さて、今回のお話しは……。
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某年某月某日、我が国にある法律が施行された。
入れ替わり法
昨今多くの学校教師や生徒があらゆる場面で精神的肉体的ストレスに脅かされる事態が多発しており、特にイジメに対する有効的な手段が用意できない場面が多く、中には自殺までしてしまう案件もある。このままではよろしく無い。そこで時の国会は恐るべき法案を可決させてしまった。この法律は『教員や生徒に対し極度のパワハラモラハラ、イジメを行った相手の親族と被害者の身体を入れ替える』というもの。期日は被害者が定め、戻る為には入れ替わった者同士が戻りたいと願う事。大きく進歩した科学は人間の精神に干渉できる程にまで成長したのである。もっとも、使う人間の精神そのものの強度は別としてだが。
この法律は被害者の助けとして、度重なる問題に対する抑止力として大いに活用できるものであろう。
※ ※ ※
「おい、お前5万持って来いって言ったよな?」
「そ、そんなお金は……無い」
ある高校の体育館裏、そこは不良のたまり場となっており生徒教師共に近寄らない場所である。だからこそ、カツアゲするには絶好の場所でもあった。
「あん ? 口答えする気か ? おい」
「ぐッ ! あぐッ ! 」
不良『
修哉がイジメを受けていたのは理不尽な一つの理由”ただ涼介の目に留まったから”それだけである。涼介は真面目に見せれば他人が自分に良い感情を向ける事を知っている。両親は数年前に交通事故で亡くなり、今は親戚に引き取られ生活している。不自由無い生活をさせてもらっているものの肉親を失った精神的苦痛は非常に大きく、それがふとした時に暴力という形で噴出してしまった。
対して修哉はというと成績は中ほど、中肉中背のありきたりな外見の同級生であった。だが意固地な所があり涼介からの執拗なイジメに対して一切負けを認めなかった。今回のように殴られ蹴られ、それでもお金は一銭たりとて渡すことはなかった。修哉も同じく両親を亡くしてしまっているが残念なことに涼介とは違い金銭面で裕福というわけではないし相談できる相手もいない。精神的苦痛は間違いなくあるものの修哉の場合は外部に噴出したわけではない。いつ、どういう形で爆発するかわからない不発弾のようなものだ。
涼介も涼介で自分の言う通りにならない修哉に対し執着してしまい、この関係がかれこれ半年経過していた。
「ちっ、明日こそ持って来いよ」
「ぐ……汚ねぇ……」
殴り疲れた涼介は捨て台詞と唾を修哉の顔に吐き捨てその場を立ち去って行った。目立たない腹部を痣だらけにされた修哉は制服の袖で唾を拭いその場を後にする。修哉にとってバイト代である5万円は生活費であり、一銭だって涼介にくれてやるつもりなんてなかった。いつこの関係に終わりが来るのか、卒業までなのか、それともその後も続くのか。考え出すだけで負のスパイラルに陥りかねないので思考を停止させ、今日のスーパーの安売りはなんだろうかと無理矢理考えを切り替える。
涼介はバレないよだろうと考えていた。ストレス発散に修哉をいじめている事なんてだれもわからない、他人の事なんて真面目に考える奴なんていない、そう考えていたから。しかし悪い事なんてどこから漏れるかわからないし、だれかかれかは見ているものである。変に達観していた涼介にはそれがわからないのだった。
* * *
「ただいま」
「おかえりなさ~い ! 」
放課後自宅へ帰った涼介を明るい声で出迎えたのは『
「日葵さんただいま。今日も疲れたよ」
「はいはい、まずは手を洗ってきなさい。それから夕飯だから」
言われた通りにカバンを自室に置き手を洗う。もし両親が存命であれば両親の言うことを聞かず父親と喧嘩をしていたかもしれないが、日葵の言うことは聞くことができた。それは恋心がなせるものなのか、それとも迷惑をかけてはいけないという子供心なのかは涼介にもわからなかった。唯一確かなのは、涼介にとって日葵は宝物であるという事だった。
「「いただきます」」
居間で手を合わせ食事の前の挨拶を口にし日葵が作った夕飯を一口。米飯、みそ汁、カツ、サラダ、煮物。手間暇かけて作られた夕飯は実に美味であった。
「うん、日葵さんの作るご飯はいつも美味しいよ」
「ふふ、ありがとう涼介君」
お世辞ではなく紛れもない本音、大好きな日葵と一緒に過ごすこの時間は鮮やかに彩られた彼の青春の一ページに違いなかった。
「そういえば涼介君、実は学校の方から連絡があって明日の昼頃学校の方に来てくれって言われたんだけど、何か知ってる ? 」
「え……知らないなあ」
「そう……先生からは私一人でって話だったから、明日行ってくるね」
涼介には一つ心当たりがある。先ほども行われたカツアゲ行為、呼び出されるとしたらそれしか無いだろう。だがこういう場合は涼介本人も呼ばれるだろうし、なんなら先に要件を言われるかもしれない。だから違うのだろうと涼介は結論を出した。
「あ、そうだ。明日は涼介君の誕生日だったわよね。期待してて、明日帰ったら腕によりをかけてご馳走作っちゃうから」
