創作キャラクター:睡郷桜海×睡郷十海のR18/BL
注意事項
・近親相姦(兄弟)
・同意のない睡眠姦
・同意のない服薬
・殺害描写
ジャンルは一応歴史にしておりますが、特に時代考証はしていません。
簡単なキャラ説明
【睡郷十海】平安時代後期の舟渡し。睡郷家の長男。
【睡郷桜海】睡郷十海の弟。
「ただいま」
休暇を使って実家まで帰省した桜海を、十海は顔を見るなり駆け寄って優しく抱きしめた。大仰な身振りを受けて桜海は少しふらついたものの、十海の全身から放たれる歓喜をその一身で受け止め、二人は再会を噛み締めた。
「少し見ないうちに随分背が伸びたじゃないか」
「兄さんの方がまだちょっと高いよ」
「お前が帰ってくるって聞いて美味い酒を取り寄せたんだ。干した魚もある。都の話を聞かせてくれよ」
遠く離れた都で一人暮らす桜海の様子に興味を示すのは十海だけだった。親族らの口だけの歓迎を軽く流し、彼らから少し距離を置けばあとは兄弟水要らずとなり、十海の持ち寄った酒を肴にお互いがそれぞれ過ごしてきた積もる話は尽きなかった。
ほろ酔いの十海はいたく上機嫌で桜海の話を聞いていた。上気した頬はほんのり紅く、細めた目はうるんでまどろみ、唇は酒で濡れている。それを見た桜海は一瞬ふっと目を伏せる。
十海は幼い頃から相変わらず引っ込み思案な桜海のそんな仕草が、彼らしい愛嬌だと思っていた。
「なあ桜海、そっちの生活も上手くいっているようだし、俺は安心したよ。お前の薬はよく効くと船の上でも噂で聞く。お前ときたらこんなに出来た弟だというのに、父も母も分かっちゃいねえよなあ」
「いいんだよ兄さん。よく分からないことをしてるように見られてもしょうがないし。でも兄さんにそう思ってもらえるだけで、僕は十分だよ」
十海は瞼が落ちてきたところで、最後に残った酒をぐっと飲み干した。
「うん、酒が回って眠くなってきたし、俺はもう寝るよ。お前も長旅で疲れているだろう、早く床に就くといい」
よろよろと覚束ない足取りで寝床まで歩いていくと、そのまま薄い布団の下に潜り込んであっという間に寝入ってしまった。
一人残された桜海は、知らず水に差し替えていた杯の中身を捨て、ゆらりと立ち上がってひたひたと十海の元へ向かった。
十海はすっかり深く眠りこけていた。
簡素な麻の寝巻きで身をくるみ、寝相で少し乱れている。普段は結っている髪もほどかれて自由に布団の上をのたくっており、この姿を今自分だけが見つめている。
まだ、しばらく彼は起きない。
十海が起きるまでの時間や、どこまで刺激すれば彼を起こしてしまうか、桜海は感覚的に把握していた。深い眠りをもたらす薬のおかげで、彼はよく眠れているらしい。それは大変僥倖だった。
ゆるく開かれた襟に静かに手を差し込み、ゆっくりと深い呼吸をしている肋骨を動きに沿って指で撫でる。船渡しとして精力的に働く彼の体は、小柄ながらも精悍で、しっかりと筋肉がついていた。机に向かって薬の調合に追われる自分とは体つきが違う。
それからみぞおち、へその下まで手を伸ばし、腸骨稜の形を楽しみ、鼠蹊部に行きかけたところで十海の体が少しだけぴくりと動いた。桜海は速やかに手を引く。手を差し込んだ形跡に沿ってさらにほぐれた寝巻きのまま、十海は眠り続けている。
桜海は貝殻で作った軟膏入れから軟膏を指先ですくい、じっくりと自分の手で温める。
十海の膝を掴んで腰を動かし、股を開かせて裾をめくる。陰嚢の中心を走る皮膚の縫い目を指でなぞり、蟻の門渡りをくにくにと指先で揉み押す。射精の瞬間、陰嚢から一生懸命精子を送り出すためにここが収縮するのを眺めるのが桜海は好きだった。
