※この作品はR-18です。

転がりゆく石のように   作:鮫肌猫

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柔く、何よりも勁く 4

路地裏。外壁区の下層においてはまるで珍しくもないありふれた場所。しかし、殆どの人間が入り込む方法すら知らないという点で、その路地裏は極めて特殊な立ち位置に在った。

 

「....生き物の気配がまるでない。人間を見ないのは良いとして、妖精の1匹も居ないのはどういう事なんだ?」

 

「対魔団の拠点と同様だ。この領域は、妖精が生きるにはあまりにも魔力が薄い」

 

「空っぽなのよね、つまり。異常って感じもしないし、なんかつまらないわねぇ....」

 

そんな奇妙な領域に踏み込んだ3人は疑問を呈し、分析し、評価を下す。ハンターとしての警戒が伴う2人と違い、キリセは感性の赴くまま好き勝手に語っているだけだったが。

 

「堕天特区にこんな場所があるのは異常じゃないか?」

 

「空っぽなだけなら、ちょっと空を見上げれば簡単に見れるでしょ」

 

「それとはこれとは別だと思うが....」

 

「確かにこっちの方は中途半端。でも、な〜んかアスカロンとは違うのよね....」

 

「おい、それはつまり私が半端者だと言いたいのか」

 

「....」

 

雑談に興じ始めた頼りない二人組を捨て置き、ギノルタは道の端に奇妙な物を組み上げる。石を積んだだけの、構造物とも言えないその塔は、世界に溶け込むようにして姿を消してしまう。

 

「....来るぞ」

 

その言葉に、さしもの二人組にも緊張が走る。彼女らは警戒するように周囲を見渡すが....その足元に、大きな穴が空く。

 

「下だよバァーカッ!」

 

突如現れた隻眼の女....レッドツェッペリンは、完全に隙だらけのキリセを締め上げる。

 

「ぐぅっ....」

 

バタバタと足を振り抵抗する少女を、レッドツェッペリンは一瞥もしない。ただ、少女の頭にショットガンの銃口を向け、武器を構える二人のハンターに宣言する。

 

「おっと、近付くなよォ?んな事したらこの女の頭がトマトみたいに潰れちまうぜェ!?」

 

「....」

 

二人はじりじりと後ろに下がっていく。その様子を見て、レッドツェッペリンは勝利を確信していた。

 

「妙だとは思ってたんだ。こんな何の力もない奴を引っ張ってくなんてなァ....だが、別に理由なんてどーでもいい」

 

「....」

 

「つまりコイツは助ける必要があるくらいには大事な人間なんだろ。そんなもん、利用しない方が馬鹿だよなァ!?」

 

笑い声が空白地帯に響く。伝説というには随分と下卑た笑みを浮かべた彼女を、しかし二人は見つめるだけで何もしない。彼等の様子は、まるで何かを待っているようにも見え──

 

「....あ"?」

 

レッドツェッペリンが異常に気付いた時、既に"それ"は、準備を終えていた。

 

「目の前よ、ばーか」

 

閃光と破壊が、周囲を満たす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

離れた場所から聞こえる爆発音と共に、キリセは瞳を開いた。

 

「ふぁぁ....自爆なんて初めての経験だわ」

 

夢から覚めたような気軽な口調でそう言う彼女に、後ろから声が掛けられる。

 

「起爆したのも私なのだから、自爆かどうかは疑問が残るけれど、ね?」

 

純白の髪を風に揺らす無垢な少女。そうとしか見えない大魔女カリブを前にキリセは警戒に顕にする。

 

「うっさいわね。人が楽しんでるのに余計な事を言わないでよ」

 

カリブは、そんなキリセをニヤニヤと見る。そこには、隠し切れない淫蕩さが溢れていた。

 

この状況....唯一の"一般人"が捕まえられ、爆発するまでの全てはギミーシェルターの考案した作戦の範疇である。カリブに協力を仰ぎ、受動的な不意打ちの爆弾を生み出し、そこに人間の意識を転送する。カリブの魔術師としての卓越した技量は、生きる伝説にさえ完璧な不意打ちを成功させたのだ。

