女性モデル兼ダンサーとして活動しているFTM彼氏が彼女とのセックスで初めてクンニをされる話 作:喋家月餅太
オリジナル:現代/恋愛
タグ:R-18 ガールズラブ トランスジェンダー FTM トランス男性 レズ 百合 レズセックス クンニ 性同一性障害
陽菜は仕事やダンサー、コスプレなどの表現活動をする上では女性で通しているがFTMであり性自認は男性だ。恋愛対象も女性。
今は5歳年上の紗月と交際している。交際以前から友人として気が合っていたため春から紗月名義で借りたアパートで同棲をしている。
ある日、モデルの仕事があり翌日がふたりとも休日になる日、紗月は機嫌が悪かった。
それはこれまで紗月は陽菜とセックスしてきて陽菜が一度も服を脱がない事に対しての不満に我慢の限界が来た事が原因だった。
陽菜は彼女である紗月に自身が男じゃない証拠である裸体を見せることに抵抗があることを話すが、ヌードモデルとして裸を絵画教室の受講者、いくつかの写真の仕事で水着の姿をカメラマンやその作品を買った人に女性としての姿を見せている事から紗月は納得しない。
仕事では女性として振る舞っているとはいえ、自分の取ってきた行動が紗月を傷つけている事に陽菜は納得した。
陽菜は異性愛者女性である紗月が自分を恋人として見れなくなる事を覚悟の上で服を脱ぎ「ネコ」の立場でセックスをする事にする。
何人かと「彼氏」として付き合ってきた陽菜は恋人という立場の人に初めて裸を見せる。
紗月は陽菜の裸が美しくて見惚れる。
オナニーをしたことがなく、自分の女性器も見たこともない紗月に陽菜は自身の女性器を見せて女の体に何をすれば気持ちがいいかを教える。
女性の体ではなく「わたしの好きな陽菜」の体に対して興奮を覚えた紗月は陽菜の体を触り始める。
陽菜は初めて他人の手によって性感をもたらされた事に興奮してオナニーでは経験したことないほどに濡れていく。
興奮を覚えた紗月はそんな陽菜にクンニをし始める。
陽菜(はるな)は着替え終わるとそれまで素肌に着ていた薄手のワンピースを畳んでバックパックに閉まった。
衝立の向こうでは雇い主が淹れたコーヒーの香りがする。
男性に間違われる事もある程度にスポーティでボーイッシュな格好になると先ほどとは別人だ。
「お待たせしました」
「お疲れ様。コーヒーはミルクを入れるんで良かったかな?」
「はい、ありがとうございます」
折りたたみ机の上にキャンプ用のアルミのドリッパーで淹れたコーヒーが三つ並んでいる。
パイプ椅子に座ると一息つく。緊張を強いられる仕事の後に身体の力を抜く時間をもらえるのは本当にありがたい。
ここは画家のアトリエ兼絵画教室だ。
陽菜はここで3年前から美術モデルをしている。
ここのオーナーである画家の作品のモデルをする事もあるがここでする仕事のほとんどはデッサンやクロッキーの講座のためのモデルだ。
今日は会員以外にも門戸を開いた予約制のクロッキー講座の日だった。
このアトリエでは何人かのモデルが仕事をしているがクロッキー講座では陽菜は重宝されている。
同じポーズを講座の間保ち一枚ないし二枚を受講生たちが描き上げるデッサンと違い、クロッキーは数分のポーズを手早く描く。
ポーズは簡単なものから複雑なものまで多岐に渡る。
ダンサーである陽菜の身体能力は多様なポーズを取る上で役に立ち、講師や受講生からも勉強になると評判が良い。
他の教室や講座でも仕事をしているが、それらはこのアトリエの評判を聞いての依頼からだ。
「疲れたでしょう? 陽菜さん、今回のポーズ、大変じゃありませんでした?」
アトリエでアシスタントを務める大学院生の女性が隣に座り尋ねる。
彼女は教授のつてでこのアトリエでアルバイトをしており、陽菜をはじめとする女性モデルが来るときには男性であるオーナーと二人きりになって不安にさせないように必ず手伝いをしている。
「大丈夫です。前は出来なかったものが多かったですけど、大分上達したみたいでうまく出来ました」
「毎回助かってるよ。そういえば隣町のクロッキー会の講師からも評判を聞いてるよ。すっかり売れっ子になってるようで私も嬉しい」
このアトリエのオーナー兼講師が満足そうに言う。
彼は陽菜がモデルの仕事を最初にした頃を知っている数少ない人だ。
元々、着衣の固定ポーズモデルを求人誌で見つけて始めたのだが、色々なポーズや衣装をこなし、今ではヌードモデルもしている。今日もヌードクロッキーの仕事だった。
ヌードを出来るモデルを探すのはアトリエや講師が苦心するところだが、冷静に職務を遂行してくれる陽菜は講師や画家にとって頼もしい存在だ。
容姿もよく、プロポーションも筋肉と脂肪のバランスが良く、現代の女性モデルの中では理想的な見た目をしている。
特にダンサーとして活動していることもあり身体をしっかりと鍛えている方なので、女性の筋肉の観察をする上で描く側に学ぶ所が多い。
そのため、スポーツ関連のイラストを描いている受講生やアニメーターなどからの評判が高い。ヌードではないがアニメスタジオでのクロッキーの依頼も来るほどだ。
そんな陽菜は今ではこのアトリエに馴染んでいる。仕事を終えてのお茶をしながらの談笑も気心の知れた時間だ。
「あっ」
陽菜のスマホに着信があった。電話ではなくメッセージだった。
「そろそろかい?」
「ええ、従姉妹が駐車場に着いたようで」
陽菜は立ち上がってコーヒーを片付けようとする。
「ああ、いいよ。こちらでやっておくから。従姉妹の方にもよろしくお伝えして。じゃあ、また来月!」
「ありがとうございます。これで失礼します」
陽菜は一礼して小走りでアトリエの外に向かった。アトリエは雑居ビルの三階にある。
昭和の雰囲気のあるコンクリート造りの階段を降りていく。
一階の簡素なエントランスまで来ると上の階の方を向く。
(今日の陽菜の営業は終了。お疲れ様)
心の中で公私の区切りを付けるいつもの儀式だ。
外に出てすぐの駐車場に陽菜は黄色の女性に人気の可愛いデザインの軽自動車を見つける。
その車に駆け寄るとドアを開ける。
「お疲れ様、ハル」
中には陽菜より年上だが多少幼さの残る大人の女といった雰囲気の女性が乗っていた。
「ただいま、紗月(さつき)。待った?」
「さっき着いたばかりだよ」
陽菜は手慣れた手つきでドアを締めてバックパックを脚の上に置く。
二人は一旦、一息つき、窓の外に人がいないのを確認する。
誰もいないようだ。
二人は数秒見つめ合って、口づけをした。
少し長めに軽く下を絡める。
紗月はバイト先には「ルームシェアをしている従姉妹」と話しているが、実際には陽菜の恋人だ。
陽菜は彼氏で紗月は彼女という関係である。
彼氏というのは皐月の前で陽菜は男として振る舞っているからだ。
陽菜はFTM、つまり女性の身体に生まれたが性自認は男性である。
精神科で性同一性障害の診断を受けてはいるが、ホルモン治療も性別適合手術も受けておらず身体は完全に女性だ。
恋愛対象は女性でこれまで交際した相手は紗月を含めて全員女性だ。男性との交際経験もセックスの経験もない。
元々は性同一性障害の診断を受けた後、ホルモン治療と性別適合手術までしたいと考えていた理由があって断念し今に至る。
その事から恋人や親しい友人以外の前では女性として振る舞っている。見た目は完全にボーイッシュな女の子といった形の為、外でのトイレも女子トイレを使用している。
そんな陽菜が診断を受けずに表向きには女性として過ごしている理由は彼がやっている活動による。
陽菜はダンスチームに所属してダンサーとして活動している。その他には男性キャラクター中心に活動している男装コスプレイヤーでもある。
これらの活動をするにあたり、陽菜は小柄な体格の為、男性ホルモンを打って外見が男性に近づいても男性としては見栄えがしない。
そのため、ダンサーとしての可能性のために「女のフリ」をしてダンサーをしている。
ダンサーやコスプレイヤーとしては食べていけないので生活のためにいくつかの仕事を掛け持ちしている。
そのうちの一つが美術モデルだ。これが今のところ拘束時間が短く時間あたりの実入りがいい。これを続ける為に身体を変えないのが一番の理由だ。
仮に陽菜が男性ホルモンを打って筋肉質になって男性のような見た目になったとする。
それは陽菜にとって美術モデルとしての需要が無くなる事を意味する。
男性ホルモンを打つと筋肉や体毛などは男性に近づく。だが、骨格は変わらない。
ホルモン治療を行った後の陽菜は女性の骨格に男性のような筋肉の付いた体型になる。その筋肉も形は厳密には女性のそれだ。
言葉を選ばずに言えば解剖学的には男とも女とも言えない体型になってしまう。それでは解剖学的な観点から人の身体を観察する人のためにポーズを見せる美術モデルは務まらない。
