薄手の麻のシャツと下着越しに、ましろ母さんの程よい大きさの柔らかな胸の感触が伝わり、俺の心を掻き乱す。
けれど、気分良さ気な母さんを突き放す事も出来ず、好きにさせといた。
ゆっくりと高まる下半身の熱は気になるが、今はこのまま。バレたら、そん時はそん時の事、なるようになれ、だ。
……そう思いつつ、予防策としてひざの上に置いていた手の平を、股間に持っていき隠そうとする姑息な俺である。
だけど、
「……いつまでそうしてる気?」
抱き付かれてからしばらく経ったのに、いまだ俺を放そうとしない母さんに呆れを含ませた声で言ってみるが、
「えー、甘えさせてくれるんですよね、
嬉しさで弾んだ口調で母さんはこう返してきた。
言ってしまった手前我慢しようとも思ったが、さすがにイラッときたので実力で排除してやろうと腕を上げかける。が、
「……長い事優介くんにこういう事出来なかったですからねー。その分堪能しているんです」
しみじみって感じでこぼした母さんの言葉で止まる。
十歳のあの夏の日以降、ベタベタされるのをなんとなく避けていた事もあって、母さんの俺への肉体的接触、いわゆるスキンシップは激減し、中学に入る頃にはすっかり無くなっていた。
「本当はいつだってこんな風に優介くんに触れていたかったんですよ。でも優介くんに避けられるのは嫌だったから、ずっと我慢してたんです……」
ぐっ、そんな風に言われては強制排除なんて出来やしないじゃないか。
「だから……もう少しだけでいいです。こうさせてて下さいね」
そう言って、さらに身体を密着させ深く抱え込み、俺を腕の中に包む。母さんが俺の頭へ頬を擦り付けてくるのがわかる。
「あぁ、優介くんの匂いだぁ……」
嬉しげに、そして切なげにこぼれる母さんの吐息。そいつが俺の肌に触れ、こもる暖かさが本能に刺激を与えてくる。プラス、増した肌の接触面から伝わる母さんの柔らかさと温もりがそれに輪を掛ける。
意図せず臨戦形態へと移行していく下半身。警戒警報が頭の中に鳴り響く。
限界になりかけているのを悟った俺は、母さんを引き剥がすのではなく、畳に押し付けた腕の力で踏ん張る事で自分の体を後ろへずらし、母さんの抱擁の呪縛を破ると、存在をアピールしている下半身の変化を見られぬようにすぐさま背を向け、
「も、もうおしまいっ、本日のサービスタイム終了っ」
と、少しつっけんどんな言い方をする事でその場を収めようとした。
こういう言い方と態度で突き放せば、"えー、もっといいじゃないですかー、優介くんのケチー" とか言いながら、でも母さんは諦めるはず、そう読んでいた。
「う~、もう少しさせてくれてもいいじゃないですかー。ケチですよ優介くん。私、そんな子に育てた覚えありませんよー」
……予想よりも愚痴愚痴言ってるが、俺から離れていく気配を確かに感じた。よしよし作戦成功ーっ。
「じゃ、じゃあ、俺はもう部屋に戻るから」
そう言って背を向けたまま立ち、さっさと母さんの部屋から退却しようとしたのだが、
「あ、優介くん、これはどうします?」
と、何気ない口調で呼び止められ、
「え、なに?」
その何気なさに無造作に振り返ってしまう。
「用意していた下……」
片手に、俺にくれようとしていたあのピンクの下着を手にしたまま、母さんの言葉と動きが止まり、視線がある場所へと集中しているのがわかった。
ましろ母さんが見詰めていたのはハーフパンツに見事なテントを設営している俺の下半身。
「――ぁ、……」
さっと赤面した母さんから小さくこぼれた言葉に俺は即応し、
「う、わわわぁっ○×△」
と、何か意味不明な言葉を発しながら母さんの部屋を飛び出し、ドタドタと廊下を全速力で自室へと戻っていった。
自室へ飛び込んだ俺は、扉を閉めると押入れからタオルケットを取り出し部屋の隅に陣取ると、それに包まってもがき出す。
しくじった、しくじった、しくじったーーーーーーーっ。
