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ぴちゃぴちゃと音がする。緑色の軍服を身に着けた女の手が男のペニスを握る。女の舌が男のペニスの先端を舐め清めていく。
「へ、へへ……なんだよ、ランフォード将軍の副官ともあろう方がこんな淫乱だったとはよ」
「ん……ぷはぁ、そうよ、ほら、まだイケるでしょ ? 早くその粗チン出しなさい……エミリー様が処理してあげるわ」
レーゲンブルグ連邦王国の王城の一室で女は……エミリエルという女の身体は大勢の兵士の相手をしている。
(こんな事したくないのに、こんな娼婦のような真似なんてしたくないのに……身体が勝手に動いてしまう。内心思い焦がれていたランフォード様と結ばれる日を夢見て一度も身体を男に委ねた事なんて一度も無いのに)
* * *
ランフォード様のご命令で第一皇子フレデリック殿下の護衛任務に就いていた私は宰相が殿下を暗殺する場面に出くわしてしまった。完全に油断していた。宰相が殿下を暗殺する理由など無い、殿下が旗揚げした時真っ先に参上したのが宰相と息子のラッセルだった。殿下が勝利した時に再度宰相という役職に就きたかったからという下心があったかもしれないが、それを抜きにしても彼は優秀だった。だからこそ私は宰相の接近を許してしまった。
宰相を取り押さえようとした瞬間、私の身体は突然動かなくなってしまった。
「違う、わしじゃ……わしは殿下を殺してなど」
「宰相……あなたはなんということを…… ! ? 」
狼狽する宰相へ私は言葉をかける、でもそれは私の意思ではなく私の口が勝手に言葉を発したのだ。騒ぎを聞き駆け付けた兵士に私の身体は勝手に宰相を捕縛するよう指示を出す。兵士が宰相を縄で縛り出ていくのを見届けた私は一人殿下のご遺体を見下ろしていた。
「くくく……残念だったなあフレデリック。もう少しでギザロフ様に刃が届きそうだったのに、腹心の手であの世に行っちまうんだからなぁ」
信じられなかった……また口が勝手に動いた。しかも殿下を嘲笑うように……。
「さて……この身体を得られたのは好都合だ。あのブルーノとかいう身体よりも若く、そして強そうだ。このままこの身体にとどまり次の指示を待つとしようか」
一切の自由が効かない身体の中で、私は私の言葉をただ聞く事しかできなかった……。
* * *
部屋ではまるで自らの身体を誰かに見せつけるかのように大きな姿見が置いてある。姿見にはエミリーが男に抱かれ、同時に男に奉仕する姿が見えた。エミリーは現在魔神グラーズという魔族が操っている。グラーズは対象の影に入り込むことで人間の身体を操る事ができる。
「おい、さぼってんじゃねえよ淫売。さっさと口を動かせ」
「ふふ、慌てないの」
エミリーは白い指先で軽く男のペニスを軽く押し薄く笑みを返す。
「がっついたらダメよ。ちゃんと相手してあげるから……」
(やめろ……やめてくれ ! 何故私の身体を使える ! 貴様は何者なんだ ! )
エミリー本人の叫びにグラーズは一切答えない。裸の男と女が身体を密着させ、男は極上の女を前に目を血走らせる。エミリーはそんな男どもを小ばかにするように感情のこもらない笑顔を浮かべた。ひょっとしたら身体を操るグラーズがエミリー本人を嗤ったのかもしれない。
今エミリーが相手にしているのは連邦王国の兵士、具体的には先日ウィラー提督の指揮下で戦っていた兵士である。彼等はウィラーの神がかり的な兵の運用により反乱軍に組したランフォード隊相手に楽勝とも言える戦果を叩き出した。しかしウィラーは敵とはいえ降伏した兵士や女性に対する狼藉を一切許さずにいたために、配下となった兵は大した旨味が無いまま終戦を迎えてしまったのだ。そんな不完全燃焼だった所に突然ランフォードの副官エミリーがセックスしようと言ってきたのだ。最初は何かの罠か冗談だと考えた兵士達も、あの真面目なランフォード将軍がそんな命令を副官にやらせるわけが無いし、まあ副官様も欲求不満だったんだろうと誘いに乗ったというわけだ。
「へ、へへ……出すぞオラァッ ! 受け止めやがれ淫売の副官さんよオッ ! 」
「いいわよ……エミリーにぶっかけなさい。その粗チンから精子いっぱい出しちゃいなさい」
(やめろ、よせ ! やめて、やめて ! )
エミリー本人は必死に懇願するが悲痛な叫びはグラーズにしか聞こえず、目の前の兵士達にはエミリーとグラーズの裏事情など知る由も無い。よって兵士達は自分たちを挑発してくる女相手に自分たちの精液をかける。かけて、かけて、かけまくる。白く穢れを知らぬ肌は男の欲望にまみれた白く濁った液体によって塗りたくられた。
