巨大な力の竜は少女の形を取り、ある星で眠り始めた。
星に生まれた悪意に気付くことはなく、簒奪者たちは体に秘められた力を狙っていた。
1話完結。
ジャンルが行方不明。SFとファンタジーの混合?どっちでもない気もする。
星竜と呼称すべきその竜は少女の形をとり、けれどその体は巨大。
恒星に近寄っても容易には焼けぬ青白い肌と朱の鱗、巨星の引力を容易に振り切る赤黒の翼、岩の惑星を容易に砕く2振りの黒角、その身長と等しいほどの長さの竜尾。
彼女は、
あどけない表情と、その頭から膝あたりまで続く長くて強い髪のような金色の
鱗のない正中線には慎ましげな乳房がふた房。女性器は存在するが、気まぐれに氷星をかじりこそすれ、それ以上の食事をしない彼女に大仰な消化器官は存在しない。
羞恥心、あるいは外敵が存在しない彼女になにかを隠すという行為は存在せず、大胆に足も広げるし、服などというものも存在するはずがない。
彼女にとってはいつもの眠り。
しかし、寝床にされた星にとっては悠久とも言える時間。
星にとっては幸運であり、彼女にとっては不運な選択であった。
本来は生物が発生しない位置にあった星が、彼女という外部熱要因を得た場合のみ発生の条件を満たしてしまったのだから。
彼女の体の熱は岩を溶かし星を温めた。体表から出た水分は星に雨雲をかけた。剥がれ落ちた鱗の破片は有機物として星に溶けていった。
寝息は星に気流を生み、寝返りは地核を刺激し、身じろぎは地を割いて山脈を作り海溝を生じさせる。
寝ている間に運動後の熱が冷めその星の気温も下がる。地が固まり始める。
重量によってその身はどんどん沈下していく。
人の尺度で数十億年、星竜の尺度でせいぜい30分。
星に有機生命体が発生するには十分な時間が経過した。
彼女の代謝物が溶け込んだ海は過剰なほどのエネルギーが満ちた。
原核生物が生まれ、徐々に巨大化し、植物も数多のものが星を覆う。
彼女の眠りは深くなり、身じろぎによる地震は収まり、体半分以上を地に埋めて熱を発する山脈となる。
エネルギーを得る生物が付着し、分解や同化を進めている。
しかし星竜の生命になにか影響が起きることはない。仮に鬣や翼全てが地に埋まろうとも、それは拘束になり得ない。
彼女に寝床の寝心地などという概念は存在していない。彼女や星の引力に引かれた小惑星は幾度となく激突しているが、なんの痛痒も感じていない。
完全に地に広がった鬣や翼などは分解されようとはしているものの、この星の全分解能力が集まったとしても目覚めるであろう数百億年から千億年後までには全く足りない。
だが。
だが。
この星には狡猾で強欲な、星竜の宇宙を渡る権能に牙をかける生物が発生してしまった。
人の尺度で百億年弱、星竜の尺度でも2時間ほど。星には知的生命体が誕生し、そうでない生命体は更に多く誕生した。
言語を解すもの、社会を形成するもの、大気圏内を移動するもの、文明と呼べるものを形成するもの、星の外に目を向けるもの。
彼らには多くの出来事が起こり、地を揺るがし火山を噴かせる星竜の寝返りや、手足や竜尾の組み替えで巻き上がった塵や気流の変動で星環境が変化して何度も彼女以外の生命体は全滅かそれに等しい被害に遭った。
それら星竜以外の生命体にとっては大事件を幾度となく繰り返して、
彼女から剥離した物質を源流とした環境から発生した生物で。
目を覚ましたとしても星竜には見えなかったであろう大きさ。
雲中、あるいはその上まで飛び上がることのできる飛翔能力。
彼女の下腹の高エネルギーを認識することが可能な知覚器官。
超高温超湿度、かつ低空気量の環境で運動能力が減衰しない。
高サイクルでの変異と進化を両立し強い繁殖力を有している。
そのような生物が発生し、群れとなって眠りこける彼女の女性器へ飛び込んでいく。
