小傘ちゃんが小傘ちゃんになる前の捏造設定。
特徴なしオリキャラ注意。
長く使われた道具には心が宿ると言う。私もいつしか心を持った。喋ったり動いたりはできなかったけれど、辺りの様子を窺うことはできた。私の持ち主はあまりぱっとしない青年だったが、道具の扱いは丁寧だった。だからこそ私に心が宿るまで使い続けてくれたのだろう。
雨の日に彼と外に出るのを心待ちにしていた。屋根を打つ雨音が私の心を弾ませた。身を挺して彼を雨垂れから護れることが誇らしかった。いつまでも彼と一緒に居たかった。だが……彼と私の関係は無常にも引き裂かれてしまった。
小雨のぱらつくある日、彼は私を傘立てにそっと置いて雑貨屋に何かを買いに行った。濡れた私を持って店に入っては迷惑になる。確かに彼の判断はマナーとしては正しい……が、致命的に不注意であった。
おもむろに私の体がひょいと持ち上げられた。そのまま乱暴に開かれ、雨を避けさせられる。彼とは全く違う乱雑な扱いにパニックを起こし、一瞬何が起こっているのかわからなかった。そう、何処の誰とも知らない男に私は持っていかれてしまったのだ。
止めて、お願い。これでは彼と外に出られない、彼を雨から護れない。お願いだから私を元のところに戻して。雑貨屋から出た彼はきっと途方に暮れているだろうから。だが、言葉を発せない私の思いが人間に通じることもなく。あれよあれよと言うままに雑貨屋は遠く遠くなっていった。
雨がまばらになり、私の体が閉じられた。そのまま無造作に立てかけられる。彼だったらこんな扱いをしないのに。持っていくときも無造作で、扱いもこれだなんて、怒りを通り越して悲しくなってくる。雨垂れの残りが私の体を伝うのが、なんだか涙を流しているかのように感じた。
雨が止み、空が晴れてきた。男が入っていった建物がなんであるかなんて興味も湧かない。ただ、さっきまでの雨が嘘みたいにからりと晴れた空に得体の知れない不安を覚えていた。
結局男はそのまま私を置いていった。あいつにとって私なんてただ一時雨をしのぐためのもの。そのために、彼が、私が、どんな思いをすることなんて関係ないんだろう。あいつには人の気持ちも道具の気持ちもわからないのか。ひときわ強い風が吹いて私の体を吹き倒した。私に出来ることは彼が偶然通りかかるのを祈ることだけであった。
私はそのまま誰にも拾われなかった。何人かが私を手に取ったものの、そのまま元あった場所に戻すだけ。もはや私は誰でもいいから私を傘として使って欲しかった。私を手に取った少女が呟いた。「こんな茄子みたいな色じゃなぁ」。そのまま私を置いて去っていく。そんな、私の色は悪いのか。だから彼も探してくれなかったのか、あの男も雨をしのぐだけしのいで置いていったのか。
手に取られては捨てられ、投げられ、風に飛ばされ、落ち……自分では確認出来ないけれど私の身体はぼろぼろになっているに違いない。せめて誰か、最後にもう一度傘として使って欲しい……祈りと共に私の意識は途絶えた。
ぎしぎしと身体が軋む。びゅうびゅうと吹く風が寒くてびくりと身体が震えた。気だるい身体を起こそうとして……ようやっと私は異常に気づいた。
そう、傘の私に身体が震えるはずはない。ましてや自分で身体を起こすだなんて……。目に映っているのは薄汚れた傘を握り締める二本の手。横に捨てられていた罅割れた鏡に映っているのは色違いの眼をした傘を手にした少女。私は捨てられ続けるうちに妖怪となってしまったのだ。
いきなりのことに混乱する思考を纏め上げ、現状を把握する。ここはどうやら粗大ゴミ置き場のようだ。こんなところにいてはいつ処分されるかわからない。そうなる前に帰ろう、あの人の所へ。私はもう自分の足で歩けるのだから。
あの人の所に帰れると思っただけで勇気が湧いてきて、手足に力が漲ってくる。私はぴょんと跳ね起きて知らない道を駆け出した。
早く帰ろう。早く早く。家に着いたら何て言おう。はじめまして、かな。違う違う、私と彼の出会いはずっとずっと前だもんね。ただいま、だよね。だって、彼の家は私の家だもの。よし、決めた。ただいま、待たせてごめんね。こうね。彼、どんな顔するかなぁ。
知らない道を必死で走る。どれだけ私は流れ流れていたんだろう。全然知らない道ばかりで彼の家が判らない。こんなところで迷っている暇なんてないのに。ねぇちょっとそこの人、ここから一番近い雑貨屋は何処!?何処にありますか!?