(う、うう……)
「はあ、はあ……すごい量ね……さすが若い男」
「こいつは……すげえな。はは……町の娼婦なんて目じゃねえわ」
身体の中でエミリー本人は酷く心に傷を負うようなショックを受ける中、グラーズは自身にかけられた精液を舐めとる。独特の臭気を帯びた臭いは常人であればむせてしまう程であったがエミリーを演じるグラーズは全く気にすることなく一流の娼婦をも演じきった。
「も、もう勃たねえよ……」
兵士の多くは息も絶え絶えで固く冷たい床に突っ伏してしまっている。まだ元気なのはエミリーだけだ。
「もうへばったの ? じゃあしょうがないわねえ……」
エミリーは精魂尽き果てた兵士達を一瞥するとムクリと起き上がり、壁にかけてあった剣を持ち鞘から抜き取る。
「は ? ……へ ? 」
兵士の間の抜けたような声はこの世で発した最後の言葉となり、エミリーはすぐさま悲鳴を上げさせる事無くその場にいた兵士全員を剣で切り刻み絶命させた。白い白濁液まみれだった身体と床におびただしいまでの返り血が降りかかり、エミリーの身体を真っ赤に染め上げた。
(ぐ、……な、なんて事を……貴様、自分からこいつらを誘っておいて今度は殺したのか ! 何故だ ! 何が目的でこんな事を ! ? )
「何故かだって ? 決まってるだろう。この身体を使いこなすためさ」
エミリー……グラーズはなんて事ないように答えた。
「俺は他人の身体に乗り移って意のままに操る事が得意な魔神だ。だがな、どういうわけかこの身体は強くて便利そうなのにいざという時に全く動かん。この前城でランフォードを殺そうとした時みたいにな」
グラーズは先日王城でギザロフの命令通りランフォード暗殺を試みるも途端に身体が動かなくなり失敗。任務失敗はグラーズにとって初の出来事でもあり彼のプライドを著しく傷つけた。その後からエミリーの身体を一寸の狂いもなく操るにはどうすればよいか考える。エミリーの肉体が休息を取っている間も魔神グラーズはエミリーの影の中でじっくり考えた。それが……。
「これさ……」
姿見の前で両手を鏡に突いて全身を写しだす。全身が白い白濁汁と返り血の染め上げられた身体、その顔は紛れもなく殺人鬼の顔であった。
口は三日月のように曲がり瞳は赤く染まる。まるで指先一つも動かすことを禁じられたエミリーを嘲笑するかのように目が、顔が愉快そうに嗤う。
「ひょっとしたらお前が邪魔しているんじゃないかと思ってな、だからこうしてお前を痛めつけてやることにしたんだよ。お前の心をな」
グラーズがエミリーの乳房を握る。形の整った胸がぐにゃっと歪む。神に愛されているのではないかと思えるような美しき肢体が魔神に操られた自身の手で好き勝手に触られるのだ。意識しか残っていないエミリー本人は何を思うのか ?
「愛しのランフォードの為に大事に大事に取っておいた操はたった今お前よりもずっと身分が下の野郎共にぶち抜かれた。その身の程知らずの実行犯共はこうなった」
グラーズが全裸のエミリーの身体で亡骸となった兵士の顔面を蹴っ飛ばして転がし、さらに苦悶の表情を浮かべた顔を踏みつける。美女に踏まれてこいつは幸せ者だなあと罵りながら。
「もうお前はこの身体を動かせない」
(やめろ)
「ランフォードの指示には一応従っておいてやるが心はもう奴には向かない。向くのは短剣だけ」
(ランフォード様なら気が付いてくれる ! )
「気が付かねえよ。奴は戦いや仕事には嗅覚が鋭い、だが女の扱いはド素人だ。副官の異変なんて鼻ほども気がつくわけがねえ」
(黙れ……黙れ黙れ ! 私が身体を奪い返したら必ず貴様を殺してやる ! )
グラーズはエミリーの叫びを聞くと、エミリーの身体でニタリと鏡に向かって嗤う。その表情はエミリーが一度も浮かべた事のない男をからかうような顔、絶対に実現不可能な悪魔の証明を提示する時のような挑発的な表情だった。
「そういうなら試してみようか ? 」
(え…… ? )
「聡明で女の扱いに長けているんだろう ? 愛しのランフォード様はよ。これから一年の間にランフォードがエミリーの異変に気が付けばこの身体は返してやろう。だが気が付けなければお前は一生このままだ。エミリエルの身体は未来永劫俺様のものだ。いいな ? 」
グラーズはわざわざ本名でエミリーの身体を呼んだ。エミリーは返事ができない、この状態でエミリーに決定権は無い。どれだけ実体が無い状態で暴れても無駄な行為でしかない、むしろグラーズを喜ばせるだけなのだから。
