田舎あるある。
古くからの農村では家に鍵をかけるという習慣がない。
下手をすると錠前そのものが無い。
村中が皆知り合いだってことと、外部から入り込む人間が極めて稀という、特殊な環境ならではの習慣だ。
我が村もご他聞にもれず古い農村なのだけど、それなりに近代化しているので夜は鍵をかける家が増えている。
だけど、昼間そうしているところはほぼ無い。
そして我が
「ましろさーん、入るよー」
ミツコさんの言葉と同時に、アルミ製の玄関扉が軽やかにスライドする音が聞こえてくる。
「……ましろさーん、居ないのー?」
玄関から家の奥の方へと向けられた声が響く。
無駄に広いくせに住んでいる人数の少ない我が家ゆえ、家人がどこに居るのか判り辛いので、訪ねて来た人たちは例外なくこんな声のかけ方をする。
「ましろさーん?」
田舎あるある、その二。
村中が知った仲ということは互いの家への行き来も多く、あまりに頻繁なために次第に自分のうちと同じ感覚で過ごしてしまうようになってくる。
つまり、人様のうちも我が家と同じ。
留守であろうが、気にしないで勝手に上がりこんで勝手にくつろぐなんてのは、いたって当たり前のことなのである。
仮に家の中に上がりこんでいなくても、縁側に腰掛けてのんびりと過ごしている光景はごく普通に見られたりする。
そんな田舎特有の常識に、この村に嫁いで来て三年ほどのミツコさんもすっかり馴染んでおり、勝手知ったるなんとやらで、当たり前のように我が家に上がってこようとしているのが、玄関から伝わってくる気配で察せられた。
どうする? どうする? どうするどうする?
「――
ましろ母さんを抱きかかえた姿勢のままパニくっている俺に、抱きしめた腕の中から、焦りはうかがえるがしっかりとした声が聞こえた。
互いに聞こえればいいくらいの抑えた声なのは、居間の引き戸も開けっ放しのままだし、玄関とそれほど離れていないから、万が一を考えてのものだろう。
その声で多少の落ち着きを取り戻した俺へと続けて、
「今の私の格好では人前には出られません。少しだけ時間を作ってください」
母さんからのお願いが届く。
確かにワンピースを肌蹴させ下着をさらしている、今の母さんの肌も露わな姿でミツコさんの相手などしようものなら、どんな詮索されるかはたやすく想像できる。
なんせミツコさんは、ましろ母さんが息子である俺に、親子の域を越えた危ないスキンシップを交わそうとしているって疑念を持っているから。
……まー、それは実際当たってて、きっかけ作っちゃったのは俺の方なんですけどね、ハイ。
「まっひる、さぁーん?」
そんな逡巡していたらミツコさんが今にも乗り込んできそうだ。
躊躇などしていられない。俺は抱きしめていた母さんから身体を離し、居間を出て玄関へと向かう。
幸いというか、猛りまくっていた我が分身は、ミツコさんの声が聞こえた時に芯の硬さを失っておりました。
……男の子ってわりと繊細なものなのよ。
「ミツコさん、いらっしゃい」
サンダルを脱ぎ、今にも上がりこもうとしていたミツコさんにタイミングよく声を掛け制する俺。ギリギリ間に合ったー。
さて、本日のミツコさんのお召し物はというと。
例によって豊かな胸を強調するかのように大きく胸元を開けたシャツにぴっちりしたスパッツという、相変わらず童貞男子を殺しに来ているような組み合わせですよ。
人妻なのに人目を気にすること無く露出の多い格好をしているのは、ミツコさん本人が開放的な性格でそういった服装を好んでいるのも関係あるが、実のところ旦那さんである
寿久さん本人が教えてくれたんだけど、ミツコさんをめとった寿久さんは自分の嫁さんがどれくらい魅力的なのかを村中に見せびらかしたくて、積極的に露出度の強い服装をして出歩くようにお願いしたんだそうな。
そういう個人的な優越感を満足させることがメインだったんだけど、もうひとつ、婚活頑張ればこんな素敵な嫁が手に入るかもしれないから皆諦めるなという、独身の若い衆へのメッセージもあったとか。
その発破が功を奏して、村に何組もの新婚さんが誕生しているのだから凄いなとは思う。
