畳の上に敷いたタオルケットに座り、俺は視線の少し先に立つましろ母さんを見詰めていた。
身体を縮こめてモジモジしていた母さんだけど、見詰める俺と視線が合うと意を決したのか、目を閉じ溜めていた息を吐き出し、軽い前屈姿勢をとるとスカートを後ろへまくり、こちらからは見えない角度で下着に手をかける。
下ろしかけようとした手がなぜか止まり、それから閉じてた目を開いて俺の方を見て、
「……あの、ですね。思ってたよりもっと恥ずかしい事になっちゃってて……それでもいいですか?」
と、赤くなってた顔をさらに羞恥に染めながら告げてくる。
言ってる意味がよくわからなかったが、母さんが恥ずかしがる事なら俺的には大歓迎。
そんな気持ちを顔には出さないで、了承の意味をこめて頷く。
俺の返事に母さんは覚悟を決めたように下着を下ろすと、そろりそろりと片足ずつ抜いて、完全に脱ぎ終えたそれを手の中に隠すように包み、おずおずと俺へと差し出してくる。
「
手渡される
「じゃ、じゃあ、私は部屋に戻りますね」
下着を着けていない不安からだろう、スカートを押さえてそう言い、俺の方を向いたまま、そろりそろりとした後ろ歩きで部屋から出て行こうとする母さん。
その姿がなんかとても可愛らしくて、もう少しだけからかってやれって湧いた悪戯心から、
「なんなら見てってもいいよ、俺のするとこ」
と、なんでもない事のように笑顔で言ってみる。
扉の前でやっとこちらへ背を向けたましろ母さんはビクリと身体を固め、そっと俺の方を見返してきたけれど、
「そ、そこまでは出来ませんっ。独りで楽しんで下さいっ」
なにかの誘惑を断ち切るかのように頭をプルプルと振ってからそう言うと、扉を開け、廊下へと足を踏み出す。
去ろうとしていく母さんの背へ、
「母さん、ホントにありがと」
改めて感謝の言葉を投げかける。鴨居を潜ったところで止まった母さんは振り返りもせず、
「……優介くんは、ホント、ずるい子です」
ちょっとだけ悔しげな拗ねたような感じでそう言って、後ろ手で静かに扉を閉じた。それからパタパタとした足音が聞こえ、母さんが去っていくのがわかった。
ましろ母さんが部屋から出て行ってしばらくしてから、俺はハーフパンツと下着をまとめて脱ぎ捨て、行為に備える。
臨界いっぱいの分身はギンギンに漲り、明らかに普段よりも太く長かった。
鈴口から既にこぼれてる先走りを、手のひらを使い先端から竿全体に塗りつけ、これからの準備を終える。
俺は左手の中にあるものへと意識をうつし、それがまだ温かい事を確認して、ゆっくりと両手に持って広げた。
「あっ……」
裏地を覗くと、中心部付近にうっすらとだが真新しい染みが広がっていて、母さんが言っていた "もっと恥ずかしい事" の意味がわかった。
ゴクリ、と自然に俺の喉が鳴る。
「……母さん、濡らしてたんだ……」
中学からの友人たちに教わった性知識から、女の人もそういう気分になると濡れるというのを知ってはいた。
けど、その現物を、しかもましろ母さんので拝む事が出来るなんて……。
感激から一気にエロメーターが跳ね上がった俺は、これまで決してやらなかった行為を躊躇する事なくはじめた。
下着に顔を埋め、まだ消えていない匂いと湿りを堪能し、股座の染みに舌を這わせ母さんを味わう。
左手に下着を持ち、それを顔に当て、右手は逸物を刺激しまくる。
「母さんっ、ハァハァ……母さんっっ」
ましろ母さんの名を呼びながら、分身をしごく。
溢れる先走りが滑りをよくする事ではかどる上下運動が与える快感が増していく。
既に散々焦らした状態でいたために限界は近い。
漲る分身をいつものように母さんの下着で包み込み、フィニッシュに向かってラストスパートをかける。
「ハァ、ハァ、ハァッ、いいよっ母さんっ、気持ち、いいっ……、ウウッ」
分身を包む布を激しく上下させる。
俺の先走りと母さんのこぼした沁みが、絡み交じり合っていく幻想が浮かぶ。
ありえない事だけど、それはまるで俺が
ピークを察した俺はいっそうの力をこめ右手のスナップのスピードを上げると、思いの丈を叫びながらその時を迎える。
「母さんっ、母さんっ! 出すよっ、中にっ! 母さんの中に、出すよっ! ――うっ!!」
ビッグバン。
