タクマのチンポは高速であった。
それでいて、おそろしく剛健でもあった。
「っあ♡ 待って♡ んぅぅ♡ おチンポだめっ♡ つよつよおチンポだめっ♡ 相性抜群チンポ私の
どんどんどんどん加熱し加速していく吐息たちが、ふたりを一緒くたに取り囲む中。とろんとした目つきをしたハルカが、タクマと密着させている腰をくねらせ、甘く甲高い嬌声を一つ上げるたび。
ここで、注意しておかなければいけないことがある。「マイクがしあわせどすけべあほあほボイスを記録していた」というのは、逆にしあわせどすけべあほあほボイス以外の……ボックス内で上げられる、数々の雑音を記録していなかったということを意味しない。
もちろん――上げられた嬌声について判定を行うフェーズまでいけば、高速フーリエ変換からニューラルネットワークまで様々なアルゴリズムが駆使されて、録音データのうち「声」と「声ではないもの」を慎重に分離したうえでの判定がなされる。しかし現時点の……生データとして音声を保存している段階では、ふたつは……「声」と、「声ではないもの」――あるいは「雑音」は、完璧に綯い交ぜにされている。
「雑音」といっても、具体的に何か?
例を挙げてみよう。
凶暴にして強欲な動きで、自分と
混ざりあっていくふたりの裸体から、むわっという熱と共に勢いよく飛び散っては、照明の光に僅かに煌めきながら落ちていく、無数の体液の雫たち――が、まさに冷たく硬い床と衝突する、その瞬間のぱちゅっという微音。
あと……ボックスの隅の壁を拡張する形で取り付けられた、荷物を置くためのちょっとした台の上。タクマのリュックと寄り添うように積まれたハルカのハンドバッグのその中で、スマートフォンが吐き出している、ぷるるるるという着信音。
これが問題だ。
「なんでおチンポそんなすごいのっ♡ だめっ♡ 壊されちゃう♡ へっ♡ へっ♡ ……キス、したいの?♡ いいよっ♡ んんっ♡ むちゅ♡ はっ、ぷは……♡ 糸引いて、あっ♡ 腰の動きもっと激しくなってる♡ だめ♡ イっちゃう♡ おっ♡ おっ♡」
――などといったバカ語彙淫乱実況を口から吐き出し続けている、その瞬間も。ハルカの脳に僅かに残ったまだチンポされていない部分は、ずっとこの着信音について考えていた。
◇
セックスボックス利用時の流れはこうだ――利用者二人はまず猥雑なピンク色に塗装された超防音スライドドアを開くと、(機種によっては入り口付近に設けられているタラップを登ったうえで)ボックスの中に入る。中に入ったうえで制御パネルを操作し、回数を決めたりクーポンを使ったり金額を確認したり照明の強さを変えたりする。そうして一通りの調整が済んだら、パネルの上部に置かれたIPS液晶の小型ディスプレイに表示されただけの金額を、コインスリットや紙幣投入口、またはNFCリーダーから支払う。最新のものだと、バーコード決済に対応している機種もあるらしい。
支払いが終了すると、ドアがロックされる。設定によっては効果音やBGMが流れ始め、照明の色合いが変わる場合もある。その後――人工知能による、セックスの採点がスタートする。
ボックス内の様々な箇所に設置されたカメラから読み取った、利用者の表情や動き、体温推移。あるいは同じく設置されたマイクから読み取った。吐息の感じや発された言葉。服装。時刻。事前に入力された二人の関係性。そういったものを総合的に判断して、採点AIは性行為を採点する。6つある指標をそれぞれ100点満点で評価し、合計600点を総合点数として出力するのだ。
友達と休日に軽く遊んで、採点結果に文句を言うもよし。配偶者と共に向かって、ハイスコア更新を目指すもよし。その辺にいた知らない異性と組んで遊ぶのも乙なものだ。三人以上でも遊べるし、逆に一人プレイモードもなくはない。セックスボックスの遊び方の可能性は無限大で、その事実こそが、バブル景気のころから続く国民的人気を裏打ちしているのだ。
◇
『絶対に600点を取ろうな』
十数分前――どぎついピンクのスライドドアの前。そう告げたタクマの真剣な面持ちは、ハルカの脳がどれだけどすけべに浸されても、零れ落ちることなく残響を続けていた。
「ふーっ♡ イクっ♡ またイクっ♡ ひーっ ♡ひーっ♡ 気持ち良すぎてっ♡ ふーっ♡ 死んじゃうっ♡ から♡ おっ♡ セックスもうら、あ♡ そこぉぉ♡」
着信音について。
採点AIは確かに嬌声と雑音を分離して捉えるが、だからといって嬌声のどすけべさしか判定に使わないようなことはない。雑音についても――ある程度は見られる。。単純な話……屹立したチンポが濡れそぼったメス穴を貫き堕としていく際のどちゅどちゅという水音が、重要でないはずが無いのだ。環境音のえっちさも当然加点対象であり……裏を返せば、環境音で減点が生じるケースもある。