 

「けれど、これで死ぬほどあの娘は甘くないでしょうね。ギミーシェルターもそれはよく分かってる」

 

「その為の"あれ"なんでしょ?あーあ、私も近くに居たかったなぁ」

 

「勿論、それは駄目。残念だけれど、今回の私は事態が終息するまであなたの保護をするように頼まれたのだから」

 

「ちぇっ....」

 

カリブはキリセから視線を外し、爆発の方角に目をやる。その瞳には魔術師としての好奇心が宿っていた。

 

「それにしても、あんな大物を雇うなんて、クワイトは一体どんな連中なのかしらねぇ──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やったか?」

 

周囲に爆発の煙が充満する中、アスカロンがボソッと呟く。あまりにも完璧な爆発だった。或いは、この一撃で倒してしまったのではないか、と。

 

「....いや」

 

既にギノルタは拳を構えていた。彼は良く理解している。

 

伝説は、そこまで甘くない。

 

「──おいおいおいおい。なんだ、これっぽっちの備えでテメェらは俺様に挑もうとしてたのか?」

 

煙の中からレッドツェッペリンが現れる。爆撃に至近距離で巻き込まれておきながら、その傷は浅い。

 

「っ....化物め....」

 

「正直に言っちまえばな。俺ァはビビってたんだぜ、ギノルタ。テメェみたいな陰湿な野郎がわざわざ顔出してんだ。それこそ、どんくらいヤバイ戦術を用意してんのかってな。その顛末がこれか?ええ?」

 

「....」

 

ギノルタは答えない。臆す事なく目の前の伝説を見据え、次の行動を予測し続ける。

 

「....ダンマリか。だったらそのまま口利けなくしてやるよ!」

 

「....!」

 

鉛(レッド)の名を冠すその女は、弾丸の如き機敏さを以てギノルタとの距離を詰める。アスカロンによる援護射撃は、牽制にすらならず、避ける必要もないほどに的を外れてしまう。意識の間隙を縫うようにして放たれた催眠の閃光もまた、大した効果を与えない。

 

「オラァッ!」

 

結局の所、戦闘は純粋な肉弾戦に至る。奇妙な音を響かせながら振動する剣が拳に受け流され、放たれた蹴りが魔力を伴った"気迫"によって弾かれる。常人には到底観測不可能な神速の応酬の果て、超至近距離で構えられたショットガンが、ギノルタの腹に大穴を開ける。

 

「ぬ──」

 

彼は咄嗟に距離を離し、息を整える。たったそれだけの動作で穴が塞がり、負っていた傷は殆ど癒えていた。

 

「切り替え(デアデビル)、兵士の資質ってヤツか」

 

「....」

 

「それで、傷を癒やして何になる?そこの女は大して役に立たない。お前も真正面から来るなら"ちょっと面倒"ってだけ。どうせまた俺様の愛銃にぶち抜かれるだけだ」

 

役立たずの部分であからさまにムッとしたアスカロンを一瞬の視線で制し、それまで不機嫌そうな顔を崩さなかったギノルタが初めて不敵に笑う。

 

「その台詞は、もう一度俺のはらわたを突き破ってから言うんだな──」

 

「おいおい、あのギノルタが随分安い挑発をするもんだな?」

 

安い挑発と切り捨てながらも、レッドツェッペリンは凶猛な笑みを浮かべ、ギノルタに突撃する。

 

「だったら、買わねェと損だよなァ!」

 

速やかに近づき、ショットガンをぶち込む。何の異能も、何の策もない純粋な攻撃を、しかしギノルタは避けられない。

 

「ぐぐ....」

 

苦痛の呻きと共に、はらわたが派手にぶち抜かれる。躱すには、あまりにも攻撃の動作が速すぎた。

 

「ハッ──」

 

彼を煽らんとしたのだろう。口を開いたレッドツェッペリンに、渾身の弾丸が飛来する。攻撃の隙を狙ったその弾丸は容易に弾かれる。その時既に、ギノルタは僅かに体勢を崩した彼女に蹴りを放っていた。恐ろしい破壊力を持つ鋭い一撃がレッドツェッペリンの腹に吸い込まれる。