溜め込んでいたものが一気に放たれ、その射精感に腰から下が溶けてしまったような、あの感覚を得る。
包み込んでいた下着の隙間から、ドロドロの白濁液があふれこぼれる。
ひざ立ちになっていた俺は脱力して腰を落とし、ゆっくりとタオルケットの上に背中から倒れこんで荒い息で喘ぐ。
――とんでもない気持ち良さだった。
ひとりでは絶対得られなかった快感。母さんの贈り物がなかったら、とてもこんなに気持ち良くなれなかっただろう。
母さん様々だ。……あとでまたお礼言っとこ。言ったら言ったで、きっと真っ赤な顔して恥ずかしがるんだろうな~。
――でも、その恥ずかしがる顔が見たい。
きっとこれが好きな相手への好意を、意地悪する事でしか表わせないという、いじめっ子独特の心境なんだろう。
……って、小学生か俺は。
鼓動と呼吸が落ち着いたら後片付けだ。
体を起こしてから、ティッシュを数枚取り出し右手を拭う。放出した大半は下着の方へ付着していたが、それでもかなりの量がべっとりと付いていた。
次に股間の逸物に纏わせてるブツだけど、俺の体液でドロドロのそれはティッシュで拭ったくらいではどうにもなりそうに無かった。
ベトベトの下着をそのままにしておくのもなんだし、かと言ってティッシュを何枚か敷いた程度では役に立ちそうにもない。
何かないかなと周りを見ると、脱ぎ捨てたハーフパンツが目に留まる。それを手にすると内側の下着を取り出す。
どうせ風呂に入る時に着替えるのだ。今ここで替えてもいいだろうと考えて、俺のパンツを敷物代わりにして、体液まみれの母さんの下着をその上に置く。
下着同士が重なってるのがなんかやらしく見えたけど、そういう考えはとりあえず頭からほおっとく。
また数枚ティッシュを取り今度は分身を拭う。拭った際に粘りの強い体液で細かく千切れたティッシュのカケラが分身にまばらにへばり付いたが、これも風呂に入った時にキレイにするので気にしない。
しかし、今後の事を考えるとウェットティッシュも常備しといた方がいいかなぁ、なんて考える。
母さんの部屋にも置いてあったし、あって困るものじゃないし、買い置きとかがあるのなら貰っとこう。
放出したと言うのに多少柔らかくなっただけで、まだ大きいままの股間をとりあえずキレイにし終え、替えのパンツを出そうと収めてあるタンスへ向かうべく腰を上げた時、
「……あのー、優介くん、もう、いいですか?」
と、扉の向こうから物凄く遠慮がちに声が掛けられた。声の主は言わずもがなましろ母さん。
「あー、ちょっ、ちょっと待ってっ」
予期せぬ再訪に慌てた俺は替えのパンツは一端諦め、ハーフバンツを直接穿くとバタバタしながら出入り口へと向かい、
「ど、どしたの、母さん?」
そう言って扉を開けた。
扉のすぐ向こうにいた母さんは赤い顔をしてて、俺と視線が合うとそっと逸らし、もじもじしながら、
「よ、汚れ物を取りに来ました……」
そう言って差し出してきた右手には例のレジ袋。ただし今度は空だ。
さすがは母さんだ気が回る。感心しながらそれを受け取った俺は振り返り、タオルケットを敷いたところまで戻ると、先程の白濁液まみれの下着を袋に入れ、母さんのところへ引き返し、
「助かったよ母さん、拭う程度じゃどうにもなりそうも無いから、風呂場で洗おうかって思ってたんだ、ホント助かった」
照れを誤魔化すように明るい口調で言いながら、体液で幾らか重みの増した下着入りのレジ袋を母さんに渡す。
受け取る際も母さんは視線を合わそうとせず、手にした袋の中をチラリと覗き見して「……こんなに」って小声で呟いたのが、耳に残った。
目的の物を受け取ったにも拘らわず、その場を動こうとしないましろ母さんに、まだ何かあるのだろうかと、尋ねようとする。
「母さ」
「あ、あのっ」
が、ほぼ同じタイミングで声を上げた母さんの声量が勝り、勢い負けした俺は口を閉じ、母さんの次の言葉を待つ。
「声はですねっ、お、抑えた方がっ、い、いいと思いますよっ。いや、で、出ちゃうのはわかります、
あわあわとした口調でまくし立てる母さん。さらっと流れた言葉の中にとても気になるものがあったりしたのだが、告げられた事実に固まる俺。
聞こえてましたか、筒向けでしたか、そうですか。
日本家屋に鉄筋コンクリマンション並みの遮音性を求めるのは間違いですか?