ダンサーとしてもコスプレイヤーとしてもモデルとしても需要を失って表現する事が出来なくなる事を避けるため、女性の身体のままでいるのだ。
紗月はその事を承知の上で陽菜の事を彼氏として見ている。
男扱いがどうするべきかは模索をしているものの交際をしていく上で陽菜の望む男としての扱いはできる限りしているつもりだ。
そのため、陽菜の事情を知る多くの友人同様に紗月は彼のことを「ハル」と呼ぶ。
陽菜、という女性らしい名前で呼ばれることに陽菜自身は違和感を持っている為、最初の漢字だけで男女どちらでも使える呼び名として自然に友人たちの間で使われだした呼び名だ。
陽菜自身も紗月もこの呼び名を気に入っている。だから、本名を名乗る必要のある場以外では常に紗月は「ハル」と呼んでいる。
そんな二人は半年ほど前から郊外のアパートで同棲している。
今日は仕事先であるアトリエと二人のアパートがどちらも駅から離れた不便な場所にあり、外も暗い時間の為、車を持っている紗月が迎えに来た形だ。
二人は車の中で会うと、ただいまの挨拶の代わりにキスをする。まだ一年記念を翌月に控えた付き合いたてのカップルの為、愛を確かめる行為には貪欲な事もあり事あるごとに人の目を盗んでキスをしている。
「帰ろうか」
「そうだね」
キスを済ますと紗月は車を走らせた。
陽菜は深く腰掛けて運転をする紗月をチラッとみた後、フロントガラスの向こうの景色をぼんやり眺めた。
「ご飯どうする? どこかで食べてく?」
「疲れたから中食にしようよ」
「どこ?」
「バス通のスーパーがこの時間は惣菜とか弁当が充実してるよ。調理済みの冷凍食品も多いし」
「あそこね。わかった。わたしも疲れたからそれがいいわ」
紗月は陽菜の言うスーパーに寄るのに一番近い道を考えた。
まっすぐ帰ったり、国道沿いのファミレスに寄ったりするのとは違うルートだ。
そこから二人はスーパーまでの間、特に何も話すことなく道を進んでいった。
お互い口にしないが帰ってからのキス以上の行為のことを考えながらの帰路になった。
明日は陽菜が不定休のため休みを合わせづらい二人にとって久しぶりのお互い仕事が休みの日だ。
予定もないので夜の時間をたくさん使える。
いつもより時間をかけて愛を確かめあえる日だから家に帰る事が楽しみに思えていた。
陽菜と紗月は郊外の駅から徒歩25分ほどの2LDKの古いアパートに住んでいる。
元々は会社の借り上げアパートに住んでいた紗月だったが、そのアパートに住めるのも30歳までで今はまだ28歳だが早めに不動産の手続きを始めとする自力で生活する事に慣れておきたくて春先にアパートを探し始めた。
その際に陽菜の住んでいる場所が治安の悪い場所だった事もあり、一緒に住むことを提案して同棲を始めた形だ。そのため、このアパートは紗月の名義になっている。
最寄り駅も郊外で都心からやや離れていて、その上駅から遠いアパートに住むことになった理由は二つある。
一つは紗月の勤め先が倉庫街にあり車通勤が必須な為、元々家賃の安い郊外で探していたこと。
もう一つはルームシェアが可能な物件となった場合に選択肢が少なく、手頃な値段だと借り手の少ない古くて駅から遠い物件にどうしてもなってしまうからだ。
彼氏と彼女といっても、陽菜は戸籍上も社会生活上も女性だ。なので同性のカップルと社会的な面では同じ。
男女のカップルであれば結婚するつもりの有無にかかわらず相手の方を「婚約者」という続柄で大家に届け出て同棲することは比較的しやすい。
単なる友人同士の同居は大家が受け入れる物件の選択肢がそれだけ少なくなる。中には同性のカップルの同棲を認める物件もあるがそれは少数派だし高嶺の花になってしまう。
収入が不安定なダンサー志望のフリーターと一般職の会社員の二人には払うのが厳しい家賃の物件ばかりだ。
そういう事もあり今のアパートに暮らしている。
駅から遠いこの古アパートでの暮らしについて二人は十分に満足している。
木造で自他両方の物音が気にならないわけではないが、大きな音を立てるような暮らしをしていないし、他の部屋の住人も小さな子供のいる部屋を除けば静かな人が多い。
2LDKと広い部屋のなのもお互いに自室と二人のスペースを持て、大きな押し入れがあるため特に衣装や小道具などの収納スペースが必要になるダンサーでモデルである陽菜には好都合だ。
風呂も足を伸ばせるだけの大きめの浴槽の為、身体を動かすことの多い陽菜とデスクワークが多い紗月のどちらにとっても疲れを取るのに丁度いい。
付き合って日の浅い二人の同棲は当初不安があったが、いざ暮らしてみると環境もよく落ち着いて暮らせるため二人の関係を深めるにはとてもよい環境なのだ。
「風呂できたよ。紗月、入ってくる?」
給湯器のアラームが鳴って水栓を締めに行った所から戻ってきた陽菜はダイニングのテーブルに料理を並べている紗月のところまで来て行った。
今日は途中に寄ったスーパーで買ってきたパスタとサラダというメニューだ。
同棲をし初めのころなら紗月は皿を出してきれいに盛り付けていた所だろうが、お互いに楽な事が大切だとこの頃思えるようになってきたこともあり買ってきた容器をそのまま並べている。
「ハルが先に入ってきなよ。いろんなポーズしたから疲れてるでしょ? わたしは気晴らしにドライブしたし仕事が終わったばっかりなんだからゆっくり休んできて」
「分かった。じゃあ、先に入ってくるね」
「ゆっくり入ってきて。あ、ワイン飲むでしょ?」
「うん」
「先週買った白を出しておくね」
「ありがとう」
陽菜はパタパタと手を振って脱衣所のドアを締めた。
「ふぅ……」
脱衣所のドアにあるすりガラスの窓に紗月のシルエットを見ると引っ越した時に陽菜の希望で付けた窓用のカーテンを締める。
これで脱衣所と浴室から人の視線を遮ることが出来る。
風呂に入るときは当たり前だが裸になる。
彼女である紗月に陽菜が一番見られたくないものは自分の裸体だ。
別にすりガラスだからカーテンがなくたって紗月から自分の姿は見えない。それでもこの儀式のようなものがないと安心出来ないのだ。
「はぁ……」
愛する人に見られたくない身体であることがこういう時は辛くなる。
風呂に入る前に陽菜はため息をつくのが習慣になっていた。
陽菜と交代で紗月が風呂に入り、その後食事を取った後でメインのパスタを食べ終わった後、残ったサラダをつまみに晩酌を初めた。
休みの前にはこうして食事からシームレスに晩酌を初めてのんびりと色々な話をしたり映画を見たりして何気ない時間を過ごしていく。
お互いの仕事の話をして翌日には予定がないこともあり近所の公園にでも出かけようかと話になった後だ、紗月は何か悩んでいるような顔をした。
陽菜はワインを一口飲んで肘を付いて身体を前に乗り出して紗月の顔を覗き込む。
「紗月……」
名前を呼んだ後、陽菜は手を差し出し紗月の額に手を置く。
「調子悪いの?」
「え、そんな事ないけど……」
「じゃあ、何か悩んでる?」
「それも……」
気まずそうに紗月は言葉を濁す。
「何かあるよね? 僕にはわかるよ」
「あるっちゃある、かな」
「僕に話してくれないかな。紗月が辛い時は僕も辛い。それに心配だよ」
紗月は唇を尖らせて一度、陽菜から目をそらす。
「うん、ハルに話したいことあるの。聞いてくれるかな?」
姿勢を軽く正して紗月は陽菜をじっと見て言った。
陽菜は紗月のその様子にドキッとした。
(これってもしかして……)
女性が「話がある」という時はあまりいい話をしない時だ、というのは高校以前に女子として過ごしてきた事と過去の彼女たちで学んでいる。
陽菜は紗月が続けようとしている言葉に考えたくもない事が続く事を覚悟した。
別れ話をされるんじゃないかと思ったからだ。
「いいよ。話してみて」
内心、動揺しているが平静を装って陽菜は言葉を返した。
「前から言おうかどうか迷ってたんだけどね」
陽菜は紗月に気づかれないように小さくつばを飲み込んだ。
「今日、エッチする時にハルも裸になって欲しいの」
紗月は陽菜の反応を恐れているような口ぶりで言った。
「えっ……!?」
予想とは大きく違ったが紗月の言った言葉は考えたくもない、青天の霹靂だった。
「えっと、僕が……?」
陽菜は同様を隠しきれず不安定な声で言う。
「ハル、付き合って初めてエッチしてから一昨日までエッチの時は服を着たままでしょ? でも今日はわたしもハルに触りたい、駄目かな?」
紗月は陽菜の同様に気づいているかどうか分からないが、そのまま言葉を続けた。
「ごめん、無理。紗月に身体を見られたくいない」
絞り出すような声で陽菜は言う。