敵が存在しない星竜は足を広げており、未だ内部からも外部からも使用されたことがない膣道。
星竜の大きさからすれば極小と表現しても足りないほどのサイズの生物にとっては、距離は長くとも障害になる狭さではなかった。
星竜は光らないだけで熱星と同じ。その体内温度は相当に高い。いくら寝床の星に生物が居ようと、仮に体内に侵入されても焼き切れる。そのはずだった。
膣口から侵入した彼らは、実際に数多の焼死や熱死を出したが、膣分泌液からエネルギーを回収し、肉に巣を作り、繁殖地を維持し、億年単位の小生物にとって気の遠くなるような世代交代を重ねて熱と湿度を克服する。
既に星内大気では生存できないほどに、星竜膣内でのみ生存可能な種に変異しており、高空への飛翔能力も失われた。
同時に、より奥の高エネルギー体に魅せられた侵入者の渇望は強まり、奥より漏出してくる無形のエネルギーを栄養素として使用できるようにも進化した。
膣内を飛行する彼らは巨大な壁、処女膜にぶち当たる。
そこにも通り抜けられる穴はある。けれど彼らには知能と呼べるものはない。
膜を避ける発想はほぼ無く、幸運なごく一部を除いてほとんどの個体が膜に食らいついた。
かじり、殖えてはまたかじる。また億年をかけて、膜を破れずとも膜自体を巣と餌にして先に進む。
身じろぎでシェイクさせられるだけでも相当な数が圧死する。死んでしまえばいずれ熱に負けて跡形もなく焼け消えてしまう。
甲殻を失い、視力を失い、光の認識を失い、音を忘れて、翼を星竜の粘膜を泳ぎ進むヒレに変化させて、ただ牙とエネルギー探知の器官を残して、最奥の門へ。
子宮口に取り付いて、か細くとも彼らにとっては広い隙間から外へ出ようとするエネルギーの流体に逆らって内部へ。
膣内あらゆるところに根差し、寄生し増殖した彼らの数はおびただしい。
けれど異変を告げる感覚器には探知できない大きさであり、本体にはなにも伝わらない。
入り口に辿り着いたものから本能に従って奥へと進む。
星竜の胎は、星の核。
兆年か、京年か、星竜の雄と遭遇する時まで、天文学の時間で使われていない初胎が、悪意をもった異物に満たされようとしていた。
膣内をさらに超えるエネルギーの密度。もはやマントルに近い場所。
星の設計図という膨大に過ぎる情報量、その断片でも彼らには許容できるものではない。
漏れ出ていた分なら耐えられた彼らでも、星の設計図を取り込むことは叶わない。流体エネルギー内に含まれる設計図の断片を取り込もうとして、情報に焼かれてことごとく爆死する。
あまりにも生物としての大きさが違い過ぎる。
だが執念とも言える悪辣さは一念を通す。
子宮口にはり付き、生殖器で
輝きの卵球が一粒、星竜の胎へ送り出される。
子宮内に満たされていた断片とは全く違う、星竜真の設計図。
侵入者が求めて止まなかった至高のエネルギー体、そのひとつ。
生ける星ひとつの情報量を詰め込み圧縮しているそれは、星竜の腹の外からでも薄ら見えるほどに煌々と輝き、体外にいた知的生命体たちになにかしらの吉凶を示した。
彼らは1本だけの卵管までは辿り着くことはできていなかった。
だが、降りてくる星の卵には、当然のように引力があった。
子宮下部でまごついていた彼らを無理矢理吸い寄せるほどの。
侵入者にとっては突然の環境変化。
引き寄せられ高速移動させられることに耐えられるだけの強度が彼らにはなかった。
進化の形が変わった。
喰らいつく口が消え、吸い込んでくれるならばとエネルギー流体内を移動する力も捨て、彼らはトゲ状に姿を変える。
生きることを大半諦めて、身をちぎられようと卵球に突き立つことを目的とした。
徐々に短槍状に姿を変え、先端部に彼らの情報を集めて、また長い長い世代交代を経て。
遂に消滅させられる前に卵球に着弾する個体が出始めた。
