我が金亀家の蔵は代を経るごとに増えていくという。
初代様がいつの頃になるかは分からないが、幼い頃に数えた時には既に50を越える土蔵が立ち並び、代々の家長が納めた財宝が眠っているらしい事は理解した。
見ることはできない。というか今は蔵の扉を開けることもできない。時期家長を名乗れるほどに霊力が高まったときにようやく、その財宝の秘密に迫れると聞いた私は、幼い頃から研鑽を積み。
「は〜、たっかい億ションの建築予定ないかな〜」
齢15歳にして、放課後は制服を脱ぎ捨てハイブランドに身を包む、次期当主にふさわしいレイディー(巻き舌)になっていた。
「そうねぇ、ママの人脈では財閥系のお子さんが進学する予定はしばらくないわね〜」
「パパのお友達の官僚も今ちょっと動きが読めなくてな、幕僚が色々事件に巻き込まれるものだから。しばらくはどの一族が繁栄をもたらすのか、易が見にくくてね」
「え〜稼げないじゃ〜ん」
我が家のご祈祷はこの国の人事を左右させ、家の繁忙に特化している。そのため神社の賽銭でチマチマ稼ぐことはなく、代々政治家などの顧問を務める事で見返りを大いに享受してきた。
一度依頼が舞い降りれば見返りはうん千万からが基本。火災が起きず大きな怪我や孤独死も起きない不動産の補償は一等地のブランドを保つのにとても大きく、我が金亀家の蔵はとどまることなく立ち並び、次代ももはや安泰なのだがまだ蔵の中身が見えない。
「蔵の中がわからないのやだ、もっとお仕事したい〜霊力高めたい〜」
「うーんそうねぇ、白鶴ちゃんは修行もとっくに終わってるしいいお仕事を任せてあげたいけどぉ……」
「我々が地脈のバランスを崩している説もあるからねぇ」
繁栄を極める都市は限られており、ここ東京から二県をまたげば繁栄の色は薄くなってしまう。
それは野菜が根から土の栄養を吸い上げてしまうのと同じように、金亀家がせっせと他県の龍脈を呼び込んでいるせいでもあるという。
「仕方ない、白鶴。地鎮祭を頼むよ」
「あなた、そんな田舎にこの子をやるなんて! ヤンキーに絡まれたら大変ですよ!」
「いや、絶対平気だろう。命脈が弱い子じゃ白鶴と会話する運命すら存在しないじゃないか。この子はこんなに凄いし都会でも浮くレベルでブランド物を着まくっているのに、誰にも声をかけられないじゃないか。ゴマすり1人生まれないなんて可哀想だろう」
パパは言いにくい事をズバッと言ってくるけど、悲しいけどこれは事実だ。私の霊力はあまりにも高すぎてしまい、運命力が年々高まり続ける東京界隈においてすら波長の合う子がいない。
だって私は既に自力で財産を三億稼いでる。普通はどんなに親が恵まれていようとも、相続くらいでしか三億稼ぐのは不可能だと知っている。
「それはこの子に他人の人生を慮る優しい心があるっていうかね!? 時代もよくないですよ! 白鶴ちゃんならクラスの男の子全員に告白されてもおかしくないってママは思ってるからね!」
「ママやめてよ! そういうの本当にヤダ!」
一見おしとやかに見えるママは若い頃にからかってきた男子を呪ってからというもの、因果を好き放題いじくり回して学生生活を謳歌してきたらしい。
「私は男子とかより蔵の中に何が入ってるのかが知りたいの! あとは有り余るお金でヘンメスとかブワァークイーンの新作をこれから全部揃えたいだけ!」
「ハッハッハ、白鶴や。君は何個蔵を建てるつもりなんだ〜」
パパは笑っているけど私が本気な事を理解してくれてる。ロマンスグレーにそろそろ差し掛かりそうなパパは、当主としての辞令を言い渡してきた。
「白鶴。隣県を巡って地鎮祭をやってきなさい。地脈の流れがある程度戻ったら、おこぼれを何処かから頂戴するように。有力者を見つけて君の代の人脈を作ってきなさい」
「かしこまりました、行ってまいります」
三つ指をついて承ると、早速私は家を飛び出した。5県くらいハシゴして1ヶ月後には余裕で帰ってきちゃうわよ、なーんて思っていたのにね。
