかもしれない。自分の人生もう少し彩があってもいいのではないか。アイドルとして成功しなかった時のための大学も、もし悪い人に出会ってしまったら困るから新しい出会いは禁止という不幸を前提とした“タラレバ“では、羨ましいという感情が妬ましいに変わりそうだと思って、こっそりとアプリを登録した。年齢と文章のプロフィールを入力して写真はモザイクのかかった証明写真。自分でも誰だかわからない写真。もし逆の立場だったら、自分はメッセージをしないだろうなと思いながらも、他の人のプロフィール写真を見ることで自分もこんな人と恋愛ができたら、どんなに幸せだろうかと夢を抱いていた。
ネットのお悩み相談掲示板に書き込んで、自分は高望みなのかを確認してみたが、
きっと、腐女子もしくは、他人の恋愛を温かく、見守ってくれる人が多い掲示板内なのだろう。
質問回答欄には「男女と同じように幸せな家庭に憧れているだけなんだから。昔のように村八分の時代じゃないし。外国のように法制度は進んでいないけど、日本では迫害されるほどでは無いから恋人探し頑張ってね。」と記載されていた。
自分は堂々と言える恋ではないが、きっと普通の恋を望んでいるだけ。男女でいう共働き夫婦の結婚が、自分の中での理想の同棲スタイルだと思っていた。これが自分の幸せ。cottonのAGATAとしての幸せももちろん望んでいるが、プライベートでは、こんな2人の家庭を夢見ていた。
夢を見られないのではなく、夢を知っているから避けている
“危険な橋”は常にハードルとして、形を変えた形で目の前に現れた。最初は「アプリに登録する」、次に「写真を見せて」という人に「ごめんなさい」と伝えるという形で、そして誠と出会う際には「実際に対面で会う」という行動で。
慶のプロフィールには、フリーターをしながら、通信制の大学に通っている、年上好きとコメントに記入し、体系は165センチの50キロと記載した。
アイドル衣装は、15人が在籍しているグループであるため、みんなで同じ服を着回している。15人中ステージに立つのは、担当カラーで分けられた5人と決まっている。ズボンの裾を引きずってしまうと危ないため、172センチのメンバーを標準身長として、180センチを超えるメンバーはあえて裾を折り7分丈にして履いたりし、オリジナリティをだし、標準身長よりも低いメンバーはソールの厚い靴を履いて、みんなで共有できるようにしていた。唯一標準身長に達していなく、裾を折りブカブカな状態で衣装を着ていいのは“制服組”と言われる。幼さを売りにしている中学生と高校生の3人のみである。
二十歳の慶は、やく8センチのブーツを常に履き、舞台に立っていた。事務所のホームページにも自分の身長などは記載している。そして、cottonの衣装事情は常に伝えているため。舞台で歌って踊るアイドルをしている姿が、正しい慎重でないことを公表している。
中性的な顔立ちのため、身長が低いことはさほど活動に影響はないが、靴を履いて踊るときに違和感というか劣等感を感じることが多々ある。横同線は慣れているのだが、片足をひざまずいた状態からイントロに合わせて立ち上がる際は辛いというのが本音だ。幸いな殊に5人で舞台に立ち、赤・黄色・水色の3人は立ったまま、慶が担当する藤色カラーと緑色の担当カラーが向かい合ってひざまずき、イントロから歌いだしにかけて立ち上がるのだが、緑が立ち上がり、藤色という流れで立ち上がるので、自分が立ち上がるのが最後なのが安心する。客席の視線は自然と、人数が多い4人に集中しているから、膝小僧に手を置き立ち上がって、客席に一瞬背を向け立ち上がり振り向くという動作もあまり見られていないと信じている。
アプリで知り合った人と、写真を見せ合っていなくても“リアル”してくれるのは慶が20歳だからだろう。年上の36歳だった誠は、自分は写真を見せることはできないと言っても、サングラス姿の写真を見せてくれた。自分のカードは見せずに相手のカードは見せてもらえている事が、ありがたくもあり、怖くもなり、とりあえずはファーストフードでお茶をしようと話をして、初対面の日を迎えた。