そろそろこの行為も佳境に至る頃だという桜海の目測通り、いつものように軟膏を塗りなじませ、慣れた手つきで指を差し込めば難なくするりと入り込んだ。ふと桜海は、死んだ鯨の内臓を喰らうために、皮膚を食い破り体内へ潜り込む八目鰻の話を思い出した。
彼の中の形は指が覚えていた。どこまで深く入るか、どの場所でどう指を曲げれば性感を得られているのか、手に取るようにわかった。向こうもまた、こちらの差し出す刺激を覚えこんでくれているといいのだが。
入り口から内側まで丹念に軟膏を擦り込み終えると、桜海は既に硬く張り詰めた自身の陰茎を取り出して十海の無防備に開かれた太ももに押し当てた。
いつもこの瞬間、桜海の中で何かのスイッチが切り替わるのだった。十海は未だ深い眠りの中で、これから何が起こるのか露ほども知らない。
自分が今まさにどんな顔をしているのかは知りたくなかった。
亀頭で菊門を押し開けて、中に入っていく。血を同じくして個となり分たれた二つが、再び一つへ還ろうとする感覚が桜海の脳に充足し、分け入るごとにそれが確信へと変わる。
彼はまだ起きない。が、今日までに少しずつ薬を薄めてきたので、この刺激を前に起きるなら頃合いだろうと見計らったその時だった。
「ぁ…え、」
これまでの寝言とは全く違う、意識の宿り始めた囁きに桜海の心臓は跳ね上がり、熱湯のように沸き上がった血潮が全身を駆け巡る。
十海の瞼が動き、意思をもって持ち上がる。瞼の裏で上を向いていた眼球が下まで降りていき、とうとう、目が合った。
「なに、ぇあ」
薬によって沈み込んでいた意識の中で未だ夢うつつの彼は、焦点の定まらない瞳をなんとか開けようともがいていた。まだ事態の把握までに至っていない。金縛りと同じで、意識が起きあがろうとしても体がついていかないのだ。
桜海はそれに応えず、腰をぐっと密着させた。
「なに、して、え…う、うん、んん…っ」
根元まで入ったところで十海は顔をしかめ、弱々しくかぶりを振って桜海の腕を掴んだ。普段の力強く櫂を操り水をかき分ける時とは打って変わって貧弱で、桜海はそれを逆にとらえ返し、互いの指をからめた。現世と眠りの世界の狭間にいる十海の瞳をじっと覗き込んで、こちら側に帰ってくるのを今か今かと待ちわびた。
「にいさん、おはよ」
逸る気持ちを必死で抑えて腰を止め、桜海はかすれた小声で呼びかけた。意識を徐々に取り戻しつつある十海に戸惑いの表情が浮かんできた。
「ぉ、うかい…?なんで、」
深々と挿入していたところが急に強く締まった。体の感覚を正常に認識できるようになったのだ。今十海は桜海のものを根元まで受け入れてることをようやく体では理解したらしい、反射的に下腹の筋肉が強張った。
たまらず桜海は中で吐精した。起きている彼の締め付けがこんなにきついとは想定外だった。限界まで溜め込んでいた鬱憤が堰を切って一斉に解放され、どく、どく、と力強い脈動で精液が絶え間なく十海の体内に送り込まれる。止まらない。
「あ、っ、はっ、に、いさ…」
「ふっ、ふ、うぁ、あぁ…」
十海はただ桜海の奔流を受け入れるしかなかった。何が起こっているのか分からない。目の前に桜海がいて、胸のすぐ上で桜海が肩で息をしながら吐息まじりに唸って十海の首元に額を埋めている。汗が蒸発して湿ったなまぬるい空気が二人の体を包み込んでいる。
桜海は間髪入れず再び抽送をはじめた。射精後も一向におさまる気配のない体に歯止めが効くはずもなく、むしろ余計に高まった興奮そのままに二度目の性交が始まった。
十海の中で充填された精液がぐちゃぐちゃに掻き乱され、泡とともに糸を引いて溢れ出る。