「本当 ! ? 楽しみだよ、普段も美味しいのにもっとだなんてどれだけ美味しくなるんだろう」
二人の笑い声が聞こえる明るい家庭。この時、涼介は間違いなく幸せだった。
* * *
翌日の日曜日、22:00
(おかしい、おかしすぎる。なんで日葵さん帰ってこないんだ、まさか帰りに事故にでもあったのか…… ? )
正午近くに日葵は帰りに買い物して帰るからと言い残し涼介の学校へと出かけて行った。だがいつまで経っても日葵は帰ってこない。普段ならば何かしらの連絡をしてくるのだが今日に限って一切連絡無し、こちらから連絡しても一切応答が無い。それに事故に遭ったのなら病院から連絡が来るはずである。
(……探しに行くか)
涼介はスマホや自宅の鍵等の貴重品を持ち自宅を出た。学校へ行っても既に門は閉められており明かりも点いていない。今この場で校舎内に侵入しても不審者扱いされてしまうだろう。
次に夜の町へ歩いていく、巡回中の警察官がいるかもしれないので見つからないように探すもそれらしき人物は見つからない。
(いよいよ警察に連絡した方がいいのか ? )
日葵がいなくなりまだ半日、連絡しても相談にのってくれるかわからないし涼介は生まれてまだ通報したことがない。ほとんどの一般人は警察に通報したことが無いだろう、通報するタイミングがわからない。とりあえず一度帰宅し、それでも帰宅していなければ相談してみようと考え、涼介は自宅への帰路についた。
(……ん、あれは ? )
涼介が自宅付近まで差し掛かったところ家の居間に明かりが点いているのが見えた。
「まさか、日葵さんが帰ってきたのか ! 」
玄関にかけられた鍵を開けドアを勢いよく開け放つと、玄関には二足の靴が置かれていた。あったのは男物の安物に見えるスニーカー、もう一足は間違いなく日葵が昼頃に履いていった靴、それは間違いないのだが日葵の靴に違和感を感じた。日葵は玄関に靴を丁寧に揃えていたはずなのに、今は"乱暴に脱ぎ散らかしている"。
違和感を感じながら中へ入ってみれば、居間のソファーに座っていたのはどういうわけか大川修哉であった。
「大川……ッ ! ? てめえなんでここにいる ! 」
「り、涼介君……ッ ! 」
「なんで俺の家にいやがる ! さっさと出ていけ ! 」
「ま、待って修哉君、話を聞いて ! 私は……ッ」
「うるせえ ! 」
涼介は修哉の腹部を殴打、それだけでなく倒れた修哉に対し蹴りまで入れ執拗に攻撃を加えた。
「ぐッ……ッ、エぐ……ッ」
「明日覚えてろよ……いつも以上にひどい目にあわせてやるからな ! 」
涼介は倒れうずくまる修哉を引っ張り家からたたき出した。修哉は最後まで涼介の名前を呼んでいたが涼介は聞く耳を持たず玄関の鍵をかけ居間へ戻った。
「……いったい何の騒ぎ ? 」
涼介が声のする二階への階段を振り向くと、そこには帰りを待ち望んでいた日葵の姿があった。その姿は昼に出かけた時と同じものだが、彼女の様子は以前とは違う。涼介に今まで見せた向日葵のような笑顔ではなく非常に面倒くさそうな、涼介の事などどうでもいいような、そんな感じだったのだ。
「ひ、日葵さん。今までどこに行ってたんだよ ! 俺心配したんだよ ! ? 」
「はあ ? お、私がどこに行こうが私の勝手でしょ ? どいて、喉乾いたんだから」
日葵は廊下に立つ涼介を無理矢理横にどかせると台所のコップをと冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し注ぐとゴクゴクと美味そうに一気に飲み干した。
「ぷはあ、昼から何も飲んでなかったから美味いわあ」
「日葵さん……」
涼介は何が何だかわからなかった。目の前にいる日葵がまるで別人のなってしまったかのように見えて仕方がない。冷蔵庫のドアを開けっぱなしにしたと思えばお尻で閉めた。玄関に乱暴に脱ぎ散らかされた靴。それに何故他人であるはずの修哉が自宅内にいたにも関わらず日葵は平然としていたのか。
「日葵……さん、そ、そうだ、日葵さん、今日俺の誕生日……」
「誕生日 ? ああそうだっけ、すっかり忘れてたわ」
涼介の目の前にいる日葵は向日葵のような笑顔を向けず、むしろゴミを見るような侮蔑の視線を向けてくる。その日葵は冷蔵庫から一つの物体を取り出してきて涼介に手渡した。
「あの、これは ? 」
「なにって、バースデーケーキ。コンビニで買ってきてたの忘れてたわ、ハッピーバースデー……」
涼介の目の前で手拍子を入れながらハッピーバースデーの歌を歌う日葵だが表情からは仕方なくやってあげてる感が強く目に感情がこもっていなかった。
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『おかえりなさ~い ! 』
『あ、そうだ。明日は涼介君の誕生日だったわよね。期待してて、明日帰ったら腕によりをかけてご馳走作っちゃうから』
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「おめでとー。はいおわり、もういいでしょ ? 私疲れてるから寝る。邪魔よ、どきなさい」