地下アイドルとしてではなく、山縣慶として幸せになるために、勇気を出して、JR登戸駅から、小田急線登戸駅出口専用改札口(北口)を目指した。出口専用改札口に一人だけ逆流する形で向かう。そのためかなり自分自身も目立った。そして後から来た誠も目立っていた。写真のイメージと特に変わりはなかった。相手はどう思っていたかは知らない。オフモードで人見知りが発令している慶と、もともと人と話すことが好きそうではない誠が「あどうも」「よろしくお願いいたします。」「ワクド(ファーストフード)向かうか」と会話とは言えない会話を行い、少し低めな声で誘導した。
意外なくらいに誠は紳士的な印象があった。社会人経験もなく、学校と地下アイドルという偏った世界で生きてきたからかも知れないが。席を確保するために2階席に向かう時に階段の後ろを歩いてくれ、1階の注文カウンターに向かう時は慶が後ろになる形で階段をエスコートしてくれた。先に注文をした慶は「以上です」というタイミングで、誠が「それと、、、」と自分が食べ分を注文し、慶の手を下げさせた。初めて食事を奢ってもらった。
もちろん、cottonの最年長として、叔母とマネージャーと3人で食事をした際に、叔母のみすずに払って貰ったことはあるが、甥っ子であったとしても「社長、本日はお話を聞いてくださった上に、ごちそうにもなりありがとうございます」と伝えていた。そして、領収書を受け取っていたので、おそらく経費だろう。
自分が、地下アイドルとしてファンの人からAGATAとして“チヤホヤ”してもらったことはあるが、山縣慶としては無かった。そのため、自分が恋愛映画の主人公にでもなっているような気分になった。約1時間の軽食をしながら過ごしながら話した事もあまり覚えていなく、自分にとって都合の良いことだけ覚えていた。
「かわいいじゃん」「身長意外と高く見えるよ」など、そして、自分は声という音声と、彼の匂いが好きなのだと感じた。対面で座っていても、成人した男二人が恋人を探すためにその場にいるのである。ほかの席に話している事柄がばれないように、お互いが前屈みになり、慶が誠に対して左耳を傾ける瞬間があった。
ふいに、目が合った時にとどめを刺された気がした。互いを恋愛対象として見ている者同士、声を聞かされるたびに下腹部に重みを感じていた。何かを自分の身体が求めている。暑い日の野外イベントの後の水分補給のように、“制服組”に気を使いながらも自分が一番先に飲みたいと感じていた時のように、ワクドという空間で、他の誰でもない自分を見てほしいと思い、そして自分が一番欲しているのだから、誰も取らないで。
その感情を見透かされたように、誠から「ここでずっと話すのも、周りに気を使うし、場所変える?」
「そうですね」
「ここら辺ほかに、しゃべりやすい所ないから、俺んちは?」
「うん」と自分自身の意思で行動しているのだが、どんどんと言葉が短いこと何なり、最後はほぼ頷くだけという形になった。階段を下り、退店客向けなのか、それとも会計を終えた客向けなのかわからないBGM化した「ありがとうございました」が脳みそを揺らし、慶は誠とともに店を出た。
自動ドアを出た後の1段の段差を降りると、どちらに向かっていいかわからなかったため足を止めた。右手側に誠が立ち、左手で慶の左側の腰に手を添え、体ごと左側に傾けられ、
「こっち」と顎を前に突き出すようにして、左側を指し、左手を離した。自然と誠が前を歩き、そろそろと慶が後をつける形でほぼ会話なく進んでいた。
ねぇ塞ぐいで!唇を唇で…
自分でも驚くぐらい、彼に体を任せるにまるで、疲れた時にベッドに吸い込まれて眠るように、誠の家のベッドの足元側に腰を掛けた。長方形のベッドで長辺ではなく、短辺側に腰を掛けることが、初対面にも関わらず顔が近くなってしまっていることに今更ながら気が付き、まるで発熱をしているかのように耳と首筋が熱くなってしまった事に動揺した。ただ、ミニマニスト風の白を基調にした部屋に、優しいグレーの寝具で揃えられていた。少しだけ生活感のあるモデルルームという感じだろうか。
少し誠の香りが強くなり、ファーストフードと違い他人の声というノイズが無くなった。音声が直に耳を通り、胸と下腹部に効いている気がする。