「な、待っ、桜海、はっ、あ、待てって、なあ、」
「ごめん待てない」
桜海が舌をもつれさせながら反射的に答え、激しく腰を打ちつける。お互いの体液で下半身はどろどろに溶けてよく分からなくなっていく。十海は知らないものが怒涛に迫り来るのを処理しきれず、褥の上でまな板の上の鯉のように口をぱくぱくさせて酸素を求めた。
繋いだ手が知らないうちに力が入って、手のひらが汗でじっとりぬるついていく。
十海は桜海を信じられない目で見ていた。こんなに切羽詰まって自分に縋り付く彼を見たことがない。普段はあんなに穏やかで、少し影があり、内気な印象すらあるのに。今の彼は飢えた獣のような目つきで、燃えたぎる生気が彼の身を持て余し、それをそっくり乱暴なまでにぶつけていた。
腰を穿つたびに十海の体全体が揺さぶられ、覚醒したばかりの頭を今度は茹だるような熱が襲う。たちまち正常な判断能力は奪われ、桜海の脇目も振らない性急な求めは鉄砲水のように十海を呑み込んでいく。
二度目の射精にも関わらず、桜海は十海の肉の深いところへ潜り込んだ場所で断続的に長く吐き続けた。厚く引き締まった肉壁を掻き分けた最奥では、出された精子全てをきゅうきゅうと喜んで飲み下していた。
桜海は繋がったままの手の力を抜いた。余韻がまだ長引いて緊張している十海の肉厚な指をなんとかなだめすかして、ゆっくり手をほどく。
その手を下へ伸ばし、中途半端に勃ったままの十海の陰茎を指で撫で、絡ませる。反射的に腰が跳ねるも、もう力も入らないようで、死にかけの魚よりも勢いがない。
「ぁ、…あ、あふ、ふ…」
十海は喃語を発する赤子のようなたどたどしい息をもらし、あっけなく桜海の手の中で果てた。その反応は、桜海がこれまで手塩にかけたことの結果であり、達成感は他に代えがたいものだった。桜海は束の間疲れも忘れて、思わずあどけない笑顔がほころんだ。
「おやすみ、兄さん」
桜海は力無く横たわる兄の体を恭しく清拭し、自らの袖を枕にしてやり、二人は泥のように眠った。
「なあ桜海、こんなことは間違ってると思うんだよ」
一糸纏わぬ姿で横になった十海の背中を見る。
よく日に焼けた小麦色の肌にまだ玉の汗が浮き、細くうねった癖毛が背中にはりついている。すでにこの光景を何度見たことだろう、だが不思議と見飽きないものだった。
自分自身も知らない領域まで体を暴かれた十海は、その後なし崩しに桜海の求めるがまま逢瀬を重ねてきた。年頃の二人の体力と欲望は文字通り底なしで、桜海が都から帰省した時はさながら蜜月のように求め合う日々が続いた。続けざまに交わり、もう疲れ切って充分だろうと頭で理解していてなお、肉欲による埋め火で体は燻られ、二人はそれに屈服した。事態を誰も知らないことを除けば、あまりに爛れた関係だった。
その晩も、十海は桜海の呼びかけに応じてまぐわった。桜海は十海の袖先を指でつまみ、奥ゆかしいながらねっとりとした情欲を訴えた。憂いを帯びた伏し目がちのまつ毛が月の光を受けてきらめいていた。それだけで絵になるほど彼は美しいのに、ましてその視線に捕まったら最後、もう逃れることはできなかった。
よく似た二人は髪も絡まるくらいにもつれ合い、互いの口を競って奪った。彼らの中だけで完結するものをさらに濃縮を繰り返し、二人が望むものは次第に純度を高めていく。お互いの腹の間で擦り合った陰茎はこれ以上ないほど硬く怒張し、行き場を求めてしとどに濡れていた。桜海は夢中になって十海のものを口で咥え込み、喉の奥で切先をくうくう搾った。十海は罪悪感の方が先立ってやめるように言い、頭を押し除けようとしたが、間に合わず桜海の咥内に精液を流し込む結果となった。
