昼休みが終わり、書類を届けに工場棟に向かうと、安藤に呼び止められた。
「瑞希ちゃん、ちょっといい?」
「何ですか?」
安藤のニヤけた顔を見て、瑞希は警戒する。
悪い奴が悪いことを企んでいる顔だ。
瑞希は不特定多数の男に抱かれた過去があるが、犯罪や暴力に巻き込まれたことはない。
運が良かっただけとも言えるが、瑞希は直観的に悪い男を見抜いて避けていたからだと思っている。
今の安藤は、典型的な悪い男の顔をしている。
「ちょっと、話があるんだけど……」
「仕事の話じゃなきゃ、聞きません」
瑞希がきつく断ると、安藤が肩を竦める。
「瑞希ちゃん、気が立ってるね……ひょっとして生理中?」
若いくせに昭和のオヤジのようなセクハラをかましてくる安藤。ここで逆上したら相手のペースに呑み込まれる。
「それとも、さっき『パパ』と喧嘩したからかな?」
食堂で裕也に思わず声を荒げてしまったのは事実で、皆知っていることだが、瑞希が裕也を「パパ」と呼んでいることは気づかれてないはずだった。
人が触れてほしくない嫌な所をいちいち突いてくる。
これ以上相手をしても消耗するだけなので、瑞希は無視して安藤に背を向けた。
「あっ、逃げる気? いいのかな?」
無視無視、と瑞希が足を踏み出すと、あんっ、という女の声が聞こえる。
思わず瑞希が振り向くと、安藤がスマホの画面を瑞希に向けた。
(あんっ、うんっ、いいっ!)
くぐもった音声だが、間違いなく瑞希の声だった。
画面は暗かったが、倉庫で裕也に抱かれた時の映像に違いない。
「止めて」
瑞希が動揺を悟られないように毅然として言うと、安藤がニヤリと笑う。
「じゃ、ちょっと付き合ってくれる?」
「さっきの動画、見せてもらえますか?」
瑞希は落ち着け、と自分に言い聞かせた。
安藤は多分この動画をネタに脅しをかけてくる。動画を見た工場の他の人間が、瑞希と裕也だと特定できるだけの画質と音声なのか、しっかり確かめなければならない。
「いいの? 瑞希ちゃん。自分がヤラレちゃってるとこ見たいの?」
安藤はわかっていない。自分のことなんかどうでもいい。裕也に迷惑をかけることだけは絶対避けたかった。
動画は二人が後背位で繫がって、お互い絶頂を迎えようとしている所から始まっていた。
幸い横から写された画質は暗く、二人の顔は特定できなかった。だが、工場で女子事務員の制服を着ているのは瑞希だけだし、裕也の汚れていない作業服は、現場の作業員ではないことで裕也だと勘がいい者ならわかる。
それより一番まずいのは、音声だった。
(パパっ……いいのっ! パパのチンポで、瑞希、イキそうっ!)
(やんっ、来るっ! パパっ、瑞希、来ちゃうううっ!)
(瑞希、瑞希、瑞希、瑞希いいっ!)
(あはんっ! イ、イクっ、イクイクイクイクっ……あああああんっ!)