けど、当初の目的は果たしたんだから、落ち着いた服装に切り替えさせてあげればいいのに、未だにああいう格好させてんのは……やっぱり純粋に趣味なんじゃないかって思う。
善人で明るい働き者なんですけどね寿久さん。この真実聞かされたときは、母親に欲情するこんな俺でも残念な人見る目になっちゃたっけ……。
居間を出て廊下から玄関へ抜ける間に呼吸を整えておいたので、ミツコさんには慌てて出てきたとは悟られてはいないはず、たぶん、めいびー。
「あれ、ゆー
出迎えたのが俺だったのが意外だったからか、上がりかまちに腰を下ろしながら母さんが不在がどうかを尋ねてくるミツコさん。
「んー、今台所で手が放せないみたい。で、俺が来た」
何食わぬ顔でもっともらしい理由を繕う俺。平常心平常心ポーカーフェイス。
「あ、そうなんだ」
そんな言い分をあっさりと受け入れてくれるミツコさん。基本的に善い人なので騙すのは正直心苦しくもある。
……もっとも、この程度は可愛いって思えるほどの大嘘を既についちゃっていますけど。
「で、今日はどうしたの?」
特に用事がなくっても、顔を見せにやってくるのが田舎の住人ですが、一応は訊いておくもの。
「あ、うん。毎度の御裾分けよ、今日は量が少なくて悪いけどね」
俺の問いにミツコさんは持参していた風呂敷包みを上がりかまちに置き、結びを解いて中身を広げて見せた。
ミツコさんとこ、
畑は勿論ビニールハウスで季節に構わず各種野菜を作っている。そして実った物を収穫し出荷することで生計を立てている。
取れた作物の全てが出荷される訳ではなく、出荷基準から外れたものが必ず出てくる。そういった商品にならない物は自前で処理するのが普通だ。
自分ところで賄いきれないほど残るときは、そう御裾分け。
農家同士のやり取りで、大概のものは揃えることが出来たりする。あぁ素晴らしきかな農村ライフ。
我が家は父さんが村の相談役なんて立場なので、村中から御裾分けという名の贈り物がちょくちょく届く。
おかげでというか、粗方の農作物は購入すること無く賄えたりする。
うちから物理的にお返しするものがないというのに、皆さん気にすること無く分け与えてくださる。
ありがたいことで頭が下がる思いでいっぱいだ。
本日ミツコさんちから譲られたものは、大きさは申し分ないけれど形が悪い夏野菜がいくつか。
胡瓜なんかサイズそのものはなかなかの大きさなんだけど、形がいびつだったり反りがきつかったりで、おそらくそれが出荷出来なかった理由なのが察せられた。
茄子とかもいい色艶しているんだが、ちょっとした傷があったりで、売り物の基準は厳しいなーとか、農家でもない俺は思ったりしてしまうが、そのおかげでこんな新鮮なものを頂けるのだから、余計なことは考えずただただ感謝しよう。
……しかし胡瓜に茄子、他にはゴーヤとか、なんか隠された意図がありそうだなと感じてしまうのは、色眼鏡で見すぎているかな?
そんなこと考えながら広げられ並べられた野菜をしげしげと眺めていると、おもむろにミツコさんが先太りで反り返った胡瓜を手に取り、
「立派だよねー、この太さとか反りとかさぁ……まるで
猫っぽい瞳を上目使いにした企み顔でそう言って、胡瓜の膨らんだ先を優しく撫でまわし、粒々のたった太い胴を数回しごく様をじっくりと俺に見せ付けてから、どうだとばかりに大きく開いたシャツの胸元、たわわに実ったふたつの果実の間に挟みこんだ。
……なるほど、野菜の種類はそういう暗喩か。
両手で胸を寄せあげて、どうだと言わんばかりにアピールしてくるミツコさん。
その姿はどう見てもパ○ズリです。ありがとう、ごちそうさま。
健全な男子ならば目の離せない、とても魅惑的な光景。なんだけれども、
「――食べ物でふざけるのは、ダメですよ~」
俺はちょっとばかりたしなめる声音でそう言って、双丘に挟まれた胡瓜を無造作に引き抜き、風呂敷の上へと戻した。
小さい頃から
……本音は凄く名残惜しいんだけどもね。
そんな俺の唐突な行動に、ミツコさんは一瞬ぽかんとして、それからなぜか嬉しげに顔を緩ませて、