その音声は、初めてダンス練習で開脚を行った時のように、ワンテンポ遅れた形で、響くのだ。
少し瞬きをしながら視線を逸らす。
頭の中で、「今日は話に来ただけ、ワクドでSNSを交換しただけで充分だろう。そして、表札に“305山城”という情報を知れただけで充分じゃないか」
「一緒に過ごしたい、会話したい、でもこのままじゃ流される。離れなくはないけど」
苦肉の策で、腰をベッドから床に落とし、ベッドを背もたれにして、誠の左足側に頭を傾けた。
しっかりと一定の距離をとり、初対面で“卒業”にならない為にも、軽いとかも思われたくない。そんなことを思えば思うほど、床の我慢できる程度の冷たさが洋服越しにも伝わってくる。床に座ってからは3分も立っていないだろうでも、でも沈黙とねっとりとしながらもなぜか心地いい視線を後方に感じていた自分には無音が絶えることができず、口を開いてしまった。
「なんか、恥ずかしですね」
その言葉を言い終えるタイミングで、慶の頭に右手が、触れる。
物理的に近い左手ではなく、右手が来ることによる、視線の距離が縮まる。頭に触れたが、自然と髪をなでるようにして首筋に移動してくる。
慶の顎先が少し先に寄せられ、自然と体や頭の上部も寄せられていく。
心の中で「あ、ぁ、」「もう無理だな、流されたい、」とつぶやく。
誠の少し乾燥した唇が、右ほほに触れ、右手の時のように、唇も自然と首筋に向かって這うような形で降りてきた。
誠自身も床に降りてきて、膝をつき少しの合間向かいあう。そして、ヤンキー座りのような形になると、慶の骨盤に右手をあてる形で立ち上がった。決して、持ち上げられた訳ではない。そして、手を添えてもらい続けられた訳でもない。口で立ち上がるように命じられた訳ではないが、自然と目で命令をされているように、何も考えられずに立ち上がった。
先にポロシャツを脱いだのは誠だ、肌着のシャツを着ていなかった誠は上半身裸となり、慶が羽織っていた七分丈のネルシャツを脱がす。後ろからハグをされ再度首筋に温もりを感じる。寝室扉側の壁にベッドが廊下に沿う形で配置されており、先ほどまで座っていた、ベッドの足元は、一番出入り口に近いが、壁ドンならね、扉ドンされると廊下に出ることはできない。逃げだす気力など毛頭無いが、そんなことを考えてしまう自分の頬が火照っている気がする。先ほどまで両手で後ろからハグをされていたが、右手が慶の左わき腹に移動したタイミングで、部屋の照明が温もりのある就寝用のものに切り替わった。出入り口の近くということは当然、照明スイッチも近くにあった。
慶の下半身は、他の身体の部位よりも熱を帯びていた。夏用の薄手のズボンでは相手にバレてしまっていた。Tシャツの上から触れられていた右手が、自然とおなかをさすってくる。右わき腹と左わき腹を軽い力でスライドさせてきた。食べ過ぎてしまった時などに“満腹”と感じた時に服の上から自分で行うのとは全然違う。誠の匂いや、声という名の音声と視線、肌に唇が触れた時の、妖艶な効果音。そして、今腹部だけにも関わらず、全身の筋肉をほぐされたような気持ちで、相手の顔を見つめたいと頑張って後ろを向こうとしている自分がいる。左側の首筋がツリそうになる。やく10センチの身長差があり、おじさん体系にならないために筋トレを頑張っていると言っていた。誠の力にはかなわなかった。
ベルトのバックルが外され、ファスナーが下ろされる。誠が密着していた身体を一瞬だけ離す。軽い生地と重たいベルトがストンと足元に落ちる。
誠が慶の右側に回り込むと同時に、腹部にあった手が肩に移る。軽く押されるという表現よりも、視線と手を下に下げる動作とともに、自分の身体なのに操られているかのように自然にベッドに腰かけた。膝前にしゃがみこんできた大きな手の持ち主が、ズボンを両足首から抜き、そして靴下を脱がせる。
