※この作品はR-18です。

パパ、いい匂い……   作:夜狩景士

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退院祝いを二人の「娘」と

 結局、二週間の入院期間を経て、自宅に戻ることになった。

 比較的症状の軽かった左手が少し使えるようになり、不便だかなんとか日常生活を送ることができる目途が立ったからだ。

 もちろん、骨はまだ完全にくっついてないし、リハビリも行わなければならない。

 入院中、裕也はなんども希美に欲情の疼きを抜いてもらった。

 刺激的なパイズリ、情熱的なフェラチオ。極上の巨乳美人に奉仕してもらう幸せを、裕也は嚙みしめていた。

(このままだと、俺は希美と本当にセックスしてしまう……)

 そう思いかけた裕也を留めていたのは、瑞希の存在だった。

 情熱的に肉体を重ね、幸せな感覚を共有した瑞希に、裕也はまだ想いを寄せていて、その気持ちを断ち切ることができないでいた。

 入院中、瑞希はとうとう見舞いに来なかった。

 やはり、安藤に靡(なび)いてしまったのだろうか、と思うと裕也は深い悲しみに囚われた。

(パパ、なんて甘えてきたけど、やっぱり若い男の方がいいのかな……)

 あんなオッサンのチンポより、俺の方がいいだろ、と腰を振る安藤に、瑞希はヨガリ声で応えていた。

 自分が愛した女が、他の男に嵌(は)められているのを客観的に見ることが、こんなにも感情を抉るものだとは思わなかった。一方で、そんな瑞希を見て異様に興奮している自分にも気づく。いわゆる「ネトラレ」という性癖が心の奥底に眠っているのかもしれない。

 

 久しぶりに自宅に戻った。

 希美が会社に行っている間、裕也に不便がないように、トイレと寝室のドアには、アームハンドルというものが取付けられていて、腕でドアの開け閉めができるようになっていた。

「希美、ありがとう……ここまで気を遣ってくれて……」

 娘の優しい気遣いに、裕也は胸が熱くなり、眼には涙が浮かんできた。

「何言ってんの、そんなのパパのためなら、当たり前じゃない!」

 希美が微笑む。

 裕也は、入院期間を通じて献身的に看病してくれた希美に、娘への感情を越えた愛おしさを感じていた。瑞希への想いを断ち切って、希美を愛していくのがいいのではないか、と裕也は思い始めた。

 

 今後の日常生活のために、家の中で物の配置をいじったり、動作の段取りなどを希美と話し合っているうちに、あっという間に夜になった。

「今夜は、退院祝いで、お寿司とったから」

 出前で、豪華な寿司が運ばれてきた。想像以上に量が多い。

「こんなに、食べられないよ、希美……」

 その時、玄関のインターホンが鳴った。

 誰だろう、と裕也が訝しむ。

「今夜は、スペシャルゲストを、お呼びしています!」

 希美が芝居がかった口調で玄関を指す。

 ドアを開けると、恐る恐る入ってきたのは、瑞希だった。

「瑞希……!」

 照れたような顔で、裕也をチラチラ見ながら、瑞希が言った。

「職長、退院おめでとうございます……」

 裕也は事故以来、久しぶりに見た瑞希に胸が高鳴るのを感じた。

 まるで好きな人を前にした中学生のように、キュンとした感覚が湧いてきた。

「職長なんて、他人行儀な……『パパ』って言いなよ!」

 希美が嬉しそうに、瑞希に声をかける。

「私、本当にお邪魔して、いいのかな?」

 希美に向かって尋ねる瑞希。

「いいに決まってんでしょ、瑞希ちゃん! さあ、上がって!」

 

「パパはまだ治療中だから、ちょっとだけね」

 希美が裕也のグラスに、超ミニ缶のビールをちょろちょろと注いだ。

「私たちは、これで……」

 希美が五百ミリリットルの缶ビールのプルタブを開けた。

「おい、お前たち、未成年だろ!」

 裕也が窘(たしな)める。

「何言ってんの、パパ。もう私たち、成人してるよ……」

 そういえば法律が改正されていることを裕也は失念していた。

「これだから、昭和のオジサンは……」

 希美がハイテンションで笑いながら、首をすくめて苦笑している瑞希のグラスにビールを注いだ。

 まあ、成人ならいいか、と思った裕也。

「まてよ、アルコールは違うんじゃ……?」

 確か酒とたばこはまだ駄目じゃなかったか、と裕也は迷う。

「さあね……?」

 希美が自分のグラスにもビールを注ぐ。

「じゃ、かんぱ~い!」

 瑞希が両手に自分と裕也のグラスを持ち、瑞希のグラスとカチン、と当てると、裕也の唇にグラスをぐいぐい当ててきた。勢いでビールをこぼしてしまった裕也を見て、希美と瑞希が笑う。