いつもならば深夜の行為、状況から必然的に声は出さないし、そもそも具体的な言葉になんかにしない。
だのに、さっきは母さん承認の行為に舞い上がってた。
つい開放的になって、あげるはずのない声を、言葉を発してしまっていた。
しかも、よりによって、"母さん" を連呼し、挙句 "中に出す" とか、最低最悪だー。
嫌な汗を流し硬直してる俺に、わたわたした状態から落ち着きを取り戻した母さんが、おずおずと問うてくる。
「……優介くんは、私の中に出した……いえ、私と
ど直球。人類最速のチャップマンの剛速球並みだ。
上目使いで俺を見るその視線に込められた意思は、誤魔化しを求めていない。ましろ母さんは本気で訊いてきている。
寸時の沈黙。
俺は考える。想像はしてた、下着を代用として、中に入れ、出す事を。
けれどそれは場の高揚感を増すための、いわば刺激を与えるためのギミックだ。
本気でそんな事を、そうなる事を望んでいたのか?
義理とはいえ、母親と呼ぶこの人と、本気でそういう関係になる事を、俺は願っていたのか?
正直、性欲に駆り立てられていることを否定しない。でも、情欲だけじゃない。
ましろ母さんを母親としてではなく、ひとりの女の人として好きだって気持ちは嘘じゃない。
心に素直に向き合えば、答えは自ずと出て来て――。
「――し、ぐっ」
湧き上がってきた答えを口に出そうとした瞬間、普段からは想像出来ない俊敏さで、母さんが俺の口を手で塞ぐ。
そしてそのまま部屋の中へと押し込まれ、勢いで互いに倒れこむ。
仰向けになった俺の上で馬乗りになったましろ母さんが言う。
「――それは、口にしちゃいけません」
その言葉に対して自分の気持ちを伝えようとする俺の口を塞ぎ直し、母さんが続けた。
「……後妻だから、け、継母だから。元から他人だから、
搾り出すような母さんの言葉に、俺は起き上がろうとする気持ちを抑え、そのまま聞き続ける。
「もしも、そんな事になれば、私たちはもう家族でいられない、ただの男と女でしかなくなります。私は先生を裏切る事になり、ここに居る資格を失って出て行く事になるでしょう。そうなった時、優介くんは何が出来ますか?」
怖いほどの強い眼差しで真っ直ぐ俺を見詰め、問うてくる母さん。
「私がこの家を出て行く事の責任を取りますか? まだ中学生の優介くんが、どうやって? 家を出て、私とふたりで生きてゆくんですか? 働く? 学校を辞めて? そんな事、出来っこありません。あなたはまだ大人に庇護される存在でしかないんですから。軽はずみな事は考えないでっ」
そこまで強い口調で一気に言い終えると、ふっと力を抜いた母さんは俺の口を塞いでいた手をゆっくりと外し、その手で俺の顔を頬を優しく撫でながら、
「――思うのは構いません、気持ちを抱くのも。でも、それを伝えたら、形にしちゃダメなんです。私は優介くんの事大好きですから、女として求められているの――照れくさくて恥ずかしいですけど、正直嬉しいです。……母親がこんな事言うなんてダメなんですけどね」
先程までの厳しさはなくなり、いつもの柔らかさでとつとつと語るましろ母さん。
「でも、やっぱり私は優介くんの
俺の両頬に手を添えたまま、目を閉じて顔を近づけ、額と額をあわせると、
「私は、先生と優介くんと、ずっとずっと家族であり続けたいですから……」
願うかのように静かに告げる。
その気持ちは俺にも確かに伝わってきて、俺としても二度も母親を失うのは嫌だったので、母さんの願いを受け入れたいって思った。
けれど、一度ハッキリさせてしまった感情は行き所を求め、やるせない気持ちを母さんを抱きしめると言う行動で示してしまう。
「あっ……」
腰を抱きかかえられた母さんが声を漏らす。
額を合わせたまま見詰めあう俺と母さん。視線には今の行為を咎める色が見えた。
離したくないという気持ちを抱きかかえる腕の力で、募る心を母さんの尻が乗った下半身を動かす事で伝える。
「……母さん」
眼差しに想いを込めて訴える、これで、
腹の上に乗る母さんの温もりと柔らかさ、想いの高まりで分身が硬さを取り戻しだす。