日葵は無理矢理押しのけてさっさと自室に戻ってしまった。床に力なく倒れた涼介は気が付けば自分の部屋に戻っていた、どのように戻ったのか、今がいったい何時なのか全く覚えていない。それだけ涼介にとって180度変わってしまった日葵の態度は青天の霹靂と言ってよいほど。何か日葵にしてしまったのか、涼介にはわからない。
(誕生日……祝ってくれるんじゃなかったのかよ)
干乾涼介の誕生日、この日は彼にとって最悪の誕生日となった。
* * *
翌日の月曜日、涼介の目覚めは非常に悪かった。悪い夢のような一日、自分が恋する日葵の露骨な態度の変化、吐き気が酷く眩暈もする。学校を休もうかとも考えたが結局行くことにした、今は日葵と顔を会わせたくないからと重い身体を起こし制服に着替え居間に下りる。玄関に日葵の靴は無く朝早くからどこかへ出かけているようだった。いつもなら朝食の用意をしてくれたり急な用事があるときは何かしらのメモを置いていった日葵だが、今日は何も残さず出かけたようだった。
ふと向けた視線の先には封がされた食パンの袋があり、中身が1枚減っていた。
「……自分だけ食べていったのか。なんで……なんでだよ日葵さん」
いつも作られる暖かい食事、今日はそれが無い。これからもこんな生活が続くのか、そう考えると震えが止まらなかった。あの冷たい眼差しが向けられるのはごめんだ、そう考えながら涼介は日葵と同じく食パンを1枚かじり牛乳を飲み家を出て学校へ向かった。
* * *
登校した涼介はクラスメイトと挨拶を交わしながら席に着く。あまりの顔色の悪さにクラスメイトが心配そうに声をかけてくるが、何でもないよと作り笑いを浮かべながら礼を言う。本当は今すぐにでも暴れたい、暴言をぶちまけたいと内心荒れていたが今まで作り上げてきた自分の印象を崩すわけにもいかないので耐えるほかなかった。
クラスメイトの雑談であり雑音は涼介のストレスを大いにため込んでいく。放課後になったらまた修哉をいたぶってやろうと心に誓うのだが修哉の座席を見るとまだ登校していないようで空席となっていた。無遅刻無欠席だった修哉が珍しいものだと考えていると始業のチャイムが鳴り、ガヤガヤとした雑談も担任教師の入室とともに終わりを告げた。
「え~皆静粛に。今日のホームルームだが皆に伝えておかなければならないことがある。大川の事だ」
周囲のクラスメイトが再びざわめく。修哉の無遅刻無欠席は皆知っているし、座席に座っていないのは初めての事。皆が気になるのも不思議ではない。
「静かに。その大川だが急な事情により……こうなってしまった。大川、入ってきなさい」
「はい」
涼介の耳に入ってきたのは聞き覚えのある声、昨日までずっと毎日聞いていた声だった。目を向けたそこにいたのは……涼介にとって今日は驚愕の日となったのは想像に難くない。日葵の豹変が昨日の事ではあったのだが今日もまた日葵の変わり果てた姿を見ることになったのだから。
担任教師に促され入ってきたのは干乾日葵その人だった、だがその日葵は男子の夏制服を着ており豊かな乳房により押し出されたポロシャツからはほんの少しだけおへそがチラリと見えていた。その姿を見た男子達が思わず声を挙げたが彼らを責めることはできまい。
「静かにしろ ! 今から説明をするから皆しっかり聞くように。本来このような話題は学校側と家族側のみで留めるべきなのだが今回は学校側もこればかりは逆らうことができない法的な説明責任がある。特に……干乾、お前はしっかり聞け。呆けてる場合じゃないぞ」
突然名前を呼ばれた涼介はビクッと肩を震わせ、周りのクラスメイトも一斉に鎮まる。法的責任と言われれば全員の背筋が伸びるのも当然といえば当然だろう。
「先日国会で成立した入れ替わり法を知っているか ? 知らないものもいるだろうが、イジメやパワハラ等への抑止力として作られたものだ。他の学校等では実際に行うのは及び腰であったが今回、干乾から大川に対する度重なるイジメを確認した学校側が施工を決断。昨日大川と干乾のお母さんを呼び出し事情を説明しお互いの身体を入れ替えた。したがって今ここに立っている干乾のお母さんは、身体はお母さんのものだが中身は被害者の大川修哉である」
「なッ……そんな、何かの間違いだ先生 ! 俺はしゅ、大川にイジメなんて……」
「先生も信じたくはなかったがな、学校で秘密裏に取り付けた防犯カメラの映像に残っていたよ。お前の大川に対する行動の一部始終がな。厳しいようだが、入れ替わり法は周囲への説明を速やかに行わなければならないと決められている。お前をここまでさらし者にしてしまうのは教育者として疑問に感じるが、これは先生としても学校側としても絶対にやらなければならない事だ。昨日お前を呼ばなかったのは、この入れ替わり法において肉体交換を行う際イジメの加害者を加えてはならないと記載されているからだ。悪く思うな。悔やむなら、イジメをした自分を恨むしかない。お前の行動が身内を不幸に巻き込んだんだ」