しかしそれだけでは飽き足らず、二人の行為はエスカレートしていく。十海は桜海にまたがり、自ら深々貫かれると、腰をくねらせて自分の内に秘めた性感帯を桜海につぶさに教えた。中から桜海の陰茎を使って内壁を擦り上げると、十海のそれは再び勢いを取り戻し、がちがちに硬さを増していく。一度気持ちのいい場所を見つけてしまえば、あとは坂を転がり落ちるように桜海と自分自身を同時に責め上げた。常に揺らぐ水の上でバランスを取り続けることで鍛えられた体は、桜海が音を上げる程のうねりをもたらし、桜海は、十海の腰を掴んで押さえつけ、半ば泣きながら溢れるまで何度も中に欲を吐いた。
そんなことがあった矢先、十海が切り出したのは関係を終わらせようという提言だった。
「俺たち血を分けた兄弟だろ。いくらお前の頼みでも、聞いてやれる限度がある」
理性の残る兄の苦言を、桜海は内心鼻で笑った。この優しい兄は未だに弟のいじらしい頼みだと思っているらしい。全てはこうなるように、手の内で用意周到に準備を重ねてきたというのに。
兄さん何もわかってないね。桜海はその言葉をぐっと喉の奥に押し込んだ。
「いずれお前も伴侶ができて一緒に暮らすんだ、そんなときに噂が立ってちゃまずいだろ。もうこれっきりにするんだ、桜海。俺も目を瞑ってやる」
本当に兄さんはなにもわかってない。
ある日、夜半になって十海はこっそり寝床を抜け出して、人気のない離れに潜り込んだ。
最近、声が大きくなってきた気がする。それにこのままでは眠ることもできないし、一時的にでも凌ぐためにこうしてわざわざ一人になる必要があった。
片袖を落として脱ぎ、袖口を噛んで自身を手荒に慰めるが、もうそれだけでは事足りなくなってきていることも分かっていた。
「ふ、ふ、っ、ウ…」
袖を落としたことで露わになった左胸の乳首を指で潰す。なかなか絶頂まで辿り着けないことに痺れを切らして内側から刺激を与えようと陰茎ではなくそのさらに下へ指を伸ばした時だった。
「こんな夜中にどうしたの」
人の気配がした時はまさに心臓が止まりかけたが、聞き慣れた声にひとまずほっとした。部屋に入ってきたので慌てて背中を向ける。
「桜海、付いてきたのか」
十海はばつの悪そうな顔をした。
肩越しに十海が横顔を向ける。月明かりだけでも、顔が気色ばんで吐息がじっとりと熱く湿っているのがよくわかる。
「苦しい?」
「お前には関係ないことだ、気にするな。それにこれっきりにするって前にも言っただろ」
桜海は十海の手の上からそっと手を添える。
それだけでびくりと体が過剰に反応したのを見逃さなかった。脱いだ袖の先が唾液で滲んでいる。
「桜海…頼む、帰ってくれ…」
十海の懇願は掠れた嘆息に取って代わり、桜海の劣情を駆り立てる。二人の間柄はすでに兄弟では説明がつかなくなっているのを、兄はそこに楔を打ち込んでいた。元の兄弟に戻そうと彼は必死だ。兄弟である自分たちの関係は桜海も好ましく思っていた。自分より少し早く生まれ、自分が生まれた時からずっと見守っていてくれた兄が大好きだった。だがそれは同時に自分の運命を呪いたくなるほどの代物でもあった。他人として生まれていればこんなややこしい因果にはならなかったかもしれないし、お互い顔すら知り合うことなく人生を全うしたかもしれない。
桜海は、十海が打ち込む楔を、打ち込んだそばから一つ一つ丁寧に引き剥がしていく。
「ねえ、ここなら誰も来ないし、誰にも聞こえない。楽にしてあげられるよ。朝までずっとここに居るの?」
「あ……はぁ…」
