背中が大きく開かれたきらびやかな黒いドレスが引き締められた腰を引き立て、美麗で蠱惑的なその黄金比の肉体を人類の誰から見ても魅力的と思えるように視線を誘導していた。歩く度に左右に揺れる尻はドレスに隠れていながらも、はしたなさを醸し出し、ゆらゆらと空を舞う象牙のような艶を持つ長い黒髪はドレスと同じ色ながらも完全に調和し、ほんのり甘い香り──初恋の匂いをふわりふわりとまわりに広げている。
帝国旅館。大日本帝国時代から続く西洋建築のこの建物はもともとは政府高官、所謂お偉いさんが会食や休暇で用いるVIP中VIPのみ入れる高級旅館。そこに、ミワシ部隊総隊の長である烏有大佐が潜入のためにVIPになりすまし、天井を彩る天使の銅像たちを無視しながら大理石の廊下をカッカッカッとヒールを鳴らしながら歩いていた。
「それにしてもこの格好とはな……」
頬を赤らめるのを必死にこらえ、何事もないように平然と振る舞っている。しかし、室町時代のお嬢様である彼女は肌を多く見せることに対して、限りない羞恥心を覚えてしまっている。
廊下の先に広がる大部屋には盛大な晩餐が備えられ、淡い光を灯し続けるシャンデリア、クラシックを奏でる音楽隊、優雅に踊る参加者一同。まるで一世紀前の仮面舞踏会へと言ったような錯覚に陥るが、これはそうではない。
中央のステージを横断するように掲げられている『石名坂を偲ぶ会』、時田平郎元内閣特命境界防災担当大臣の政治資金パーティーである。石名坂禍災を偲ぶことを名目に、時田閥の政治家や企業の重役が集う場であり、烏有からすれば虫唾の走る場所でもある。
(まったく、忌々しい……)
荒ぶる感情を抑えつつ、侵入のために着けた
「おや、本日も麗しいですな」
瞳をわずかに動かし、ゆっくりと差し伸べられる手ではなく、相手の目を見る。薄く細められた目に写る忠誠心。にやりと、微笑む烏有は喜んで白髪の老人の手を取った。
「ええ、土倉さん。お久ぶりです」
「いやいや、こちらこそ土倉家を支援していただきありがとうございます。おかげさまで、先代ぶりに神祇官を家の者から出すことが出来ました」
「それと……娘はどうですか。よく馴染んおられますか?」
「ええ、とてもよく馴染んでいます。娘さんのおかげで、私共々助かっております」
「それは良かったです。では、私めはここいらでお暇させていただきます。引き続き、パーティーをお楽しみください」
このパーティーの招待状を渡してくれた協力者を見送り、決められていた席に座る。丁度、ダンスが佳境を過ぎ、一同が烏有みたく席に座っていく。時田は座り終わるのをじっくりと待ち、仰々しく口を開いた。
「みなさん、来てくれて感謝する。石名坂で起きた禍災を忍び、同地の復興を皆さん方が誰よりも望んでいることだと思う」
「日本の境界防災の不出来なところが露呈し、起きた人災でもあり、国家で対策出来た事件だ」
「改めて、元でありつもも境界防災担当として境界防災の不徹底を謝罪したいと思う」
深々と頭を下げ、数拍待った後に顔を上げる。
「しかし、このような事件をまた起こしてはいけない。先週行った柏手電気社長との懇親会でも言ったが、境界防災だけではなく穢力を取り巻く現状はひどく歪だ。穢力ばかり制限し、境界防災は私の退任後に進展もしない。日本を想う者たちが辛酸を飲み、苦しむばかりの現状! 変えなければならない。そこでわたし、時田平郎は次の選挙に参加し宗教事業法改正を実現して正しい境界防災を成そうと思っている!」
大声の末に沈黙が続き、場の空気を熱狂に変える拍手喝采が為される。そう、この場に居る二人を除いて。
烏有大佐の脳内を駆け巡る。様々な記憶、様々な感情、様々な思考。その全てはひとつのことに帰結する。
「殺す」
誰にも聞こえぬようにひっそりと呟かれた怨嗟は誰かが聞いているならば震え上がるほどの凄みを、歴史を抱え、言霊となって空に消える。時田という男の悪行、自分のクローンを作り消耗品としたこと、国益のためと言って捕らえたミワシ部隊員を縁起に変えたこと、境界防災という分野に非倫理性を持ち込んだこと。記すのであれば原稿用紙数枚が要るであろう時田の行いは烏有を激怒させるには十分である。帝国に囚われた亡霊である彼女だからこそ、また自分みたいな人を増やすつもりなのかと思わず叫びそうに喉がひきつる。