クラスメイトの信じられないとでもいうような視線が一斉に涼介に対して向けられる。例外は視線を横に向け苦悶の表情を浮かべる先生と、涼介に対してニコニコと笑顔を浮かべる日葵……否、修哉の顔だった。
「本来この説明を終えた後大川には休んでもよいと伝えているが、本人の希望でこのまま授業に参加することになっている。だから皆も偏見の目を向けないでやってほしい。先生からは以上だ」
先生の説明を終えると修哉は自身が座っていた座席前までやってくると周りのクラスメイトに対し『向日葵のような明るい笑顔』を向けて着席する。対象になった男子達は中身が修哉であるのはわかっているのだがどうしても鼻の下が伸びてしまう。美女からの笑顔とボンッと自己主張するおっぱいを目にすれば思春期の男子でなくともそうなる。
ホームルーム終了後も修哉はクラスの皆に「こうなっちゃったけどよろしくね」と挨拶を交わしていった。全員が好印象だった。理由は先ほど話した通りだが、男女関係なく戸惑いの気持ちもありどう接するべきかと様子見をしていたのだ。今回はかなりデリケートな話題であり迂闊なことは聞けないと、並びに先生が伝えたことは真実なのだと全員否応なくわからされており同情が集まったのだ。
こうして大川修哉は干乾日葵の身体を使いながらの学校生活が開始された。
授業中の修哉は非常に真面目に授業へ取り組んでいた。特に注目されたのは体育の授業、何故か ? 巨乳が体操着越しにバルンバルンと揺れ、若い大人の女性の瑞々しい唇からもれる『はぁ……はぁ……』『ふぅ……んん』というこっそり観るアダルトビデオに出演している女優のような姿や声が生で見たり聞けたりできるのだ。こうなると女子から嫉妬を向けられたりしそうなものだが、よく考えてみれば干乾日葵の身体はいかに若いと言えど御年3○歳。肉体的なピークはとっくの昔に通り越し基本下り坂、そんな身体を使い高校体育の授業に汗を流しながら食らいついていく修哉にリスペクトを感じたのだ。それに修哉はこれまでとは全く違う身体で生活することになっている。女性であれば化粧もしなければならないしスキンケアも必須。学校の授業に加えてそれらをするということは超多忙になるに違いない。彼氏持ちの女子も別に自分の彼氏へ色目を使わなければまあいいかと静観の姿勢。
こうして修哉は干乾日葵として学校での居場所をすぐさま形成していったのである。だが学校にいる間、涼介だけは『向日葵のような明るい笑顔』を向けられることはただの一度もなかった。むしろ徹底的に無視されたのである。無視してきたのは修哉だけではない、事情を知ったクラスメイト全員が涼介に対して氷の視線を向けてくる。一から積み上げるのが難しく壊れるのが容易いもの、それは信頼。今まで優等生だと思っていたクラスメイトが実はイジメをしていた、この事実が反動とになった言えばよいだろう。積み上げてきた物が高いこともあり失望も大きい。まさかあいつが…… ! ? と通常ならなるのだろうがここに法律云々の話が絡めば説得力が増大する。これでまだ涼介を信じられるのは実の両親や彼に絶大な信頼を向けている相手だけであろう。両親がいない彼にそんな相手がはたしているのか……。
* * *
輝かしい学校生活が一変して地獄と化した日の放課後、涼介は針の筵になった教室から逃げ出すように走って自宅へと戻っていた。修哉を殴ってストレス発散など今更できるわけがない、そんな事したら最後本当に学校に居場所が無くなる。相談できる相手と言えば本物の日葵しかいない、だが何処にいるかわからない。冷静になってなって考えれば可能性があるのは一箇所だけあるのだが、涼介もわかっているのかもしれないが内心認めたくないのかもしれない。またはそれだけ追い詰められているのか。
自宅に飛び込んだ涼介はそのまま居間へ逃げ込む。日葵と過ごした時間が一番多いこの場所が最も落ち着くのだ。
帰宅してから三十分ほど経過した頃、スマホの着信音がけたたましく鳴り響いた。
電話の相手を確認すると、映っていたのは日葵の名前だった。無意識のうちに通話ボタンを押した涼介は内心しまったと思ったが出てしまったからには相手が本当に日葵なのか、それとも彼女の身体を我が物顔で使う修哉なのか確認しなければならない。
「もしも〜し干乾くん、聞こえる?日葵さんの中にいる大川で〜す」
ガンと頭が殴られたようだった。日葵の声で、鈴が鳴るような綺麗な声で他人に話しかけるような言葉で、日葵の声で通話してくるこの事実に。
「実はね、大事な話しがあるの。スマホのモニターをオンにして。もししなくても音声だけでもいいけど」
涼介はしばし悩んだが言う通りにした、するしか無かった。日葵の身体が向こうにある以上こうするしかないのだ。画面には見たくもあり同時に見たくなかった女性の顔が大きく映った。
「ありがとう干乾くん。さっそく本題に入るんだけど……」
画面の修哉は彼が見たかった、『向日葵のような明るい笑顔』を向けてきた。にっこりと、あの笑顔の為に頑張れた、両親の死から立ち直ることができたあの表情を。
「今日中に荷物を纏めてその家から出ていってちょうだい」
