夢魔の血を引く女の子と、あるスリザリン生の男の子が、ちょっと普通じゃない状態でただ致しているだけのシーンとなります。
先に本編をお読みいただいてからのほうが楽しめるかと思いますが、早くすけべを読ませろという方のために、前書きに簡単なあらすじを書いておりますので、このお話だけでも気軽にお読みください。
直接的な表現は避けましたが、R15に収まっている自信がなかったのと、本編の展開には影響しないシーンなので、こちらで短編としてこっそり投稿させていただきました。
本編が気になるけど全話はちょっと……という方は『第46話 悪夢』から読んでいただけると、ここに至るまでの大体の流れは把握できるかと思います。
『湖の乙女と夢魔の祝福』本編
https://syosetu.org/novel/344416/
※pixivのほうへも本編と一緒に投稿します。
これまでのあらすじ
夢魔の血を引くヴィヴィアンは、初めての友だちであり、初めて恋をした相手であるレギュラス・ブラックの命を助けるため、夢魔の姿になった。
無事レギュラスを助けることのできたヴィヴィアンだったが、無理に身体を変化させたせいで、衰弱してしまう。
ヴィヴィアンの身体は、夢魔の栄養となる人間の生気(精気)を吸うことを望んでいた。だが、夢魔は人間の生気を吸い付くし、殺してしまう生き物である。
理性を振り絞り、ヴィヴィアンはレギュラスから逃げようとする。しかし、レギュラスは彼女を逃がさず、言葉を尽くす。絆されたヴィヴィアンは彼の胸に飛び込んだ。
身体を持ち上げられ、軽いな、と言われた。当たり前でしょう? 今の私は、翼の生えた夢魔なのだから。
ベッドの上に身体を降ろされ、力なく横たわる。おなかがすいて、もう限界。目を開いているのも、やっと、だけれど。心配そうに覗き込む彼の顔を引き寄せて、本能の赴くまま、貪るようにキスをした。彼がベッドの上に乗りあげるのが、マットレスが沈むのと簡素な木材が軋む音でわかった。
唇を食んで、舌を入れて、絡め合って。甘い。美味しい。初めてのキスをしたときも、懐かしいと感じた、これはきっと生気の味。夢魔の血が覚えていたもの。それもただの夢魔じゃない。私のご先祖さま。人を愛した夢魔の覚えたそれは、偽りのない愛の味。
今の私にならわかる。きっと夢中になっただろう。本来の夢魔のように、甘ったるい人間を誘惑し適当に食欲を満たそうなんて、二度と考えられなくなったに違いない。彼から注がれる熱は本物で、自分だけに向けられている。恋を知ったばかりの夢魔には強すぎる快感だ。
一度味わえば忘れられない。私にとってのそれは──私を愛してくれる人。私の愛する男の子。レギュラスただひとり。
唇がくっついて離れなくなってしまうんじゃないかと思うくらい、互いに求め合う濃厚なキスをした。彼のと混ざった唾液が口の中に溜まって、唇の端から溢れだしてしまう前に、堪らず飲み込んだ。喉がごくんと鳴って、それすらもきっと伝わってしまって、彼の手が私の首筋を優しく撫でた。
少し冷たい指先は、すぐに同じ体温になる。吸い付くような指の感触。柔らかくて気持ちいい。けれど、ときおり、違う感触がする。私の首にかかったままの、ペンダントのチェーン。彼の指に押され、軽く肌に食い込んで、固い刺激を与える。
彼の手が首の後ろへ滑っていく。私もそれを助けるように、頭を少し枕の上から浮かせた。うなじの辺りから、カチッと、チェーンの外れる音がした。
考えていることは、きっと同じ。私と彼を助けてくれた大事なペンダント。だけれど、今だけは、二人きりにさせてほしい。
レギュラスはおもむろにローブを脱ぎ、ペンダントを守るように、あるいは隠すように、優しく包み込むと、ベッドの脇の古びた机の上にそっと置いた。
ここから先は、二人だけの秘密。誰も見ちゃダメ。聞いちゃダメ。夢魔の身体と心を満たす、美味しいごはんの時間。
私はお返しをするように、彼の首筋に手を伸ばして撫でた。出っ張った男の子の喉仏。指に引っかかる鎖骨。それから……あぁ、邪魔なシャツ。私は何も言わないまま、シャツのボタンに手をかけた。けれど、急いているからか、指が滑って上手く外せない。