ぷるるるる。
着信音が鳴っている。マナーモードにしなかったせいだ。
きっとハルカの母親からのものだろう。この時間帯に大した中身もない電話をよこしてきがちだ。どうせ卒業式も終わったことだし昼食でもどうとか、そういうことを言いたがっているに違いない。そのうえ珍しくセックスボックスという存在を嫌っている面倒なタイプの人間だから、ハルカはタクマと足しげくボックスに通った高校三年間で、一度もその事実を母に伝えなかった。ボウリングに行くとかカフェに行くとか蟻の観察に行くとか言って、自分の変態どすけべ行為のいっさいを肉親に隠し通してきたのだ。
まあ――発信者はどうでもいい。重要なのは、恐らくこの着信音は、性行為における
タクマとの約束について。
「あっ♡ おチンポびゅっびゅしたくなっちゃってるでしょ♡ はっ♡ わかるよっ♡ 目の前の淫乱おまんこにあつあつせーしどくどくしてっ♡ この出来上がったメスが自分のものだってわからせたくなっちゃってるんでしょ♡ いいよっ♡ おっ♡ 卒業記念種付けやっちゃおっ♡ チンポ頑張れ♡ おチンポ頑張れっ♡」
高校生活における可処分時間の全てをセックスボックスの採点基準研究に捧げた二人にとって、現在行われている卒業式当日セックスは一種の集大成であった。逆に――この集大成で600点を取れないなら、もう記録更新は厳しいかもしれない。何せ――。
体調的なコンディションは二人して細心を払って管理した、未来永劫あり得ないレベルの万全さ。
『卒業』というイベントによる文脈的な
更に直近四か月間のチャレンジの全てでコンドームの装着を厳守し、いっさいの膣内射精を禁止したことによって、『お預け』文脈による二重補正も入る。
もうここまでくればやり直しはできない。一度射精した瞬間――いや何なら一度勃起を納めた瞬間に、チンポの性質は完全に変容してしまう。そこから再計算をするのは無理だ。だから今は、とにかく喘ぐしかない。
「腰はやすぎ……っ♡ こんなのすぐイっちゃうよぉ♡ 必死だね♡ 自分より十何センチもちっちゃい女の子を孕ませたくて必死なんだねっ♡ いいよ♡ イクっ♡ ~~~ぅっ♡」
台本通りに挑発的な言葉を吐いて、台本通りに艶めかしい腰遣いを見せて、台本通りにチンポ以外全部ふっとんだバカの表情をして、台本通りに――。
ぷるるるる。
しかし、着信音が鳴っているのも事実なのだ。
◇
「……駄目、だったな」
制服のベルトのバックルを意味もなく整えながら、タクマは少し俯いて言った。
二人が先ほどまで利用していた野外タイプのセックスボックスは、寂れた商店街の目立たない路地にある。二人がセックスをしている間に太陽はずいぶん傾いたらしく、ピンクのスライドドアの淫靡さも、夕暮れを受けてすこし印象を変えていた。けれど、やっぱり淫靡でもあった。
「……うん」
599.287点。
それが二人の三年間における、総決算だった。
「600点、出なかったし……私たち、進学先は別だけど。そのうちまた、チャレンジする、よね?」
本当は、少し安堵していた。
もしハルカの母が電話をかけてこなかったなら、採点AIはそれを見て減点を行わず、悲願である600点を二人に進呈したことだろう。そして――きっと、それだけだろう。二人が性行為をするモチベーションはセックスボックスで600点を出すことただ一つで、目的が達成されれば関係は終わり。少なくとも、タクマにとってはそうのはずだ。
ハルカは違う。
実を言うと彼女は、タクマとセックスをするのが好きだったのだ。
「そう……だな。頻度は、減るだろうけど」
なのでハルカは駆けだした。
よそよそしい態度で言葉を濁すタクマに瞬く間に駆け寄って、唇を奪った。舌を入れた。その表情と同期して、ひどい混乱を隠せない様子のタクマの舌に触れた。ボックスの中では幾度となく交わらせた舌だったが、こんなに生ぬるく硬直しているのは、たぶんおそらくきっとおおよそ、初めてだった。
そういえば――ボックスの外でこんなことをするのが、そもそも初めてなのだった。
「ハル、」
「いいから」
何がいいのかもわかっていないのに、ハルカはタクマの唾液を飲んでいた。欲望が熱になって宿り始めているのが分かった。局部も――膨らんでいる。
伸ばしかけた手、硬い指に掴まれたのが分かる。獣欲を隠さない強い掴み方。「いいんだな」とタクマの瞳が言っていた。
頷くまでもなく――路地裏は暗い。
採点AIに通したら250点くらいになると思われるセックスが、夕焼けの中で始まろうとしていた。
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