駄菓子屋あんらく堂 NEOクガネ炎上篇Q 作:オラニエ公ジャン・バルジャン
原作:ファイナルファンタジー14
タグ:R-18 R-15 オリ主 残酷な描写 アンチ・ヘイト 転生
炎上篇序、破は私のXアカウントにて投稿しておりますのでそちらを参照下さい。
それは…正に日が落ちる寸前だったと言って良い。
ブリテオンの外交用の高速船がNEOクガネの港に入ってきた。
その港から降りた人物は大使館より来た馬車に飛び乗ると、その馬車は猛スピードで大使館に向かって突っ走った。
馬車が大使館に着くと、その人物は飛び降りた。
大使館職員『フォード伯、お帰りなさいませ。一体何故こんなに慌てて…。』
フォード伯『挨拶はいい、レオンクール卿は⁉︎』
大使館職員『はい、応接室に。』
フォード伯『分かった、私たちの話が終わるまで全職員をここから出すな!』
大使館職員『はっ…はっ!』
フォード伯は大股の早歩きで大使館をドスドスと歩く。
応接室に着くと顔に絆創膏を貼ったタジムニウスが待っていた。
二人は軽く挨拶を交わすと、フォードはタジムニウスに傷の原因を聞いた。
タジムニウスはレンドリン子爵の爆殺事件や六道党の話をフォードにした。
フォードは話す度に青い顔になったので、タジムニウスは堪らず問い質した。
タジムニウス『卿はさっきからどうしたのだ、変だぞ。五十を前にした男が少しは落ち着いたら如何か。』
フォード『落ち着いてられんのだ‼︎今話そうと考えていた一大事に関係があるのかも知れんのだぞ‼︎』
タジムニウス『…何が起きたのだ…?』
フォードは一通の手紙を渡すとタジムニウスは中身を確認した。
それは電文だった。
大アジム藩国、ドマヲ影響下二治メケリ、第三皇子オズク、兵大イニ挙ゲ、クガネ二迫リタリ。
電文の中身を見たタジムニウスはよろめいた。
幾ら死にかけとはいえ、大努馬帝国は世界帝国だ。
極東オサード一園の大帝国だ、その帝国がアジムステップの遊牧民に従属した…?
信じ難い、信じたくない。
だが知らせはドマにおけるブリテオンの植民都市ダレンから来ている。
つまり泣こうが喚こうがこれは真実なのだ。
フォード『まぁ、完全に従属したわけではなく影響下にあると言った状況だ。オズクはドマのアジムステップ側に広がる公爵領の二つを征服し、二公を治る有力者になった。』
タジムニウス『その第三王子がここに来る…。だが彼らは海軍を持っていないばかりか上陸戦すらやった事が無い筈。』
フォード『そうだ、だがドマを影響下に置いたからな。ドマは奴らのために武装輸送艦や輸送船、更にオンボロのジャンク船の仮設砲艦と言った僅かに残った海軍力を根こそぎ集めている。奴らは本気だ。』
タジムニウス『だが何故ここなのだ、奴らは手当たり次第破壊と殺戮を行う、今更NEOクガネの富に惹かれたとは考え難い。』
フォード『それなのだがな…。』
そう言いながらフォードは懐から紙を取り出した。
その紙にはこう書かれていた。
新世界秩序
タジムニウスの顔は真っ青になった。
フォード『この紙がドマ中にばら撒かれた。そしてあっという間にドマ中から奴らの軍勢に合流しようとしているドマ人が大勢現れた。奴等はドマに用意させた武具を装備し、戦闘訓練を行いながら着実に海岸に向かっている。本国は奴らの目的は破壊や掠奪ではなく…。』
タジムニウス『聖戦…神のための…信仰の為の戦いだと言っているのか…?六道党、そこまで強大なのか…?』
フォード『六道党の話を聞いた時は驚いたぞ…まさかこの地でも活動しているとはな。』
タジムニウス『一連の事が無関係じゃ無いとしたら…私は今直ぐ館に戻って全騎士団員に戦闘準備をさせる。』
フォード『私は直ぐにクガネ城にこの事を報せに行く。奴らが来るのは後ニヶ月程だ、それまでにどうにか…外交での決着を図りたい。』
タジムニウス『ああ、NEOクガネ、そしてヒンガシはまだ完全な西洋式軍隊を持っていない。奴らとここの連中にそこまで開きがあるわけじゃ無いが数と練度が違い過ぎる、勝ち目がない。戦にしたら…正に滅びの始まりだ…。』
[NEOクガネ城将軍の間]
ブリテオン駐クガネ大使フォード伯から齎された急報はNEOクガネの役人達を恐怖に叩き落とした。
先程の爆破事件と云い、ブリテオンの外交船が手続き無しの突然の入港と云い彼らにとって嬉しくもない知らせが続く中、遂に最悪の知らせが届いたのだ。
二ヶ月後、大陸より破壊と殺戮の化身が神の為、信仰の為と攻め込んでくるのだ。
ガボウサイは直ちにヒンガシに緊急通信を送る様に指図し、カムロザエモンは真青誠組に住人の退去、避難誘導の準備を指図した。
後は戦うか、降伏するかである。
敵はおそらくクガネだけではなく、ヒンガシにまで迫るだろう。
事は極東全体を巻き込んだと言ってもいい…役人の半分はヒンガシと連合し、夷狄を討ち払わんと言ったが、残りは勝ち目のない戦いに降伏を宣言した。
ガボウサイは将軍に声高に降伏を薦めた。
勝ち目のない戦いで有る事は疑いようがない、此処は一時の屈辱に耐え、捲土重来を図るべきと。
それに対しカムロザエモンは反論…というより外交での決着を付けるべきと唱えた。
その一時の屈辱はいつまで続くのか、そもそも耐える時間すら与えられるのか?大勢の民草が奴隷になるだけでは済まないばかりか、ヒンガシからは裏切り者として我々は捉えられる。
事と次第によっては怒りと恨みの矛先がオズクとヒンガシの大幕府双方から向けられる事になる。寧ろ戦にしないことが肝要ではないか?もしくは各国に仲裁を取り付けるべきだと。
彼らは文明国の様な政治思考も無いだろうが世界全てを一度に相手にする様な無思無慮な事はすまいとも言った。
カムロザエモンはフォードにブリテオンの動向を問うた。
フォードは、ブリテオンとしては国境要塞ゼダンの長城を建築中とはいえ、比較的手隙の第三軍団を即座に南部の港町への移動準備を始めており、即座に援軍として差し向け、到着後レオンクール伯の指揮の元、共に戦う用意がある事を伝えた。
これはブリテオンは大アジム藩国との停戦期間を破ってでもNEOクガネの味方をするつもりである事を示している。
強力な援軍の到来、主戦派の気勢は増し、今こそ戦いの時と息巻いた。
だがそこにガボウサイは反論を加えた。
その援軍が来るのは遥か彼方西方、軍団クラスになればここまで来るためには飛行艦のみで構成された艦隊を以てしても一月は掛かる、然も即座に出撃可能ではなく出撃準備中である事を踏まえると更に一月は掛かる、とても敵が攻めてくるまでに間に合うと思えない。
更に言えば信仰上の理由で攻めてくる相手が交渉に応じる筈が無い、彼らがここに来てする事は全て神の名の下に赦される行為である。
何をしでかすか分かったもんじゃない、致し方ない犠牲以上の犠牲を払う必要は何処にもない、速やかに降伏すべきと。
これには主戦派の役人達も黙り込んでしまった、カムロザエモンも下手に口を開く事は自身を危うくしかねないと察し苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。
沈黙が広間に流れた…がそれは直ぐに打ち破られた。
嫡男ノブシゲが否と唱えたのだ。
ノブシゲ『降伏したとしても、我々には何が残るのか?命か?明日を生きる糧か?名誉か?全て失う、男どもは根こそぎ殺されるか奴隷にされ、女子供は一人残らず侵略者の子を孕ませられるだろう。彼奴等はそうやって恐怖の帝国を拡大してきたじゃないか。そんな目にあった我々が果たして捲土重来を図れるか?無辜の民草を彼奴等の慰み物として捧げ、彼奴等の家畜の様に野晒しにされて雨風に打たれる事が果たして生きていると言えるのか?我ら武士が何の為に誇りを持って戦ってきたのか?先祖ズイコウが何を以ってこの地に国を興したか?
この地に住まう民草を守り、夷狄を打払し誉という武士の名誉があったからではないのか?その武士の末裔たる我らが何故戦わずして降伏を選べる?我らの背には常に民草が居るのだぞ!』
ノブシゲの言葉に一同は口を閉じ、カムロザエモンは粗削りなれど筋は通ると頷いていた。
我らは何ぞや?と問われたのだ。
これには昼行燈の彼らも自らを顧みなければならないと思ったのだろう。
そしてこの空気を尤も危うい物と捉えたのはガボウサイだった。
ガボウサイ『事は過去とは比べ物になりませぬぞ若!若の言を取るならば我らの面子で戦を始める事こそ民草を死に追いやる行為!先祖の栄光に浸る小僧の出る幕では無い!誰ぞ若君をお連れしろ!若君は乱心された‼︎』
だが役人達は顔を見合わせて誰も動かない。
ガボウサイ『聞こえなかったか?ワシが申しておるのだぞ‼︎』
もはやこの国の権力の大半は握っている男が凄みを利かせてくれば逆らう者は居ない。
ノブシゲは役人達に抑えられ部屋から追い出されそうになった。
ノブシゲ『離さぬか無礼者‼︎父上‼︎父上はこれで良いのですか?父上‼︎‼︎』
将軍は苦しそうな顔を浮かべ瞼を閉じるだけだった…。
フォード伯は心中で『ここに味方する価値は無いな…。だが約定には従わねば…いっそブリテオン本国が何処ぞと戦争になってくれた方がいいかも知れん。そうすれば近衛騎士団も我等も引き上げねばならぬからな。』と吐き捨てる様に思っていた。
だが後にフォード伯はこの考えを抱いた事を後悔する事になる。
口には出さずとも、嘘から出た誠と云う物は確かに実在するのだ。
【クガネ城下町】
ノブシゲが軟禁されてから翌日、金貸し屋哀振の丁稚の双子の兄妹ハルとアルが駄菓子屋あんらく堂に足を運んでいた。
だがあんらく堂の戸は閉じていて、人の気配もない。
アル『お兄ちゃん、なんか変じゃ無い?』
ハル『師匠が居ない…でもどうして…うん?』
戸に設けられた郵便受けに一枚の紙が置いてあった。
その紙は白紙だったが仄かに油の様な香りがしていた。
その香りは兄妹にとって馴染み深い物だ。
忍びと言われる彼らが使う特有の油の香りだ。
兄妹は互いを見やり頷くと物陰で火を起こし、その紙を火に炙った。
そして浮き出てくる文字にはシキの筆跡でこう書いてあった。
『キシダンニユケ』
ハル『騎士団…タジムニウスさんの所で良いのかな?』
アル『そこに師匠がいるのかな?』
ハル『分からないけど、この油の匂いといい、本当につい最近書かれた物なのは間違いない。兎に角行ってみよう!』
二人は街を直走り騎士団の館まで辿り着いた。
二人は館中の物々しい雰囲気に驚いた。
騎士団全員が鎧を磨いたり、剣を研いだり、銃の弾を込めたり、弓の弦を張っていたのだ。
二人が門の所に突っ立っているのを見つけたオブライアンが手を振りながら走ってきた。
オブライエンも神父装束に籠手やソルレットを着けた出立ちだった。
オブライエン『二人ともよくぞいらっしゃいましたね、して今日は何のご用ですかな?』
ハル『こんにちは神父様、タジムニウスさんはいらっしゃいますか?』
オブライエン『総長に御用ですか、部屋に居られると思いますよ、ささ、御案内しますので付いてきて下さい。』
オブライエンに連れられ、二人は総長タジムニウスの部屋に通された。
部屋に入るとタジムニウスは大剣を磨いていた最中だった。
オブライエン『総長、ハルさんとアルさんがお見えになりました。』
タジムニウス『やぁ、二人とも。私に何か用かな?…ひょっとして返した金額が足らんかった…?』
タジムニウスは気さくに二人に挨拶をすると二人はあんらく堂に有った手紙を見せて事の次第を話した。
タジムニウスは顎に手をやると、机に向かい棚の中に入れてあった紙を取り出した。
タジムニウス『実は今朝、この手紙が館に届いたんだ、差出人、中身、共に白紙。この近くに住んでいる少年が駄賃を貰って代わりに届けてくれたそうなんだが、誰だか知らんそうだ。』
ハル『多分同じ物だと思います、火を貸して貰えますか?』
タジムニウスは、懐からマッチを取り出すと、火を点けて紙を炙った。
浮き上がった文字には『レオンクールコウ、ダイニハトバニテ、マツ、ヒトリデシキュウ、コラレタシ。』
タジムニウスはフッと笑った。
タジムニウス『果し合いでもするのかな?』
兄妹は驚いていた、今に至るまでの話をしてもタジムニウスは驚かないのだ、二人のことは兎も角、シキが裏で何をしているかも知っている様な素振りをしていたからだ。
そう言えばこの異人はこの国に来てから間も無く謎の襲撃者に襲われて大立ち回りを繰り広げたと云うが…まさか?