「んー、もう。ゆー坊は可愛いなぁ」
言うなり、俺に抱きついてきた。
「――わっぷ」
突然のことで対処できず、ミツコさんのたわわな胸に顔を埋めるようにして抱きしめられる俺。
さっき胡瓜を挟む際にあれっと思ったけれど、シャツ越しに肌に伝わってくるこの感触は、もしかして
……な、なんて大胆な。あ、でも、なんか胸とは別の弾力持った感触がある。
もしや、これが噂のヌーブラというやつか? さすがは元・街の人、進んでるぅ。
あ、やばい。
成熟した人妻の肉体の柔らかさと温もり、そして体臭に反応して、芯の無くなっていた我が分身に力が漲り出している。
……どうかどうか、気づかれませんように。
「お待たせしましたミツコさん。――楽しそうですね?」
俺が下半身の変化に葛藤しつつ、ミツコさんにされるがままになっているところへ掛かる声。
「あ、ましろさん。お邪魔してるね~」
返事をするミツコさんが声のする方へと身体をひねったので、つられて俺の頭も動き、確保された視界の先には、色からして麦茶を入れたコップを乗せたトレーを持ったましろ母さんの姿があった。
母さんはするすると俺たちの傍にやってくると腰を落とし、ミツコさんへ飲み物を勧める。
それを受け取るためにミツコさんが腕を解いたため俺は解放され、ちょっと名残惜しいが抱きつかれない程度の距離をとるようにして母さんの隣に並び座る。
幸い盛り上がった股間は気付かれていないみたいだ、ホッ。
コップを受けとって喉の渇きを潤したミツコさんが、機嫌良さ気な顔を母さんに向け、
「ごちそうさま。――ましろさん、ゆー坊っていい躾されてるよねー。食べ物で遊ぶなとか、このくらいの歳の子がなかなか言えることじゃないよ」
コップを返しながら嬉しそうにそう言い、
「ホント、ゆー坊ってば理想の息子像だわ。あ~あたしも早く子供欲しいーっ」
さらに褒め言葉を続けるものだから、言われた当人の俺としてはちょっとばかり照れくさく、顔を明後日の方へ向けて聞き流そうとする。
そんな俺を見やってから、改めてミツコさんへと視線を向けなおし、
「私もそう思います。……本当に淑恵奥さまの躾けはご立派で」
少しだけ、ホンの少しだけしんみりとした声音でましろ母さんが言葉を返した。
「私は……頭ではダメだとわかっているのに、厳しくすることが出来なくて……。淑恵奥さまをもっと見習わないといけませんね」
どことなく自虐を含んだ母さんの物言いに、
「んー、傍から見ても甘過ぎるなぁって感じるところもあるけど、ましろさん充分いいお母さんしているって、あたしは思いますよ?」
俺がそんなことはないって口にするより早く、ミツコさんが満面の笑みを浮かべながら言い切ってくれた。
「ゆー坊、
そして年下だけど母親としての先輩へと、励ましを伴った嬉しい言葉を続けてくれる。
「……ミツコさん」
その言葉に母さんが感極まった眼差しを向けて言葉を震わせる。
「ま~、ちょぉっとばかりエロ小僧気味なのは残念だけどもね」
感動的な雰囲気になってしまったその場の空気を壊すように、膨らんだ俺の股間を指さしてニヒヒと笑うミツコさん。
俺を茶化すことでオチを付けに来る、さすがだ。
「――。ええ、本当に」
そんなミツコさんの意を汲み取り、母さんも残念そうな眼差しを俺に向け、意識的に笑い話にすることを選ぶのだった。
場をなごますためなら、ピエロになることも甘んじて受け入れましょう。
いやまぁ、実際こんないい雰囲気なのに股間は膨らんだままなんで、エロ小僧と呼ばれても仕方ないですしおすし。
それからしばらく軽い雑談という名の、俺をからかうことを主題にしたお喋りを堪能したのち、頃合いだとミツコさんが腰を上げる。
「あ、言い忘れるところだった」
今にも玄関の扉を潜り抜けようとしたとき、見送っていた俺たちへと振り返ってミツコさんが言った。
「明後日の木曜、お昼から『若妻会』開くんだけど、ましろさん、大丈夫かな?」
『若妻会』というのは例の村ぐるみでの婚活の後、この村へと嫁いできたお嫁さんたちの連絡会の洒落た呼び方である。
他所から嫁いで来て、村のしきたりや諸々の勝手がわからない新妻たちが、お互いを助け合うために作られた集まり。