旅先では管理放棄されたような忌み地で妖魔を祓って、霊力を高めて凱旋し、家宝を拝める霊験を積んで次代も金亀家は安泰、なーんて思っていたのにね。
「なにが、なんだって?」
「ぽこ◯んタヌキにやられたんです……」
全然意味がわからない。
河童や天狗、大蛇や人心を惑わす影を調伏し、地の底で鬼系のイケメン男子とか龍神様とあわよくば出会っちゃうかも、なんて思っていたのに。
「お前、私が怖くないのか?」
高すぎる霊力は一般人との運命を交わらなくしてしまい、意図せず避けられるような付き合い方になってしまうのが、私の中学卒業までの過ごし方だった。
高校にはもはや行く意味がないから、進学はしたけど学校を休んで地鎮祭に回ろうとした矢先に出会った少女は、私の高すぎる霊力をもってしても理解できない。
「そんなに蔑んだ目で見られると、うぅぅ、あぁっ♡」
私は巫女服をハイブランドにオーダーさせてまで作ったパリジェンヌ(巻き舌)の出で立ちで、山登りしているにもかかわらずパリッと決めている。
しかしいくつかの山を越えた先で出会ったこの少女には、服装が野暮ったい学ランということよりも、霊的にあってはおかしい場所に変なものがついているように見える。
霊視のできないものには見えないであろう、いわくつきの股間の長物が硬く立ち上がる。
「バカな……私と出会えるほどの霊力、霊力なのかこれは? いや、生命力のほうが近いか?」
「あぁぁぁぁ覗き込まないでくださいぃぃぃ〜」
股間に滾る生命力は、こいつの可能性の強さと運命力の証だ。
学ラン姿の少女がもつれて尻もちをつくと、私は足を広げて股間を直視する。
「これはお前どうしたんだ? 変な松茸でも食ったか?」
「違うんです、俺は本当は男でぇ、タヌキの、タヌキの信楽焼が落ちてると、おもって、こっそりキンタマ撫でたらそいつが動いてぇ」
言ってることの意味がわからないが、ショートヘアの可憐な少女が山奥で1人股間を輝かせているのは不気味だ。
絶対何がしかの霊障に当たっているが、股間が眩しすぎて話に集中できない。
「ねぇこれ集中できないからどうにかして。ピッカピカで眩しいんだけど、うわ触れた!」
「なんで勝手に触ってるんですか!? ダメだって! そこにあるのが分かったのは嬉しいですけど、なんか変な感じ!! やばいって!!」
「あ〜なるほど〜? 君にはわかってないし、これが見えてないと。んじゃ私がどうにかするしかないじゃないの」
学ランの女の子は必死に股間を押さえているけど、霊体化した男根は抑えた手を貫通して生えているので意味がない。
「俺もわかってることあるって! タヌキが逃げたの! ぽこ◯んタヌキが何を男がワシのキンタマ触っとんねん、女になっとけやって怒っちゃったの! 信楽焼だと思ってたのに! 生きてて喋ったの!!」
「それさぁ……まぁいいわ、妄想かどうかもよくわかんないし、この天才白鶴ちゃんにかかればあらよっと」
「ダメダメダメそれちぎれる!! 無いちんちんがちぎれる!!」
言ってることが信用ならないので、変な松茸だと思って引っこ抜こうとしたら無理だった。
だいぶ立派な霊力を宿しているようだが、そこにかすかな波紋が伝わる。
「そこだっ!」
「ヒイッ!」
霊力の波動を所構わずぶつけると、声の高いジジイみたいな鳴き声のタヌキを捕まえる。コテンと木の陰から転がり出てきたミニサイズなタヌキは、確かに動いているし知恵のありそうなしかめっ面をしている。
「おいこら何をワシを捕まえとんねん! そこにかぐわしき松茸あったら吸うんと違うんか! ヒィッ! なんて霊力してはりますのん!? おっ、お助けー!!」
「どういう暗示なんだそれは、といかなんだお前、もしかして分福茶釜か?」
よくよく見れば信楽焼のたぬきの笠に見える部分が、鉄器の穴あきお鍋をかぶっている。
「こっ、こいつですー! こいつが、こいつが勝手に私を女の子に……!」
「あぁん!? 人のキンタマ勝手に触るやつは女の子じゃないと許されへんで! お前さん元々そういう素質あったやんか? ならワイの精神衛生もあるし女の子にさせたろって、そういう話やろがい感謝せぇ!」