タジムニウス『まぁ、呼ばれたからには応じないとね、だがその前にもう一件客が来るんだ。』
そういうと、今度は別の騎士が客を連れてきた。
連れてこられた人物はララフェル族の20代から30代ほどの男だ。
肩にリスを乗せ、手には黒いケースを持っていた。
?『おっ、ギンのとこのハルとアルじゃねぇか?』
アル『オダさんだ、こんな所で何してんの?』
オダ『こっちの台詞だ、俺は仕事をしに来たんだよ、ここのお殿様は色々贔屓にして貰ってるからな。』
タジムニウス『職人殿、頼んでいた物を届けに来てくれたのかな?』
オダ『苦労したぞ?』
オダが開けたケースの中身は大型のリボルバー拳銃だ。
パーカッション式の古いリボルバーだが、シリンダーは薬莢式になっているし、長さも延長され、大型化している。
タジムニウス『おお、そうか。これが私の新しい銃か。』
オダ『ドラグーン薬莢式改造モデルをベースにした対人対魔獣用拳銃、通称デスシルバー。最新式のロングタイプ弾丸を使う都合上反動が大きいから訓練してない人間はまず使えない。装填方式はシリンダーに弾を前から込めて、後ろに雷管をつける従来の方法ではなく、メンテナンス用の中折れ機構をそのまま使って装填してもらう形にした、中折れ式リボルバーにしては少し大きいがアンタなら問題無いだろう。装填レバーはそのまま重心を重くする為の重りとして残しておいた、多少は反動での銃口の跳ね上がりを抑える手助けをしてくれると思う。全長と反動、あと重量以外は今まで通りのスペックだが、正に使い慣れた玄人仕様だ。』
タジムニウス『弾丸は?』
オダ『無煙火薬式ロングブリテオンマグナムβ。さっきも言ったが最新式だ。』
タジムニウス『弾殻は?』
オダ『準ブリテオン銀加工弾殻。』
タジムニウス『して弾頭は?』
オダ『炸裂式。』
タジムニウス『素晴らしい…。パーフェクトだ、ガンスミス(銃職人)。』
オダ『感謝の極み。』
ハルとアルは何を言ってるのかまるっきり分かってなかったが、銃を使う人間にしか分からない世界なのだろうと思った。
タジムニウス『コイツを喰らって、立っている事が出来る生き物を探す方が難しいな。』
タジムニウスはリボルバーを手でガンスピンさせると構えた。
オダ『重量が増えた分多少違和感を感じるとは思うが安定性はその分上がっている、精度も上がるようにライフリングも削った。射撃場での射撃なら1番遠い的も狙えるだろう。』
タジムニウスはホルスターに銃をしまうと、懐から小袋を取り出し、オダに渡した。
オダが中身を取り出すと、ブリテオンの金貨であるデナリウス金貨が三十枚入っていた。
一枚二万ギルなので報酬六十万ギルである。
オダ『毎度。』
タジムニウス『さて、向かうか。三人ともご苦労だった。』
オブライエン『向かわれるので?』
タジムニウス『礼儀に則った呼び出しだ。応えぬ訳にはいかないよ。』
タジムニウスは騎士団の納屋で馬を一頭用意させると跨った。
タジムニウス『ジャンヌには上手く取り繕ってくれ、バレれば私も君も拳骨じゃ済まないぞ。』
オブライエン『そう言うなら早く帰ってくる事です。』
タジムニウスはフッと微笑すると、馬に拍車を入れて駆けていった。
オブライエン『女神と共に在らん事を…』
【NEOクガネ第二波止場】
タジムニウスは波止場に着くと、人気の無い倉庫に向かった。
タジムニウス『こう言うことは人気の無いところでする事だ。』
と、誰かに言う様に独り言を呟きながら倉庫に入った。
明かりも点いていない真っ暗闇だ、唯一の光は扉の外からの光だけ。
タジムニウスは敢えて倉庫の扉を閉めて完全な闇を作った。
そして佩剣ライアンクローを抜刀すると、剣に纏っているエーテルの青い光が倉庫を照らした。
タジムニウス『私だ、タジムニウスだ。ウラメシ屋のシキと灰色の獅子として話そうじゃ無いか?』
暗闇の中には確かに気配がある。
ひた…ひた…と足音がする、素足だ。
闇からする声はタジムニウスに問うた。
シキ『あんたは本当にタジムニウス・レオンクールなのか?』
タジムニウス『質問が解せんな、私が二人も三人もいるわけ無かろう。』
シキ『それじゃあ答えられるな、アンタはウチの店の近所のガキどもになんて言われてるか?』
タジムニウス『妖怪大人買い…だろ?もう流石に大人気無さすぎるからそろそろその名は返上しようかと思うよ。』
タジムニウスがそういうと、倉庫の中に明かりが灯った。
カツドン『どうやら本人らしいな。』
タジムニウスは剣を収めながら今度は彼らウラメシ屋に問うた。
タジムニウス『何故私をここに呼び出したのだ?呼び出し方といい、今の問答といい、変だぞ?』
ウラメシ屋達は互いの顔を見合わせる、その姿は正にイタズラを白状する子供のようだ。
シキ『アンタ、この前部下を失ったろ?』
タジムニウス『部下?何の話だ?』
表向きは街中に潜入させていた騎士達はヒンガシからの移民という事になっている。
だが彼らは騎士と言った、何故彼らがそのことを知っているのかとタジムニウスは訝しんだ。
シキ『あの騎士達をヤったのは俺達なんだ。』
タジムニウス『何…?』
タジムニウスの手が剣の柄に触れる。
シキ『だが、誤解しないで欲しい。俺達はアンタの仲間だと知っててやったわけじゃ無い。俺達はあの場にいたのはヒンガシから流れてきた詐欺師の一団だと聞かされて居たんだ。』
カツドン『依頼主はヒンガシから来た女でそいつらのせいで家も仕事も家族も失ったと言って俺たちに仕事を依頼してきたんだ。…そして俺達は仕事を果たしたが、その直後にアンタらの正体に気が付いたんだ?』
タジムニウス『その話を聞いて本当に信じると思うか?』
シキ『難しいだろうな、だが最後まで話を聞いてくれ。俺たちはその後依頼主の元に向かった…だが依頼主は俺たちの姿をみるなりに笑い出したんだ…そして。』
タジムニウスは四人の顔が青ざめたのを感じた…。
何かあったのだ、その正体は今明かされようとしている。
シキ『そいつの体は歪な光を放ちながら膨れ上がったんだ、事が尋常じゃないと察した俺達はその依頼主の家を出た、その瞬間女の体は爆発したんだ。』
タジムニウス『気味の悪い話だ。』
カツドン『ああ、その後俺たちは焼け跡からこんなものを見つけたわけだ。』
カツドンが懐から取り出したのは少し焦げた紙だ。
その紙には、もううんざりするほど見たあの忌々しい五文字の漢字の言葉だ。
それを見たタジムニウスはその場で踏み下ろし叫ぶ。
タジムニウス『おのれ‼︎何処まで私をコケにすれば気が済むのだ六道党‼︎‼︎今に見ていろ、信者全員の首を王と我が家名に誓って、私自ら捻じ切ってやるぞ‼︎‼︎‼︎』
さてウラメシ屋達は目の前の青年が歳不相応な事を曰い、怒り散らす姿に少し引けたが、タジムニウスが少しずつ息を整えながら落ち着くのを待っていた。
タジムニウス『アンタらに騎士達を殺すように仕向けたのは六道党なら、その情報を洩らしたのはレンドリン子爵が死の直前に話した大使館内の内通者だ…。なんて事だ周りは本当に敵だらけだ。』
ジェピ『六道党の情報は、裏の世界でも殆ど出回る事がない、正に虚無の存在だ。』
ロハン『どっちにしても舐め腐った奴らだって事には変わりねぇよ…ここまでコケにされた以上落とし前の一つや二つはくれてやらないとな!』
タジムニウス『同感だ、だが先ずは諸君ら四人が追われる事の内容にしないとな、遅かれ早かれ君らに容疑が降り掛かる前にな。』
と言い終わった瞬間だった。
港から悲鳴と喧騒が聞こえてくる、そして漂う血の匂い。
戦の匂いだ、それも一方的な殺戮の匂いだ。
シキ『なんだ、この気配は…⁉︎』
カツドン『港の方だぞ…まさか⁉︎』
タジムニウス『いや、流石にあの蛮族(アジム藩国)でもそんなすぐに来られない、きっと別の類だ。』
ロハン『兎も角出ようぜ‼︎』
だが彼らが出る前に倉庫の壁を突き破ってきた者が現れた。
白い大きな体をした一件ウサギのような化け物だ。
だが口はまるで牙が生えてるように刺々しくなっていてその口の周りには血で滴り、両手はまるで刀の様な爪と泡立て器の様な刃物が生えていた。
間違いなく自然摂理の中で生まれた魔物では無い。
そして…その五本の爪にはそれぞれ人間の死体が突き刺さっている。
魔物は五人の目の前で串焼きを食べる様に死体を平らげてみせた。
ジェピ『おい…何だよあれ…?』
ロハン『俺が知るか!』
タジムニウス『一つだけ言える事が有るとすれば、奴を殺さないと我らが喰われちまう。』
魔物は呻き声を挙げながら迫ってくる。
シキ『やるしかねぇ』
ウラメシ屋と騎士は其々獲物を構える。
先ず先に行動したのはタジムニウスだ、新調したリボルバーを放つ。
命中した左腕は肩の付け根から破裂した様な音を立てて腕は消し飛んだ。
タジムニウス『流石の威力だな、そして奴は回復しない、一級品の魔法生物というわけでは無さそうだな…諸君!コイツは見てくれだけだ、十分殺せるぞ!』
…余計な事を言わなければいいのに、そう言った瞬間ゾロゾロと魔物が入ってきて、この場にいる魔物は10体になった。
身長2〜3Mの魔物が10体もこの閉鎖された空間に居たら先ず絶望的である。
カツドン『おい、増えたぞ。』
ロハン『おまえ、マジか…。』
タジムニウス『…でぇじょぶだ!全員ぶっ殺せばゼロになる!』
ジェピ『こう言うのはな余計な事言わなきゃ平和に済むんだよ‼︎‼︎』
こんな修羅場に憎まれ口叩けるぐらいなのだから…そうこの五人にとっては余裕なのだ。
ロハンは何処で手に入れたのか西洋式散弾銃を取り出すと魔物に向けてぶっ放した。
強力な散弾を喰らった魔物は吹っ飛ぶ、吹っ飛んだ魔物にジェピが槍を突き立てとどめを刺す。
カツドンは魔物の大振りな攻撃を魔物の足元に滑り込み、刃状の爪が生えた腕を引きちぎると、別の魔物に向かって放り投げる。
放り投げられた腕は魔物に突き刺さり、二体は断末魔を挙げる。
シキは金平糖と呼ばれる小型爆弾を投げ煙幕を展開した。
喰い殺すべき対象が消えた魔物は煙の中見渡すが見つからない。
その一方で煙に紛れたシキは一体ずつ魔物の急所を短刀で貫き、仕留めた。
そしてタジムニウスは片手剣で魔物を攻撃をいなしながら先ず一体の首を跳ね飛ばし、その背後にいたもう一体の脳天目掛けてリボルバーを放つ。
首を切り落とされ、頭蓋を吹き飛ばされた魔物は倒れる。
かくして10体の魔物は倒れ、霧散した。
タジムニウス『いや〜何とか終わった、どうにかなるもんだね〜。』
シキ・カツドン・ロハン・ジェピ(この大食いおっちょこちょい男、いつか覚えてろよ…。)
五人は倉庫を出て港に出た、どうやらこの辺りは魔物は居ないらしい、そして同時に運悪く今日ここで仕事していた者達は全員食い殺されたか斬り殺されたかで死体になっていた。
タジムニウス『街の方から来た様だな…。』
シキ『何だって…まずいぞ!』
カツドン『俺の娘達が危ない‼︎』
ロハン『今日はクガネは冬の祭りだ、大勢の人間が街中に出てくる。』
ジェピ『って事は…。』
タジムニウス『殺戮はとうに始まっていると思ったほうがいいな。』
【NEOクガネ城下町】
話は少し遡る…。
クガネの街は冬の祭りで賑やかになっていた…いや普段から賑やかな街だからこの場合一層と言ったほうが妥当か?