「僕がやるよ」
私の手をそっと退けて、レギュラスがボタンに手をかけた。生真面目に、ひとつひとつ外していくのが、ひどく焦れったい。全部外し終えると、シャツの前が開いて白い肌が見えた。レギュラスはそれから、私のシャツの襟元に手を添えた。
「……君のも、いい?」
『はやくして』
私の口から出る声は、コウモリの鳴き声のような、キイキイという音だった。けれど、レギュラスには、ちゃんと言葉が聞こえているらしい。私の許しを得て頷いた彼は、またご丁寧に、私のシャツのボタンをひとつずつ外し始めた。ボタンなんて、引きちぎってしまえばいいのに。そう思いながら、そんなの獣みたいじゃない、と頭の中で止める声がした。そうよ、理性を保っていなくちゃ……彼を殺してしまう。
彼が私のシャツの前を広げて、もたつきながら、胸を覆う布も、脱がして。上半身を隠すものが何もなくなり、外気と彼の視線に晒されても、恥ずかしさより喜びがまさった。
彼も同じ姿になろうと、前を開いただけのシャツから腕を引き抜こうとしたけれど、それを待っている間も惜しく、私はシャツの内側へするりと手を滑り込ませて、適度に筋肉のついた細身の身体を思いっきり抱き寄せた。素肌どうしがぴたりとくっつく。
『レギュラス……私のレギュラス……あなたは私の獲物なんだから、どこへも行っちゃダメよ……』
「あぁ。もうどこへも行かない。僕の心も身体も、全て、君に捧げるよ」
キスをしてくっついているだけで、だいぶ力が戻ってきたように思う。けれど、それだけじゃ到底足りないこともわかっていた。
『ねぇ、覚えているかしら? 夢魔はね、獲物の好みに合わせて姿を変えられるの。レギュラスはどんな姿がいい? 今の私になら、できる気がするわ』
「冗談だろう? そのままの君がいいに決まってる」
『そう……わかったわ……』
思わず頬が緩む。心がふわふわする。くすぐったい気持ちで胸がいっぱいになる。私は──レギュラスの肩を掴み、身体を反転させた。体勢が逆転する。油断していたのか、彼は簡単に押し倒された。
翼に引っかかっていた服がふわりと舞って床に落ちる。入れ替わるようにしてベッドに横たわった彼を、上から静かに見下ろした。戸惑う彼はもちろん、すぐに起き上がろうとする。私は咄嗟に……
「なっ、身体が……!」
レギュラスが眉をゆがめた。身体を強ばらせ、もがこうとしている。しかし、彼は起き上がれない。足の先や指の先は辛うじてヒクヒクと動いているが、腕や脚はベッドに縫い付けられてしまったかのように、力なく投げ出されている。
私は驚いて自分の手を見た。まるで無意識だった。杖なしで魔法を使った? 彼の身に何が起こったのかは、すぐに思い当たった。
『金縛り……?』
身体の自由が効かなくなり、気づいたときにはもう逃げられない。いわゆる金縛りは、夢魔の能力のひとつ。レギュラスにも話したことがある。ただ、術の効き目が弱いのか、それとも夢魔の術がそういうものなのか、『全身金縛り』の呪文のように声も出せないほどカチコチに固まってしまったわけではなさそうだった。試しに脇腹をつついてみると、抱きしめたときと変わりなく程よい弾力があり、くすぐったそうな息が彼の口から漏れた。
「……術を、といてくれないか?」
少し舌っ足らずな声でレギュラスが懇願する。けれど、私は首を傾げた。
『どうして?』
「どうしてって──」
言葉を詰まらせたレギュラスの顔が、みるみるうちに、林檎のように赤くなっていく。あぁ、はやく食べてしまいたい。
『大丈夫よ。私に身を預けて。すぐに終わるから……』
安心させるように額にキスを落としてから、彼の下半身のほうへと腰をずらして座り直した。心臓がバクバクしてる。気持ちを焦らせる。はやく、はやく。彼のスラックスのチャックを下ろし、まとめて一気に脱がせた。
「ヴィ、ヴィヴィアン……待っ……くっ」
初めて目にした、自分の身体にはないもの。あらわになった