さすがにピントのズレたましろ母さんでも、俺がどういう状態だったかわかったはずだ。
状況が状況だったからって、あんな風になっちまったら、さすがに言い訳出来ない。
母親の下着使ってオナってたのを知られたうえに、その当人に抱きかかえられて勃起させるなんて、どう言い繕っても危ない性癖持った変質者。
おまわりさんコイツです、だーっ。
いくら母さんが大らかだといってもこれは退くだろう。いや退かない方がおかしいって。
あ~どうやってこれから顔合わしていきゃいいんだよ……。これがひとつ屋根の下で暮らしてる家族をオカズにした罰ですか、そうですかーっ。
――などと、俺がタオルケットに包まったまま悶々としていると、
「……優介くん、ましろです。入りますね」
そう言って母さんが、俺の返事も待たずに部屋に入ってくる。
扉が閉じられる音がして、それから母さんが近付いてくる気配を感じた。
俺のすぐ後ろまで来たと思ったら、タオルケット越しに肩へとそっと手が触れてくる。
ビクリと身体を震わせた俺へとかかる、柔らかく優しい声。
「……私は気にしていませんよ。男の子が変な気分になっちゃうとあんな風になる事はわかっていますし、……こんな事言ったらおかしいのかも知れませんけど……」
言葉が途切れると、肩から手が離れ背中にトンと何かが当たる。
そのかかる重さから、頭。おそらく額を当てているのだろうと察した時、
「嬉しかったんです。五年前と同じように私で優介くんがそうなってくれた事が……」
どこかためらいがちに、声を潜めてましろ母さんはそう言った。
「変、ですよね。息子が母親で興奮した事を喜ぶなんて……。でも、私、素直に嬉しかったんです」
そう母さんが言い終えると、ピンポイントにかかっていた背への重みがなくなり、
「だから、逃げなくてもいいんです。私は絶対に優介くんを嫌ったりしませんから――」
その言葉とともに背中いっぱいにかかってくる柔らかな重さ、母さんが俺を背中から抱き締めている事がわかる。
「避けられたりしたら、淋しくて私、泣いちゃいますよ?」
少しだけおどけたような口調とは裏腹な、俺の事を思いやる母さんの気持ちが胸に沁み、背中の温もりに涙がこぼれる。
母さんは俺を避けたりしない、だから俺にも逃げないでくれと。ただそう願っている事が、包み込まれた身体に温かさとして伝わってくる。
なら、俺のするべき事はひとつ。
こぶしで目の辺りを拭う。タオルケットの内側から、体の前に重ねられた母さんの腕にそっと触れ、抱擁を解く事を求める。
すぐに察してくれた母さんが俺から離れると、俺はタオルケットから抜け出し、母さんに向き直り、頭を下げた。
「逃げちゃってごめん。恥ずかしかったんだ、俺。母さんであんな風になったとこを、母さんに知られるの、見られるのが。だから逃げ出した。ごめんなさいっ」
母さんがそうしたように、素直な気持ちを伝える。逃げだした理由を、謝罪を。
下げていた頭が軽く叩かれた感触を受ける。顔を上げると、はにかんだ母さんの顔と、こちらに向けた右手の手の平が見えた。
「ごめんなさいがよく言えました。――うん、やっぱり、優介くんは私自慢の息子です」
そう言って、叩いた手で今度は俺の頭をよしよしと撫でてくる。
そんな子供扱いが、
座ったまま向かい合い、苦笑いしてる俺と、くすぐったそうな笑みを浮かべたましろ母さん。
ふと母さんが視線を動かし、すぐに戻してから躊躇いがちに告げてくる。
「その……優介くん、元気なままですね」
言われて俺も視線を落とし、我が分身の状態を確かめた。
逃げ出した時に萎えてしまったと思ったけれど、さっきの母さんとのやり取りで復活してやがった。
なんと言う節操なし。
しかも、逃げ出した時よりも力強くハーフパンツを突き上げていた。
「……あ~」
状況を読んでくれない分身に嘆く俺に、母さんが興味深げに訊いてくる。