事情はまだまったく飲み込めてないけど、分福茶釜は悪いモノノケではない。福を分ける存在であるとは伝えられるが、実際目にするのは初めてだし、やってる事が意味わからなくて混乱してるのが正直な所だ。
「ねぇ私は地脈の狂いを正しに来ただけだから、問題ないならほっといていい?」
「言い訳なくないですか!? 僕男の子なんです、なんですけどぉぉ!!」
「ていうかあんさんは誰ですのん!? こんな辺鄙な所に移り住まれでもしたらワイの霊力消滅してしまうがな! 堪忍したってやー!」
このままでは永遠に話の収集がつかない。目の前には運命力の高い見た目は女の子の男の子と、バチクソにうるせぇ低級妖怪がいる。
都会とハイブランドに囲まれて生きたい私には、不要な存在にしか見えない。
「ていうかあんさん気づいておられない?」
「何を?」
この天才白鶴ちゃんに何を教えられる事があるというのか、低級妖怪の下から見た発言に少しイラつく。
「禍ツ神に近いで、山に吸わせて汚すなゴミ女が。強いとかどうとか関係ねぇ、ワシの山をボロボロにしようもんならお前のケガレをはたき落としたるわ」
「えっ?」
面と向かって罵倒されたのも初めてで呆気にとられると、タヌキは鉄器の角で私の頭に体当りしてきた。
すると私の背後から地獄の穴が開く。
中から餓鬼共が覗き、鬼もこちらを覗いているが更に深い所から悪が昇ってくる。
「欲を飼いならしたと思ったかぁぁ、どちらが上を取っているかなどわかるまいにぃぃ」
これが私から出てきたのかと恐怖を覚える。どこで信心を違えたのか、寿老人ならぬ邪老人を顕現させてしまう。神の一柱を模した悪の具現化は、あたり一帯を不幸の海に沈めるほどの力を持つ。
「そんな、私から生まれたせいでとてつもない霊力だ……!!」
「そうやで! 反省しいや!」
事態は深刻を極めるが、こんなもん心のうちにあって当然だし私の一部分に過ぎないので対抗は余裕で可能だ。
「ちっ、私からは干渉が出来ないのか……!」
しかし因果が悪い。私から悪霊が生まれるなど万に一つもありえないはずなのに、低級クソだぬきのせいで泥を塗られた気分だ。
「ぬぉぉぉん、お婆ちゃんになってもブランド物に囲まれて生きたいわぁぁぁん」
「……やめろ、そうだけど、そうじゃない」
それだけでは良くないのはわかっているけど、運命の流れがまだ私には来ていない。
「無敵最強の私が富を積み上げるのだ、わぁぁぁぁん」
「否定はしないけど、肯定もしない。そのために地方を、ドサ回りしてんだから!!」
結界を組み上げるが、あたりの木は弱っているのかスッポ抜けてハゲ山になっていく。霊力の余波が強くて、このままでは地脈をズタズタに引き裂きかねない。
「姉ちゃん、あんたがしなきゃならんことは……わかるな?」
目の前で粗末なものをブラブラさせたタヌキが、宙に浮きながら説教してくる。お前が変なもん呼び寄せといて何を偉そうに語ってるんだ。
「禊など人生のどの段階でも向き合うものだ! 今特別に引き出されて誰かに退治してもらうほどのものではない! 余計なお世話だ!」
「あかんなー、それはあかん。それが絶好の餌になるんやで。この山の神にも等しいワシを舐め取ったらいかんよ、タマタマは優しく触ってほしいがね」
タヌキは結界を張るので手いっぱいの私にセクハラしながら、いよいよ悪霊のように追い詰めてくる。
「こないな寂れた田舎、どうでもえぇんとちゃいますの〜。はよう高級ホテルのスイートで、露天風呂はいってエモい気分に浸りたいんとちゃいますの〜」
それは事実すぎるけど、心のうちを読まれようとも動揺することはない。だって私は天才だから、その程度の贅沢しないとお金が使い切れない。
「助けを求め、山の神を、敬えというのだろう!?」
今度はこっちが心を読んでやったと思ったのに、分福茶釜は真顔で否定した。
「違うで、あんさんはこのおにゃのこの松茸から可能性を広げるんや」