故に、今ここで殺すのだと烏有はドレスに備え付けられたボタンを押し、空間転移で送られてくる愛刀たる六刀『魂葬』の一閃で以てして、すべて終わらせる。
「それはちょっと良くないから──ー」
「その縁、切ったよ」
二人目が、それを止めるまでは。
「中臣千萱……」
烏有が出会いたくない人物の頂点に居る。烏有が過去なら、今である千萱。
「烏有君……今日は敵じゃないさ」
相手に染み込むように呟く。烏有の眼前に広がる千萱の姿。白タキシードに黄色いネクタイ。麗しの貴公子を錯覚させ、黄色い歓声が飛びかねないほどの美。烏有はそれを見て、顔を顰めた。
「なんだ……色仕掛けのつもりか?」
「おや、お気に召さなかったか。吾とて、今回は自信があるんだが」
千萱を軽く押して、その言葉を無視して警戒する様相で聞き返す。
「何用だ」
「烏有君の逮捕と言ったほうが吾の仕事に合うが、そうじゃない」
「提案さ、共同戦線の。ほら、陸さんとて海軍と組んだことはあるだろう?」
烏有には理由がわからなかった。にっこりと微笑む千萱の脳で何が考え出され、何故に共同戦線を提案しているのか。
「そうか……」
思考を凝らす。
「ふむ」
思考を凝らす。
「時田か」
「そう、あれは吾にとっても見逃せるものじゃないんだよ」
烏有の瞳に再度怒りが溢れ出るその刹那。千萱、本来ありえない摩訶不思議でおかしな縁がわかる。隙だらけの烏有、今ならばその縁を結べる。
「わるいね、初めてだったら」
その顎をぐいっと掴み、唇と唇を隔てる距離をゼロにする。
「んっ!? ん~~!!!」
「っ……んっ……れろっ……んふっ……」
ぷはっという音と共に離れて行く二つの舌には唾液の架け橋が架けられ、高まっている体温のせいか白い息が橋を霧のように覆って、ぷつりと切れた。
「っな、ななな」
「なにを──」
怒りが一瞬で恥ずかしさに転じて、大声を出しそうなその時。再び、唇が逢わせられる。
近くに座っていた令嬢がまぁと言わんばかりに頬を赤らめ、烏有もそれに似た色になっている。思考が必死に理由を探すも、見つけられず。混乱する最中に千萱から告げられる。
「お静かに」
優しい声色は甘美な毒のように染み付き、烏有は借りてきた猫みたくすんと静かになる。千萱はゆっくりと烏有の手を掴んで会場を後にする。
「意外に初心だね、烏有君。君に向けられた縁の数を考えれば……これくらいの浮名程度、隊の誰とでも流していると思ったけど」
「そ、そんなわけあるか! 小官は少なとも足利将軍家が京を統べられる時以来は……」
「それは良いことを聞いた。だが、とりあえず話を進めようか」
千萱は幸い烏有を落ちかせて、自分の部屋に入れたのは良いが……自分の結んだこの縁には困惑するしかなかった。しなやかな人差し指を自身の唇に添えつつ、ほんのりと赤みがかった頬。職務と理想に忠実である千萱は今まで男どころか、女に接吻したことなんてない。関係を発展させたことも、そのような縁を結んだことも、無い。すべてがかつてテレビで見た安っぽいラブコメや恋愛小説で彩られた未知。そうであると知っていても、そうであると知らないように。
「どのみち死ぬよ、時田は。吾はすでに毒を仕込み、彼が家に帰った頃に効く」
「前に共同戦線と言ったが、要はもう手出し無用ってわけだよ」
そうかと零し、千萱の部屋にある椅子に座る烏有はやや泣きそうな顔を一瞬、見せるもそれを奥に隠したのか表情が元に戻る。
「ああ、もし嘘だと思うならば──」
「いや、いい」
断言。新興宗教の新聞を断るように、きっぱりと。
「なんでだい?」
「子どもの頃から、君が小官に嘘をついたことはないだろう?」
千萱は目を見開く。その美しい瞳が僅かに揺れ、過去に手が届くように想起する。泡沫のようなかつて子どもの頃に出会った烏有という人物のことを。
「まさか、覚えているとはね。それでも、吾が今日始めての嘘をついてもおかしくないはずだ」