「……男の人って、そうなっちゃったら、スッキリさせた方がいいんですよね?」
頬を染めつつも、視線はチラチラ俺の股間に断続的に向けられてた。
「――あ、うん。……まぁ、ね」
やっぱりハッキリ言うのには多少なりとも照れがあるので、口ごもりながら答えると、
「これ、使いますか?」
言いながら母さんがピンク色した布地を差し出してくる。
俺にくれようとしていたあの下着だ。わざわざ持ってきていたのか。
でも、"使いますか?" って……。いや、その、なんていうか、母さんの出来すぎた気遣いに苦笑いしか浮かばない。
しかし下半身の状況が状況なんで、早めに母さん言うとこの "スッキリさせた方が良い" かと思い、それを受け取ろうとして、ふと良からぬ考えが浮かんだ。
ましろ母さん的には受け入れ難い提案だろう。けど、俺に徹底的に甘い母さんである、そこら辺りを突くような形でお願いしたら、もしかして……。
「――優介くん?」
いぶかしげに母さんが声を掛けてくる。
邪な思考にふけていた俺はその声に呼び戻され、目の前の母さんへと視線と意識を向けなおす。
小首を傾げ少女のように頬を染めながら、手には下着いったアンバランスさ。その存在が心を更に邪な方へと傾ける。
俺の中に住んでいる
「か、母さん」
しかしいざ行動に移そうとすると緊張から、上ずった声で呼びかけてしまう。
「ん、なんですか?」
これから俺が何を言い出すのかを想像もしていないだろう母さんは、はにかみ気味の笑みで応える。
その笑顔に気持ちが折れかけるが、快楽を望む心がそれを押し留め、俺に勇気、いや蛮勇を与え禁断の言葉を口にさせた。
「俺、今母さんが穿いているやつが欲しい」
当然のように母さんは驚きの表情となり、拒む言葉を紡ごうと口を開きかけるが、それよりも早く畳み掛けるように、
「汚れ物を見られたくないって母さんの気持ちはわかってる。わかっているけど、俺は今母さんが身に着けているものが欲しい。するのなら母さんの温もりが残っているので、したい」
母さんの目をしっかりと見詰めながら、それを望んでいる事を強い口調で言い切り、そして、
「……お願い、母さん……。ダメ?」
訴えかけるような、少し甘えを含んだ声で、真摯な視線を向けたまま母さんに迫った。
ましろ母さんに落ち着きがなくなり、小さく身体を震わせ、視線をあちらこちらへと動かす。
俺はそんな母さんを見詰めたままじっと待つ。
下を向いた母さんの肩から力が抜け、真っ赤になってる顔をそおっと上げながら、上目遣いで俺に告げる。
「……今回だけ、ですよ……。これが最後にしてくれます、よね……?」
帰ってきた言葉に俺は自分でもわかるほど顔を輝かせ、いっぱいの感謝を言葉と行動で表わす。
「約束するっ。ありがと母さんっ、大好きだ!」
我ながら現金だなぁとか思いつつそう言って、俺は目の前の、これから自分がしてしまう行為を想像してか羞恥の色に染まる、ましろ母さんを思い切り抱きしめた。
俺がこんな風に母さんに抱きついたのは初めての事で、それだけに母さんは突然の喜びと訪れる羞恥との間で葛藤しつつ、俺を優しく抱き返すと、
「……私の事甘過ぎるって言いましたけど、優介くんはそれ以上に甘え上手過ぎますよ……。そんな事言われて、こんな風にされたら、私、優介くんの言う事、なんだって聞いてあげてしまいそうです……」
こんな風に例えてよいのか難しいが、乙女のように恥じらいながら俺の耳元で、消え入りそうな語尾でそんな事を言う母さん。
声音の中には、諦念や困惑、自嘲とかいろんな感情が混ざっていたけど、強く感じたのは母親としての、揺ぎ無い与える愛情だった。
それを感じ取れた俺はおんなじように耳元で、気持ちをこめて囁き返す。さっきの言葉をもう一度。
「……ありがと母さん。大好きだよ」
母さんが俺を抱く手にギュっと力がこもり、
「……私も同じですよ。大好きです優介くん」
そう返された。
次回へ続く。