行き交う人々は笑顔であり、皆で盆を踊り、出店の食べ物の芳しい香りが街を充満していた。
ティヴォリ『さぁ、羅雅摩富院特製のパイナップルジュースだ!後、ラムも出すぞ‼︎』
褐色の肌をしたアウラ族の男が営む出店は、南国の音楽を流し、フルーツジュースや酒を提供していた。
そこに今度は白色の肌をしたアウラ族の少女…いや女性が訪れた。
ディワリ『ウニャニャ〜ティヴォリさんジュース一つ、ちょ〜うだい!』
アウラ族の女性はギルをカウンターに置くと、店主は挨拶しながらギルを受け取った。
ティヴォリ『HEY!ディワリじゃねぇか。そっちは店やってないのかい?』
ディワリ『だってこんな冬にかき氷なんて出したらみんな風邪引いちゃうもん。ニャ〜早く夏になれ〜!』
とこんな調子な会話が繰り広げられている、また別の方に目を向ければとある夫婦が街中を歩いていた。
メフィ『祭りか…人混みはやっぱり好かないな…。』
九十九尾『すまない、私が久しぶりに夫婦水入らずで出掛けたいと行ったばっかりに。』
黒毛のヴィエラ族の女は慌てて訂正した。
メフィ『ち、違うんだ!僕は…人の多い所が苦手なだけで…寧ろ君と出掛けられて…僕は…嬉しい…。』
素直になりきれない妻を愛おしく思ったのかアウラ族の夫は妻の肩を抱き寄せながらもう少し見ていこうと歩き出した。
街行く人々の顔に一切の曇りは無かった。
年が明けたばかりで忙しない時期の筈だがそんなのお構い無しだ。
後もう少しで春が来る、その前祝いと言わんばかりだ。
さて別の所では金貸し屋哀振の店主銀と従業員の杏子、そしてハルとアルが祭りに来ていた。
銀『本当に今日は賑やかやな〜。』
アル『あっ、お父さん。私友達と祭り回る約束してたから行くね。』
銀『おう、あっアル待ちや。小遣い持っていき。』
アル『ありがとうお父さん!』
アルはそう言って街の中に駆けて行った、忍びと言ってもまだまだ年頃の娘だ。
杏珠『ハルは良いの?私達に付き合わなくて良いのよ?』
ハル『いや、一緒に行くよ、父さんが酔い潰れたら母さんだけじゃ抱えるの大変だと思うから。』
銀『おう、言ってくれるのハル、二十歳になったらしこたま呑ませてやるから覚悟しとき?ナハハハ!』
杏珠『っとにこの男は…ありがとね、ハル。』
と、こんな具合に家族のやりとりが繰り広げられる正に平和の一時だ…そしてこういうものは必ず終わりが来る。
大概惨たらしく終わる…これも例外では無い。
少し時間が過ぎた頃だろうか、街中には酔い潰れた人間がチラホラ現れた。
こういう光景は珍しく無い。
だから誰も気にはしない、そこに酔った振りをした人間がいたとしても…。
突然…
『新世界秩序‼︎‼︎』
と叫ぶ酔っぱらいが現れた。
一人、二人、三人…いやそんなものでは無い!
どんどん増えていく‼︎
そしてみるみるその体は膨れ上がり白色に変貌していく、苦痛と狂気の笑みを浮かべながら人では無くなっていく‼︎‼︎
そして突如して数十〜百数十のあの白いウサギのような化け物が現れた。
他の者は幸いにもこれが祭りの出し物と思う者は居なかった。
何故ならこの怪物のうち一体が変身するなり近くにいた人間を串刺しにして貪り食ったからだ。
街中で悲鳴が上がった。
怪物達は手当たり次第住人を殺して、喰った。
騒ぎは直ぐに真青成組に伝えられた。
アマル『なんだと⁉︎正体不明の妖怪が多数現れて、手当たり次第街の連中を食い殺し回ってるだと⁉︎⁉︎』
間の悪い事に局長ノブは今クガネ城に居て、席を外している。
隊の司令官が居ないのだ。
アマル『仕方ない…副長権限で全真青成組隊士に出動を発令する‼︎住人の保護、退避を優先し行動せよ!相手は化け物だ、決して容赦するな‼︎‼︎』
シラギク『ハッ‼︎』
鬱丸『ハッ‼︎』
フェリ『…‼︎』
真青成組肆番隊隊長・ムシパン『了解!』
シモ『おう‼︎』
真青成組全部隊の全力出動など前代未聞だろう、だが今起きているのは前代未聞の殺戮だ。
各部隊が現場に着いた時にはその凄惨な場に戦慄せざる得なかった。
街は火の手が上がり、化け物は逃げ惑う民を追い、捕まえたらそのまま口に放り込む奴もいれば、捕まえた人間の首をねじ切り体を握りしめながら体内の血を搾り飲み干す奴も現れた。
更には家の中に隠れていた母子を捕まえ、悲鳴をあげる親子を口から爪を突き刺し、まるで串焼きを食べるような仕草で貪った。
シラギク『何なんで…ござる…これは何でござる⁉︎みんなが…みんなが…!』
アマルは唇を噛み締め、己が刀を抜刀する、そして近場に居た化け物を切り伏せた。
アマル『止めるぞ、このウサギ畜生共を一匹たりとも生かして帰すな‼︎‼︎』
真青成組『承知‼︎‼︎』
真青成組が来れば一安心…とは行かなかった。
この化け物は少しずつ数が増えているのだ、そして完全に殺しきらないとコイツらは自己回復して復活してしまうのだ。
だがトドメを差し切ろうにも数が多過ぎるのだ。
シモ『厄介だな!しかもコイツら地味に知能あるから連携してきやがる‼︎』
シモを嘲笑う様に殺した民草を貪りながら化け物は薄気味悪い笑い声を挙げる。
シモ『あたしの目の前でここの連中をバクバク喰ってんじゃねぇ‼︎‼︎』
真青成組が奮闘している中、何とか抗い、自らの身を守っている者達も居た。
銀『アルー‼︎何処やー‼︎アルー‼︎』
ハル『アルー‼︎返事をするんだー‼︎』
銀とハルは隠し持っていた短刀を引き抜き、襲い来る妖を切り伏せて街を疾走していた。
街は火の手が上がり、殺戮が繰り広げられている。
銀とハルが戦っている間、杏珠は足を怪我した町人に治癒の呪文を唱えて治療をしていた。
杏珠『これで大丈夫、足が動ける様になったから逃げれると思う。』
町人『ありがとう、兎耳の人。』
杏珠『その前に赤い毛並みをした猫族の女の子を見なかった?あそこにいる子と双子なんだけど?』
町人『見てねぇな…この辺りはあまり子供は来ないと思うからな。』
杏珠『そうよね、ありがとう。気をつけて。』
銀『どうや杏珠ちゃん?』
杏珠『見てないって…ここには居ないのかも。』
ハル『アル…』
銀『諦めへんで、みんなで家に帰るんや!』
【NEOクガネ郊外】
悲鳴を上げ、逃げ惑う避難民は郊外の森へ逃げる、それを追う数体の怪物。
ディワ『ヤァァァァァァァァァ‼︎‼︎』
追いかける怪物の足を掴み、銀髪の投げ飛ばすアウラ族の女性はディワだ。
その投げ飛ばされた怪物の腹目掛けて天から槍を突き入れたのは郊外の森に住む戦士スィラだ。
スィラ『早く森へ!森へ行けば隠れられる‼︎』
大剣を掴み、怪物を両断したのは羅雅摩富院の店主ティヴォリだ。
事が事だ、裏稼業の姿を隠している暇は無くなった訳だ。
ティヴォリ『fucker‼︎ぶった斬ってもぶった斬っても出てくるぞ‼︎』
スィラ『まだ数が少ないけどさ、これじゃ外にも沢山来るよ‼︎』
ディワリ『ウニュ〜…ちょっと疲れてきた…よ。』
ティヴォリ『クソ…何だってんだ!』
そして遂に騒ぎは異人街にまで知らされた。
ジャンヌ『正体不明の魔法生物の状況は?』
エルダ『数は不明、恐らく数百から千体程。』
ジャンヌ『被害は?』
オブライエン『歓楽街を中心に半径数キロに及んで各所で火災、怪物は手当たり次第住人を食い殺している様です。』
ジャンヌ『なんて事…これでは我が祖国の建国神話にある悪魔との戦いじゃありませんか!』
オブライエン『全騎士団員はこの館に居て無事、戦闘準備を整えていましたが…実は総長がつい先程外出されて…。』
ジャンヌ『外出⁉︎謹慎を言い渡されて事は知っていたでしょうホーファンツォルン卿‼︎何故行かせたのです‼︎‼︎…いえ、失礼しました、今は総長の心配はいらないでしょう…。それよりも今は街です。』
エルダ『オルタンシア卿、分かっていると思いますが、我らは謹慎を言い渡された身、ここで行動を起こすことにどんな理由があれ幕府は良い顔はしません…外交問題に取り上げるやも知れませんぞ?』
エルダは苦しそうな表情を浮かべながら本心とは真逆の事をジャンヌに伝えた。
だがエルダ本人もこんな事を考えたく無かったであろうが、事実としてブリテオンはガボウサイ一党から目の敵にされている…自身の欲望のためなら有りとあらゆる物の犠牲を強いるのは当然と思っている男の事だ、これ幸いと言いがかりを付けるかも知れない…そうなれば王と騎士団の名誉は傷が付く…。
だがここで何もしなければ無辜の民草が殺められているのをただ観ているだけ…。
ジャンヌは壁に架けられた騎士団旗を見た。
ジャンヌ『我ら騎士は民草の盾とならん…。……これより総長閣下の代理として国王陛下により与えられた権限により、近衛騎士総員の出撃を命じます。我らブリテオンの騎士は創始以来常に人類の盾としてありました。それは何人たりとて侵害出来ぬ我らの使命です!此度の件は幾星霜以来の光と闇の戦いと断定、これはテロではなく、聖戦と心得なさい‼︎』
ジャンヌは決意し、その言葉に全騎士団幹部が立ち上がった。
