輝くちんぽで練り歩く。
ネオン街のホテルがギラギラと僕の中の性欲のように輝いている。
いや、本当に輝いているのはちんぽだ。
まさにデコレーションちんぽ。さながらデコチンってとこかな。惜しむらくはデカチンでありたかった。
でもそれよりも、眩しく輝く回転警告灯。
そう、おまわりさんだ。
無線に何かを呟きながら近づいてくる青い服のお巡りさんが二人。なんとも言えない表情で近づいてくる。
僕は歩み寄り、咳払いなんか挟んでみた。
「お疲れさまです」
思わぬ先手を打たれたことに一瞬、躊躇したようだった。だが協力的な態度を見せたことでいくらか険悪な空気は和らいだような気がする
「なにかあったんですか?」
「通報がありまして。変質者が街を歩いていると」
なにかもなにも、今まさに僕がその張本人らしい。
恰幅の良いお巡りさんと、細身のお巡りさんの二人が僕の身体を隠すように囲う。
その二人の顔を下から照らすデコチン。なんという状況だ。
細身のお巡りさんが笑いをこらえる。
「……君、揺らすんじゃない」
右に左に腰を揺らす度にブラブラと揺れるデコチン。だが恰幅の良いお巡りさんが不意に見下ろし、何かに気づいて顔を背ける。肩を震わせて笑いをこらえている。
そう。ちんぽは竿のみでちんぽたり得ない。輝く陰嚢に気づいたのだ
「?」
怪訝な表情の、細身のお巡りさん。そして同じく下を向いて、噴き出している。しかしすぐに取り繕うように口元を手で覆っていた。
その間も僕は光り輝くデコチンを揺らしてみたりする。
「…きみ。なんでこんなことをしたんだね」
お巡りさんの素朴な疑問。問いかけ。犯行の動機を尋ねられる。
「待ってください。なにもやましいことなんかしていません」
やらしいことかもしれませんが、と言いかけてやめた。僕は至って真面目だ。
罪状についても猥褻物陳列罪あたりだろう。
僕は両手を広げる。
「見てください。何も持っていないでしょう」
身の潔白を表明する僕の顔を下から照らすデコチン
お巡りさんは笑いを必死にこらえている。小刻みに揺れる光に耐えられない様子だ。
僕はあくまでも善意のつもりで揺れる陰嚢を引き締める。だがそれがいけなかった。
血流がデコチンに集中する。膨張する海綿体。怒気を帯びていきり立つ股座を隠すものはなく、剥き出しに輝く亀頭が夜を照らす。
「ばあっはぁっ!!」
恰幅の良いお巡りさんが耐えかねて笑い出す。細身のお巡りさんは限界だ。笑いをこらえすぎて涙目になっている。
一層激しく発光するデコチンから放たれる光はネオン街の看板に負けじと輝いていた。
僕は少し誇らしげになった。
もはやデコチンは僕に制御できるものではなかった。ビンビンだ。自分でも驚くくらい光輝いている。
僕は慌てた。
これはまずいぞ。もはや僕自身、直視できる光量ではなかった。
僕のちんぽで失明する人が現れるかもしれない。だが僕は両手で隠しはしなかった。
当然だ。やましいことなんてないのだから。
だがそんな僕の意思とは裏腹に、ズルムケの亀頭から放たれる光は600ルーメンはくだらないだろう。シモの話にくだらないとはどういうことだ? いや、僕はそんな邪な考えを振り払った。
やましいことなんてないんだから。
怒張し、屹立し、天を衝かんばかりにどんよりとした夜空を仰ぐデコチン。
僕の鼻の穴の中まで照らし出さんばかりの光量には、僕自身目を開けていられなかった。
目を細める。だけどおまわりさんに誠意を見せるべく僕はまっすぐ目を見つめていた。
「待ってください。なにもしていないじゃないですか!」
恰幅の良いおまわりさんは過呼吸気味になっている。喘息持ちだったのだろうか。とても辛そうにしている。
細身のお巡りさんもラマーズ呼吸法で耐えている。ひっ、ひっ、ふーっ。息を深く吸い込んで、吐き出していた。
僕が思い出したように腰を左右に振ると、ブルンと揺れるデコチンが二人の顔を照らす。
「プァーーーッ!!!」
なんてことだ。細身のお巡りさんが壊れたトランペットと化した。いや、あれはトロンボーンだったかな? そんなことはさておいて、公務員であるお巡りさんが涙を浮かべるほど笑い出している。
