酸素は鏡に映らない 1
「こちら、よろしいでしょうか?」
「....ん?ああ」
ノーブルシットの片隅。店主であるバシネットが殆ど常在しているその場所に、ギミーシェルターは腰掛ける。そこはハンター宛の依頼を提供する仲介所であり、付近に座る人々は、殆どハンターだ。ハンターにとって、ギミーシェルターという存在は良くも悪くも有名だったが....彼ら、彼女らは大した反応を起こさない。既に、ギミーシェルターという存在に慣れているのだ。
「ハッ、お前もすっかり常連客の仲間入りだな。最初来たときは、こうなるとは微塵も思っちゃいなかったぜ」
バシネットは、吐き捨てるように言い放つ。サイボーグ故の威圧感も加味すれば言外に"帰れ"と言われているようにすら感じられるが、ギミーシェルターは動じない。そもそも、彼女はバシネットが自身に悪感情を抱いていない事をよく分かっていた。
「おや、もしやご迷惑でしたか?」
「客としてお前が出入りする羽目になる事を除けば、依頼とハンターが集まってむしろプラスなぐらいだな。とはいえ、そんな"高名なフィクサー様"が居るからこそ送られてくる依頼ってのもある。当然、その手の依頼ってのは相応の難易度を備えてる訳だが....」
そもそも戦おうとしないギミーシェルターよりも大きな戦果を挙げているハンターというのは幾らでも居る。つまる所、それは暴力だけでは解決する事が出来ない依頼である事の証明であり、ギミーシェルター個人に対する仕事の斡旋だった。
「ほほう、私めのような木っ端ハンターには関係ないやもしれませんが、どういったご依頼なのでしょう?」
「お前のような木っ端が居てたまるか」
そう言って、バシネットは机を漁り1枚の依頼書を取り出す。
【依頼内容】
事件内容:正体不明の存在による殺害事件
事件現場:外壁区下層
達成条件:犯人の討伐、捕縛、もしくは事態の終息
報酬:250クレジット
期間:無期限
依頼主:被害者の遺族ら
「....無期限」
それは、ハンターへの依頼においては中々見ない期間設定である。主に考えられる理由としては二つ。よほど依頼主が気長なのか、期間を設定しようがないほど依頼が困難なのか、だ。
「ふむ....犯人の討伐だけでなく、"事態の終息"が異なる達成条件として存在しているのは、どういった理由によるものでしょう?」
「事件内容を見ろ。今回の事件の犯人は正体不明....金を貰った警備会社の連中でも、犯人の種族どころか、それが生命体なのか単なる異常な現象なのかすら分からなかったって事だ。異常現象を討伐、捕縛する訳にはいかんだろ?」
「本格的な調査ですら何も得られなかったと?」
堕天特区において、身元不明の遺体は日夜発見され続けている。誰かが金を払わなければ、調査すら行われない。故に、事件の調査というものは、専門家である警備会社に依頼するにはクレジットが足りないからとハンターを頼る事が大抵だ。警備会社の不正、例えば犯人との癒着があるならば、それらしい理由をでっち上げるだろう。この状況は、多くの人材を抱える企業による"諦め"を示していた。
「....あまり"美味しい"依頼には見えませんね」
完全なる正体不明存在の調査。バシネットに貸しを作れるならば兎に角、率先して受けたくはない仕事。それが、ギミーシェルターの結論だった。だからこそ、彼女は依頼の受諾を少し渋るが....バシネットは、こともなげに言う。
「そうかい。しかしこの依頼だが....お前の"お気に入り"も真実を追うつもりらしいぜ?」
「....」
お気に入り、それがアスカロンを示している事は明らかだ。ノーブルシットでは、殆ど一緒にいる存在。ギミーシェルターが常連になった理由。
「俺としてはあいつがこの依頼に首を突っ込むのはちと早いと思うんだが....いや、何ならそれとなく止めはしたんだが....弱った事に、俺に強制する権利は無いからな。そいつに対しても、お前に対しても」
