七 約束
俺が自分の気持ち、というか抱えていた願望をさらけ出したあの日、ましろ母さんは言った。
「
どういう意味なのかと、視線で問い返すと、
「私と、どうありたいか、です」
母さんはこんな風に質問を質問で返してきた。
いや、だから、問いかけが抽象的過ぎるんですけども?
どう答えればいいものかと、考える俺に、
「……つまり、ですね、えぇっと……」
仕方なく解を告げようとしてくるが、なんとなく切り出しにくそうに言葉を濁し、それからすっと息を溜めてから、
「わ、私と、その、エッチな事、したいですか?」
上目使いで顔を赤くしながら吐き出すように母さんが言った。
言い淀んでいたのはあからさまな言葉があるためか。
さっきとは違って、あまりに直接的に訊かれたため、とっさに言葉を返せないでいると、
「……優介くんは私に肉欲を求めてます。けど、私は母親で在りたい。ですから優介くんが本当にしたいって思っている事をさせてあげる事は出来ません。……だけど、優介くんが望んでいる事には、応えてあげたいって気持ちもあります」
今度は淀みなくそこまで言って言葉を切り、俺へと視線を向けなおすと、なぜかまた口ごもりだし、
「で、ですのでっ。さ、最後の一線を越えないのなら……えと、その、わ、私を好きにしてくれていいですよっ?」
つっかえ引っ掛け、言い終わる辺りでは声をひっくり返しながら、赤い顔をさらに赤くしてそう言いきった。
「……はい?」
突然すぎるその御言葉に、こんな答えしか出てこない俺である。
ビックリし過ぎた所為か、鴨がネギ背負って、ついでに卵やうどんまで用意してやってきたような、嬉しくてエロい宣言なのに、さっきまでビンビンだった下半身も萎れてしまう始末。
「……ええと母さん、自分がどんな事仰ってるのか、わかってらっしゃいます?」
ショックも収まり、ようやく動き出した頭で思わずこんな事を言ってしまう。
てか、まだ抜け切っていないのか言葉遣いが自分でも変。
そんな俺の問いに母さんは、赤い顔はしていたが至極真面目に、
「わかってます。じゃあ聞き返しますけど、優介くんは私に……エッチな事、したくないんですか?」
俺の気持ちをわかっててこんな事を言う。
うー、ずるい。卑怯にもほどがある。
そりゃしたいか、したくないかと訊かれれば、健康優良だけど母親に淫らな感情を抱いている、不健全な思春期真っ盛りの男子としては答えはひとつしかない訳で。
かと言って、それをあっさり口にするのも、なんかアレな感じで……。
と、答えあぐねてる俺をまるで気にする事もなく母さんは言葉を続け、
「私の下着を使う事も止めた上で、優介くんはひとりでする時に何か……オカズって言うんですか? それになるもの、ありますか? 私の下着以上に、今の優介くんの欲求を満たす事の出来るものが、なにか? それとも、ひとりでするのも止めちゃいますか? ……きっと出来ないですよね? 優介くんくらいの年頃の男の子が我慢する事なんて、絶対に出来ないはずですっ」
なんか、物凄くごもっともな事を語りだした。
流暢に喋るようになったのは、たぶん恥ずかしい言葉を口にする一線を飛び越えちゃったのだろう。
熱を込めてさらに続ける母さん。
「その溜めに溜め込んだ性欲を自分で鎮める事もしない、ぶつける事が出来る特定な相手もいないだろう優介くんが、膨れ上がった欲望に負けて、不特定な誰かに襲いかかりでもしたら大問題です。なら、その性衝動の防波堤には、ただひとり身近な異性である私が引き受けるしかないでしょう? ……そう、本にも書かれていました、可愛い息子の性処理は母親のもっとも大切な務めだって!」
あ、やばい。
自分の言葉に酔って、とんでもない事言い出してるよこの人。
その論理は言ってる傍から社会倫理的に破綻しているって、何で気がつかないの?
いや、まぁ、母親に淫らな感情抱えてる俺が言っても、説得力は全然無いとは思うけれどもさ。
つぅか、どっから仕入れて来たんだ、その何か斜め上な母親の在り方はっ!?