ジャンヌ『オックスフォード卿、ナイトファルコン卿、お二人には射撃部隊を率いて頂きます。』
ジョージ『了解。』
ラース『任された。』
ジャンヌ『ホーファンツォルン卿は聖戦士部隊を率いて我らと民草に加護を付与して下さい。その後結界を張り、怪物共から民草を守るのです。』
オブライエン『承知。』
ジャンヌ『エルダ卿は白兵戦部隊の指揮をお願いします、特に槍兵部隊の指揮は念入りに、結界を張るまでは彼らが民草の盾になりますから。』
エルダ『御意。』
ジャンヌ『私はペガサス、グリフォン騎士を率いて空から敵を肉薄します。各騎乗騎士も今回は徒歩騎士部隊として各兵科に統合、各自指揮官の指示を聞く様に!』
ジャンヌは騎士団旗と王の肖像、そして金色の聖杯を持った白装束の女性の描かれた肖像が架けられた壁に向き直ると、剣を引き抜いた。
他の騎士も同じ様にした。
騎士達は剣を顔の近くまで持ってくると、刃を天に向け、祈る様な仕草を見せた。
ジャンヌ『今こそ、我らの騎士道と勇気を見せる時…Deus lo Vult‼︎‼︎(デウス・ウルト…神はそれを望む。)』
騎士団幹部『Deus lo Vult‼︎‼︎』
幹部達は会議室を出ると一斉にそれぞれの場所に走り出す。
ジャンヌは従士見習いの少年達を呼ぶと、総長の大剣と鎧を厩舎に持ってくる様に指図した。
ジャンヌは従士達より早く厩舎に着くと繋がれていたタジムニウスの愛鷲獅子(グリフォン)デスクローを撫でた。
ジャンヌ『デスクロー、申し訳無いけど、お前の主人を探しておくれ…あの人はきっと今、戦う力を欲しているから。』
デスクローはジャンヌの頬に頬擦りした。
獣特有の本能を見抜く力だろうか?
ジャンヌが内心、自身の上官への心配で心が張り裂けそうになっているのを見抜いたのだ。
その直後、従士見習いの少年達はタジムニウスの鎧と大剣、そして盾を持ってきた。
ジャンヌと少年達はデスクローに武具を括り付けた。
厩舎の門を開けると、そこにはペガサスやグリフォンに騎乗した騎士や武装した徒歩騎士部隊が待っていた。
ジャンヌ『行きなさいデスクロー!貴女は総長の象徴!先駆けは貴女です‼︎』
デスクローはその頭部の由来の如く劈くような甲高い鳴き声を挙げ、羽を広げ飛び立った。
ジャンヌは自身のペガサスに跨るとヘルムを被り背中にハルバードを背負い、右手にランス、左に盾を持った。
ジャンヌ『クラリオン・コール(召集ラッパ)を鳴らせ‼︎』
館から高らかにかつ壮大にラッパが鳴る、その直後ジャンヌは乗騎を嘶かせ、立ち上がらせ、そして自身は叫んだ。
ジャンヌ『FOR Bretonnia‼︎‼︎(ブレトニアの為に‼︎‼︎(ブレトニアとは古代言語でのブリテオンである))』
騎士団『FOR KING‼︎‼︎FOR THE LADY‼︎‼︎(王の為に‼︎‼︎女神の為に‼︎‼︎)』
開門、館の門は開けられた瞬間、鬨の声を挙げ一千騎のペガサス騎士とグリフォン騎士が走り出し空に飛び上がった。そしてその後を戦列を組んだ徒歩騎士達が行進する。
抗おうとする者たちが現れるように敵も数が増えていくのだ。
魔物は更に数を増やす。
そして…。
ムシパン『どいつもこいつもなんて体してやがるんだ!俺は動物園の飼育員じゃねぇんだぞ!』
アマル『ムシパン、横だ‼︎』
横から繰り出されたのは竹槍だ。
ムシパンは頬を切りながらも避けた。
ムシパン『な、何しやがる⁉︎俺たちはお前らを助けに来たんだぞ!』
竹槍を突き刺したのは町人だ、その後ろに同じ様な姿をした者たちが複数人居る。
アマル『違う…コイツらは敵だ!お前達の仕業か六道党‼︎‼︎』
ムシパンはハッと町人を見た。
それぞれ襷だの鉢巻だのを付けているが共通して新世界秩序と書かれているのだ。
信徒『聖戦の時だ‼︎魔力を持たぬ価値なき命を屠るのだ‼︎天主様が来られる前にこの地を清めるのだ‼︎‼︎』
信徒『新世界秩序‼︎新世界秩序‼︎』
狂信徒共も見計らっていた様に蜂起したのだ、そしてタチの悪いことに怪物共もこの信徒達を襲わないそればかりか守る様な立つ始末だ。
アマル『くそ…これじゃあ誰を守れば良いのか分からん!』
これも怪物が現れた様に街の至る所で起きた。
シラギク『やめて!なんでこんな事をするでござる‼︎』
信徒『死ね価値なき命よ‼︎』
フェリ『…!』
信徒『外法を使えぬ貴様らなぞ死んで当然だ!』
信徒『行けお遣い達よ!』
そう信徒が叫んだ瞬間シラギクとフェリが守っていた町人達に向かってお遣いと言われた怪物達が操られる様に隊士達を無視して突っ込んでいく。
シラギク『ダメ‼︎‼︎』
逃げ惑う民草が一人残らず喰い殺される…いやそうはならなかった!
突っ込んでいたお遣い達は逆に弾き返された!
弾き返したそれらはその勢いを失わず信徒と怪物に向かいその槍と蹄で蹂躙した。
シラギク『天馬…⁉︎』
一番先頭に居る嘶く天馬に跨った高位の騎士である女騎士は叫ぶ。
ジャンヌ『槍兵‼︎構え‼︎‼︎』
すると大楯と槍を持った騎士たちが戦列を組み、盾を構え壁を作り上げた。
槍を突き出し、信徒とお遣いが寄ればそれを槍で突き返し、盾で弾いた。
天馬から飛び降りた女騎士はヘルムを脱ぐとその黒髪と顔を露わにした。
ジャンヌ『シラギクさん!』
シラギク『ジャンヌさん?これは?』
ジャンヌ『我ら騎士団も加勢します。状況を教えて下さい。』
シラギク『えっと…私達ももうよく分からないの!変な怪物が沢山現れて、倒しても倒しても現れて、必死に…みんなを…守ろうとしたけど……守れなくって…仲間も何人か…死んじゃって…。』
ジャンヌはシラギクを抱くともう大丈夫です、ありがとうと頷きながら囁き、その後フェリが身振りでアマルのいる場所をジャンヌに教えてくれた。
ジャンヌ『私は副長殿の元へ向かいます。
皆、ここは任せるぞ‼︎‼︎』
騎士『ハッ‼︎‼︎』
道案内をすると言ったシラギクを天馬の背に乗せるとジャンヌは飛び立った。
その頃ラースは弓矢を使ってお遣いを射抜きながら弓兵騎士の指揮を取っていた。
ラース『数が多いな…全く。夕餉の仕込みもしなきゃならんというのに…。』
騎士『ラース卿後ろ‼︎』
ラースの後ろから鎌を持った信徒が襲い掛かってきた。
ラースは驚きもせず、持っていた矢を信徒の首目掛けて突き刺そうとしたが、それよりも先に信徒の脳天に矢が突き刺さり事なきを得た。
ラースは口笛を吹き、倒れた死体を見た。
矢の飛んできた方向を見ると民家の屋根に立つ赤茶色の毛並みをしたヴィエラ族の青年が弓を構え、立っていた。
ラース『アレは…射的屋の…助かった、良い腕だな!』
マキナ『偶々通り掛かっただけですよ、僕が助けなくても貴方は自分でどうにかしてたでしょう?』
ラース『フ、すまないが少し手伝ってくれ、お礼に最高のブリテオン料理を馳走しよう。』
同時刻…
九十九尾は妻メフィを守りながら外法を使いお遣い達と戦っていた。
九十九尾『…メフィ、君だけでも逃げてくれ。海にまで行けば君なら逃げられる。』
メフィ『…嫌だよ!僕は何処にも行かない!君を置いてなんて!』
九十九尾『このままでは二人ともやられてしまう!頼む逃げてくれ。』
だが言い争う二人にお遣いが口を開け迫る。
二人とも飲み込むつもりなのだ。
だがお遣いは凄まじい業火に焼かれて焼失した。
『あら?お邪魔しちゃったかしら?』
と揶揄う様に現れたのは黒装束に剣の様な杖を持った赤髪のエレゼン族の魔女だ。
メフィ『アルカナ…君に助けられるなんて。』
アルカナ『へへーん、こう言うのって人の恋路を邪魔する奴は馬の尻に敷かれて一等賞だっけ?』
それを言うなら馬に蹴られて地獄に堕ちろだが、訂正する暇は無い。
まだ三人の周りには信徒とお遣いがいるのだ。
信徒『貴様ら…何故天から賜りし力があるにも関わらず力無き者を守る?』
九十九尾『己が妻を守るのに理由が必要か?』
九十九尾は凄まじいさっきを放ちながら言い放つ。
信徒達は言い返さなかった…いや出来なかったのだ…。
彼らは次に言葉を発する前に突然空から降ってきた光の槍に貫かれ、百舌鳥の早贄の如く串刺し死体となっていた。
オブライエン『皆様、お怪我はありませんか?』
アルカナ『あっ、アンタはブリテリ騎士団の生臭坊主。』
オブライエン『誰が鰤照りですか、ブリテオン騎士団です覚えておきなさい。』
メフィ(生臭坊主は否定しないんだ。)
九十九尾『神父殿、これは貴方が?』
オブライエン『私とてブリテオンの魔導士にして神父、これくらいはしませんと。我らはこの件を聖戦と捉えました。我らの聖地となったNEOクガネに迫る異教徒を屠るのみ。』
オブライエンは杖を地面に突き刺すと、聖書を取り出し、何かを詠唱した。
オブライエン『我等に危機迫りたり、我が信仰、我が民、我が命を守る為、今再び彼方昔より今再び我等にその力を貸したまえ…出でよ緑の騎士(グリーンナイト)!』
エメラルド色の魔力の球体が生み出され、それは騎乗した騎士が通れるくらいの大きさになった。
そしてその球体、いやゲートと言った方が良いか?