この昂ぶりが自分の気持ちだと伝えるように、母さんの尻をこするように腰を擦り付ける俺。
「あっ」
突然の行為に、反射的にお尻を浮かせる母さん。頬を赤らめたまま悪戯をする子供を叱る顔つきで俺を見据え、
「オイタが過ぎますよ、優介くんっ」
言うなり、まだ手を添えてあったままだった両頬を思い切りつねられた。
「てーッ」
両の頬に走る痛みに思わず腕の拘束を緩めてしまう。
その機会を逃さずするりと抜け出し、俺の上から降り横に座り込む母さん。
「つつ、ひどいよ母さん」
つねられた頬を手でさすりながら、体を起こす俺。
「言う事を聞かない子には罰を与えませんとね。――聞き分けのない子は嫌いですよ?」
文句を言う俺に、怒った顔をして嗜めてくる母さん。
互いの頬は赤く染まったまま。俺はつねられたせいで、母さんはおそらく羞恥から。
不機嫌そうなにらみ合いがしばらくの間続き、それから――。
「――ハハッ」
「――フフッ」
どちらともなく笑い出し、続くお互いの笑い声が重なり、場の緊張が解けた。
ひとしきり笑い終えて、改めて向かい合う俺とましろ母さん。
「――やっぱり、私としたいって気持ち、諦められませんか?」
綻んでいた顔を引き締め、少しだけ悲しそうな色を湛えた瞳で言う母さん。
「……正直、したくないって言うとウソになる」
母さんにそんな瞳をさせたくはないけれど、自分の気持ちを偽りたくなかった。
けれど、俺の邪な感情が母さんを苦しめる事になり、俺たちを家族でいられなくさせるのなら、そんな感情は押し殺せ。
「――でも、母さんがいなくなるは嫌だから、諦めるようにする」
何よりもましろ母さんを失うような事になるのは絶対に嫌なので、自分の欲望は二の次。
決め顔で宣言する俺を見て、ましろ母さんの相好が崩れ、瞳からあの悲しい色は消えた。
「ついさっき、大きくしたもので私のお尻つついてた人が何カッコつけてるんですか」
その代わりに、さらりとひどい言葉を投げつけてくる。
「優介くんはけっこう意志弱いですからね。そんな事言っていつまで持つのやら」
らしからぬ冷ややかな眼差しを向けて言う母さん。
反論したかったが、よく考えたら言われてる通りなので、何も言い返せず、
「ぐぬぬ」
と呻くのが精一杯だった。な、情けない。
「――プッ」
そんな俺の様を見て笑う母さん。俺はそんな母さんの笑う姿につられて笑うと、
「うん、やっぱ母さんは笑ってる方がいいや。俺そっちの顔の方が好きだ」
ポロリと思ったままの事を口にする。
「な、何を言ってるんですか優介くんはっ。もうっ、恥ずかしいですねっ」
ポンッと効果音付きで顔を一瞬に赤く染めた母さんが、照れながらそんな文句を返してくる。
またお互いに笑いあい、それも収まったあと、何かを決めたように一度頷いてから、ましろ母さんは俺をしっかりと見据えて、
「優介くん、改めてお話があります」
そう切り出してきた。
「今日のましろくん、いつもよりご機嫌だが……優介、お前何かしてあげたのか?」
その日の夕食後。居間で食後のお茶でくつろいでいた父さんが、続き間の台所で洗い物をしているましろ母さんを見やったあと、俺にそう振ってきた。
「……なんで母さんの機嫌の事で俺に訊くの?」
見ていたテレビから顔を父さんへと向けなおしながらそう言い返すと、
「ましろくんの機嫌の上下は大体お前の態度なんかで決まる。良さそうならお前が彼女にとって良い事をした。つまり、そう言う事だ」
なんでもないって感じでしらっと言う父さん。いえ、その認識はあまり外れていませんけど。
「で、どうなんだ?」
「……あまりひどくなきゃ、昔みたいに構ってもいいって言っただけだよ。あと、嫌ったり避けたりはしないって」
父さんの静かだか逃げる事を許さない追求に、昼間のやり取りの
「――そうか。良い事をしたな。ましろくん、お前に構えなくて淋しくしていたからね」
俺の証言に、父さんは頷きながら細面の厳つい顔を綻ばせて微笑みを浮かべる。
「お前の世話を焼く事がましろくんの生き甲斐だからね。しっかり焼かせて上げなさい」
笑顔のまま俺を見据え、念を入れるかのようにそう告げる父さん。