陽菜と紗月は付き合って一ヶ月くらいの頃、飲み会帰りに終電を逃してそのままラブホテルに行って初めてのセックスをした。
陽菜の身体は完全に女性。
ペニスがないため、手や口で紗月の性器をオーガズムに達するまで愛撫する形でセックスをしている。これは高校時代に付き合った初めての彼女から付き合った全員とそのようにしてきた。
その際には一切服を脱がない。
陽菜は彼氏として、男として紗月と交際している。服を脱げば完全な女の身体でありそれを見られる事は自分の男である性自認を否定する事になるように思えるからだ。
それだけじゃない、一番心配してるのは自分の女体を見た紗月が自分を彼氏だと思い続けられるかどうかだ。
絶対に服を脱がずにセックスをしたくない。それが陽菜の本心だ。
「それは身体が、その……」
「女だからだよ。このパーカーを脱いだら胸が膨らんでる。他もそう。それを見られるのはキツい」
「やっぱりそうだったんだ。ハルと初めてエッチした時から気になってたんだけど聞いていいのか分からなくて。ネットとかでもハルみたいな人のそういう話を聞くし。そうだったんだね」
「して欲しいことなら何でもしてあげる。でも裸を見せるのと僕の身体を見せるのは勘弁して欲しい」
陽菜と紗月は理由は違うがお互いに悲しい顔をした。
紗月が悲しそうな顔をしているのを見て陽菜は胸が痛んだ。
だけど、もし見せたらどうなるかはよく分かってるつもりだ。
「話せなかったらでいいんだけど、これまでの彼女とはどうだったの?」
「えっ? ああ、基本的には見せたり触らせたりしなかったよ」
「基本的には……? 見せた人はいるんだね」
「うん。でも、見せた相手はその後、すぐに別れた」
「ハルはわたしも同じようになるのを怖がってるの?」
紗月は言葉を選んで歯切れの悪い言い方で尋ねた。
つまり、自分が陽菜を捨てるんじゃないかと思っているか、と聞きたいがはっきりと言うのに抵抗がある。
「そうだね……」
陽菜も歯切れの悪い言葉で返す。
彼氏として捨ててほしくないなんて情けない事を言う事に抵抗がある。男の言う事ではない。
「その時はどうなったの?」
紗月がそう言うと陽菜はしばらく沈黙した。
「裸を初めて見せたのは二人目の彼女なんだけど、次に会った時からよそよそしくなって一週間後に別れを切り出されたよ。それからしばらくして本物の男と付き合ったのを人から聞いた」
陽菜は下を向いて言う。これは最初の彼女と進学で自然消滅してから「自分も男として恋愛ができる」と持てていた自信を打ち砕いて自分が男じゃない事を思い知らされた経験だ。
その相手は大学の同級生で「女の子と付き合うのは無理だと悟った」と共通の友人に言っていた事を聞かされた。
「その次に裸を見せた相手には触る事も求められた。その時も服は脱いだけど上半身しか触らせなかった。後から知ったけど、その子はビアンだったんだよね。で、僕の女の部分を求めてたけど僕は無理だった。しばらくして別れたけど、今度は男と付き合うのは楽しくないって理由で女に取られたよ」
「辛かったね」
「だから同じことは繰り返したくない。紗月には身体を見せたくないんだ。その方が僕を男として見られるでしょ?」
「ごめん、わたし、嫌なことを思い出させちゃった?」
「最初に言わなきゃいけない事だったんだ。僕の方こそ黙っててごめん」
二人の間に気まずい沈黙が流れた。
元々、セックスをする約束をしている。この空気からセックスの流れになる事ができるのか正直、陽菜も紗月もどうしていいか分からなかった。
「ふぅ……」
陽菜は小さくため息を付く。先程、脱衣所でもそうしたがこれは気まずい時や辛い時に気持ちを切り替えるためにする癖だ。
「トイレ、行ってくるね。戻ってきたら飲み直そうよ」
椅子から立ち上がり陽菜は出来る限りの笑顔を紗月に見せたあと玄関の横にあるトイレに向かった。
一人残された紗月は自分の後ろにあるトイレの方を軽く見たあとグラスに残ったワインを飲み干した。
境目の分かりづらいリビングとダイニングの空間が静寂に包まれる。
紗月はその静寂の中、聞こえてくる僅かな音に耳を澄ませた。
今度は紗月がため息をつく。
紗月はマイナスな気分を切り替える為につく陽菜のため息の癖を知っている。一緒に過ごすうちに気付いたものだ。
どうやら紗月にもその癖が感染ったらしい。
ドアが開く音が聞こえて陽菜がトイレから出てきた。顔を合わせない僅かな時間で陽菜は気持ちを何とか切り替えられた。
椅子に戻るとボトルに残ったワインを半分ずつお互いのグラスに注ぐ。
「これ飲んだらしようか。いいよね?」
紗月は黙ったまま陽菜から目を逸らしている。
(これって同じ事になるのか?)
陽菜は最悪の事になるのを覚悟した。身体を変えずに誰かの彼氏になろうとするならこれが潮時かもしれないと思った。
(僕は好きだし。まだこの家に住んでそんなに経ってないんだけどな……)
陽菜はこわばった表情で紗月を見つめた。
「紗月?」
紗月は少し間をおいてまっすぐ陽菜の方を見た。
「ハル、やっぱり裸になってほしい」
「だから。それは無理だって」
「わたしが信用できない?」
「そうじゃない。僕が怖いだけ」
陽菜は嘘を付いた。いや、本音を隠した。「僕が怖い」は本当だが「だけ」は違う。裸になった自分を見てその女性の彼氏でい続けることが出来ない事を分かっているし、紗月が例外だと思えないのだ。
「わたしにはそうやって隠すんだね」
そう言うと紗月の目からは涙が流れた。
陽菜はその反応に動揺した。
「ハルの裸を知ってる人がいるのに恋人のわたしは知ることが出来ないのは辛いよ」
「紗月……」
慌てて陽菜は紗月の手を掴む。
陽菜は女性として育った上で公は女性、私は男性として振る舞ってはいるが多くの男性と同じく女性の涙には苦手意識を持っている。
その場の話に関係ないことまで持ち出して感情をぶつけられるのは苦痛に思う程度には男性に近い感性を持っている。
紗月は冷静なタイプだし自分が5歳年上だという事もあり感情を陽菜にぶつけるような事はこれまでなかった。
だが、これは過去の彼女たちが陽菜にしてきたのと同じように陽菜からすれば支離滅裂に感情をぶつける前触れだと思えた。
「元カノで失敗したから紗月にはそうしたくないんだ。僕は紗月とこの先もずっと一緒にいたい。だから――」
「――わたしが言いたいのはハルが前に付き合ってた人のことじゃないよ。今日、クロッキーの人達がハルの裸を見たのに恋人のわたしが見れない事を言ってるの」
「あぁ、それ……」
予想に反して紗月の口から出た言葉は至極真っ当な事だった。
これについては陽菜の中では折り合いが付いているしその事を紗月に話しているが納得をしていないとはっきり分かった。
「前に話した通り、『公での陽菜』を演じてる時だからそれはノーカンというか」
陽菜は見苦しいが本心を話した。
「前に話してくれたけど、知らない人には見せられてわたしに見せられないのは酷いと思うの」
「それは、そうだけど。僕は今、男として紗月と一緒にいるんだ。女の僕は紗月だって見たくないだろ?」
「見せてほしい」
「えっ?」
「他の人にどれだけ見せても平気ならわたしに見せてもいいと思う」
「でも服を脱いだら僕は」
「その女の姿を知りたいの。恋人だよ、わたし。絵のモデルだけじゃないでしょ。水着の写真のモデルもしてたよね。最近だってダンスの仕事やコスプレのイベントで更衣室で他の人に裸を見られてるでしょ? なのにわたしはのけ者。本当にわたしはハルの彼女なの? みんなが知ってるハルをわたしは知らないの。そんなの耐えられないよ!」
必死で堪えてるようだが紗月の目からは涙が止まらなかった。
感情がどんどん溢れてくるのが誰の目から見ても分かるだろう。
陽菜にそんな紗月の感情は痛いほど伝わっていた。
紗月は全力で陽菜を愛そうとしているのだろう。それが表情、仕草、声の調子から次々と伝わってくる。
陽菜もそれに対峙するのが辛くなってきた。
「僕がこの服を脱いだらそこにいるのは女だよ。男じゃない」
「知ってる。自分のやりたいことの為に身体を変えることを諦めて努力してる男の子の身体が女の子だってわたしは嫌いになったりしない」
「でもそれは僕の身体を見てないからだよ。前に裸を見て僕と別れた元カノも同じように言ってたんだ」
「ねぇ、わたしがハルの女性としての部分を何も見てないと思うの? わたしはハルが思うよりハルの事を見てるよ」
「どういうこと?」
陽菜が言葉の意味が分からず尋ねると紗月は続きを話さず呼吸を整えだした。
泣き止もうとしているんだろう。
呼吸が落ち着いてくると紗月は陽菜の手をギュっと握る。
「さっき、トイレに行ったよね。おしっこしてから水を流すまで少し間があったけど、あれはわたしにどう接するかを悩んでのものだよね?」