立ち上がった誠は慶の前に立つ。慶はTシャツとボクサーパンツをいう服装で座って、上半身裸でデニムだけの誠を眺めた。誠はサンダルを履いてワクドで過ごしていたので、もともと靴下は履いていない。自分自身の手で、自分のファスナーを下ろし、下着がチラ見える姿になった。ファスナーを下ろす前から自分とは違い、へその下へうっすらと続く黒い茂みにも気が付いていたが、何にも手入れをしていない感じがとてもエロいと感じる。太ももに筋肉があるせいか。それともデニムだからか慶の時のようにストンとズボンが落ちることは無い。手を頭の後ろに添えられ、腹部と下半身の薄手の生地の上から匂いを嗅がされる。成人向けビデオのような感じだが、どうしていいかわからずに“ぼっと”してしまった。
所詮、慶はバーチャルな映像を自分自身の処理のために見たことしかない。
この後の流れもわからない。誠が自分でデニムを脱ぎ、軽く折りたたむ。そして後ろを向き、ポロシャツの時とは違い脱ぎ捨てるのではなく、チェストにかけ、脱ぎ捨てていたポロシャツを床から拾い一緒にかけた。
振り返ると、いじめっ子のように少し口角を上げ、先ほどと同じように頭に手を回される。先ほどと同じこと。でも薄地の生地しか顔に触れることはない。温もりではなく熱がすべて伝わってくる。頭から手を離され、誠は自分でボクサーパンツを脱ぐ。自分に向けられて反りあがったモノをモノ欲しそうに見つめてしまった。誠が、右ひざがベッドの淵につける。反りあがったものが、慶の唇に触れそうになったタイミングで、慶の上半身をベッドに押し付ける。慶の右側に誠が来る。Tシャツの裾で遊びながら、直接胸に手を入れ軽く爪でこすって来る。自分でも恥ずかしい息遣いをしていると、右手でTシャツの裾を直し、「脱ぐ?」と聞いてきた。恥ずかしさで寝ながらも少し丸々形になった。
恥ずかしいはずなのに「うん」と声を漏らした。誠は何もしてこない。
ひざ下だけ出して、一緒に寝ころんでいたが、本来のベッドの就寝する位置に移動し、枕を半分だけ使い寝ころんでいる。何も言わない。見つめてくるだけ。
自分で床に立ち上がり、少しの羞恥心がまだ残っていたため、軽く扉に向かう形で誠に背を向け、ボクサーパンツを脱ぎ、しゃがんでTシャツを脱いだ。
先ほどまでベッドには布団が敷かれていたが、夏用の布団は縦に折られ、誠の下に敷かれていた。自分は何も覆うものもない状態で壁と誠の間にうつぶせで寝転がろうとした。だが、当然、いじわるそうに「脱ぐ?」と聞いてきたような誠にはバレていた。自分自身も誠に向けて自然とそそり立ったモノに手を伸ばされ、そしてその下の柔らかい袋も触られ、鎖骨にキスをされた。誠が左足を後ろに蹴り上げる形で布団を床に落とす。
まな板の鯉のような形で、慶を真ん中に寝かせ、抱き合いながら向き合った。誠が慶の足を開かせ、足の間に座ろうとする。当然隠せるものがなくなることに気が付き手と足を引き寄せ、体を横に曲げようとしたが、手は簡単に抑えられてしまった。
慶の足の間に正座して、つかんだ手を慶の足の付け根に固定し、上から力をかけた、両手が近くにあるのに隠せない。そして、自分でもびっくりするくらい、足の付け根を抑えられると、足が動かせない。肩を持ち上げもじもじする形でモジモジとしている。
「いい眺めだね」といった瞳には、ワクドで感じた紳士的なイメージは一切感じない。怖いと感じるぐらい瞳を離さない。
おそらく1分も立っていない。でも一時間以上じっとりと眺められているような気分に感じていた。その後は思い返すと恥ずかしいぐらいに、でんぐり返しを途中で止められるような体制になり、誠の誘導の元、重力に従い下がって行こうとする足を、太もも裏に自分で手を入れ支えて、すべてをさらけ出していた。
表情を特に変えることもなく、袋の付け根と蕾と周辺を触っていた。片足を立てた胡坐のような形で座っていた誠が、触っていたところに顔を近づけ、下を這わせていく。
「イヤだ。はずかしい」と声なのか、息なのかわからない音が漏れる。
舌で蕾を“開花”させられる。色んなことが初めてで、そして、普段空気に触れることのない場所が空気に触れているのが、恥ずかしい。ただ、体が火照っている感じなど、すべて相手にバレている。自然と生暖かい舌を離される。肩で息をして、照れた笑いをしてしまった。正直これだけでも初体験の自分には充分すぎるぐらいの20分だった。