夢魔の食事のしかた。どうすればいいかは、わかっている。本能が知っている。私は、腰に巻きついている邪魔な布をぜんぶ脱ぎ捨てて、一糸まとわぬ姿で、彼の身体の上に跨った。こちらを向く熱いものをそっと指で支えて、狙いを定め、触られずとも濡れそぼっていた入口にあてがった。
『あっ……んぅ……』
口付けるように触れた途端、身体の芯から小さな雷みたいな甘い刺激がピリリと走った。
重力に従って腰を下ろしていくと、狭いところをぐいぐいと、押し広げられるのがわかった。少しの痛みを感じる。ちょっと、急かしすぎたかしら。動きにくい、から。無意識に、夢魔の翼が羽ばたいて、腰をいい位置に浮かせる。空いた両手が自然にソコへと向かう。
片方の手は、自分の気持ちいいところ。もう片方の手は、彼のエッチなところ。いろいろ、触ってみたりして。そうすると、痛みを感じなくなってきて、だんだんスムーズに、私の中へと飲み込まれていく。すごい。もう、こんなに。
『あんっ……はぁ、はぁ……』
ひと息ついて、レギュラスの顔をちらりと見た。ぎゅっと目を閉じて歯を食いしばっている。我慢しているの? ごめんね。すぐに終わらせるから……。
いま、彼と繋がっていること、嬉しいと思う反面、そんな自分が嫌になる。彼は私のためにこんなことを引き受けてくれているのに──気持ち良くてたまらない。彼の上で乱れている私。この状況に興奮を隠せない。夢魔の術で動けないでいるから、あの気高いレギュラスが、女に跨られ、されるがままになっている。ごめんなさい……どうか許して……。
本物の夢魔なら、いちいち気持ち良さなんて感じずに、食事ができるのだろう。獲物を気持ち良くさせればいいだけだから、私の感じているコレは、ほんとはきっと余計なものだ。
申し訳なさに比例するように、快感は無慈悲にも積み重なっていく。ぴくんぴくんと脈打つ感覚に気をもっていかれないよう耐えながら、急かすように腰の動きを早くする。上下に。前後に。初めて耳にする淫らな音が部屋の中に響き、もっといいところへいけるのだと追い立ててくる。
彼はまだ我慢しているようだ。限界が近いだろうに。いじわる。それとも、私が上手じゃないだけ? 頭ではわかっていても身体は初めてなのだから。もっと頑張らないと、ごはんにはありつけない。
息が荒れ、水音が激しくなる。自分の中から出る音だ。絶えず腰を弾ませながら、私はとうとう我慢できずにねだった。
『レギュラス……レギュラス……あっ、ん。こっち、向いて。私を、見て……んっ、大丈夫よ、怖く、ないから……』
そうお願いすると、彼がそっと目を開けてくれた。愛しい灰色の瞳は、快楽に溺れまいとする、鋭い光を帯びていた。あ、もうダメ……そう思ったとき、レギュラスが上体を起こした。
『──えっ?』
「っ……成り立ての夢魔の術なんて、簡単に破れるよ」
繋がりが抜けそうになる。腰が勝手に追いかけようと動く。それと同時に、彼の手がぐっと腰を引き寄せた。
「……君は、勘違いしてるのかな。僕が仕方なく、こんなことをしているとでも思ってる?」
彼はベッドの上に座った。その膝の上に私を座らせた。さっきまでとは違う角度で一気に突き上げられる。
『ひゃっ……!』
一瞬、全身から力が抜けて、後ろに倒れ込みそうになった。けれど、彼が背中に手を添えて、再び抱き寄せた。
下から手伝ってくれて、腰がより弾む。強い快楽に翻弄され、ハァハァと息が荒くなる。腰を動かしているのか、動かされているのかわからない。
腕を通したままになっていた彼のシャツが、肩からずり落ちてきて、中途半端にだらしなく、そして扇情的に彼の身体を彩った。縋るものを探していた私の手は、ずり落ちてきたくしゃくしゃのシャツにしがみついた。シワになるのも構わず強く握った。ちぎれてしまうんじゃないかと思うくらい、ぎゅっと握りしめたつもりでも、私の力は入ったり入らなかったりを繰り返した。
『あぁっ……もう、……んぅ……』
開きっぱなしの唇に、噛みつくようなキスをされる。吐息がすべて彼に食べられてしまう。息継ぎも許さないような、激しいキス。怒っているの? そんなことしても、私の身体がよろこぶだけなのに。