「そうだよ。少し覚悟を決めるのに時間が必要だった」
「ハルは知ってるかな? 男の人と女の人っておしっこの音が全然違うんだよ」
「何それ?」
「男はちんちんからおしっこが出る時に音が全然しないの。立った姿勢からおしっこが便器の水に落ちる音だけが聞こえる。女はあそこからおしっこが出るのにトイレに響くほどの音がするの。ハルがトイレに入ってる時に聞こえてきたのは女のおしっこの音だった」
「えっと……」
「ハルは外のトイレに行くと音姫を使わないよね。その時も女の子の音が聞こえる。ハルの大事なところがわたしと同じだって事をそういう時に意識してるの」
陽菜は表向きは女性として生活をしているのでトイレは女子トイレに使う。紗月と出かけたときも一緒にトイレに行く。
確かに女性の多くは消音器を鳴らしたり水を流したりして小用の音を消すが陽菜はあまり頓着しない方でそのまま用を足している。
それが自分が女の身体であることを彼女に意識させるとなると気まずかった。
「ハルがいつも家ではゆったりした服を着てるのは身体のシルエットを隠すため?」
「そうだよ」
「それでも胸の膨らみとおしりの丸みは姿勢によってはわかるの。でもわたしはそれを魅力的に感じてる」
陽菜は紗月の言葉に思ったより自分の恋人に女に見えていた事に戸惑った。
どんな反応をしていいのかわからない。
「あとね、ハルの唇はプルプルしてやわらかいの。でも男の人の唇はそんな感触じゃない。もっと硬い感じ」
「もういいよ! 僕を女だって言いたいの?」
「そういう所で女をどうしても感じるのは事実だよ。でもね、それでもハルは男の子なの。かわいいけど頼りになる男の子」
「それだけ女だって言って。意味が分からないよ」
「わたしも分からないよ。でも、男の子のハルのそういうところに魅力を感じて触れたくなるの。一昨日も本当は脱がしたくてたまらなかった」
「紗月ってバイなの?」
「分からない。もしかしたらそうかもしれない。でもハルを好きって気持ちは確かだよ。こうして手を触れてる間もハルが欲しくてたまらない」
陽菜を目を見開いて紗月を見た。
こんな事を言われたのは初めてのことだからだ。
今までの彼女はレズビアンだった一人を除けば男じゃないことに目をつぶって付き合ってた節があった。いや、実際にそうだったのだろう。
でも、女であることを必死に隠した中で女の特徴を拾い上げたうえで自分を求めてくれている。それを必死に言葉で伝えようとしている。
「でもね、そんなハルの事、教えてもらえないの。ハルがどんな下着を着けてるのか、どんな生理用品を使ってるのか、そもそもいつ頃生理が来てるのか。生活してたりエッチをしてたら知ってるはずのことでもわたしは知らないの。わたしはハルの全部を知りたい。全部は無理でももっと身体も生活も寄り添っていきたい。教えてほしいよ、ハルのこと」
「ごめん。僕、紗月の事を考えてなかった。自分の心配ばかりしてた」
「わたしはね、女に生まれて女であることに疑問をもたずに生きてきたからハルがどれだけ辛いのかはわからない。でもね、その時その時の自分ができる最大限の事は分かって行きたいの」
「ありがとう。そう言ってもらえるなんて考えてもいなかった」
「今、一番知りたいのはハルの肌のぬくもり。分かってくれるかな?」
陽菜は悲しさと嬉しさを混ぜた気持ちで胸が満たされていた。
「でも、怖い。いざ見せたらどうなるか」
「無理にとは言わないから」
その後二人はグラスに残ったワインを飲み終わるまで無言だった。
時々目を合わせるが陽菜はとても気まずい。
だが、紗月は穏やか目で陽菜を見ている。
陽菜はどうすればいいか分かっていたがそれを決める勇気が持てなかった。
もし、紗月の望む通りにすれば紗月は過去の彼女たちのように自分の元を去るかもしれない。
だけど、このまま自分の生まれ持った身体を隠したまま一緒に生活するのは無理だと言うことは分かってる。
先延ばしにできる話でもない。
「グラス、洗うの明日でもいいよね。一応、水を注いでおくから」
紗月がワインを飲み干し、続いて自分が飲み終わると陽菜は立ち上がりそう言った。
「あ、うん」
予想してなかった陽菜の言葉に紗月は慌てた様子で返事をする。
陽菜は手際良くお互いのグラスを手に取りシンクに置くと水を注いだ。底に残ったワインが固まって洗いづらくならないようにするためだ。
続けて空になったサラダの容器を水で濯いでゴミ箱に捨てる。
その様子を紗月は黙って見守っている。
後片付けが終わると陽菜は紗月の横に来る。
「僕の部屋に行こうよ」
陽菜は顔を赤らめながら目を逸らして言う。
紗月はその表情を見て意図を汲み取った。
「ハルの部屋、久しぶりだね」
紗月は笑顔で言った後、立ち上がり二人で陽菜の部屋に向かった。
2LDKのそれぞれの部屋はそれぞれが自室として使っている。
カップルの同棲に見られるように陽菜と紗月の部屋には二人で眠る寝室やベッドはなくお互いの部屋にシングルのベッドを置いている。
セックスをするのはいつも紗月の部屋だ。
それ以外に二人で過ごす時はリビングだし、陽菜はあまり紗月に自分の部屋に入ってほしくないようだった。
それは紗月も理由は何となく分かっていた。
ダンスやモデルの仕事などで関係者以外に見られるわけにいかない資料などがあるだろうし、それ以上に下着など陽菜が女である証拠になるものを見られたくないのだろう。
トイレの棚にも紗月の生理用品はあっても陽菜のものはない。自分の部屋にそういったものは置いて紗月に見られないようにしているのだと紗月は考えていた。
ここは陽菜にとって紗月に見られたくない自分を隠すための砦のようなものなのだろう。
そこに紗月を連れてきた。相当の覚悟をしたのだと紗月は思った。
「ベッドに座ってくれるかな?」
陽菜は静かにそう言った。
「わかった」
紗月はベッドに腰掛け向かい側の本棚の前に立つ陽菜をじっと見た。
陽菜も紗月を真っ直ぐ見つめる。
唇がかすかに震えている。怖いのだろう。紗月はそれを強いてる事に罪悪感を持った。
「今から脱ぐからその間、後ろを向いていて」
「うん。見ないから、安心して」
紗月はそう言うとベッドに上がり壁の方を向いた。
いつ以来だろうか、かなり久しぶりに陽菜の部屋に入る。
二人でリビングにいる時、紗月はドアを開けっ放しにするが陽菜はいつもドアを締め切っている。中を見ることすら何回もない。
陽菜の部屋を見て紗月は「男の子の部屋だな」と思った。簡素でかわいいものなど飾り立てていない。分かりやすく女の子の部屋である自分の部屋と大きな違いだ。
ダイニングでの会話で陽菜の女である所を述べていった紗月だが、それはあくまで身体に対してであり行動や性格には確かに男の子だと感じている。
陽菜は怖がっているが紗月も少し怖くなっていた。何を見ても陽菜を愛する事ができる自信はある。だが、男の子として見続けることが出来るかは自信がなかったからだ。
手持ち無沙汰な紗月はルームウェアに手をかけて脱ぎ始めた。
陽菜が裸になるのだ。一緒に裸になりたいと思ってそれを求めたのだから自分も裸になるのが筋だろう。
こちらの裸は陽菜に何度も見せている。今更かもしれないがセックスの時は陽菜は興奮した様子で自分の裸を見てくれる。ご褒美というのは自惚れが過ぎるが自分も全てをさらけ出そうと思った。
「おまたせ。いいよ。こっちを向いてくれるかな?」
ちょうどパンツを脱ぎ終わった時、陽菜が声をかけた。
声の様子は緊張しているようだった。
紗月にも緊張が伝染する。
ソワソワしながら紗月はゆっくりと振り向く。
「初めて見せるよね。これが僕だよ」
そこにいたのは約束の通り全裸になった陽菜の姿だった。
紗月はその姿が目に入るとわずかに戸惑った。自分の前に現れたのは女性にほかならない陽菜の姿だった。
陽菜の事を男の子として見ていたという事なのだろうか。瞬間的に陽菜という人と眼の前の女性の身体が頭の中で繋がらなかった。
だが、間違いない。これは陽菜だ。紗月が大好きな彼氏の姿だ。
紗月は陽菜の姿を頭から足先までくまなく見ていった。
陽菜のポーズはとても美しかった。
特に格好いいポーズをしているわけではない。片足に重心を乗せて立っているだけだ。
さすがモデルだなと紗月は思った。
ファッション誌でモデルの写真と外で声をかけた素人のストリートスナップで同じようなポーズをしているはずなのに見栄えがぜんぜん違うと感じることがある。それと同じで陽菜がモデルとして培ったポーズをする上でスキルがここで活かされてるんだろう。
特に意識してるわけではないだろうが、ただ立っているだけでも違う。
続けて陽菜の身体のパーツを一つ一つ見ていく。
