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本作は以前頒布した拙作『大好きな貴方と』に収録された、典の話の後日談となっております。
ストーリー部分において、一部前作を踏まえた描写が多少ありますが、前作を知らなくても「典と名無し男の、甘めな雰囲気の話の続き」くらいの認識でほぼ問題ありません。
注意点
二次設定、独自設定、独自解釈等があります。
オリキャラ(名無し男)との絡みになります。また、男には台詞があります。
1.
見慣れた鼻緒の草履が、玄関の脇に揃えられていた。
今やいつもの光景となったものではあるが、こうしてふとその草履が目に入ると、未だに改めて実感が沸き上がり嬉しくなる。ああ、一緒になったんだなあ、と。
姿を見ないうちから早くも幸せを噛み締めつつ、「ただいま」と家中にいるであろう者に呼び掛ける。すると、その者――典は、台所の方から狐耳、頭、すっかり大きくなったお腹を覗かせてにっこりと笑った。
「お帰りなさい。晩ご飯、もうできてますよ」
いつだったか、典に子どもが欲しいと可愛らしく、加えて非常に彼女らしくねだられ、激しく求め合った日があった。
そして、その日以来、二人とも日々の生活でも子づくりを意識するようになり、やがてそれは実を結んだ。そう、典は自分との子を身籠った。人間と妖怪との間となると可能性は非常に低い中、授かったと分かった時は二人ともとても驚き、何よりとても喜んだものだ。
それから、様々なことがあった。以前住んでいた家を引き払い、新たな家への引っ越し及び同棲。友人やその伴侶ぐるみで始めた新生活と事業。“一人目の子”の出産――。
「子どもたち、みんなよく寝てましたね。あの様子だと朝までぐっすりです」
「だね。典、今日も一日、お疲れ様」
「いえいえ、貴方こそ」
子どもたちを寝かしつけ、自分と典は再び居間に腰を下ろす。卓袱台を挟み、ではなく隣り合って座る彼女は、自らのお腹を優しく撫でる。
そう、既に自分たち二人の間には、三人の子どもがいた。典のお腹にいる子は、実に四人目だ。
引っ越し等々を終え、一人目の子が無事生まれてからおよそ一年が経った頃、典に二人目を求められ、授かったら嬉しいね、でもやっぱり難しいかもね、なんてお互いに言っているうちに、あっと言う間に二人目を懐妊した。そんな流れが、二人目が生まれて約一年後、三人目が生まれて約一年後、と続き、あれよあれよともう四人目である。
「あ、お水、もう無いですね。ちょっと汲みに……」
「いや、典は座ってていいよ。俺が行くから」
空の湯飲みと水差しを見て立ち上がろうとした典を制し、代わりに自分が立ち上がる。典の「では、お願いしますね」の声に頷いて、水差しを手に廊下に出て台所へ向かう。身重な彼女には、少しでも楽にしていて欲しい。
以前までのような、まだ二人だけだった頃の自分たちなら、今頃お酒と肴で晩酌でもしていただろう。しかし、今は二人ともお茶や水で静かに喉を潤すのが日常となった。
一応、典は『貴方は呑んでもいいですよ』と言ってくれているが、元々嗜む程度だったので彼女の妊娠に合わせて二人して断って早数年だ。とはいえ、身内だけの飲み会ではほんの少しだけ、まさに嗜む程度を典公認で頂いているし、それで十分に満足している。
水差しに半分程度、新たな水を汲み、居間に戻る。襖をすっと開けると、そこには――当たり前ではあるが――、典が静かに座っていた。
自らの膨らんだお腹を見下ろして、緩く撫でる愛妻の姿。表情や瞳は母性に満ち、まだ見ぬ赤子を愛おしそうに優しい手つきで撫でていた。
妖怪ということもあり、典自身の見目は出会った頃から殆ど変わっていない。妊娠、出産に伴って体形に変化こそ出たが、身長が大きく伸びたとか、顔付きが目に見えて艶美になったとか、そういう類のものはない。でも、確かにそこにいる典は、慈しみに満ちた母親そのものだった。
「お帰りなさい。……どうかしましたか?」
「……あ、うん、ただいま」
つい典に見惚れてしまい返事が遅れると、彼女は座ったままこちらを下から覗き込む。
「お疲れですか? 今日は普段より暑かったですし、畑作業は大変でしたよね」
典は未だに襖の近くで突っ立っていた自分に向けて、ちょいちょいと手招きする。
何だろうか、と水差しを一旦卓袱台に置いてから、彼女の傍らに腰を下ろす。
「元気が出るおまじないです」
典は空いたこちらの手を取って、自らのお腹にそっと乗せる。先の彼女の姿を無意識に倣い、自然とお腹を撫でると、彼女は小さく笑う。
「分かりますか? 今、撫でているのが貴方のおとうさんですよー」
典もお腹に手を当てて、しかし撫でずに語り掛ける。いつもと変わらぬ敬語の口調は、他の子どもたちに対しても同じだったりする。もはや癖が抜けないと本人は言うが、子どもたちも似た口調が常になってきており、親子揃って可愛らしくて仕方ない。
「あ、今、動きましたよ。分かりましたか?」
「うーん、言われてみればそんな気も、くらいかな」
「そうですか。まあ、今くらいの時期はお腹越しだと分かるかなどうかなってくらいですから、仕方ないですね」
典は自らのお腹を見下ろしつつ、うんうん頷く。流石四人目ともなると、貫禄がある。
なんて言い合っていたその時、お腹に当てた手の平に押されるような感覚が走った。
「あ、今のは俺も分かった」
「ふふ、私たちの話、聞こえていましたかね。おとうさんに撫でてもらえて嬉しいって、おかあさんと、みんなのために頑張って、と言ってますよー」
典はこちらの耳元に口を寄せて、潜めた、そして優しい口調で囁く。
おまじない、という語句もそうだが、人の心を可愛くくすぐる術に関してはもう貫禄があるなんてレベルではない。根に付いた性分、能力だった。でも、それで本当に元気が湧いてくるのだから、全くもって流石だ。
「でも、典」
「なんですか?」
「典も、お疲れ様。俺が出ている間、子どもたちの面倒も見て、家事もして、本当に偉いし、凄いよ」
自分も出来るだけ手伝うようにはしているが、全てを請け負うのはやはり現実的に厳しい。かと言って、友人たちやその伴侶も含めた共同作業を自分だけがずっと休み続けるのも、少々難しい。向こうには向こうの暮らしや事情もあるし、今の時点で作業量や拘束時間はかなり減らしてくれているし、特に飯綱丸さんは典の様子だってよく見に来てくれている。それだけで相当有難く、足を向けて寝られないほどだ。
「ふふ、それは謙遜せずに受け取っておきますね、ありがとうございます。愛する愛する旦那様のその言葉が、私の心にはとても沁みますよ。貴方も囁き上手になりましたね」
典は指で狐を作ると、こちらの口元をつんつんつつく。
「ですが、まだ甘いですね。十全に気が回っていない大きな部分が一つ」
「それは、ご教授を願っても?」
そう尋ねると、典はこちらの耳元に口を寄せて、そっと囁く。
「行動でも示してくれると、もっと効果が有ると思いますよ」
「はいはい」
ストレートな甘え方に少し笑って、典が隣に来るように少し胡坐の位置を変えて座り直し、彼女の肩を抱き寄せる。典も自ら寄り掛かってきたので、今ばかりは子を宿したお腹ではなく、彼女自身の頭を優しく撫でる。
手に当たる、時折跳ねる狐耳と、腰に当たる大きくゆったりと揺れる尻尾が、とても可愛らしかった。
今までつい放置していたが、水差しから二人の湯飲みに半分程度水を注いで、自分の湯飲みを手に、くいと一口分だけ水を呷る。ぬるいと冷たいの中間にあるような温度は、するりと喉を下っていく。
「……あの、さ、典」
「はい」
「……その、体調は、大丈夫?」
「体調ですか? 私もこの子も元気ですし、何も心配ありませんよ。お気遣い、ありがとうございます」
「あ、うん。それは、何より……」
典は小首を傾げて、お腹を撫でながら滞りなく答える。
何もおかしくはない返答なのに、一方で自分がそれに返したものは、つっかえたもので。
そんな返事に典は口の端を少しだけ緩める。
「因みにですが、私の見立てでは先程言ったとおり、子どもたちはみーんな朝までぐっすりだと思いますよ。もしも起きてきたとしても、精々日を跨いで暫くした頃に、お手洗いに~ってくらいでしょうか」
こういう時の典の言葉は大抵その通りであり、もう三人も子がいると、分かるんだなあ、と感心する――なんて感慨は一旦置いておいて、先の会話とは全く異なる話題、しかも補足付きの内容に、もうこちらとしては察してしまう。分かって言っているな、と。
今の時間は夜でこそあるが、まだまだ居酒屋なんかは盛況な時間帯、日を跨ぐ頃と言ってもそれまで時間は結構ある。それこそ、ちょっとした作業や読書なんかに注力できる程度には。
「典」
「はい」
「お見通し?」
「それはもう」
一切の手心なく典ははっきりと頷き、彼女も自身の湯飲みに水を注いで、くいと一口。
「でも、ちゃんと貴方の言葉で聞きたいです。さ、どうぞ?」
小首を傾げた典の、長い前髪がさらりと揺れる。こちらを覗く黄色い瞳は、見守るようにも、挑発しているようにも見える。普段の可愛らしさの強い印象とはまた違う、大人びた瞳だった。
息を吸って、吐いて、少し乾いてしまった唇を湯飲みの水で潤してから、口を開く。
「典、もしよかったら、これから一緒にどう、かな」
そう言い切ってから、僅かな沈黙の間すら塞ぐように、余った水を一気に呷る。
すると、典は今までのようなからかう様子は一切ない、思いの外嫋やかな笑みを見せると、こちらの耳元に口を寄せて、囁いた。
私も、したいです――。
2.
