真夜中に眼が覚めた。
女が啜り啼く声がする。
テレビかパソコンの音声だろうか。くぐもった音が耳を撫でる。
(……あんっ)
壁を隔てた娘の部屋から、声がする。
裕也は耳を澄ませた。
(……あんっ、ううんっ、あんっ!)
女の嬌声だ。
裕也は息を呑んだ。
娘の
希美が、自分を慰めているのだろうか?
胸がざわついた。
そっと壁に身を寄せ、耳をつける。
「……ああっ、いいっ、うんっ、いいっ!」
くっきりとした娘の嬌声が耳に響く。
亡き妻に面影が似ている希美が、あられもない声で啼いている。
いけないことだとは思いつつも、裕也は想像してしまう。左手で乳房を揉み上げながら、右手で自分の股間を弄る娘。
「……あふんっ、うんっ、あっ、イ、イクっ、イクイクイクうううう!」
ひときわ声が高まる。
「あんっ……パパっ!」
「おはよう、パパ」
食卓にはトーストとスクランブルエッグが並んでいる。
「おはよう、希美」
朝食の席についた裕也は娘の表情をちらりと窺ってしまう。
屈託のない笑顔を見せる希美と、昨夜の嬌声が結びつかない。
スレンダーな身体にさらりと伸びた黒髪。そして、そんな華奢な身体に不釣り合いな巨乳に眼が行ってしまい、あわてて視線を外した。
十五年前に亡くなった妻の冴子に成長するたびに似てくる希美。
中学生になってから、その美しさが周りの眼を惹くようになった。
高校では、芸能事務所からスカウトが来るほどだったが、本人は全くそういった浮ついた話には興味ないようだった。
父親である裕也の贔屓目を差し引いても、希美の美貌は群を抜いていた。
そんな娘が昨夜、肉体をくねらせ性欲を散らせていたのだろうか?
裕也が聞き違えたのでなければ、希美は自慰をしながら、「パパ」と言った。
これは、何を意味するのだろうか?
「どうしたの、パパ?」
娘の痴態を想像していたことを悟られたような気がして、裕也は焦る。
「い、いや。いつも朝食とお弁当、ありがとうって、思って……」
取り繕った言葉が不自然に聞こえなかったかと思い、裕也は希美の顔を真っ直ぐ見れなかった。
「何よ、あらたまって……私が好きでやってることなんだから、そんなこと気にしないで」
眼を細めて笑う切れ長の眼は亡き妻の冴子とそっくりだ。
「でも、希美も就職したし、希美にばっかりご飯作らせて、悪いなって思って……」
進学校で成績上位だった希美は、周りの勧めを断り、頑なに地元の企業への就職にこだわった。
進学したら、パパと離れるから嫌、というのが理由だという。
実は希美は裕也の勤める工場に事務員として応募したのだが、先に内定した女性がいたので、それは叶わず、別の会社に就職した。
「今さら何言ってんの、パパ。希美はパパのお嫁さんになるんだから、ご飯作るのなんて、当たり前だから」
ちろり、と舌を出して微笑む希美。
お嫁さん、という言葉に裕也の胸がざわつく。
「パパがスーツ着るのも、珍しいね」
希美が洗面台の鏡を覗き込んできた。
裕也は工場勤務で、いつもは私服で通勤している。
「今日は、朝イチで本社に行かなければならないんだ」
「そうなんだ……じゃ、電車に乗るのも久しぶりだね」
いつもなら自家用車で工場に向かっている。
四月に入り、都内にある本社で新年度の会議に出席しなければならない。
「丁度、通勤ラッシュの時間帯なんで、うんざりだよ……」
出勤前に、タンスの上の冴子の位牌と写真に手を合わせた。
娘が慕ってくれるのは嬉しい。だが、それが度を過ぎている気がする。
(冴子、希美の気持ちが分からなくなってきたよ……)
写真の冴子はいつものように微笑んで、裕也に答えることはない。
玄関に向かう裕也を希美が見送る。
「じゃ、行ってくる」
「待って、パパ」
希美がぐいっと近づいてきて、裕也のネクタイを直した。
甘い香りがふんわりと裕也を包み、希美の息が首にかかる。たわわに膨らんだ柔らかい胸が裕也の腹に当たった。
肉棒がびくりと反応する。
(いかん、娘に発情してしまうなんて!)
裕也は湧き出した妄想をあわてて打ち消した。