だか、これで終わらないのが“大人の交わり”なのだろう。それを教えてもらった。恥ずかしさで舌を離された時に自然と体が横に向き、体を少し丸めていた。今思うとこの体制は“好きにして”と言っているようなものであった。ベッドに腰かける時のような、優しい手付きでは無い。しっかりと骨盤をつかまれ、臀部を誠に向ける体制で固定させた。自分の右手を足の隙間から回し、手で頑張って蕾を隠そうと頑張った。しかし、誠にずらされては、手を戻すという流れが、とても滑稽だったのか、耳元で「がんばっても、ずっと周りは見えてんだよ」と低音で笑われてしまった。隠す事に気をとらわれていたからこそ、右肩と鎖骨をベッドにこすりつける形になっていた為、尚のこと見やすい、見せやすい体制になっていた。
舌と指で今度は“開花”されていく。経験のある誠にはすべてバレているのであろう。経験の無いことを。成人向け動画のように激しくなく、侵入してきた指は1本から2本になり、奥に進むというよりは、上下左右に押し付けられ、空気を侵入させてくる。体が揺れているだけのはずだが、脳みそまでも揺れているような感覚が体を襲う。抜かれそうになっては戻されを繰り返されていた。だからこそ、今度も抜かれることは無いと思っていたが、
一気に抜かれた。隠したいという羞恥心などもう既に無くなっていたのだろう。体で息をしている。そして、自分の体内に誠の“モノ”を迎え入れた時に、刺激されているのは下半身の裏側のはずなのに、へそ下の下腹部にも鈍痛のようなものが響き、頭も朦朧としている。背筋にキスをされた時、角度が変わったのか、ベッドから体が“びっく”と動き、数センチは浮き上がった気がした。痙攣というには継続性が無い、単発で体全身に電流が走ったような感覚。当たり前ではあるが、誠がそれを見逃すことは無く。最初は奥へ奥へと進んでいたものが、抜けそうなギリギリまで、下がり、根元を少し残し3分の2ほど、入れを繰り返す。浅い所だけを責められていた。
奥まで入れないからこそ、誠の可動域にも余裕があるのだろう、今まで根元まで入れていない分、腰だけを抑えていた手が、様々な所を唇がなめ回すようにされ、慶の意識がふわふわと霞んでいった。
チェストの隙間を埋める存在
初めてだからだったのだろうか。まるで、オーソドックスな恋愛映画のように、壁と誠の間に寝そべり、左側の胸元から二の腕あたりを借りていた。少し辛そうな姿勢で誠が慶の頭を触る。どこかで“唇にもキスをして貰えないかな”と思っている自分がいる。
初めて伺う家で、トイレとお風呂と寝室を借りた。なかなか無い組み合わせだろう。友人宅ならお風呂と寝室は借りないだろうし、その代わり、リビングやキッチンを借りたりするのだろうか?勇気を出して聞いてみる。
「荷物少ないけど、引っ越ししたてなの?お風呂場の棚左半分開いていたね」
誠はファミリータイプ向けの家に住んでいた。ゲイの一人だとマンションを買ったほうが安いからと言っていた気がする。心のどこかで、「前一緒に住んでいた人がいたのだろう」と自分で自分に答えを投げかける。
想像通り、的中した。
「つい最近まで、6年間付き合っていた彼氏がいて、6年も一緒にいると、もう家族」と天井と壁紙の境目あたりを見ながらつぶやく。
その答えは、まるで、旅行に行くときにパッキングした時のように、脱衣所の棚の左半分、そして独立式の洗面台では右側には、身支度用のものが並ぶが、左側は一切置かれていない。余白のままであった。継続された余白が“居なくなって日が浅い、若しくは忘れないように空けている”印象を受けた慶の印象が、的を射ていた事を物語る。
髪の毛をなでられながら、一人で妄想に浸る。「きっとこの人は付き合ったら、同棲も考えてくれる人なのだろう。僕がこの余白を埋める。余白を上書き保存する恋人になるんだ」と心を温めていた。
実際に、言葉に出して恋人に立候補したい。付き合いたいといった訳ではない。言わなくても、大事な人と過ごしたこの部屋に入れてくれている事が、その答えだと思った。
レスポンスの速いホウレンソウ
JR登戸駅へ毎週のように、通っている。付き合っている誠がいる部屋に向かうために。
秋の西日が差し込む寝室が妙に心地よく、自分も幸せの階段を確実に登っている気がした。