思わずそれを口にすると、
「
と返された。そのあと、"実にためになりました" なんてうんうんと頷きながら付け加えてたりする。
松木さんというのはうちから一番近いご近所さんで、この村で特に親しくさせてもらっている家である。
ここんちの農作業を母さんはよく手伝ったりする事も多いので、買い物帰りとかで前を通ったりすると、よくお茶を御呼ばれされているのである。
ついでに言うと、松木さんとこには三年ほど前に嫁入りしたミツコさんと言う、母さんよりふたつほど年上で、スラッとした体型なのに胸が大きい若奥さんがいて、歳も近いせいか気が合い、とても仲良くしているのだ。
ここの村よりは都会から嫁いで来ただけあって、いろんな意味で先に行ってる性格しているミツコさんである。おそらく母さんのこのどこか斜め上な考え方は、彼女からの影響によるものが大きいんだろうって思う。
しかしなんだよ、その女性誌は?
世の母親全部が息子の性欲、進んで受け止めているって言ってるようなもんだぞ、オイ。
事実だったら、すげぇ乱れまくってんなこの世界。
こうゆう過激な内容のを、普通に読んでる世の大人の女の人って、おっとろしいなぁ。いや、母親に(以下略)な俺が言うなだが。
「それにですね優介くん」
世の中のゆがみ具合と自分の性癖の狭間で苦悶する俺に、先とは違った方向の真面目な口振りでましろ母さんが切り出す。
「中学三年生の優介くんは二学期が来ればすぐに受験体制です。いえ、本当ならもうとっくにその時期入ってます。真面目に将来の事を考えなければいけない大切な時に、煩悩に振り回されて、それが疎かになるのは良くないと思います」
あぁ、受験かぁ……。
高校進学はいつの間にか決定事項となっているが、具体的にどこへ行くとか、そういう話は何もしていなかったし、決めてもいなかった。
自分の学力レベルなんかはなんとなく把握しているつもりだから、それに見合うところでいいかな、なんて漠然としたイメージがあるだけだったので、近いうちに父さんとも、どこに進むとかの話しとかないといけないなぁ。
うん、改めてこんな風に言われると、きちんと取り組まなくてはいけない気がしてくるから不思議だ。
――そんな気持ちになるまでのやり取りがアレなのは……、まぁ横に置いとくとして。
「ですから、この夏休みの間だけ、私の事好きにしていいです。それで発散させるだけさせて、受験へ取り組むようにしてもらいたいんです」
さっきまで斜め上を突っ走るおかしな母親観ぶちまけていた人と、同一人物とは思えないようなきりりとした趣きで話す母さんであった。
……まぁ、言ってる内容の一部が斜め上引き摺っていますが、そこは見ない振り聞こえない振り。
「……えーっと、つまり、夏の間だけ煩悩爆発させていいけど、それが過ぎたら頭切り替えて、受験に本腰入れろって事?」
とりあえずアレとかコレとかのいろんな枝葉を取り除き、要点と思えるところだけまとめて言ってみる。
「はい、そうです」
俺の言葉に、母さんは満足げに頷きながら答える。
その顔に浮かぶ笑みは、正しい答えを自分で見つけた子供に向ける慈愛に満ちていて、とことんこの人の立ち位置ってのは母親なんだなと、妙なところで感心したり。
……ちょっとばかり、いやかなり方向性には問題ある気はするけれど、そのおかげで自分の中に巣食ってる邪まな欲望が満たされるかもしれないって事を思うと、強くは突っ込めない、情けない俺である。
「……で、さ。その……どこまでしてもいいの、かな?」
好きにしてもいいとは言ってはいたが、当然限度って物はあるだろう。
最後の一線、つまりいわゆる "本番行為" は絶対禁止って事だけは強く言い聞かされているけれど、それ以外は何をして良いのか悪いのか?