自分たち二人だけが就寝する部屋、いわゆる夫婦の寝室は、現時点ではこの家に存在しない。時と場合にもよるが、基本的には皆同じ寝室だ。着々と家族が増えてはいるが、襖の取り外しなんかで部屋の広さは融通が利く建築なので、その点に関しては今のところ特に困ってはいない。
とはいえ、自分たちの部屋が無いかと言うとそうでもない。一応、自分と典、二人共用の部屋が一つあり、居間では出来ぬ雑事をこなしたり、自分と典の私物や衣服が置いてあったりする、半書斎半プライベートルームだ。
「ん、んっ、ちゅ、ん~……」
その部屋のど真ん中には現在一枚の布団が敷かれ、まさに今、その上で二人して半裸になって唇を睦み合わせていた。布団自体は予備――とは名ばかりで、二人で愛し合う時にのみ使っている――のものなので、就寝の際に困ったりもしない。
長くは重ねない、短いバードキスを何度も繰り返して、その柔らかな唇の感触を楽しむ。深く激しいものではないが、だからこそこれから少しずつ高めていく期待を強く感じさせた。
いつまでも続けていたくなる、心地よい時間。しかし、先に進みたい気持ちも当然あり、非常に名残惜しみつつも唇をそっと離すと、典は小さく笑う。
「ふふ、たくさんキスしちゃいましたね」
「今じゃあんまり子どもたちの前では出来ないから」
「ですね」
そんな共通認識に二人揃って笑う。
一番上の子が歩き出した頃くらいまでは、行ってらっしゃいのキスなんてものを交わす時もあった。だが、今となってはそんなことをすれば、一、二か月ほど前に乳離れした三人目の子はともかく、一番上の子に「ちゅーしてるー」なんて指を差され、二人目の子が意味を分かっているのかいないのか、それに乗っかってきゃあきゃあと二人で大はしゃぎだろう。騒がしくも賑やかで楽しい反面、夫婦の時間、というものはやはり減ってしまった。
だからこそ、こうした二人きりの時間があると、燃え上がる気持ちは子どもが生まれる前以上かもしれない。
「典も、本当は結構甘えたかったり?」
「それはそうですよ。当たり前です」
典にぎゅっと抱き着かれ、こちらの腹に彼女の大きく膨らんだ孕み腹が当たる。横から触れているだけでも、その存在感はやはり非常に印象的だ。
「子どもたちからすれば貴方は頼りになる格好いいおとうさんですけど、私にとっては、頼りになる、格好いい、心から愛する愛する旦那様ですよ?」
典はそこまで言うと、甘えた姿勢で見上げる。
「貴方は私のだって、本当は独り占めしたいくらいなんですからね?」
そう言って小首を傾げる典の仕草も表情も、とても可愛らしいが何もかもがわざとらしい。
もっとも、彼女の性格上、こういう甘え方しか出来ないのはよく知っている。
「典も、しっかりもので可愛い、みんなの大好きなおかあさんだけど、俺だって本当は典を独り占めしたいよ」
なので、自分も典に合わせて返し、彼女の体を緩く抱き留めて頭を撫でてやる。
それに合わせて、ふわふわと柔らかい狐耳も手で包み込んで柔く揉んでやると、手の中でひくひくと跳ねた。
「ん……、あっ……、ふふっ、貴方に撫でてもらうの、大好きです」
典は尻尾をゆらゆらと揺らし、しっとりとした息を吐く。そう言ってもらえるのはこちらとしても当然嬉しいし、自分も典の髪や耳の感触、それらに付随する可愛らしい反応が楽しい。
ついつい止め時を見失い、いつまでも彼女を愛でていると、典は頬を少しだけ持ち上げる。
「私からも、お返しです」
その言葉とともに、典は自らの手をこちらへ伸ばす。伸ばす先は、自分と同じ、頭や耳ではなく。
「っ、くぅっ……」
「あ、いい声が出ましたね」
典の手が撫でたのは、下着越しの陰茎。円を描くように股間をすりすりと撫でる手つきこそ緩やかだが、口の方は早くも責めっ気が覗いていた。
弱くともじわじわ広がる快感に、屹立は見る見るうちに膨らみ、硬くなっていくのが自分でも分かる。ならば、それに触れて、勃起を促している張本人にも当然伝わっているのは間違いない。
「ふふ、もうこんなに硬くして、せっかちなんですから」
典は頭と耳を撫でる手からするりと抜けて、こちらを至近距離で見やり囁く。
「私みたいな、いたいけな狐に赤ちゃん三人も産ませて、今もお腹を大きくさせて、なのにすぐに発情しておっきくして、わるーいおちんちんです。このままだと、あと何人孕ませられるやら、分かったものではありませんねぇ」
典は分身をつんつんつつき、さも自分は乗り気ではないのに、とでも言いたげな台詞を並べ立てる。当然ながら本気で言ってはいないと分かり切っているが、笑って流すより、自分も適度に抗った方が彼女好みだろう。
「授かりやすい日になるとすぐに欲しがって甘えてくるのは誰だっけ?」
「ふふっ、私一人では赤ちゃんは授かれませんよ?」
「俺一人でもね」
「そうでした、これは失念」
典はにこにこと笑い、肉棒をつつくのを止めると、丸めた手のひらを亀頭に緩く被せる。
「でも、私は大好きですよ、貴方のおちんちん。妖怪である私と、貴方との赤ちゃんが欲しいってお願いをちゃんと叶えてくれた、とってもいい子です」
典は手のひらで亀頭をよしよしと撫でる。柔らかな感触にぞくりと下半身が震えるが、問答を切り上げるには少し早い。
「いいとか悪いとか、言ってる内容が変わってるけど?」
「見方次第、ってことですよ。それに、よくないけれど好き、は両立しますから。体によくないと分かっていても、甘いお夜食は美味しいものです」
「典自身も、わるーい狐だし?」
「こんな良妻を捕まえて何を言うやら」
「はいはい」
ああ言えばこう言う、調子のいい管狐の耳をふにふにと緩く揉む。自称良妻はくすぐったそうに頬を緩めて、ふわふわの尻尾を揺らめかせた。
「では、貴方も待ち切れないみたいですし……」
じゃれる掛け合いに満足したのか、典は陰茎から手を離すと、自らの肌襦袢に手を掛ける。そして、緩く結んで留めていた紐を解き、はらりと脱ぎ去った。
肩、乳房、脚、と一糸纏わぬ肢体が晒されるが、その中でもやはりいの一番に目を惹くのは、大きく膨らんだお腹だ。
出産まで折り返し前後の腹部は、誰が見ても生命を宿していると一目で分かる。それに、典のような妖怪、しかも見目自体はやや幼げにも見える彼女の妊婦姿は、そのあどけない肢体や種族関係なく種付けされれば子を孕む牝である、と強く意識してしまう。しかも、それが自身の子種であり、加えて孕ませてもなお交わろうとする事実が、背徳感に似た劣情を湧き上がらせる。
「ふふ、私を見る目が随分やらしいですよ?」
「やらしい目で見てるからね」
妊娠や出産を経た伴侶に対し、性欲を抱かない、ないし抱けなくなった、なんて話を聞いたことがあるが、自分にはそれは全く該当しなかった。
経産婦になろうとも、再度の妊娠をしようとも相変わらず細く滑らかな肩。それらに伴い、緩やかなものから、手のひらに丁度収まるくらいにバストアップしたぷるんと柔らかな乳房。昔に比べて少しだけ肉付きがよくなったが、依然としてすらりとしなやかな脚。そして、自分と典で血を分け合った子がすくすくと育っている子宮もといお腹と、そのどれもが魅力的だった。
それらの欲望を全く隠さない返答に、典はぷっと噴き出して笑う。
「随分正直ですね。てっきり、何か弁明するかと」
「隠すことでも弁明することでもないからさ。それとも、もう典の体なんて見飽きた抱き飽きた、って言った方が典好みだった?」
「管狐としてそうかもですねぇ。もしも貴方がそんな風に言うお方であれば、破滅させるのに一切の手加減も容赦も慈愛も必要なさそうですし」
「なら、何度子どもを産んでも、妊娠中でも、相変わらず典は可愛くて綺麗で興奮するって自分は?」
「ふふっ、妻としては、そっちの方が私好みです」
典は脱いだ肌襦袢を緩く畳んで傍らに置くと、改めてこちらに向き直る。
「では、どうします? もう入れちゃいます? それとも、手とかお口からがいいですか?」
小首を傾げて、彼女は尻尾をゆらりと揺らす。
さて、どうしようか、と逡巡するが、答えはすぐに出た。
「せっかくだし、いきなり本番じゃなくて、まずは他でしてもらいたいんだけど、いい?」
「構いませんよ。では、ご希望はありますか?」
その問いにも少しだけ考えて、返答する。
「聞き返して悪いけど、典はしたいことある? 典が楽なものとかやりやすいものでもいいし、これしてみたいな、とか」
そう尋ねてみれば、典は傾げた首を反対にまた傾げて、「では」と呟く。
「今だけしかできないやり方で、気持ちよくしてあげますね。さあ、まずは膝立ちになってくれますか?」
典は自身ありげにそう言うと、ちょいちょいと手招きする。
言われるまま、典の方に身を寄せると、彼女は重たげに自らの体躯を持ち上げて膝立ちになり、隣に体を構える。
自分の目の前には、横を向いた典の体躯が来る。向かい合ってではなく横から見ると、細身の体の中でもお腹がぽっこりと膨れているのがよく分かった。
「では、失礼しますね」
典は硬く勃起した陰茎に手を添えて緩く掴むと、自らの膨らんだ腹部の、臍の辺りへ横からあてがう。
肉幹に彼女の柔らかな手と、子を宿したお腹が触れる。分身を両脇から挟む異なる感触と同じ体温に、下半身にぞくりと不思議な感覚が走った。
典は手のひらを広げると亀頭を包み込み、そのままゆらゆらと気ままに揺らして、手とお腹両方で肉棒を撫でさする。
今まで幾度となく味わった覚えのある、細くしなやかな指の感触はやはり心地よく、緩く押し付けられる膨らんだお腹も、すべすべしていて気持ちいい。
何より、自分と典との愛の結晶がすくすく育っているお腹で快感を得る背徳感に、背筋がぞくぞくとわなないてしまう。
「どうですか? こんなこと出来るのも今だけですよー」
典はもう片方の手を口元に添えて、囁くジェスチャーをしながら語り掛ける。体勢の都合上、耳元での囁きでこそないが、その口調や潜めた声音は、すっかり堂に入ったもので。
「貴方のおちんちんがすりすりしてるお腹に、貴方と私の赤ちゃんがいるんですよ。そんなお腹に擦り付けるの、気持ちいいですか?」
自身が感じていた疚しさを典からも指摘され、思わず視線を僅かに逸らしてしまう。
すると、彼女は鼻息混じりに笑い声を漏らし、なおも囁く。
「まあまあ、そう気に病む必要はありませんよ。こうやっておちんちんを擦り付けるくらいで赤ちゃんにはなんにも悪い影響なんて出ませんし、そもそも私の手で気持ちよくなっているだけですし? なら、いいではありませんか」
典は横から包む手のひらで、怒張をふわふわと柔らかく揉む。あくまで、お腹への擦り付けは副次的なもので、こちらが主だと言わんばかりに。
その思惑どおり、陰茎がしなやかな手の中でびくびく震えると、典は静かに笑う。
「そうそう、何も遠慮せず、気持ちよくなりましょう? あ、でも、言うまでもないでしょうが、お腹にあんまり強く押し付けたりしちゃダメですからね」
前半は今までと変わらぬ口調だったが、後半はしっかりとした口調で注意を促す典。
「それは、ちゃんと気を付けます」
「はい、気を付けて下さい。まあ、手綱は私がしっかり握っておきますが」
重ねた注意は冗談めかした声音ではあったが、すっかり尻に敷かれているなあ、なんて思う。もっとも、先程典本人が言った際には流したが、良妻なのは疑いようのない事実なので、全くもって構わないのだが。
「ではでは、続きといきましょうか」
妊婦の膨らんだお腹、それも我が子を宿したもので気持ちよくなることへ、強い背徳感を刺激されながらも愛撫は続く。
典は肉幹の感触を楽しむように陰茎を緩く揉んでは、少し強めに包んで前後に揺すり扱く。大きなお腹に触れている方は何もされておらずとも、滑らかな肌の感触だけで気持ちいい。
次第に我慢汁が鈴口から溢れ出してくると、掴む手の指先がそこへと伸びてくる。
「先っちょからお汁がとろとろ~って出ちゃってますよ。孕んだお腹と小さい手でなでなでされるの、そんなに気持ちいいんですか?」