心も身体も溶けてしまいそう。ふたり一緒に混ざり合ってしまう。それでもいい。それがいい。そうして。はやく。あぁ。もっと、いっしょに……
『ぁん、レギュ、ラス……、んっ……』
「ヴィヴィアン……っ!」
彼が息をつまらせ、私の身体を強く抱きしめた。あぁっ……おなかの中が、奥が熱い。それを感じると同時に、頭の中がチカチカと弾けた。急に身体が重くなって、ひとりじゃ支えきれなくなった。張り詰めていた緊張と力が抜けて、彼にもたれかかった。注ぎ込まれた熱が、身体の中にじんわりと広がっていく。彼と繋がっているところ、身体の中心から、指先までを温めていく。
じょうずに、できたのかしら。はじめての、食事。彼が抜け出る。おなかの中が少し寂しくなった。
***
僕が腰を離すと、彼女は小さく喘いだ。それだけでまた熱が溜まる思いだった。
僕は、もたれかかる彼女の身体を、なるべく見ないようにしながら、そっとベッドに横たえた。下敷きになっている翼が痛くなければいいけれど。翼が生えたことはないから、どんな感覚かわからない。
ヴィヴィアンの身体は今、普通の女の子ではない。夢魔の身体。背中には翼が生えて、頭には角が──。
「あれ……角が」
山羊のような湾曲した角が生えていたはずなのに、いつの間にか消え去っている。彼女の頭に触れて撫でてみると、どこにも痕跡はなかった。
「ほんとうだわ……尻尾も!」
「声もだ」
さっきまでの彼女の声は、頭の中を直接揺らすような声だった。今は、耳をくすぐる、いつものヴィヴィアンの声だ。そのほうがいい。僕の知っている彼女だと安心できるから。
身体が人間に戻りかけている。しかし……
「翼はまだなのね」
ヴィヴィアンは僅かに背中を浮かせて、白いシーツの上に広がるコウモリのような黒い翼を、パタパタと動かしてみせた。
元の身体に戻るにはまだ早いようだ。
「……足りないんだろうか」
目を逸らしながら、僕は呟いた。自分の声がどこか、期待を含んでいるように聞こえて、少し嫌気がさした。そんな気も知らず、彼女はふっと息を漏らし、柔らかい声で問いかけた。
「ねぇ……もういっかい、できる?」
「……君が望むなら」
もういっかいの許可を得た途端、僕の目は真正面から彼女の身体を映してしまった。柔らかな胸の膨らみ、滑らかな腰のくびれ。自分の身体にはないものばかり。一糸まとわぬ姿を惜しげもなく晒している。
あまり、まじまじと見るのは、不躾だろう。なんてことを考えたものの、さらけ出しているのは、お互いさまだったと思い出す。
恥じらいを感じる暇もなく、彼女に翻弄された己の身体。醜態を晒してはいなかったかと、今さらながら省みる。
行為の最中に乱れ、彼女の手にしがみつかれていたシャツは、もはや片腕にまとわりつくだけのただの布切れと化していた。こうなったらもう邪魔なだけか、と開き直って腕を引き抜き、シャツをベッドの下へと落とした。
そして──すぐに後悔した。
僕はすっかり忘れていた。シャツよりも邪魔なものが、その下にあったことを。生まれたままの姿になると、より目立つ。
左腕の禍々しい刺青。闇の印。
見るんじゃなかった。このときまで忘れていられたことに驚くとともに、背中を冷や汗がつっと流れた。
もう一度隠してしまおうと、落としたシャツへ手を伸ばそうとしたとき、ヴィヴィアンがそれを引き止めた。
「ダメよ。隠しちゃ。その印もあなたの一部。消せないのなら、私が塗り替えてあげる」
彼女はそう言うと僕の左手を取って、ぐっと腕を引いた。僕はされるがまま、窮屈なベッドの上で、彼女の隣に身体を横たえた。
顔がうんと近くなり、どちらからともなく、吸い込まれるように唇を重ね合わせる。もう、お互いに、触れるだけでは満足できず、みずみずしい果実にかぶりつくように、何度も角度を変えて唇を食んだ。
「ん……う……はぁ」
息継ぎをするためか、彼女が先に唇を離してしまった。二人の間に銀の糸がつながり、プツンと切れるのを寂しく思っていると、彼女は掴んだままにしていた僕の左腕を口元に寄せた。
そして、忌々しい刺青の上に、歯を立てた。僕は痛みに身構えたが、彼女は優しく甘噛みをするだけだった。それから、慰めるみたいに柔らかく口付けて、吸い付いて、つねられたみたいな小さな刺激に、赤い跡がついた。