どう見ても女性のそれだ。
これまで男性の身体は元彼たちのを見てきた。眼の前にある陽菜の身体と比べると、元彼たちにあって陽菜にないもの、陽菜にあって元彼たちにないものがそれぞれある。
まずは首筋。細くてきれいな曲線を描いている。そこからつながる肩もなだらかな線であり丸みを帯びたシルエットだ。
そして胸には小さいがきれいなお椀型の二つの膨らみ。これは元彼たちにはなかったもの、乳房だ。
乳房の下から広がる肋骨から骨盤まではよく鍛えられて筋肉がついているようでその上を薄い脂肪の層が覆っていて美しい局面を形成していた。
そしてその局面の終端。足の付根には元彼たちにあったものがなかった。その代わりにその場所はVの字の平坦な場所でその中央には一直線の縦筋。モデルの仕事のために毛を剃っているようで陰裂がはっきり見える。
腰は横に広がり太ももまで丸みを帯びている。
そこから一度膝で狭まった曲線はふくらはぎで広がり足首と足につながる。
鍛えられていて丁寧に手入れされた身体だ。
紗月は一通り陽菜の身体を見ると一つの結論に達した。
「きれい……」
自然に紗月の口から出た言葉はそれだった。
陽菜の裸体は美しかった。一つ一つのパーツ、全体のシルエット、そのどちらも見惚れるような形をしている。
紗月の目は陽菜の身体に釘付けになっていた。そして胸が高鳴っていた。
「えっ……?」
紗月の言葉に陽菜は驚いたようだった。
だがまだ怖がった様子は続いている。
その恐れている陽菜に紗月は何を出来るかを考えた。
見せたくなかった裸を見せながら怖がっている恋人に何ができるのか。
紗月はそれが正しいのか分からなかったが、したいことをする事にした。
まずはベッドから立ち上がりゆっくりと陽菜に近づく。
陽菜の直ぐ側まで来ると腕を広げて丁寧にそっと抱きしめた。
腕に少しずつ力を込めていく。紗月が陽菜に密着していく。お互いの肌に体温が伝わり合う。
陽菜は不安がって震えている。
「ハル、大好き。ずっとこうしたかった。ハルの体温をこうして感じたかった」
「僕、見ての通り女だよ。足の付根に肝心なものがないでしょ?」
「そんなのいらない。裸を見て分かった。わたしはハルが好き。ハルを男の子だと思い続けられるかはやっぱりわからないけど、それでもハルの身体をもっと知りたい。駄目かな?」
陽菜は唇を震わせ続けている。
どうしていいのかわからないのだろう。悩んだ様子を見せてからグッと生きを止めた。
そして陽菜も紗月を抱きしめた。
「でもね、わたし、ハルの胸が触れて興奮してる。やっぱり裸同士でエッチしたい」
「いいんだね」
「もちろん」
紗月は陽菜への愛おしさが胸の奥から湧き上がってくるのを感じた。
「へぇ、ハル」
「どうしたの?」
「わたしからしてあげたい。いい?」
「紗月こそいいの?」
「うん」
紗月の望んだ事は陽菜が男性ではない何よりの証拠を紗月に触れさせることだ。
「僕も、大事な所がそれを求めてるみたい。いいんだよね?」
「うれしい……」
紗月と陽菜はお互いにギュッと抱きしめあった。そしてゆっくりと身体を離して見つめ合った。
「でも、わたしからした事ないけどどうしたらいいのかな?」
紗月がそう言うと陽菜は力が抜けたように笑った。いつもの陽菜の笑顔が戻ってきた。
「そうだよね。いつもオナニーでしてる事を僕にしてくれればいいよ」
「わたし、ひとりエッチしたことない……」
「え……?」
「そうか。そうならクリトリスは分かるでしょ?」
「見たことなくて……。わたし、あそこって怖くて見たことないの」
「そ、そうなんだ」
陽菜は紗月の言葉に驚いた顔をしてから吹き出した。
「え、変なの!?」
「いや、女の子はオナニーしない人多いから変じゃないよ。見たことないってのは想像してなかった。そうなんだ」
「ごめん、わたしからしたいって言ったのに」
「いいよ。僕が教えてあげるから。僕の全部を見てよ」
「それって……」
「僕の女の部分を見せるってことだよ。ベッドの方に行こう」
陽菜は紗月の手を引いてベッドの前まで連れて行った。
まず、陽菜がベッドに腰掛け、次に紗月を陽菜の前に座らせた。
紗月は正座で陽菜と向かい合う。
陽菜は脚を開いて座っており紗月は脚の間に思わず目が釘付けになった。
「じっと見られると恥ずかしいな。裸を誰かに見せるのも慣れてないし、大事なところをそんなふうに見られるの初めてだよ」
「わ、わたしもあそこを見るとか初めて」
「僕のを見てどう?」
「わからない。あ、でも、割れ目ってお尻の方まで続いてるんだね」
紗月の言葉に陽菜は拍子抜けした。興奮するとか気持ち悪いとかプラスマイナスどちらの方向によらず性的な感想を言うと思ったからだ。
「一応、大事なところの割れ目とお尻の割れ目は別なんだけどね」
「そうなんだ。前からしか見た事ないから脚の間の方まで見るの初めてなの」
紗月はあまり性的関心からの目を向けていなかった。
陰裂を見るなんてしばらくなかったからだ。スーパー銭湯に行った時も陽菜のように下の毛を処理してる人は滅多にいない。
それこそ同人活動で知り合ったセクシー系のキャラクターのコスプレをしてる友達くらいだ。
公衆浴場で見た割れ目なんてその友達と二次性徴前の女の子のものくらいだし、異性愛者の紗月は特にその部分に興味なんて持っていなかった。
こうして股間の割れ目をじっと見るなんて初めてのことだ。
「ここ、開くね。中がどうなってるか見せないとね」
陽菜は脚をさらに開いて手指を大陰唇の上に置くと左右に広げた。
「これがハルのあそこ……?」
「そうだよ。僕の、紗月にもついてるもの」
紗月は目を見開いて広げられた陽菜の割れ目の中にあるものを注視しした。
「なんか、結構、グロいね……」
股間を覗き込んだまま遠慮がちに笑いながら言った。
「僕も初めてみた時は驚いたよ。最初の彼女のを見た時はそれよりも興奮したけどね」
「そうなんだ。初めてって?」
「初めて見たのは自分のだよ。こんなのが付いてるってのに戸惑った」
「最初の彼女の時は?」
「オナニーで慣れた頃だったからね。エロい気持ちでいっぱいだっで触りたい一心だったよ」
「わたしとするときも?」
「うん。毎回、触りたくて見たくてたまらない気持ちでしてるよ」
「そっか」
陽菜の言葉を聞いて紗月は気恥ずかしさを感じつつ嬉しい気持ちになった。
(男の子だなぁ。女の性欲とは違うのかな)
紗月は素直にそう思った。
(でも、ハルの女の子部分を見ながらこんな事考えるのはちょっと笑えるかも。ハルにはこんな事、言えないけど)
そんな事を考えながら紗月は陽菜の女性器を愛おしく見ていた。
「このビラビラしたのは小陰唇?」
「そうだよ。ここを開くとこんな感じ」
陽菜は指の位置を変えて閉じていた小陰唇を開いた。
パカっと開くと上の方は赤い肉の壁があって下の方が深い穴になっている。
「これがその、いつも指を挿れてくれる穴だよね?」
「そうだよ。膣。僕のはタンポン以外何も入ったことはないけどね」
「ハル、タンポン使ってるんだ」
「ダンスするのにナプキンじゃズレちゃうからね。モデルは生理が来た時は他の人に替わってもらうけど」
「そうなんだね」
紗月はおだやかな顔で陽菜の顔を見た。
陽菜はその表情に驚いた。生理の話なんてFTMとしては彼女としたくない話だ。だけど、それを優しさを持って聞いている。
紗月も陽菜の日常の見ることが出来かかったところに触れて愛おしさを感じていた。
「小陰唇の上の尖ったこれって……?」
「これがクリトリスだよ」
「へぇ。こんな形してるんだ」
「ちんこと同じように皮を被ってるんだよ。といっても僕、子供の頃に父さんのを見た以外にちんこを見たことないんだけどね」
陽菜は自嘲気味に笑いながらクリトリスの皮を剥いてみせようとしたが割れ目を開くのと同時にするのは難しそうなので諦めてそのままの姿勢でいることにした。
「全体はグロいけど、クリトリスはなんかかわいい形してるね」
紗月はじっくりと陽菜の女性器を見ながら少し顔を赤らめていた。
「わたしにもこれが付いてるんだよね」
「うん。紗月のは小陰唇が大きくてクリトリスが小さいよ。結構、僕と違う」
「へぇ。クリトリス、小さいんだ」
「僕のは結構大きい方なんだよね。今まで見たことある全員より大きかった」
「全員ってハルが今まで付き合った人達?」
「あとは二人でヌードの仕事をやった時とかね。そういうときは相棒のモデルの人のがポーズによって見えちゃったりする。とは言ってもじっくり見たりはできないからちらっと見ただけ」
「そうなんだ。ハルはそういう時、興奮したりするの?」
「するよ。ポーズ取ってる時に少し濡れたりする」
「そうなんだ。今も?」