「なら、嘘であると言ってみてくれ」
「嘘だ」
「ふふ……それこそが嘘だろうな。小官にはわかるんだよ、どんなに感情を隠すのがうまい相手であろうと嘘をついていることくらい」
キリッとドヤ顔をするこいつを千萱は気に食わない。外聞で作られた貴様の殻の正体を知っているとばかりに見透かしてくるこの女が気に食わない。感じたこともないような衝動。困惑。激情。千萱はとにかくこの顔が気に食わない。
「そんなにわかっているなら、何故吾の胃薬を増やすようなことをするんだ」
内なる心が咆哮する。そこまで吾を知った気で居るならば、何故吾の側にいない。何故、力を貸すのでなく、敵対するのだ。
「過去の亡霊。君はどうして、敢えてその座に甘んじる」
「今を、これからを生きる吾たちを眺めて嗤うつもりかな。それとも何か、長幼の序だとでも言うのかな」
刹那。黒いドレスが地面に触れる。烏有の長身が千萱に抑えつけられ、淡い息が耳にかかる。
「!? 待て待て待て、もう十分だろう! 貴様は別にそっちのケがあるわけじゃないだろう!」
必死に身動ぎし、拘束から逃れようと足掻く。ドレスが擦れ、その白い肌がわずかに扇情的な汗に濡れる。
「答えろ」
冷静な千萱から見れば、驚くほどの強い口調で迫る。これを茶化そうとする烏有を、これほど思考を乱してくるこの女を。
「……言ったところでどうするんだ。小官をもう逮捕しないとでも言うつもりか?」
嘆くように口を開く烏有を見て、千萱はやはり知りたいと思った。呪詛犯罪者の過去を知ってはならないという祓魔組織の共通の規範。それは情によって公務の執行が妨げられないための絶対なる鉄則であり、千萱自身がまれに教えることになる古則。
『呪詛に堕ちし非人、技以外深く知ることなかれ』
遡れば平安までにたどり着くそれをタクティカル祓魔師(新たな世代)たる千萱は無視することにした。
「言え、まず聞いてからだよ」
「はぁ……この体勢で聞くことか?」
「…………」
「かつての日本がそれを望んだだけだ、簡単じゃないか」
茶化したくとも、茶化しきれない。烏有という存在、賀茂■■を卜号作戦に縛り付け続けている楔は冗談にできるほど傷が浅いわけじゃない。意思に反し、縛りに従う日々。その縛りのために同胞が一人、また一人と消えていき、やがて一人になる。今の同胞ですら、どうせ小官を置いていくのだろう?? と冷めた目で見てしまうことがある。そんな自分を嫌悪し、畏怖し、消してしまいたいくらいに呪った。
「千萱、貴様にはわからないさ。何度言葉を尽くしたとて、変えられるわけではない。貴様は亡霊じゃない、貴様は縛られていない」
「違う」
「何が違うんだ! 貴様は自由じゃないか! 貴様はやろうと思えば隠居できるじゃないか!」
「小官にはそんなもの……そんなものはあの長い眠りから起きた時点で無かった」
「それともなんだ、貴様はこれを見てなにか出来るとでも言うのか!?」
烏有が肩を少し揺らし露わになる黄色い肌。首筋にあるそれは一面に広がっているわけでなく、規則正しく、何かしらの模様を描く。帝国の証、かつて栄えた日本の古き姿。十六の花弁で彩られ、時代を問わずに尊ばれる陛下の家紋。それが刺繍のように刻印され、凛然と肌に佇む。痛々しそうな烏有の顔を見て千萱は理解する。
「……」
「はっ、だと思ったさ。千萱、貴様だって何や出来やしない」
「そして、知ると良い。貴様の邪魔をしているのは」
「大日本帝國の意思だということをな」
明らかになる縛り。その意味、その価値。赤裸々にわかってしまう。陛下の御前にて行われる日本最上級の契約。烏有という宿敵が自分の意思で無く、当時の軍部の傀儡であることも。
「気に食わない」
そう、気に食わない。ただただ、気に食わない。中臣千萱はこれが気に食わない。
「気に食わない」
新たな縁が見える。烏有の体をより強く押さえつけ、焦っている顔を一介して、この衝動に流される。
「気に食わない」
ゆっくりと、けれど繊細でなく乱暴な手つきで烏有のドレスを緩める。触ることでわかる烏有の体躯。男であれば、迷わず虜になるであろうその体つき。柔らかくも、鍛え抜かれた筋肉質な肉体。