ただ、未だに体に唇を密着させてくれることはあれど、唇同士を重ねることは無い。鼻と鼻が擦れるような距離で過ごしていても、擦れた瞬間に互いが顎を少し上げるような姿勢になれば、重なるはずなのに。なんでだ。自分の地下アイドルという仕事もありがたいことに、暇では無くなった。自分が好きなことをしていて、そして相手にも仕事がある。
相手だけが気が付いていないわけではない。自分自身忙しさを言い訳に外でのデートをしたことが無いことに気が付いた。基本的に関係性だけで見たら、定期的に体を重ねる関係であり、恋人ではないかも知れない。
「でも、6年間付き合っていた人がいる。そんなしっかりと一人を思っている人が、そんな軽い気持ちなわけない」と思っていた。思い込まないと、胸のつかえが嗚咽に変わりそうな気持ちが遅い、自然と足元を見ていた。
自分からデートの誘いをすれば変わるかも知れない。勇気を出そう。男が2人歩いていても“チーム男子”という言葉が少し前に流行った。遊園地などデートで行くような所に男だけのグループで行くことを指す言葉だそうだ。チーム男子は本気でキャラクターやアトラクションを楽しみたい人たちだけで行くそうだ。だからこそ女性がいると集中できないから、男だけで行動すると、情報番組で紹介されていた。男同士でテーマパークに行っては行けないなどという決まりはない。嗚咽じゃなくて勇気を出す。そう心に決めた。
いつものように、男二人で6畳ぐらいの部屋にこもり、息を荒らす。自然と火照り汗が出そうなぐらいになる。そして、ふたりしてシャワーを浴び、自然と横になる。同じ方向を向くのではなく、お互いが真逆の方向を見つめている。おそらく誠の眼には寝室の壁か天井が見えるだろう。自分は誠の右側面の身体と薄手のカーテンが引かれている窓と、チェストの角が映る。
直接目を見る勇気無かった。情けない。
でも言葉は自然と出た。トイレの鏡で口パクでの練習をしたのだから。
「今度さ、デートに千葉県のテーマーパーク行こうよ」
「え、俺並ぶの嫌い。山梨の遊園地なら、まぁ考えてもいいけど」
「僕、年に2回は行くから、楽しく回れる自信あるよ」と笑顔で、胸に向かって笑声を意識してぶつけた。そして、喋る勇気が無くなってしまったので、彼の眼を見つめた。
すっと起き上がると、換気ということで窓を開けた。少し自分よりも体温が高いであろう誠が暑がるのはいつもの事だ。しかし今自分は何も身に着けていない。自宅の洗濯機で洗えるぐらいの薄さの寝具をかけているだけだ。体温と反比例するように、どこか目が冷たかった。もう瞳と呼ぶには感情がこもっていない気がした。
うすうす気が付いていた。でもまだ初めての幸せを掴んでいたい。すがりつきたい。
自然と服を着て、玄関で見送ってもらう。せめて、この薄手のトレンチコートを着るまでは、着るまでなんて贅沢を言わない。肩に羽織るまでは。待っていてほしかった。共同廊下の手すりに手をかけ、かかとをしっかりとブーツに入れる。廊下に鞄を置きその上にトレンチコートを重ねる。手すりに手をかけ、閉まりかけの扉を見つめる。
“重いんだよ”というつぶやきを空耳と思いたかったが、小さなつぶやきは、21時過ぎの廊下では遮るものが一切なく、クリアに聞こえた。電車内や居酒屋前の騒音を少しここに分けて欲しい。
立川駅に向かう車内。住宅地を眺めながら、スマホを眺める。なんの通知もない。
本当にテーマパークが嫌いな人に対して、デートの誘いをしたなら謝罪しなければいけないが、そんな心の余裕はなかった。“僕って恋人なのそれともセフレなの?”とド直球なメッセージを送った。
今日だけではない、「ジムに行くから」「友達が来るから」「疲れているから」とマンションのエントランスで、インターフォン越しで帰されたことが幾度かあったことを思い出した。少しだけでも顔をみたい。リビングでお茶だけでもいいのにと心から願ったことを思い出した。
紙飛行機のボタンを押して2分後、カタカナ3文字の返事が来た。一応語尾に“かな”が付いていたが疑問形ではなく。話し言葉としての確定事項なのだろう。
こんなにも早いレスポンスは悲しすぎる。初めてのことで夢を見ていた。夢を見せてもらっただけでも感謝しなければいけないのかも知れないが、コンタクトが浮く感じがした。仕事以外でコンタクトをしたことなど今までなかった。