「パパ、退院おめでとうございま~す!」

 パチパチパチと、希美と瑞希が拍手をする。

「さあ、食べて!」

 希美が遠慮がちな瑞希に促す。

「パパ、何食べる?」

「えっ……と、サーモンかな?」

 裕也は自分の手で食べられない。

「瑞希ちゃん、サーモンだって!」

「えっ、私?」

 瑞希が戸惑う。

「早くパパに食べさせてあげて!」

 瑞希が恐る恐る、箸でつまんだサーモンを裕也の口に近づける。

「はい! パパ……あ~ん!」

 芝居がかった希美の言い方に裕也は思わず吹き出してしまい、口に入ったサーモンを零してしまった。

「パパ、赤ちゃんでちゅか?」

 希美と瑞希がケラケラ笑う。

 

 希美のハイテンションのおかげで、すっかり場が和んだ。

 三人で当たり障りのない会話をしながらも、裕也は瑞希のことが気になる。

 そもそも、希美と瑞希はこんなに親しかっただろうか?

 確か希美は歓迎会の帰りにキスしている裕也と瑞希を見、そして自宅で裕也と瑞希が後背位で繋がってるのを見て、瑞希に良い感情は持っていないはずだと裕也は思っていた。

「パパは、瑞希ちゃんのことを、誤解しています!」

 頬をほんのり紅く染めた希美が突然、言った。

「希美ちゃん、それは……」

 アルコールに弱いのか、顔全体を紅くそめた瑞希が、顔色を変える。

「瑞希ちゃんとは、この話は言わない約束でしたが、私は、はっきりさせたいと思います!」

(え、約束?)

 何のことだ、と裕也の頭に疑問符が浮かぶ。

「パパは、瑞希ちゃんのこと、誤解しています! 誤解されたまま、瑞希ちゃんは、パパから手を引こうとしています! でも、私、こんなのフェアじゃない、と思います!」 

「希美ちゃん、待って!」

 瑞希が身を乗り出した。

「パパも、瑞希ちゃんの本当のこと、知りたいよね?」

 希美は瑞希から話を聞いて、瑞希の事情を知っているらしい。裕也は希美が言った「誤解」 という言葉に引っかかっていた。

「瑞希っ! 何があったか、話してくれ!」

 思わず裕也も身を乗り出していた。

 三人の間に、沈黙が漂った。

「瑞希ちゃんは、話しづらいと思うから、私から話すね……瑞希ちゃん、私が間違ったこと言ってたら、訂正して……」

 

「パパ、工場で瑞希ちゃんとエッチしたよね?」

 裕也は希美に言われて、はっ、とする。きっと瑞希が話したのだろう。今更取り繕う必要は、ない。

「それを、安藤という人が動画に撮っていたの……」

 裕也は眼を剝いた。見られていたのか、これはマズいと動揺を見せる。

「瑞希ちゃんは、パパに迷惑が掛かると思って、動画を消すことを条件に、安藤に抱かれたの……」

 裕也に衝撃が走る。そういうことだったのか、と今まで瑞希を疑っていた自分を恥じた。同時に、瑞希が自分の意志でなく、仕方なく安藤に抱かれたということで、裕也は安堵した。