典は自らの言葉を刻み込ませるように、屹立ごと自らの孕み腹を撫で、自分よりも一回り小さな手で亀頭を包み、丸めた手のひらの中で磨く。
「くっ、うぁっ……」
すべすべのお腹とほっそりした手に挟まれて陰茎はびくんと跳ね、口からは声が漏れてしまう。その合間にも、我慢汁に濡れた典の指は亀頭を捏ねてくる。
敏感な部分を休みなく愛撫され、徐々に精液が込み上げてくるのを感じながらも、最後の一線は超えてしまわないように必死で抑え込む。
「そろそろですか? 射精したくなったら、いつでもいいですからねー」
幾度となく交わった経験からか、典にも射精が目前だと伝わっているらしい。肉棒を包む手には少しだけ力がこもり、撫でるよりも扱くに近い動きへと変わっていく。
射精まで導こうとする典には悪いが、もう少し、もう少しとその時を僅かにでも先延ばしにして、下半身を巡る快感を耐え忍ぶ。無理に我慢するつもりはないが、出来るだけ長く、このむず痒くも心地いい快楽を楽しみたかった。
鈴口からはとめどなく我慢汁が垂れ、分身を挟む典の手と腹部を汚す。あと、ほんのもう少し、とせめぎ合う感覚を押さえ込もうと下半身に力を入れようとした直前、陰茎と触れ合う典の胎内が、どくん、と跳ねた。
「っ……!」
自分は当然、典も予想できない突然の脈動に、張り詰めていた緊張が思わず揺らぐ。
まだ物言わぬ我が子の胎動、それは母親の腹部を僅かに揺らし、それに押し付けられていた分身にも伝わる。典による愛撫と異なる刺激は、瀬戸際を揺蕩わせていた我慢を不意に押し上げた。
「く、あっ、あぁっ……!」
典の手に包まれながら、自分たち二人の子を宿した胎の体温と感触を感じながら、絶頂を迎える。吐き出される精液の一部は典の手に当たって、彼女のお腹に垂れ落ち、残りは孕み腹へ直接かかっていく。
典は陰茎がびくん、びくっ、と跳ねる度に放たれる精液を自らのお腹で受け止め、それが落ち着くと、こちらを見やりにやにや笑う。
「あーあー……、イッちゃいましたねぇ?」
絶頂を迎えた最後の一押しが何か、その胎動を自身の体のものとして知っている典には、やはりというべきかバレていた。はっきりと明示こそしないが、そのにやついた顔は、とても楽しそうだ。
「しかも、それでこんなに射精しちゃうんですから。自分の種を植え付けて孕ませた、自分の赤ちゃんがいるお腹をこんなにして、駄目ですよ、お、と、う、さ、ん?」
口元に手を添えて、囁くような口振りで言う典。殊更に強調された最後の言葉は煽る気満々だが、隙を見せたのはこちらなので何も言い返せない。せめてもの抵抗に、彼女の狐耳を柔く揉むと、反射的にか、耳はくすぐったそうに震え、尻尾もわさわさと揺れた。
「それにしても、たくさん射精しましたねぇ」
今までに四度も典を孕ませ、今はその孕ませたお腹にべっとりと付着した濃い精子を彼女は見下ろす。
無遠慮に吐き出された精液は、典の胎は自分のものだと、自分が孕ませたんだと言わんばかりに我が物顔で汚し、誇る。そんな浅ましい欲望の発露を浴びた張本人は、にこにこした笑顔でその白濁に指を伸ばした。
「ほら、これなんてすごいですよ。こんなにおっきくて、ぷるぷるしてます」
典は精液にべったりと塗れた自らのお腹を改めて見下ろすと、その白濁の中でも一番大きな塊に指を伸ばして掬い上げる。粘ついた精液塊は持ち上げる指にも絡み、離れるお腹にも太く白い糸を引く。
そして、典はそれを躊躇なくじゅるりと啜って口に含むと、数回の咀嚼のあと、こくんと飲み込んだ。
「ん、精液、しっかり濃い……。ちゃんと定期的に出してるお陰ですかね」
典は満足げに口角の端を緩く持ち上げる。彼女の言う通り、基本的に二日に一度、典はいわゆる下の世話――但し、手か口で、だが――までしてくれている。二日に一度なのは、典自身は『貴方がしたいなら毎日でも、何回でも、いつでも構いませんよ』と言ってくれているのだが、身重の体に悪いので、自分が遠慮してこうなっている。
曰く、定期的に出さないと精力の衰えに繋がるから、らしい。そのお陰か、確かに妊娠期間や生まれた子の育児も多少落ち着いた辺りで、また赤ちゃん欲しいですなんて甘えられても一切の翳りはないし、それどころか第一子を授かってからというもの、精力は増している感があるが。
既に妊娠しているにもかかわらず、子種を味わい、その濃さに喜ぶ典の淫靡さに見惚れていると、彼女はぱちんと軽く一拍する。
「はいはい、いつまでもこのままじゃダメですよー」
不意の高い音に意識をそちらに戻すと、典は傍らに置いていたタオルを手に取って、笑顔で手渡してきた。
「はい、子どもたちの見本になるように、ちゃんと自分で綺麗にして下さい。おとうさんが汚して放っておくのは教育に悪いです」
「……了解。それじゃ、失礼して」
自分たち以外いないのに言い聞かせるような口振りで言う典に、こちらからも軽く笑って返し、受け取ったタオルで汚してしまったお腹を拭く。
自分が吐き出した精液を拭き取る行為ながら、タオル越しに撫でる腹部の質感になんとも背徳感を煽られつつも、しっかり拭いていく。
「……はい、よくできましたー」
綺麗になったところで典はぱちぱちと拍手して、拭いたタオルを受け取り脇に戻す。すっかり子ども扱いだな、なんて少し笑っていると、典はこちらに向き直り、可愛らしく小首を傾げた。
「では、次は私にしてくれますか?」
「ん、分かった。じゃあ……、典がこっちにくると楽?」
「ですね。では、失礼して」
自身の胸をとんとん叩き尋ねると、典は頷き、向かい合っていた姿勢から背を向けて腰を下ろす。緩く組んだ胡座の中へお尻をすっぽり収めると、ふわふわの尻尾は膝の上に乗せて横に避け、背中をこちらの胸に預けた。
「ふふ、こうしてると、なんだか落ち着きます」
「そのままリラックスしてていいよ。あとは俺がするから」
「お言葉に甘えてお任せしますが、あんまり退屈だと寝ちゃいますからね」
「はいはい、気を付けます」
典の軽口に、頭をさらさらと撫でて応える。狐耳の根本を指先で掻いてやると、彼女は気の抜けた声を漏らし、こちらの胸に体重を預けて寄り掛かった。
妊娠前に比べて、少しだけ重量感の増した典の体。しかし、それでも小柄な体躯はまだまだ軽くて、その体を抱き締めつつ前へと手を回して、重さの理由へ手を添える。
「ふふっ、私や子どもたちに似て、この子も撫でられるの好きでしょうから、いっぱい撫でてあげて下さいね」
自分と典との子を宿した、彼女の大きなお腹。その臍の辺りにそっと手を置いて、優しく撫でさする。典がよくしているように、緩やかな手つきで。
「今、なでなでしてくれているのがおとうさんですよー。おかあさんの手より、大きいでしょう?」
典はその手に自らの手を重ねて、お腹に優しく語り掛ける。まだ生まれてすらいない子に、言葉の意味が理解なんてできるわけはない――が、それでも、撫でる手の奥で、胎内はとくんと揺れる。
楕円に膨らんだお腹をその盛り上がりの始まりから終わりまで、上から下へ撫で、一頻り撫でたあと、次はその上へと手を向かわせる。
「んっ……」
お腹と同じく、妊娠してから大きくなった乳房。膨張具合だけで考えると腹部とは比べ物にならないとはいえ、なだらかだった丘は手のひらで掬い、弾ませるくらいにはボリュームアップしていた。
そんな乳房を手のひらで持ち上げて包み、五指で揉み込むと、滑らかで柔らかな感触が返ってくる。
「おっぱい、もうこの大きさが普段どおり、って感じになったね」
「赤ちゃんがおっぱいを飲まなくなってくるといずれ元に戻っていく、とは聞きましたが、一番上の子を妊娠してから、ずーっと妊娠してるかおっぱいあげてるかですからねぇ。元に戻る暇もありません」
典は揉まれる乳房の胸元辺りを自身の手でもやわやわと緩くほぐしつつ、やれやれとばかりに息を吐く。
「それは、なんというか、申し訳ない」
「いえいえ、困っているとかではありませんよ。むしろ、私としてはもう少し大きくなってくれると、嬉しいくらいなんですが」
「あ、そうなの?」
「だって、もう少しあれば貴方のを挟んであげたりとかもできるでしょうし?」
典はもたれた姿勢でこちらを振り返ると、横顔を見せてにこにこ笑う。
「大きさ問わず色々とやりようはありますが、おっぱいでする、といえばやっぱり挟んでずりずりって感じじゃないですか」
「うん、そのイメージだね」
「でも、それにはもう少し大きさが欲しいんですよね。でも、あれから何度も妊娠して赤ちゃんも産んでるのに殆ど変わりませんし、妊娠や出産での変化はこの辺りが打ち止めですかね」
乳房を持ち上げるこちらの手に、典は自身の手を添えて、下の手越しに揉む。当然、内側にある自分の手には乳肉の柔らかさがはっきりと伝わる。
典の言う通り、いかにも分かりやすく“胸で奉仕”するならば、確かにもう一回りくらい大きいと見目も実感も強いだろう。
「ですから、貴方からもいっぱい揉んで、マッサージして下さいな。ほら、育乳ってやつですよ。おっぱいの出も、もっとよくなるかもですし」
典はもう一度双房をこちらの手の上から揉んで笑うと、そっと手を離して後を任せる。
そうお願いされては、こちらとしても断るなんて――元々その気は無かったが――できず、柔肉を緩い手つきでむにむにと揉む。
脇の下辺りから、贅肉らしきものは殆どないものの、寄せるように外から内へ揉み込み、掬う手のひらでもマッサージしてやると、典は熱っぽい息を漏らす。
「んっ、そうそう、気持ちいいですよ……」
その工程を何度か繰り返し、乳首や乳輪の周りを揉んでいると、次第に指先がぬるついてくる。
汗とは違う、それよりも白っぽい液体。乳輪の少し外側を軽くつまんでやると、その指先に絡みついた液体と同じものが、乳頭やその周りから白く細い放物線を描くほどに勢いよく飛び出す。
「ん、おっぱい、出ちゃいます……、ん、はぁっ……」
乳房から溢れる白い汁。それは紛うことなく、母乳だ。
一番下の子も最近はもう飲んではいないが、母体はまだこうして子を育む母乳を生産していた。もっとも、今も孕んでいる子がいる以上、また暫くすれば必要になるのだが。
脇の辺りから乳丘にかけて手を滑らせ、その終点である乳房の中心辺りで柔肉を揉む度、白い母乳が止めどなく滴り落ちる。
「さっき、典はおっぱいの出が~って言ってたけど、今でも全く問題ないのに、これ以上に出ちゃうと大変じゃない?」
「まあまあ、その辺りは予防ですよ、予防。この子にもたくさん飲んで欲しいのに、間が開いているうちに出なくなっちゃったりしたら嫌ですから」
典は自身のお腹をよしよしと撫で、今はまだ乳を飲めぬがそう遠くないうちに与える相手を示す。
「それに、おっぱいが出るのにもすっかり慣れましたから、少し量が増えたところで大差ありませんよ。貴方と子づくりばかりしてるせいで、止まる時が無いんですよねぇ」
四人目の子を孕んだ典はやれやれとでも言いたげにこちらを振り向き、背中に頭をぐいぐい押し付ける。
こうなったのはさも自分のせいだと典は言うが、そも本人だって幾度と求めたことでもあり。
「はいはい、ありがとう、典。母乳が止まらないうちからでも、俺との子ども孕んでくれて。典が孕むの大好きで嬉しいよ」
そこでこちらからも、いかに彼女が孕みたがりかを耳元で囁いてやる。まるで、孕むことに快感を得ているかの如く、あえて強めの語彙で。
さて、当の典はどう返すか。その返事を待っていると、彼女はこちらを振り向いたまま、にこりと笑い――。
「そうですよ。私は貴方との赤ちゃん孕むの、だーい好きですし、私の子宮は貴方との赤ちゃんを育てるためだけにあるんです。だから、何人でも孕んであげますし産んであげますから、これからもたくさん子づくりして、種付けして、孕ませて下さいね?」
それを認めるどころか自ら誘い掛け、こちらの鼻先を指でつつく。
子を宿した体ながら更にそれを求める淫靡さに思わずたじろぐと、典はふふっと笑う。
「言い返したところまではよかったんですが、今回も私の方が上手でしたね」