「....なるほど」
確かに強制力は存在しない。しかし、既にギミーシェルターから、この依頼を受けないという選択肢は消えていた。
「了解しました。この依頼、解決してご覧に入れましょう」
どこか機械的な口笛が"ヒュウ"と酒場に響いた。
ノーブルシットから十数分。寂れた雑居ビルの5階。深夜0時頃、ギミーシェルターはアスカロンが"経営"している事務所を訪ねていた。
「こんばんは、アスカロン様。いらっしゃいますか?」
ノックをする事もなく扉を開き、アスカロンの存在を確認する。不用心にも鍵の類は準備すらされていないが、そもそもそこは事務所とは名ばかりの私室。事務所である事を知っているものすらまず居ない。
「ん....ギミー....?どうしたんだ、こんな時間に」
碧色の瞳を眠たげに細め、部屋の奥からアスカロンが現れる。美しい白銀の髪をボサボサにし、今にも外れそうな下着を身に付けた姿。ものぐさ、というよりギミーシェルターに対する"油断"が感じられるだろう。
「実はアスカロン様が新しい仕事に取り掛かっているというお話を小耳に挟みまして。是非、私もあなたに助力をしたいと──」
「それは駄目だ」
明確な拒絶が、ギミーシェルターの誘いを打ち消す。今まで存在していた油断が、アスカロンの中から消え失せる。
「....理由を伺っても宜しいでしょうか?」
「お前が手を貸せば、また頼りっきりになるのが目に見えてる。私は仕事
「....そ、そうですか....」
それは、プライベートでは依存していると自白しているようなものだが、全く気付いていない。あんまりにも想定外な"好意"の表出にギミーシェルターはたじろぐが、咳払いをして気を取り直す。
「しかし、知っての通りあなたが引き受けた依頼は極めて困難なもの。一人で真実を探るのは些か無理があるのではないでしょうか」
「ふん、私だって人に頼る重要性は良く分かっている。ただ、今回頼るのはお前じゃない」
アスカロンは不敵に笑う。
「....私以外に、協力者を?」
「フッ....偶々、ネット上でこの事件について調べている情報屋と出会ってな。依頼の達成まで協調関係を結ぶ事にした。もしもお前が同じ依頼を受けるつもりだったなら....残念だが、私達の方が人数でも、現状得ている情報でも上だ」
「....」
数秒の沈黙。その僅かな時間でギミーシェルターは状況を把握し、考察していた。感情を視るに自分を仲間に迎える事はない、しかしアスカロンを放っておくのは危険すぎる。
「....失礼」
「....なんだ、ギミー........お、おい....?」
無言で寄ってくるギミーシェルターに怯んだのか、アスカロンは不安げな表情で後退りする。だが、今までの経験と信頼が逃げるという選択肢を塞ぐ。そして....
「んぅっ....」
唇が、塞がれる。
(なんで....いきなりっ....♡)
疑問を蕩かすように、甘い媚薬に塗れた舌がするりと中へ侵入する。たったそれだけで、アスカロンの身体は
「ふぁ....ぁ....♡」
長い口づけが終わった時、その表情はトロトロに蕩けていた。脳を犯す媚薬に、彼女は抵抗しようともしない。"借り"と称して幾度となく交わり、悦びを刻み込まれた身体が、退廃的な侵食を完全に受け入れてしまっていた。
「下着は....要りません、よね?」
思考の回らないアスカロンの下着を取り払い、優しく押し倒す。全身が密着し、白磁器のような身体に汗が滲む。甘い、甘い汗の香りが情欲を加速させる。
「ぎみぃ....ぎみぃっ....♡」
「っ....♡」
今までの会話も忘れ、腰をへこへこと揺らす淫靡な姿に、ギミーシェルターは僅かに"揺らぐ"。しかし、心を自制し、自分の人差し指に唾液を絡ませた。
「んっ....♡」
体液....つまり、媚薬によって濡れた指がアスカロンの秘部に置かれる。彼女は、次に来る快楽の波を期待し....