俺はどこまで母さんに向けて己の獣性を開放していいのかを、おずおずと訊ねる。
アレとかソレとかの具体的な行為を言葉に出来なかったりする辺りに、自分のチキンぶりを思い知る。
この期に及んで竦むヘタレだと言いたきゃ言え、甘んじて受けてやる。……悔しいが事実だし。
「……そう、ですね。とりあえず、節度は守って欲しいと思います」
俺の問いかけに、母さんは少し考えてから答えはじめた。
「いつでもどこでも、のべつまくなしと言うのはさすがに……。それと、信頼、裏切ってますから。先生がいらっしゃる時にそういう事をするのは、心苦しいです。ですから先生が不在の時、それも絶対条件になりますね」
父さんに関する事を口にする際、俯き加減で、とても申し訳なさそうに言葉を紡ぐましろ母さん。
母親である事を強く主張するけれど、それ以前に "父さんの妻" と言う立場でもあるのだ。
継子の俺と度を越したスキンシップをしようっていうのは、たとえ最後の一線を越えなかったとしても、十分な不貞行為になるだろう。
父さんと母さんの、その、夫婦の営みってのがどうなっているのかは知らない。
けど、俺が母さんにこの先やろうとしている行為はそれに近しい事で、本来とても許される事ではない。
俺の欲望からの我がままで、結果的に父さんと母さん、ふたりの夫婦としての関係を壊してしまう事になるかも知れないのだ。
今更、本当に今更になって、父さんに対してとても申し訳ない気持ちが湧き上がってくる。
母さんとやらしい事が出来るって、浮つきだしていた気持ちが一気にしぼんでいく。
それが態度に表れていたんだろう。察したらしい母さんが優しく抱きしめてくれた。
「……
なによりも "家族" である事を大切にしてるこの人が、それを壊してでも俺の淫心を優先させようとする。
でも、それは違う、違うと思う。たとえ誘われたのだとしても、それに応えなければいいだけなのに俺は出来ず、むしろ喜んで受け入れてしまっている。
応じてしまったのに、母さんひとりを悪者になんて出来っこない。
俺は背中に回されてた優しい気持ちのこもった腕をゆるりと解き、目の前の母さんをしっかりと見詰め、
「知らない振りなんか出来ないよ。だから一緒に抱えよ? 俺と母さんの共犯って事でさ」
笑いかけながら言ってあげる。
「その方が絶対いいって。……うん、ふたりだけの秘密ってのもなかなか乙だし」
母と子で睦みあう、それはどう言い繕ったって、許されるはずのない背徳的な行いだ。
だけど俺は、過ぎた悪戯の延長、ちょっとした内緒の行為くらい、そんな軽い感覚で母さんに言う。
少しでも、優しいこの人に掛かる心の重荷を、俺が分担出来るようにと。
「……優介くん」
瞳をじわりと潤ませながら母さんが俺の名を呼ぶ。
どうやら思いは伝わってくれたみたいで、泣きかけているけど嬉しそうに母さんは顔をほころばせてた。
さっき俺の上に乗っかってたときみたいに、両手を伸ばし俺の顔をそっと優しく包んで、
「わかりました。私たち共犯ですね」
俺の頬を撫でながら、柔らかい笑みを浮かべて、そう言ってくれた。
「うん、共犯だ」
悪戯な笑顔を返しながら、俺も片手を伸ばし、母さんの頬に手のひらを添える。
あぁ、そういやこんな感じで母さんの顔に触れたのって初めてだな。
右の手のひらで触れる母さんの頬は、柔らかくて、なんか剥きたてのゆでたまごを連想した。
互いの頬に手を当てたまま見詰めあう俺と母さん。
俺は片手で母さんは両手。優しく甘いムードに乗せられて、頬に添えてた手のひらをあごの線までずらし、引き寄せる感じで母さんの唇へ自分の唇を近づけようとするが、すっと俺の頬から外された手のひらでそれは塞がれた。
えっ? って感じで視線を送る俺に、
「唇へのキスも……禁止行為です」
申し訳そうに微笑みながら母さんは言う。
「優介くんの "初めて" と口付けは、いつかあなたが出会う大切な誰かとのために、とって置いてください。私とはしちゃダメです」
言い終えると、母さんの頬に添えていた俺の手をやんわりと払い、俺の唇をふさいでた自分の手をどける。