通行人たちも何事かと足を止めて僕達の方を振り向くが、足早に立ち去っていた。まさに目も当てられないとはこのことか。
僕は未知の快感を覚えた。だが、それがさらなる事態を悪化させることになるなんて思いもしなかった。僕はなんてバカなことをしたんだろうと後悔しても、既に遅い。
興奮気味になった僕の神経伝達物質がますますデコチンにエネルギーを与えることになってしまった。
ゲーミングちんぽだ。
七色に光りだすデコチンに僕は困惑する。
「ィィーッヒッヒッヒ!!!」
困ったことに恰幅の良いお巡りさんが魔女のような笑い声をあげている。中世における魔女は男性であっても魔女と呼ばれ、ひどい拷問にかけられていたらしい。
なんてことだ。
僕のちんぽが現代の魔女をあぶり出してしまった。
クシャッと顔を歪めてお巡りさんが涙をこぼしながら笑っている。
僕は両手を広げたまま、身の潔白を表明しているだけなのに。嗚咽混じりに笑い声を上げているお巡りさんはこちらを見てくれない。
「見てください。何も持っていません!」
お巡りさんはとうとうこちらを見向きもしなくなってしまった。背中を向けて、無線になにか喋っている。
涙声になっているのを心配されているあたり、このお巡りさんは人当たりがよいに違いない。
僕は恥じた。こんなにいい人に迷惑をかけている自分が情けなくなった。
僕の意思を汲み取ったのか、デコチンもしょげている。
元気をなくしたことで七色に輝くことはなくなってしまった。それでも光り輝き続けることに感動してしまう。宝石とは磨けば光る原石があってこそ。
そうか。ちんぽとは、デカくなくてもいいのか──!
光が弱まったことでお巡りさんもようやく振り向いてくれた。
やましいことなんてしていない。でも良い人に迷惑をかけてもいけない。
「すいませんでした」
僕は素直に謝罪することにした。お辞儀には角度がある。僕は最上級の敬意と謝罪の意思を込めて背を伸ばし、90°に腰を折った。一秒、二秒と姿勢をキープしてから顔を上げる。
僕の顔を照らすデコチンにお巡りさんが空を仰いだ。気持ちが伝わったに違いない。
とても晴れやかな気分になった。全身で浴びる夜の街の夜風は生ぬるく、肌にまとわりつくような不快感を伴う。だけど今の僕はとても清々しく、そんなことはどうでもよかった。
お巡りさんに連行されて、僕は堂々とパトカーに乗り込んだ。
初めて乗る警察車両の後部座席で、背筋を真っ直ぐに。シートベルトも忘れずに着用する。
子供の頃、親が玩具の車を買ってくれたのを思い出していた。幼い僕は飽きもせず、肌見放さず遊んでいたことを覚えている。
しみじみとそんな昔のことに思いを馳せながら、僕はどこか浮ついた気持ちで腰を浮かせた。
車内が照らされる。
そう。僕のデコチンは輝き続けていた。
カメラのフラッシュライトのように照らし出される僕の顔。お巡りさんはこちらを見ないようにしているのか、窓の外に意識を傾けている。
「パトカーって初めて乗りました」
僕は不意にそんな話題を切り出した。だがお巡りさんは曖昧な返事しかしてくれない。
参ったな、放置プレイか……。僕は舌なめずりをした。
悪くないかもしれない、と思ったが最後。
僕のデコチンが七色に輝き始めた。途端にパトカーの中がクラブのダンスホールのようにギラつく。ミラーボールが乱反射する鮮やかな光はフロアを熱狂の渦に巻き込むかもしれない。だが僕のゲーミングデコチンはこの時さらなる進化を遂げていた。
これが僕のちんぽの極限進化と言っても過言ではない!
約1680万色に光り輝くゲーミングちんぽだ──!
「ピィッヒヒッフ!!!」
ハンドルを握っていた恰幅の良いお巡りさんが小鳥のようなさえずりを奏でた。
だが僕が覚えているのはここまでだ。
それからのことは記憶にない。
あの時、笑ったお巡りさんがハンドルを誤ってパトカーがクラッシュしたのだ。
幸いな事故に通行人を巻き込むことはなかった。
病院に搬送されたあと、数週間の入院を経て僕は退院。
心身ともに健康。健常者と医者のお墨付きで。
──あの夜、僕は何故あんなことをしてしまったのか覚えていない。
だがあれ以来、とても清々しい毎日を送っている。
だけどなぜ僕のちんぽが光り輝いたのか、それだけはわからなかった……。