手首から腕を、肩を、手のひらで包んで滑らせると十海は悩ましく息をこぼした。肩を掴んで振り向かせると、熱に浮かされてふらつく眼差しが桜海を捉える。十海は体がいうことをきかず、重たくなった頭を桜海の胸に預ける。桜海は喜んで迎え入れ、愛おしげに頭を抱いた。早鐘を打つ心臓を包む肉を、十海という存在を形成する全てが桜海にとって玉のようにかけがえのない大切なもので、ずっとこのまま腕の中に収めておきたい。どちらのものか分からなくなるまで一つに混ざり合って、とろけてしまいたい。それが桜海の本懐であり、弟のことを思えばこそと考える十海とは、肝心なところで根本的にすれ違っていた。
「兄さんの苦しい姿は見たくない。楽になろう、僕らで」
十海はいつもこの手の誘惑にめっぽう弱かった。責め立てられた体を前に、楽になりたい一心でいつも最後に折れるのは兄の方だった。狂おしいほどの桜海の愛は、例えるなら時に凪であり、そして時として遥か頭上から天幕を広げる厚い波で、重力に任せて降りかかると同時に海の底へ引き摺り込んで攫うような理不尽さがあった。十海が鼻骨を桜海の首筋に擦り寄せてくすぐるのが、閨で彼が弟に甘える仕草であり、陥落した合図だった。
いつか本当に心から兄さんがこれを望んでくれたらいいのに。
完全に桜海に身を委ねた十海は、桜海がうながすままに足を開き、桜海の手のゆく先をぼうっと見つめていた。
桜海の指が十海の陰茎を絞り上げ、手のひらで亀頭をぐりぐりと押し潰す。十海の生半可な手つきとは違い、容赦がない。
寸止めなどといった意地悪をするまでもなく、十海が内側の刺激なしには射精もままならなくなってきていることを桜海は知っていた。そして、射精よりも中を蹂躙される方がよほど十海にとって強い快楽になり得ることも。この状態がすでに寸止めそのもので、生殺しもいいところだった。
十海からひときわ高い声が上がるたびに桜海が口で塞いできたせいで、十海の唇は互いの唾液でてらてらと光っていた。だらしなくて、でもどうしようもなく愛おしい。こんなになって今更戻れると思っているのは兄さん一人だけだよ。
「どうして欲しい?」
分かりきったことをわざわざ聞くことが、桜海なりの意地悪だった。十海は涎を垂らしてひゅうひゅう喉笛を鳴らし、うわごとのようにまくしたてた。
「お、おれは、もうおかしいんだ。お前には真っ当な人生を歩んで欲しいだけなのに、それを俺が邪魔している。お前じゃないとだめだなんて、口が裂けても言えないはずなのに、俺の体がおかしいんだ」
「ああ、兄さん。そんなこと言わないで」
桜海は哀れんで兄を抱きしめた。
兄の言葉は半分正しい。彼の体をおかしくしてしまったのは間違いなく自分なのだから。眠っている間に感じやすい体になっていったのも、時折火照りが抑えられないのも、全て自分の手筈の通り。
ただ十海が間違っているのは、それが桜海の人生の邪魔をしているどころか、桜海の望んでいたことという点だ。
兄のいう真っ当な人生など、何一ついらない。
ああ、やっぱりこうなってしまうのか。
「あ、あっ、は、ぁう、ん、はぁ、っ、は、あぁ」
十海は途切れ途切れの呼吸を掴むので精一杯だった。
体の奥をこつこつ突かれるたびに自分のものではなくなったような甘い声を垂れ流し、時々顎を掴まれて振り向きざまに咥内が桜海の舌で満たされると、うっとりと目を閉じて甘美に身を浸す。
結局自分が意思薄弱だから、またしても桜海に体を許してしまうのだ。自分は人生の岐路に立っている。心を鬼にしてでも弟の執着を自分から引き離さないと、この先何かすごく悪いことが起きる予感がしていた。
一方で、下腹の奥が疼いてたまらないことだけで脳が支配されていた。その埋め合わせを桜海がしてくれていることが、痒いところにちょうど手が届いたようで、体は愚直にも喜び、疼いた中がぎゅうと締まる。