「ちぇーっ。他にいくつあるんだよ禁止行為?」
ちょっとしんみりしちゃった空気を壊すみたいに、わざとすねるような口調で喋る俺。
「そうですね……それは、追い追い?」
壊れた空気に乗るように母さんも悪戯っぽく口にする。
「追い追いって、そんな事言って、出来ない事の方多くするつもりでしょ?」
「あ、バレちゃいました? 優介くん調子に乗らせると、とんでもない事してきそうですからね」
もうひとつ悪乗りする俺に応える母さん。バツの悪くなりかけていた場の空気は完全にゆるいものへと変わった。
互いに声を殺して笑い合う。
「……まぁ、とにかく夏休みになってからだね?」
笑いを残したまま言う俺に、
「ええ。夏休みになってからです」
同じように笑みを浮かべて返すましろ母さん。
それからまたひとしきり笑いあってから、この話し合いは終わった。
で、この日の夜、父さんからも受験の事を言われたのは、知っての通りである。
それからすぐに夏休みはやって来た。
エロい期待に胸と股間をパンパンに膨らませていた俺であったが、美味しい話がそんなに都合よく上手い事行くはずもなく、早速前途多難。
俺ら中学生が夏休みという事は、父さんがお世話になっている大学の方も同じように夏休みな訳で。
結果、父さんはほぼ毎日在宅という事に。
家にいる父さんの目が光っている事もあり、俺も母さんへの嬉し恥ずかしやらしい行為どころか普通に遊び呆ける訳にもいかず、午前の涼しい時間帯に夏休みの課題を真面目に片付けていき、午後は家事の手伝いをするといった、良くも悪くも極めて模範的な学生らしい日々を送る羽目になってしまったのである。
まぁ、災い転じてって訳じゃないが、七月中にほとんどの課題を終わらせる事が出来たのはラッキィだったけど。
あー、"ほぼ" って言うように、たまに父さんがうちを空ける日もあったのだけど、そういう日に限って、俺かましろ母さん、どちらかに約束やら用事が入るという、出来過ぎたくらいの間の悪さだったりで、何もなかったし、何も出来なかったと。
そして、悶々とした気持ちを抱えたまま七月は過ぎ、八月を迎える。
八月に入って最初の日曜日、父さんに来客があった。
父さんとは古くからの知り合いであり、淑恵母さんの主治医もしてくれていた。
ひ弱だった小さい頃は、俺も良くお世話になっていたものだ。
これまでも何度となくうちに来てて、ましろ母さんとも既知の仲である。
……五年前、こんなに若い後妻迎えたのに、その事に何も突っ込んでいなかった辺り、以前からましろ母さんとは知り合いだったんじゃないかとも思っている。
子供の頃は特に考えたりしなかったのだけれど、歳を重ね大人へと近付くにつれ――母さんへよからぬ想いを抱くようになって特に――、父さんと母さんの関係はどんなものなのかと思うようになった。
どこでどうやって出会って、そして結婚するに至ったのか?
四十近い歳の差を初め、あまりに
うちにやって来た当初は、ましろ母さんの年齢からきっと大学で出会ってなんだかんだあって結婚する事にでもなったのだろうと思っていた。
父さんと若い女性との接点を考えれば、大学以外は浮かばなかったから。
だけど、母さんは大学はおろか高校すら行っていない、今時珍しい中卒就労者である事を、つい最近高校進学の参考にしようと思って訊ねた際に知った。
「母さんはさぁ、どんな高校生活だったの?」
「んー、私、高校に行っていないんですよ。中学出てすぐ働き始めましたから」
そう、何よりも謎なのは、ましろ母さんその人。
俺はこの人の過去を、ほとんど知っちゃいないのである。
"今日からお前の母さんだ" と、父さんに告げられたあの日から、ただ母親としてだけ接してきたから。
母親で在ってくれれば、それで良かったからだ。
俺が母さんにいけない感情を抱いてしまったからこそ、この人の事をもっと知りたくなってしまったのは間違いないだろう。
父さんにも母さんにも、そういった諸々を訊ねた事はない。
今更過ぎるし、おそらく訊いたところでまともに答えてちゃくれないだろうし。