そこから現れたのは乗っている馬も騎手も明らかにこの世の存在では無いと一目で分かる騎士だ。
見てからこそ人間の騎士と馬だが、騎手は顔が見えず、そして眼は人馬共に緑色に輝いている。
人馬共に月桂樹で飾られた緑色の装飾をつけた鎧を身につけ、握る剣と盾はエメラルド色に輝いている。
緑の騎士はお遣い目掛けて突撃し、その剣で容易く両断した。
信徒達が槍を突き入れるが、物言わぬその体から血は零れず、むしろ突き抜けているだけでは無いかと錯覚するほどであった。
アルカナ『あれがオタクら御自慢の最強の召喚獣、緑の騎士か…ありゃ骨折れるね。』
オブライエン『お褒め頂き光栄だが、召喚獣というのはやめて頂きたい。彼は確かに遥か彼方昔に実在した騎士なのです。その正体を知る術は失いましたが、確かに彼はブリテオンの騎士だったのです。人としての敬意を払って下さい。』
その頃タジムニウスはただ一人で街中を彷徨っていた。
定期的に出くわすお遣い達のせいで騎士団の館に向かおうにも遠回りを強いられてしまっていたのだ。
タジムニウス『何処だ…ここは…ハァ…ハァ…腹が減った…。』
道中相当な数の敵を斬り倒して来たのかタジムニウスは疲労困憊だ。
すると目の前に人影が見える、見慣れた姿だ。
赤毛の猫耳…赤い半被間違いない…アルだ。
彼女は地面にへたりと座り込んでいた。
その前にお遣いが一匹立っている。
アルに頭から齧りつこうとしたがタジムニウスの放った銃弾で爆発四散した。
タジムニウス『アル!大丈夫か、立てるか…ハッ…!』
タジムニウスは固まってしまった。
立ち上がって振り返り涙を流すアルが両の腕に抱えていたのは一人の少女の首だ。
喰い千切られた跡が有り、血は滴り落ちている。
明らかに苦しんで死んだのだろう。
口から血が流れ、両の目は見開き、黒目は上に向かって虚に向き、涙の跡が残っていた。
タジムニウスは目の前で十字を切るとアルに問いかけた。
タジムニウス『知っている子かい?』
アル『うん…今日の祭りに一緒に誘ってくれた子なの…他の友達達と一緒に祭りを回ってたらあの化け物が現れて…わたし…他の子たちは逃がせたけどこの子だけ…助けられなくて…痛い痛い、助けてってわたしの名前をね…呼んでね…化け物がこの子の首から下を食い千切って…そしたら首が私に向かって…飛んできて…わたしの…わたしの…』
タジムニウスはなんと答えてやるべきか分からなかった…。
だが優しい言葉を掛けてやれる余裕がない事は良く理解していた。
自身の不器用さと状況を呪ったがこのままではいけないのだ。
タジムニウス『弔いなら後だ、立つんだ。これは戦争だ、迷ったら死ぬ。もっと大勢が食い殺されるのを見る事になる!』
アル『もういっそ…』
タジムニウスはアルの胸ぐらを掴む、掴まれたアルの腕から生首が落ちる。
タジムニウス『良いかよく聞け猫娘‼︎人間の生き死になんて究極的言えば全く取るに足らん事だ!息を吸って吐くのと同じぐらいにな‼︎ここは戦場だ!ここにいる以上どんな理由があろうと関係ない!討ち倒される為に討ち倒す為にしか人間は存在しない‼︎その娘も自然の摂理で死んだ様な物だ‼︎こんな事二度とごめんだと思うなら戦え‼︎戦う力のある人間がここを投げ出し、泣き愚図る等言語道断だ‼︎生を勝ち取るのだ!どんな手を使っても‼︎それが生きている者の務めだ、死んだ者への手向けだ‼︎』
叫ぶタジムニウスの声に呼ばれたか、お遣いが二体現れたがコイツらはタジムニウスの目の前に現れるなり倒れた。
『大将、中々名演説だったが女の子相手に言う事じゃないな?』
『軍人というのはいつもこうだ、堅苦しい上に粗暴だな。』
タジムニウス『出迎えご苦労エージェント・フルト、後そちらは何方かな?』
死霊術の一件以降タジムニウスの護衛として雇われている傭兵フルトは帽子の埃を払いながら答えた。
フルト『こいつは傭兵仲間のダイチだ。アンタを探せって我らが生臭坊主殿にこっそり頼まれてな、んで手が足りないからダイチに手伝ってもらってたって訳さ。そしたら今度はこの殺戮ショーだ。敵は六道党だってな、本当イカれた連中だよ。』
ダイチは無言で首を垂れた。
フルト『ああ、それとコイツ刀の腕は立つがその代わり軍人嫌いだ。』
タジムニウス『そうなのか…なんか傷つくな…。』
タジムニウスそう言いながら、ふらつき出し、すかさずフルトとダイチが支えた。
タジムニウス『すまないが…何か食べ物を持ってないか…腹が減った…。』
ダイチ『おい。』
フルト『ラース卿から預かって来たぜ。』
フルトがタジムニウスに紙の包みを渡すと、入っていたのはハムとチーズとレタスが挟まったクロワッサンサンドだ。
タジムニウス『流石、ナイトファルコン卿気が効くよ。』
サクサクムシャムシャと咀嚼音を鳴らしながら急いで食べたタジムニウスは元の気力を取り戻した。
タジムニウス『…フゥ。さて客を饗そうか諸君。』
タジムニウス達の前に信徒とお遣い達が立ち塞がる。
タジムニウス達はそれぞれ剣と刀を抜刀する。
そしてアルも涙を拭い短刀を抜く。
タジムニウス『宜しい、行こうか!』
タジムニウスはニッと笑うと走り出し一瞬に信徒を二人切り伏せた。
フルトやダイチもそれに続く。
アルもクナイを投げつけ、怯んだ隙に首を掻き切った。
お遣いが全てやられ信徒達は逃げ去ろうとするが振り返った瞬間駆けつけたハルと銀に斬り殺された。
ハル『アル‼︎』
杏珠『アルちゃん‼︎』
銀『無事やったか‼︎』
アル『お父さん…お母さん…お兄ちゃん…!』
四人は抱き合い、アルは声を上げて泣く。
他の三人は小っ恥ずかしいと思いながら見守っていた。
銀『ありがとうな伯爵はん。アルを守ってくれて。』
タジムニウス『偶々居合わせただけの事。ところで諸君はどうやってここに…』
と言い掛けた瞬間地面に二つに裂かれたお遣いが落っこちてきた。
空から聞き慣れた鳴き声が響き、上を見上げると羽ばたきながら高度を落とすデスクローがいた。
タジムニウス『お前が連れてきてくれたんだな、デスクロー。』
デスクローは降り立つとタジムニウスはすかさずデスクローに抱きついた。
デスクローも主人が撫でてくれる事が嬉しいのかクルルルと甘えた声を出した。
そしてデスクローは首を後ろに回すと嘴にタジムニウスの武具を咥えてタジムニウスに見せた。
タジムニウス『成程な、流石だよ…ジャンヌ。』
タジムニウスは軍服の上から鎧を身に付けるとヘルムを被り、デスクローに跨った。
タジムニウス『フルト、ダイチ。その者らを護送せよ。私はジャンヌの元へ行く。』
ハル『タジムさん、師匠とは会えたんですか‼︎』
タジムニウス『ああ、会えたよ。さっきまで一緒だったんだが向こうも用があると言って途中で別れた。』
デスクローに拍車を入れてタジムニウスは飛び立つ。
クガネの街が燃えている。
だが…。
タジムニウス『この後に来る厄災の方がもっと洒落にならないぞ…。』
タジムニウスは街の惨劇を眺めながら呟いた…そうだ始まりに過ぎないのだ…。
この殺戮よりもっと恐ろしい事が起きようとしている。
そしてある事に気がついてしまった…。
タジムニウス『なんだ…?街の民の避難が進んでいない?大通りからの避難ならクガネ城に行くものだろう?城の前にごった返してるじゃないか…!まさか!』
タジムニウスは最悪の展開を考えざるを得なかった。
城の門が開いていないのだ。
開けられないのか、それとも故意に閉ざしているのか?
心境的には後者だったが、そんなのはどうでも良い、このままでは民草が危険だ。
そしてごった返した民草目掛けてお遣い達が群がってきているがそれを寄せ付けまいと戦う一団がいるのを、タジムニウスは見つけていた。
アマル『クソ!何故城は門を開けない!ここを突破されたら洒落にならんぞ!』
ジャンヌ『城の門番が何度も呼びかけているのに反応が無いなんて…!火の手も上がっているみたいだし…このままでは!』
シラギク『城から火の手って…ノブさんは大丈夫でござる?』
アマル『分からん、城に入れないんじゃ安否も確かめられん。』
タジムニウス『なら、空から入れば良い!』
上から声がするので一同が上を見上げるとグリフォンが舞い降り、一団とお遣い達の前に立った!