紗月は急に真剣な眼差しを向けた。
「えっ……!?」
陽菜が戸惑った様子。
紗月は今度は陽菜の股間のじっと見る。
「小陰唇の間が液体で湿ってるけど、これっていつもこうなのか、これが濡れてるって状態なのかどっちかなって」
姿勢の関係上クリトリスしか見えないが、陽菜も自分の股間を覗き込む。
「うん。濡れてる。あと、クリも勃ってる」
「クリトリスって勃起するの?」
「するよ。大抵の女の子は触ってみないと自分で分からないみたいだけど、僕みたいに少しムズムズする感じがして自分で分かる人もいる」
「わたしもわからない方だ。ハル、今、ムズムズしてるの?」
「うん」
「でも、不思議だね。人によってそんな違うもんなんだ」
「これは僕の体質もあると思う」
「体質?」
「性同一性障害の診断を受けた時にホルモンの量を調べたんだけど、女性にしては男性ホルモンの量が多いって言われた」
「そうなの?」
「うん。鍛えてるからとか、毎日のようにオナニーでクリを刺激してるからとかはあるだろうけど、それにしても多いって。FTMにはよくある事みたいだけどね」
「それって、心だけじゃなくて身体も男性寄りってこと?」
「そこまではいかないけど、でも、性同一性障害は身体からみて異性のホルモンが多くてなるって説もあるから、もしそうなら僕がこうなのの理由だと思う」
「そうなんだね」
「男性ホルモンが多いって言っても身体の機能は完全に女なわけで何も影響はないんだけどね」
陽菜は切なそうな顔をする。
「でも、ホルモン治療するとクリが小指くらいまで大きくなったりすることもあるし、ホルモンバランスは関係あるんじゃないかな。特にクリが大きいのとか」
「これがハルなんだね。そっかぁ、勃起してるんだ」
「う、うん。そう言われると恥ずかしいな」
紗月は顔を赤らめたまま微笑むと、小さく息を吸い込んで陽菜の股間に顔を埋めた。
「え、ちょっと、紗月!?」
驚く陽菜をよそに紗月は舌を出し陽菜のクリトリスを舐め始めた。
「え、あ、ああっ」
突然のことに陽菜は混乱したが、すぐに紗月が何をしているのか理解できた。
「紗月、いきなりそれは……、あっ!」
陽菜はクリトリスを刺激されて声を上げる。
「これでやり方あってる?」
紗月は顔を上げて陽菜の目をじっと見る。
陽菜は突然されたことに恥ずかしくなり口を手で抑える。
「びっくりした。咳き込んだりしてない?」
「大丈夫。ちょっとしょっぱいのと何かが合わさった変わった味がする」
紗月も人差し指と中指で唇を抑えて言う。
陽菜は紗月のそんな様子に色っぽさを感じてドキッとする。
「いけそう。このまま続けてもいい? 嫌じゃない?」
紗月は上目遣いで優しげな表情を向ける。
陽菜は股間にじわっと熱さを感じて自分がどうしてほしいかを実感した。
「もっと……してほしい……」
陽菜は恥ずかしがりながら顔を真赤にして顔をそらしながら言った。
「うん」
紗月は笑顔を見せてもう一度、陽菜の女性器に顔を近づけた。
クリトリスの先端を舌の先を上下に動かして紗月は陽菜を刺激していく。
初めて陽菜の大事なところを刺激する。紗月はさっきまで自分のものも見たことがなく、女性器がどんな形かすら把握していなかった。
そんな紗月は手探りで舌を動かしている。
オナニーの経験もなく、元カレたちとは前戯、陽菜とは本番という形で「刺激してもらった」経験から陽菜が気持ちよくなる方法を見つけようとしていたがある程度無謀な事でもあった。
今は陽菜は呼吸が少しだけ荒くなってきてはいるが、無言で紗月の様子を見ている。
陽菜は手や口で紗月の身体を刺激することに徹してきたから、紗月は陽菜が感じている様子を見たことがない。
陽菜自身、誰かに身体を刺激されて感じている所を誰かに見られた経験がない。
そんな中で紗月は生まれて始めてみる女性器に生まれて初めてするクンニをして、まだ聞いたことのない陽菜の喘ぎ声からどう感じているかを判断して自分の舌使いをしていかなければならない。
二人にとってうまくいくかどうかが未知数なセックスだ。
紗月は舌の動きを変えてクリトリスを根本から舐め上げるような舌遣いをする。
下にはっきりと勃起して硬くなったクリトリスの感触を感じる。
縦に横に回すように動きを変えながら陽菜の気持ちいい舐め方を探る。
「はぁ……ふぅ……はぁ……」
陽菜は声を上げることなく息遣いが深くなっていく。
それに耳をそば立てながら紗月は少し不安になった。
陽菜は感じていないのではないか。声を出さないのは自分の舐め方がイマイチだからではないか。
だが、その不安は陽菜がオナニーの経験がなくエロコンテンツの視聴もほとんどしたことがないが故のものだった。
紗月の「気持ちいい」経験は陽菜を含む彼氏からの愛撫や陰茎の挿入によるものだ。
その時の自分の様子は相手のペースにのまれて意識を払ってないし、セックスよりも冷静にできるオナニーをしないのだから感じ方は映画などのラブシーンの記号化された分かりやすい喘ぎ声しか知らない。
ましてやさっきの彼氏は女体を持つ。女の感じ方なんて異性愛者の紗月には知りようがない。
紗月はしばらく根本から舐めた後、今度は小陰唇を円を描くように舐める。
「ふぅ……」
しばらく舐めていると陽菜の息遣いが大人しくなった。
紗月の耳はそれを逃さなかった。
陽菜が落ち着いているのは性感が止んだからだとだとわかった。
今までが感じていた息遣いで小陰唇は舐めても気持ち良くはないのだと考える。
紗月は陽菜がこれまでのセックスでクンニをしてくれた時のことを思い出した。
紗月は小陰唇の間に舌を差し込んだことが一度あったくらいで小陰唇自体を舐めた事はない。
それに忘れていたが、過去の彼氏がクリトリスの下の方を触ったりした時に気持ち良くなかった事を思い出した。
ここは気持ちいいところじゃないんだと分かった。
陽菜には気持ち良くなって欲しい。それにはクリトリスを舐めるべきだろう。
紗月は陽菜の顔をもう一度見た。
陽菜は紗月と目が合うとその意図が読み取れないようでパチリと瞬く。
その時の陽菜の顔は落ち着いていて紗月を見守っているようだった。
彼氏として紗月の戸惑いを察して寄り添ってくれているようだった。
紗月はもう一度、陽菜の大事なところに顔を近づけクリトリスを再び舐める。
根本から持ち上げるように大きな舌使いで陽菜の股間の突起を刺激する。
今度は動きを大きくする事と早くする事を試してみる。
舐めていると紗月は性感とは違う種類の気持ちよさを舌に感じる。
陽菜のクリトリスの感触は癖になりそうなほどに紗月の口腔粘膜に心地良かった。
これまでの彼氏も陽菜もあまりクンニはしない方だった。他の彼氏と同じセックスが出来ない故か陽菜は比較的多いがあくまで比較的だ。
クリトリスで感じた経験が圧倒的に紗月には不足していた。
舐めながら陽菜がしてくれる中でセックスで一番多い膣への指の挿入にすればよかったかなとも思った。
それならどうしたら気持ちいいかの経験は紗月に十分あるからだ。
ただ、それが陽菜にとって気持ちがいいのかは分からなかった。
膣は女性の象徴だ。そこを刺激されるのが苦痛じゃないかを真っ先に心配した。
クリトリスはその存在を説明する際に「女の子のちんちん」と称されるのを性的な事柄に疎い紗月も聞いたことがある。
オナニーをしてるというし女性器の一部である事には変わらないがここなら陽菜も苦痛じゃないと思った。
聞けばいいのだが、陽菜のあそこを見て触れたいという欲望とその衝動に勝てなくて舐め始めてしまった。
触るじゃなくて舐める、なのは紗月が陽菜以前にシス男性とセックスしてきたことから粘膜どうしの接触を求めていたからだ。
もっともかつての彼氏とのセックスで紗月の中に入ったのはコンドームに包まれたペニスだったわけだが。
紗月は陽菜のクリトリスの感触と愛液の味にうっとりしていた。
これが愛する人の大事なところだ。
性自認と一致しない物があるその場所も本人も大事だと思っているかはわからない。
けれど、ここを刺激していく事で陽菜がこれまで自分にくれた愛を紗月からも伝えることができる。
その感動が舌に当たる感触をより気持ちよく感じさせた。
「はぁ……あぁ……はぁ……う……あぁぁ……」
陽菜の荒い息に少しずつ声帯の振動が含まれてきた。
友達の頃から色んな話をして聞いてきた陽菜の声がかすかにだが聞こえてくる。
(かわいい声……もっと聞かせて……)
紗月は少しずつはっきりしていく陽菜の声がとても愛おしかった。
聞き慣れた声だがこんな声の出し方をしているのを聞いた事がない。紗月は初めて耳に届いた陽菜の知らない声を心の底から求め始めた。
紗月は舌の動きを精一杯激しくしていく。
「あっ……あぁぁ……ああっ……」