 

「──無ェよ、2度目は」

 

レッドツェッペリンは血反吐と共に吐き捨てる。それは初めて彼女に与えられた有効打。しかし、彼女には最初から"避ける"などという考えはない。ただその衝撃に吹き飛ばされないように堪えていた。そうして、ショットガンの射程内にギノルタを捉え続けている。

 

「これで終いだ」

 

既にリロードを終えていたショットガンが隙だらけのギノルタに向けられ──

 

「そうだな、終いだ」

 

その瞬間、ショットガンがレッドツェッペリンの手から消え失せる。

 

「な──?」

 

ギノルタに攻撃する事も忘れ、彼女は自らのショットガンの行方を探る。すると、居た。

 

「ゆだんたいてき、だよ。おねーさん!」

「にんむたっせいー」

「いえい、いえい」

 

「──はぁぁ?」

 

頭に角を生やした褐色の少女達。3匹のゴブリンがショットガンを持ちそこに立っている。堕天特区におけるスリのほぼ全てを担う存在。矮小ながらも恐ろしい妖精のいたずら(ボギートリック)は、致命的な形でレッドツェッペリンの前に提示されていた。

 

「それじゃあまたね!」

「ぐっばいー」

「ばいばい」

 

「おい、待て──」

 

彼女の静止を聞かず、妖精達は依頼の報酬など比較にならないほど貴重なショットガンと共に、その場から消えた。

 

(んな馬鹿な....俺から身を隠せる奴なんて居る訳がねェ....いや、だとしたら....)

 

「転移....!」

 

苦々しい表情を隠そうともせず、そう呟く。ギノルタは頷き、続ける。

 

「貴様はエルフの超感覚(ESP)さえ敵わないほどの極めて鋭敏な感覚を持っているが....あくまでもそれは人類が持つ感覚の延長線上に存在する。魔術的な転移現象を事前に探知する事は出来ない。当然ながら、その行く末も」

 

「....最初っからこれを狙ってやがったのか....」

 

何かを盗まれる事は、彼女にとってまずあり得ない。ゴブリンだけでは不可能だ。瞬間移動を活用して、尚も足りない。だからこそ彼らは、勝利を確信した一瞬の隙を突いた。

 

「ふぅ....これでもう自由に喋っても問題ないな?」

 

アスカロンが肩の力を抜き、壁にもたれかかる。その様子をレッドツェッペリンは怪訝そうに見つめる。

 

「オイ、ちょっと待て。勝負は此処からだろうが。こっちにはまだ剣と拳がある。どうせお前らにも俺様を殺す作戦があるんだろ?」

 

「別に....そんな物はない。ただ....私が知っているのは、これ以上戦わなくても良いという事だけだ」

 

「──はぁ?」

 

ギノルタが1歩前に出る。彼は既に構えを解いていた。

 

「我々は取引を希望する。人質は貴様の愛銃だ。受けないのであれば破壊する。尚、こちらには"彼ら"が提示した倍の報酬を払う準備がある」

 

「....」

 

沈黙、そして直感的な推論の後。レッドツェッペリンは不機嫌そうに呻く。

 

「....これは、テメェの作戦じゃあないな....?ギミーシェルター、あのアマのやり口だ。クワイトめ、いつの間にあんなクソ面倒な奴に目を付けられてやがった──」

 

剣を収め、臨戦態勢を解く。仮に報酬が無かったとしても、これ以上は割(・)に(・)合(・)わ(・)な(・)い(・)。それが彼女の結論だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

路地裏の地下。不安定に明滅する蛍光灯が忙しなく働く人々を照らす。仕事場としての役割の強い外壁区においては本来よく見る光景だが、皆が仮面を身に付けているという点において異様であった。

 

しかし、それもある意味では当然。彼らはクワイトの構成員。顔を晒せるような仕事は何一つとして存在しないのだから。

 

「おい、新入り。例のブツは運び終わったか?」

 

「ああ....はい。大丈夫です」

 