(さっきはああ言ったがどうも北の方がきな臭い、カオス様の波動が現れたと思ったらすぐに消えた。カオス様を倒せるのはラングリッサーを持った光輝の末裔だけ。調べた限りではイェレス大陸に忌々しい光輝の末裔はいない。ギザロフ様……いや、ギザロフは切り捨てるか。ここは様子見に徹した方がいいな)
グラーズは状況が落ち着くまで静観の姿勢で過ごす事に決めた。もし賢者の水晶の封印が解かれラングリッサーを光輝の末裔が持っていたらグラーズがエミリーの影から追い出されてしまう。そうなればグラーズにとって良くない。
こうしてグラーズの方針はランフォード暗殺から様子見に変更。この方針転換がグラーズの身を救いエミリーの運命を決定させたのだった。
* * *
一年後、レーベンブルク連邦王国は三国同盟と交戦状態に陥る。当初はギザロフの死亡により空白の座に収まったランフォード元帥指揮のもと優勢だったものの三国同盟に組する魔族フェラキアの陰謀によって反逆の汚名を着せられ投獄の身となった。
「ランフォード様 ! 」
「エミリー、無事だったか ! 」
王城の牢屋の中でランフォードと将軍に昇格したエミリーが久方ぶりの再会を果たす。激務と心労によりランフォードは少し瘦せているようだったが何とか気力は保てているようだった。
「エミリー、戦況はどうなっている ? 」
「はっ、現在敵の侵攻は食い止めていますが今のままでは……」
「そうか……なんとか私の無実を晴らすことができれば」
自らの状況よりも戦況を心配するあたり、ランフォードは立派に元帥という重職を務めているようだった。
「現在軍の者達でランフォード様釈放の嘆願書を用意しております。宰相のラッセル殿に届け一刻も早く釈放できるように私も動いていますので」
「……その気持ちはありがたい。だがお前は一刻も早く戦場に戻れ、お前が長期間部隊から離れればそれだけ三国同盟の侵攻を止められなくなる」
「しかし……」
ランフォードはエミリーの言葉を手で遮り、再度戦場に戻るよう伝え丁度面会時間は終了を迎えた。今見張りについているのはランフォードの部下というよりも宰相の息子であるラッセルの部下、面会時間を増やすといった目溢しは一切無い……。
後日ラッセルに提出された嘆願書は当然ながら見向きもされずエミリーに突っ返されたのだった……。
* * *
「ははははは ! おいどうだエミリエル、やっぱりダメだったな ! 」
昔ランフォードの執務室だった部屋はそのままエミリーの執務室として与えられた。ドアを施錠し誰も入ってこれなくすると、エミリー……グラーズは自らの机に嘆願書を置く。将兵で無実を訴えかき集めた嘆願書の上にブーツを脱ぎ素足になった長い脚を乱暴に置いた。嘆願書はエミリーの足の重みで歪んでしまった。
(……ランフォード様、どうして。どうして気が付いてくださらないのですか……)
約束の日から今日で一年、ランフォードはエミリーがグラーズに操られていることに全く気が付かなかった。元帥になり執務と軍の立て直しに心を砕いていた、グラーズの演技がほぼ完ぺきだったという事情もあるがランフォードにエミリー本人の必死の訴えは届かなったようである。
エミリー本人の心を占めるのはランフォードへの信頼愛情ではなく、『失望』であった。以前であればグラーズが嘆願書へ脚を置く事に憤慨していたはずだが今はそんな事なんとも思えなくなってしまった。
目の前にいるのは偽物なのに。自分の身体を使っている偽物なのに。本物はここにいるのに。どうして気が付いてくれないの ?
間違いなくエミリーの心はこの一年の間に摩耗し、自分の偽物と親しく交流する様子を只々見せられ続けた。眠る事もできず目を背ける事も出来ない。疲れ果てたエミリー本人の精神は今にも消えそうな程か細くなっていた。
「このままならランフォードは失脚。あのラッセルとかいう男から魔族の臭いがするし始末してから軍を掌握してもいいな」
目前の展望を口にしながら笑うグラーズに対しエミリーは膝を抱え何も言い返す気力も湧かない。
「間違いなくボーゼル派の魔族も絡んでいることだし、奴らをこの騒動の内に葬りこのグラーズ様がアルハザードを手にして……いいねぇ、俺様がのし上がる機会が巡ってきた。この身体と地位があれば不可能じゃない。これからもよろしくな……いえ、よろしくね」
一年前と同じ、グラーズは一糸纏わぬ姿となり姿見の前で手を突きニタリと嗤う。
「……エミリエル、くふふ……ふはははは ! ! 」
二度と取り戻せない身体を前に、エミリエルは生気のこもらない瞳で邪悪な笑みを浮かべる自身の身体を見つめるのだった。
以上となります。お読みいただきありがとうございました。