三 ウィタ・セクスアリス
中学校に進学し、俺の世界は広くなった。
全校生徒合わせても三十人に満たない、分校といってもよい状態だった小学校時代、とても小さな世界だったそれに対して街からも通ってくる生徒のいる中学は、俺にとって新しい出会いと発見の場だった。
中学で知り合った級友たちとの交流からもたらされる情報は俺を刺激して止まず、村と言う狭い枠の中では知り得なかった様々な事柄を彼らから教えてもらった。
連中に比べれば自分はまだまだ坊やにしか過ぎない事を思い知ったね。
それほどに彼らの持つ知識は豊富だったのだ。
特に思春期の少年たちにとって必要不可欠な方面で。
街に住む級友たちが持つエロ知識は圧倒的で、その先進性に俺は打ちのめされまくってた。
だが、ただ打たれていただけじゃなく、乾いた大地に水が沁み込むように、それらを吸収していったのも事実。
ま、あまりに短期で詰め込もうとしたものだから、情報過多で頭がパンク仕掛けたりもしたけれど、成長期の柔軟な脳細胞はあっという間にそれを克服、俺は立派なエロ小僧になってた。
この脳みその柔軟性が学業に活かせていればってちょっとだけ思ったけど。いやホント、ちょっとだけ。
思春期の少年たちにとって、刺激物が多過ぎる中学校という環境。
小学校時代、同年代の女子はおらず、女の子といえば下に四つ五つ離れた年少組だけだった状況から一転、クラスの半分が同い年の女の子で、学校全体で見ればその数倍の同世代の女子がいて、その上教職員にも若い女性が当たり前のようにいたりするのだ、なんというユートピア! いやぁ、眼福眼福。
そんな桃源郷に毎日通っているのである、片道一時間強の通学も苦になんかならない。
ちなみに自転車通学、中学入学祝で手に入れたスポーツサイクルは速いぞ。流行のロードレーサーじゃないあたりが絶妙に田舎っぽい。
周りを見渡せば、女・女・女のこの素晴らしい環境下でエロい事考えるなって言うのが無理。ぜ~ったいに無理。
まー、女子たちの存在には割りと早い段階で慣れきってしまい、入学当初の爆発的な感動はなくなってしまったけれどね。
でも、慣れたのは居る事に対してだけ。
女体への好奇心は決して薄れてはしなかったりする訳で。
脳みそをピンクに染めたエロ小僧たちは群れを成し、勉学に勤しむ振りをしながら、女体の神秘を語り合う日々を過ごしていたのです。
登校して顔を合わせれば、他愛の無いバカ話の合い間合い間に秘かに横目で女子を追い、
それがとてつもなく楽しかった。
欲望を形にしようと女子にアタックする剛の者もいたりしたけれど、大概が玉砕してた。
理由は言うまでもなく、下心が透け過ぎてて、それで拒否られるんだけどね。
もっとも、この年頃の女子にとっちゃ、同い年の男子なんかおバカでガキ過ぎて、そういう対象には見てもらえないものだったりして。
だけど、おバカな連中がおバカな事を繰り返す中学生活は、良くも悪くも俺という人間を育んでくれた。
三年生に進んだ時、出会った街育ちの友人のひとりに、自慰の手段のひとつとして身内の下着を利用している猛者がいた。
身内、つまり姉や妹とか女家族の下着という事で、仲間内からはそんなの無理無理と否定的な声が上がったのだが、よくよく聞くとそいつの家には大学生の従姉妹が同居していて、その従姉妹着用済み下着をこっそり拝借して、自家発電に励んでいるのだと。
そいつ曰く。
「身内と言っちゃ身内だが、従姉妹とは結婚だって出来るんだ、世間的にみても何の問題もない」
その言い様に皆が、
「なるほどそれならセーフだな」
「でも俺ん
「あ、俺実妹でも大丈夫、むしろウエルカム?」
「……僕は伯母さんかな」
「姉以上の至高は存在しねぇっ」
などと、身内は無理って言ってたのはどこへやら、エロ小僧たちが己の性癖をさり気無くカミングアウトしながら熱い意見を飛ばしあう。
そんな中、言い出しっぺのやつが、声を潜めて付け加えた。
「……あとな、血が近いって背徳感。あれがなんつーか、妙に興奮すんだよ」
その言葉が深く静かに俺の心に沈みこんでいった。
十歳で精通を迎えたのに、しばらくの間夢精まかせで、自分で刺激する術を覚えたのが小学校卒業間際という遅れてた俺。
中学入学後、
夢精の際なんどか夢に出てきたりはしたけれど、十の歳にあれほど際どい体験をした、もっとも身近な女性・ましろ母さんを今の今までそういう妄想の対象にしていなかったのは、やはり "家族" だからと言う線引きが俺の中にあったからなのだろうと思う。
そんな線引きが崩れたのは、従姉妹の
血が近い従姉妹が大丈夫なのなら、継母は、父の後妻は、俺が生まれた後にやって来た新しい母親は、きっともっと大丈夫――。
そんな屁理屈みたいな考えで俺の頭の中はいっぱいになり、気がついたら実行してしまっていた。
春から夏へと季節が変わろうとしていたある日の深夜、家人が皆寝静まった頃を見計らい、俺はこっそりと自室を出て足音を立てないよう細心の注意を払いながら脱衣所へと向かう。
恐る恐る進む理由は、風呂場や台所といった水周りの集中している一角にましろ母さんの部屋があるからだった。
確実に眠っている保証はないし、何かの理由で部屋から出てくるとも限らない、警戒は怠れない。
運が良かったのか母さんに出くわす事もなく脱衣所に忍び入り、当日出た汚れ物が入っている洗濯籠をこっそりと漁り、首尾よく目的の物を手に入れる俺。