ジャンヌ『総長‼︎』
タジムニウス『先ずはこいつらを退けるぞ!アインホーク卿は何処!』
エルダ『ここに。』
タジムニウス『民草は任せる!真青誠組の皆様も御同行願おう。』
アマル『一番隊俺に続け。』
ジャンヌ『総長を守り参らせよ!老年騎士隊私と共に!』
タジムニウスはグリフォンから降りると大剣を抜刀し、地に突き刺す。
両脇にジャンヌとアマルがそれぞれ得物を構え、その後ろを真青誠組一番隊と老年騎士隊(近衛騎士団所属のベテラン騎士のみで組織された部隊。全員がツヴァイパンダーと言った大剣や長柄のウォーハンマーを装備した精鋭重装部隊。)が整列する。
タジムニウス『ここの指揮は私が執る。総員抜刀。』
タジムニウスの声に全員が得物を構える。
タジムニウス『前進。』
戦列は前へ進む、足並みを揃え、まさに地獄へとまっしぐらに進む。
だが彼らは死ぬ為に進むのでは無い、生きる為に、地獄の悪鬼の首を掲げる為に進む。
タジムニウス『強歩‼︎』
一同は歩調を強くする、お遣いや信徒達も怒号を挙げ、迫る。
タジムニウス『突撃‼︎』
一同は遂に、満を辞して走る。
そして鬨の声を挙げ、両者はぶつかった。
だが、六道党の相手をしているのは、泣く子も黙る真青誠組一番隊とブリテオン近衛騎士団最精鋭重装部隊だ。
簡単に言えば、生き物殺させれば天下一の連中が徒党を組んで突っ込んできた訳だ、数分後には人間の両断された死体が道の至る所に転がり、化け物の成れの果てが塵となって霧散していた。
タジムニウス『片付いたな、レディ私と来い!城に行くぞ‼︎』
ジャンヌ『ハッ!』
アマル『待ってくれ、俺達も城に連れて行ってくれないか?中には局長が居るはずなんだ、城から火の手が上がっているなら局長や中に座す上様や若様の身が心配なんだ!』
シラギク『私も、どうかお願いしますでござる!』
ジャンヌ『総長…。』
タジムニウスは少し考えたが、直ぐに口を開いた。
タジムニウス『よし、乗るんだ。城の中は我々では分からないからな。副長殿は私のグリフォンに、レディ・シラギクはジャンヌのペガサスに』
『なら俺も乗せてくれ!』
タジムニウス『卿は…⁉︎』
名乗りを挙げたのはウラメシ屋に於いてカッパと呼ばれる男だ。
場所が場所故にここでは名を出さぬが、タジムニウスは驚いた。
自ら真青誠組の目の前に現れると言う事は彼らの首を自ら締める事と同義なのだ。
タジムニウス『他の者らは?我らが何処に向かうか分かって言っているのか⁉︎』
カッパ『話は全部聞いた!俺はどうしてもあそこに行かなきゃ行けないんだ!訳は話せないが決して足手纏いにはならねぇ…!頼む‼︎』
タジムニウス『…まぁ手数はあった方が良い。卿を臨時で騎士団の雇った傭兵とする。卿が私の傭兵である限り卿の自由を保障しよう。』
アマル『どういうつもりだ?』
タジムニウス『信用に値する、私の顔を立ててはくれまいか副長殿?』
アマルもそこまで言うならと、『お前みたいな怪しい奴、普通ならその場で縄に掛けるが一旦は見逃すぞ』と言いたげにカッパを睨むと、カッパも苦笑いを浮かべたように頭を掻いた。
かくして五人は城に入るべく空へ飛んだ。
城を見下ろすと、天守や館からは火の手が上がっていた。
そして至る所で喧騒と悲鳴、そして剣戟が挙がっていた。
シラギク『城にまで敵が⁉︎』
ジャンヌ『…例の怪物と…アレは…総長!敵は同じクガネの侍です‼︎』
アマル『なッ…⁉︎』
タジムニウス『奴ら(六道党)武士階級にまで信者がいるのか‼︎…構っている暇は無い!本殿に降りるぞ‼︎』
だが武士の信者達は空飛ぶグリフォンとペガサスに気がつき、櫓から弓を放ってきた。
高位の魔法生物であるグリフォンやペガサスが多少弓矢を射掛けられた所で擦り傷程度で済むが乗り手は論外だ。
タジムニウス『そう、上手くいかんな。仕方ない歩いていこう。』
一行は城内に降りるとグリフォンとペガサスを退避させ、城を進んだ。
乱戦の城を五人が進むのと同じ頃。
街では新たな展開を迎えていた。
【NEOクガネ城下町】
燃え盛る街の中に取り残された幼児達…。
三人の幼い娘達は泣く。
一人は黄色の髪をしたそばかすのついた娘、もう一人は紫の髪を、二つに結った娘、そしてもう一人は赤い髪をして大きなリボンをつけた娘だ。
その娘達に近づく派手な装飾品を身体中に付けた一人の男。
背丈は小さい、ララフェル族の男だ。
男『ヘイ、君達?迷子かい?』
べに『お兄さん、だぁれ?』
黄色の髪をした娘が男の正体を問う。
男『うーん、お兄さんはね〜そうHEROさ‼︎』
ハナビ『ヒーロー…?なら私達の事助けてくれますか?』
紫の髪をした娘は男に問う。
男『おう‼︎任せな‼︎だけどその前に…』
男は三人の娘達の前に手を翳した。
りりぃ『お兄さん…?』
男『わりぃな、俺はHEROでも外法が使える奴だけのHEROなのさ、死ねよガキ。』
男は三人の娘達に翳した手より炎を発した。
炎は火球となり大きくなっていく、娘達は突然の事に悲鳴をあげる事も出来ない。
幼児には余りにも無慈悲な死が訪れようとしていた。
だが突然、男目掛けて何処ぞの家を支えていただろう折れた柱が飛んできた。
男は咄嗟にその柱目掛けて火球を放つ。
柱は燃え滓を残さず消滅し、その煙から頭巾を外し、顔を晒したヒトヅメ…いやカツドンが現れ、男に襲い掛かる。
男もヌンチャクを取り出し応戦する。
男はカツドンの拳をヌンチャクで抑えるが力の差が歴然としていたのか男は吹き飛ばされる。
だが男は足の裏から炎を発し勢いを消す。
動きの止まった男目掛けて、民家の屋根に登っていたロハンが短機関銃を放つ。
男は炎の壁を作り出し、弾丸を防ぐ。
更に男の後ろから短刀で斬りつけようとするシキが現れるが男は炎の鞭を作り出し短刀を防ぎ、シキに打ち据えんとする。
シキも鞭をすんでのところで避ける。
四人の男は一人の男を三人の男が囲うように立っていた。
娘達『お義父さん‼︎』
カツドン『お前…‼︎うちの娘達に何をしようとした‼︎』
男『何をしようとした?そら勿論HEROの仕事さ!俺はお前達みたいな外法の使えない屑ども掃除に来ただけさ!』
ロハン『何がヒーローだロリコン野郎‼︎』
男『ノンノンノン!俺の名前は炎慶(エンケイ)覚えてもらうぜ‼︎』
シキ『ふざけた野郎だ、お前みたいな奴こそ本当に裁かないと行けない奴って言うんだろうな!』
エンケイ『やってみろよオッサン共‼︎‼︎』
その頃…
タマモ『あんた達私の事が分からないのかい⁉︎』
ヤクザ者達が一人の女の前に立ちにじり寄っている。
この女とヤクザ者達はNEOクガネ二大ヤクザ組織翠嵐組の組長の妻タマモとその組員達だが、明らかに様子がおかしい。
組員は完全に意識がなく、虚な表情を浮かべ、ドスを手に持ちタマモににじり寄る。
そしてその組員達の後ろに立つ一人の女。
ヒューラン・ミッドランダー族の巫女のような出立ちをした若い二十代の女だ。
巫女『怖がることはありません…皆偉大なる天首様の御手に抱かれる事でしょう。』
男達はタマモにドスを突き入れんと飛び出す。
だがその男達を薙刀で斬り払う者が現れた。
ライ『奥様‼︎』
タマモ『ライ‼︎貴女…その格好。』
ライ『説明は後で…皆様の…これは…。』
タマモ『あの娘に操られているの…致し方ないわ…ライあいつらを斬りなさい!…アイツらを自由にしておやり…‼︎』
ライ『畏まりました奥様…!』
巫女『恐れる事は有りません…皆須く天首様の寵愛を得るでしょう。』
『他人を意のままに操るのが寵愛というなら、オジサンは遠慮したいね〜?』
民家の陰から両手に持ったリボルバーをガンスピンさせながら現れたのはジョージだ。
その口に咥えた葉巻の煙は重く、濃かった。
タマモ『あんたは…ブリテオンの!』
ジョージ『今は、いがみ合うのは辞めましょうよマダム。ここは我らの領分、お逃げなさい。貴方には亭主殿が居られるはず。』
ライ『奥様。』
タマモ『……。ここは任せるわ、ライ絶対帰ってくるのよ!』
ライ『はい、奥様もご無事で。』
逃げ去るタマモをライは見送り、ジョージの隣に立つ。
ジョージ『おや、オジサンは君にも逃げろと言ったつもりなんだがね〜マドモアゼル。』
ライ『私は奥様より操られた皆様を託されました。家人として務めを果たす迄決して引けませんわ。』
ジョージ『…それならオジサンの仕事も手伝ってくれると助かるね〜。お嬢ちゃん。』
ジョージは巫女に呼び掛けると恭しく礼をする。
ジョージ『私はジョージ・オックスフォード男爵。ブリテオン王国近衛騎士団の末席を汚す名誉を賜りし騎士。お見知り置きを…。お嬢ちゃん…いやマドモアゼルの名をお聞きしたい。』
名を問われた巫女は東方式の礼で返す。
スイカク『私は水覚(スイカク)と申します。ジョージ卿、此度はよろしくお願い致します。』
ジョージ『レディ・スイカク。悪い事は言わない。オジサン達に投降してくれないかな〜オジサンあんまり年頃の娘さんを傷つける趣味はないんだよ〜…お嬢ちゃん中々の美人だからウチの子の結婚相手にどうかな〜って思うんだけど〜。』
スイカク『…申し訳ありません、私は天首様に忠誠を誓っておりますので…それに見ず知らずの殿方に嫁ぐのは私には出来かねますわ。』
ジョージ『そうか…残念だよ。』
操られた組員達が襲い掛かる。
ジョージは両手のリボルバーを乱射し、組員達を撃ち倒す。
スイカクが霊鈴を鳴らす。
チリンという音がした瞬間、何処からともなくミズチと呼ばれる蛇に四つの足が生えた化け物が召喚されジョージに襲い掛かる。
だが襲い掛かるミズチをライが薙刀で打ち払う。
そのままスイカクを切り伏せんとライは突貫する。
スイカクが水の触手を呼び出し、触覚はライに突き入れんと飛んでいくが、ジョージの放った銃弾で触覚は破裂した。
ライはスイカクを切り伏せたが、それは水で出来た偽物だ。