「もっと……強く、噛んでいいよ」
あまりにも優しい焦れったさに、僕は思わず懇願していた。けれど彼女は首を横に振った。
「ううん。あなたが痛いのは嫌。痛みじゃなくて、優しさで塗り替えるの。この刺青を見るたび、私のことを思い出すように」
そんな健気なことを言って、彼女は僕の左腕を愛撫する。熱い吐息がかかり、肌が湿り気を帯びる。顔にかかる髪を耳にかけてあげると、彼女はうっとりとするように目を閉じて、より激しく僕の腕に唇を落とした。その光景と感触が頭の中を埋め尽くす。まるで甘い汁でも出ているかのように、カプカプと噛まれて、ちゅうと吸われ、彼女の与える甘い刺激が、身体中へと伝播していく。ただ左腕を捕まえられているだけなのに、また金縛りにあってしまったかのように、気づけば身動きもできずそれを眺めていた。
次に刺青を見たとき、思い出すとすれば、優しい唇の感触と、この夜のことだろうか。
「それは……大変だな……」
「たいへん?」
僕の呟いた言葉に、ヴィヴィアンは不思議そうに顔を上げる。そして、何かに気づいたように視線をゆっくりと下ろしていき、花が咲くようにパッと頬を赤くした。
左腕を掴んでいた手が離れ、やっと動けるようになった僕は、彼女の腰のそばに膝をつき、逃げられないよう覆いかぶさった。
「私……そんなつもりじゃ……」
夢魔の性質が弱まったからか、彼女は目を逸らしながら初々しい反応で恥じらった。それがまた僕の心をくすぐった。
「いいんだ。おかげで充分、塗り替えられた。今度は僕の番だ」
「きゃっ……」
焦れたようにすり合わされていた、彼女の太ももに触れると、驚いたような高い声がした。こんな初心な声を上げる彼女に、一度目は途中までいいようにされていたことを思い出し、仕返しをしてやりたくなった。
夢魔は、人の生気を吸って殺してしまう生き物だ。調子に乗りすぎると、こちらが痛い目を見るだろう。だがそれは、相手が生粋の夢魔ならばの話だ。
ヴィヴィアンに殺されることなんて、ありえないとわかっていた。彼女はずっと……いちど絶頂を向かえてもなお、理性をなくさず、僕のことを気づかい続けてくれている。身体が夢魔になろうとも、心は人間のまま。身体を元に戻すには少し……僕の助けが必要なのかもしれないけれど、完全な夢魔にはなり得ない。普通の女の子と一緒。彼女が特別なのは、僕にとって、だけでいい。
「だ、ダメよ……そこは……っ」
「……“もういっかい”が、いるんだろう?」
「だって……あなたの指が汚れちゃうわ」
汚れるだなんて、何を勘違いしているのだろう。性に溺れて、とろけてしまうことが、汚れていると言うのなら、彼女を汚そうとしているのは僕のほうだ。
挟まれていないもう片方の手を、彼女の膝に添えると、思いのほか簡単に、脚を開かせることができた。拒絶する気はないと考えていいのだろうか。
「何も気にしなくていい。君は楽にしていて」
「でも、ほぐすのなら私、自分で……あっ、ん……っ」
とんでもない提案が聞こえた気がしたが、彼女が手を伸ばすよりも、僕のほうが先だった。ほんとうは、もっと言葉を尽くして、安心させてあげるべきだろう。しかし、頭がうまく働かない。ただでさえ、彼女のせいで身体が熱く火照りだしているのに、指に伝わる感触や温度、耳に注がれる嬌声や水音が、どんどん、僕の理性をおかしくしていく。
「あんっ……やっ……ぁ──」
ぐちゃぐちゃにとろける、しなやかな身体を見下ろし、一方的に仕返しするのは、無理だと悟った。
ヴィヴィアンには悪いけれど、夢魔への認識を改めざるを得なかった。人間が生殖のためにする行為を、食事にすり替えるなど、夢魔という生き物はなんて冒涜的なのだろうか。そして、その冒涜的な行為を、一緒にやっている僕は──夢魔の食事にかこつけて、自分の欲を満たしている。
全てを捧げると言ったのに、貪っているのは僕のほうだ。僕の浅ましい欲が、彼女の養分になってしまう。いい気持ちもわるい気持ちも思い浮かぶけれど、やはり申し訳なさが勝る。