「……いい感じの言葉を使って濁してますけど、それって卑猥な事ですよね?」
「ていうか今どういう状況なの!? あのおじいさんは見てもいいやつ!? なんか呪われそう、あぁっ! んぁぁぁっ!」
か弱い悲鳴をあげながら、少女の霊力がビンビンに昂っているのはどういう事なんだろう。初めて見るタイプだからどの系譜の人間なのかわからない。
「それはな、最近の子たちはそういう呪いが好きやって言うからな、ワシの方でだんだんエッチになる効果をつけておいたんよ」
「ですよね? 私の結界は完璧なはずなのに何を、何をつらい悲鳴をあげてるのかと」
「ちっ、違うもん! なんかビリビリして、痛気持ちいいんだもん……! んぉぉぉ♡」
このバカみたいなっていうか、ほっとくとバカになっちゃう子が鍵を握ってるというわけだ。
「はよせんと昂った霊力が散ってしまうで」
議論をしている余裕はない。このままでは山は死に、地脈の流れはおかしくなり、私は普通に生き残れるけどタヌキはともかく何の罪もないと思われる少女が悲惨なことになってしまう。
「ごめんね名前も知らない子! あなたは女の子あなたは女の子、良しっ!」
「違うよ俺は……はぁはぁ、僕は……んぁぁぁぁっ!! 私はっおっ♡」
この子が男の子だと股間にある霊力の塊がそういうことになってしまうので、流石にそれは私も恥ずかしい。
まだ初対面なのにそういうのって、良くないと思う。
「んにゃぁぁぁぁ!! 腰がっ、浮いちゃうぅぅ!! なんかすごいのきちゃぅぅぅ!!」
「ちなみに性格はいじってないから元々の素質が良い子なんやで」
「集中できなくなるからやめてください!! ていうかどんどん膨れ上がるんですけどこれこの後どうするつもりなんですか!?」
とりあえず霊力を注ぎ込んで高めに高めたものの、肉体がないしこの子は霊能力者ではないので力のコントロールが出来ない。
どんどん膨れ上がっていく風船みたいな霊力に、邪老人ですらビビって固まってしまっている。
「やめろぉぉぉ!! そんなとてつもない生命力は万象に触れるぞ!! お前自身もタダではすまぬぞぉぉぉ!」
「好きにしたらえぇでしょ」
なんか悪の部分のはずの邪老人が気づかってくれ、タヌキは嫌がらせがきいてるのを喜んでいる。
「なんでそんな投げやりなんですか!? その、その、私わかりません!! このあとなんですかどうすればいいんですか!!」
「らめぇぇぇぇ、これ以上しゃれたら膀胱が破裂しちゃひゅぅぅぅ!」
必死に鼠径部を抑えて顔を真っ赤にさせる女の子に、こっちも慌ててなんとかしてあげなくちゃと切羽詰まったその時、タヌキからろくでもないアドバイスが飛び出す。
「今や! 右乳首を思いっきりひねろ!」
「なんですかそれはぁぁぁぁ!!!!」
大声でツッコミを入れながら学ランのボタンの隙間から腕を突っ込み、人差し指と親指を大きく使ってノーブラの感触にドギマギしながら繊細な部分を摘んで、グリンと回したら世界が光った。
「1回で、ええんやで」
コンロみたいな感覚でカチカチつけ直したら、生命力は爆発して邪老人を飲み込んでどうやら吹き飛ばしたみたいだが、天才白鶴ちゃんの頭はそれどころじゃなかった。
「にゃにこれぇ、頭くわんくわんすりゃ」
「いつまで乳首つかんでるのぉぉ、離してよぉぉ!!」
霊力を発散させた少女が少年に戻る中、急にいい匂いがして頭がクラクラする。今まで学校でプリントを渡されるときくらいしか接点のなかった男子というものに、馬乗りになって乳首を捻るのが初めてのコンタクトとなってしまって。
生命力の波動からDNAの相性を受け取る。きっとこいつはありとあらゆる女子を惹きつける、厄介な因果がある。このままではマズイと本能的に悟った天才白鶴ちゃんの腕の細胞は、無意識に何回もウィークポイントを捻り続けて体を柔らかく戻していく。
「んぁぁぁ♡ そこっ、そこだめぇっ♡」
再び肉体が女の子になるまで、天才にあるまじき呆けた頭で、蕩けゆく中性的な顔立ちを見下ろし続けた。