「じゃあ、工場長は?」

 裕也は残る疑問を確かめたくて、深く考えずに尋ねた。

「工場長?」

 どうやら希美は、瑞希から工場長との行為については聞いていないようだ。

「私から説明するね……」

 瑞希がぽつり、と語り出した。

「私を抱いた後で、安藤は動画を消した。でも私、安藤は絶対コピーを持っていて、また脅してくるんじゃないか、って思ったの……」

 瑞希は眼を伏せたまま話を続ける。

「今度脅されたら、突っぱねよう、と私は思った。その時、安藤が工場長に動画を見せても、パパに迷惑が掛からないように、工場長の弱みを握っておこうと思ったの……」

 それが、あの時の工場長へのフェラチオだった、ということだ。

「でも、ちょっとそれは私、やりすぎたというか……ごめんなさい……多分パパに見られて、変に思われてるだろうなって……」

 瑞希が言葉を途切らせた。目尻には涙が浮かんでいる。

「パパ、瑞希ちゃんを責めないであげて! 実際、安藤はまた瑞希ちゃんを脅してきたんだから!」

 瑞希が裕也のことを想ってそこまでしてくれたのだ。裕也には瑞希を責めるつもりはなかった。それより、安藤が二度も瑞希を脅してきたことに裕也は驚き、怒りを感じた。

「私、実際に安藤が瑞希ちゃんを脅しているところを偶然見たの。その時の音声も録音しているわ……」

「それで、二度目に安藤に脅されて、瑞希はどうしたんだ?」

 裕也は気になって尋ねる。

「私がやっつけちゃいました!」

 希美が得意げに語る。

「やっつけた?」

 裕也が不思議な顔をする。

「言葉通り、私が瑞希ちゃんを襲った安藤の頭を蹴り上げたの!」

(希美が? 人を蹴った?)

 普段の希美と暴力が裕也にはどうしても結びつかなかった。

「だって、あの男、パパにわざとケガをさせたんだよ?」

「えっ? どういうこと?」

 希美の言葉で、裕也の頭に疑問符が浮かぶ。あれは、安全管理の不徹底と、コミュニケーションのすれ違いで起きた事故のはずだ。

「私、安藤が脅してきても突っぱねられるように、安藤の弱みを握ろうと、眼を付けていたの……」

 瑞希が言う。そこまでして、裕也を守ろうとしてくれたのだ。

「あの事故の時、安藤が挙動不審だったんで、窓の外から動画に撮ったの……そしたら、安藤は「修理中」の札が掛かっているのにわざとボタンを押したの……で、パパが事故にあった後、そっと札を外していた……」

「安藤っ……あの野郎!」

 裕也が怒りで震える。

「会社に戻ったら、許さないからな!」

 思わず裕也が大きな声をあげる。瑞希を脅して無理やり嵌(は)めたばかりでなく、自分を狙ってケガをさせた安藤に強烈な憎しみが湧いてきた。

「パパ。安藤は会社を辞めたよ」

 瑞希がさらり、と言う。

「え? 本当か?」

「うん」

「何か、変な取引とかしてないよな?」

 裕也は瑞希がまた肉体を開いたりしていないか、心配になった。

「取引、というか、安藤の方は完全に詰んでいたからね……希美ちゃんの録音で暴行容疑、パパをケガさせた時の私の動画で虚偽申告がバレて、警察沙汰にも懲戒免職にもなるからね……」

 さすがに、安藤には分が悪かったのだろう。自分の持つ社内性交の動画と、希美たちが持つ自分の悪事の証拠を突き合わせた時、まともな神経を持っていたら引くしかない。

「もちろん、パパとエッチした動画は完全に消去させたから、安心して……」

 瑞希は、どれだけ大変な想いをして、ましてや嫌々肉体を貪られながらも裕也を守ろうとしてくれたのだろう。

 それなのに、裕也は瑞希の他の男との行為をちらりと見ただけで、勝手にうじうじ落ち込んでいた。そんな自分が裕也は恥ずかしく思った。

「瑞希ちゃんは、この事を黙っていてって、私に言った。私のパパに対する想いを知って、私のために自分は身を引こうとしてたんだよ!」

「希美ちゃん……」

「さあ、パパ。大好きな瑞希ちゃんへの誤解は解けました……」

 希美が急に寂しげな瞳で顔を伏せた。

 しばらく無言でいた後、希美は顔を上げ、目尻に涙を浮かべ、裕也を真っ直ぐに見た。

 

「パパ……パパは、瑞希ちゃんと希美、どちらを愛しますか?」

 

「希美ちゃん!」

 瑞希が叫ぶ。

 裕也は呆然とする。

「パパが、瑞希ちゃんを選んだら……今度こそ……私、パパのこと諦める……」

 瑞希は裕也を見つめたまま、涙を溢れさせた。

「ごめんなさい、私、泣くつもりじゃなかったのに……泣いたら、同情誘ってるみたいで……卑怯で、フェアじゃない……」

 希美が嗚咽する。

「希美ちゃん!」

 瑞希が泣きじゃくる希美に抱きつき、一緒に声をあげて号泣した。

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
次の話で最終話となります。
パバはどんな決断をするのでしょうか?
濃厚で濃密なセックス描写になります。
ご期待ください!

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