不思議な『夢』によって才ある人の技術を習得し、再現できるようになったメイドのマリ。
彼女はある日、同僚から恋の相談を受ける。
困ったマリだったが、その夜、新たに娼婦、あるいは遊女の夢を見た。

翌日、夢の経験を元に同僚へアドバイスをすると、相手からまさかの愛の告白をされて──。

※skebにてリクエストいただいて執筆したものです
※同性ものですが夢の中で男性に抱かれる描写があります

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第1話

 「意味のある人生を送りたい」。

 昔から人より鈍く、叱られたり呆れられることばかりだったマリ。

 母国を滅ぼされ、身分を隠し、敵国のメイドとして生きることを強いられて。

 

 彼女はそれでも、他者への思いやりを忘れなかった。

 もし自分に、人より秀でたところがあったなら、その能力で人を幸せにしたい。

 

 ──そんな、マリの優しさに神が応えてくれたのか。

 

 彼女はある時期から『夢』を見るようになった。

 別の場所、時代を生きた才人の夢。

 彼ら、彼女らの生き方、仕事ぶりを夢の中で追体験したことによって、マリはその才能を発揮できるようになった。

 

 周りからの評価は、少しずつ上向きになって。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

「恋愛相談、ですか?」

「はい。どうか相談に乗ってくれませんか?」

 

 ある日、マリは年下の同僚から相談を持ちかけられた。

 好きな人がいるのだが、どうやって気を引いたらいいからわからない、と。

 

「私よりも他の人に聞いたほうが……」

 

 相談に乗ろうにも、恋愛経験なんてない。

 断り文句を口にしようとしたマリだったが、その言葉は途中で止まってしまった。

 同僚があまりにも真剣な目をしていたからだ。

 

 彼女の気持ちを無下にはできない。

 役に立てるかどうかわからないと思いつつも、

 

「一晩、考えさせてもらえますか……?」

 

 つい、期待をもたせるような返事をしてしまった。

 

 

 

 

 

 どうしよう。

 

 部屋に戻ってからもあれこれ考えてみたものの、やっぱり良いアイデアは浮かばず。

 悩みながら、マリは眠りへと落ちていって。

 

(───夢)

 

 マリはまた別の才人の夢を見た。

 それは、話術や芸を操り、時には寝床を共にして男性を喜ばせる職業。

 娼婦。遊女。花魁。妓女。

 そんなふうに呼ばれる立場の女性。

 

 異国の、独特な衣装と化粧を施した彼女は、けれど見惚れるほどに美しく。

 所作のひとつひとつに他者を引き付ける魅力が溢れていて。

 身を売る立場であろうとも決して誇りを失わず、笑みを浮かべ続けるその姿に、マリはある種の憧れを抱いた。

 

 いつしか、夢の中の彼女に手を取られるように、その仕草を、呼吸を感じて。

 

 楽器を奏で、遊戯に興じ、言葉ひとつで男心を擽り──肌を、重ねて。

 息遣い。指使い。熱い悦びを、深いところで理解して。

 

 

 

 

 

「………あれ?」

 

 目が覚めると、世界が一変したような感覚に襲われた。

 正確には、変わったのはマリのほう。

 

 五感が、いつもより研ぎ澄まされている。

 反面、どこかふわふわしていて。

 魂の一部が斜め上から自分を見下ろしているような、奇妙な感覚。

 

 視野が広くなり、自分の一挙一動に気を配れる。

 戸惑いながらもその感覚に身を委ね、おさらいをするように身体へ感覚を染み込ませる。

 すると、仕事で一緒になったメイドは「なにかあった?」と不思議そうにマリを見て。

 

「もしかして、男でもできたとか?」

 

 そういうことじゃないと慌てて否定しながら、マリは「間違ってはいないのかもしれない」と思った。

 夜の女は、客となった男の「一夜限りの恋人」を務める。

 一夜にして客を魅了し、恋の虜とする技術がなければ一人前の遊女とは言えない。

 

 夢の中で男と女の機微を経験した今なら、きっと相談に応えられる。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 相談が長引くかもしれないので、仕事の後、マリは同僚の部屋で二人きりになった。

 

「恋愛相談、でしたよね?」

「はい。その、どう……ですか?」

「そうですね。これはあくまでもひとつのやり方だと思うんですけど……」

 

 他に誰もいない部屋で、同僚を「相手の男性」に見立てて実演して見せる。

 なにも思い浮かばなかった昨日と逆に、今はなにをすべきか考えなくてもわかった。

 

「男性の気を惹くには、まず、こちらに興味を持ってもらうことです」

 

 特別なことはなにもいらない。

 真っ直ぐに視線を合わせる。実際、それだけで同僚はどきっとしたように頬を染めた。

 向かい合う場面がなかなかないなら、遠くから見つめるだけでもいい。

 目が合った時にさりげなく微笑んで見せるのも有効だ。

 

「会話できるのであれば、お相手の好みを知るのもいいです。……あなたは、なにが好きですか?」

「え。あの、えっと……お茶とお菓子、とか」

「では、一緒にお茶にしましょうか」

 