切り伏せられた肉体は水に変わりライを包み込む。
ライは息が出来なくなり踠く。
ジョージはすかさずライを閉じ込めた水の檻に氷属性の魔力が込められた弾丸を放つ。檻は凍り、更にそこに炎を纏った弾丸が数発叩き込まれ、氷の球は溶けて水となり、ライはずぶ濡れになったが解放された。
ライ『ありがとうございます。ジャージ卿。』
ジョージ『ちょっと驚いたね〜その歳でそこまで水属性の魔力を使いこなすのはそう居ないよ〜。本気を出させてもらおうか。』
ジョージは利き手である右手に持ったリボルバーをホルスターにしまうと腰に佩たメイスを引き抜く。
メイスは緑色のエーテルを纏い発光した。
ジョージ『オジサンを騎士に戻した子はね、そう居ないんだよ?』
ライ『組の皆様の仇、取らせて頂きます。』
ライも薙刀を構え、立ち上がる。
サイレン『何故抵抗するのです?天首様の寵愛を得れば誰も苦しまずに済むのに。』
強大な存在が現れ、これが一つの演劇ならば今、当にクライマックスだろう。
そして場面はクガネ城に戻る。
五人はクガネ城を走り回っていた。
そして道中で腕に怪我をしたカムロザエモンを見つけた。
アマル『若年寄り!』
カムロザエモン『行幸、アマルか。』
アマル『怪我を?』
カムロザエモン『それより、局長を手伝ってやれ。』
一同はカムロザエモンが顎で示す方を見るとノブは大斧を振い、大柄な土で出来た人形と戦っていた。
大柄なルガディン族のノブより一回り大きい、そうゴーレムと戦っていたのだが、そのゴーレムは明らかにゴーレムらしからぬ軽快な動きをしていた。
ノブ『っクソ…!なんて硬さだ。』
ゴーレム『大人しくしてください!一瞬で済みますから!』
シラギク『ヤァアアアアア‼︎』
シラギクはゴーレムの腕を斬り落とした。
シラギクの持つ妖刀の力もあるが、流石にゴーレムも驚いたらしい。
ゴーレム『腕を⁉︎なんで邪魔をするんですか‼︎』
ゴーレムは残ったもう一方の腕でシラギクを殴り飛ばした。
シラギク『カッ…⁉︎』
シラギクは壁に叩きつけられ気を失ってしまった。
殴り飛ばしたゴーレムがノブの方に向き直ると、頭上には刀と斧を振り翳したノブとアマルが鬼の形相で飛び上がっていた。
ゴーレムは三枚おろしになった。
だがこのゴーレムは驚くべきことに空洞になっていた、そしてその空洞にはアウラ族の中性的な見た目をした少年が入っていたのだ。
少年は自身が斬られる前に逃げ出していたのだ。
ノブ『子供…?シラギクと同じくらいか。』
少年は地面に降りると再び土を見に纏いながら口を開く。
ツチシロ『子供じゃ有りません!僕は土代(ツチシロ)という名前があるんです!天首様の邪魔をする貴方方を僕は許さない。』
アマル『その言動、どう考えても子供だろうが!だがそんな事はどうでもいい。』
ノブ『ウチのお嬢を傷物にされたんだ…お仕置きじゃすまねぇぞ小僧!』
カムロザエモン『怒髪衝天、あの二人にとって一番隊の隊長であるシラギクは妹も同然…ああなっては手が付けれぬからな…。』
ツチシロ『天首様にひれ伏せ‼︎』
ゴーレムの腕はノブに向かい振り下ろされる。
ノブは大斧で拳を押さえる。
ノブ『ッ…‼︎オオオオオ‼︎‼︎』
ノブは拳を押し返す、押し返された事によりゴーレムは体制を崩し、片足だけで体勢を維持する形になった。
そこにすかさずアマルが残った片足を両断した。
足を失い、倒れたゴーレムに二人はトドメを刺そうとするがゴーレムの両腕がまるでロケットのように飛び出し二人を殴り飛ばした。
カムロザエモン『…ここは彼奴等に任せるべきか。レオンクール伯、まだ城の中には上様と若様が居られる。どうかお二人を救い出して頂きたい。』
タジムニウス『カムロザエモン殿。』
カムロザエモン『特に上様はお体が優れぬ、何かあれば事だ。どうかお早く。』
タジムニウスは何も言わずに立ち上がると、二人を連れて城の中に入っていった。
カムロザエモン(然し、ガボウサイがここに居なかったのは残念でならんな、上手くやればどさくさに紛れ始末出来たものを…。今彼奴はヒンガシの大幕府に居るが…よもやあやつ、こうなる事を知っててヒンガシに向かったのではあるまいな…まぁ今はそんな事に構っている暇は無いか。)
三人は襲い掛かるお遣いや信者を切り伏せながら天守を目指した。
そして三人はとある人物を発見する。
腰元『どなたか!どなたかいらっしゃいませんか‼︎』
声を聞いたタジムニウスとジェピは襖を開けると、部屋に居たのは数人の腰元と青ざめた顔をしてグッタリしたクガネ幕府の君主将軍ノブトラだ。
腰元達は悲鳴をあげたが、タジムニウスがヘルムを取り、王国の紋章を見せる事で味方である事を示した事で腰元達は落ち着きを取り戻した。
タジムニウス『上様は如何なされたのだ!』
腰元『持病の癪が悪化したのです!城からお逃げになる時に急に気分が悪そうに。』
タジムニウス『不味いな…レディ!』
ジャンヌは治癒魔法を唱える。
だが将軍ノブトラの苦しそうな顔は変わることはなかった。
ジャンヌ『なんとか鎮静はしましたが、医者に診せないと危険です!』
タジムニウス『ここに居ては火が回ってくるかも知れない。レディ、君は上様と腰元達を守り、城から抜け出すのだ。』
ジャンヌ『では総長は‼︎』
タジムニウス『私はこの男と若君を探す。腰元殿、この城にも幾つかの抜け道はあろう、そこまでこちらのオルタンシア卿を導いてやってくれたまえ。案ずるな道中敵が出てもオルタンシア卿に敵う者は居らん。』
ジェピはこのやり取りをしている間ただジッと将軍ノブトラを見つめていた。
ノブトラ『伯…。』
タジムニウスはノブトラの前に膝を着き顔を近づけた。
ノブトラ『ノブシゲを…お頼み申す…。』
タジムニウスは頷くとジャンヌに行けと合図した。
ジャンヌも頷き腰元達を連れて行こうとした。
ノブトラ『頼んだぞ…。』
その言葉にタジムニウスと一緒に走り出していたジェピは立ち止まった…。
だが直ぐに後を追うべく走り出した。
ジェピ『父上…。』
ジェピは誰にも聞き取れぬほど小さな声でそう呟いた。
二人が天守に登るが、そこにはノブシゲは居なかった。
タジムニウス『居ない、城内の別の館か。』
ジェピ『やはりあそこか…こっちだ大人買い!』
タジムニウス『アテがあるなら頼りになるぞ!』
ジェピに連れられタジムニウスは走る。
目指すは天守東側に建てられた武家屋敷。
そここそが将軍一族が暮らす館らしい。
二人が館を目指し天守の外に出ると、地面から突然木が生えて来た。
それは意思を持ってタジムニウス達に襲いかかって来たのだ。
タジムニウス『俺がやろう。』
タジムニウスは大剣ソルグリムを抜刀すると、刀身は薄ら暗い青い光を放ち、光放つ大剣を払い、タジムニウスは襲い掛かる木々を切断した。
切断された木々は燃え盛り灰となった。
タジムニウス『……術者が近くにいるな。おいカッパ、俺がここを引き受けてやる。お前は若君を探せ、無事に城からお連れするのだ。』
カッパ『おめぇはどうすんだ!』
タジムニウス『この挑戦を受ける。王国筆頭騎士は挑んでくる者に決して背は見せぬ。』
ジェピに先を急がせたタジムニウスは大剣を地面に突き刺し、吠えた。
タジムニウス『我はブレトニア王国近衛騎士団総長、王国筆頭騎士。前レオンクール公オクタヴィアヌスの子タジムニウス・レオンクールだ。この挑戦を受ける、顔を見せよ‼︎』
するとタジムニウスの目の前に一人の忍びが降り立った。
タジムニウス『忍者…貴様が今の術の術者か?』
イツキ『我はイツキ…天首様の為に…いざ尋常に。』
タジムニウス『テロリストが…真っ当な死を迎えられると思うなよ下郎が!』
タジムニウスは大剣ソルグリムを担ぐ、イツキと名乗った忍びは刀を…いや木刀を抜いた。
タジムニウス『木刀だと…。』
両者は上段で構えた。
一時の静寂が流れたと思った瞬間、両者の互いの得物はぶつかり合った。
ソルグリムと木刀はぶつかり合う。
タジムニウス『このソルグリムと打ち合うだと⁉︎なんて木刀だ!』
イツキ『この刀は霊木刀樹海丸。お主らの言葉で言うなら神樹より削り出した一振りよ。』
タジムニウス『ほぅ…。』
両者は打ちあうがイツキの方が優勢に戦いを進めていった。
タジムニウス(流石にここまでの手練れが相手ではソルグリムでは相性が悪いか…ならば。)
タジムニウスの圧殺しようと木々が迫る。
タジムニウスは木々を斬るとソルグリムをイツキに向かって投げた。
イツキはソルグリムを弾くと今度は佩刀ライオンクローを引き抜いたタジムニウスが襲い掛かる。
忍刀と片手剣で有れば重さの差が少ない。
重く、リーチのある大剣ではなく片手剣に持ち替えたのだ。
だがイツキも負けじと手で印を結ぶと木々はイツキの姿をした木偶人形になった。
木偶人形は本体ほど強くはないが数で攻めて来たのだ。
タジムニウスは火魔法で作り上げた鎖をソルグリムに巻きつけ大剣を引き戻した二刀流で応戦するが多勢に無勢だ。
タジムニウス『流石にこれはマズイな…仕方ない奥の手を…』
と言いかけた瞬間だった。
木偶人形達が一斉に焼き払われ、砂利を踏みしめながら歩く研究者風のララフェル族…いやエレゼン族の幼児とその護衛だろうか、数人の西洋風の出立をした侍のような連中が現れた。
『お困りのようですなレオンクール伯。』
研究者の幼児は歳に不釣り合いな薄笑いを浮かべながら近づく。
タジムニウス『助力には感謝しよう。だが卿は何者かな?』
スガク『我輩は幕府霊理器官に勤めておりますスガクと申します。レオンクール伯。』
タジムニウス『その歳で…いや仮の姿かな?かの幕府直轄の魔法研究機関の研究者が私の助けになるのか。戦えるのかな少年?』
スガク『我輩はこう見えても、歳を経ているよ君?』
護衛の一人がスガクに耳打ちする。
護衛(宜しいので…総代?)