桜海は十海の体に覆い被さり、十海の背中が温かく包まれる。こぼれ落ちる砂をかき集めるように引き締まった体を掻き抱き、震える筋肉が指を伝ってくる。
「兄さん何も分かってないんだから。僕はどこにも行かないよ。ずっと兄さんの弟だよ。お義父さんなんて誰にも言わせない。兄さんさえいればもう、他に何もいらない」
十海の体にぴったり縋りつき、うなじに顔をくっつけて頸椎に響くように囁きかける。桜海の慣れ親しんだ声はあまりにも切実で、それが単なる親愛を超えたものであることは明白だった。
わかっている。わかっていた。ずっと昔から弟が自分に懸想していることなど。自分に対して時々目を伏せるのが、単なる愛嬌に留まらず自分に負い目を感じていることの現れなのだとも。
本当に彼の幸せを考えると、このまま堕落の一途を辿ってはいけない、なんとかして軌道修正しないとと考えてきた。しかし弟の一途な心まで拒絶して、それで弟は今後自分らしく生きていけるのかと考えたところで、十海は袋小路に追い込まれた。
十海は思い返す。控えめで自分の考えを早々ひけらかさない桜海が、陰でどんなに努力しているか。たとえその努力が時として自分を振り向かせるためのものだったとしても、やはり弟の全てを否定はできなかった。
「お、おれは、お前の兄であることを誇りに思ってる、だからこそ、あ、あ、あああ」
十海の言葉は引き攣って途切れた。
十海の中で何かが壊れそうなのを彼は必死に押し留めている。もうすでに割れている器を、その形に保たせようと手で支えているかのように。
言葉を途中で失った十海は息を詰まらせて野太い声で低く吼えた。出すものもなくなった陰茎からさらさらの潮が吹き、床にぴしゃぴしゃと散る。膝はがくがく震え、あとは全身に波及する痺れにも似た快感に溺れていくばかりだった。
「ああ、中だけでいっちゃった」
十海を満足させるために外性器に触れる必要はもはやすでになくなっていた。子種を欲する下腹の空腹を満たしてやるだけで、十海の身体はそれらを喜んで享受した。いつも挿れられる桜海の形に沿って吸い付き、桜海が十海にしてやる以上に締め上げる。言葉を介さない体の応酬は阿吽の呼吸に等しく、お互いが全てを明け渡し、受け取りあううちに、元々一つの命だったような錯覚に二人して酔いしれた。
桜海が自身を引き抜くと、どろりと塊の混じった濃い精液が垂れ落ちた。よろけて倒れそうになる十海の体を引き寄せて、その身に抱きながら桜海は続けた。
「僕は約束する。だから兄さんも約束して、お願い、どこにも行かないで」
どこにも行かないでって言ったのに。
両家との見合いの結果、ある女性と十海が結婚すると決まり、睡郷家は祝いのムードに包まれていた。親族は大変喜び、十海もはにかみ、そして桜海も微笑んだ。
ばたばたと準備でにわかに忙しなくなる中、束の間の夕暮れの休みに十海は桜海に向き合った。
「俺も家業を継がねばならんし、いずれ子にも継がせなきゃならん。俺自身が望むと望まざるに限らずだ。分かってやってくれ、桜海」
十海は困ったように笑い、桜海の癖毛をくしゃくしゃと撫でた。十海は決まって二人きりの時だけはこうして彼を、少し子供っぽいものの、弟扱いするのだった。
「だから代わりと言ってはなんだが、家のことは俺に任せて、お前は自由に生きるんだ。お前は聡い。俺よりもずっと多くの人を助けられるはずだ。お前の勤勉さと才能で、お前の人生を生きるんだ」
桜海は糊で固めたように微笑んだままだった。
そして十海の結婚前夜。
桜海は祝い酒を手に、月を見ようと十海を誘った。