知った道に出た時にはもうすっかり夜中だった。雑貨屋に他の雑貨屋を聞き、たらいまわしにされている内にこんな時間になってしまった。走るのなんて初めてだから、足はガクガクで。それでも、彼の家が近づいているというだけで力がまだまだ湧いてくる。
やっと見えた!彼と私の家!ああ、どれだけこの日を待ち望んだことか!私が妖怪になったのはこうやって自分の足で歩いて帰るためだったのね。そうに違いないわ。
ノックをしても誰も出ない。仕方ないわね、夜中だもの。いつも彼は早寝早起きだったもの。でも、遠くから帰ってきて朝まで待つのは嫌。待ちきれない。一分一秒でも早く彼の顔を見たい。そうだ、確か……やっぱり、窓が一つ開きっぱなしだ。私を干すときに風通しをよくするために開けてそのまま忘れる癖があったのよね。それとも、私のために開けておいてくれたのかな、なんて。
窓を乗り越え久しぶりに入った家。配置は全く変わっていない。漬物の作り置きがあって、水がめがあって……そして、いつも、私が干されていた茣蓙の上には、真新しい、綺麗な、いっぽんの、傘。
思わず声が上がりそうになるのを押し留める。そうよね、私がいなくなって雨を避けられなくなったら、困るもの。だから新しい傘を買う。当たり前じゃないの。彼は全然悪くない。悪いのは何も考えずに盗んだあいつ。でもどうしよう。折角帰ってきたのに、私の居場所が無い。この傘に罪なんてない。道具の気持ちは道具の私にはよくわかる。私のためにお蔵入りになんてなったらあまりにもかわいそうだ。でも私はどうなるの?ぐるぐる堂々巡りする思考。ふと、隣の部屋から規則正しい寝息が聞こえてきた。
こっそり襖を開けて入ると懐かしい彼の顔。ああ、やっぱり私は彼と一緒がいい。でも、新しい傘の居場所を奪っちゃいけない。それじゃあ私を盗んだあいつと変わらない。でもどうしたら良いのか判らない。どうしようと悩む私の目に飛び込んできたのは、白くて細い綺麗な私の指だった。
そうだ、私は妖怪になったんだ。普通の傘には出来ない居場所を自分で作ればいいんだ!これなら新しい傘と私と彼で暮らして行ける!私の、新しい私の居場所……新しい、この身体の使い道……。なんだ、そういうことだったんだ。
今の私の身体は女の子じゃないの。だったら、この身体を彼に使って貰えば良い。彼の傍が私の居場所。それで解決!じゃあ早速彼に使ってもらおう。
布団を捲って頭を突っ込み彼の下半身に顔を寄せる。やり方はなんとなく理解できている。理屈なんかじゃなく、私が彼に使ってもらうために「そうなった」のだろう。股引に手をかけ一気に引き下げ、まろび出たモノに舌を這わせる。縮んでいたのが少し固くなる。私で気持ちよくなってくれてるんだ、嬉しい。むくむくと大きくなってきたそれを口にぱくんと含む。これからずっとずっと私がしてあげるからね。
先っぽの部分をちろちろと舌でつつくとびくんとなるのが愛おしい。私のお口ですっかり大きくなったのを、じゅぼじゅぼと音を立てながら唇で扱きあげる。こんなにしてるのに起きないだなんて、よっぽど疲れてるんだね。大丈夫、これからは私がずっと癒してあげるから。びくりとモノが痙攣し、口の中に彼の精が迸る。全部飲んであげるからもっともっと出して。ほら、中に残ってるのも全部吸い込んじゃうね。すっごく濃くて喉に絡みつきそうだけど、ちゃんと全部飲むから。私はそのためにいるんだもの。
彼はまだ起きる様子はない。でも私はもっともっと彼の物になりたい。彼のを舐めてる間に私のあそこはもうすっかり彼の物になる準備が整っていた。もう我慢できない。彼の布団を剥いで一気にのしかかる。ぶちぶちと掻き分けていく感触と痛み。でもそれ以上に満たされていく感覚が広がっていく。ああ、全てはこうなるために進んでいたんだ。