その内の一人、少年と言えるほど背の低い構成員に、他の構成員が問いかける。少年は、ぼんやりと視線を宙に浮かせながら肯定する。

 

「そうか、ならそろそろ休憩にしようぜ」

 

「了解しました」

 

男は休憩を宣言し、休憩用に置かれた古臭い椅子に腰掛ける。少年もまた、男に倣うようにして近くの椅子に座る。

 

「しっかしあの女、どう思う?」

 

「あの女....?」

 

「レッドツェッペリンだよ。ほら、例の伝説がどうとかいう....」

 

「ええっと....凄い人が味方に付いたのは心強い....ですよね?」

 

少年の回答に、男は呆れたように肩をすくめる。

 

「力なんてどうでもいい。問題はその額だ。俺もちょっと会計を盗み見た事があるんだが、あんなもん一人のハンターに払う金額じゃあない」

 

「へぇ....」

 

男の暴露は、金額以前に殆ど反逆1歩手前の行為であったが、彼がそれを恐れている様子はない。少年も、平然とその発言に相槌を打っている。

 

「此処には精鋭警備隊が2つも常駐してるんだ。仮に大企業が攻めてきたとしても自前で対応出来るだけの戦力がある。この調子じゃ、金をドブに捨てるようなもので──」

 

「よォ、帰ったぜ」

 

乱暴に、入り口のドアが開く。話題の渦中たる隻眼の女がその場に立っていた。

 

「....あ、ああ。これはこれは、レッドツェッペリン殿。よくぞ帰還なされた」

 

彼女が帰ってきた途端、男は態度を一変させる。当然と言えば当然だ。ただその場に居るだけで、凶暴な熊をも震え上がらせる威圧感を彼女は孕んでいる。本人を前にして悪口を言うなど、文字通りの自殺行為にしか見えないだろう。

 

「上は随分とあの連中を怖がっていましたが、どうやらあなたの手に掛かれば処理など容易だったようですな」

 

「あー....それなんだが....」

 

その言葉に、レッドツェッペリンはどうにも気まずそうに頭を掻く。

 

「悪ィが、失敗した。そんでもって、今の俺様はテメェらの敵だ」

 

「....は?」

 

「敵っつっても元依頼主だからな、殺しはしねェ。ただ、まぁ....」

 

彼の言は、一部分において正鵠を射ていた。確かに、企業戦力が攻め込んで来たとしても、クワイトは充分に対応可能だろう。だが──

 

「戦力を根こそぎにするまでは暴れるけどな?」

 

彼女は、"格"が違う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うう、ううう....」

 

チカチカと光が瞬く部屋の中で、一人の男が頭を抱えていた。一見して、それは困難に直面した一般人にしか見えない。平凡な顔立ち。そして、平凡な名前。ジョン・スミス、それが彼の本名であった。

 

「....レッドツェッペリンが....裏切っただと....?」

 

だが、うわ言のように呟く内容は、平凡とは言い難い。当然だろう。彼こそが、殆どの構成員は顔を見た事さえない、クワイトの指導者なのだから。

 

「くそっ....くそっ....」

 

モニターの映像がレッドツェッペリンを映し出す。数多の防衛装置、数多の精鋭の前に不敵に笑い、その全てを打ち砕いていく。彼女の手にショットガンは握られていない。一本の剣と自らの肉体。一方的なまでの破壊は、たった2つの武器によって為されていた。

 

「どいつもこいつも、高い金を払っているというのに....」

 

蹴り飛ばされた爆弾が画面を占有し、直後にはモニターが砂嵐を映す。彼は床を蹴るような勢いで立ち上がり、後方の壁に拳を叩き付ける。

 

「くそっ!....早く逃げなければ....!」

 

拳を打ち込んだ部分から波及するように、壁そのものが波を立て、扉が現れる。それは、秘密裏に組み上げられた緊急用の脱出口だ。

 

「まだだ、まだ大丈夫だ....我々は既に根を張り巡らせている....たかが、本拠地がやられた程度....」

 

自分に言い聞かせるように呟きながら扉に手を掛け....その肩が、掴まれる。

 

「は──?」

 

