恋を経て愛を知る。
恋愛とはそういうものだ。
男は少年の頃よりそう認識していた。
だがしかし、幼少期より思春期を経ても異性、そして同性であっても、愛どころか恋すら芽生えなかった。
容姿、体型、性格、能力、知性。
そのどれにも惹かれず、友情に近い関係ばかりが積み重なり、相手にとって一線を踏み越えたいと望まれ、断り、捻れていく関係性。
環境が変わり、関係が一新され、友人は増えてもやはり恋愛感情は湧き出ない。
人が人である限り、そこに恋は生まれなかった。
代わって、男はどうにも惹かれていく存在があった。
深く深く、宇宙の色を映す広大な鏡。
海である。
水分96.6%に3.4%の塩分を含む、生命の始まりと言われる塩っ辛い水。
遠い遠い、想像すらできないほど遡るその母に、己は惹かれ、やがて恋を抱いた。
遥か彼方の、何等親とも遡れぬ近親愛を。
○
月は海岸を照らし、日に比べ冷たくも優しい光の下で潮騒が宙へ溶けていく。
日本らしい蒸し暑い熱帯夜へ、抗議するように虫達は静かに騒ぎててる、そんな夜だった。
誰もいない岩場へ訪れた男は服を脱ぎ、硬くそそり勃った雄を外気に晒して、ゆっくりと波打ち際へと近づく。
足が、膝が、そして腰までもが海へと浸かり、恍惚と息を漏らす。
体が火照っているせいか、海水が異様に冷たく感じた。
じんわりと、己の火照りが海水の温度に溶けていき、下半身全てが柔らかな乳に包まれているかのような感覚を享受する。
波はまるでベッドの上で腰を打ち付けるかの如く体を揺らし、海水の流れが表皮を愛撫していた。
ただ転ばないようにバランスを取るだけで、海水は、母なる海のそれらは己の陰茎を柔らかに咥え込み、滑らかにストロークするかの如き弄びを行い。
虐め倒すように、それを重ねていく。
意思の疎通ができず、しかしこちらを焦らすような海水の動きで陰茎は揺れ、海面で跳ねる水飛沫は擽るように上半身で弾けていた。
もどかしい快楽に腰を捻れば、遅れて連動した陰茎は海水の抵抗によって優しく叩かれたかのような感覚を脳へと伝え、甘く叱れたかのように男は感じ取る。
声を押し殺し、ゆっくりと男は前へと進む。
抵抗によって全身が踏まれるかのように前面への圧迫を感じつつ、やがて肩まで海へと浸かる。
海水に馴染んだ体温は、抱擁が如き安心感を与え、興奮により硬さを増した陰茎はその熱によって体との温度差を作り出していた。
低体温の膣に挿入したような、そんな感覚。
身動ぎに伴う水の抵抗は拘束するように優しく抱きしめられたかのようで、人では不可能な状態を作り出した海へ、男は小さく愛を囁いた。
波によって体は揺らされ、立ちながらにして相手が柔らかな膣によって己の陰茎を扱き上げているように感じ入る。
近親相姦という禁忌を犯している事実は、男の愛を止めるにあたり、なんの枷にも値しない。
愛を向ける対象が人では無いだけで、そして相手が何ら拒否の意思を示さずにただ頷くかの如く肉欲を受け止めてくれる事に、男は救われたのだから。
締め付けられた喉から息を漏らし、男は海へと吐精する。
それを受け止め、深くへと呑み込んでいく様子に、男は水面へ口吻を落とした。
愛とは不定形であり不確定であり、非物質的である。
そこに質量は無く、下限も上限も無い。
瞳より溢れた雫もまた、貴女と同じ味がした。
心より貴女への愛を抱いて。
───この愛は潮の味。