 以前の夢で覚えた作法を使ってお茶を淹れ、ちょっとしたお菓子と一緒に楽しむ。

 紅茶に濡れた唇を指でそっと拭って。

 

「こうして……お相手の視線を導いてみてください」

 

 向かいに座る彼女にゆっくりと歩み寄り、前髪に軽く指を触れさせる。

 

「ほんのかすかなボディータッチでも、気持ちは揺れ動くもの……」

 

 あくまで予行演習なのに、同僚が胸を高鳴らせる。それが肌の感覚でわかる。

 マリは「隣に座ってお話しましょう」と彼女を誘い、一緒にベッドへ。

 相手を先に座らせてから、僅かな隙間も作らないように密着して。

 

「ま、マリ……さんっ♡」

「なんですか……?」

 

 甘く、囁くように尋ねた。

 相手の瞳を覗き込み、意図的に瞳を潤ませて。

 唇をかすかに動かしてキスを連想させる。

 

 彼女は、マリと見つめ合ったまま熱っぽい息を吐き出して。

 身を乗り出すと自分から触れてきた。

 唇で、唇に。

 

 触れ合うようなキスは数秒で終わって。

 

「──好きです」

 

 囁きかれた言葉に、目が自然と見開かれた。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 驚く自分と一緒に、すとん、と腑に落ちている自分もいた。

 あまりにも真剣な様子。

 予行演習に動揺する態度。

 

 つまり、彼女の好きな相手とはマリだったのだ。

 

 女同士、ということに嫌悪感はない。

 夢で経験したとはいえ、現実で男性を相手にするほうが心の準備を要する。

 何より、相手が真剣なのはよくわかって。

 

 ──だから、マリは彼女に身を任せることにした。

 

 軽く押されるようにしてベッドに押し倒されて。

 潤んだ瞳に見下ろされたかと思うと、二度目のキスがくる。

 一度目とは違い、今度は舌が入ってきた。

 

 彼女の、唾液の味。

 

 誰かと唇を合わせながら感じるのが、女性の爽やかな匂いなのがどこか不思議で。

 口から口へ、直接彼女の息遣いを感じて。

 唾液の糸を引きながら離れた唇が、再び愛の言葉を紡ぐ。

 

「……好きです、マリさん」

「……んっ♡」

 

 敏感になっている身体がぴくん、と跳ねた。

 優しく抱きしめられて、メイド服の衣擦れの音を聞きながらベッドに真っ直ぐ寝かされて。

 

「ごめんなさい、ここまで、するつもりじゃなかったのに」

 

 呼吸が乱れている。

 予行演習のつもりが、彼女を誘惑してしまっていた。

 好きな相手からあんなふうにされたら誰だって我慢できなくなってしまう。

 女にだって性欲があるのだということを、今のマリは良く知っている。

 

 微笑み、彼女の頬に手を伸ばす。

 手のひらでそっと触れてから、瞳に浮かんだ涙を拭ってやると。

 

「───っ♡」

 

 今度は、唇以外の場所に何度もキスをされた。

 額に。頬に。首に。

 右手を取られて恭しく口づけをされ、さらに指へと舌を這わされる。

 指は、人が思っているよりもずっと敏感な部位だ。

 自身の呼吸もだんだんと早くなっているのを感じながら、マリは互いの足が絡み合うのを感じて。

 

 二人の胸が重なって、鼓動を共有する。

 

「服、皺になってしまいます……っ♡」

 

 見上げて言うと、彼女ははっとしたように硬直した。

 現実的なことを言われて正気に引き戻されてしまったのだ。

 これが熱に浮かされた男性ならむしろ興奮していたかもしれないが。

 ここからあらためて、一夜の夢に堕とす。

 

「だから、脱がせてくれますか?♡」

「っ♡」

 

 こくん、と、小さな頷きが返された後は、もう一直線だった。

 メイド服に触れられ、もどかしく、かつ丁寧に裸に近づけられていく。

 それとなく脱衣を手助けしながら相手の衣装を脱がせていくのも本職の技だ。

 

 そうして、二人は下着姿で見つめ合って。

 

「……んっ♡」

「マリ、さんっ♡ マリさんっ♡」

 

 何度も名前を呼ばれた。

 甘い吐息が、かすかな嬌声が、すべて彼女の燃料になって。

 宝物に触れるように、それでいて自分の指の痕を残そうとするかのように身体のあちこちに触れられて。

 ああ。

 とろとろに、蕩けさせられていく。

 夢での経験が、現実での体験を経てさらに深く自分のものになって。

 

 夢中で舌を、指を触れさせてくる彼女の肩に、軽く触れる。

 

「───えっ?」

「───可愛い♡」

 

 魔法のように体勢を入れ換えて。

 興奮にきらめく瞳を見下ろして。

 

 女性の身体のことは、女性であるマリもよく知っている。

 夢で見た彼女には、初心な男性を手ずから導いた経験も、新人指導として同性と触れ合った経験もある。

 男の身体だって、性器以外の場所で感じさせることはできる。

 敏感で柔らかな女性の身体なら、もっと簡単。

 