修哉の笑顔は変わらない。本当に全く表情を変えずにそう言い放った。涼介には向日葵のような笑顔は質を変え、まるで食虫植物や毒花のようにその姿が変わったように感じられた。
「その家は……えっと、日葵さんの家だもの。家主が出ていけって言ってるんだから当然だよね。もし明日までに出ていってなかったら警察に通報するよ。」
「待て……待て修哉 ! 確かにお前は日葵さんの身体を使っているかもしれないが、日葵さんの所有物を扱う権利まで持っているわけじゃねえだろ ! ここは俺が日葵さんに住まわせてもらっている家だ。お前にどうこう言われる筋合いなんざねえよ ! 」
ここに誰もいない為か、涼介は普段から修哉に対して言っているような乱暴な口調で叫ぶ。これが涼介の本性なのだろう。
「……はあ、涼介くん、君って本ッッ当に馬鹿だよね」
「なんだと ! 」
修哉はさもやれやれと言うように大げさに首を振る。干乾ではなく涼介とわざと言った事も涼介の怒りに油を注ぐ結果となる。いや、修哉もそれを見越していたのだろう。
「君ってさ、殴られたり蹴られたりした事ある ? 考えてみなよ、そんな事してくる相手なんて好きになれる ? 許せる ? 自分の近くに置いておける ? 」
「お前何……言っ……て……」
涼介は段々と言葉に力が入らなくなってくる。昨日の夜ここで自分が誰に何をしたのか、それが頭に浮かび上がってくる。それが何を意味するのかわかってしまう。
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『大川……ッ ! ? てめえなんでここにいる ! 』
『り、涼介君……ッ ! 』
『なんで俺の家にいやがる ! さっさと出ていけ ! 』
『ま、待って修哉君、話を聞いて ! 私は……ッ』
『うるせえ ! 』
涼介は修哉の腹部を殴打、それだけでなく倒れた修哉に対し蹴りまで入れ執拗に攻撃を加えた。
『ぐッ……ッ、エぐ……ッ』
『明日覚えてろよ……いつも以上にひどい目にあわせてやるからな ! 』
涼介は倒れうずくまる修哉を引っ張り家からたたき出した。
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「君さ、昨日その家で僕の身体をいつもみたいに痛めつけたよね ? 今ならわかるよね ? あの時既に身体は入れ替わっていた、俺は日葵さんの身体にね。なら俺の身体に入っていたのは誰なのか」
「あ、あ……あああッ ! 」
涼介は頭を抱えて叫ぶ、必要以上に声が反響したのは彼の声量の高さ以上に誰も家にいない事も関係しているのかもしれない。
「修哉 ! 日葵さんに会わせろ ! いや、会わせてくれ ! お前日葵さんの居場所知ってるんだろ ! ? 」
「知ってるよ、でも会わせない。会わせるわけがないじゃないか。君みたいな暴力男に俺の大事な人を会わせて危険な目に会わせるわけがない」
「大事な人……だと ? 」
「そうさ。俺達は結果的に大事な身体を交換した、法律上はこの身体は半永久的に俺のものだから日葵さんは人質になったようなもの。だけど……本当に日葵さんは素敵な女性だ、邪な気持ちが無いわけじゃないけど今のところ俺は元に戻るつもりなんて無い。この身体でいれば日葵さんは俺から離れる事はないからね。だから……」」
修哉はスマホ画面の向こう側で、学校の制服越しに胸を揉み始める。乳房の付け根をなぞり、力に頼らずゆっくりと丹念に揉み解していく。
「おい、やめろ……おい ! 」
「ん……あ、はあ、ああ……本当にいい身体だ。アダルトビデオをレンタルするお金も惜しかった俺だけどこれならもう必要ない、だって自分で自分のオナネタを作ればいいんだから」
「やめろ……やめろ、修哉てめえ ! 日葵さんの身体に何しやがる ! 日葵さんいるんだろそこに ! ごめんなさい ! 謝るから戻ってきて ! 」
「干乾……いや……『涼介君、私……怖い……ごめんなさい。今は、会いたくない。ごめんなさい』これは君への伝言だ。本物の日葵さんからの」
目を見開き半狂乱になっていた涼介の顔が見る見る青ざめていく。日葵がそんな事を言うわけがないなんて言いきれなかった、それだけの事を昨夜したのだから。あの時落ち着いて対処していれば、いや、そもそもイジメなんてしていなければ……。
「そういうわけだから。今後の住居や生活等に関しては学校に相談するといいよ、話はこれだけ。じゃあ……」
修哉は胸をまさぐるのを止めて服装を整えると、改めて画面に向かい合った。
「それじゃあね、涼介君」
修哉は『ラフレシアのような明るい笑顔』を向けて通話を切った。
「ちくしょお……許さねえ……絶対に許さねえぞ修哉ァッ ! 」
誰もいない家の中で涼介は、誰もいない空間に向かって一人吠えた。頭にあるのは修哉に対する怒りのみ、しかしそれは自分で振りまいた種でありその蔦は涼介自身を絡めとったにすぎないのだ。
後日、涼介が婦女暴行の疑いにて警察に逮捕されたと新聞に掲載されたのだがそれが入れ替わり法が原因だと載る事はなかったという。
+ + +
入れ替わり当日の日曜日