「肯定は予想してても、まさかそこまで言うとは……」
「本音ですから。ほらほら、続き、して下さいな」
典はさらりと言いのけて、甘えた声音でふりふり尻尾を揺らす。尻尾を乗せた膝をくすぐられながら、母乳でぬるついた乳首を指先で軽く摘んでやると、典はびくっと体を震わせた。
「んっ、あっ……、実際、こうしておっぱいが溢れるのは別に構わないんですが、それよりも見た目が気になりますね……」
「見た目?」
「以前に比べると、どうしても少々濃くなってしまって……」
むにむにと揉まれる乳房を見下ろし、典は息を吐く。
今もじわじわと母乳を溢れさせる乳輪や乳首は、第一子を授かる前に比べ、色素の増した濃い桃色に色付いていた。
「まあ、こればっかりは仕方ないよ。それに、濃くなったって言っても相変わらず綺麗だと思うし。まあ、典の気持ちの問題だから、俺が言ってどうこうじゃないとは思うけど」
「ですね。でも、そう言ってもらえるのは嬉しいですよ。ありがとうございます」
嬉しそうな口調で典はそう言うものの、すぐに「ですが……」と言葉を濁す。
「おっぱいはまだいいんですよ。こうなるかなーとは思っていたので。でも、その、下の方が……」
「下? ……こっち?」
言われ、右手を双乳から離して下方へと滑らせていく。
子を宿したお腹に手を沿わせ、丘を越えた先で触れたのは、典の秘部。そこの表面だけを緩く撫でると、彼女は静かに息を零した。
「んっ……、そう、です。そこも、以前よりも、少し黒っぽいというか、色が濃くなってしまって……」
「あー、まあ、確かに前に比べたらそうかもね。でも、こっちだってお医者さんも仕方ないって言ってなかったっけ?」
「そうですけど、仕方ないでは納得し切れないと言いますか」
「気になる?」
「気にしますよ。だって、貴方は綺麗な方が好きでしょうし……」
典はうむむと小さく唸り、目線を少しだけ下げる。先程もそうだが、普段は手玉に取るような口振りや態度を見せるのに、わざとか否か、こう言う時は素直なのがまたいじらしくて可愛い。
「まあ、確かにどちらかと言われたら綺麗な方が好きかな。でも、そもそも典のここ、というより典の全部が綺麗だと思うよ」
「……そんなあからさまな口振りでは、お世辞にすら受け取ってもらえませんよ?」
「まあまあ、そう言わずに。本当に、心からそう思ってるから」
頭を撫でようかと思ったが――本人のものとはいえ――母乳に濡れた手では憚られたので、代わりに抱擁する両手を少しだけ強めて、典を深く抱き締める。
「……なら、素直に受け取っておきます。ありがとうございます」
典は瞼をそっと閉じると少しだけ息を吐いて、抱き締めるこちらの腕に手を添えた。
しばし、そうして抱き締めていると、典は「いいですよ」と呟く。
陰唇に添えていた手に活力を入れ、そこを緩く撫でると、典は甘い刺激に体を強張らせたが、すぐに力を抜いてこちらに全身を委ねてくれる。
一人目を妊娠する前から今も相変わらず陰毛がほぼ全く生えていない秘唇の上を、するすると手が滑って秘部を撫でる。
母親になってそれなりに経ち、今や典の纏う雰囲気は以前に比べて多少なりとも変わった。でも、見目の印象は腹部以外ほぼ変わらないし、相も変わらず無毛に近いそこを撫でていると、年端もいかぬ少女を孕ませてしまったかのような感覚を覚える。
四度目の妊娠ながら未だにそんな劣情を催しつつも、滑らかな秘部を緩慢に撫でる。
「ん、んっ……、あっ……」
淫裂はほんのりと、薄らと纏う汗程度には濡れており、典は静かな息を漏らす。ただ、その声は快感というよりも、弱い刺激につい漏れたものだろう。
もっとも、こちらからも激しくするつもりはない。時間を掛けて、ゆっくりと行う。
緩慢な手つきで仄かに綻んだ姫割れを上下になぞっては、陰核のやや上から膣穴近くまでを手のひら全体で撫でていく。クリトリスには強く触れず、膣穴にも指先を差し込んだりせず、ただただ上下に緩く撫でさする。
「ん、はぁ……、貴方の手、すごく、優しいです……」
「物足りない?」
「いえ、このまま、続けて下さいな」
小首を傾げて可愛らしくねだる典に促され、穏やかな愛撫を続けていく。
快感よりもくすぐったさの方が強いかもしれない、微弱な刺激。しかしそれでも、性感帯へずっと続けていると、だんだんと典の反応にも変化が現れていく。
「あっ、はぁんっ……、んっ、気持ちいい、です……」
呼吸は乱れ、肌は今まで以上に紅潮する。尻尾はゆらゆらと揺れて狐耳もひくひくと震える。何より、秘所に触れる手のひらに、じっとりした湿り気が増していく。
ぬち、くち、と粘液を捏ねる小さな水音も鳴り始め、陰唇の上を滑る手のひらの速度が、こちらからはペースを変えずとも自ずと早くなる。
「典、もうちょっと深めにするよ」
そう声を掛けると彼女はこくりと頷く。
割れ目を撫でる程度に這わせていた指に、少しだけ力を込める。恥丘辺りを柔らかく押さえて撫でたあと、下へ滑らせて秘芽を軽く圧する。
「んっ! あっ、あぁっ……!」
敏感な箇所への今までよりも鮮明な刺激に、典は喉と体を震わせる。
後ろから抱き抱える姿勢もあり、膨らんだお腹で陰唇は全く見えないが、幾度と愛し合ってきた経験で、秘芽が今どんな状態か、何を求めているかは分かる。
上下に繰り返し撫でるうちに、そこは如実に硬さを増していく。全体を撫でていた時とは違い、明確にそこへ狙いを定めて刺激し、包皮の上から指先で軽くとんとん叩いてやる。
「はぁんっ、クリ、いいですっ……、貴方の指、気持ちいいっ……」
陰核を中心に円を描くように指を滑らせ、周囲も撫でる。そうして焦らしては時折軽く押さえて圧を掛け、激しさはなくとも典の中で燻る官能を確実に高めていく。
「ん、あ、はぁっ……」
秘部は徐々に湿り気を強くし、指先にも粘液が絡みつき始める。中指を少し下へ伸ばし、その源泉である膣穴に触れると、外部からの刺激に一瞬だけ窄まるが、すぐにひくひくと蠢かせて愛蜜を垂らす。
そこへ指先をあてがい、入り口の襞を割り広げる。膣穴は拒むようにまた収縮して侵入を防ごうとするが、すぐに弛緩させて進もうとする指を迎え入れてくれた。
そのままゆっくりと中指を挿入し、第一関節の辺りまで沈めてから出し入れを繰り返す。
「あっ、はあぁっ、指、くちゅくちゅって、はぁんっ……」
指を動かす度、膣内から溢れ出した粘液が音を鳴らし、典は狐耳をふるふる揺らす。陰核への愛撫と同じく、激しさよりも柔らかくほぐすことを念頭に、膣穴を左右上下に緩く揺する。
それを繰り返すうちに、次第に膣口がぱくぱくと指先を喰み、さらに奥へと誘おうとする。その誘いに乗り――たいがここはぐっと堪え、変わらず浅くを捏ねていく。楽しみは、後にとっておきたい。
そうして入り口をほぐす傍ら、一旦抜いては陰核を弄り、休みなく性感を与えて典の肢体を次の行為に備えさせる。中と外の両方を責める愛撫に膣穴からは蜜が止めどなく溢れ、蜜壺内で前後する指もかなりスムーズになっていく。
「かなり濡れてきたと思うけど、典はどう?」
「んっ、私も、もう、あぁんっ、大丈夫だと、思いますよ」
自分の感覚としてもいい頃合いであり、典からもお墨付きを貰えた、が。
「でも、どうせなら……」
「うん、分かってるよ。このままイクまで、でしょ?」
典に先んじて答えると、彼女は尻尾をふるりと揺らす。
自分もそのつもりだったが、やはり典もそうだったらしい。いくらこの後もあるとはいえ、ここで止めるなんてやはり不完全燃焼だろう。
性感帯の中でも特に敏感な陰核を弄る比重を多めにして、更に快感を与えるやり方に動きをシフトする。指先がクリトリスを捏ねる度、典の体はひくついて、口からは可愛らしい喘ぎが漏れる。もうその時は近そうだが、絶頂まで指を止めるつもりは一切無い。
「あっ、んっ、あ、ひぁぁっ……! も、もう、イっちゃいそう、ですっ……!」
「いつでもイッていいよ」
絶頂が近いと訴える典にそう告げて、秘芽を弄る合間に膣口の浅い部分を引っ掻き、入り口を抜き差ししては軽くとんとん叩く。指先が小さな穴を刺激する度、粘度の高い愛液が押し潰され、指先と口付けているかの如く、ちゅっ、ぷちゅっ、と淫らな水音が鳴り響く。
やがて典は、孕んだお腹に回されたこちらの手に、両手でしがみつくようにぎゅっと握る。恐らく、あとほんの一押しで。そう理解させるにはその行動はとても分かりやすく、何よりも可愛らしい。
そして、陰核を捏ねる指が、少し強めに圧迫した瞬間。
「イ、クっ……、あっ、ひあっ、ああぁぁっ……!」
しきりに揺らしていた腰を一際大きく跳ね上げ、同時に嬌声を上げた。
絶頂の快感に典は息を乱して、大きなお腹ごと全身を余韻に揺らす。所々に浮いた汗と荒い呼吸がその快感の強さを感じさせる一方で、体力を消耗してしまったのも容易に見て取れた。
「体、大丈夫?」
「ふふっ、大丈夫、ですよ。でも、息が整うまで、少し時間を頂いても?」
「勿論。ちょっと休憩しようか」
当然、了承を返すと典が改めてこちらへ寄り掛かり、そんな彼女の体躯を後ろから優しく抱き抱える。
それから呼吸を整うまでの間、愛撫で濡れた手を拭いたり、典の髪や狐耳、尻尾から背中から、やはりお腹も含めて気ままに撫でさすって自分も息を抜く。あまりベタベタすると鬱陶しいかと思ったりもしたが、途中で「もっとしてもいいですよ」と言ってくれたので、お言葉に甘えて妊婦姿の愛妻を心ゆくまで愛でていた。
「……ん、もう、そろそろ、大丈夫そうです」
やがて、息を落ち着けた典は、お腹を撫でるこちらの手に自らの手を重ねる。手を止めたりはせず、重ねるだけ。
「念のため聞くけど、無理してない? お疲れ気味なら、遠慮とかいらないからね」
「ご安心を。全く問題ありませんし、遠慮なんてなんにもしてませんよ。ですから、続き、しましょう?」
典は尻尾をふりふり揺らして、こちらを振り向いて微笑む横顔を見せる。自身の体調を誤魔化している様子はなさそうだし、こういうことで彼女は嘘をついたりはしない。
「うん、しようか。……で、どうする? 典のしたい、ないしやりやすい体位にしようと思うけど」
先の前戯と同じく典に希望を尋ねると、「んー……」と少し考えてから口を開く。
「では、私が上になってもいいですか?」
「上ね。じゃあ、俺が寝転べばいいかな」
「お願いします。貴方にばかり体勢を変えさせて、申し訳ありませんが」
「いやいや、全く気にしなくていいから」
もたれていた体勢から体を起こして、一旦体を離した典の頬を緩く撫でる。この程度、面倒ともなんとも思わない。
さて、自分も体勢を変えるべく寝転ぶ――前に、準備しなければならないものがあった。
「その前に、ちゃんと付けないとね」
典と愛し合う前に、予め用意しておいた避妊具に手を伸ばし、その包みを破る。
既に妊娠しているのに避妊とは、と一見思えるかもしれないが、妊娠時の膣内射精は母体やお腹の子にも悪影響が出てしまう場合がある。万が一にも、そんなことはあってはならない。
「あ、せっかくですし、私が付けたいです」
「そう? なら、お願いしようかな」
「では、失礼して」
手渡された避妊具を典は受け取ると、既に硬く勃起した陰茎に手を添えて、軽く全体を撫でる。高まる興奮と手の感触に肉棒は身を揺らすが、彼女はしっかりと避妊具を先端にあてがい、手際よく被せていく。
子を宿した女性自ら、屹立に薄膜を纏わせて性交の準備をする光景は、非常に淫靡に見え――。
「妊婦さんが自分から付けるのって、なんだかとてもえっちだと思いません? もう赤ちゃんがいるのに、まだしたいんだ、って」
「え、あ、うん」
思わず、声が吃る。心の中を読まれたかと邪推してしまうほど、全く同じだったから。
「どうかしましたか? あ、毛とか挟んじゃってます?」
そんな事情など知らぬ典は挙動不審なこちらの様子に首を傾げ、上目遣いに顔を覗いてくる。
「あー……、いや、さっき典が言った、やらしく見えるっていうのと同じこと考えてたから、それに驚いて」