降り注ぎ、殻を叩き続け、そのうちの一匹が、星の卵に受け入れられた。
真なる星竜の設計図は、瞬く間にそれを喰らい、解析し、悪意を増幅させた。
生物が星態生物に進化する、あまりに突飛な進化のショートカット。
取り込んだ彼らの遺伝子が最も強くもっていた願望。それが求める形への。
星竜の力を奪う、その目的のための進化を提供してしまった。
星竜の初胎は乗っ取られようとしていた。
彼らの遺伝子を宿した卵は急速に輝きを失い、肉のゆりかごに着地。
それに吸い寄せられた更なる後続が襲いかかり、改変させる。
1体しか産まれぬ極めて優れた個体を拒否し、今のここに適応した数多くの個体を作らせろと。
その願いは叶う。着床した星卵を繁殖地とし、星竜本体からエネルギー供給を受けられるようになった彼らは、「星蝕虫」として種のひとつの完成を見る。
小さな虫たちは歓喜の声をあげ、増殖を開始する。
今や子宮の内側は障害となる環境ではない。
過酷な環境に対応するべく多産多死を前提とした繁殖力は、多死が消えて爆発的な増加となる。
上位種の情報を得て産まれた虫たちには、多様性のある進化の道が開いた。
肉に喰らいつける顎、大気中の飛行能力、視力。
かつてここに辿り着くために不要として捨てた能力の再獲得。
高圧高熱環境を生き抜く力そのままに、母たる朱色を受け継いだ無数の虫が子宮を満たす。
一部は星竜体外へ再進出を目論み、群れを成して脱出していく。
けれど、残った大部分の星蝕虫たちは、貪欲であった。
かつて辿り着けなかった卵管。その奥。
エネルギー感知器官が赫赫と報せてくる、より巨大な1つのエネルギーの存在。
未来を作り出す貯蔵庫。
1つの卵管を我先にと朱色の奔流が進み、再獲得した視力を焼く、白い綺羅星を薄い袋に詰め込んだような卵巣に襲いかかる。
極小の牙で肉を掘り進み、あるいはかじりとり、母なる卵地を耕して喰い千切り、埋まっている星卵の殻を剥ぐ。
その頃、膣外へ活路を求めた星蝕虫の一部たちは、その圧倒的な力をもって星に誕生していた知的文明を滅ぼして最上位生物として覇を唱え、種族として、未だ眠る星竜との一対一を完成させた。
眠る彼女はといえば、仰向けのままおおよそ体の8割が大地に沈み、上を向いた乳房も既に雲の下。
白金色の光を湛えていた卵巣は、星蝕虫たちに薄い袋を全て食い剥かれて曝け出され、奪い取られようとしていた。
一個一個が星竜の眠る星に匹敵するかそれ以上の情報保存容量。
幾つか合わせれば超新星を生み出すほどの圧縮エネルギー体。それが数百個。
既に実っているもの、まだ器だけのもの、エネルギーを本体から供給されている途中のもの。
一切なんの区別なく、悪辣な卵泥棒が房に牙をかけて星卵をもぎ取りゆっくりと簒奪する。
千条の虫たちが単位の存在しないほどの時を生きる星竜の未来を喰らっていく。
また数十億年をかけて、数百の白金の輝きが完全に朱に染まった。
一度拒否した、優れた個体の誕生を今度は否定せず。
数百の卵全てに自分たちを取り込ませ、数百の上位個体が誕生し、内側から卵巣を弾けさせた。
星竜の少女に激痛を伴わせての誕生であり、眠りを中断させるには十分過ぎる宣戦布告であった。
もともと、一粒でも無限に近い下位個体を生み出しうるエネルギーを秘めたもの。
それを一粒一匹に集約し、それが数百匹。
圧縮されていたエネルギーを順次解放して、体内で巨大化する星蝕虫。
幸か不幸か、虫たちは胎を食い破ってまで産まれ出て行こうとはしなかったが、卵管の奥で誕生したそれらが正規に産まれて出て行こうと逆走を開始。
体外に出れば星竜にも視認できるほどの大きさにまで膨らんだ虫たちが卵管を抉り裂き、子宮を膨らませ、暴れながら子宮口に爪を立てて這い出てくる。
彼らは地上で初めて産まれた時にはあって、膣内生活で一度退化させた刺々しい甲殻を先祖返りで再獲得しており、胎内をヤスリがけしながら産まれ出ようとする。