陽菜ははっきりとした声を上げた。
その声が何なのかははっきり分かった。これが喘ぎ声だ。
これまで声を出してしまわないように堪えていたのだろう。
この声は誰が聞いても女の子のそれだ。
男の子としてこんな声は出したくなかっただろう。それでもこの声を出さずにはいられないほど感じているんだ。
陽菜の声は実際、誰が聞いても女の子の声だ。どちらかといえばかわいい部類に入る。
だが、口調は完全に男の子だ。親しい人といる時にはわららかい言い方が多いが男言葉だし、そうでない人の前でも言葉遣いは女性のそれだが喋り方は男の子っぽい。
聞いた印象はどちらの距離感の人が聞いても女性声優が演じている少年キャラを連想させるそれだろう。
そんな陽菜の喘ぎ声はいつもの少年っぽさを感じなかった。でもその声は紗月には性的魅力を感じるという意味で色っぽく感じた。
紗月はその声をもっと聞きたい一心で一生懸命舌を動かす。
そうしてもたらされる快感に集中してるのか陽菜は紗月に眼差しを向けるのをやめて力なく点を仰いでいた。
「あっ……んっ……あ、あっ…………」
急に声が止んで陽菜はしゃっくりのように息を強く連続して吐く。
それは声を出すのを我慢しているというよりも声帯の動きが間に合わないという感じだった。
紗月はそれと同時に慌てて陽菜の性器から顔を離す。
その呼吸と同時に陽菜の全身がピクンピクンと痙攣したからだ。
紗月は驚いたが、すぐにそれがなにか分かった。
過去の彼氏とのセックスでは経験できず10ヶ月前の陽菜との初エッチで初めて経験できたもの。オーガズムだ。
あの時は紗月が激しい感覚と同時に始まった短い全身の痙攣に怖いという感情を覚えた。
今では毎回、陽菜がオーガズムまで導いてくれるので安心してその感覚を味わえるようになった。
それを今は陽菜が自分の愛撫で味わっている。
陽菜はオナニーで付き合ってからのこの11ヶ月の間に自分よりも遥かに多い回数のオーガズムを経験しているだろう。
その陽菜が普段自身の指で起こすオーガズムは自分が今、舌で刺激した結果とはどう違うのだろうかと紗月は思った。
気持ちいいなと思いながら紗月は陽菜を見つめる。
陽菜の姿はやっぱり美しかった。そして、イッて恍惚とした表情をしているのも美しい。
紗月はこんなきれいな人の彼女であることを嬉しく思えた。
自分が見惚れている彼氏の姿は彼が女性の身体を持つことの証拠に他ならない。
その事に複雑な気持ちになるがこの人をずっと愛していきたいとつい今の今まで舌に感じていた陽菜のデリケートな部分の感触とその間聞こえた声、そして今見ている表情が思わせた。
それが自分が異性愛者なのかどうかという事、陽菜のことを男性として見れているかという事に疑問を持たざるを得なかったが今はそれは重要じゃないように思えた。
(あっ……)
意識がどこかに行っていたように見えた陽菜が平静を取り戻しつつあるようで焦点がきちんと合った目で紗月を見た。
その目には涙を浮かべていて瞳を潤ませている。
「ハル……?」
陽菜は次の瞬間、勢いよく紗月の胸に飛び込んで強く抱きしめた。
その力はとても強く紗月は痛く感じたが嫌だとは思えなかった。
紗月も優しく陽菜を抱きしめ返す。
「紗月、こうさせて。僕、紗月の体温が欲しい」
「うん。いいよ。ハルの体温、気持ちいいね」
陽菜の行動が何なのかは身体の性別が同じである紗月はすぐに分かった。
オーガズムに達した時に相手のことを精神的に強く求めたくなる事がある。
これまで彼氏の賢者タイムにつらい気持ちをしてきた紗月にはこの反応は嬉しかった。
正面から抱き合っている状態では紗月の胸に陽菜の胸があたり、乳房の感触も伝わってくる。
この数十分の間、陽菜が男じゃない証拠を山程、身体で受け止めた。
そんな中でお互いの肌が密着してオーガズムで上がった陽菜の体温を感じて思ったことがあった。
陽菜のそばにずっといたい、もっと愛したいということだ。
「紗月、興奮してた?」
しばらく抱き合っていたあと陽菜が囁いた。
「うん。夢中になって舐めてたけどすごい興奮した」
「ちょっと立ち上がってくれるかな」
「あ、うん」
紗月は陽菜の意図がわからないがとりあえず床から立ち上がった。
陽菜はベッド脇のキャビネットの上にある箱からティッシュをを二、三枚取った。
「ちょっと脚広げて」
「こう?」
「そう」
紗月が脚を軽く広げると陽菜はティッシュを畳んでそのティッシュで紗月の股間を拭いた。
「触る側も興奮してたら結構濡れるんだよね。パンツ汚したくないでしょ?」
陽菜の行動に紗月は驚いたが、それと同時に普段、陽菜がセックスのあとにしている行動を思い出した。
「ところでさ、ハル」
「何?」
「いつもエッチの後にトイレに行くのはあそこを吹くため?」
「え、っと。うん、そう」
陽菜は恥ずかしそうに目を伏せて言った。
「言った通り、僕も触ってるとすごい濡れるからね」
「やっぱりそうだったんだ。トイレ行くのにおしっこの音が聞こえないから気になってたの」
「彼氏が『あそこが濡れた』なんて嫌かと思って言わないできたんだ」
「今日はその濡れる場所をたっぷり味わったから、次からはわたしに拭かせてね」
「え? うん、いいけど」
やはり陽菜は照れているようだ。
辛そうにこわばった表情を見せていた先ほどとは違う表情に紗月は驚きを覚えた。
裸になること、女性器を触らせること、濡れるという女性特有の性的興奮の現象について自分から話すこと、その事から自分の身体を隠すという事から開放されたように思えた。
そんなに簡単なものじゃないとは思うが紗月が陽菜の身体に魅力を感じたのと同じように陽菜が自分の身体を見せることへの抵抗が弱まるという変化が起きたのなら嬉しいと思った。
「あと、ハルもすごい濡れてたよ」
「あれだけのことされたら……」
「じゃあ、拭かないとね」
紗月がそう言うと、ティッシュ箱から近くにいる陽菜がティッシュを取り紗月に渡した。
愛液を拭く事もこんな風に自然な動作でやらせてくれるというのが紗月には嬉しく思えた。
「イッたばかりだからそっとね。刺激に弱くなってるから」
「うん。わかった」
紗月はできる限りそっと陽菜の陰裂を前から後ろに向かって拭いていった。
「くぅっ……」
そっと拭いたつもりだがオーガズム直後の陽菜の性器にはそれでも刺激が強いようで小さく喘いでピクンと震えた。
「大丈夫?」
「うん。だ、大丈夫」
拭き終わるとそれでも触れられた刺激の余韻があるのか陽菜は内股になった。
陽菜は自分のその状態にふてくされたような表情をする。
これまで陽菜は男としての自覚から脚を広げ気味にするように気をつけてきた。
女の子みたいに内股になるのは恥ずかしい。
「これ、どうすればいいの?」
紗月は陽菜の愛液を拭き終わったティッシュを見せて言う。
「ゴミ箱にそのまま捨てて」
「いいの?」
「うん」
紗月がティッシュをゴミ箱に捨てると、様々なゴミに混じって結構ティッシュが捨てられているのを見た。
この中のどのくらいがオナニーの後で愛液を拭いたものかを考えると過去の彼氏のゴミ箱に精子を拭いたティッシュを見たときの事を思い出した。
オナニーをしない紗月には女子がどれだけティッシュで拭いたり、それをそのままゴミ箱に捨てたりとかはどのくらいするのかは分からない。
ただ、オナニーで拭いたティッシュを無造作に捨ててる様子は男の子だなと思った。
「ねぇ、今日はハルのベッドで寝てもいい?」
紗月は陽菜にピタッとくっついて言った。
「えっと、一緒に寝る?」
「うん。一緒に暮らしてからまだハルと一緒に寝たことないもん。エッチしたって意味でならあるけど」
紗月は不貞腐れたふりをしながら言う。
「じゃあ、パジャマ着ようか」
「このままじゃ駄目?」
「裸で?」
「うん」
「恥ずかしい……」
「わたしはハルの体温にまだ満足してない」
「しょうがないな」
陽菜は本棚の前に無造作に置いたルームウェアと下着をきれいに畳んでベッドの横に置いた。
それを見ると、紗月はベッドの上に置いてあった自分のパジャマと下着を陽菜の服の横に置く。
先に陽菜がベッドに入り、紗月が続く。
「結構、狭いね」
陽菜は笑う。
「でもその分、くっついて寝れるからいい」
紗月は微笑む。
「ねぇ、紗月」
「なに?」
「手だったらこのままの姿勢でもできるけど、しようか? 興奮するだけして気持ちくないのしんどくない?」
「ハルが今までそうだったでしょ?」
「僕はエッチってそういうものだって感覚で来たけど、陽菜は男とやってきてお互い気持ちいいのに慣れてるだろうし」
「そうだね。今日はね、このまま眠りたい」
「いいの?」
「ハルのあそこに触れて、気持ちよくなってくれて、すごく満たされた気持ちになったの」