すると、狐耳をぴょんと尖らせて、にやにや笑う。
「まあ、貴方はそうですよね。だって、こんなに大きくしてますし」
「それを言うなら典だって濡らしてるでしょ」
「だって、私は先程言った通りですから。もう赤ちゃんがお腹にいるのに、これ、とっても欲しいんです」
典は改めて怒張を見やり言うと、途中で止めていた手を再開させ、避妊具を陰茎に纏わせる。子どもを孕みながらも、快楽を求める妊婦の姿。典が言ったそれは、まさに当人そのものだった。
「……はい、これで準備完了です」
「ありがとう」
「いえいえ。それにしても、どうにも見慣れませんねー、この感じ。こういう時しか付けませんし」
薄い膜にぴっちりと包まれた分身を見やり、典は言う。
彼女の言う通り、避妊具を装着しての性交は、妊娠している時以外は全くしないので物珍しくはある。
「ひとりよがりにせず、ちゃーんと私と赤ちゃんのこと気にしてくれて、えらいえらい。生中出し孕ませ交尾は、この子が産まれるまで我慢して下さいね。そのあとなら、何回でもしていいですからねー」
そんな珍しい姿の陰茎を、薄膜越しによしよしと撫でる典。前半はともかく後半は、あまりにもあからさまにこちらの肉欲を煽るもので。
「典、今日はなんだか随分ご機嫌だね」
「それはそうですよ。だって、だーい好きな旦那様と、久しぶりに愛し合えるんですから」
尻尾をふりふり揺らして、満面の笑顔で答える彼女の性分を考えるなら、いかにも企みがありそうだと勘繰りたくなるが、今ばかりは真実だと思える。経験則という、言ってしまえば不確かな信頼ながら、それなりに長く連れ添った愛する妻への確かな信頼として。
「じゃあ、俺は寝転ぶから、あとは典のタイミングで。もし、助けが必要ならすぐに言って」
「はい。では、失礼して……」
背中に枕と畳んだ布団を敷いて、上半身はやや起こした形で寝そべる。完全に寝転んでしまうと、典の様子を注視するのに頭をずっと起こさなくてはならなくて、大事なことではあるが流石に少し辛いので。
体勢を整えて手招きすると彼女はおずおずとこちらの股間に跨り、ぴんと突き立った陰茎を膨らんだお腹の前に構えた。
だが、こちらにかかる重みは未だ殆どなく。
「ん、もっと乗ってもいいよ。ずっと膝立ちも疲れるでしょ」
「でも、重いですよ?」
「気にしない気にしない」
笑っての声掛けに典は二回瞬きをして、こくりと頷くとそっと腰を下ろす。
太腿辺りに掛かる重みが幾らか増す、が。
「重くない、ですか?」
「全然。典、元々軽いし。それに、二人分の重みって考えたら嬉しいよ」
「ふふっ、そうですか。おとうさん、優しいし頼りになりますね、格好いいですね」
お腹を撫でながら、優しい声で語り掛ける典。冗談めかした言い方ではない、滔々とした声色でのそれは、普段のようなからかい混じりの色が一切なく、少々むず痒い。
お腹を上から下へゆっくり撫でつつ、典は深めに呼吸をすると眼下の陰茎を見やり、また体を持ち上げた。
「それでは、入れますね……」
右手はこちらの腰につき、左手は自ら秘所を広げると、陰茎の先端に膣穴をあてがい、少しずつ腰を下ろす。
「んっ、ん……、あっ……」
程よく濡れた膣口に肉棒が触れると、子を宿した胎内へ侵入しようとする異物を拒むように膣穴は窄まる。しかし、それが幾度と交わり、自身を孕ませた生殖器だと肉体ないし本能が覚えていたのか、上から押し込まれるままに口を開き、分身を呑み込む。
久方ぶりに味わう、典の膣内の感触と温度。お互いの性器同士にはほんの僅かに隔たりがあるはずなのに、潤いに満ちた肉壺はそれを感じさせないほど柔らかく、熱い。
「あっ、はぁっ……、奥まで、入れちゃいますね……。ん、あぁっ……!」
典は更に腰を下ろして、一切の滞りなく屹立を膣内に収めていく。
ぬるぬるの膣道を滑る怒張は程なくして行き止まりに突き当たり、彼女はこちらを見やる。先程のようにまた頷きを返すと、腰を深めに下ろしてこちらの体に身を預けた。
体に再び掛かる、愛する妻と子どもの重み。そして、分身の先端はその我が子がいる、子宮の目前まで達していた。
「はぁっ……、全部、入りました……」
「お疲れさま。せっかく入れたばかりだけど、馴染むまでちょっと休もうか。急ぐ必要もないしさ」
久方ぶりの秘洞の温かさと感触を味わい、腰に甘い痺れが走る。その一方で、快感に焦る気持ちはなく、こちらの胸についた典の腕を軽く撫でてそう提案すると、彼女は微笑み頷く。
「そうですね。では、お言葉に甘えさせてもらいますね」
「……典、何度も聞いて悪いけど、お腹、大丈夫そう?」
典が少し深めの呼吸を繰り返して息を落ち着ける間にまた、体の調子を尋ねてみる。
初めての妊娠ではないし、妊娠中に交わるのも初めてではないとはいえ、やはり気になるもので。とはいえ、我ながらしつこいかも、とも思ってしまう。
「いえいえ、悪いだなんて。心配して下さってありがとうございます。お心遣い、嬉しいですよ」
だが、彼女は朗らかに笑って、再三の質問を喜んでくれる。その表情は、これまた経験則ながら気遣ったものではなさそうだ。
「分かった。動くのはいつでもいいからね」
典は「はい」と頷いて、数回深呼吸を繰り返したあと、こちらに右手を差し出す。その手にこちらからも左手を差し出して向かい合わせ、指先を絡ませて繋ぐ。
自分よりも一回り以上小さい、愛妻の手のひら。絡み合う手に少しだけ力が込められたので、こちらからも軽く握り返すと、典は静かに囁く。
「では、動きますね?」
その言葉から一拍空けて、典はいよいよ腰を動かし始める。
自分が典との性交は久しぶりなように、彼女もそれは同じ。そんな、暫く日の空いた挿入の実感、ひいては肉棒の実感だろうに、膣内は呼吸を整える間にすっかり馴染んでおり、浮かせる腰に反して肉幹に強く吸い付いてくる。
「あっ、はぁ、んっ……」
それでも下半身ごと持ち上げる力には敵わず、膣壁をこすりながら屹立が引き抜かれていく。ゆっくりと摩擦し合う性器の感覚に典は息を吐き、自分も腰がぞくりと無意識に震える。
彼女はそのまま腰を持ち上げ、陰茎の半分ほどまで引き上げると、またゆっくり下ろす。しがみ付く膣襞がまた怒張に絡み、亀頭が子宮の入り口と口付ける。
「あ、はぁっ……、うん、動くのに支障もなさそう、ですね」
実際に動いてみて差し障りなさそうだと確認すると、典は赤らんだ頬を緩めてまた腰を持ち上げ、本格的に肉棒と膣壁を摩擦させていく。
「んっ、はぁっ、あ、あぁっ……!」
孕み腹を抱えた肢体を上下に跳ねさせる腰つきは、速度や激しさだけを見ればかなり控えめな方だろう。しかし、慣らしと実地での確認を終えて程よい加減を知り、かつ、孕んでもなお伴侶の情欲を心身ともに煽る愛妻が与えてくれる快感は、そんな冷めた観点を容易く一蹴する。
既に三度も出産を経ている典の体だが、膣内はまだお互いに経験が浅かった頃を思い出させるほどにきつく陰茎を締め付ける。
その一方で、一人二人と子を授かっても、それ以前と変わらぬ頻度で愛し合っていたからか、すっかり彼女の膣は怒張へ快感を与えることを得手としていた。少し掻き回しただけでも媚肉は柔らかく蕩けて肉棒に絡み付き、無数の膣襞で舐めしゃぶる。上下する動作で膣奥から陰茎が引き抜かれる僅かな時間すら、肉襞は食い締めて追い縋り、突き上げる際には狭く窄まって歓迎する。
出産をする前と比べても一切の見劣りのない、極上の名器。そう評しても全く差し支えないと断言できた。
「んっ、ふふっ、おちんちん、中でびくって、震えて、ますよ?」
「典の中が、気持ちいいからね。久しぶりだけど、やっぱり最高だなって」
「私も、おちんちん気持ちいいですっ。硬くて、私の中いっぱいにするくらいおっきくて、大好きっ……!」
興奮に頬を染めた典が、鈴を転がしたような可愛い声で分身を褒める。それ自体はそこまで珍しいものではないし、気分を乗せるためだとしても、やはり嬉しいものであり。
「ん、またおちんちんがびくってしましたよ。褒められて嬉しくなっちゃいました?」
「そりゃ嬉しいよ。典に褒められるなら、なんだって」
「なら、もっと褒めてあげますね」
典はそう言うと、さながら耳元で囁くように口元に手を添えて、悪戯っぽく笑う。
「好き、好きですっ。貴方のこと、大好き、だーい好きっ、愛してますっ。貴方のおちんちんも、貴方とのえっちも、とっても大好きですっ」
囁くにしては大きめの声で、からかうように愛慕を連呼する典。
単純ながらとても耳によく、素直に嬉しいが、流石にこれでは興奮よりも愛おしさが勝る。
「俺も典のこと、大好きだし愛してる。今もだけど、典とするのも、好きだし、すごく気持ちいいよ」
その気持ちを、お返しも込めてこちらからも伝えると、彼女は嬉しさを隠さない笑顔を見せる。
「なら、二人で一緒に、もっと気持ちよくなりましょうね」
そして、少々休ませていた腰をまた動かし始める。
今までと変わらぬ、ゆったりした腰つきで怒張を扱き、捏ねる。腰を上下させれば狭くも柔らかい膣道が肉幹を摩擦し、左右に捻れば膣奥の肉粒がカリ首をぷちゅぷちゅ弾く。
腰が跳ねるたびに溢れた愛液が小さな水音を鳴らし、屹立が最奥に突き当たると結合部も触れ合う。肉棒の全てがぴったりと収まる典の膣は、まるでそのためにあるかのよう。
「んっ、あぁっ……! ん、ふふっ、見てるとこ、やらしいです」
二人の肌が離れてはくっつく結合部に視線を向けていると、それに気付いた典にからかわれてしまう。
「私の中、貴方のおちんちんの形にされちゃってますから、タイミングが一緒なんですよね。一番奥と、ここが触れ合うのが」
もっとも、自分が思案していた感慨は典もご存知だったようで、彼女は嬉しそうに言いながら、自身の下腹部からこちらの腹部に掛けてくるくる撫でる。
こうしている今もなお、子宮の眼前では陰茎が絶え間ない愛撫を受ける。典の蜜壺は、全て分かり切っているのだろう。自身を何度も孕ませた陰茎の形を。この生殖器から、どうすれば上手く子種を搾取し、受精し、その牡との子をまた宿せるかを。
「もう三人も赤ちゃんを産んでるのに、未だに貴方のおちんちんがぴったりなのも、貴方のせいです。貴方だけのためのおまんこにされちゃったんです」
典はそこまで言うと、にっこり笑ってこちらの胸元をくすぐるように撫でる。
「責任、取って下さいね?」
「一生掛けて、取るよ」
「当然です」
典の手を取りそう返すと、彼女はその手を握り返して、楽しげに微笑む。
貴方のためのものになってしまっている、と自ら称した典の膣穴は、まさにその通りの様相で陰茎へと奉仕する。
挿入や掻き回す動きにはほぐれた膣肉のお陰でスムーズなのに、膣奥から鈴口が離れようとすると、途端に膣道は狭まり、逃がさないと絡みつく。その誘惑に乗って最奥まで突き込めば、膣襞が甘く蠢いて射精をねだってくる。
「んっ、ふあぁっ、気持ちいい、ですっ……! 貴方のおちんちんで、なか、ぐちゃぐちゃにするの、すき、すきですっ……!」
「俺も、典の中、めちゃくちゃ気持ちいいよ」
生殖を伴わない、ただ愛情と快楽を確かめ合い、求め合うだけの繋がり。それは、性交が待つ本来の意味には反しているかもしれないが、そんなことはどうでもよかった。
典の大きく膨らんだ下腹部を手のひらで優しく撫でる。無意識の行為に彼女は腰を揺らしつつも頬を柔らかく緩め、それに少し遅れて、お腹の中から小さな鼓動がとくん、と返ってきた。
「あ、今の、分かりましたか?」
「分かったよ。動いたね」
「ふふっ、私も構って、って言ってますよ。確かに、おかあさんだけ貴方に可愛がってもらうのはずるいかもですね」
典も片手を離して、お腹を一緒に優しく撫でる。自然と二人の手は重なり、大きさの勝るこちらの手で彼女の手を包み、その手のひらごと撫でてやる。
そうして二人で自分たちの愛の結晶を愛でる傍らにも、典は腰を深めに落として、左右に捻って陰茎を捏ねる。