夜半過ぎ、桜海はすでに息絶えた十海を乗せ、船を漕ぎ静かに沼を進んでいた。
早くも死後硬直が始まっており、最後に抱いた時とは別人のように変貌しつつあった。骨張った体の節々が固まりだしている。
昔から桜海は船の扱いが大層苦手だった。少しでも揺れると船酔いしてしまうのだ。海はもちろん、川や水路でさえ酔っては嘔吐するので、早々に家業の船渡しは諦めざるを得なかった。
抜群のバランス感覚と優れた三半規管を持つ兄とは大違いだった。
最後に覚えているのは幼き頃、十海が櫓の動かし方を教えてくれた事だった。皮肉にもその操作は船に乗らずとも体が覚えており、今一度船に乗る時も慣れた手つきで櫓を捻っていく。
こうしてゆっくり船を滑らせるだけなら桜海も乗ることはできた。やがて家業として人や物を運ぶスピードが求められるようになると、次第に桜海は家から気配を限りなく希薄にしていった。睡郷家という強固な結界の中で、桜海は生きながらにして幽霊のような存在になっていった。睡郷家にとって睡郷桜海とは、長男に何かあった時の代わりであり、しかして家業に向かず、そして長男はつつがなく家業を継いだので、無用の長物であった。都に出て行ったのは彼らにとって都合のいい厄介払いだった。
そうは思わない者が一人だけ、たった一人だけいた。睡郷十海だ。十海だけは一貫して桜海の味方でいた。どんなときも邪険に扱わず、敬遠せず、腫れ物扱いもせず、ただ一人の弟として対等に接してくれた。
走馬灯のように過去の思い出が振り返ってくる。今際の際の十海もまた同じ過去を振り向いてくれただろうかと考え、冷たい彼の体に触れた。
桜海が船を手繰るのは、これが最後だった。
どこにも行かないでと頼んだところで、誰も叶えられる願いではなかった。どんなに桜海があらゆる手を尽くして十海を心身共に囲い込んだとしても、いずれはこうなるのだと心の隅は冷めたままでいた。
桜海のどんな無茶な要望もなんだかんだ聞いてやれた十海でさえ、桜海が心の底から聞いて欲しかった願いだけは、叶えることができなかった。
十海と同じくらい無数の葛藤に苦しんだ結果。ならば、誰の手にも届かない所に十海をやるしかないと桜海は結論づけた。それは桜海とて例外ではなく。
「大事な、大事な人を亡くしてしまった」
この手でずっと抱きしめていたかったものを、自らの手で終わらせた。究極の支配欲が誰にも突き崩せないまま積み重なった末にできた、一世一代の集大成だった。
遂に独りきりになった桜海は、もう保つ必要もないとばかりにずっと奥底に抱えていたものの箍が外れてがらがらと崩れ去るのを聞いた。
今後誰にも見せることはないだろう涙がほとばしり、澱んだ沼にとめどなく落ちる。
「さようなら、きみ。愛していました。」
桜海は十海の遺体を沼に沈めた。
【触れ書き】
都の医師、睡郷桜海を遺体に見つけき。
顔より喉まで血にまみれ、いみじくやつれたりき。
日ごろ、都には多くの関係者がゆゑ不明に死亡しおり、都を恐怖に貶めたれど、彼の研究室や彼の血液、被害者の状況より同じ毒の使はれたるものとみらる。
殺人の咎と責めを求むる者を見つくるため、睡郷桜海の縁を尋ねど、血縁者は皆桜海の殺害せるため、見つけられず。集落は疫病の蔓延せるやのごとく死体が無数に転がり、然るありさま、げにおぞまし。
よりて、睡郷桜海を殺人の咎にて、鬼の面つけ葬ることとす。
村、都の遺体は手厚く葬った後、村全体を禁足地とする。睡郷桜海がいかに住人らに毒を使ひしやは不明なれど、水、土地の汚染の可能性があり、また怨念による呪ひの危ふきのあるため、村には人の立ち入りを禁ず。