「こ、これは…… ! ? 」
涼介について大事な話があると学校に呼び出された日葵は待っていた校長先生や副校長先生、担任の先生から挨拶を受けてから応接室に通され、そこで初めて大川修哉と顔を会わせた。日葵はこの時点で何か嫌な予感を感じ冷や汗が止まらなかった。学校側から提出された証拠品や修哉の証言を聞いていくと次第に日葵は顔面蒼白になっていく、おそらく自分の顔は酷いことになっているのだろうと自覚していた。
「も、申し訳ございません ! 大川君、本当に、謝る事しかできませんが……本当に申し訳ございません ! 後日改めて涼介君……いえ、涼介を連れてご自宅へ謝罪に伺いますので……」
「いえ、いいですよ。自宅に来てもらったところで、俺には家族なんていませんから」
修哉は身の上を話していくと土下座をしながら聞いていた日葵の顔から増々血の気が無くなっていく。地雷を踏んだことを理解した日葵は次に出すべき言葉を失ってしまった。
「干乾さん……俺はどうしても干乾涼介を許すことなんてできません。お金は絶対に渡さなかった、暴力を受けても最後まで粘った。だけど決して好きでやられてたわけじゃないんです。親がいないのは一緒です、だけど、あいつには貴女がいた。俺には味方なんていない。だから、学校の先生がこっそり証拠を集めてくれて……この生活が終わるならこの方法を使ってでも、自分の身体を明け渡してでも……」
「か、身体…… ? 」
これまで言葉を発さなかった校長先生が説明に入る。今回の事例は先日新法律として制定された入れ替わり法に該当する。使用するかどうかは被害者である大川修哉に委ねられるが先日修哉が入れ替わりを決断、学校側も実行に踏み切ったのである。
・大川修哉と干乾日葵の身体を入れ替える。期限は修哉が指定する。
・互いの資産や権利までは交換されない。
・加害者側である干乾日葵には拒否権が無い。ただし期限に関して意見することは認められる。
・性行為を行う場合、互いの合意がある場合のみ行えるものとする。強姦した場合は厳罰に処す。
「わかり……ました。ただ、一つだけ。確かに証拠があるのは認めますし大川君が嘘をついていないとは思います。でも自分の目で見ない事には納得できないんです。ですから期限の条件に一つ意見を。もし7日……いえ、5日以内に涼介が入れ替わった私に暴力を振るわなかった場合、身体をもとに戻してください。私は最後まであの子を信じたい……勝手な言い分だとは思いますが……お願いします」
日葵は最後まで修哉に対して土下座したままで自らの意思を伝えた。顔は見えないが並々ならぬ覚悟と涼介を信じたい気持ちと疑念が入り混じっているように感じ取れた。
「わかりました。でも……俺の予想では、1日持ちません。ですから、今日中に暴力を振るってきたら日葵さん。貴女の身体はもう戻らない。そう思ってください」
床を向いた日葵はそのままの姿勢で一瞬だけ身体を震わせる。細く小さな声で、はいという他無かったのだ。
数時間後、教育委員会からの使者を名乗る職員が学校に到着。専用機器を使い修哉と日葵の身体を入れ替えた。立会人は校長、副校長、担任、そして教育委員会の職員であった。
(信じていいんだよね、涼介君……)
* * *
修哉と日葵が干乾家に着いたのは夜中の11時頃であった。入れ替わり自体は夕方頃に終わったのだが、互いの生活についての情報交換と大川家の合鍵作製の為だった。どうして ? と日葵が尋ねるも、予想通りなら必要になるからと修哉はそれしか言わなかった。急ぎで作られた合鍵は日葵に手渡され本鍵は修哉がそのまま管理する。
干乾家の明かりは消えており人の気配は無い。
「た、ただいま……涼介君、いる ? 」
「失礼します……いや、ただいまかな。どうなんでしょうね、この場合」
はは、とぎこちない笑みを浮かべると先に修哉が玄関に上がる。中身が男なので日葵が履いていた靴は揃えられることなく脱ぎ捨てられる形になった。今まで規則正しく、礼儀正しく生活してきた日葵にとって自分の身体が真逆の行動を取った事を複雑な気持ちで眺めていた日葵は軽くため息をつき自らも靴を揃えて中に入る。
居間の電気を点けるとすぐに修哉は日葵にある提案をしてきた。
「日葵さん。あいつの事だから貴女の事を心配して探しに行ったんでしょう。でもね、この後彼の本性がわかると思います。いつもあいつから暴力を受けていた俺だからわかるんです。ですから、この家にいるのが嫌だったら俺の家を使ってください。その為に合鍵を作ったんですから。あいつが帰ってくるまで俺は二階に隠れていますから」
そう言うと修哉は二階へと上がっていった。自分の家で、他人の身体でソファーに座る。女の身体とは違う、身体が固く力がある。それに……男女で決定的に違う部分が。
(お、男の人の身体だから、妙に意識しちゃうわ。お手洗いの時触っちゃったけど、か、硬いのね……)
余裕がありそうに見えるがそう考えないと異性、しかも年下の少年の身体にいる緊張感に耐えられない。
(それにしても、私がこれだけ異性の身体に戸惑っているのに修哉君どうしてあんなに余裕なの ? 今時の子って女性慣れしてるのかしら ? )