スガク(手負の獅子を相手取りながら仕事をするのは割に合わぬガボウサイ殿の頼みとはいえ邪魔が二人もいれば達成するのは困難と言わざるを負えん、それに我輩はあの獅子殿が気に入っていてな。諸君らも気にいると思うぞ。)
イツキ『無駄話は終いだ…参る!』
イツキが新たに生み出した木偶人形と共にタジムニウス達に襲い掛かる。
タジムニウスは大剣を収め片手剣と盾で応戦し、スガク一党らもそれぞれの得物を手に取り戦う。
街で、そして城で戦いは激化していく。
ジェピは館に入り、ノブシゲを探す。
そして奥の間から剣戟が聞こえ、音の方へと駆ける。
奥の間に入ると何人かの六道党信者の武士とノブシゲが戦っていたのだ。
ノブシゲは三人と斬り結んでいたが遂に刀を落とされ、膝をついてしまう。
信者『覚悟ォォォ‼︎』
ノブシゲは目を瞑った。
だが自身の意思はまだ途絶えていない。
首は繋がっている。
逆に刀を振り上げた侍が槍で貫かれて死んでいる。
ジェピ『立てノブシゲ!武士が最後まで諦めるな‼︎』
ノブシゲ『貴方は…⁉︎』
ジェピ『刀を拾え‼︎』
ノブシゲは我に帰って刀を拾うともう一人の侍を切り伏せ、ジェピもまたもう一人の侍を突き殺した。
ジェピ『怪我はないか?』
ノブシゲ『はい、あの、ありがとうございます兄上…。』
ジェピ『ここで兄と呼ぶな。お前に兄は居ないのだ。』
ノブシゲ『わかっています…でも助けて貰った礼くらいはさせて下さい。私はいつでも貴方の帰りを待っているんです。』
ジェピは何も言わなかったが、着いてこいと合図した。
二人が館を出るとタジムニウスとスガク達がイツキとその木偶人形と戦っているのを見つけた。
ジェピ『大人買い!』
タジムニウス『若君!ご無事か!』
イツキ『むぅ…しくじったか…かくなる上は。』
と言いかけたイツキだったがまるで何かに呼ばれたような様子を見せた。
イツキ『承知。』
と唯一言残し、イツキは煙玉を投げ姿を消した。
スガク『逃げたか、しかしあの木遁使い実に興味深い。』
一方タジムニウスはジェピとノブシゲに走り寄り無事を喜んでいた。
護衛達が矢を番えようとしたがスガクは静止した。
スガク『辞めておけ、あの獅子殿を怒らせて我々は五体斬り刻まれるのがオチよ。』
一方
ツチシロ『天首様…?…分かりました直ちに引き上げます。』
ツチシロはゴーレムで突然穴を掘って姿を消した。
その場にはノブとアマル、手負のカムロザエモンと気絶したシラギクが残された。
ノブ『あの小僧逃げやがった…。』
アマル『何かに呼ばれたような素振りだった…。いや今は…。』
二人はカムロザエモンとシラギクに走り寄った。
【NEOクガネ城下町】
エンケイ『チッ、時間切れか。おめぇら!天首様に感謝しな、お慈悲を下さるとよ‼︎裁きの日まで精々家族ごっこでもしてな雑魚ども‼︎』
エンケイはカツドン達にそう吐き捨てると空に飛び上がると炎を推進力にして空を飛んで消え去った。
カツドン『シキ…オシオキを頼みたい。』
シキ『言わなくても分かってるよカッちゃん…あのクズは絶対落とし前をつけさせる。』
そして…
スイカク『…どうやらこれにてお開きのようですね。それではご機嫌よう。』
スイカクは水の球体に包まれたと思った瞬間、水は地面に落ち、中にいたはずのスイカクは姿形も無くなっていた。
ライ『あの巫女は?』
ジョージ『転移魔法か…つくづく良くやるお嬢ちゃんだ。』
城と街で次々とお遣いが塵となって消え失せ、信者も新世界秩序と書かれた札を地面に叩きつけ転移魔法で何処かへと消え去った。
かくして冬の縁日を狙って行われた六道党信者による最大級のテロは終わった。
【翌日 NEOクガネ城広間】
アマル『死者、行方不明者共に把握しきれず、負傷者に至っては十万人に達する寸前との報告が上がっています。クガネ城、及びNEOクガネ城下町港湾区から大通りに掛けての被害が凄まじく焼失した家屋も多数存在し、多くの民衆が路上での生活を余儀無くされるとのこと。』
ノブシゲ『…そうか…大義である。ガボウサイは何と?』
カムロザエモン『臣が居らぬ間にこのような狼藉が起こったのは誠に遺憾でありますが、ともあれ上様、若君が共に健在なのは喜ばしい限り、このまま手ぶらでは戻れぬ故、臣は大幕府の上様、そして帝にお会いし、援軍を連れ再びこの地を踏めるよう努力する所存との事。』
翌日NEOクガネの被害を確認する為の評定が開かれた。
幸いにもクガネ城は軽微な損害で済んだが、行政、経済、人的に甚大な被害を被ったNEOクガネはかつての栄華と程遠くなってしまっていた。
更に将軍ノブトラが病に倒れ、命は取り留めたが当面政は取れなくなってしまった。
そこで幕府は若君ノブシゲを急遽将軍代理として立て、現場にいる最高官僚である若年寄りカムロザエモンがそれを支える形になっていたが、官僚の多くはガボウサイ派の官僚達であり、この臨時政府は実に不安定だった。
更に不幸は重なり、いや、そんな状況ゆえか城の前にはどうしてこうなったのだ、家族を返してくれと説明と謝罪を求める民衆がごった返していた。
そしてこの評定にはタジムニウスも呼ばれていた。
勿論テロに対して出動し、被害を抑えるべく行動してくれた事への礼もあるが、六道党の裏にある存在、アジム帝国第三皇子オズク率いる軍勢への対抗策を練る為である。
ノブシゲ『レオンクール伯、どう思われますか?』
タジムニウス『これは間違いなく一種の破壊工作でしょう。難攻不落の城を落とすなら奸計を持って城の門を開けさせたり、城壁を内側より崩すのと同じ様に、この国の力を削ぎに掛かったのです。彼奴等はこの国の人間が死に絶えようとかまわぬ故にこの様な暴挙に及んだと思われます。』
広間にいる官僚達は喉を唸らせ重い思いに悩んだ。
タジムニウスは更に口を開き、ノブシゲに進言した。
タジムニウス『若君、民衆は説明を求めています、この理不尽に対して、何故かと。若君全てお話になるのです。東の帝国が攻めてくると、その尖兵として六道党信者が挙兵したというのです。彼らの怒りをまず敵に向けるのです。時が来たらばその怒りを力にしなければなりません。』
ノブシゲ『力にする…?まさか!』
タジムニウス『お言葉ですが、オズク軍が到来した時に戦力が皆様と我が騎士団だけでは到底敵いません。我らが勝つためには我が本国より援軍として到来する第三軍団の力が不可欠、それまでにクガネを守る為にこの地の民草を兵士としなければなりません。』
官僚達はざわついた。
だが西方出身者達から至極当然のことなのだ。
如何なる政治形態であろうと国家防衛は国民の義務であり権利であるからだ。
少なくともタジムニウスはこの国の民衆に不戦という選択肢を許す気はなかった。
タジムニウス『勿論民草悉くではありませぬし、オマケに雑多な小火器や武器で対抗することになるでしょうが…御安心下さい。我らは兵の数さえどうにかすれば圧倒的に有利です。』
カムロザエモン『ほぅ。』
ノブシゲ『民草を武装すれば有利になるのか?』
タジムニウス『左様、まず第一に戦略的に敵は不利を被りまする。敵は海上より攻め立てる都合上何が何でも港湾区より上陸したがるはず、郊外に無理くり上陸しようものなら一度に上陸出来る数は港を抑えた時よりも遥かに少なく、時間も掛かる。そんな手間と時間をかければ各個撃破されるのは目に見えております。よって彼らは必ず港より攻め登る、裏を返せば我らは敵の侵攻地点が分かるので幾らでも待ち構える策や罠を張れる。』
タジムニウスは続けた。
タジムニウス『第二に、敵は士気と補給の面に問題を抱えているということ、敵軍本隊、つまりアジム帝国の軍隊は内陸国の軍隊、上陸戦などやったことが無い、だからこそ彼奴等は努馬(ドマ)帝国の兵を多数徴募しましたが徴募された努馬兵達は蛮族の命令で死地に飛ばされるというだけで厭戦気分が漂っている。それをオズクは恐怖で締め上げるでしょうがそんな軍隊は長続きしない。だからこそ、ここで六道党の信者達で底上げをしたわけですが所詮奴等もついこの間まで土いじり、良くても山賊の類で正規兵ではない。軍の質が落ちれば士気もそれなりになります。更にクガネとドマは海を挟んでおり、彼奴等は我が国に上陸出来ぬ限り補給を受けれないのです。報告通りの大軍勢なら到底洋上で、然もほぼ年中波の高い紅玉海での補給など不可能に近く、補給無き、いや飯無き軍隊は羊の群れにも劣る。対する我らは兵糧を直前まで溜められるばかりかヒンガシからの供給さえあれば敵よりは待ちましょう二月ほどなど簡単に耐えられます。』
官僚達は目を輝かせた、勝利するイメージが頭の中に湧いたのだ。
タジムニウス『お分かりかな諸君、この戦は我らが勝つのです。正直第三軍団の力は不可欠と言いましたが、ここまで有利だと我らだけで勝つ事は実は夢物語でも無いのです。言い換えましょう確実に、然も楽に勝つためには第三軍団の力が不可欠と言ったとこですな。兎も角そのための策や準備をこの私に用意させていただければ確実な勝利を齎しましょう。』
ノブシゲは立ち上がりタジムニウスの前まで歩くと、目の前に座りその手を取った。
ノブシゲ『どうか、どうか我が民草をお救い下さい伯爵!』
タジムニウス『勿論そのつもりです、その為には若君、貴方も戦う覚悟をなさいませ。貴方が総大将になるのですから。』
一旦評定はお開きになり、タジムニウスとジャンヌとエルダ(二人は護衛としてついてきた。)は城の部屋に通された。
エルダ『然し、何とかなりそうで安心した。第三軍団が到着すれば一挙に我らが蹂躙する側になる。飛行軍艦の艦隊に掛かれば船団などひとたまりも無い。』
ジャンヌ『総長のお言葉に皆があれほど目を輝かせていましたから、今度は戦の時の総長の軍略を見れば皆子供の様に大はしゃぎするでしょうね。』
タジムニウス『だが油断は禁物だ、想定外の事にも対応しないといかんからな準備は念入りにする。直ぐに私が今から言う人達をこの城に』
と言い掛けた時一羽の伝書鳩ならぬ伝書木兎が飛んできた。
大使館所属の木兎だ。
タジムニウスの肩に止まった木兎は嘴に文を咥えていた。
タジムニウスは木兎を撫でると木兎は甘えた声を上げながら手紙をタジムニウスに渡した。
タジムニウス『何事だろう、ひょっとして第三軍団が出発したか?だとしたら楽になるんだが…』
ジャンヌ達二人は文で顔を隠したタジムニウスを見つめていた。
一体何を知らせる文なのか。
タジムニウス『諸君。』
タジムニウスは文を降ろし、こう言った。
タジムニウス『クガネは滅びるぞ。』
ジャンヌ『は?』
エルダ『は?』
部屋に沈黙が流れた。
ジャンヌ『今なんと?滅びるとおっしゃいましたか??』
エルダ『だが、さっき評定の場では圧倒的に有利な戦いになるから勝てるみたいな事言ってたではありませんか⁈』
それに対してのタジムニウスの答えは耳を疑うものだった。
タジムニウス『誰が言ったぞな、そんな無責任な事…。』
ジャンヌ『総長です…。』
ジャンヌが呆気に取られながら返すとタジムニウスはしまった…という表情を浮かべながら答えた。
タジムニウス『間違いでは無い事にはそうなんだがそれはあくまで援軍が来る事前提の話なんだ。』
エルダ『えっ?どう言う事ですかそれは?』
タジムニウス『援軍が来れなくなった…。』
ジャンヌ『ハァァァァァァ⁉︎⁉︎』
エルダ『ハァァァァァァ⁉︎⁉︎』
説明するとこうだ。
確かにブリテオン本国は援軍を用意していたが、西側でも突然、事態が急展開を迎えていたのだ。
ブリテオンと相対する大国、かの大罪の七騎士を擁するかの帝国のブリテオン国境に隣接する衛星国達が突如挙兵しブリテオンに迫ったのだ。
ブリテオンは当然迎え撃つべく軍を召集した、だがその直後、今度は南西諸国が国家連合を創設し、この新たな連合はブリテオンとの国境に兵を集め始めたのだ。
こちらは明確な侵略をすると言う動きは見せていないがブリテオンとしては警戒しなければならない。
二方面に大軍を差し向けなければならなくなったブリテオン本国は第三軍団を援軍にやる余裕が無くなったのだ。
その為第三軍団はまさかの待機命令が下されたのだ。
ジャンヌ『なっ…⁉︎一大事ではありませんか‼︎』
タジムニウス『偶然とは思えん、恐らくオズクと六道党の差金だろう。』
エルダ『どうするのですか総長。』
タジムニウスは顎に手をやり少し考えた。
そして口を開いた。
タジムニウス『全く分からん‼︎』
NEOクガネ炎上篇Q 完 物語は真へ続く