「....ぁれ....ぎみー....?」
波が来ない事に、困惑する。ギミーシェルターの顔を見る。そこには、胡散臭い笑みを張り付いていた。
「ふふ、駄目ですよ、アスカロン様。私達はライバルなのですから、無料でこんな事をする訳にはいきません」
人差し指が、秘部を擦る。
「っあ....♡」
「しっかり、"情報"を頂かないと....ねぇ?」
その言葉は、アスカロンの正気を取り戻させる....が。
「ひ....卑怯だぞ....♡わたしは....ひぅっ♡媚薬漬けにされて....♡さ、逆らえないのに....♡」
出てきた頼りない反感の言葉は、情報を吐いた先への"期待"に溢れていた。
「それなら、全部吐き出して楽になってしまいましょう?もっと....気持ち良くなりたい、ですよね♡」
「ぅ....ぁ....♡」
あまりにも簡単に囁きに呑まれ、四肢から抵抗する力が抜ける。本能に従い、その口が勝手に開く。
「....も、目撃者は居ないはず、だけど....死んだ瞬間を見たって人が居て....」
「ほほう。どのような方なのでしょう?」
「うう....っ♡」
ギミーシェルターは、少しだけ指を秘部に挿入する。アスカロンは身体を震わせながら、部屋の奥に見える机の上を指し示す。
「....そこの紙に、ぜんぶ書いてある....だから....」
「ふふ、よくできました。えらい、えらい♡」
「〜ッ"♡」
優しい囁きと共に、頭が撫でられる。指が蜜壺に入り込み、くにくにと性感帯を刺激する。反射的に快楽から逃れようとするが、体も心もとっくに抵抗する力を失っていた。捌け口の見つからないまま、激しい快楽と深い安堵が蓄積していく。
「あああ"っ....♡だめ....だめなのにっ....♡」
恋情を抱いてしまった相手の、いつもとは違う、柔らかい声。頭を撫でられ、優しく褒められ、快楽に染め上げられ。彼女を取り巻く全てが、情報を漏らしてしまったのを"いいこと"だと肯定する。反対を繰り返しているのは、口先だけ。その表情を見れば、堕ちてしまっているのは明らかだというのに。
「....可愛い」
そんな有様すら、肯定されて。
「ぁ....ああ....♡わたし....もうっ....♡」
快楽が、何もかもが限界に至る。人差し指が性感帯を押し込んだ瞬間、溜まっていたものが溢れ出す。
「イ"っ──♡」
全身を多幸感が貫き、散々弄られた秘部が潮を吹く。情けない顔を晒したまま、アスカロンは絶頂に至る。
「さて、これで....」
「....ハァッ....ハッ....♡」
「....」
行為を切り上げようとしたギミーシェルターは....アスカロンの"有様"を見て、唾を飲み込む。媚薬漬けになった彼女は、サキュバスと見まごうほどの淫靡さを備えていた。
「....いえ....」
否、見ず知らずのサキュバスからの誘惑であれば、ギミーシェルターは容易に躱すだろう。だが、好意を向けられた、警戒する必要のない相手の媚態。償いの為と身体を重ね続けた相手の誘惑。そこに、強靭な自制心は働かない。深遠な思考が、情欲の解消を第
「....まだ、ですよ」
「....ふぇ?」
いつか、誰かが漏らしたような気の抜けた声が響く。
「だって、
「....ま、まって....わたし、いまさっきイったばかりで....」
「大丈夫、私も一緒にシますから」
完全に力の抜けたアスカロンを押さえ付ける必要は、もうない。体勢が変わり。二人の秘部が重ねられる。貝合わせの状態で、ギミーシェルターは妖艶に微笑む。
「私の
「ひっ....♡」
ギミーシェルターによる"妨害行為"は、2時間を優に超え、アスカロンが気を失うまで、延々と続いた。