急激に膨らみ始めた腹の中でガサガサと身を削られ、苦痛の声を上げる。
それは星の表面全てを粉微塵にして海を吹き飛ばした爆音波であり、暴れのたうつ竜尾が勢いで星の五分の一ほどを削ぎ払って宇宙へ弾き飛ばす。
地殻を削がれて噴き出したマントル、痛みで星を殴りつけて砕きつつある星竜。
体外にいた星蝕虫を含む一切の星生命体は、ひとつの例外もなく消え去った。
残ったのは、寝床にさせられ死にかけている星と、朱の鱗を星竜の少女と、その胎を占領し膨らませている星蝕虫とその上位個体。
朱の鱗が輝き、青白の肌も赤みが差し、金色の鬣逆立たせ、咆哮に合わせその翼が振るわれる。
あどけなかった表情は歪み、咆哮は宇宙空間に伝わらない。けれどプロミネンスとなって重力を振り切り、極大の紅炎が突っ走る。
多大なエネルギーを消費して、いるかどうかわからない、他の星竜への渾身のSOS。
星竜の少女が保有するエネルギーはまだ多い。
そのエネルギーを体内の存在に奪い取られてさらに膨れる腹。
内側から溢れ押し出されて産道を拡げ出てきた朱色の生物。
即座に締め殺されて、大きさに比例しない内在エネルギーが爆発、星竜を傷つけた。
十匹二十匹三十匹と潰していくうちに、爆裂する死に様で少女の肌は裂け、鱗も傷が増え、締めたり捻ったりと酷使した手や竜尾も痛み始める。
出産させられる消耗、止めどなく奪われる星体のエネルギー、傷から漏れていく体力。
およそ百五十体の出産を数えたころ、遂に星竜が根をあげた。
内在するエネルギーは枯渇していないが、傷だらけで動くことができなくなったのだ。
もはや寝床にされた星は余波で完全に砕けて八分割され、星と呼べるものではなくなっていた。
星蝕虫たちにとっては、待ちに待った瞬間であった。
すっかり緩く拡げられた産道に爪を立てて身を乗り出し、いまだ胎を占領する個体は母からの強奪を強める。
潰されなかった最初の一匹が宇宙に放たれ、彗星となってどこかへ飛び去っていく。
なおも続々と産まれ出ては飛び去り、一部は少女の周囲で衛星のように漂いなにかを待っている。
腹の中の簒奪者たちがほぼ抜け出した頃。
鮮やかな朱色だった鱗は色褪せてささくれ立ち、力強き赤黒の翼は萎びて赤白く細いものとなり、艶やかで硬そうだった黒角は星だった残岩に当たって折れていた。
かつて赤色超巨星のような生気を漲らせていた幼き星竜は、体こそ大きくとも、内在するエネルギーは終末の白色矮星に成り果てた。
最後の一匹が産まれ出た後には、卵管の奥まで続く穴が閉じれず、痛みの勢いで星を裁断した竜尾も半分以下まで縮んでいた。
絶対零度に耐え、宇宙線を弾き、小さくとも恒星となりうるほどのエネルギーを身に宿し、暗黒物質を泳げる翼を得て、星竜のほぼ全てを奪った星蝕虫たちは、大きさこそ片手ぐらいのものであったが、一様に快哉を踊る。
自らの内側にエネルギーを留めておけなくなった星竜の乳房からもこぼれ出て、目敏い個体はそれも回収しようと噛みついて吸い出そうとする。
それを払い除ける力すら残っていない。
涙が氷の粒となって周囲を漂い、潰された星蝕虫の残骸とエネルギーの残余が星竜の引力から逃れられずにガス状の膜を作る。
金色だった鬣もくすんだ白にまで色落ちし、強欲な星蝕虫はそれすらも毟って身を飾ろうとした。
漏れ出るものすら無くなり、星竜はいつ覚めないかもしれない虚無の眠りに落ちる。
引力によって手近な岩や氷が長い時をかけて繭のような星を作る。
その核となり圧壊するか、別の恒星に吸い寄せられて目覚めるか。
どちらにせよ星蝕虫たちにとって価値はなく、終わりを見届けずに飛び去っていく。
親譲りの朱の甲殻を身に纏った悪辣な彼ら。
新たな
屍山の上に生まれた上位種が数百。
破滅的性癖詰め。