紗月は嬉しそうに言う。陽菜はそれに驚いた顔をした。
「いつもエッチした後、ハルは不満なんじゃないかと思ってたけど、違う満足があったんだね」
「そうだね。いつもトイレであそこを拭く時にその満たされた気分を気持ちの中でなぞってるんだ」
「なんか分かる気がする。もし、今、気持ちよくなってイッちゃったらその気持がどこかに飛んでいく気がするの。だから、今日は気持ちよくなったハルの様子に興奮した気持ちを持って眠りたい」
「そうか。僕もその気持はよくわかる」
「ハルはどうだったの? ひとりエッチはしてるけど、誰かに気持ちよくされるのは今までなかったんでしょ?」
「今日が初めてだよ。最初は女であることを見られながらクリをいじられることが辛く感じたけど、紗月が一生懸命、舐めてくれて気持ちよくなっていくうちに少しだけどこの身体が好きになった。オナニーとぜんぜん違う。オナニーは自分でコントロールできるけど、予想できない気持ちよさと紗月の優しさがもっと欲しいって気持ちにさせてくれた」
「次のエッチからはお互いに気持ちよくさせるってのはありかな?」
「そうしよう。僕のまんこが紗月を求めてるんだ。男女じゃなくて女同士になっちゃうって思ったけど、エッチの時くらいはそれでもいいと思えたんだ」
「わたしからも愛する事を伝えられるんだね。ハル、大好き!」
「嫌いにならないでくれてありがとう」
「嫌いになったりしないよ。今日はハルのイッた姿を見てどれだけハルを愛してるかわかったんだから」
「紗月……」
「ハル……。うれしい、こうやってハルの肌に触れながら眠れるの」
「寝ようか。裸でいるのちょっと恥ずかしいから続きは明日ね」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
春先に同棲を初めてから数ヶ月の今日。二人は初めてお互いの肌のぬくもりを感じて眠りについた。
眠りに落ちる少し前、口には出さなかったが紗月も陽菜も今日の日付を記念日にしようと思っていた。
陽菜が初めて紗月に肌をさらしてから二週間後、陽菜は大きく模様替えをした部屋の中で組み立てたベッドの作業漏れがないか確認していた。
「ハル、梱包材は片付け終わったよ」
「こっちも出来た所。多分、問題ないと思う」
二週間前のあの日から、陽菜と紗月はセックスの時にお互いに交代で愛撫するようになった。
以前よりもセックスに時間がかかるようになったが満足度は陽菜と紗月で役割分担があったころとは段違いだった。
セックスするにも眠るにもお互いのベッドを行き来していたが、その事に疑問を持つまで三日とかからなかった。
これまでは陽菜が裸を見せたり身体に触れられるのを嫌がったから別々に眠っていたが、当たり前にお互い裸になってセックスをして一緒に眠るのであればそうする必要がないという結論に至ったのだ。
これまで陽菜の部屋と紗月の部屋という部屋割りだったのを変えることにした。
それまで紗月の部屋だった部屋を二人の寝室にして、陽菜の部屋だった部屋を勉強や作業を行うための部屋として使う事にした。
最初はそれまでお互いが使っていたベッドを並べようとしたが、抱き合って寝たり、セックスを今までしなかった体位でするのにダブルベッドを買おうということになった。
最初はフルサイズのダブルベッドを候補に上げたが、六畳間には大きすぎるし価格帯も高かったため、セミダブルのベッドを選んだ。
身体的には二人共女性で身体も大きくないので広さもそれほど必要ないし、密着して寝るだろうからセミダブルでも大きすぎるくらいだった。
そのベッドを組み立て終わったのが今のことだ。
「ごめんね。わたし、何も役に立たなかった」
「片付けてくれたし、お互い得意なことをやっただけだから。僕なら片付けの段取り悪くて時間かかったろうし」
「こういう時は男の子と暮らしてきてよかったと思うな」
「得意不得意に男女はあんまり関係ないように思うし、昨日、布団の中でされた事を思い出すと皮肉に聞こえるんだけど」
陽菜は呆れた顔で紗月に言う。
紗月は昨晩、陽菜に対して、ネットで知った「女性の身体ならでは」の攻め方をしたのを思い出して顔を赤くした。
「とにかく工具片付けてくるからそれが終わったらマットレスと布団ね」
そう言って、陽菜は隣の部屋に工具を置きに行った。
紗月は陽菜に思い出させられた昨日の行為に股間が熱くなるのを感じながら、それを忘れるために、部屋の入口に立てかけたマットレスを敷き始めた。
陽菜も隣の部屋から掛け布団とブランケットを持って戻って来る。
ベッドにそれらを敷き終わればば二人の寝室は完成だ。
風呂と食事が終わるといつもどおり、晩酌をした。
それからはまっすぐベッドに向かいお互いに裸になってセックスをする。
陽菜が身体的に女性であることを紗月に見せられるようになってからは二人のセックスは完全に女性同士のそれになった。
まだ、そうなってから日が浅く一つ一つ色々な方法を試している段階だが、交代でお互いにイカせ合う行為に満足していた。
今日は初めてシックスナインをした。
お互いの股間を舐め合うというあれだ。
先に陽菜がオーガズムに達し、陽菜はオーガズムで身体の力が抜ける中で力を振り絞って紗月をイカせた。
フラフラした状態でふたりはお互いの枕に頭を置き並んで天井を眺めて横になった。
二人ははぁはぁと走った後のように息が上がっている。
このまま眠ってしまいたいくらいに疲れたが、そうするのはどこかもったいなくて紗月は陽菜に身体を近づけた。
「気持ちよかったね」
紗月は陽菜と手を繋いで言った。
「そうだね。紗月もまんこを弄るの慣れてきたね」
「まだ手探りだよ」
「だけど、最初にしてもらった時より気持ちよくなったよ」
「ところでさ、今日はあそこを拭かなかったね」
「そうだっけ?」
「忘れてたんじゃないよね?」
「そ、それは……」
「もう一回したい? それともわたしが眠ってからひとりエッチするの?」
紗月の言葉に陽菜は答えに窮した。正解は後者だからだ。
だが、同時に陽菜は紗月の手の動きを見逃さなかった。
「紗月はもう一回したいんだね?」
紗月は陽菜の股間に手を伸ばしていた。指先はちょうど陽菜の割れ目の始まりに届いたところだ。
「眠くなるまで触るだけ」
「イッた状態でさらに弄るって僕、初めてなんだよね」
「わたしもだよ」
「それをしたいんだ?」
「うん」
「それじゃあ、僕も」
陽菜も紗月の股間に手を伸ばす。
二人はお互いの陰裂の中に指を埋めてクリトリスを探り当てる。そこから指先で弄り始める。
セックスをしたばかりなので二人ともあそこは十分に濡れている。
ヌルヌルした割れ目の中で指の滑りはとても良かった。
性器の摩擦は愛液でほとんどなかったがそれでも指が触れる刺激はイッたばかりのクリトリスには強すぎた。
「くっ……!」
「んっ……!」
陽菜と紗月は短い喘ぎ声を上げる。
お互いに相手のクリトリスを弄りながら顔を見合ってそこからキスをする。
二人の寝室での初めての夜はこうして人生初の日に二回目のセックスをした。
強すぎる刺激の中で陽菜はここ二週間での心境の変化と数年前にした決断のことを思い出していた。
陽菜はホルモン治療を始めようと準備をしてた時にダンサーとしての活動に支障が出て、場合によっては続けられないという自体に直面した。
自分の身体に強い違和感を持っていた陽菜はホルモン治療の後に胸を取り、性別適合手術を受けるつもりでいた。
性別適合手術も子宮と卵巣を取るだけではなくちんちんを作るつもりでいた。その時はちんちんのない未来なんてありえないと思っていた。
だが、どうしてもダンスを諦めることができなかった。男の身体になってもダンスを捨てたら公開をすると思った。
そうして最終的には女の身体のまま、女のふりをして活動を続ける事になった。
身体を変えて男になっていくFTMの仲間を見ながらなんどもつらい思いをした。
男だと思えないという理由で何人もの元カレに捨てられた。
それを経て、ようやく身体を変えることを諦めた事に紗月とのセックスでネコをやった事で本当の意味で向き合えた気がした。
紗月の指先でクリトリスを刺激されながら陽菜はようやく好きに慣れたこの身体で紗月を愛していきたいと思った。
自分が男であることと自分の女の身体の両方を愛そうとしてくれる事に陽菜は感謝しかなかった。
自分が今、クリトリスで感じる以上に自分の指が紗月のクリトリスで感じてくれることを願いながら夜の静けさに響くクチュクチュという音を聞いてこみ上げる愛おしさを感じていた。
この日はどちらが先にイッたのか覚えていない。
だが、覚えているのは陽菜も紗月もオーガズムの余韻を股間に感じて翌朝目が冷めたことだった。