「あー、もう諦めたから。好きにさせますよ」
仕方ないなぁって感じで言い返す俺に満足そうに頷くと、
「ときに優介。お前、先はどうする?」
「先?」
父さんの唐突な問いかけに、疑問形で返してしまう俺。
「中三のお前に先と言えば高校受験だが? ……二学期になればすぐに進路の懇談があるだろう? 夏休みの間に将来どんな道に進むつもりなのかをよく考えて志望校を決めなさい。どんな進路を選ぶとしても、私は口は挟まん。お前の希望を尊重するよ」
近いうちに話をしときたいと思っていた受験の事を、今日のこの時に父さんから切り出されるなんて、思っても見なかった。
ふむ、進路かー。先って事は高校の、さらにその先もって意味なんだろうな。
自分がどんな道を進むか、か。結構重要な事だけど、いいのかな、俺がひとりで勝手に決めても? 普通は親と話し合ったりするよなー。
そんな気持ちからか、ちょっとだけ非難がましい口調で、
「なんか投げっぱなしだよね。元・教師がそれでいいのぉ?」
と、父さんに絡んでみるが、
「なんだかんだ言っても、突き詰めれば当人の決断に帰結する。教師なぞ、多少手を貸す程度の存在だ」
「そんなもん?」
「そんなものだ。……ま、良く考えなさい」
さらりとした口調で俺とのやり取りをそう言って切り上げると、お茶を飲み干した父さんは立ち上がり、台所の母さんに一声掛けてから、居間を後にし自室へと戻っていった。
廊下を行く父さんの足音が小さくなっていくのを耳で追いつつ、先程の言葉を反芻する。
ようは自分の進む道は自分で決めろって事なんだよな。
教師や親が道を選ぶ手助けは出来ても、実際にそこを行くのは当人だから、あまり当てにしちゃダメって訳ね。
こんな些細なやり取りからでも、父さんが信頼される教師だった事が想像出来た。
死んだ
夫婦の欲目でそう言ってる気もしてたけど、そういうの抜きだったんだろうなって、なんとなくだけど今はわかる。
「先生と、何お話してたんですか?」
洗い物を終えたましろ母さんが居間に入り、そう言いながら腰を下ろしてちゃぶ台につく。
これまた今更だけど、うちの
淑恵母さんは昔教わっていた立場なのでわかるが、ましろ母さんがそう呼ぶ理由は不明のままだ。
「んー、母さんの機嫌が良い理由と、あと進路の事。――はい」
母さんの湯飲みにお茶を注ぎ、それを渡しながら先の父さんとの会話の内容を伝える俺。
「ありがとうございます。……先生からも出ましたか進路の事」
"先生からも" と言うように、母さんとも昼間少しこの話をしていた。
俺から受け取ったお茶を啜り、一息ついて、
「……夏休みは、遊んでばかりじゃいられませんね?」
少しだけ色気を含んだ流し目で俺を見やり、からかうように告げてくるましろ母さん。
何か言い返そうとしたけど、上手い言葉が浮かばない俺。
そんな俺を見てクスクスと笑う母さん。
「――でも、楽しみだよっ」
悔し紛れにそれだけ言い捨てた。
母さんはまだ笑ってた。
一学期の終業式。例の従姉妹下着が顔を腫らして登校して来た。
理由を聞けば、下着を拝借していた事が家族にバレたそうな。
父親は怒り拳を振るい、母親は嘆き、妹――居たのか!――は蔑み、けっこうな修羅場だったらしい。
が、意外なところから助けが現れた。
なんと、被害者その人である従姉妹さんが救いの手を差し伸べてくれたそうだ。
「この年頃の子ってこういう事しちゃうものですよ。あたし気にしませんから、許してあげて下さい、叔父さん」
こんな事を言って、取り成してくれたのだとか。
まぁ、さすがにもうやらないようにと約束させられたそうだが。
「厳しく咎めない辺り、
庇ってくれた際、なにやら甘い言葉を貰ったようで、変なスイッチが入ってしまった従姉妹下着は、
「夏休み明け、大人になった俺に期待してくれよなっ」
脱DTを高らかに唱え、腫らした顔でにやけながら大いに笑っていた。
友人たちの一部は羨望の眼差しを向け、また一部は冷ややかな目で突き放す。
俺はどこかシンパシーを感じて、こっそり心の中で応援していた。
頑張れよって。
夏休みが来る。期待と欲望を備えた夏が。
次回へ続く。