急く心を押さえながら、来た時と同じように足音を殺して自室に戻る。
昂ぶる俺の手の中にある丸められた布切れ。
ましろ母さんが今日一日はいていたであろう
風呂で使われたバスタオルなんかと一緒に籠の中に入っていた事もあり、僅かながら湿ったそれを手にし裏返して広げる。
その汚れがこの布地が母さんの尻を包んでいた事を強く感じさせ、股間への血液の流入を加速促進させた。
それがよく知らぬ芸能人や学校で接するだけの女生徒・教職員たちなどではなく、一緒に暮らす近くて遠い存在・ましろ母さんなのが、今自分が
居ても立ってもいられなくなった俺は、寝巻きの下を下着ごと乱暴に脱ぎ捨て、いつになく力強く勃ち上がった己が分身を開放し、それを利き手で上下にしごき続けた。
もう一方の手の中にある、裏地を晒した母さんの下着から目を逸らす事無く。
興奮しすぎていたせいか、初弾は高揚感がピークになる前に暴発気味に終わりを迎えたが、この時の放出感はこれまでのそれとは比べ物にならず、腰から下が無くなってしまったかのような物凄い快感だった。
たっぷりと放出したにも拘らず分身は硬さを保ったままで、背筋を駆け上がった先程の蕩けてしまうような射精感を再度求め、俺は改めて分身へと刺激を与え始める。
この夜、俺は短い時間で三回も達した。この回復の早さはこれまでの新記録だった。
三回で終わらせた訳ではなく、あまりの気持ち良さにそれ以上出来なかっただけで――。
上物の快楽を覚えてしまった俺がこの行為を続けていった事は言うまでもない。
むしろ、のめり込んでいった。
薬物中毒者が、より純度の高いものを次々と求めるように。
初めは下着を見ながらの行為だったが、そのうち下着で分身を包んだまましごくやり方を覚え、最終的には包んだ下着へそのまま放出するようにまでに。
下着で包み、そこへ出す事で沸き起こる "母さんを汚している" という黒い感情。
それが背徳感を後押しし、快感を高めるという悪循環。
でも俺は止められない。
母さんの "中" に出している、そんな歪んだ擬似感覚に抗えなかった。
実際に出来る訳がない、ならばせめて妄想の中で果たしてしまおうという、その甘美な誘惑から逃れられないほどハマッてた。
下着に直接ぶちまけるようになってからは、ある程度日を置いてやるようしていた。
楽しみを先送りにして行為時の喜びを増すためと、やはり怪しまれないためだ。
使用後に放出したものを拭いとり、一応キレイになってるのを確認して元の場所へと戻すのだけれど、寝ている間に自分のパンツの中にぶちまけた過去の経験から、拭い取ったりしただけでは元の状態にはならない事を知っていたので、なるだけ戻す際はまだ湿り気を帯びている洗濯物、それこそバスタオルなんかに紛れるようにしていた。
毎日洗濯をしている母さんが、自身の汚れ物の些細な変化に気がつくかも知れない事を心配しての小細工である。
目先を反らすようなつまらない手だけれど、それで大丈夫だと、なぜか思い込んでた。
母さんから洗濯物について何も問われたりしていなかった事も、その根拠の無い自信を支えてた。
"気づいていた事を告げられていないだけ" その可能性を考えもせずに。
状況が変わったのは俺の迂闊さから。
夏休みを間近にしたその夜は、一週間という青い性の真っ只中な中学生にとっては長い禁欲期間を置いてからの行為だったため、昂ぶりすぎた俺は事を終えた後、その満足感から後始末を忘れたまま寝付き、おまけに翌朝寝坊をし、遅刻しそうな事に慌て、使用済みのものをそのままにしていた事にも気がつかないで、何もかもほったらかしのまま登校して行ったのである。
夏休みへのカウントダウンのような半日授業も無事終えて、学校での友人たちとバカで楽しい時間を思い出しながら、まだ高い陽を仰ぎ、今日も暑いなぁとか思いつつ、一時間強の道のりを帰宅する俺。
納屋を改装したガレージへと自転車を納める際、自家用車の不在で父さんがまだ大学なのが知れた。
いつものように玄関を開け、ただいまを言おうとした時、それよりも早く、
「お帰りなさい、
上がりかまちで待ち構えていたましろ母さんの出迎えの声がした。
涼しげな麻のチュニックシャツに膝丈のジャージスカートといった普段着姿で立っているだけなのに、なんかとんでもないプレッシャーを感じて、今くぐったばかりの玄関を引き返したくなったが何とか堪え、
「た、ただいま……」
と、帰宅の挨拶を返した。
それにやんわりと頷く事で応えたましろ母さんは、穏やかな笑顔なのに笑っていない瞳を向けてくると、
「――お話がありますから、着替えが済みましたら私の部屋まで来て下さい。いいですね?」
有無を言わせない口調でそう言うと、身を返して自室の方へと消えた。
普段の朗らかなましろ母さんからは考えられない圧迫感に気圧されて、玄関に立ち尽くしたままの俺。ハッと我に返り、待たせたりしたらそれこそなんかやばいと判断して、早足で自室へと向かう。
部屋に戻ると何か違和感のようなものを感じたのだが、そんな事に構っちゃいられないと慌ただしく制服を脱ぎ、寝巻き兼用のルームウェア、ドライ素材のシャツとハーフパンツへと着替え、母さんの部屋へと足を運ぶ。
この時、俺にもう少し落ち着きがあれば、部屋から受けた違和感の正体を察する事が出来ていただろう。
朝、寝坊した事に慌て、散らかしたままだった部屋が
そして何より、この部屋に