亀頭の先端と、その中で我が子がすくすく育つ子宮の入り口が触れ、カリ首を膣奥の肉粒がぷちゅぷちゅ弾く。膣道も負けじと肉幹へ絡んで舐めしゃぶり、既に孕んでいてもなお、陰茎への奉仕を忘れない。
内外から子の存在を強く感じながら味わう快感に、精液は着実に昇り、膣内も痙攣が如実に強くなる。
「んっ、はぁっ、ひぁあっ! あの、こっちも、手、繋いで……」
典は空いているもう片方の手をこちらに差し出す。すぐにそれに応えてこちらからも手を伸ばし、指を絡ませて繋ぐ。
「あっ、ん、貴方の手、おっきい、です」
可愛らしい笑顔を浮かべながらも、腰は止めずに出し入れを典は繰り返す。分身の半分も抜かない程度の短いストロークで腰を揺らし、亀頭を重点的に責め立ててくる。
結合部から溢れる蜜は攪拌されて白く濁って膣内の脈動も増し、自分も腰が一気に重みを増す。
「あ、貴方、もうすぐイキそうですね?」
「典も、でしょ?」
こちらからも尋ね返すと、典は頬を緩ませて頷く。
お互いがお互いの機微に気付き、絶頂が近いと知れば、あとはどうするかは決まっている。典は最後の追い込みと、深めに落とした腰を揺さぶり、自分はその感触と彼女の様子に意識を集中させる。
「あっ、はぁんっ、あっ、ひぁ、ん、イクっ、あっ、あぁっ……!」
蕩けた肉粒が陰茎を撫でる感触、膣道の僅かな脈動、典の口から漏れる可愛らしい声――、それら全てを彼女が与えてくれる官能として受け入れる。
高まる性感に込み上げる感覚を抑え込んでその時を待ち、典と繋いだ手が一瞬だけ震えた瞬間、我慢していた欲望を解放した。
「イクっ! あっ、ああぁっ!」
「っ! くうっ……!」
典の甲高い嬌声、びくんと大きく震える全身、加えて強く収縮する膣内に包まれる中、陰茎も跳ね上がるように射精を始める。
薄膜に覆われた肉棒が吐き出す精液は、典の胎内へは一切漏れ出さずに避妊具を膨らませるのみで役割を終えてしまう。それでも、典の膣内で彼女とともに迎えた絶頂、という快感は肉体的にも精神的にも非常に大きく、膜に阻まれていても多量の精液を吐き出す。
「あっ、なか、で、びくびくして、あっ、ひあぁっ……!」
それに、そうした幸福感は典も同じなのか、絶頂にその身を揺らす膣内は既に孕んでいても、避妊具を付けていても、精液を強く求めてくる。
根元から肉幹、膣奥と、段階的に収縮と弛緩を繰り返し、子種を搾取するべく膣壁は陰茎を絞る。射精中でも関係無く叩き込まれる快感に抗う術はなく、絞られるままに精液を吐き出してしまう。
「あっ、あぁんっ……。出し切って、いいですからね……」
典はゆるゆると腰を動かして快感の残滓を長く味わいながら、陰茎にも甘い快楽を与えてくれる。ひくひく蠢く膣肉に屹立を優しく扱かれ、射精直後の勢いこそなくとも長く精液を吐き出し続ける。
下半身を緩く満たしていく快感は、典が言った通り精液を出し切るまで、いや出し切っても暫く続き、分身の脈動が落ち着いてからも数回往復して緩く扱いたあと、ようやく腰を落ち着かせた。
「んっ……、一旦、全部出ましたね……」
典は最後にもう一仕事、腰を大きく持ち上げて陰茎を引き抜く。その際にもカリ首が膣道を引っ掻き、未だ感覚を鋭敏に尖らせた体を二人揃って震わせてしまう。
「っ……!」
「ん、んっ……、あ、はぁっ……」
やがて、膣穴から怒張はずるりと抜け落ち、典は気の抜けた吐息を漏らす。
ついさっきまで膣内で丹念に絞られた陰茎を覆う避妊具には、白く濁った愛液がべったりとこびり付き、先端ではそれよりも更に色の濃い白濁が薄膜を内側から膨らませていた。
そんな光景に淫靡さを感じながら静かに息を整え、隙間から精液が漏れたりしないようにさっさと避妊具を外して口を結んでおく。
「あ、それ私にも見せてくださいな」
「え、じゃあ……、はい」
手のひらを伸ばす典に言われ、とりあえず付着していた愛蜜だけ軽く指で拭ってから手に乗せて渡すと、彼女は結んだ口側を指先で持ち上げ吊るす。
「二回目なのに、たくさん出ましたねぇ。いやー、こんなに濃いのを毎日毎日子宮に注がれたら、そりゃ私みたいなか弱い狐は簡単に孕んじゃいますよね」
「はいはい」
けらけらと楽しそうに笑う典をあしらうが、なおも彼女は楽しげに避妊具の精液溜まりをぐにぐに弄る。
「でも、冗談とかではなく、本当にいっぱいですね……。もう少ししてこの子が生まれたら、その時はまた同じくらい濃くていっぱいの精液で、孕むまで種付けして下さいね?」
こちらを上目遣いに覗いて、甘えた視線を向ける典。
「私、貴方に孕ませてもらうの大好きなんです。貴方のおちんちんにおまんこぐちゃぐちゃに掻き回されて、子宮が精子でいっぱいになるくらい射精されて受精して、貴方との赤ちゃんを孕むのが、とっても幸せなんです」
自らの膨らんだお腹に手を添えて滔々と語る彼女がこちらを見る瞳は、交わっていた時以上に蕩けていて、生殖行為で得る幸福感に浸り切っていた。
その姿は、自身の牡としての欲望を強烈に揺さぶる。射精したばかりなのに、もう気力は漲り、既に目の前の牝は孕んでいると分かっていても、子種を注ぎたくて仕方ない。
「ふふっ、出したばっかりなのに、もう大きくなってますよ?」
視線を下げて既に復活し固く勃起した陰茎を見やり典は言うと、口元を隠して笑い、ぱちりと瞬きを一つ。すると、彼女の瞳は淫蕩に染まり鈍く輝いたものから、いつもの可愛らしい黄色に戻っていた。
「……典、今日は一段と煽ってくるけど、何かあった?」
「いえ、何も。強いて言えば、貴方とのえっちが楽しいなーって。赤ちゃんがお腹にいても愛してくれるの嬉しいなーって」
こいつめ、と心内で嘆息しつつも問うと、愛する管狐は言葉どおり楽しげに手で狐を作り、その口をぱくぱくさせる。
「それに、貴方はこーんな風に言われるの、好きでしょう? 今までだって私にまんまと乗せられて、何回も何回も子づくりしてますし」
「その言い分だと、今までの典の発言に本心はなくて、全部俺の気分を乗せるためだけ?」
自分で言うのも烏滸がましいかもしれないが、そんなわけないだろうと尋ねれば、典は可愛らしく小首を傾げ。
「まさか。ぜーんぶ私の本心でもありますよ? 孕ませ大好きな貴方と、孕むの大好きな私。相性ばっちりですね」
尻尾をふりふり揺らして可愛らしく笑う。かと思えば、「あ、でも」と続け、こちらに体を寄せると、耳元で囁く。
「それも、大好きな貴方との赤ちゃんだから、ですよ?」
典の、何もかも甘ったるい言葉に背筋がぞくぞくわななく。触れてもいないのに分身は痛いくらいに脈打ち、心拍数も上がっていく。
「あ……」
傍らの、自分と血を分け合った子を孕んだ典の肢体を掻き抱く。吐息を零した彼女の恥丘に、既に固く復活した陰茎を押し当てて、彼女の耳元で囁く。
「典、もう一回、したいんだけど、どう、かな」
おずおずと尋ねてみると、典は狐耳をひくひくと二回揺らしてこちらを向き、目線を合わせてこくりと頷いた。
「はい、喜んで」
「ありがとう」
「いえいえ、こちらこそ」
今までの煽る空気感は抑えて二人でお礼を言い合い、小さく笑う。
「次は俺が動こうと思うけど、典はいい?」
「構いませんよ」
「じゃあ、どんな体勢がよさそう? こっちは気にしなくていいから、典が楽なもので……」
「んー……。では、やさしーく抱っこしてもらえますか?」
いかにも甘えた声で小首を傾げた典に、しっかり頷きを返す。
「いいよ。でも、その前に……」
「分かってますよ。また付けてあげますから、少しじっとしてて下さいね」
典は手に持っていた使用済みの避妊具を傍らに一旦置いておくと、それが入っていた箱から新しいものを取り出し、包みを破る。
そして、陰茎に手を添えると慣れた手つきで再び避妊具を纏わせた。
「それでは、改めて……」
逸る気持ちの表れか再度の準備もすぐに終え、早々にこちらを見やる典の視線に頷く。緩く胡座をかいて座り、両手を軽く広げて受け入れる体勢を作る。
典はそっとこちらに身を寄せて膝立ちになると、首から肩に手を回してぎゅっと抱き付く。見合う互いの顔には多少の距離があるが、張り出した彼女の腹部はこちらの体にも触れていて、確かな体温が伝わってくる。
「入れるのだけ、お願いしてもいいかな。自分のペースでいいから」
「分かりました。では……」
典は抱き付かせた体躯を捩り、陰茎の先端に割れ目をあてがうと、少しずつ腰を下ろしていく。
つい先程まで繋がっていたこともあってか、肉棒が膣口に触れ合うとすぐに膣穴は綻んで受け入れる。狭くもぬるぬると柔らかな膣道を怒張は滞りなく進み、あっという間に最奥まで辿り着く。
「あ、はぁぁっ……、貴方のおちんちんが、赤ちゃんのお部屋にちゅってキスしてますよー」
慣れた調子で屹立を収め切ると、こちらの耳元でからかうように囁く典。
余裕を感じさせる軽口に、早速腰を動かす――ことはせず、典の腰に手を回してしっかりと抱き抱える。
「典、動いても大丈夫そうになったら言って。それまで待つから」
続けての二回目とはいえ、改めて陰茎の感覚に馴染んでもらうべくそう声掛けすると、典は「ほほう」と呟く。
「ずっと言わないかもしれませんよ?」
「いいよ、それでも。ちゃんと待つから」
口の端を持ち上げて尖った犬歯を覗かせ、いかにも企むような視線を向ける典と見合い、はっきりと言い切る。
軽くあしらわれると思っていたのか、虚を突かれたらしい彼女は少しだけ目を見開くと、むーっと唇を尖らせた。
「もう、そんな言い方されたら、意地悪できないじゃないですか」
悪い管狐の些細な企みは、どうやら誠意が打ち砕いたようだ。
「まあ、私だって、ずっとこのままというのも、それはそれで辛いですし」
典は視線を伏せると大きく息を吸って、長く深く息を吐く。それを二回、三回と繰り返す度、陰茎を包む膣内がより張り付いて、僅かな脈動もより伝わってくる。
「ん……、もう、いいですよ」
そして、視線を上げると、こちらにぎゅっと抱き付く。その言葉に頷きを返し、典の腰に回した手で改めて身重の体躯を支え直してから、腰を動かしていく。
「あっ、ん、ふあぁっ……!」
奥深くまで差し込んだ陰茎を緩慢な動作で揺らし、張り付いた柔肉をカリ首で引っ掻く。膣内を満たす潤いで蕩け切った襞が擦られれば、膣奥はうねり締め付け、早々に精液を求めてくる。
動き始めたばかりにもかかわらず、先の性交だけではまだ満足していないと、子を孕んでいてもまた注いで欲しいと言わんばかりの反応に、自分も下半身が強く疼く。
「あっ、はぁんっ、おちんちん、気持ちいいですっ……! おく、もっと、ぐちゃぐちゃにしてくださいっ……!」
既に孕んでいようとも性交の快感を求める典の肢体や言動に獣欲を煽られ、膨らんだお腹とはまた異なる、母の象徴に手を伸ばす。
妊娠と出産を経てボリュームが増し、今や子を育む母乳も蓄えた乳房。膣奥を掻き回す度にぷるぷると揺れるそれを軽く揉むと、典は狐耳をびくっと震わせる。
「んっ、おっぱい、出ちゃ……、ん、あぁっ……」
ハリのある乳肉に五指を沈ませると、濃い桃色の乳首周りに白い液体が瞬く間に滲み、それらは大粒の母乳となって垂れ落ちていく。
乳房を掬う指先を伝う、乳腺から分泌されたばかりの温かな母乳。それが搾り出された瞬間の、典の悩ましげな声と、脳髄に叩きつけられたふわりと舞う甘い芳香に、強烈な欲望と原始的な欲求が湧き上がる。
「ひぅっ! あっ、ん、ふふ、ぁっ……」
欲しい、と思った時にはもう母乳が滴る乳首を咥え込んでいて、ちゅうちゅう吸えば口内には仄かに甘い味覚が広がる。
典も、乳首に口付けた瞬間こそ甲高い声を上げたが、続けざまに求めた際には乱れながらも優しい声を零す。
「おっぱい、欲しくなっちゃいました?」
「出てるなーって思ってたら、つい……」
ほぼ無意識の行いだったと告白すると、彼女はくすくす笑う。
「まあ、構いませんよ。無駄にするのも勿体ないですし、そもそも今は誰も飲みませんし。貴方以外は」
今は誰も、と典が言うように、ついこの間産まれたと思っていた一番下の子も、先日乳離れをしてから暫く経つ。乳房こそ母体として今も母乳を生産し分泌させてはいるが、役目を失っているのは事実だった。