幸せの青い鳥は現実を届けてくれた
通信制大学で社会福祉士の資格を取る場合も、約1か月の実習がある。慶の学校では3年次または4年次に行くことになるのだが、早めに行きたいと考えていた為、地下アイドルとは言え、キツキツの時間割を組み3年次に行くことができた。
1年前以降実際の恋愛はしていなかったが、BLブームがSNSを中心に人気を集めていた。プライベートでも青い鳥のSNSを利用していた。慶は実習レポートの合間にドラマのオフショットや実際のゲイカップルの日常を覗き見て、“すてきだな。次は自分”と心に言い聞かせ、幸せのおすそ分けを貰っていた。
去年よりも1年成長した自分。しっかりと考えないとアイドルとしてのピリオドが来てしまう不安が大きかった。そんなセンチメンタルな気分になっている中、“あなたへのオススメ”で出てきたアイコンをクリックして、見てみる。幸せそうな年の差ゲイカップルの料理をメインにしたSNSお気に入り登録をして、時間ができた時に遡って古いものから見ていた。白を基調としたリビング。そして寝室のベッドの上でのツーショット。顔にはスタンプタイプのモザイクがかかっていて、誰かなんてわからない。でも心が揺れていく。
“いいね”が増えていくと、スタンプからモザイク。そして多少フィルターのかかった写真に変わっていた。大阪のテーマパークのキャラクターの帽子をかぶった姿。見間違えるはずがない。そして、未練たらたらで残しておいた、連絡先のアイコンを見てみる。メッセージこそは消去したが、友達一覧から連絡先そのものを消去することは出来なかった。幸か不幸か、しっかりとそのアイコン写真は帽子をかぶった同じ写真であった。千鳥柄のジャケット若しくはコートに、ワインレッドのタートルネック紛れもなく同じ写真である。
お相手のことを“ひよこ君”と呼んでいた。年齢は19歳の時に出会っているらしい。そして、「“彼っぴ”を迎えに羽田に、北海道から来てくれる」「釧路駅から釧路空港まではバスで50分ぐらいかかるらしい」などのツイートから、おそらく北海道から引っ越してきたこと。そして引っ越してきた日付は、昨年最後に登戸を訪れた時期と数日しか違わない。
百歩譲って、僕と関係があったときに付き合っていなかった可能性もゼロではないが、だとすると、数日で付き合い、釧路から神奈川県に引っ越してきたことになる。
そんなことはいくら19歳という、都会に憧れる年頃であったとしてもできないだろう。
自分は相手のいない時間に、家に呼ばれていたのであろう。
こんなにも人を好きになれるなんて
不思議なくらいに、誠を憎む感情があまり出てこなかった。テーマパークが苦手と言っていた人をテーマパークに行かせ、そして連絡先のアイコンを、高級車の前側ライトから、お茶目な帽子をかぶった自撮りに変えされるほどの魅力が、ひよこ君にはあるのだろう。二人で料理を作っている様子など、SNSというフィルターを通したお陰か、それも含めて面白いと思うと感じていた。
唯一思うと感じたことといえば、短い間とは言えマットレスの上で汗ばむことをしていた事は紛れもない事実である。「マットレス変えてあげたのかな?」というような、あくまでも誠とひよこ君の生活をのぞき込んでいる、空気のような存在として心に思っていた。
もし、自分にひよこ君ほど人を変える実力があったら、こんなにもほほえましい生活が待っていたのか、いや、もう既に余白を埋める存在は決まっていたからこそ、空いていたままにしていたんだなと痛感した。そして、こんなにも人を好きになれるなんて。幸せなことなんだろう。
西日の差し込む部屋の歴史
慶もいよいよ卒業を迎える年を迎えた。社会福祉士の国家試験が控えているため、1月と2月上旬休みを貰えるバイトを探して、デイサービスを選んだ。
意外にも慶は人並みに運転ができる。ハイエースのような大きな車は運転することが無いが、軽自動車でお客様の送迎を行うこともある。駐車所の関係もあるのだが、西日に向かってバックをして駐車をするときに、彼の部屋を思い出すことがある。
秋の西日が差し込むあの部屋を、儚い西日の夢を見ていたことを。