瑞希は眼を伏せて、ため息をついた。
ここで自分の態度をハッキリさせなければならない、と瑞希は思う。
女の涙で泣き落としを使い、下手に出る方法もある。だがこの男にそれはしたくなかった。
こんな卑劣な脅しをする安藤を許さない。裕也のために吞めるめる要求は呑むが、必ず安藤の隙や油断を衝いて後で反撃してやる、と瑞希は決意した。
「で、どうすれば動画を消してくれるの?」
「瑞希ちゃんて、気が強いねっ! 自分がヤられてる動画は見るし、泣きもしないで交渉してくるなんて!」
「だ、か、ら! 私は何をすればいいの?」
安藤は瑞希の身体を舐めまわすように見定めた。
(ああ、
中学生になって急速に胸と尻が発達してから、男達に無遠慮に投げつけられてきた性的興味の視線。
安藤は私の肉体を狙っている。それなら、それでいい。
むしろ裕也に恨みがあったり、裕也を貶めようという意図がないようなので、瑞希はひとまず安心した。
「あの動画と同じことをヤラれせてくれたら、消してもいい」
裕也と情熱的に交わった同じ場所で、安藤と向かい合っている。
安藤が瑞希の肩に手を置き、唇を寄せてきた。
瑞希は口をきつく閉じ、顔を背ける。
「キスは嫌ってか? まあいいや、チンコ挿れられれば」
瑞希は自分からブラウスのボタンを外して前を広げた。レースのブラジャーに窮屈に包まれた巨乳を晒す。
「わあ、瑞希ちゃん、積極的だね……エッチなんだ……」
頭沸いてんのか、この男、と瑞希は思う。さっさと終わらせたいから自分で脱いでいるだけだ。
「凄いボインだねっ」
自分と五つしか違わないのに、この男は昭和のオヤジか? と瑞希は思う。今時「ボイン」なんて死語を聞くことは、ない。
安藤の言葉に応えず、瑞希はタイトスカートのホックを外し、床に落とした。
タイツに手をかけ、豊満な腰から女性の曲線を描くミルクのように生々しく白い腿を晒す。
安藤が歓喜の口笛を鳴らす。
「瑞希ちゃん、自分から下も脱ぐなんて……ビッチだ……」
瑞希は安藤を睨みつけながら、足首からタイツを抜く。
「ちょっと、ストップ! パンティぐらい俺に脱がさせてよっ!」
最期の一枚に手をかけた瑞希の腕を安藤が掴む。
瑞希は安藤に背を向け、壁に手をついて豊満な巨尻を突き出した。
「うわっ、エロっ!」
向かい合っているとチンコを咥えろと言われかねないので、自分から誘うように尻を晒した。
安藤は動画と同じことをしたい、と言った。興奮させて早く済ませてしまおう、と瑞希は思う。
鼻息も荒く、安藤がするするとパンティを降ろしていく。
「うっ……!」
いきなり安藤は瑞希の尻に鼻先を突っ込んできた。
尻肉をがっしり掴まれ、荒い息とともに淫裂に舌を差し込んでくる。
裕也にも同じように尻を貪られたのだが、安藤にされると不快でしかない。
「じゅるっ、じゅるっ……瑞希ちゃん、もう濡れているよ……」
くっ、と瑞希は唇を噛む。どんなに嫌な相手でも肉体は反応してしまう。おしっこと同じ、生理現象だと思うことにした。
嫌悪感に耐えながら安藤にされるがままになっていた瑞希は、はっ、と我に返った。
安藤を興奮させ、とっとと射精させなければならないのだった。
「あんっ、やんっ! お尻……恥ずかしいっ!」
瑞希は甘ったるい女の声を演技で出しながら、尻をくねらせた。
「強がってるけど、感じてんじゃねえか」
淫裂から顔を外した安藤が立ち上がる気配を感じた。
カチャカチャとベルトを外す音がする。
少し間があいた。キツく事前に言い含めておいたので、コンドームを着けているのだろう。
「いやらしいケツしてんなぁ、瑞希ちゃん!」
「いやんっ!」
ぷるんぷるん、と尻を振る。
「エロっ!」
安藤の鼻息が荒い。
「いくよ、瑞希ちゃん!」
膣口に肉が当たる感触がすると、ズン! と衝撃が来た。
一気に陰茎を差し込んだのだろう。
「……うっ!」
瑞希は息を詰まらせる。
安藤の猛然とした抽送が始まった。
「ああっ、瑞希ちゃん! エッチな
「あっ、あっ、あっ、あんっ!」
(あれ?)