咄嗟に振り向いた瞬間、視界が光に占領される。ジョンの顔から、感情が消える。

 

「──その通りだ。クワイトは拠点の一つを破壊した程度で息絶える規模ではない。貴様を殺したとて同様だ。故に、貴様に聞くべき事がある」

 

催眠の光が止んだとき、そこに立っていたのはギノルタだ。レッドツェッペリンが暴れている間、彼はあらゆるセキュリティに気取られる事すらなく、最奥にまで到達していた。

 

「貴様らが流通させているこの麻薬の出処を教えろ」

 

ギノルタは玉虫色に光る奇妙な粉を取り出し、問い掛ける。しかし、対するジョンの反応は彼の予想を超えていた。

 

「ぐ....ごぁぁぁっ!」

 

「──!」

 

何の感情も表出しなかった顔が、異常な憤怒に支配される。拳が力任せに放たれる。ギノルタは咄嗟に攻撃を回避するが、空振った拳は机を真っ二つに割った。

 

「催眠は完全だった筈だが──」

 

「ご....が....がががっ!」

 

ジョンの様子は、あまりにも異様だ。自らの攻撃によって拳は破壊され、あり得ない方向にねじ曲がっている。口からは泡を吹き、声とも言い難い奇怪な音を発し続けている。だというのに、彼の注目、彼の憤怒はただただギノルタに向けられていた。

 

「がぁぁっ!」

 

「....手遅れ、のようだな」

 

飛び掛かって来るジョンを避けて放った光と音がまるで効果を与えないのを見て、彼はそれを"動く死体"と同一のものであると見做す。結論を出した彼の行動は迅速だった。強力な蹴りがジョンの頭を捉える。

 

「ぎッ──」

 

足は顔にめり込み、吹き飛ばす。倒れたジョンは動きを止める....完全に死んでいた。

 

「....」

 

ギノルタは、その死体を憮然とした様子で眺める。現状から浮かび上がる結論は一つだけだ。

 

「....黒幕は、この男ではない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よォ、仕事とやらは済んだのかよ?」

 

「....ふむ」

 

数十分後。クワイトの本拠地を完全に制圧したギノルタとレッドツェッペリンは何もかもが倒れ、切り裂かれ、叩き壊された戦場跡にて再会していた。

 

「失敗、だろうな。どうやら我々が想定すらしていない"黒幕"が居たらしい」

 

「ハッ、あれこれ考えてるからそうなンだ。ちょっとは俺様を見倣ってみるんだなァ」

 

いつも通りのギノルタに比べ、レッドツェッペリンは機嫌が良いようだった。よく見てみると、彼女にはいくつかの傷跡が刻まれている。本調子ではないにしても伝説でさえ幾らかの不覚を取るほど大規模な戦い。経緯はどうあれ、それは彼女にとって"楽しみ"なのだろう。

 

「ま、何にせよ俺様の仕事は終いだぜ?機械連中はスクラップ、人間はどいつもこいつも伸してやった。とっとと金(クレジット)を出して俺様の銃を返せ」

 

「報酬は後日支払う。ただ、ショットガンについては....貴様ならば、既に妖精の気配を感じ取っているだろう?」

 

「....」

 

彼女は振り返り、迷い無く一点を見つめる。そこには、物陰から二人を見つける3匹のゴブリンが存在していた。

 

「うわ、みつかっちゃった!」

「あわわー」

「ばればれ」

 

隠れる事を諦めたゴブリンは、恐る恐るといった様子で二人に近付いて来る。そのうちの1匹の手には、ショットガンが握られている。

 

「約束のとおり、返す。ぶるぶる」

 

「ふん──」

 

レッドツェッペリンは差し出されたショットガンをひったくり、眺める。狂気的なまでの改造が施されたそれは、間違いなく彼女のものだった。

 

「....ま、取引相手としちゃあ報酬を踏み倒そうとしてやがったあの連中よか信頼出来るかもな」

 

必要な事は全て終わったとばかりに、レッドツェッペリンは去っていく。その様子を見送りながら、ギノルタは呟く。

 

「さて、ここまで奴の想定通りならば良いのだが──」

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