「でも、貴方はまだ乳離れできてませんもんね。ずーっと私のおっぱいに夢中なままで」
「それは、まあ、はい。正直、全くできる気はしません」
「それなら、正直者で素直な貴方にご褒美です」
典はにっこりと微笑むと、こちらの耳元に口を寄せる。
「いっぱい、甘えて、いいですよ」
慈しみに満ちた声音でそう囁くと、典は自らの胸を軽く摘む。刹那、双房の先端で滲んでいた母乳が、いくつもの線となって勢いよく飛び出す。
典が醸す甘言と誘惑にあっさり引き摺り込まれ、差し出された乳房にまた顔を埋めて乳首を咥え込む。
「ん、はぁっ……」
その瞬間こそ彼女は高い声を上げたが、それもすぐに仕舞い込むと、こちらの頭を優しく撫でる。
「よしよし、いいこいいこ……」
ある意味で絶好の機会だろうに、からかいの一切ない、慈しみに満ちた声音でのそれは、典の持つ母性を強く感じさせた。
ひたすらに甘く、温かく、柔らかな時間。昂る興奮に、血流は下半身だけでなく頭にも上り、思考はのぼせ――。
「……あれ? あ、ちょっと、大丈夫ですか? 耳、真っ赤っかですよ……って、顔も熱いし……」
「その、典がそこまで真正面から受け止めてくれると思ってなくて、改めてめちゃくちゃ照れるし恥ずかしいなって思ったら……」
「あまりに火照りすぎて頭に血が上ってしまったと……。発端は貴方なのに、何してるんですか、もう」
典はこちらの頬に手を添えて、呆れたように笑う。一方で自分は未だ酩酊気分であり、とにかく呼吸を繰り返して気持ちを落ち着けようと奮闘していた。
しかし、彼女はそれも待たず、にやついた笑顔を隠さずにこちらの頭を掻き抱く。
「そーれーなーらー、もーっとしてあげますね。よしよし、お乳いっぱい飲みましょうねー、おっきな赤ちゃんで可愛いでちゅねー」
「……っ、ぷっ」
あまりにも極端な口ぶりに、つい吹き出してしまう。
「今よりもさっきまでの方が、ずっとそれらしかったかな」
「むー、そんな風に言うなら、もうしてあげませんよ」
「ごめんごめん」
わざとらしく頬を膨れさせる典の背中をとんとん叩いて宥める――なんて、よくある流れだが、ふと気付けばすっかり心地の方は落ち着いていた。突っ込み待ちとしか思えないからかいだったが、勝手に感じていた妙に緊張した雰囲気を典が崩してくれたお陰だろう。
向こうもこちらの様子を見て安心したように柔らかく微笑むと、もう一度頭に手を添えた。
「でも、気持ち自体は本当ですよ。貴方は私を、いつも頑張ってくれてるって褒めてくれましたけど、それは貴方だって同じです。だから、私だって貴方を褒めてあげたいです」
そして、こちらの頭を優しく撫でてくれる。髪を梳くような柔らかな手つきがとても心地よい。
「甘えるのだって一緒です。私も貴方にたくさん甘えてますし、貴方も私に甘えてもいいんですよ? 照れる必要も、恥ずかしがる必要もありません」
にこにこした笑顔で語られる言葉に、嘘偽りは全く感じない。管狐のこの笑顔を前にそう断言するのは危険だと思われるかもしれないが、自分には嘘なんかじゃないと確かに分かる。
「典」
「はい」
「……甘えてもいい?」
「ふふっ、お好きなだけどうぞ」
それなら、文字通りお言葉に甘えても、と尋ねれば、典は優しく微笑む。
一呼吸入れてから、母乳が滴る乳房にまた吸い付くと、典はこちらの後頭部にそっと手を添えて、柔らかく抱擁してくれる。
「ん、んっ……、そうそう、おっぱい吸って、たくさん飲んでいいですからね……」
頭に回された、自分のものよりも一回り小さな手が、穏やかな手つきで後頭部を撫で、指先で軽くとんとん叩く。
とても大きな溢れんばかりの愛情を注がれ、そしてそれを一身に受けるのは、正直まだ照れはある。だが、先のような羞恥の感情は殆どなく、ただただ心地よく、心が安らぐ。
口内を満たす温かい滋味と、包み込むような愛慕に気をほぐされる傍ら、乳を吸われる典が漏らす吐息には熱が増していく。
「あっ、はぁっ……、んっ……」
「……典、大丈夫?」
まさか体調が、と思い尋ねると、彼女はこちらを見下ろしていた視線を僅かに逸らした。
「あ、いえ、ただ、声が出てしまっただけで、何でもないですよ。強いて言えば、貴方のせいです」
「え、俺?」
自分のせいも何も、乳に甘えている以外に何もしていない、と疑問符が浮かぶが、典はこちらの頭をさらさらと撫でる。
「赤ちゃんにおっぱいあげてる時の気持ちいいは、張ってるのがなくなってスッキリする、くらいなのに、貴方だとすごくえっちな気分になって、声が出ちゃうんです。おっぱいが熱くなって、おまんこも疼いちゃから」
優しい手つきと呆れ混じりの朗らかな顔で笑う典。行為こそ授乳そのものだが、しっかりと前戯の役割も果たしていたらしい。
それなら――、そうと分かれば、もっとしたくなるものでもあり。
「んっ、あぁ……、もう、いきなりなんですから……」
咥え込んだ乳首に舌を這わせて溢れる母乳を舐め取り、舌先で先端を転がす。経産婦となり、それ以前と比べて大きさの増した肉蕾は程よい弾力と存在感を返し、ぬめる粘膜との刺激にとめどなく甘露を滴らせる。
更に唇で乳輪の辺りを甘噛みしてやると、押し出された母乳が勢いよく吹き出し、それにつられてもう片方の乳房からもぽたぽたと溢れ出す。それらが布団に垂れ落ちてしまう前に、そちらの方にも吸い付き、余さずに甘露を嚥下していく。
「あっ、ん、はぁんっ……、ふふっ、とっても夢中みたいですけど、そんなに美味しいですか?」
「美味しい、よ。すごく。ほんのり甘くて、飲みやすくて、そう、いくらでも飲めそうで、赤ちゃんが欲しがるのもよく分かるくらい」
乳首に口付ける傍ら、辿々しくも感想を伝えると、典は嬉しそうに頬を緩めた。
「それならよかったです。貴方が好きなら、お腹の子もたくさん飲んでくれるでしょうし。普段の食生活やストレスで味が変わるって言いますし、たまに不安になるんですよ」
「これなら心配は全くいらなそうだけどね。そういえば、自分でちょっと舐めてみたり、とかもあんまりしない?」
「時々ですが、あげる前に一応確かめてみたりはありますけど……。もしよろしければ、少しだけ私にも飲ませてくれますか?」
そう言うと、唇をついと軽く突き出す典。その所作だけで、飲ませて欲しいと言い出した彼女が求めるものが、指に母乳を纏わせるような方法ではないと分かる。
視線で「そのやり方?」と問うてみれば、典は「ほらほら」とばかりにぐっと改めて唇を突き出す。
重なる催促に微笑ましさを覚えながら小さく頷きを返して、乳房にまた口付ける。少し強めに乳を吸い、口内に一口分だけ貯めてから口を離し、胸の次は突き出された唇に口唇を重ねた。
「んっ……」
典の唇は柔らかくもぷるんとした弾力があり、触れ合う唇を僅かに押し返す。しかし、お互いに離れる意思は毛頭なく、深くを求めて唇を重ね合う。
そして、口を少しだけ傾けて彼女の唇を塞ぐように口付け、隙間をなくしてから口移しで母乳を分け与える。
「ん、んぅ……」
口内に注がれる母乳を典は迷いなく嚥下し、小さく鼻息が漏れる。元々は彼女の乳房から分泌されたものを、自分を通して返すことへ妙な感覚を――これもある種の授乳のようだと――覚えつつも、口腔にあった滋味を与え切る。
こうして口付けの目的を果たした、にもかかわらず典は口を離したりはせず、むしろ小刻みにちゅ、ちゅっと押し付けてくる。お礼のような、名残惜しむようなそれは何度も何度も続き、やがて一旦は満足したのか、そっと唇を離した。
その後、唇を閉じたまま典は瞳を伏せると口元を隠して、こくんと小さく喉を跳ねさせる。
「……はぁっ……、甘い、です」
「でしょ?」
「でも、甘いのは、おっぱいの味のせいだけじゃなくて……」
伏せていた視線を上げて、典はこちらを上目遣いに覗く。
ほんのりと朱色に染めった頬と、潤んだ黄色い瞳が求めるもの。それは、つい先程したことでもあり、今までしていなかったことでもあり。
もう一度、典の唇に口付ける。口移しとは関係ない、単なるキスとして。
「んっ……、ふふっ……」
「……そういえば、今日はこれまでキスしてなかったっけ」
「そうですよ。ずっとおあずけされて、寂しかったんですから」
典は不満げにこちらを見上げるが、すぐにそれも収めて、ん、と唇を差し出す。
「……ぁ、っん……」
再度のおねだりに応え、また唇を交わす。先の終わり際の彼女を真似て短いキスを何度も落とし、長く口唇を重ねては舌で唇を割り開き、典の唇をつんとつつく。
すると、すぐに彼女は口唇を開いて受け入れる体勢を作る。
「ん、ちゅっ、ふぅ、っ……」
二人の意思は完全に一致しており、互いの舌が相手に触れるなり、待っていたとばかりに深く睦み合う。舌先で撫で合うのも早々に舌の全てを絡ませ、愛しい伴侶を求め、重なる口唇の隙間から水音を響かせる。
典は小さな舌を積極的に踊らせ、その可愛らしい声で喉を震わせる。心の隙間に入り込んで人心を誑かす管狐が、自分にしか聞かせない声音で甘えてくる事実に、下賤ながら優越感を覚えてしまう。
その声をもっと聞きたい、典を貪りたい、今までしていなかった分を取り返したい、それらの思いに駆られ、彼女の口内にまで舌を潜ませる。
「ん、ちゅ、あっ、ふあっ、んっ……」
典の舌の深くまで交わらせると、仄かな甘みがふわりと漂う。
それは、ついさっきまで自分も味わっていた甘味。彼女の味蕾にほんの少しだけ残る、母乳の残滓だった。
すっかり受け身になった典の口腔を愛し、次は歯列にも舌を伸ばす。積極的に獲物を狩る種族にこそ劣るが、人間のそれよりも鋭く尖る犬歯を舌先で撫でてやると、彼女はくすぐったそうに身を捩り、尻尾を揺らす。
「っ、あっ、んっ、ひぁ、はふっ……」
しかし、典に拒む様子は一切なく、歯の根本から先端までを撫で切るまで、忠犬ならぬ忠狐よろしく大人しく待っていた。
犬歯を一本撫でては重なる唇に少しだけ隙間を作って息継ぎし、また口付けて反対側を撫でる。そこが終われば次は上側へと移り、同じように撫でる。
舌先で典の歯を磨き終わる度、興奮の昂りを示すかのように陰茎を熱い媚肉が絡み、膣奥がじわじわと窄まって引き込んでくる。その微動すらとても気持ちよく、腰を動かさずとも絶えず甘やかな快感を与えてくれた。
「ん、ちゅ、あっ……、はぁっ……」
それを味わいながら深いキスを交わし、やがて口をそっと離す。至近距離で見合う典の頬は紅潮し、口付けだけにもかかわらず、すっかり乱れた口元と呼吸がとても艶やかだった。
口付けをやめてもなお、典の膣内は分身を可愛らしく締め付ける。それは、気持ちいい。間違いなく、紛れなく、気持ちいいが――。
「……典、また動くよ」
「はいっ……、あ、はぁっ……!」
どこか燻る快感に焦ったさを感じ、呼び掛けてから腰を動かす。刹那、膣内は一気に狭さを増し、典の喉が高く震える。
「あっ、あぁん、ひぁっ……!」
更なる刺激を欲しがっていたのは、二人とも同じだったらしい。長い口接で昂められた性感は互いの肉体をすぐさま呼応させ、性器同士の摩擦で得る快感を増やす。
相変わらず激しさはない、揺りかごを思わせるような、お腹を軽く揺らす程度の運動ではあったが、それでも十二分なほどだった。
「んっ、あ、あぁっ……、あの、また、なでなでしてくれますか?」
穏やかな繋がりを享受する最中、そう甘える典を抱き寄せ、後ろ手で髪を梳いて、頭を撫でてやる。
そのついで、もとい自分がしたかったので、ふりふり揺れる尻尾にも手を伸ばし、そちらも合わせて指で梳き、毛並みを整えていく。
「ん、はぁぁ……、気持ちいい、です……」
性交しながらの毛繕いを、典は長く息を吐いて堪能する。種類の異なる快感に彼女の表情も体もすっかり緩んでいるが、膣内の締め付けは変わらず、むしろ小刻みに収縮して肉棒を刺激してくる。
今日までに子を四人も孕むほど交わり続けているにもかかわらず、昔と比べても遜色のない、むしろ今と昔のいいとこ取りをしたような極上の膣内に、屹立が大きく脈打つ。
