松井江はこんなことしない。
松井江。緑のコートにターコイズブルーのリボンと爪、そして似た色の瞳が素敵な刀剣男士。
「ねえ松井江。お願いがあるんだけど」
「なんだい?貴方の頼みならなんでも聞くよ。無駄遣いのお願い以外ならね」
いつも通りとても優しい!好き!というわけで我慢できなくなったので、日々心に秘めていた願望を打ち明けることにした。
「良かった〜〜じゃあ……私を斬り殺してくれないかな…?」
そう言うと、当たり前だけど松井江はとても驚いた顔をしていた。
「いきなりどうしたんだい??何か嫌な事とかあったのかい?」
うーん予想していた反応。
「別に?何もないよ。ただ松井江が好きだから、ずっと殺されたいな〜〜って思ってただけだよ!」
100%本当の、嘘偽りない本心だ。
「好き…でいてくれることはとても嬉しいよ。本当に」
「でも、それはできない。貴方を血に塗れさせることなんてできないよ」
知ってたけど手強い!まあそもそも普通に考えて、殺してって言われて分かったよって殺してくれる人なんているわけがない。
なのでもう最終手段に出る!無理だったら…これを抱えてずっと生きていくしかないね。
「殺してくれないなら、この包丁を松井江だと思って自分で刺して死ぬから」
「私は…どうせなら貴方に殺されて死にたいな」
隠し持っていた包丁を取り出してそう言った。
私は殺されたい願望しかないので、もちろんそんなことする気は一切ない。
「それは…本気なのかい…?」
「本気だよ」
そう嘘をついて、刃をお腹に突き当てる。
「お願い…私のことが好きなら…殺して…」
「あーでも、殺される前に一つだけしてほしいんだけど、左手の薬指を斬り落として欲しい!そして食べて!これでずっと一緒に入られるから……」
「分かったよ貴方。じゃあ…行くよ」
上から刀が振り下ろされ一瞬、気づくと手と薬指は離れていた。
それにちょっと遅れて今までに感じたことのない痛み。紙で指を切ったことは何回もあるけど、それの何倍も痛い。
「うううぅぅぅぅぅ痛い!!…………でも……幸せ……!!」
傷口を押さえながら呟く。
当の松井江は切り落とした指と赤い赤い血溜まりを見つめていた。
「これを…食べればいいんだね…?」
そう言って、薬指をつまむ。そして決心したように飲み込んだ。
「ありがとう…松井江……愛してるよ…」
「じゃあ……お願い……」
そう言って両腕を広げて、刃に断たれるのを待つ。
「はぁっ!」
感じたのは激しい痛みと高揚感。視界も部屋も私も松井江も全てが真っ赤になる。
「赤く…染まってしまった…」
松井江は倒れた私か、流れた血か、あるいはどちらともを見守るように立膝で見下している。
私は少しずつ薄れゆく意識の中であることに気がついた。
「ふふふ……松井江………鼻血が…出てるよ…………」
私を斬ったことで少しでも興奮してくれたのかと考えると、刻々と流れていく血が熱くなったように感じた。
「貴方のことが好きだった。好きだからこそ、貴方の血には塗れたくはなかったな…」
それを聞き終わる頃に意識は、赤とは反対の黒い黒い世界へと沈んでいった。