 夢に溺れさせるように甘い言葉を囁きながら、舌と指でお返しをしていく。

 ほんの少しの力加減、触れる位置、タイミングの差が大きな違いを生んで。

 

「っぁ♡」

 

 彼女は、何度も何度も甘い声を部屋に響かせた。

 

「声、抑えないと隣に聞こえちゃいますよ?♡」

「っ♡」

 

 我慢しないといけない、そんな緩い命令も昂った今なら興奮の材料になる。

 慌てて声を殺そうとする彼女に、マリは自分からキスをして──。

 積極的に翻弄するように舌を絡め、唾液を注ぎ、女同士の甘い吐息を部屋の空気にたっぷりと混ぜこんでいった。

 

 同時に指を秘所へと潜り込ませれば、そこはもう愛液でとろとろになっていた。

 

 仕事のため普段から爪を切っていてよかった。

 整えられた指を、つぷ、と潜り込ませて、優しく内側をなぞれば「ふあぁっ!?♡」明らかな嬌声が上げられて。

 至近から見下ろすマリを、彼女が若干恨みがましい目で見上げてくる。

 

「ごめんなさい……♡」

「ふっ、んんっ♡ ふぁ、んっ♡」

 

 口内に溜め込んだ唾液を相手に注ぎながら舌で混ぜ合わせて。

 彼女の喘ぎ声を制限しながら、上と下からいやらしい水音を奏でる。

 ぴくっ♡ ぴくっ♡ と、彼女は何度も身体を跳ねさせて。

 

 快楽の頂きに達する直前、指と舌を離して解放する。

 

「えっ……?♡」

 

 呆然とする彼女に微笑みを返して、自分と相手の下着を取り去って。

 

「……可愛い♡」

「あっ♡ あああっ♡」

 

 もう一度、魔法の言葉を囁きながら、互いの身体を直接密着させた。

 柔らかい。

 男性相手とはまったく違う。

 ぴったりと重なり合って、吸い付くようにひとつになる。

 

 いつの間にか愛液をたたえていた自分の秘所と、とろとろになった彼女の秘所を触れ合わせて。

 

 嬌声を上げようとする口に二本の指を咥えさせて声を抑える。

 自由になった唇は首筋に降らせて、いくつもの痕を残しながら。

 

「気持ちよくなって、いいですよ……?♡ いくらでも、何度もでも……っ♡」

「ぁっ♡ ま、り、ふぁん……っ♡」

 

 生の両足が独立した生きもののように絡み合って。

 シーツのこすれる音と共に敏感な箇所同士が責め、愛撫し合う。

 ぴんと勃ったクリトリス同士がこすれると、マリの身体にも甘く、強烈な痺れが走った。

 

 止められない。

 

 悦びを存分に受け留めながら、マリの冷静な部分が責めを微細にコントロールして。

 二人が同時に、できるかぎり気持ちよくなれるように誘導して。

 

 口内にある二本の指がべとべとに。

 彼女の首にもたっぷりと唾液の痕ができる。

 早鐘のような鼓動が、乱れた呼吸が、身体とシーツのこすれる音が断続的に、だんだん早く、静かに響いて。

 

「ふぁっ、ぁっ♡ んっ、ん〜〜〜っ!?♡♡」

 

 弾けた。

 びくんっ♡ と、大きく彼女が痙攣すると、拍子に擦れたクリトリスがマリを頂に到達させた。

 一瞬、目の前が真っ白になって、余計な悩みや暗い感情がすべて押し流されて、幸せをそこにたっぷりと注ぎ込まれる。

 

 絶頂の波は何度も寄せては返し、すぐには引いてくれなくて。

 肌を密着させたままその波をゆったりと楽しんで──。

 

 

 

 

 

 時間をかけて、ようやく余韻が収まった。

 

 心地のいい疲れを感じながら半身を起こす。

 彼女は、呆けた表情のままこちらを見上げていた。

 胸の呼吸は平常のペースに戻りつつある。

 

 少しは、落ち着いてくれただろうか。

 

 いろいろな事情を抱えるマリは彼女の気持ちに応えるわけにはいかない。

 愛を囁いてくれた彼女に対して中途半端なお返ししかできないけれど、これがせめてもの──。

 

 胸の痛みを感じつつ、頬を優しく撫でて。

 視線を穏やかに交わらせると、

 

「好き、です♡ 大好きです、マリお姉さま♡」

「……え?」

 

 事態は、思わぬ方向に。

 

 彼女はマリが交際できないことはわかってくれた。

 ただ、ほのかな好意は確かな慕情へとグレードアップしていて。

 

 人前でも「お姉さま」と呼ばれるようになったせいか、それともあの日の『声』を聞かれてしまったからなのか。

 なるべく自然にしてもつい仕草や表情に出てしまうようになった『艶』のせいなのか。

 

「お姉さま♡」

「お姉さまっ♡」

「愛しています、お姉さま♡」

 

 告白の数、それからマリを「お姉さま」と慕う娘の数はどんどん増えて、

 

「えええ……!?」

 

 思いもかけない形で、マリはたくさんの味方に囲まれることになったのだった。

 

 

 

 

《おしまい》


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