「ヴィヴィアン……ヴィヴィアン、すまない……」
濡れそぼった手を退かし、力なく投げ出された彼女の脚のあいだへ割り入って、腰をぐっと近づけた。
小さな入口に、とつん、とあてがう。侵入を試みる異物を、待ち望んでいたかのように、彼女の健気な身体は拒むことなく、もう一度中に入らせてくれる。優しく包み込んでくれる。
僕の大事な女の子。大切にしなきゃいけないのに、どうしても汚してしまうのなら。せめて気持ちよくなってほしい。痛い思いをしないでほしい。後悔なんてしないでほしい。あわよくば僕に幻滅しないでほしい。あぁ、また、自分のことばかり……。
「んっ……どうして、あやまるの?」
「だって……」
言い淀んで動きを止めた。それに気づいたのか、彼女は僕の首に腕を回し、顔を引き寄せてキスをした。鳥がついばむような優しいキスだった。
「ねぇ、レギュラス……私、知らなかったの。大好きな人とこうすることが、こんなにも幸せなんだ、って。レギュラスは、違うの?」
繋がったままの彼女の腰がゆるゆると動いている。僕を奥へ奥へと誘おうとしている。
「違うわけがない……でも、僕はもう君が思うより子どもじゃないんだ。君の知らない欲だって、ある」
夢魔の身体に望まれて、僕が仕方なくこうしてるって思っているんだろう? ほんとうは、違う。僕も、こうなることを望んでた。ヴィヴィアンは僕の男の部分を侮っている。期待されているような、無垢で綺麗な人間なんかじゃないのに。
「それは、私もいっしょよ……夢魔にならなくたって、きっと同じことを望んだわ……」
「ヴィヴィアン……」
彼女は僕の手を取り、胸の膨らみへと導いた。熱い肌が手に吸い付く。柔らかさに誘われ揉みしだくと、彼女は妖艶に微笑んだ。指先で赤い尖りを引っ掻くと悩ましげに喘いだ。彼女もまた、いつの間にか大人の女性になっていたんだ。あぁ、そんな、気持ちよさそうな、顔をされたら……湧き上がる欲望に呑まれ、気づけば再び腰を動かしていた。
「あん、あっ……そう、そうよ……ぅん、それでいいの……」
「はっ……、僕のすべて、受け止めて、くれる?」
「もちろんよ……私の、ぜんぶも、んっ……あなたに、あげるわ」
理性が焼ききれた。本能に従えば、もう夢魔も人間も関係ない。
「ヴィヴィアン……ヴィヴィアン……」
「あっ、んぅ……レギュ、ラス……」
自分は今、最愛の女を抱いている。彼女の名前を何度も呼んで、その事実を噛み締めた。そして彼女も、喘ぎ声の合間に僕の名前を呼んでくれた。彼女の声が甘く乱れるたび、快感が積み重なっていった。
獣のように腰を打ち付けて、肉体のぶつかる音が響いても、もはや恥ずかしいとか汚しているなんてことは、考えられなくなった。
彼女の悦がる顔も、喘ぐ声も、艷めく身体も、すべてが美しかった。
互いに張り詰めていくのがわかる。獲物を逃がすまいとするように、まとわりついてくる。それがこんなにも気持ちいいなんて。ずっとこうしていたかった。けれど、この先にあるものを僕も彼女も待ち望んでいた。
僕らはふたりでいっしょに、もっと深いところ、もっと高いところを、ただただ目指していた。
「ヴィヴィアン……愛してる、愛して、いるよ」
「はっ、あん……あっ、私、も……っ」
荒い息を吐き出す唇にキスをして、ひときわ強く打ち付けると、彼女が身体をひくつかせ、道連れにするようにキュッと締め付けた。あぁ、たまらない。うごめくそれに抗うことなく、最奥に欲を注ぎ込んだ。
脱力した彼女を抱きしめる。触れた背中からは翼が消えていた。人間に戻ったのだ。彼女の中から抜け出すと、彼女は小さく呻いて、疲れ果てたように眠ってしまった。
「……よく頑張ったね、ヴィヴィアン……」
寝息を立てる彼女の髪を撫で、温かい身体を抱きしめながら、ともに眠りに落ちた。
お読みくださりありがとうございました。このあと本編の最終話に続きます。よろしければぜひ本編のほうもお読みください! 既にお読みくださった方には重ねて感謝申し上げます。
とはいえ、この1話だけでもご満足いただける出来になっていればいいなと思います。感想や評価をいただけるととても嬉しいです!