安藤に突かれながら、瑞希は違和感を感じる。
裕也の時のように奥に当たる感触が、ない。
男のペニスの大きさは、普段は気にしないのだが、明らかに裕也の方が安藤より大きい。
それに、繋がっているときの幸せな感覚は裕也の時しか感じられない。
「あんなオッサンより、俺のチンコがいいだろっ!」
「あんっ、いいっ、いいっ!」
良くもないのに、瑞希は甘い声をあげる。
ぱん、ぱん、と肉が当たる音。
ぐちゅ、ぐちゅ、と愛液が捏ねられる音。
安藤の動物的な呻き声。
抽送に合わせて乱れるように揺れている乳房が抓まれた。
首筋に舌を這わされて、背筋が寒い。
「ああんっ、安藤さんのチンポっ、凄いのおおっ!」
心にもない瑞希の叫びで、安藤が「うっ」と短く呻き、射精した。
約束通り、安藤は瑞希の眼の前で動画を消去した。
事務室に戻り、瑞希はパソコンの前で仕事をしているふりをしながら、頭を整理した。
膣に男が入っていた感触がまだ残っている。
父を亡くし自暴自棄になって不特定多数の男に抱かれていた頃を思い出す。
父としていたような幸せな一体感を感じられるセックスをしてくれる男はとうとう見つからなかった。
だが、運命の出会いをした裕也とのセックスは、初めて父と同じ幸せを感じさせてくれるものだった。
その裕也を守るためだったら、自分の肉体を別の男に差し出すのに躊躇いは、ない。
一方で安藤の今後の動きが気になる。
動画を消してはくれた。だが、あの卑怯な男が瑞希との一度のセックスで満足するわけがない。
おそらくどこかに同じ動画のコピーが保存されているに違いない。
時間を置いて、また脅迫してくるはずだ。
後ろのデスクの工場長の視線を感じる。また私の尻を視姦しているのだろう。
もう六十歳近いはずなのに、男の性欲とは度し難いものだ。
「工場長、ちょっと個人的に相談したいことがありまして……」
瑞希は小首を傾げて、工場長のデスクの前に立った。
「なんだい? 長坂くん……」
「ちょっと、人に聞かれたくないので……」
瑞希は視線を事務備品の倉庫に向けた。
今、事務室には工場長と瑞希しかいない。工場長の表情がいやらしく歪んだ。
二人で事務備品倉庫に入る。
「で、相談って、何?」
何を期待しているのか、ニヤけた工場長には答えず、瑞希はしゃがみ込んだ。
ズボンのファスナーをおろし、陰茎を引っ張り出す。
「お、おいっ、長坂くんっ!」
さすがにいきなりコトが始まるとは思っていなかったのだろう、工場長があたふたする。
いきなり若い女性の部下に触られたことで、工場長の分身がむくむくと育った。
(小っさ……)
勃起しても小さい工場長の分身。ツン、とアンモニア臭が鼻を衝く。尿の切れが悪いのだろう。
瑞希は眼を瞑って、はむっ、とペニスを咥えた。
「ああっ、長坂くんっ!」
工場長の下半身がびくん、と震えた。
裕也の肉棒と違って、余裕で口に収まった工場長のペニスを、瑞希は舌と唾液を絡めて刺激した。
安藤の脅しに備えて、保険をかけた。
瑞希が安藤の次の要求を退けたら、動画を工場長に見せるに違いない。
その工場長の弱みを握って黙らせるには、これしかない。
瑞希のベストに入っているスマホのボイスレコーダーが作動している。
「んっ、んっ……私の、口にっ、じゅぽっ、工場長、のっ、チンポがっ……ふんっ、入ってますううっ!」
「ああっ、長坂くんっ……気持ちいいよっ!」
証拠音声としては、これで十分だろう。後は、さっさと精液を搾り取るだけた。
「んっ、んんっ、じゅるっ、はむっ……んっ、んんっ!」
瑞希は激しく頭を前後させ、吐精させようと勝負をかける。
ここで大抵の男は射精してしまうはずだが、工場長は、だらしなく口を歪めて荒い息を吐いているだけだ。
(もしかして、遅漏……?)
ぐずぐずしていると、事務室に裕也が戻ってきてしまう。
「ああんっ、工場長のチンポっ……凄いですううっ、ぶちゅっ……」
言葉で刺激すると、ようやく小さいチンポがぴくぴくし始めた。
「おっ……おっ……おおっ!」
(早く
「おおっ……おっ!」
ようやく、チョロチョロと薄い精液が瑞希の口に注がれた。
「工場長……?」
その時、ドアが開いて、裕也の声がした。
(まずいっ、見られたか?)
瑞希が薄っすら眼を開けると、裕也は工場長の背中の陰になって見えない。
瑞希はゆっくりと立ち上がった。精液は飲み干したが、口の端に付いているかもしれないので、口を隠した。
「ああ……職長っ、長坂君に、探し物してもらってね……」
工場長の言い訳がわざとらしく聞こえる。
瑞希は、裕也の顔をまともに見られず、眼を逸らしてしまった。
「そうですか……失礼しました……」
ドアを閉めて、裕也が出て行った。
決定的な瞬間は見られてはいないが、男女が醸す淫靡な空気を感じ取られてしまった気がする。
裕也が変な誤解をしなければいいが、と瑞希は工場長と話す裕也の横を通り過ぎ、事務室を出た。