活動内容は各種情報の交換と共有、そして生活での愚痴のこぼしあい。
会長は婚活嫁入り第一号であるミツコさんで、婚活のきっかけでもあるましろ母さんは名誉会長なんてものに祭り上げられていたりする。
ミツコさんの言葉に母さんがうかがうような眼差しを俺に向けてきたので、軽く頷いて了承の意を返す。
「――はい、大丈夫です。お留守番は優介くんがしてくれますから」
瞳に申し訳なさそうな色を浮かべたのち、視線をミツコさんへ戻して母さんが言葉を返す。
「じゃ木曜に。お邪魔しました~」
母さんの返事を受け、ミツコさんは去っていった。
足音が遠のいていくのを上がりかまちで佇んで聞いていた俺たち。
「……よかったんですか?」
しばらくして、改めて確かめるように母さんが訊いてくるけど、
「いいよいいよ。ご近所付き合いは大切だからね」
気にしていないと笑って俺が答える。
母さんと濃密に過ごせる時間が一日分失われることになるけれど、この先もずっと続くだろう、この村での生活を円滑にしていくために必要なのだと考えればお釣りがくらぁ。
……本音と強がり半々のカッコつけだけどね。
玄関から俺は居間へ足を向け、母さんは台所へ入り洗い物をし、頂き物を片している。
居間に戻って腰を下ろし一息ついたことで、
ミツコさんとの肉体的接触で硬度を取り戻し、いまだ萎えていない我が分身の存在を強く意識してしまっているからだろう。
なんとなく落ち着かなくなって視線をあちこちへ向けていると、座卓下に妙なものが在ることに気付いた。
居間を離れる前にはなにも無かったはずだよな? と思いつつそれを手に取る。
手にしたのはツンと甘酸っぱい匂いのする、少し湿り気のある丸められた薄い水色した布。
俺はそれに見覚えがあった。夏前に散々お世話になった
確認しようと丸まったそれを解くべく、手を動かしはじめたとき、
「――優介くんっ、ダメです!」
台所から居間へと戻ってきた母さんが、らしからぬ素早さで俺の手からそれを引っ手繰り、後ろ手に隠しながら座り込む。
あっけに取られたまま母さんを見やれば、耳まで真っ赤にして身体をモジモジとさせている。
「……母さん、それって」
そんな母さんの行動と態度で先ほどの布がなんなのかを確信した俺は、躊躇いつつも容赦なく追及の声を上げる。
「パンツだよね?」
俺の問いかけに、視線を合わそうとせず、赤面したままの母さんはたどたどしく言葉をつむぎ始めた。
「……えぇっと、その……ゆ、優介くんにされてるとき、ぬ、濡れてきちゃって……。し、自然な反応ですよ? 女なら当たり前な。で、そ、そのままだとオンナの匂いが、その、強いから……同性のミツコさんに気づかれてしまいそうで……。だ、だからワンピース着直す際に……」
脱いじゃった訳か。……ん、ということは今の母さんって、
「――じゃ、じゃあ、母さん、今ノーパン……」
俺の言葉に母さんは肯定するように顔を伏せてしまう。その仕草に俺はのどを鳴らす。
ミツコさんの相手をするために俺が居間を出て行った後、俺との行為で服の内側にこもったオンナの匂いを拡散させるためにワンピースを脱ぎ、ついでに匂いの一番強くなっているだろう濡れたパンツを脱ぎ捨てることにした、と。
頭の中で思い浮かべる、母さんがあたふたしながらも覚悟を決めてパンツを脱いでいる姿。
下着を着けていないことをまるで感じさせずに、平静を保ったままミツコさんと応対していた事実。
それらのイメージがごっちゃになって、下半身へ血流が集中する。
気持ちが中断前へと戻り、目の前で女座りをしている母さんへとにじり寄り、ワンピの裾から覗いている脚へと利き手を伸ばし触れる。
「っ、……優介、くん」
俺が触れたことでビクリと身体を震わせ、顔を上げて視線を合わせる母さん。
触れ合った肌がジリジリと熱を帯びだしたのがわかる。
まだ戸惑いの色が見える母さんの瞳をじっと見詰めて、
「……さっきの続き、いいよね?」
拒むことを許さない、卑怯な言い方でねだる俺に、母さんは少しだけ間を置いてから、静かに頭を縦に振った。