「落ち着け!」
「クソっ、破れずの──ー」
烏有の発する言霊は詠唱となって発露し、千萱の行動を止めるはずであったが。
「んぅ!?」
接吻。言霊はあっけなく離散する。
「や、ぁ……め! んぅ……ちゅっ……ぅっ」
「……ちゅっ……れろっ……んふ……ちゅ」
烏有の口内を一匹のヘビが蛇行しながら襲いかかる。歯をゆっくりとなぞり、捕食対象の舌を捕まえる。逃げようとする獲物を捕らえ、ヘビは逃さない。くちゅっ、くちゅっと淫靡で卑猥な音が鳴り響く最中。口内にて混ざる二つ息がやがて、同じ気温になる頃。ヘビは満足して、去っていく。
「ぷはぁ……はぁ……なんだ、生娘みたいじゃないか」
「はぇ……ちがやぁ、なにゅを」
だらんと垂れた烏有の両手を見て、もはや押さえる必要はない。力なき、ミワシ部隊総隊長は千萱にとってはそこらの娘となんら変わりがない。腕を腰と首の裏に通して、持ち上げる。180cmもある彼女の体はやけに軽く感じ取れ、そのまま落とした。
ぎしっ。ベッドが揺れる。
潤んだ瞳がかすかな涙と共に睨んでいる。
「ちがやっ、小官になにをした」
「縁を切った、簡単なことさ」
「それも」
「君が吾から離れたいと思う縁をね」
千萱の顔に現れる相手を安心させるためでなく、勝負に勝った時に浮かべる獰猛な笑み。
「戯言をいうなぁ! そんなことあるはず」
「ないと? じゃぁ、なんで君は吾を拒絶しない」
「それはだなっ、貴様がその変様な術を小官にかけたからだ」
ぎしり。ベッドが軋む。千萱がベッドに乗り込み、必死に言い訳を並べる烏有に這うように近づく。左手の人差し指でかかと、ふくらはぎ、尻の順にそっと撫でていきながら。冷たい感触がじわり、じわりと烏有に伝わり、体を震わせる。
「んっ」
「ほら、すぐこうなる」
「この縁は必然なんだよ。どれだけ立場を背に強がっても、本当の烏有祓魔大佐はこれを望んでる」
「ちがっ」
「なら、なんでそんなに期待を含んだ瞳で吾を見るんだい?」
「っっ…………」
満足感。今まで感じたことがないほどのもの。政敵を引きずり落とした時や自分の立てた計画が予想通りに進んだ時をいとも容易く凌駕する。千萱はその感覚に酔う以外、縁がないように錯覚に陥るも、いつも冷静な脳は不必要だと断じる。されど、千萱は機械ではない。
そう、人間であるからこそ屈服させたい、従わせたいといった感情を抱く。非合理的で浅はかな考え。常人ならば唾棄し、日常を生きる社会的動物の欠陥部分。それを千萱は甘んじて受け入れた。
「吾ですらおかしいと思うとも。だがね、これは烏有君。すべて、君のせいだ」
中臣千萱という生き物の奥底に潜む感情を呼び起こしてしまったのだから。
「ぁっ、ち、がや。いまな、らまだ」
「おこら……んっ……ない……から」
省内の裏切り者、予算だけ要求してくる機動班、問題ばかり起こす隊員に上層部の折衷を、尻拭いをしてきた中臣にとって今更怒られるといったことは些細な問題だ。日本に溢れかえる終末の縁を、針を糸に通すような繊細な作業でその縁を切ってきた。全ては理想のため。子どもが界異に脅かされない未来の到来へすべてを殉じてきた。しかし、溜まりに溜まった激情や悔い、疲れは千萱の奥底に封じられ無視されてきた。
「烏有君」
彼女が容赦なく、それをこじ開けてくるまでは。
「吾に喰われたまえ」
甘い香り、脳をクラクラとさせる失恋の匂い。千萱が抱いていた烏有大佐という偶像はもはや崩れ、目の前に広がっている女性はぎゅっと目を閉じている。まるで、受け入れるかのように。
「ちゅっ……っっ……ちゅっ……ちゅっ」
何度も響くリップ音。鼓膜を微かに揺らし、甘美な音色を伝えていく。塩味をほんのりと感じさせる水滴をものともせず、烏有の首元に何度も。何度も。
「んぁっ……ちがや、やっぱ……っ……りやめよう」
「よくっ、ないんだ……っ……貴様だって立場が」
今更臆するのか、この女。率直に千萱はそう思った。
「!!???」
重ねられた弁論は意味を為さずに千萱は烏有の上に乗る。ネクタイを緩め、投げ捨てるとそのまま烏有を抱き潰す。声を上げることも口内に入り込んでくる舌が許すことはなく、微かに数センチ大きい烏有の体躯を味わうように、吟味するように。豊満な双峰同士がぶつかり、服越しで擦れていく。