そっと硬い胸板と男のペニスを服越しに触れていた時にガチャッと玄関のドアが開きドタドタと音を立てながら居間に涼介が入ってきた。
(涼介君ッ ! )
不意を突いたかのように現れた涼介に対し日葵はかける言葉が出てこなかった。事情を説明するべきか、それともイジメをしていたことを るべきなのか。だが先に言葉を発したのは涼介だった。
「大川……ッ ! ? てめえなんでここにいる ! 」
「り、涼介君……ッ ! 」
「なんで俺の家にいやがる ! さっさと出ていけ ! 」
「ま、待って修哉君、話を聞いて ! 私は……ッ」
「うるせえ ! 」
涼介によって日葵は胸倉を掴まれ顔面を強打、倒れこんだところに腹部を蹴られる。
「ぐッ……ッ、エぐ……ッ」
「明日覚えてろよ……いつも以上にひどい目にあわせてやるからな ! 」
靴と一緒に家の外へ放り出される。自らの身をもって日葵は思い知らされた、修哉と学校側が言っていた事は事実なのだと。そして自分が干乾日葵の身体に戻る事は二度と無いという事を。
「……痛い」
痛いのは身体だけではない。心も……最後まで信じていた、自分の弟のように可愛がっていた子に裏切られた事実が一層日葵を痛めつけたのだ。
ズボンのポケットからチャリンと零れ落ちる大川家の合鍵、必要になるとはこの事だったのかと合点がいってしまった日葵は痛む身体を引きずりもう一つの家へと歩いて行った。
* * *
翌日の夕方
日葵は大川家から自分の家に戻る気になれず外に出ることなく男のアレを行っており、自分の身体で帰宅した修哉を迎えるという奇妙な形となった。
「……俺の身体、気に入って頂けたようで何よりです」
「そ、その……ごめんなさい。掃除、きちんとしますから」
外から来たものならわかる程の独特の臭気、何度オナニーをしたのかわからない。やることも無いので少し触っていたら段々気持ちよくなり発射、ついのめりこんでしまったのだ。なにせ初の男の身体でのオナニー、新鮮だったに違いない。それはゴミ箱に溜まったティッシュの数が物語っている。
「ま、まあそれよりも……どうですか、俺の時よりもひどい有様ですが俺はあれを何度もされてきたんです」
高揚していた顔から今度は青くなる日葵の表情。昨日の出来事を身をもって味わった以上もう涼介をかばうことはできない。そして……涼介の表情、怒りにまかせた鬼のような表情と男の力、考え出すと震えが出てくる。たとえそれが自分の弟のような相手であったとしても。
「怖かったと思います。そのうえで確認したいです、あいつがあの家にいる限り日葵さんは自分の家には帰れません。だけど入れ替わり法では相手の資産や権利まではどうにもならないみたいなんです。だから……日葵さんが身元引受人の権利を放棄すればあいつを追い出す事ができます。今回は特例として、すんなりいく筈だって先生も言ってました」
考えさせてほしい
そういうべきなのだろうと日葵は心の何処かで思った。そう、『心の何処かで』だ。涼介に対する恐怖心、裏切られた事による失望感、それらが組み合わさった事により日葵は力なくコクンと頷いた。
それからは修哉が先導して学校へ連絡、日葵の意思確認を行った上で今後の方針も決まった。修哉と日葵、そして涼介のアフターケアは学校や教育委員会等の関係機関で行う事となった。今後書類にサインをしに行くこととなる。
「日葵さん、俺はこれからあいつに連絡します。家から出ていけって……何か伝える事は……」
今にも泣きだしそうな日葵からはただ少しだけ……。
「涼介君、私……怖い……ごめんなさい。今は、会いたくない。ごめんなさい」
「……わかりました。電話には俺だけ出ますから」
日葵はその後の修哉と涼介のやり取りを部屋の片隅で聞いていた。演技なのだろうか、修哉が自分の身体を触っている。いかにも自分の身体をもてあそぶようにしている。前なら怒りの一つでも湧いただろうが、今はお互い様かと、自然と落ち着いた心持であった。
(まるで……まるで私の方が子どもみたい。子どもの身体で縮こまる私、大人の身体で毅然と対応する修哉君……今の姿の方が正しいみたい)
今の修哉に頼りがいを感じる自分、不甲斐ない自分、日葵は全てを放り出してしまいたい気持ちに囚われ電話が終わった直後に深いため息をついた。
「ふう、疲れた……後は明日すぐに市役所で書類を作成すれば大丈夫です」
「そう……ありがとう、いえ、被害にあった修哉君に頼るのもおかしな話しよね。ごめんなさい、肝心な時に頼りにならない大人で……いっそ半永久的と言わず、このまま私の身体を貴方に差し上げたいくらい。これくらいしか、私にはできないもの」
自暴自棄になった己の身体を見た修哉は声をかけようとしてピタリと止まる。
修哉にはこれといったストレス発散方法は無い。ごく一般家庭の娯楽すら楽しむ余裕が無かった彼にとって選択の幅は驚くほど狭かったのだ。それがムクムクと顔を出し始めた。涼介はイジメ、暴力行為をストレス発散方法とした。ならば修哉は ? 今の、干乾日葵の身体を手に入れた大川修哉は ?