「あっ、ん、ふふっ、おちんちん、びくびくってしてますけど、私の妊娠おまんこ、そんなに、気持ちいいですか?」
口付けをせがんでいた時のいじらしさはどこへやら、挑発的に問う彼女に愛らしさを覚えつつ、はっきりと頷いてやる。
「うん、すごく。何人産んでも、典のここは相変わらず最高に気持ちよくて、これからも、何回でも、したいくらい」
「私も、ずっと気持ちよくて、幸せです。貴方のおちんちんも、貴方に種付けされるのも、大好きです」
口角を緩ませて、表情朗らかに笑う典の頭をよしよしと撫でてやる。
すると、彼女は鼻を甘ったるく鳴らしてそれを甘受しつつも、自らのお腹に手を添えた。
「私だけじゃなくて、この子も撫でてくれますか? おかあさんばっかりずるいって思われちゃいますから」
そのお願いには、当然だと大きく頷きを返す。
子を授かって文字通り子宮となった最奥の、その僅か手前を陰茎で捏ねながら、膨らんだお腹に手を添える。はっきりと分かる胎動がなくとも、手のひらには確かな存在感を伝え、愛しさが湧き上がる。
無意識に頬が少し緩み、孕み腹をそっと撫でると、それを見ていた典も穏やかに微笑む。そうして母親に見守られつつ我が子を撫でていると、お腹越しに反応が返ってくる。とくん、とくんと、確かな胎動が。
「ふふっ、おとうさんの手、優しくて好き、って。これからもたくさん撫でて欲しいって言ってますよ」
まだ話せぬ赤子の言葉を典は代弁する。夢のない言い方をすれば、何を言っているかなんて誰にも分からない。しかしそれでも、胎内にその子を宿し育む彼女が言う言葉が、まるきり的外れとは到底思えなかった。
「ね、私もまたしてくださいな」
子の次は自分も、と典はまた愛撫をご所望する。それに応え、頭をよしよしと撫で、おまけに頬も撫でてやると、彼女は小首を傾げてその手に甘え、お腹の子を思いやりながらも自らの肉欲と幸福も満たす。
普段もそうだが、子どもたちといるときは母親然と振る舞うのに、二人っきりだとこうして甘えてくれるのが嬉しいし、とても可愛らしい。
「典、続き、するよ」
「はい」
しばし止めていた腰を再び動かし、孕み腹を抱えた典の膣内をまた掻き回していく。
最奥近くまで突き入れた陰茎を小刻みに揺すり、子宮のすぐ前の壁をカリ首で弾く。粘っこい愛液をたっぷり蓄えた膣襞と擦り合う度、膣奥の粒が亀頭に纏わり付いてくる。
ゆったりとした前後運動でも、膣奥を責めていれば時折行き止まり、子宮口へも亀頭がこつ、こつとぶつかる。その奥で少しずつ成長する我が子を守りながらも、淫らな口付けに悦び吸い付く弾力がある感触が、また情欲を煽る。
「あっ、はぁあぁっ……、おく、あぁっ、いいっ、あなたの、おちんちん、が、きてぇ、ふあぁっ……」
激しく突き上げたり、しつこく奥を叩いたりは絶対にしないが、膣奥まで飲み込ませて腰を深めに入れてやると、典は肺の中の空気を出し切るほどに息を吐いて感じ入る。
それに自分もまた、典の表情を淫らに蕩けさせているこの性感帯のすぐ先に、二人の愛の結晶が育っていると思うと、感動と背徳感が官能を刺激してくる。
自身が孕ませた愛する女と、その胎内に宿した子の存在を強く感じながら腰を揺すって肉棒で膣内を捏ねては、外からも親子ともども可愛がってやる。母親である愛妻の頬を撫で、高い喘ぎ声を漏らす唇に口付け、大きく膨らんだお腹越しの我が子も優しく撫でていく。
そうやってどちらも余さず愛でていると、すっかり表情も声も蕩けさせた典に妊婦の体で出来る限りの抱擁を受け、こちらの耳元を彼女の手のひらが包み隠す。さながら、内緒話でも、耳打ちでもするように。
「貴方、好きです。私や子どもたちのためにたくさん頑張ってくれるところも、優しいところも、私をずっと好きでいてくれるところも、ぜんぶかっこいいです、好き、大好きっ。貴方の全部が好きっ、好きですっ、大好きっ!」
後半に向かうにつれ、囁きとしては声量も勢いも増して、何度愛を謳っても足りないとばかりに、典は恋慕を口にする。
普段の、冗談っぽく言う「好きですよー愛してますよー」とは違う――もっとも、いつものそれも本心と分かっているが――、ある種らしくない囁きが、この上なく愛おしい。
そんな愛する妻を抱き寄せ、彼女の耳元で、こちらからも囁き返す。
「大好きだよ、典。愛してる」
「はいっ、私も、わたしもっ、愛してますっ」
そっと抱いた彼女の頭を撫でながら、目前まで迫る絶頂に向けて腰を振る。典も少しでもそれに合わせて自らの体を揺らし、無理のない範囲で協力してくれる。
二人一緒にその瞬間を迎えようとする交合は、お互いに何も言わずともそれぞれの官能を感じ取り、やがてともに絶頂を迎えた。
「っ! 出るっ! く、うぁっ……!」
「イクっ! あ、あぁっ、ひあぁっ……!」
陰茎が射精を始めるのと、一瞬だけ弛緩した膣内が急激に締め付けるのは全くの同時だった。視界が白黒するほどの快感が全身を駆けて精液を吐き出し、膣内も蠢動を繰り返してそれを促す。
射精だけなら三度目ということもあり、先の主導権を握られての性交に比べ勢いこそ劣るものの、その分長く陰茎は脈動を繰り返す。打ち出されたそれらは纏う避妊具に阻まれ、その先端に溜まり、典の子宮の入り口にすら到達しない。
「あっ、はぁっ、なかで、ずっとびくびくして、んっ、まだ、出てますっ……」
しかし、分身の脈動はしっかりと典にも伝わる。射精が始まってから終わるまで、彼女はそれを感じ続け、全てを出し切るまでこちらにしがみ付いていた。
二人とも絶頂の快感から落ち着いたあとも、お互いの性器を睦ませたまま、何もせず過ぎていく時を贅沢に味わう。典の肢体の体温も、感触も、子を孕んだお腹の存在感も、何もかもが心地いい時間。だが、いつまでもこうしているわけにもいかないので、細い背中をぽんぽん叩く。
典はこちらを見上げ、むうと少し唇を尖らせたが、仕方ないですねとばかりに柔らかく笑い、拘束を緩める。
そうしてようやく、屹立をずるりと引き抜く。挿入する直前に比べ、多少萎えの見られる分身には避妊具がぶら下がり、その先端に避妊具本体の色よりも濃い白を透かせていた。
「……それ、取ってあげますから、じっとしてて下さいな」
「あ、ありがとう」
典は言うが早いか怒張に手を掛けると、スムーズな手つきで避妊具を抜き取り、口をきゅっと縛って処理をする。そして、そのままゴミ箱へ、ではなく、一度目の時と同じく、まじまじと眺め出す。
「こうしてみると、やっぱり濃いし量もすごいですね。流石、私の愛する旦那様、妊娠してお腹を大きくした女狐相手なのに大興奮でしたもんね」
典はくすくすと笑ってこちらを見やり、自らのお腹をすりすり撫でる。
避妊具に包まれた精子は、牡としての本懐は果たせぬ、快楽のみを求めた繋がりの証左でもあるが、典はいつもその濃厚さや射精量を喜んでくれる。
彼女に取っては、これだけ搾ってやったという、孕んだ肢体でも満足させた証でもあり、それが嬉しいのだろう。
「それだけ、典が魅力的ってこと」
「ふふっ、ありがとうございます。素直に受け取っておきますね」
その喜びに彩りを添えてやると、彼女は可愛らしく笑う。
お互いの体力的にも、雰囲気的にもお開きムードが流れる中。
「……典」
「はい」
「また、時間とかタイミングとか、典の調子も良さそうな時にでも――」
そこまで言ったところで典は口の端を仄かに緩ませると、こちらの耳元に口を寄せて、囁いた。
また、貴方の言葉で誘って下さいね――。
3.
我が家の些細な自慢として、実は風呂場がなかなかに広い。この家を建てる際、典に『お風呂でゆったりと足を伸ばせると満足度がとても変わりますよ』なんて言われ、洗い場はともかく、浴槽はそれなりに奮発したからだ。
実際、彼女の言い分は非常に正しく、しかも結果的に一緒に入る家族も増えたので、窮屈な思いをしないで済んで丁度良かったなあ、なんて思っている。
「ふー、気持ちいいですー……」
そんな自慢のお風呂で、典は湯船に浸かり、気の抜けた声と表情を見せていた。浴槽に身を預ける自分に典はだらんともたれ、小柄な体躯は腕の中にすっぽりと収まる。彼女の希望で優しくお腹を撫でてやると、典の表情がまた緩んで可愛らしい。
そんなリラックスタイムを過ごしていると、典は撫でられている自身のお腹を見下ろし、呟いた。
「それにしても、私はあと何人くらい産むことになるやら」
やれやれと言わんばかりの口調なのに全く嫌そうな様子はない、いつもの煽り。
普段ならさらりと流す発言だが、ふと、確かにどうなのだろうかと改めて思う。自分が、ではなく、典が。
今日なんかもそうだったが、妊娠の有無に問わずよく誘われるし煽られる。なので、すっかりそのつもりだと思っていたが、ちゃんと聞いた覚えはあまりなかったかもと思い直し、せっかくの機会なので再確認ついでに尋ねてみる。
「因みに、どのくらい欲しいとか」
「それは勿論、たくさんです。といいますか、貴方との赤ちゃんなら何人でも妊娠してあげますし、産みますよ? これ、よく言ってますけど、本気ですからね?」
あっけらかんと典は答えると、お腹を撫でながらこちらの耳元にそっと囁く。
「ここは、未来永劫貴方専用ですから。私が排卵する卵子も、一つ残らず貴方が孕ませていいんですよー」
これでもかというくらい、にやにやした表情を浮かべて典は笑う。そんなあからさまな煽りを「はいはい」とあしらうと、彼女はこちらにもたれたまま、んーっと手足を伸ばして、また力を抜く。
「でも、ちゃんと考えるなら、二桁って大台って感じがするかなあ、とは」
「……それだと、折り返しすらまだだね」
「ですね。まあ、とは言ってもそれを目標にするのは違う気がしますし。何人欲しいから貴方を産んだのよなんて、生まれてくる子に悪いです」
「ま、そうだね」
「ですから、愛し合って授かれば何人だって欲しいですよ。愛する人との、愛の結晶。いい響きですねー」
「……うん、本当に」
こちらを見上げる典の濡れた前髪を払い、頭を緩く撫でる。
彼女の赤裸々かつ真摯な気持ちに、あの日の言葉を思い出す。
あの日、典と交わした約束は二つある。一つはもう叶ったし、これからもそのお願いは叶えてあげたいと思っている。
だが、もう一つの約束。それが叶うかは、叶えてあげられるかは、正直に言えば分からない。約束すると言った以上、叶えるつもりは当然あるし、そのために色々してはいる。似た境遇の方とその伴侶を交えて話してみたり、実行できそうなら試してみたり。それこそ、人間としての範疇すら超えて。
これから、自分がどうなっていくのか、正直に言えば何も分からない。でも、こうして典と一緒にいられる今が、何よりも幸せで。典と、子どもたちと、気の置けない友人やその伴侶の方々と過ごす毎日が、とにかく幸せで。
「でも、こうしてずーっとお腹に赤ちゃんがいると、いない間が長くなったりするとそわそわしちゃったりして」
「……それは責任重大だなぁ、俺」
「え、今更ですか?」
「いや、覚悟はしてたけどね、色々と」
自身の額に垂れた前髪を自分で直し、浴槽の縁に肘を置く。
飯綱丸さんにも言われた言葉を思い出す。『管狐を娶るということは、相応に大変だぞ』なんて。
一つ、小さく息を吐く。大きな湯船は足が延ばしてリラックスできて、やはり非常にいい。
「……典」
「何ですか?」
「……愛してるよ」
典の耳がぴこんと跳ね、こちらのお腹に当たる尻尾が揺らめく。今頃、お湯を吸って相当しっとりしていそうだなあ。まあ、その手入れの手伝いをするのも、一日の中で好きな時間ではあるが。
「私も、ですよ」
なんて余所事に思案を向けていると、典がこちらを見上げ、柔らかく微笑む。
この笑顔を見ていると、破滅だろうとなんだろうと、かかってこいとすら思える。こちとら、今や守りたいもの、いや、守るべきものばかりだ。
それらを欠片すら離さないように心に決めて、愛する妻を優しく抱き寄せた。