「はぁ、はぁ」
激しい息遣いをする千萱を見て、烏有はどうすることもできなかった。離れたいと思う縁を切られたから抵抗──理性を働かせることができなくなったわけではない。調伏されわけでもないのに、体が、思考が千萱の、宿敵の言いなりになりたがっている。瞳に映り込む彼女の黒髪が、何故か。何故か。手放したくないと、思ってしまうのだ。
「まぁ……千萱、今日……っ……くらいはいいさ」
「っ! そうか、烏有君。君はそうして、吾を惑わせにくるのか。この妖狐が」
「妖狐……ぅっ……ん……なんだっ……その言い方は」
「時期にわかるとも」
場はすでに狂っていた。穢淫の座する淫乱な楽園の如く、情欲が支配者としてその手腕を振るっている。已己巳己な二人が、為すべきことは自明だ。
「さて、耐えられるかな」
千萱は悪どい笑みを浮かべ、烏有が体を許す。歪で堕落的な破滅へそのまま身を投じた。五本指で撫ぜるように下腹部を擦っていく。
「なん……だ、これっ」
「流石に室町にはないか、これは」
じんじんと温まっていく部位。生命の揺り籠たる子宮の真上にあるそこを一気に。
「押す」
急激に押された子宮は緩急がつくまでもなく、収縮し、快感となって爆ぜる。ゴム毬のように跳ねた烏有の躰はそれこそ爆発のようで、溢れ出る声はやがて扇情的なメロディーを奏でた。
「んっっっ!! ぁっ……だ……めっっ」
痙攣。波打ち際に浮かぶ浮き輪みたく、繰り返し、総身を揺らす。
「もう……やめっ! ちがやぁ、もういい!」
「っはぁ……はぁ……もう、いきたくない」
「へえ、たった一回で?」
引き続き、執拗に先ほど押したところを擦ったり、すこし力をこめてみたり、余韻を与えること無く弄んでいく。獣のように執拗に行われる愛撫に耐えようとするも、無惨に敗北を喫する。
「なら、まだまだイケるさ」
千萱はそのまま黒いドレスの中、陰部のある方へとするりと手を忍び込ませた。すでに濡れているところを迷うこと無く、一つの指からではなく、三本の指を入口に当てた。
「なぁ、千萱。それはやめよう、シャレにならん。本当に小官が狂い──」
「なら狂えばいいじゃないか」
一気に差し込まれた。くちゅくちゅと卑猥な音と必死に声を我慢し、くぐもった音にならない音が混じり合う協奏曲が千萱の興奮を高めていく。
「やめ……これっ以上は……っま……ずい」
「さっきも派手にイッたのに恥じるのかい?」
「ちがっ……」
「ぅっ……いきたく、いきたくない! やめ────」
ふと、蹂躙している烏有の首筋に千萱は目を向ける。忌まわしそうに睨んだ縛りの証、帝国の跡に。そして、そっと口を近づけ、鋭利な歯で噛みついた。
「いくぅぅぅぅ!!!」
ダムの大決壊とも形容しうる潮吹き。高価そうなドレスと千萱のスーツを汚し、何度も跳ねる烏有の身体によってベッドに滲んでいく。同時に噛みつかれた首筋は向かい合う二つの赤い三日月は占有を、帝国への挑戦を表す。その三日月に囲まれる菊は、どこかと輝きを失っているように感じ取れた。
「はぁ……はぁ……き……さ……ま」
「……その……なんだ」
「えぇ……と」
「言わなくとも、わかるさ」
「だってすでにその縁の切れ目はないのだから」
「〜〜〜〜!!」
「それでもやりすぎだ! このうつけ!」
それを聞いて、二人は幼子のように笑顔を浮かべた。しがらみも、責務も、立場もこの時は一切考えずに済んだのだから。
その翌日、時田がくも膜下出血で死亡したというニュースが流れる。千萱は自身の持っているスマホで、烏有は執務室に備え付けられたテレビでそれを知り、やがて連絡先に増えた一人の名前を思い出す。
中臣千萱。烏有先生。
千萱は微笑み、烏有は顔を赤らめた。
相容れないはずの二人が結んだ新たな縁。いずこへ向かうかは未知だが、少なくとも心の
「「赴くがままに」」
成長していくことだろう。
どうも、例の人です。匿名がもはや意味をなしていませんが、はじめてのR18投稿で戦々恐々としているのご容赦ください。