あっ、起きた。えへへ、ただいま、待たせてごめんね。遅くなったけど、ちゃんと帰ってきたよ。もういなくならないからね。自分の足で帰って来れるから。どうしたの、そんな驚いた顔して。ああ、私がこんなに可愛くなってたのが意外?それは貴方が大事にしてくれたからよ。私は貴方の物だから。でも、新しい子はちゃんと使ってあげてね。私はその分こっちで頑張るから。あはっ、私の中でびくんびくんしてる。いいんだよ。いつでも出して。私は今はそのためにいるんだからね。ずっとずっと一緒にいようね。もう二度とあんなことは起こらないからね。私はずっと貴方の物だから、いつでもどこでも好きなようにしていいよ。貴方のカタチ、身体で覚えさせてね。あはっ、出た出た。私のナカ、気持ち良いんだね。嬉しい。大好き。ん……っ、私も、イっちゃい……え、ちょっと?誰って、私よ私。久しぶりだから忘れちゃったの?どうしちゃったの、あんなに一緒だったのに、やだやだ抜かないで、もっと一緒になりたいのぉ。ねぇどうして、私がわからないの?違う、私、泥棒じゃないし頭がおかしくなってもいない、お願いだから、思い出してよ、嫌だちょっとなんで玄関を開けるのちょっとこの傘を見ても私が誰だか止めて閉めないで鍵をかけないで捨てないでねぇどうしてよお願いなんで
閉ざされた扉を何度ノックしても彼は出てこない。彼にまで捨てられた私はどこに行けばいいのだろう。驚きと悲しみが臨界を突破したからか頭が真っ白になって涙すら出てこない。どこをどう歩いたのやら、気づいたら全く知らない道に出てしまっていた。でも道がわからないことよりも目的がわからないことの方が辛い。あっちへふらふら、こっちへふらふら。風に翻弄されるような傘のよう。ふと、視界に入ったのは決して忘れられない忌まわしい顔。
あいつだ。全ての元凶、私を盗んだ奴。あいつのせいで私は、彼は、引き裂かれてしまったんだ。人の、道具の気持ちも理解しないでふらふらと歩いてからに。思わず駆け寄ってしまった。
「ちょっとあんた!」
「うぉっ!?な、なんだ、可愛い娘じゃねえか。どっかで会ったか?」
怒鳴りつけたら飛び上がるぐらい驚いた癖に私の姿を見たら相好を崩して下卑た笑みを浮かべる。やっぱりこいつは最低だ。お前なんかに褒められても嬉しくない。お前のせいで私は迷子になってしまったというのに。思わず手に力が集まり、にやけた顔面に弾幕を炸裂させる。
叫び声を上げて蹲る奴を放って私は駆け出した。収拾のつかない心と同じぐらい、めちゃくちゃにめちゃくちゃに。どれだけ走ったのだろうか。息が切れ、足も限界で地面に仰向けに倒れてしまった。いつしか空は黒雲に覆われ、ぽつりぽつりと雨が降り始めてきていた。こんなに広い空の下で、私はどうすればいいのだろう。ずっと握り締めていた私の本体にふと目が行った。私であって、もう一人の私。盗まれ、捨てられた私。じゃあ、今地面に寝転がっている私は一体?
その瞬間、雲が切れて晴れ間が差すように理解した。そうだ、私には私がいるじゃないか。傘の私は妖怪の私が大事にしてあげられる。私はもう一人で生きて行ける。人間に使われなくたって大丈夫。捨てられてからが真の妖怪ライフの始まりなんだ。もう人間が私を使うのはおしまい。今からは私が人間を餌にする番だ。さようなら、名も無き忘れ傘、はじめまして、多々良小傘。いつしか傘も嘲るように舌をべろりと垂らしている。こんな簡単なことに気づかなかった自分が滑稽で、雨が強まる中寝転がったまま狂ったように笑い転げてしまう。だから、頬を伝うこれは、きっと雨垂れに違いない。