「そ、それならお願いがあります。今の日葵さんにしか頼めない事なんです」
「な、何かしら ? 」
日葵にとっては初の被害者からの頼まれごとであり一種の逃げ場のようなもの。言うことを聞けば気持ちも楽になるか。
「俺に……あなたを悪戯させてください」
「は、はい ? 」
日葵の頭に浮かぶクエスチョン。何を言っているのかわからない。返事を待たず修哉は自分の服を脱ぎ座っている日葵の服を器用に脱がせ背後から開脚状態にして自らの足で股関節の上から押さえつける。
「な、なにを……」
「日葵さん……」
修哉は日葵の耳元で囁くように声を掛ける。自分の声が空気を伝わり自分の耳に届く、確かに自分の声なのに別人の声に聞こえた。
「日葵さん、俺……私のペニスでオナニーしたのよね。どう、気持ちよかった ? 」
修哉の爪が日葵の大胸筋をなぞっていく、汗がにじみ声が出そうになる。横目で修哉を見ると時折見せていた困り顔から悪い女のような薄笑いを浮かべていた。
「その……気持ち、よかった……です」
「いったい何回イったの ? 」
「そ、そんなの数えてないわ ! 」
「数えられないくらいイったわけだ。他人の家で勝手に一人で盛り上がっちゃったんだ……」
口調も女性に似せた形でなおも語り掛ける修哉、一方で日葵は何も言い返せない。そもそも他人の家でオナニーをしたというのは事実であるから。
「いいのよ、もう貴女の身体だもの。好きに使っても……でもそれじゃ足りないわ。私が物足りないもの、もっと、もっと私の身体に慣れてほしいな」
ジーと日葵のファスナーを下すとカチコチに硬くなったペニスを自らの両足で挟み込んだ。
「な、何をする気なの ! ? 」
「決まってるわ、強姦は禁止されてるけどオナニーのお手伝いは禁止されてないから……若い燕のストレス発散をしてあげる」
修哉はあえて手を使わなかった。最初はそれもいいと思ったが何となく足でやってみたくなったのだ。ただそれだけ……それは本人も自覚していない事だが涼介と同じだった。
「や、やめ……」
「やめてほしいの ? こんなにカッチカチなのに ? お姉さんの足に、自分の足に挟まれるなんてそうそう経験できないわ。そんな暗い顔してたらこっちも困るわ。ほら……リラックスして、お姉さんに任せて……」
身体が入れ替わった。自分の身体が他人に使われている。自分の身体が足で責めてくる。人生初の経験がスパイスになり程よいペニスへの刺激が、自分の足裏から伝わる体温が日葵の緊張をほぐしていく。日葵の身体は修哉によって使いこなされ絶妙な力加減で修哉の身体の日葵を責める。グニュグニュとペニスが歪み先端からカウパー液が垂れてくる。
「わ、私の足なのに、私の身体なのに、どうして君はそんなにテクニックが……」
「ふふ、ぶっつけ本番に決まってるじゃない、こんな事一人でできるわけないんだから。それよりもどう ? 自分の足で新しい身体をグニグニされる感想は。いいんですよ楽になって、むしろ楽になってください。ほら、とってもいいお顔……鏡で見ます ? こんなに気持ちよさそう。おチンポ苦しそうなんだから一発出してすっきりした方が身体にイイですよ」
日葵が近くに置いてある鏡を視界に入れると、そこには口がだらしなく開いた自分の顔があった。熱に浮かされ絡めとられた蝶のように……その背後には邪悪な笑みを浮かべた自身の身体があった。今の力がある身体なら簡単に振りほどけそうなのにできない。身体が言うことを聞かない。
「それはね……貴女が望んでいるからよ。干乾日葵にいいようにされる事を……」
「ち、違う、私は名前まで差し出したわけじゃ…… ! ? 」
「わかってますよ、でも、二人きりの時だけならどうです ? 高校生に対して何もできない弱い自分になれるんです。社会人であり責任ある立場の『干乾日葵』ではなく、ただの高校生『大川修哉』になるんです。外では大人として、家では子どもとして。ほ~ら、素直になりましょう ? その身体みたいに……ね」
鏡に映る自分は高校生の身体になった自分、後ろで自分をにやけながら悪戯する修哉。異なる心に異なる身体、まるでこれからの二人を象徴するかのような姿だった。
「ま、また……い、イッちゃう……さっきみたいにイッちゃう ! 修哉君の身体なのにィッ ! ? 」
「いいの、我慢しないで。その身体に慣れてちょうだい、自分の足でイくのよ。違う身体で男の身体で、元の身体にイかされるのよ ! 」
体内から絞り出されるような熱い生命の塊が精液という形で日葵の体外へ吐き出される。何度も射精してきたにも関わらずそれでも色が薄くなることは無い。これが若さなのかもしれない。
「ああ……わた、私、こんな顔して……こんな……」
「ふふ、いいお顔じゃない。サルみたいに盛る貴女にとってもお似合い、色ボケ高校生らしい素敵よ、今の貴女は……ふふふ」
本当に愉しそうにくすくす笑う自分の顔。それを見た本物の日葵は慣れてしまった快楽に身を任せるように手放してしまった己の身体にしなだれかかった。
修哉のストレス発散、それは『自分を痛めつけた涼介の保護者を自分の身体ごと自分に依存させる事』、涼介のように単純ではないものの非常にねじ曲がった方法である。年上の美女が自分の身体に入っている、自分はその美女の身体に入った。美女が自分の身体から出られず弱り切った精神を自分に依存させていく。だらしなく緩み切った顔で自分によたれかかる日葵を見て思わず同じような表情を取りかかる修哉は取り繕うのに精いっぱいであった。
思わぬ形で自分のストレス発散方法が判明した修哉だったが、この事実は誰にも漏らさないよう固く誓う。
(もうこの身体は手放さない。日葵さんは俺に弱みがあるしこのまま俺の身体で過ごしてもらおう)
修哉のこの願いは入れ替わり法だけではなく、後日の涼介の婦女暴行という凶報にてより確実なものとなる。日葵の身体で外出していたところ涼介が接触してきたのだ。日葵の身体を使う修哉に対して暴行をしようとした、それは入れ替わり法が起こした悲劇ではあるが詳細が新聞に載る事はなかった。
(ありがとう干乾君、お前のおかげで俺は半永久的ではなくこれから永遠に日葵さんの身体を使える。日葵さんはお前には大きすぎる、これからも俺と一緒に過ごしていくんだ。ずっと、ず~っとね……)
イジメの代償、それはあまりにも大きすぎた。