果たして教えてくれる日が来るのかは、今もって不明なままなのである。
尾崎センセーはお昼から三時間ほど滞在して、父さんとたっぷり談笑したのち、にこやかに帰って行った。
で、その日の夕食後、テレビ見ながらまったりと団欒してた時、話の流れの中父さんが思い出したように懐から何かチケットみたいなものを取り出すと、
「尾崎からこれを貰ったんだがな。優介、お前使いなさい」
そう言いながら手渡してくる。
「駅ふたつ向こうの街にあるウォーターパークの入場券だ。たまには水に戯れるのもいいだろう」
受け取った入場券とやらを確かめる。関係者なんかに配られる優待券の類のようで、使える期間も区切られていた。
「あんまり日にち残ってないね。ふたりまで有効、と。ん~誰か都合つく奴、居たかなぁ……」
チケットを手に俺がそんな事を口にすると、
「友達が捕まりそうにないのなら、ましろくんと行けばいいんじゃないか?」
父さんが何でもない事みたいに言う。
「え、私、ですか?」
いきなり名指しされたましろ母さんが驚きながら返すと、
「うむ。ましろくんもまだ若いのだから、たまには家の事は忘れて遊ぶのも良いと思うんだがね。まぁ、優介のお守りでもあるが」
にこやかに笑みを浮かべながら父さんは母さんへそう言い、
「優介は保護者同伴は嫌か?」
返す刀で俺に訊ねる。
プールッ、母さんとプール! 母さんの水着姿を初めて拝めるだろう機会っ! 反対する理由があるだろうか? いや、ないっ!
ありがとう父さん、ナイスアイディアです! 保護者同伴、結構結構、
「別に、嫌って事はないけど……」
あまりの嬉しさから、ついそれが表に出て来そうになったが、そこをぐっと堪え、仕方ないなって感じに返事をする俺。
そう、例えるならば優雅に湖面を進みながら、水面下では必死でバタ足を漕ぐ水鳥のごとく。
そんな俺の影の努力など知らぬ父さん、なんでもないって風に、
「そうか、そうか。で、ましろくんはどうだね?」
あっさり流して、母さんへと再確認。
「……先生がそう仰るなら……」
父さんからこう言われて母さんが断われるはずがない。ああ、ホントに父さんありがとう。
「あ、でも、私水着なんて持っていませんよ?」
パッと思い出したように母さんから出てくる、ただの付き添いになろうとするのが透けて見える発言を、そうはさせるものかと俺は即効でつぶしに掛かる。
「その辺は気にしなくていいと思う。ここって水着やタオルなんかの貸し出しもやってて、手ぶらで来ても楽しめるってのを売りにしてるから」
水着が無い事を理由にプールサイドから見守っているだけ、なんて展開になられては困るので、このウォーターパークのセールスポイントを強く押す。
母さんの水着姿を拝むためです、必死になるよ俺。
「そういう事らしいから、存分に泳いだりしてきなさい」
「はぁ……」
ここで "レンタル水着って衛生的にどうなんでしょ?" とか言い出されたら事だなとか、静かに焦ってた俺を素通しして、穏やかに話を進める父さんと母さん。
えぇ蚊帳の外でも構いません、今は結果だ、結果が大事。
「期限も迫ってる事だし、早い方がいいから明日にしようか、行くの?」
さらりとなし崩しで日程を決めてしまおうとする。俺、策士。
「え、明日、ですかぁ?」
唐突に決まりかける案件に慌てる母さんだったが、
「明日なら私も出かける用事はないから留守番出来るし、構わんよ」
父さんのこの言葉ですべては決した。
「はい、わかりました……」
どこか納得し切れていない表情だったが、決定には従おうとする母さんである。
穏やかに笑みを浮かべてお茶を飲む父さん。
そ知らぬ顔をしつつ、なんやらかんやらと期待を込めた視線をこっそり母さんへと向ける俺。
そんな俺の下心を悟ってか、ジト目で返す母さん。
ふん、そんな目で睨まれたって、明日の事を思えば痛くも痒くもないやい。
テレビから気象予報士のおねえさんが "明日も快晴になるでしょう。熱中症に注意してください" なんていってるのを耳に、明日への期待で胸と股間をこっそり膨らませる俺だった。
次回へ続く。